説明

ドア開閉アシスト装置

【課題】 駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできるドア開閉アシスト装置を提供すること。
【解決手段】 実際の車両のドア動作状態から駆動指令値を演算するドア開閉補助力演算部81と、ドア動作状態と駆動指令値からアシスト力を推定するアシスト力推定部83と、アシスト力推定値からクラッチ16に対する動力伝達許可判定を行う動力伝達許可判定部84を備えるため、駆動指令値が飽和した状態でさらに速くドア操作を行う場合にモータ1がブレーキとならないようクラッチを解放するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアを軽い力で操作できるようアクチュエータの力をアシストするドア開閉アシスト装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
目標電流信号設定手段、加速度演算手段、加速度係数発生手段、速度係数発生手段、補正手段、偏差演算手段、駆動制御手段からなる制御手段を備え、トルク信号に対応した目標電流信号、加速度信号に対応した加速度係数、及び速度信号に対応した速度係数に対応した補正信号を発生し、補正信号に基づいて電動機を駆動してアシスト力(開閉補助力)を発生し、小さい操作力でドアを操作できるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−328957号公報(第2−11頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来では、駆動指令値が飽和状態にある場合についての考慮がなく問題であった。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできるドア開閉アシスト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、ドア開閉の操作力をアシストするアクチュエータと、前記アクチュエータ駆動力の伝達状態と非伝達状態を切り換えるクラッチと、車両のドアノブへのドア開閉操作力を検出する操作力検出手段と、実際の車両のドア動作状態を検出するドア動作状態検出手段と、前記ドア開閉操作力と、実際の車両のドア動作状態から駆動指令値を演算する駆動指令値演算手段と、ドア動作状態と駆動指令値からアシスト力を推定するアシスト力推定手段と、アシスト力推定値から前記クラッチに対する動力伝達許可判定を行う手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のドア開閉アシスト装置を実現する実施の形態を、請求項1、請求項3に対応する実施例1と、請求項2、請求項3に対応する実施例2及び請求項3に対応する実施例3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1のドア開閉アシスト装置の概略を示す説明図である。図2は実施例1のドア開閉アシスト装置を車両に搭載した車両の説明図である。図3は実施例1のドア開閉アシスト装置のトルクセンサの説明図である。
【0009】
実施例1のドア開閉アシスト装置は、モータ1、減速機構2、駆動プーリ3、ガイドプーリ4a〜4c、駆動アーム5、スライドドア6、支持部材7、位置センサ71、加速度センサ73、コントローラ8、クラッチ16を主要な構成としている。
モータ1は、コントローラ8の制御により、出力軸へアシストのための駆動力を出力する。
減速機構2は、ギアの歯数の比により、モータ1の出力に対して、一定の減速を行い、その減速した分、大きなトルクを得る。
【0010】
駆動プーリ3は、減速機構2に係合して所定の回転速度で回転するとともに、ベルト9を回転させる。
ガイドプーリ4a〜4cは、自由回転により、ベルト9を設定した経路に張り渡しつつ、スムーズに回転させる。
駆動アーム5は、一端を支持部材7に取り付け、他端をスライドドア6に取り付け、支持部材7の移動する力をスライドドア6に伝達する。
スライドドア6は、図2に示すように車両の側面で、回動する開閉ではなく、車両の側面に沿ってスライド移動することにより開閉するドアである。(以下、ドアと記載の場合は、スライドドア6を指すものとする)
【0011】
支持部材7は、ベルト9に固定され、ベルト9の回転する力を駆動アーム5に伝達する。
なお、支持部材7の内部には、支持部材7の位置を検出することで、スライドドア6の開閉位置を検出する位置センサ71、スライドドア6の開閉加速度を検出する加速度センサ73を設ける。
【0012】
本実施例1では、図2に示すように、ドアの操作力の検出をドアノブ部分に設けたトルクセンサ10により行う。
トルクセンサ10は、基板11、ブラシ12、ドアノブ13、バネ14により主に構成されている。
基板11は、ブラシ12との接触位置の変化を抵抗の変化として検出する。
ブラシ12は、ドアノブ13のドア内部に基端側を取り付けられ、基板11に先端部が接触し、ドアノブ13のスライドする動きにともなって、基板11に接触したまま、スライドする。
【0013】
ドアノブ13は、ドアの開閉の際に操作者が持ち、開、閉のそれぞれの方向に力を加える部分であり、本実施例1では、ドアノブ13は、開、閉のそれぞれの方向に所定の量スライドする構造である。
バネ14は、ドアノブ13を開閉の中立位置に保持させるよう力を加えており、操作によりドアノブ13に開、閉いずれかの方向の力を加えると、ばね性に応じた変位量を生じるものである。
【0014】
つまり、操作力が加えられるドアノブ13をバネ14で中立位置に保持し、ドアノブ13に取り付けたブラシ12と基板11が摺動式のポテンショメータを構成することで、ポテンショメータで検出される位置変化は、バネ14の圧縮もしくは引っ張りの変位量に相当するため、ドアノブへ加えられる操作力が検出されるのである。
【0015】
クラッチ16は、モータ1の出力軸とモータ1の出力を減速機構2に伝達する円筒ギヤ17の間に設けられ、回転伝達のオンオフを行う。
実施例1のクラッチ16は、電磁クラッチとし、一方を可動鉄心側、もう一方を電磁コイル側とし、オンの際に可動鉄心が軸方向に移動し電磁コイル側と係合することで、回転伝達がオンになるものである。
【0016】
コントローラ8は、トルクセンサ10、位置センサ71、加速度センサ73の検出情報を処理して、その結果に基づいてモータ1を制御する。
図4に示すのは、ドア開閉アシスト装置のコントローラ8のブロック図である。
ドア開閉補助力演算部81は、開閉加速度、開閉位置、開閉操作力から、補助力指令値を演算し、出力する。
モータ駆動制御部82は、補助力指令値に従ってモータ1を駆動する。
【0017】
アシスト力推定部83は、駆動指令値とドア速度からモータ1が発生する駆動力を推定する。より具体的には、駆動指令値に所定ゲインを乗算し演算したモータ1が発生するトルクからドア速度に所定ゲインを乗じて演算した、モータが回ることで発生する逆起電力によるトルクを減算し、アシスト力を推定する。
動力伝達許可判定部84は、モータ1が発生する力をドアへ伝達するかどうかを判定する。具体的には、アシスト力推定値がドア操作を助ける方向に発生する場合には、動力伝達を許可し、アシスト力推定値がドア操作を妨げる方向に発生する場合には、動力伝達を禁止する。
【0018】
次にドア開閉補助力演算部81について、図5を参照してさらに説明する。
図5はドア開閉補助力演算部81のブロック図である。
ドア開閉補助力演算部81は、理想摩擦演算部811、加算器812、目標加速度演算部813、目標速度演算部814、加算器815、乗算器816を主要な構成としている。
理想摩擦演算部811は、ドア開閉操作力、目標速度より理想摩擦力を演算する。具体的には、予め設定する理想ドアの静止摩擦力以下のドア開閉操作力を加えた場合、理想摩擦力は操作力と同等の量を出力し、一度ドア開閉操作力が静止摩擦力を超えると所定の一定値、つまり理想静止摩擦力より小さい値で動的な摩擦力に相当する値を出力する。
【0019】
加算器812は、ドア開閉操作力から理想摩擦力を減算する。
目標加速度演算部813は、ドア開閉操作力から理想摩擦力を減算した値を理想ドア質量で割り(除算)、目標加速度を演算する。
目標速度演算部814は、目標加速度を積分し、目標速度を演算する。
加算器815は、目標加速度と加速度センサ73で検出する実際のドア加速度との偏差を演算する。
乗算器816は、加算器815で演算した偏差に所定ゲインを乗じて駆動指令値を出力する。
【0020】
次に作用を説明する。
[アシスト制御処理]
実施例1のドア開閉アシスト装置では、トルクセンサ10で検出するドアの開閉操作力、位置センサ71で検出するドアの開閉位置、速度センサ72で検出するドアの開閉速度に応じて、理想ドアを操作するように軽い操作が行えるように駆動指令値を演算し、モータ1を駆動してアシストを行う。
【0021】
さらに、実施例1では、理想摩擦演算部811により理想摩擦力を演算するため、軽い良好な操作感を得る理想ドアを操作した際に、違和感を感じさせない理想の摩擦力が考慮された制御となる。
図6は実施例1の理想摩擦演算部における理想摩擦演算処理を示す状態遷移図である。
実施例1において、操作開始時は状態1となるようにし、操作開始後の理想摩擦力は、操作力相当とし、操作力が理想摩擦力を超えると状態2へ移行する。
状態2においては、理想摩擦力は所定値とし、ドア目標速度が0となった際に状態2から状態1へ移行する。
これにより、ドアが動き出す際、静止摩擦力を超えるとドアが軽くなる実際と同じ操作感を得ることができ、違和感を生じさせないようにできる。
【0022】
駆動指令値が飽和した状態での作用について説明する。
図7はドア開閉アシスト装置において従来制御を行った場合の操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。図8は実施例1のドア開閉アシスト装置における操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。
なお、図7、図8におけるグラフ線は、操作力101、アシスト力102、ドア速度103、駆動指令値104とする。
【0023】
図7に示すように、駆動指令値が飽和状態にある場合に、さらに操作力を加えてドア速度を上げようとすると、モータ1が逆起電力を発生し、やがてアシスト力はドア操作を妨げる方向に発生しブレーキとなる。
これにより操作が重くなる。
【0024】
実施例1のドア開閉アシスト装置では、図8に示すように、駆動指令値が飽和状態にあるときにさらに操作力を加えてドア速度を上げると、やがてアシスト力はドア操作を妨げる方向に発生しブレーキとなろうとする。
その際に、アシスト力推定部83では、駆動指令値に所定ゲインを乗じて演算したモータ1が発生するトルクからドア速度に所定ゲインを乗じて演算したモータ1が回ることで発生する逆起電力によるトルクを減算し、アシスト力を推定する。そのため、アシスト力推定値は、ブレーキになろうとすることから、ドア操作を妨げる方向に発生する値(例えば符号が反転)となる。
【0025】
動力伝達許可判定部84では、アシスト力推定値がドア操作を妨げる方向に発生していると判定すると、動力伝達を禁止する。つまり、クラッチ16を動力伝達しない状態にする。なお、実施例1では、クラッチ16が切られることに対応して、駆動指令値を0にしている(図8参照)。
【0026】
よって、操作力を大きく与え、アシスト力の駆動指令値が飽和した状態から、さらにドアを速く動かす操作を行ったような場合には、モータ1が操作のブレーキにならないようクラッチ16が制御される。すると、アシスト力が無くなることになり、操作者は本来の重いドアの質量を感じるようになるが、駆動指令値の飽和からさらに速く動かすような大きな操作力を既にドアが得ているため、その慣性により比較的軽いドアとして操作が継続される。
【0027】
つまり、モータ1でブレーキをかけてしまうと、直接的に操作感を重くしてしまうが、既に大きな慣性を得た重いドアに切り替えることで、より理想ドアに近い操作感を得るようにする。
【0028】
次に、シミュレーション結果を示す。
図9はドア開閉アシスト装置において従来制御を行ったシミュレーション試験結果のタイムチャートである。図10は実施例1のドア開閉アシスト装置のシミュレーション試験結果のタイムチャートである。
なお、図9、図10において、符号101〜104は、図7、図8に同じとし、さらにグラフ線として、理想摩擦力105、ドア位置106、ドア目標速度107、ドア加速度108を示す。
【0029】
従来制御においては、操作力を大きく与え、アシスト力の駆動指令値が飽和した状態から、さらにドアを速く動かす操作を行うことにより、モータ1の逆起電力が生じ、ブレーキとなることにより、ドア加速度が変動している。つまり、ブレーキにより、操作が重くなる軽くなるが繰り返される違和感が生じているのがわかる。
これに対し、実施例1では、クラッチ16による伝達しない状態への移行により、操作が重くなる軽くなるが繰り返される違和感が生じていないことがわかる。このように、逆方向に発生するアシスト力をクラッチの解放により抑制することによって、軽い操作力でのドア操作を行うことができる。
【0030】
次に、効果を説明する。
実施例1のドア開閉アシスト装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0031】
(1)ドア開閉の操作力をアシストするモータ1と、モータ1駆動力の伝達状態と非伝達状態を切り換えるクラッチ16と、車両のドアノブへのドア開閉操作力を検出するトルクセンサ10と、実際の車両のドア加速度を検出する加速度センサ73と、ドア開閉操作力と、実際の車両のドア動作状態から駆動指令値を演算するドア開閉補助力演算部81と、ドア動作状態と駆動指令値からアシスト力を推定するアシスト力推定部83と、アシスト力推定値からクラッチ16に対する動力伝達許可判定を行う動力伝達許可判定部84を備えるため、駆動指令値が飽和した状態でさらに速くドア操作を行う場合にモータ1がブレーキとならないようクラッチを解放するため、駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできる。
【0032】
(3)ドア動作状態は、ドア加速度であるため、ドア操作力への対応が容易な検出値として、駆動指令値を負荷軽く演算することができ、積分によりドア速度を求めることも容易にでき、これらにより、精度と演算の容易さを両立させて、駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできる。
【実施例2】
【0033】
実施例2のドア開閉アシスト装置は、ドア動作状態をドア速度とし、第1駆動指令値と第2駆動指令値を設けて、クラッチ切替の際に第1駆動指令値から第2駆動指令値へ徐々に切り替える例である。
構成を説明する。
図11は実施例2のドア開閉アシスト装置のコントローラ8のブロック図である。
実施例2のドア開閉アシスト装置では、加速度センサ73を用いず速度センサ72を設けるようにする。ドア開閉補助力演算部85については後述する。
速度センサ72は、スライドドア6の開閉速度を検出する。
【0034】
次にドア開閉補助力演算部85についてさらに説明する。
図12は実施例2のドア開閉補助力演算部85のブロック図である。
ドア開閉補助力演算部85は、第1駆動指令値演算部851、第2駆動指令値演算部852、最終駆動指令値演算部853を主要な構成としている。
第1駆動指令値演算部851は、ドア開閉操作力とドア速度から、理想的なドア開閉操作力となるような駆動指令値を第1駆動指令値として演算する。
【0035】
は、アシスト力が0となるような駆動指令値を、ドア速度から第2駆動指令値として演算する。具体的には、ドア速度に所定ゲインを乗じることで第2駆動指令値として演算する。
最終駆動指令値演算部853は、第1駆動指令値が上限に達したことを検知すると最終駆動指令値を第1駆動指令値から第2駆動指令値に徐々に切り替える。なお、第1駆動指令値が上限に達しない場合には、第1駆動指令値を最終駆動指令値とする。
【0036】
次に、第1駆動指令値演算部851についてさらに説明する。
図13は、実施例2の第1駆動指令値演算部851のブロック図である。
第1駆動指令値演算部851は、理想摩擦演算部851a、加算器851b、目標加速度演算部851c、目標速度演算部851d、加算器851e、乗算器851fを主要な構成としている。
理想摩擦演算部851aは、ドア開閉操作力、目標速度より理想摩擦力を演算する。
【0037】
加算器851bは、ドア開閉操作力から理想摩擦力を減算する。
目標加速度演算部851cは、ドア開閉操作力から理想摩擦力を減算した値を理想ドア質量で割り(除算)、目標加速度を演算する。
目標速度演算部851dは、目標加速度を積分し、目標速度を演算する。
加算器851eは、目標速度と速度センサ72で検出する実際のドア速度との偏差を演算する。
乗算器851fは、加算器851eで演算した偏差に所定ゲインを乗じて駆動指令値を出力する。
その他構成は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0038】
作用を説明する。
[駆動指令値の飽和状態を考慮した制御]
図14は実施例2における操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。なお、図中のグラフ線は、第1駆動指令値108、第2駆動指令値109、最終駆動指令値104とし、他のグラフ線は実施例1と同様の対応とする。
【0039】
実施例2においても、操作力を大きく与え、アシスト力の駆動指令値が飽和した状態から、さらにドアを速く動かす操作を行う際に、アシスト力によるブレーキを発生させないように、クラッチ16の解放を行う。さらに実施例2では、クラッチ16の解放が操作フィーリングに影響しないように、アシスト力を徐々に無くしていき、無くなった時点でクラッチを解放させる。
【0040】
言い換えて説明すると、第1駆動指令値が上限に達するまでは、第1駆動指令値を最終駆動指令値として出力し、第1駆動指令値が上限に達すると、徐々に第2駆動指令値となるように最終駆動指令値を出力し、最終駆動指令値と第2駆動指令値とが一致した、つまりアシスト力が0になったとき、クラッチ16を解放する。
【0041】
これにより、クラッチ16の解放によるショックのような感触が発生しないようにし、クラッチ16による伝達解放による良好な操作感がさらに良好に得られるようにする。
【0042】
図15に示すのは、実施例2のドア開閉アシスト装置のシミュレーション試験結果のタイムチャートである。
なお、図中のグラフ線は上記説明と同様とする。
図10に示した実施例1のタイムチャートでは、アシスト力0と同時にクラッチの解放を行っているが、そのドア加速度の変化は急変している。加速度が急変していると、ドア開閉操作力の重さ、軽さに影響を与えることになる。例えば、ショックのようなものを感じるなどである。
【0043】
実施例2では、アシスト力を徐々に0に近づけ、0になったところでクラッチ16を解放する。そのため、クラッチ解放時において加速度の急変は見られず、操作フィーリングを良好に保つことができる。
さらに説明する。実施例2では、モータ1への駆動指令値はPWM制御デューティ比である。そのため、アシスト力は、電源電圧にデューティ比を乗じたものから逆気電圧を減算したものに所定係数を乗じたもので得られることになる。
つまり、逆気電圧を超える電圧印加分がアシスト力となる。
【0044】
この逆起電圧は、ドア速度に比例するため、ドア速度に所定係数を乗じると得られることになる。
この2つのことから、第2駆動指令値演算部852で演算するアシスト力を0にする駆動指令値は、アシスト力が0になるよう、電源電圧とデューティ比から求められる駆動電圧とドア速度に比例して発生する逆起電圧がつり合う駆動指令値として求められる。車両の電源電圧がほぼ一定して得られることを考慮し、第1駆動指令値が100%で飽和することを考慮すれば、第2駆動指令値は、ドア速度に所定ゲインを乗じて得られるものとなる。
【0045】
そして、実施例2の最終駆動指令値演算部853では、第1駆動指令値が飽和すると、第1駆動指令値を第2駆動指令値に徐々に近づけるようにする。これにより、最終駆動指令値は一端下降するが、ドア速度の増大に伴う第2駆動指令値の上昇により、最終駆動指令値も途中から上昇する(図15参照)。
そして、最終駆動指令値は第2駆動指令値に一致すると、最終駆動指令値はアシスト力を0にする駆動指令値となる。
このような最終駆動指令値の動きによって、ドア加速度の変化は、クラッチ16解放後の状態と緩やかに合致し、急変を生じない。
よって、クラッチ16の解放時にドア加速度の急変は生じず、操作フィーリングが良好に保たれる。
【0046】
効果を説明する。
実施例2のドア開閉アシスト装置では、上記(1)の効果に加えて以下の効果を有する。
(2)ドア開閉補助力演算部81は、ドア開閉操作力と前記ドア動作状態から、理想的なドア操作感として軽く設定した理想ドア操作力となるように第1の駆動指令値を演算する第1駆動指令値演算部851と、モータ1によるアシスト力が0となるような駆動指令値を、ドア動作状態から、第2の駆動指令値として演算する第2駆動指令値演算部852と、駆動指令値の上限に第1駆動指令値が達した場合に、駆動指令値を第1駆動指令値から第2駆動指令値に徐々に切り替える最終駆動指令値演算部853とを備えるため、クラッチ16の解放時にドア加速度の急変は生じず、操作フィーリングを良好に保つことができる。
【0047】
(3)´ドア動作状態は、ドア速度であるため、理想的な操作として目標ドア速度を設定し検出するドア速度を近づけるよう制御することにより、理想ドアに近い操作感を得ることができ、ドア速度から演算する第2駆動指令値に最終駆動指令値を近づける制御により、クラッチ16を解放する際の操作感を良好に維持することができる。
その他作用効果は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0048】
実施例3のドア開閉アシスト装置は、ドア動作状態をドア位置とした例である。
構成を説明する。
図16は、実施例3のドア開閉補助力演算部81のブロック図である。
実施例3のドア開閉補助力演算部81は、理想摩擦演算部811、加算器812、目標加速度演算部813、目標速度演算部814、目標位置演算部817、加算器815、乗算器816からなる。
目標位置演算部817は、目標速度を積分し、目標位置を演算する。
また、検出値として、位置センサ71の検出値を用いるようにする。
その他構成は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
作用を説明する。
実施例3では、ドア開閉補助力演算部81において目標位置を演算し、検出するドア位置が目標ドア位置に近づくように制御を行う。
このように目標動作演算部817において目標ドア位置を演算するようにしてもよい。
【0050】
効果を説明する。
実施例3のドア開閉アシスト装置では、上記(1),(2)の効果に加えて以下の効果を有する。
(3)´´ドア動作状態は、ドアの位置であるため、理想的な操作感を得る位置になるよう駆動指令値を演算し、駆動指令値が飽和した状態でさらに速くドア操作を行う場合にモータ1がブレーキとならないようクラッチを解放するため、駆動指令値が飽和した状態を考慮して、軽い操作で、良好な操作感にできる。
その他作用効果は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0051】
以上、本発明のドア開閉アシスト装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0052】
理想ドアとして設定する軽いドアは、一定質量とする必要はなく、例えば、操作初期、移動状態、操作終了期等で、又は非線形的に変わるようにしてもよい。
アクチュエータとしては、モータを例として挙げたが、空気圧や油圧を用いるものであってもよく、モータに限らない。
トルクセンサは、磁歪式のものであってもよい。
位置センサは、接触式や非接触式のものなどがあるが、精度を満たせば、どの方式、構成のものであってもよい。
図5、図13、図16で説明した駆動指令値を演算するブロック図は、いずれも実施例1のドア開閉補助力演算部81又は実施例2の第2駆動指令値演算部852に用いてもよい。
【0053】
ここで、本請求項及び本明細書に記載の「理想ドア」について説明しておく。
本請求項及び本明細書における理想ドアは、従来のように、スイッチあるいは操作を基点にして、自動的にドアが所定速度で開閉するようなものではなく、操作者の意思を強く反映して開閉されるドアを理想とする。
例えば、極端な例を言えば、家屋の建具である襖や障子は、軽く、開閉操作を途中で止めることで開度が変更される。
これは極端な例であり、実際には50kg程度のドアを軽い10kg程度することを理想とし、その上で、操作者が主体で操作意思が反映され、開閉操作を途中で止めることで開度が変更され、自然な軽いドアを操作しているフィーリングを得ることができるドアを理想とする。
このため、「理想ドア」とある場合には、質量などの値が上記のようなことを考慮して設定されたものを「理想ドア」とする。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願は、移動体のドアへの利用のほか、建物のドアへの利用も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1のドア開閉アシスト装置の概略を示す説明図である。
【図2】実施例1のドア開閉アシスト装置を車両に搭載した車両の説明図である。
【図3】実施例1のドア開閉アシスト装置のトルクセンサの説明図である。
【図4】実施例1のドア開閉アシスト装置のコントローラのブロック図である。
【図5】ドア開閉補助力演算部のブロック図である。
【図6】実施例1の理想摩擦演算部における理想摩擦演算処理を示す状態遷移図である。
【図7】ドア開閉アシスト装置において従来制御を行った場合の操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。
【図8】実施例1のドア開閉アシスト装置における操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。
【図9】ドア開閉アシスト装置において従来制御を行ったシミュレーション試験結果のタイムチャートである。
【図10】実施例1のドア開閉アシスト装置のシミュレーション試験結果のタイムチャートである。
【図11】実施例2のドア開閉アシスト装置のコントローラ8のブロック図である。
【図12】実施例2のドア開閉補助力演算部のブロック図である。
【図13】実施例2の第1駆動指令値演算部851のブロック図である。
【図14】実施例2における操作力、アシスト力、ドア速度、駆動指令値のタイムチャートである。
【図15】実施例2のドア開閉アシスト装置のシミュレーション試験結果のタイムチャートである。
【図16】実施例3のドア開閉補助力演算部81のブロック図である。
【符号の説明】
【0056】
1 モータ
2 減速機構
3 駆動プーリ
4a〜4c ガイドプーリ
5 駆動アーム
6 スライドドア
7 支持部材
70 ドア動作状態検出器
71 位置センサ
72 速度センサ
73 加速度センサ
8 コントローラ
81 ドア開閉補助力演算部
811 理想摩擦演算部
812 加算器
813 目標加速度演算部
814 目標速度演算部
815 加算器
816 乗算器
82 モータ駆動制御部
83 アシスト力推定部
84 動力伝達許可判定部
85 ドア開閉補助力演算部
851 第1駆動指令値演算部
852 第2駆動指令値演算部
853 最終駆動指令値演算部
851a 理想摩擦演算部
851b 加算器
851c 目標加速度演算部
851d 目標速度演算部
851e 加算器
851f 乗算器
9 ベルト
10 トルクセンサ
11 基板
12 ブラシ
13 ドアノブ
14 バネ
15 装置設置位置
16 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア開閉の操作力をアシストするアクチュエータと、
前記アクチュエータ駆動力の伝達状態と非伝達状態を切り換えるクラッチと、
車両のドアノブへのドア開閉操作力を検出する操作力検出手段と、
実際の車両のドア動作状態を検出するドア動作状態検出手段と、
前記ドア開閉操作力と、実際の車両のドア動作状態から駆動指令値を演算する駆動指令値演算手段と、
ドア動作状態と駆動指令値からアシスト力を推定するアシスト力推定手段と、
アシスト力推定値から前記クラッチに対する動力伝達許可判定を行う手段と、
を備えることを特徴とするドア開閉アシスト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドア開閉アシスト装置において、
前記駆動指令値演算手段は、
ドア開閉操作力と前記ドア動作状態から、理想的なドア操作感として軽く設定した理想ドア操作力となるように第1の駆動指令値を演算する第1駆動指令値演算手段と、
前記アクチュエータによるアシスト力が0となるような駆動指令値を、ドア動作状態から、第2の駆動指令値として演算する第2駆動指令値演算手段と、
駆動指令値の上限に前記第1駆動指令値が達した場合に、駆動指令値を前記第1駆動指令値から前記第2駆動指令値に徐々に切り替える駆動指令値切替手段と、
を備えることを特徴とするドア開閉アシスト装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のドアアシスト装置において、
前記ドア動作状態検出手段が検出するドア動作状態は、
ドアの加速度、ドアの速度、ドアの位置のいずれかである、
ことを特徴とするドア開閉アシスト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−38488(P2008−38488A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214946(P2006−214946)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】