説明

デバイス製造方法

【課題】樹脂膜上に回路が形成されてなるデバイスを、より安価にかつ高い製造効率で製造する。
【解決手段】液状ポリイミド樹脂組成物をキャリア基板上に塗布して乾燥させることにより、キャリア基板上に固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程と、ポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程と、回路が形成されたポリイミド樹脂膜をキャリア基板から剥離する工程と、を含むデバイス製造方法であって、液状ポリイミド樹脂組成物が、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂と溶媒とを含有してなることを特徴とする、デバイス製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデバイス製造方法に関し、特に特定骨格を有するポリイミド樹脂膜を備えるデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチックフィルム(樹脂膜)基板は、各種デバイスで一般的に用いられているガラス基板の代替品として、注目されている。特に透明性の高いプラスチックフィルム基板は、ディスプレイ、有機EL又は光電変換素子などのフレキシブルデバイス用基板として注目されている。
【0003】
プラスチックフィルム基板として一般的に多く用いられているのは、PEN(ポリエチレンナフタレート樹脂)、PES(ポリエーテルサルフォン樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、BCB(ベンゾシクロブテン樹脂)などが挙げられる。しかしながらこれらの基板には、耐熱性の低さや、製膜プロセスの煩雑さなどの問題がある。
【0004】
プラスチックフィルム基板上に回路が形成されたデバイスを作製する場合、キャリア基板上にプラスチックフィルムを形成し、プラスチックフィルム上に回路を形成した後に、回路が形成されたプラスチックフィルムを取り外すことが、プロセスの簡略化によりコストが下げられうる点で好ましい。例えば特許文献1には、液状のポリアミック酸を主成分とするポリイミド前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布製膜して固体状の樹脂膜を形成する工程と、樹脂膜上に回路を形成する工程と、回路が表面に形成された樹脂膜をキャリア基板から剥離する工程と、によってフレキシブルデバイスを得る方法が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、シリコン系離型剤を用いて表面処理した支持体の上にポリイミドフィルム製の基板を形成する工程と、基板上に光電変換素子を設ける工程と、基板を支持体から分離する工程と、によって非晶質シリコン太陽電池を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−202729号公報
【特許文献2】特開平2−49475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面処理された基板、離型剤を塗布された基板、あるいはシリコン基板などは、用意するのに比較的高いコストを必要とする。デバイスの製造コストを下げるためには、ガラスのような安価なキャリア基板を用いることが好ましい。
【0008】
しかしながら本願発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の方法では、例えばガラス基板を用いた場合に樹脂膜がキャリア基板と強固に接着することが判明した。強固に接着した樹脂膜をはがすためにより強い力を加えると、樹脂膜にそりなどの劣化が生じる可能性がある。また、強い力で樹脂膜をはがす場合、樹脂膜上の回路にも損傷を与えてしまい、製造効率が低下する可能性がある。また、別の方法として樹脂膜を水に浸漬させる方法、樹脂膜にレーザーを照射する方法も考えられるが、このような方法によっても、樹脂膜が吸水したり劣化したりするだけでなく、樹脂膜上の回路に損傷が生じる可能性がある。
【0009】
さらに本願発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の方法においても、作製した太陽電池を支持体からはがすことは容易ではないことが判明した。また、特許文献2に記載のポリイミド樹脂は透明度の点で課題があり、透明性が要求される場合に問題となりうる。
【0010】
本発明は、樹脂膜上に回路が形成されてなるデバイスを、より安価にかつ高い製造効率で製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者などは上記実情に鑑み、キャリア基板から、樹脂膜上に回路が形成されてなるデバイスの剥離を簡単にかつ効率よく行う方法について、鋭意検討した。この結果、キャリア基板上に特定の構造を有するポリイミド樹脂を含有する組成物を塗布することによりポリイミド樹脂膜を形成し、この樹脂膜上に回路を形成することにより、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は次の各項に関する。
[1]液状ポリイミド樹脂組成物をキャリア基板上に塗布して乾燥させることにより、該キャリア基板上に固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程と、
前記回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程と、
を含むデバイス製造方法であって、
前記液状ポリイミド樹脂組成物が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂と溶媒とを含有してなることを特徴とする、デバイス製造方法。
【化1−1】

(式(1)中、Rは2価の有機基を示す。)
[2]Rが下記式(2)で表される有機基であることを特徴とする、[1]に記載のデバイス製造方法。
【化1−2】

(式(2)中、環A及び環Bは各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよい脂肪族環を示し、p、qは各々独立して、0〜10の整数を示す。Xは直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、カルボニル基、芳香族基、−NH−、又は−O−C2n−O−(nは1〜5の整数)を示す。Y及びYは各々独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、又はカルボニル基を示す。p又はqが2以上である場合、複数のY又はYは互いに異なっていてもよい。)
[3]前記ポリイミド樹脂膜は、JIS K 7361−1による400nmにおける全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のデバイス製造方法。
【発明の効果】
【0013】
樹脂膜上に回路が形成されてなるデバイスを、より安価にかつ高い製造効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係るデバイス製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下で説明されるのは本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施形態に限定はされない。
【0016】
本実施形態におけるフレキシブルデバイスの製造方法は、液状ポリイミド樹脂組成物をキャリア基板上に塗布して乾燥させることにより、このキャリア基板上に固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程と、このポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程と、回路が形成されたポリイミド樹脂膜をキャリア基板から剥離する工程と、を含む。この液状ポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂と溶媒とを含有する。
【0017】
【化2−1】

式(1)において、Rは2価の有機基を示す。
【0018】
この方法によれば、別途作製された回路を樹脂膜へと転写する工程は必要なく、ポリイミド樹脂膜上に直接回路を形成することができる。この方法によれば回路が形成されたポリイミド樹脂膜は容易にキャリア基板から剥離されうる。このことにより、デバイスの剥離時にポリイミド樹脂膜及び回路が受ける損傷を少なくすることができるために、デバイスの耐久性が向上する傾向がある。さらに、ポリアミック酸樹脂の含量が少ない液状ポリイミド樹脂組成物を塗布し、ポリイミド樹脂膜を形成する事で、脱水閉環に伴う水の発生を減らす事ができるため、ポリイミド樹脂膜を形成する工程における塗膜欠陥の発生を抑制する事ができる。またその後のポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程においても、ポリイミド樹脂膜からのアウトガスの発生を減少できる。さらに、液状ポリイミド樹脂組成物から溶媒を除去するだけでポリイミド樹脂膜が得られるため、加熱時間及び加熱温度等、樹脂膜を形成する工程における処理条件を穏和にすることができるため、ポリイミド樹脂膜を製造する工程においてポリイミド樹脂膜に対する負荷を低減することができる。
【0019】
<1.液状ポリイミド樹脂組成物>
以下に、本実施形態において用いられる液状ポリイミド樹脂組成物について説明する。本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物は、一般式(1)で表される構造を有するポリイミド樹脂(本実施形態に係るポリイミド樹脂)と溶媒(本実施形態に係る溶媒)とを含有する。以下、本実施形態に係るポリイミド樹脂と、本実施形態に係る溶媒とについて説明する。
【0020】
<1.1 ポリイミド樹脂>
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、以下の一般式(1)で表される繰り返し単位を含む。
【0021】
【化3−1】

式(1)において、Rは2価の有機基を示す。なお、本実施形態に係るポリイミド樹脂は一般式(1)で表される繰り返し単位を複数含むため、複数の2価の有機基Rが含まれる。ここで、複数の2価の有機基Rは全て同じ構造を有してもよいし、異なる構造を有してもよい。
【0022】
このように本実施形態のポリイミド樹脂は、ビフェニルのような芳香族環、又は単環の脂肪族環を骨格として有するテトラカルボン酸残基によって構成されるポリイミド樹脂と比較して、着色の減少、及び溶解性の向上という効果が得られうる。また、本実施形態に係るポリイミド樹脂は比較的溶解性が高く、溶液濃度を自由に調整しうる。さらに、本実施形態に係るポリイミド樹脂は比較的耐熱性及び透明性に優れている。
【0023】
は、2価の有機基であれば特段の制限はないが、一般式(2)で表される2価の有機基であることが、透明性、耐熱性の高い樹脂膜を得られるだけでなく、樹脂膜の経時劣化による着色を低減でき、また有機溶媒への溶解性が向上する点で好ましい。これらの効果を得るためには、ポリイミド樹脂に含まれる全ての繰り返し単位に占める、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の割合が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
【0024】
【化3−2】

【0025】
式(2)において環A及び環Bは各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよい脂肪族環を示す。なお、環A及び環Bは、単環基であってもよいし、縮合環基であってもよい。また、p又はqが2以上である場合、Rには複数の環A又は環Bが存在するが、これら複数の環A又は環Bは同じ構造の環であってもよいし、互いに異なる構造の環であってもよい。
【0026】
芳香族環としては、特段の制限はないが、例えば芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アズレン環、ビフェニル環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランセン環、トリフェニル環、ターフェニル環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、ペリレン環、及びペンタセン環などの、炭素数6〜30のものが挙げられる。炭素数は、好ましくは6〜25、より好ましくは6〜20である。芳香族複素環としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、キノリン環、及びイソキノリン環などの、炭素数2〜30のものが挙げられる。炭素数は、好ましくは2〜25、より好ましくは2〜20である。これらの中でも、ベンゼン環、ビフェニレン環、及びターフェニル環が好ましい。
【0027】
脂肪族環としては、特段の制限はないが、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、ヒドリンダン環、デカヒドロナフタレン環、アダマンタン環などの、炭素数3〜30のものが挙げられる。炭素数は、好ましくは3〜25である。これらの中でもシクロヘキサン環、シクロペンタン環、及びノルボルナン環が好ましい。
【0028】
環A又は環Bである芳香族環又は脂肪族環について、Y、Y、又はXに結合する位置は特に限定されない。
【0029】
芳香族環又は脂肪族環が有していてもよい置換基としては例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、及びヒドロキシル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、及び塩素原子などが挙げられる。アルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ターシャリーブチル基などの、炭素数1〜20のものが挙げられる。アルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ターシャリーブトキシ基などの、炭素数1〜20のものが挙げられる。
【0030】
式(2)においてp、qは各々独立して、0以上、好ましくは1以上の整数であり、一方、10以下、好ましくは5以下の整数である。
【0031】
式(2)においてXは直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、カルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族基、−NH−、又は−O−C2n−O−を示す。但し、nは1〜5の整数を示す。これらの中でも、直接結合、酸素原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルフィニル基、又はスルホニル基であることが好ましく、酸素原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、又はスルフィニル基であることが特に好ましい。
【0032】
アルキレン基としては、特段の制限はないが、炭素数1〜20のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基であることがより好ましい。アルキレン基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、及び2,2−プロパンジイル基などが挙げられる。
【0033】
芳香族基とは、特段の制限はないが、例えば芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基、トリフェニレン基、ターフェニレン基、ピレニレン基、及びフルオレン基のような、炭素数6〜30のものが挙げられる。芳香族複素環基としては、ピリジレン基、及びキノリレン基のような、炭素数2〜30のものが挙げられる。これらの中でも、フェニレン基、ナフチレン基、及びピリジレン基が好ましい。
【0034】
アルキレン基又は芳香族基が有していてもよい置換基としては、例えば炭素数1〜5のアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基などが挙げられる。これらの置換基にさらにフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子などが置換していてもよい。
【0035】
及びYは各々独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、又はカルボニル基を示す。その中でも、直接結合又は酸素原子が好ましい。なお、p又はqが2以上である場合、Rには複数のY及びYが存在するが、これら複数のY及びYは同じ構造であってもよいし、互いに異なる構造であってもよい。ここで、置換基を有していてもよいアルキレン基としては、Xについて挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0036】
環Aと環Bとが同じ構造であることは好ましく、YとYとが同じ構造であることもまた好ましい。
【0037】
のより好ましい例としては、以下の一般式(3)又は(4)に示されるものが挙げられる。
【0038】
【化3−3】

【0039】
【化3−4】

【0040】
式(3)は、式(2)においてp=2かつq=2の場合に相当する。式(3)において、環A、環B、環C及び環Dは、式(2)における環A及び環Bと同様の構造を表す。また、Y、Y、Y、及びYは、式(2)におけるY及びYと同様の構造を表す。式(2)と同様に、環A、環B、環C及び環Dは互いに異なっていてもよいし、Y、Y、Y、及びYは互いに異なっていてもよい。環Aと環Bとが同じ構造であることも好ましく、環Cと環Dとが同じ構造であることもまた好ましい。YとYとが同じ構造であることも好ましく、YとYとが同じ構造であることもまた好ましい。
【0041】
式(3)において、環A、環B、環C及び環Dは置換基を有していてもよい芳香族環であることが好ましく、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニレン基であることがより好ましく、フェニレン基であることが特に好ましい。また、Y及びYは直接結合、酸素原子、又は硫黄原子であることが好ましい。Y及びYの好ましい例としては、直接結合が挙げられる。
【0042】
式(4)は、式(2)においてp=1かつq=1の場合に相当する。式(4)において、環A及び環Bは、式(2)における環A及び環Bと同様の構造を表す。また、Y及びYは、式(2)におけるY及びYと同様の構造を表す。ここで、環Aと環Bとが同じ構造であることも好ましく、YとYとが同じ構造であることもまた好ましい。
【0043】
式(4)において、環A及び環Bは置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよい脂肪族環であることが好ましく、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニレン基であることがより好ましく、フェニレン基であることが特に好ましい。また、Y及びYの好ましい例としては、直接結合が挙げられる。
【0044】
の具体的な例としては、以下に示すジアミン化合物の構成単位が挙げられる。すなわち、以下に示すジアミン化合物から2つの第一級アミノ基を取り除くことによって得られる二価の置換基を、Rとして用いることができる。このようなジアミン化合物の具体例としては、1,4−フェニレンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ネオペンタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、N−(4−アミノフェノキシ)−4−アミノベンズアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、などが挙げられる。この中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、又は4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)からアミノ基を取り除くことによって得られる二価の置換基をRとして有することが、透明性、耐熱性、及び機械強度が同時に達成されうる点で好ましい。
【0045】
<1.2 溶媒>
本実施形態に係る溶媒、すなわち本実施形態に係るポリイミド樹脂を溶解させる溶媒に、特に限定はない。溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系溶媒;などが挙げられる。これらの中でも特にN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。本実施形態に係る溶媒は、1種類の物質で構成されていてもよいし、2種類以上の物質の混合物であってもよい。
【0046】
<1.3 液状ポリイミド樹脂組成物の組成>
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物における、ポリイミド樹脂の濃度には、特段の制限は無いが、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、一方、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下である。組成物中のポリイミド樹脂の濃度をこの範囲内に調整することで、良好な塗工性を達成しうる。
【0047】
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物の粘度には、特段の制限は無いが、通常10mPa・s以上、好ましくは1.0×10mPa・s以上であり、一方、通常5.0×10mPa・s以下、好ましくは2.0×10mPa・s以下である。液状ポリイミド樹脂組成物の粘度を上記範囲内に調整することで、良好な塗工性を達成しうる。本明細書において、粘度はE型粘度計を用いて25℃で測定するものとする。粘度の測定は公知の方法によって行うことができ、例えば国際公報第99/60622号に記載されている方法に従って行うことができる。
【0048】
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物は、後に説明するポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を含んでいてもよい。ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を加えることにより、液状ポリイミド樹脂組成物を被塗布体に塗布することにより膜を形成する際に、膜と被塗布体との間の接着性を制御することができる。例えば、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の割合を多くすることにより、形成された膜と被塗布体との接着性が向上しうる。
【0049】
このように、液状ポリイミド樹脂組成物中の物質組成比を調節することによって、キャリア基板の材質を考慮してポリイミド樹脂膜の接着強度を制御することができる。このため、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を用いることにより、様々なキャリア基板上で、容易に剥離されうるポリイミド樹脂膜を形成することができる。
【0050】
液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合は特に制限されないが、通常30%以下、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。液状ポリイミド樹脂組成物中に30%以上のポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂が含まれると、ポリイミド樹脂と、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂とが相分離することにより、白濁が生じる可能性がある。
【0051】
液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合は、以下の式で表される。
(液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合)=(液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の物質量)/((液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の物質量)+(液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリイミド樹脂の物質量))×100
【0052】
液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の物質量は、液状ポリイミド樹脂組成物中に含まれるポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂成分の重量を、一般式(B1)、(B2)及び(B3)で表されるそれぞれの繰り返し単位の平均分子量で割ることにより求められる。
【0053】
液状ポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂の物質量は、液状ポリイミド樹脂組成物中に含まれるポリイミド樹脂成分の重量を、一般式(1)で表される繰り返し単位の分子量で割ることにより求められる。
【0054】
液状ポリイミド樹脂組成物中のポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の物質量を測定する方法は種々知られており、核磁気共鳴分光法(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)、イミド閉環に伴う水分を定量する方法、ポリアミック酸に含まれるカルボン酸を中和滴定して求める方法(特開2009−269958号公報参照)、特定の官能基をラベル化して発光強度または吸収強度を測定することにより求める方法(特許第4529760号公報参照)、などが挙げられる。液状ポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂の物質量を測定する方法も種々知られており、例えば核磁気共鳴分光法(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)、などが挙げられる。
【0055】
また、液状ポリイミド樹脂組成物を被塗布体に塗布することにより得られる膜と、被塗布体との間の接着性を制御するために、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物には添加剤が添加されていてもよい。例えば本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物には、シランカップリング剤又はチタンカップリング剤などのカップリング剤を添加することができる。
【0056】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノエチルトリプロポキシシラン、γ−アミノエチルトリブトキシシラン、γ−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノブチルトリメトキシシラン、γ−アミノブチルトリプロポキシシラン、及びγ−アミノブチルトリブトキシシランなどが挙げられる。
【0057】
チタンカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシチタン、γ−アミノプロピルトリメトキシチタン、γ−アミノプロピルトリプロポキシチタン、γ−アミノプロピルトリブトキシチタン、γ−アミノエチルトリエトキシチタン、γ−アミノエチルトリメトキシチタン、γ−アミノエチルトリプロポキシチタン、γ−アミノエチルトリブトキシチタン、γ−アミノブチルトリエトキシチタン、γ−アミノブチルトリメトキシチタン、γ−アミノブチルトリプロポキシチタン、及びγ−アミノブチルトリブトキシチタンなどが挙げられる。
【0058】
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物は、1種のカップリング剤を含んでいてもよいし、2種以上のカップリング剤を含んでいてもよい。本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物が含有するカップリング剤の量は、得られる膜の物性を向上させる観点から、ポリイミド樹脂に対して、0.1質量%以上、3質量%以下が好ましい。
【0059】
その他、必要に応じて、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物に対して各種添加剤を配合することも可能である。例えば、発明の目的を損なわない範囲で、粉末状、粒状、板状、又は繊維状などの、無機系充填剤又は有機系充填剤を配合することができる。
【0060】
無機系充填剤としては、例えばシリカ、ケイ藻土、バリウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石又は軽石バルーンなどの酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又は塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト又はドーソナイトなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム又は亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩及び亜硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト又はベントナイトなどのケイ酸塩;炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト又は炭素中空球などの炭素類;硫化モリブデン、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム又はボロン繊維などの粉末状、粒状、板状又は、繊維状の無機質充填剤;金属元素、金属化合物、合金などの粉末状、粒状、繊維状、又はウイスカー状の金属充填剤;炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、窒化アルミニウム、炭化チタン、チタン酸カリウムなどの粉末状、粒状、繊維状、又はウイスカー状のセラミックス充填剤などが挙げられる。
【0061】
一方、有機系充填剤としては、例えばモミ殻などの殻繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン、木粉、木綿、ジュート、紙細片、セロハン片、芳香族ポリアミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、熱硬化性樹脂粉末、及びゴムなどを挙げることができる。
【0062】
充填剤としては、不織布など平板状に加工したものを用いてもよいし、複数の材料を混ぜて用いてもよい。さらに所望に応じ、樹脂組成物に通常用いられている各種添加剤、例えば滑剤、着色剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤又は離型剤などを、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物に配合してもよい。これら各種充填剤及び添加成分は、ポリイミド樹脂を製造するどの工程のどの段階で添加してもよい。
【0063】
<1.3 ポリイミド樹脂の製造方法>
本実施形態に係るポリイミド樹脂の製造方法に、特段の制限は無い。一例として、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を製造し、得られた前駆体をポリイミド樹脂化に変換する方法について説明する。
【0064】
<1.3.1 ポリアミック酸樹脂の製造方法>
ポリアミック酸樹脂は、適当な溶媒中で、一般式(E1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、一般式(E2)で表されるジアミン化合物とを反応させる事により得られる。一般式(E2)におけるRは、一般式(2)におけるRと同様の構造を示す。
【0065】
またポリアミック酸エステル樹脂は、一般式(E1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールなどのアルコールを用いて開環することによりジエステル化し、得られたジエステルを適当な溶媒中で一般式(E2)で表されるジアミン化合物と反応させることにより得ることができる。さらにポリアミック酸エステル樹脂は、上記のように得られたポリアミック酸樹脂のカルボン酸基を、上記のようなアルコールと反応さることによりエステル化することによっても得ることができる。
【0066】
ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を得るための反応においては、1種のみのジアミン化合物を用いてもよいし、2種以上のジアミン化合物の混合物を用いてもよい。
【0067】
【化4−1】

【0068】
一般式(E1)で表されるテトラカルボン酸二無水物には、本実施形態に係るポリイミド樹脂の無色性、透明性及び各種物性を損なわない程度に、他のテトラカルボン酸二無水物を混合してもよい。混合されるテトラカルボン酸二無水物は1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0069】
混合してもよいテトラカルボン酸二無水物は、本発明の目的を損なわない限り制限は無い。例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンジカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンジカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0070】
なお、ピロメリット酸二無水物などの芳香環を含むテトラカルボン酸二無水物や、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物を過剰に用いると、得られるポリイミド樹脂の溶媒への溶解性、無色性、透明性、及び各種物性が損なわれることがある。
【0071】
一般式(E1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、一般式(E2)で表されるジアミン化合物との反応は、従来から知られている条件で行うことができる。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の添加順序や添加方法には特に限定はない。例えば、溶媒にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを順に投入し、適切な温度で攪拌することにより、ポリアミック酸樹脂は得られうる。
【0072】
ジアミン化合物の量は、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、通常0.8モル以上、好ましくは1モル以上である。一方、通常1.2モル以下、好ましくは1.1モル以下である。ジアミン化合物の量をこのような範囲とすることにより、得られるポリアミック酸樹脂の収率が向上しうる。
【0073】
溶媒中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の濃度は、反応条件やポリアミック酸樹脂溶液の粘度に応じて適宜設定しうる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との合計の重量は、特段の制限は無いが、全溶液量に対し、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、一方、通常70重量%以下、好ましくは30重量%以下である。反応基質の量をこのような範囲とすることにより、低コストで収率良くポリアミック酸樹脂が得られうる。
【0074】
反応温度は、特段の制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、一方、通常100℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、特段の制限は無いが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上であり、一方、通常100時間以下、好ましくは24時間以下である。このような条件で反応を行うことにより、低コストで収率良くポリアミック酸樹脂が得られうる。
【0075】
この反応で用いる溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンなどの炭化水素系溶媒;四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びフルオロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及びメトキシベンゼンなどのエーテル系溶媒;アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶媒;ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン及びイソキノリンなどの複素環系溶媒;フェノール及びクレゾールのようなフェノール系溶媒、などが挙げられるが、特に限定されるものではない。溶媒としては1種の物質を用いることもできるし、2種類以上の物質を混合して用いることもできる。
【0076】
一般式(E1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、一般式(E2)で表されるジアミン化合物とを反応させる事により得られるポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂は、主に下記一般式(B1)、(B2)、又は(B3)で示される繰り返し単位を含む。
【0077】
【化4−2】

【0078】
一般式(B1)、(B2)及び(B3)において、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜14のアルキル基を示す。アルキル基としては特段の制限は無いが、通常炭素数1〜14のアルキル基であり、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基又はイソブチル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0079】
本実施形態で得られるポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂において、一般式(B1)で示される繰り返し構造と、一般式(B2)で示される繰り返し構造と、一般式(B3)で示される繰り返し構造と、の間の存在比は特に限定されない。本実施形態に係るポリイミド樹脂は、このようにして得られたポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を、後述の方法でポリイミド樹脂化することにより得られる。
【0080】
<1.3.2 ポリイミド樹脂化>
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、上述のポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を、脱水環化又は脱アルコール環化(以下、まとめて脱水と称する)することにより得られる。この環化反応は、固体状態のポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂に対して行ってもよいし、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の溶液に対して行ってもよい。脱水の方法は特に限定されず、従来から知られている方法を用いることができる。例えば、熱的に環化させる加熱イミド化、及び化学的に環化させる化学イミド化が挙げられる。
【0081】
まず、固体状態のポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂に対して環化反応を行う場合について説明する。この場合まず、前述の方法で得られたポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂溶液から溶媒を留去する。別の方法として、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂溶液を、樹脂の溶解度が低い溶媒中に加えることにより、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の固体を析出させてもよい。
【0082】
加熱イミド化における加熱方法は特に限定されず、例えば熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、熱板若しくはホットロールなどを用いた接触による加熱、などが挙げられる。この場合、段階的に温度をあげることによりイミド化を進行させることが好ましい。加熱イミド化反応の反応温度は、特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上であり、一方、通常350℃以下、好ましくは300℃以下である。加熱イミド化の反応時間は、特に限定されないが、通常30分以上、好ましくは1時間以上であり、一方、通常3時間以下、好ましくは2時間以下である。このような条件で反応を行うことにより、化合物の分解を抑えながら十分に変換反応を進行させることができる。加熱イミド化における反応雰囲気は特に限定されず、空気下、不活性ガス雰囲気下、又は真空下などで行うことができる。不活性ガス雰囲気下で反応を行う事が、得られるポリイミド樹脂の変質をより効果的に防ぎうる点でより好ましい。
【0083】
このようにして得られた固体状のポリイミド樹脂を、所望の有機溶媒に溶解させることにより、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を調製することができる。本実施形態に係るポリイミド樹脂を溶解させる溶媒は特に限定されない。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒、並びにジメチルスルホキシドなどの非プロトン系溶媒が挙げられる。この中でも特にN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。溶媒としては1種の物質を用いることもできるし、2種類以上の物質を混合して用いることもできる。
【0084】
続いて、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂を溶液中でイミド化することにより、本実施形態に係るポリイミド樹脂を得る方法について説明する。イミド化は、従来から知られている任意の方法を用いて行うことができる。以下ではイミド化方法の一例について説明するが、本発明はこの方法に限定されるわけではない。
【0085】
ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の溶液を加熱することにより、ポリイミド樹脂溶液を得ることができる。この場合、イミド化反応によって生じた水(又はアルコール)は閉環反応を阻害するため、反応系外に排出されることが好ましい。例えば、トルエン、キシレンなどの有機溶媒と水とを共沸させることにより、水を系外に排出する方法がよく用いられる。
【0086】
また、イミド化を促進する触媒として三級アミン類などを加えることもできる。具体的にはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、イミダゾール、ピリジン、キノリン、及びイソキノリンなどを、触媒として用いることができる。触媒の使用量は、カルボキシル基又はエステル基に対して0.1〜100モル%であること好ましく、1〜10モル%であることがより好ましい。触媒の使用量がこのような範囲にあることにより、低コストで収率良く反応を行うことができる。
【0087】
このようにして得られたポリイミド樹脂の溶液は、そのまま本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物として用いられてもよい。また、例えばポリイミド樹脂の溶解度が低い溶媒中に溶液を加えることによりポリイミド樹脂を析出させ、析出したポリイミド樹脂を所望の溶媒に溶解させることにより、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を調製してもよい。
【0088】
<2. 本実施例に係る液状ポリイミド樹脂組成物を用いるデバイス作成方法>
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を用いることにより、ポリイミド樹脂膜上に回路が形成されたデバイスを作製することができる。本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物は、薄型デバイス、及び曲げることが可能なフレキシブルデバイスを作製するために好適である。本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を用い、以下に示す方法に従って作製されうるデバイスの例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、及び電子ペーパーのような表示デバイス、並びに太陽電池及びCMOSなどの受光デバイスなどが挙げられる。以下に、本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を用いるデバイス作製方法について、図1を参照して説明する。
【0089】
<2.1 (a)ポリイミド樹脂膜を形成する工程>
本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物をキャリア基板110上に塗布し、溶媒を揮発させるなどして乾燥させることにより、キャリア基板110上に固体状のポリイミド樹脂膜120を形成することができる。
【0090】
キャリア基板110は、硬質で耐熱性を有することが好ましい。すなわち、製造工程上必要とされる温度にさらされても変形しない素材を用いることが好ましい。具体的には、通常200℃以上、好ましくは250℃以上のガラス転移温度を持つ素材で、キャリア基板110が構成されていることが好ましい。また、デバイスの製造コストを低減するためには、安価なキャリア基板を用いることもまた好ましい。このような観点から、キャリア基板110の材料の好ましい例としてはガラス、ステンレス等の金属又は樹脂フィルム等が挙げられる。
【0091】
キャリア基板110の厚さは、通常0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上であり、一方、通常5.0mm以下、好ましくは3.0mm以下である。キャリア基板110の厚さがこのような範囲にあることにより、キャリア基板110の耐衝撃性が向上し、かつデバイス製造コストを下げることができる。
【0092】
キャリア基板110に対して本実施形態に係る液状ポリイミド樹脂組成物を塗布する方法は、キャリア基板110に均一な厚さの層を形成できる方法であれば、特に限定されない。例として、ダイコーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、スプレー、アプリケーターを用いたキャスティング法、コーターを用いる方法、吹き付けによる方法、浸漬法、カレンダー法、流延法などが挙げられる。
【0093】
溶媒を揮発させる方法も特に限定されない。通常は、液状ポリイミド樹脂組成物が塗布されたキャリア基板110を加熱することにより、溶媒が揮発させられる。この場合の加熱温度は、溶媒の種類に応じて好適な温度を用いることができるが、通常40℃以上、好ましくは60℃以上であり、一方通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。溶媒除去温度が40℃以上である場合、溶媒が十分揮発される点で好ましい。また、溶媒除去温度が200℃以下である場合、有機溶媒の揮発が急激に起こらないため、得られるポリイミド樹脂膜120に気泡などが発生することが防止されうる。このことは、得られるポリイミド樹脂膜120の外観や品質を低下させる可能性を低減できるため、好ましい。
【0094】
得られるポリイミド樹脂膜120の厚さは、液状ポリイミド樹脂組成物の塗布量を調節することによって制御されうる。ポリイミド樹脂膜120の厚さは、通常1μm以上、好ましくは2μm以上であり、一方、通常200μm以下、好ましくは100μm以下である。厚さが1μm以上であることにより、ポリイミド樹脂膜120が十分な強度を有しうる。このことは、得られるデバイスの強度が向上し、損傷しにくくなる点で好ましい。また、厚さを200μm以下にすることにより、得られるデバイスを薄くすることが可能となるため、好ましい。十分な強度を有しかつより薄いデバイスを得るためには、ポリイミド樹脂膜120の厚さは2〜100μmであることがより好ましい。
【0095】
得られるポリイミド樹脂膜120の熱膨張率は、100〜200℃の範囲において100ppm/K以下であることが好ましく、70ppm/K以下であることがより好ましく、キャリア基板110と同程度の熱膨張であることが最も好ましい。熱膨張率がこのような範囲にあることにより、デバイス作製プロセスにおける温度変化のために、ポリイミド樹脂膜120がキャリア基板110からはがれてしまうことが防止されうる。
【0096】
本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜120は透明で、着色が少なく耐熱性を有し、高い機械強度を有しうる。本明細書において、無色又は透明であることは、目的とする形状に成形された際に、400nmの光線の透過率が通常60%以上、好適には70%以上、特に好適には80%以上であるものをいう。光線透過率が高い本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜120は、透光性を必要とするデバイス、例えば光電変換素子などにおいて好適に用いられる。本明細書においては、透過率として、JIS K 7361−1による、400nmにおける全光線透過率を用いる。
【0097】
また、本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜120の、膜厚が50±5μmである際の黄色度[イエローインデックス(YI)]は、通常−10以上、好ましくは、−5以上、より好ましくは、−1以上である。一方、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。
【0098】
プラスチックフィルム基板として用いられる、本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜120の透明性が高ければ、高性能な表示デバイスや光電変換効率が高い受光デバイスを作製する事が可能になる。例えば、シースルー型デバイスを作製することができる。また有機ELディスプレイのデバイス基板としてプラスチックフィルム基板を使用する場合には、作製が容易なボトム・エミッション型の光取り出し構造を採用できるため、大型サイズの有機ELディスプレイ用のデバイスを容易に作製する事を可能にする。また、透明性の高いプラスチックフィルム基板はディスプレイ本来の発色に影響を与えないため、高性能なデバイスを作製することができる。さらに、本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜は、太陽電池の発電に好適な波長の光の吸収が少ない。したがって、本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜を太陽電池の受光面側のデバイス基板として使用する場合に、従来のガラス製基板を用いる太陽電池と同じ層構成を有する場合であっても、光電変換効率は著しく低下しない。加えて、本実施形態において得られるポリイミド樹脂膜は、含まれる芳香族骨格が少ないため、従来の芳香族ポリイミド膜(フィルム)と比較して、膜(フィルム)自体の紫外線に対する耐久性が良好である点で好ましい。
【0099】
本実施形態において得られるポリイミド樹脂は、好適には、ガラス転移温度(Tg)が150℃以上であり、より好適には、200℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。ガラス転移温度が高いことにより、本実施形態において得られるデバイスの耐熱性が向上しうる。
【0100】
本実施形態において得られるポリイミド樹脂は、作製するデバイスの種類に依存するが、以下のような機械的強度を有することが好ましい。本実施形態において得られるポリイミド樹脂の引張強度は、特段の制限はないが、通常50Mpa以上、好ましくは70Mpa以上であり、一方、通常400Mpa以下、好ましくは300Mpa以下である。引張り弾性率は、特段の制限はないが、通常1000MPa以上、好ましくは1500MPaであり、一方、通常20Gpa以下、好ましくは10Gpa以下である。引張伸度は、特段の制限はないが、通常10%GL以上、好ましくは20%GLであり、一方、通常300%GL以下、好ましくは200%GL以下である。ポリイミド樹脂がこのような機械的強度を有することにより、より耐久性の高いデバイスが得られうる。
【0101】
<2.2 (b)ポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程>
次に、以上のようにして形成されたポリイミド樹脂膜120の上に、回路130が形成される。形成される回路130は、デバイスの種類によって異なる。例えば、TFT液晶ディスプレイデバイスを製造する場合には、ポリイミド樹脂膜120の上に例えばアモルファスシリコンのTFTを形成すればよい。例えば、ゲート金属層、窒化ケイ素ゲート誘電体層、及びITI画素電極を形成することにより、TFTを形成しうる。さらにTFTの上に、液晶ディスプレイのために必要な構造を、公知の方法によって形成することもできる。
【0102】
また、太陽電池デバイスを製造する場合には、ポリイミド樹脂膜120の上に例えば結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体材料又は有機半導体材料などを用いた太陽電池を形成すればよい。例えば、透明電極、結晶シリコン、アモルファスシリコン又は有機材料を含有する光電変換層、及び対向電極を形成することにより、太陽電池を形成しうる。さらに太陽電池の上に、太陽電池にとって必要な構造を、公知の方法によって形成することもできる。
【0103】
耐熱性、靱性など各種特性に優れる本実施形態に係るポリイミド樹脂膜を用いる場合には、様々な方法を用いて回路130を形成することができる。
【0104】
なお、この工程(b)により回路130が形成されたポリイミド樹脂膜120に対しては、以下に示す工程(c)を行う前に、封止処理、回路以外の層を積層する処理、部材をモジュール化する処理、などの他の処理を行ってもよい。
【0105】
<2.3 (c)回路が形成されたポリイミド樹脂膜をキャリア基板から剥離する工程>
次に、表面に回路130が形成されたポリイミド樹脂膜120が、キャリア基板110から剥離される。剥離方法に特に制限はなく、例えばキャリア基板110側からレーザーなどを照射する方法や、水に浸漬する方法、物理的に剥離する方法などが挙げられる。しかしながら、ポリイミド樹脂膜120上に形成された回路130の性能を損なうことなく剥離できるという点で、物理的に剥離する方法が特に好ましい。物理的に剥離する方法としては、キャリア基板上のポリイミド樹脂膜上の回路の周縁を切離してデバイスフィルムを得る方法、ポリイミド樹脂膜上の回路の周縁を吸引してデバイスフィルムを得る方法、ポリイミド樹脂膜上の回路の周縁を固定し、キャリア基板だけ移動させてデバイスフィルムを得る方法、等が挙げられる。
【0106】
このような方法を用いるために、JIS K 6854−2に準じた剥離試験におけるキャリア基板とポリイミド樹脂膜との剥離強度は、通常0N/mより大きく、好ましくは0.5N/m以上、より好ましくは1.0N/m以上、更に好ましくは1.5N/m以上、より更に好ましくは3.0N/m以上であり、一方、通常5.0×10N/m以下、好ましくは3.0×10N/m以下である。キャリア基板とポリイミド樹脂膜との剥離強度が0N/mより大きいことにより、回路形成の際に、キャリア基板からポリイミド樹脂膜が剥離したり、ずれたりしないため好ましい。一方、キャリア基板とポリイミド樹脂膜の剥離強度が5.0×10N/m以下であることにより、ポリイミド樹脂膜に積層した回路を損傷させることなく、ポリイミド樹脂膜をキャリア基板から剥離することができるため好ましい。
【0107】
また剥離強度を測定する方法として、JIS K 5600−5−6に準じた碁盤目剥離試験を用いても良い。用いられる液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合は特に制限されないが、剥離強度の観点から、通常30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.75%以下である。液状ポリイミド樹脂組成物中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合の定義及び測定方法は、前述した通りである。
【0108】
本実施形態に従って得られたポリイミド樹脂膜は、キャリア基板に対する接着性が強すぎない。したがって、ポリイミド樹脂膜上に形成された回路に損傷を与えることなく、ポリイミド樹脂膜がキャリア基板から剥離されうる。特に、安価であるが樹脂膜に対する接着性が強すぎることがあるガラスをキャリア基板として用いる場合であっても、本実施形態に従って得られたポリイミド樹脂膜は容易に剥離されうる。このように本実施形態の方法によれば、より短い工程で、安価にデバイスを製造することができる。
【実施例】
【0109】
以下実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。実施例中の下記測定は以下の方法に従って行った。
【0110】
[透明性測定]
JIS K 7361−1全光線透過率の試験方法に準じて測定した。日立ハイテク社製分光光度計(U−4000)を用いて、400nmにおける全光線透過率を測定した。透過率が高い程、膜の透明性が良好であることを意味する。
【0111】
[YI値測定]
JIS K 7103に準じて測定した。スガ試験機社製カラーコンピューター(SM−5)を用いてイエローインデックス(YI)を測定した。
【0112】
[剥離強度測定]
キャリア基板には、青板ガラス板(10x20cm、3mm厚)を使用し、液状ポリイミド樹脂組成物溶液を塗布する前に青板ガラス板を中性界面活性剤及び蒸留水で洗浄して用いた。実施例における剥離強度はJIS K 5600−5−6による碁盤目試験で評価した。剥離試験後に、碁盤目に残った桝目の数が多いほど、接着強度が強い、つまり剥離強度が強いことを示す。剥離強度の評価を、桝目100個あたりの剥離試験後に樹脂膜が接着している桝目の数で示す。
【0113】
<合成例1>
(1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸−3,3’,4,4’−二無水物(H−BPDA)の合成)
【0114】
【化5−1】

1,1’−ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物150gを水593gと水酸化ナトリウム83.3gとの溶液に溶解して1,1’−ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸四ナトリウム塩の水溶液を作製し、ルテニウム/カーボン触媒を用いて10MPaG、120℃で核水素化した。次いで49%硫酸水溶液429gを滴下し、析出した固体を濾過することにより、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(H−BTC)157g(収率81%)を得た。
【0115】
温度計、攪拌機、及びジムロート冷却管を備えた300mlの3口フラスコに、得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(H−BTC)33.7g(0.98mol)及び無水酢酸90gを窒素下にて加えた。この混合物を攪拌しながら昇温し、還流温度(130℃〜140℃)で3時間反応させた。反応後、反応溶液を10℃まで冷却し、固体を濾過することにより、白色の結晶を得た。得られた結晶をトルエンにて洗浄し、減圧乾燥機にて乾燥することにより、1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸−3,3’,4,4’−二無水物(H−BPDA)含有組成物23.5g(収率78%)を得た。
【0116】
<合成例2>
(ポリアミック酸エステル樹脂溶液の作成)
合成例1で得られた1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸−3,3’,4,4’−二無水物(H−BPDA)12.3g(40.0mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(53.4g)に加え、窒素気流下、室温で攪拌した。メタノール0.065g(2.02mmol)、及びジメチルアミノエタノール0.0037g(0.04mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド3.0gに溶解させた溶液を反応液に加え、70℃で2時間さらに攪拌した。その後、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP,東京化成工業社製)をN,N−ジメチルアセトアミド23gに溶解させた溶液を反応液に加え、70℃で2時間、さらに80℃で4時間加熱攪拌することにより、目的とするポリアミック酸エステル樹脂溶液を得た。
【0117】
【化5−2】

【0118】
<合成例3>
(液状ポリイミド樹脂組成物の作成)
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたディーンスターク凝集器、及び攪拌機を備えた4口フラスコに、合成例2で得られたポリアミック酸エステル樹脂溶液(50g)、トルエン7.5g、及びトリエチルアミン0.09gを入れ、4口フラスコ内を窒素雰囲気とした。190℃まで加熱し、イミド化に伴って発生する水をトルエンと共に共沸留去した。6時間加熱還流及び攪拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続きトルエンとトリエチルアミンを留去しながら1時間加熱し、液状ポリイミド樹脂組成物を得た。
【0119】
<実施例1>
合成例3で得られた液状ポリイミド樹脂組成物を、フィルムアプリケーターを用いてガラス板上に100μmの厚みで流延し、減圧下80℃で30分乾燥することにより、ガラス板に接着したポリイミド樹脂膜を作成した。得られたポリイミド樹脂膜について、透明性、YI値及び剥離強度を上記に記載の方法に従って測定した。評価結果を表1に示す。
【0120】
<実施例2>
液状ポリイミド樹脂組成物溶液中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合が0.2%になるように、合成例2で得られたポリアミック酸エステル樹脂溶液と合成例3で得られた液状ポリイミド樹脂組成物とを混合して液状ポリイミド樹脂組成物溶液を作成した。得られた液状ポリイミド樹脂組成物溶液を、フィルムアプリケーターを用いてガラス板上に100μmの厚みで流延し、減圧下80℃で30分乾燥することにより、ガラス板に接着したポリイミド樹脂膜を作成した。得られたポリイミド樹脂膜について、透明性、YI値及び剥離強度を上記に記載の方法に従って測定した。評価結果を表1に示す。
【0121】
<実施例3>
実施例2において、液状ポリイミド樹脂組成物溶液中の、ポリアミック酸樹脂又はポリアミック酸エステル樹脂の、ポリイミド樹脂に対する割合が1%になるように、ポリアミック酸エステル樹脂溶液と液状ポリイミド樹脂組成物とを混合して液状ポリイミド樹脂組成物溶液を作成したこと以外は、実施例2と同様にしてポリイミド樹脂膜を作成した。得られたポリイミド樹脂膜について、透明性、YI値及び剥離強度を上記に記載の方法に従って測定した。評価結果を表1に示す。
【0122】
<比較例1>
合成例2で得られたポリアミック酸エステル樹脂溶液を、フィルムアプリケーターを用いてガラス板上に100μmの厚みで流延し、減圧下80℃で30分乾燥した。乾燥後、窒素雰囲気下、230℃で1時間、さらに300℃で1時間加熱することにより、ガラス板に接着したポリイミド樹脂膜を作成した。ポリアミック酸エステル樹脂は、加熱によってポリイミド樹脂に変換される。得られたポリイミド樹脂膜について、透明性、YI値及び剥離強度を上記に記載の方法に従って測定した。評価結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
表1に示されるように、実施例1〜3で得られたポリイミド樹脂膜は、比較例1で得られたポリイミド樹脂膜よりも良好な剥離性を示す。また、実施例1〜3からわかるように、液状ポリイミド樹脂組成物に対して添加するポリアミック酸エステルの量により、接着性を制御することができる。
【符号の説明】
【0125】
110 キャリア基板
120 ポリアミド樹脂膜
130 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状ポリイミド樹脂組成物をキャリア基板上に塗布して乾燥させることにより、該キャリア基板上に固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂膜上に回路を形成する工程と、
前記回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程と、
を含むデバイス製造方法であって、
前記液状ポリイミド樹脂組成物が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂と溶媒とを含有してなることを特徴とする、デバイス製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは2価の有機基を示す。)
【請求項2】
が下記式(2)で表される有機基であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス製造方法。
【化2】

(式(2)中、環A及び環Bは各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよい脂肪族環を示し、p、qは各々独立して、0〜10の整数を示す。Xは直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、カルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族基、−NH−、又は−O−C2n−O−(nは1〜5の整数)を示す。Y及びYは各々独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよいアルキレン基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフィド基、又はカルボニル基を示す。p又はqが2以上である場合、複数のY又はYは互いに異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂膜は、JIS K 7361−1による400nmにおける全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイス製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−233083(P2012−233083A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102530(P2011−102530)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】