説明

ダイナミックマイクロホン用振動板およびその製造方法ならびにダイナミックマイクロホン

【課題】振動板の上面側からセンタードームとサブドームとの間に存在する環状の溝内に補強樹脂を塗布して機械的強度を高めるにあたって、補強樹脂に起因して異常共振が発生しないようにする。
【解決手段】ほぼ凸球面状を呈するセンタードーム11と、センタードーム11の周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドーム12とを備え、センタードーム11とサブドーム12との境界部分の裏面側にボイスコイル13が接着手段を介して取り付けられているダイナミックマイクロホン用振動板において、センタードーム11とサブドーム12との境界部分で上面側に形成されている環状の溝14内の全周にわたって、補強樹脂41を溝底から各ドーム11,12の裾部にはい上がるにしたがって漸次厚みが薄くなるように充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホン用振動板およびその製造方法ならびにダイナミックマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、振動板がダイナミックマイクロホンの磁気発生回路に取り付けられている状態でもボイスコイル取付部分を補強できるようにした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンに通常よく用いられている振動板を図4に示す。この振動板10は、ほぼ凸球面状を呈するセンタードーム11と、これを弾性的に支えるようにセンタードーム11の周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドーム12とを備えている(例えば、特許文献1参照)。素材には、通常、ポリエチレンやポリエステルなどの合成樹脂フィルムが用いられる。
【0003】
振動板10の裏面側で、センタードーム11とサブドーム12との境界部分に発電用のボイスコイル13が例えば接着材を介して取り付けられる。このボイスコイル13は、図示しない磁気発生回路の磁気ギャップ内に配置され、到来する音波によってセンタードーム11とともに上記磁気ギャップ内で振動することにより発電し、音波を音声信号に変換する。
【0004】
したがって、センタードーム11は、ダイナミックマイクロホンにおける変換効率および周波数応答にとって重要な役割を担っており、特に高域での良好な周波数応答を得るうえで、センタードーム11は、機械的な強度が高く、しかもボイスコイル13と機械的に強固に結合する必要がある。
【0005】
すなわち、振動板10は音波によって駆動されるが、センタードーム11の機械的な強度が低い場合には、センタードーム11の変形によりボイスコイル13に対して伝達ロスが生ずることになる。
【0006】
そこで、センタードームの機械的な強度を高める方法の一例として、特許文献2には、センタードームに両面接着テープを介してポリエチレンフィルムよりなる補強部材を貼り付けて、センタードームを二重構造とすることが提案されている。
【0007】
しかしながら、この方法によると、別途に両面接着テープおよび補強部材を必要とするとともに、補強部材を貼り付けるための作業工数が余計に増えるため、コスト的に好ましくない。
【0008】
また、センタードームの機械的な強度を高める別の方法として、特許文献3には、ボイスコイルを硬化前の粘度が比較的高く硬化後の硬度が比較的低い第1紫外線硬化型樹脂にてセンタードームに接着するとともに、センタードームの内面に硬化前の粘度が比較的低く硬化後の硬度が比較的高い第2紫外線硬化型樹脂からなる補強樹脂層を一体的に形成することが提案されている。
【0009】
これによれば、センタードームの機械的な強度が高く、耐衝撃性にも優れているダイナミックマイクロホン用の振動板が得られるが、補強樹脂層を形成する部分がセンタードームの裏面であるため、振動板をマイクロホンユニットの磁気発生回路に組み込む前に処理しなければならない。
【0010】
すなわち、振動板がすでにマイクロホンユニットの磁気発生回路に組み込まれている状態にある場合において、そのマイクロホンユニットを例えばユーザーレベルに応じて高品位機種とするため、特許文献3に記載されている発明を適用するには、振動板を磁気発生回路から外してセンタードームの裏面に補強樹脂層を形成し、再度磁気発生回路に組み込まなければならず、組立作業が2度手間となる。
【0011】
他方において、特許文献4には、センタードームとサブドームとの境界部分に設けられている環状の溝内に剛性を高める補強剤の薄膜を形成することが提案されている。
【0012】
特許文献4において、補強剤には例えばポリエステル系,アクリル系の接着剤やバイロナール(商品名)や、バイオセルロースの溶液などが用いられ、この補強剤は上記環状の溝内の所定箇所に塗布された後、例えば室温30〜40℃程度で1時間程放置することにより自然乾燥されて薄膜状に形成される。
【0013】
この特許文献4に記載の発明によれば、振動板がすでにマイクロホンユニットの磁気発生回路に組み込まれている状態でも、わざわざ振動板を取り外すことなく、振動板の上面側から補強用の薄膜を形成することができるが、次の点において問題がある。
【0014】
すなわち、特許文献4における補強用の薄膜は、その膜厚がほぼ均一で見掛け上はフィルムを貼り付けたようにサブドームの裾部にはい上がっている。
【0015】
そのため、サブドームの裾部のうち、補強用の薄膜がある部分とない部分とで硬さが急激に変わることから機械的インピーダンスが不連続になり、これが振動板の異常共振を発生させる要因となる。
【0016】
【特許文献1】特開平4−115696号公報
【特許文献2】特開平8−23596号公報
【特許文献3】特開2005−184331号公報
【特許文献4】特開平10−257589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の課題は、センタードームとサブドームとを一体に備えるダイナミックマイクロホン用振動板において、振動板の上面側からセンタードームとサブドームとの間に存在する環状の溝内に補強樹脂を塗布して機械的強度を高めるにあたって、補強樹脂に起因して異常共振が発生しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載されているように、ほぼ凸球面状を呈するセンタードームと、上記センタードームの周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドームとを備え、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分の裏面側にボイスコイルが接着手段を介して取り付けられているダイナミックマイクロホン用振動板において、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分で上面側に形成されている環状の溝内の全周にわたって、補強樹脂が溝底から上記各ドームの裾部にはい上がるにしたがって漸次厚みが薄くなるように充填されていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、請求項2に記載されているように、ほぼ凸球面状を呈するセンタードームと、上記センタードームの周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドームとを備え、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分の裏面側にボイスコイルが接着手段を介して取り付けられているダイナミックマイクロホン用振動板の製造方法において、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分で上面側に形成されている環状の溝より内径側に位置する上記センタードームの裾部の所定部分に補強樹脂を塗布したのち、当該振動板を回転させて、上記補強樹脂を上記溝内の全周にわたって充填することを特徴としている。
【0020】
請求項2のダイナミックマイクロホン用振動板の製造方法において、請求項3に記載されているように、上記補強樹脂として揮発成分を含まない紫外線硬化型樹脂を用い、上記補強樹脂を上記溝内の全周にわたって充填したのち、紫外線を照射して上記補強樹脂を硬化させることが好ましい。
【0021】
請求項4に記載されているように、振動板として、請求項1に記載のダイナミックマイクロホン用振動板または請求項2,3のいずれかにより製造されたダイナミックマイクロホン用振動板を備えたダイナミックマイクロホンも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、センタードームとサブドームとの境界部分で振動板の上面側に形成されている環状の溝内の全周にわたって、補強樹脂が溝底から上記各ドームの裾部にはい上がるにしたがって漸次厚みが薄くなるように充填されているため、サブドームの裾部における機械的インピーダンスが急激に変化せず、これにより振動板の異常共振が防止される。
【0023】
また、振動板がすでにマイクロホンユニットの磁気発生回路に組み込まれている状態でも、わざわざ振動板を取り外すことなく、振動板の上面側から振動板の補強処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1はダイナミックマイクロホンの振動板が磁気発生回路とともにマイク筐体に組み込まれている状態を示す断面図,図2は補強樹脂により補強された本発明の実施形態に係る振動板を示す模式的な断面図,図3は本発明の実施形態に係る振動板を備えたダイナミックマイクロホンを示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、ダイナミックマイクロホンは、基本的な構成として、振動板10および磁気発生回路20と、これらを支持するマイク筐体30とを備えている。
【0026】
振動板10は、先の図4で説明したように、ほぼ凸球面状を呈するセンタードーム11と、これを弾性的に支えるようにセンタードーム11の周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドーム12とを備え、その全体が例えばポリエチレンやポリエステルなどの合成樹脂フィルムよりなる。
【0027】
振動板10の裏面側で、センタードーム11とサブドーム12との境界部分に発電用のボイスコイル13が例えば接着材を介して取り付けられている。
【0028】
磁気発生回路20は、円盤状に形成された永久磁石21と、永久磁石21の一方の極側に設けられるセンターポールピース22と、永久磁石21の他方の極側に設けられる皿状に形成されたヨーク23と、ヨーク23の上端に配置されセンターポールピース22との間で磁気ギャップGを形成するリングヨーク24とを備えている。
【0029】
マイク筐体30は、所定容積の後部空気室31を有する円筒体からなり、後部空気室31上に磁気発生回路20が装着される。また、振動板10は、ボイスコイル13が磁気ギャップG内で振動するように、サブドーム20の周縁部分がマイク筐体30の上端面で支持される。
【0030】
なお、後部空気室31は、上下の両端にそれぞれ音響抵抗材で覆われた通気孔31a,31bを備え、上方の通気孔31a,ヨーク23に形成されている開口23aおよび磁気ギャップGを介して振動板10の裏面側空間と連通している。
【0031】
本発明では、振動板10が磁気発生回路20とともにマイク筐体30に組み込まれた状態で、センタードーム11を補強する。この補強処理は、振動板10の上面側からセンタードーム11とサブドーム12との境界部分に存在する環状の溝14内に補強樹脂を充填することにより行われる。
【0032】
そのため、図1に示すように、例えばディスペンサ40を用いて、振動板10の溝14の内径側であるセンタードーム11の裾部に補強樹脂41を塗布する。環状に塗布してもよいし、数箇所に分けて塗布してもよい。
【0033】
用いる補強樹脂41は、熱硬化性樹脂であってもよいが、揮発成分を含まない紫外線硬化型樹脂が好ましい。この例では、ケミテック社製の紫外線硬化型樹脂U−1430(商品名)を使用している。
【0034】
補強樹脂41を塗布したのち、マイク筐体30全体をその軸線を中心として回転させ、遠心力にて補強樹脂41を溝14内に充填する。補強樹脂41に揮発成分を含まない紫外線硬化型樹脂を用いれば、流動性がよいことから溝14内への充填をスムースに行うことができる。
【0035】
図2に溝14内に補強樹脂41を充填した状態を示す。回転を止めると、補強樹脂41は重力で溝14内に溜まるため、補強樹脂41は溝底から各ドーム11,12の裾部にはい上がるにしたがって漸次厚みが薄くなるように充填される。
【0036】
その後、好ましくは補強樹脂41の充填が安定した時点で、紫外線を照射して補強樹脂41を硬化させる。これにより、サブドーム12の裾部における機械的インピーダンスが急激に変化しないため、振動板10の異常共振が防止される。
【0037】
なお、補強樹脂41のサブドーム12側への広がりは、回転速度や回転時間を制御することにより、適正にコントロールすることができる。補強樹脂41を硬化させたのち、図3に示すように、マイク筐体30の上端に、振動板10を覆うようにレゾネータ32を被せることにより組立が完了する。
【0038】
以上、図示の例に基づいて本発明の実施形態を説明したが、本発明の製造方法は、マイク筐体30に組み込む前の振動板10に適用されてもよいことは勿論である。また、磁気発生回路20およびマイク筐体30の構成は任意に変更されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ダイナミックマイクロホンの振動板が磁気発生回路とともにマイク筐体に組み込まれている状態を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る振動板を示す模式的な断面図。
【図3】上記実施形態に係る振動板を備えたダイナミックマイクロホンを示す断面図。
【図4】ダイナミックマイクロホンに通常よく用いられる振動板を示す模式的な断面図。
【符号の説明】
【0040】
10 振動板
11 センタードーム
12 サブドーム
13 ボイスコイル
14 環状の溝
20 磁気発生回路
21 永久磁石
22 センターポールピース
23 ヨーク
24 リングヨーク
30 マイク筐体
31 後部空気室
32 レゾネータ
41 補強樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ凸球面状を呈するセンタードームと、上記センタードームの周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドームとを備え、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分の裏面側にボイスコイルが接着手段を介して取り付けられているダイナミックマイクロホン用振動板において、
上記センタードームと上記サブドームとの境界部分で上面側に形成されている環状の溝内の全周にわたって、補強樹脂が溝底から上記各ドームの裾部にはい上がるにしたがって漸次厚みが薄くなるように充填されていることを特徴とするダイナミックマイクロホン用振動板。
【請求項2】
ほぼ凸球面状を呈するセンタードームと、上記センタードームの周りに環状として一体的に連設された断面ほぼ凸湾曲面状を呈するサブドームとを備え、上記センタードームと上記サブドームとの境界部分の裏面側にボイスコイルが接着手段を介して取り付けられているダイナミックマイクロホン用振動板の製造方法において、
上記センタードームと上記サブドームとの境界部分で上面側に形成されている環状の溝より内径側に位置する上記センタードームの裾部の所定部分に補強樹脂を塗布したのち、当該振動板を回転させ、上記補強樹脂を上記溝内の全周にわたって充填することを特徴とするダイナミックマイクロホン用振動板の製造方法。
【請求項3】
上記補強樹脂として揮発成分を含まない紫外線硬化型樹脂を用い、上記補強樹脂を上記溝内の全周にわたって充填したのち、紫外線を照射して上記補強樹脂を硬化させることを特徴とする請求項2に記載のダイナミックマイクロホン用振動板の製造方法。
【請求項4】
振動板として、請求項1に記載のダイナミックマイクロホン用振動板または請求項2,3のいずれかにより製造されたダイナミックマイクロホン用振動板を備えたダイナミックマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−259003(P2008−259003A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100151(P2007−100151)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】