説明

ドラムブレーキ装置

【課題】ドラムブレーキの薄板化が可能なようにする。
【解決手段】ドラムブレーキ装置において、ジャッキボルト孔13からハブ孔15の縁までの、前記ハブ孔15の法線方向における距離をL、取付面1aとハブとの間で発生する固着力をF、取付面1aの断面係数をZ、ジャッキボルト孔13の径に対するハブ孔15の円周の比である円周比をiとし、所定の式により、ハブからブレーキドラム1を取り外すときに生じる曲げ応力が、ブレーキドラム1に使用する材料強度以下となるようにLを設定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドラムブレーキ装置の技術に関し、特にハブからドラムを外す際の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のブレーキ装置として、ドラムブレーキ装置が知られている。特許文献1に示されるように、ドラムブレーキ装置は、ホイール(ディスク)とハブ(ハブフランジ)との間に円盤状のブレーキドラムが挟み込まれ、この状態でハブにボルト締めされることで、車輪に取り付けられている。ドラムブレーキ装置を取り外す場合、まず、ボルトを緩めてホイールを外し、次に、ドラムブレーキ装置(ブレーキドラム)をハブから外す手順をとる。ブレーキドラムを取り外す際には、例えば、前記のボルトが挿通されるボルト孔とは別にブレーキドラムに穿設されているジャッキボルト孔にジャッキボルトをねじ込み、ハブ(ハブフランジ)からブレーキドラムをジャッキアップする要領で、ブレーキドラム、つまりドラムブレーキ装置をハブ(ハブフランジ)から取り外すことが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−180674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、長期間ドラムブレーキ装置をハブに取り付けていると、ハブとブレーキドラムのハブ孔とが、強固に固着していることが多い。このような場合に、ドラムブレーキ装置をジャッキボルトによって外す際、無理にジャッキボルトでブレーキドラムをジャッキアップしようとすると、ブレーキドラムのハブ取付面に過大な力による不具合が生じてしまうことがあった。この対策として、ドラムブレーキのハブ取付面の板厚を増して厚くすることによって不具合の発生を防ぐなどの手法があるが、単に板厚を増すと装置としての重量が増えてしまう。
そのためには、板厚などのパラメータを適切に設定する必要がある。
【0005】
そこで本発明は、かかる不具合を防止して、板厚などのパラメータを適切に設定可能な手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行い、前記課題を解決した。すなわち、本発明(請求項1に係る発明)は、車両に備わるハブの先端が挿通されるハブ孔と、前記ハブに備わるハブフランジへの取付面とを有するブレーキドラムを具備し、前記取付面には、前記ブレーキドラムを前記ハブから外すためのジャッキボルトが挿通されるジャッキボルト孔が複数個所設けられているドラムブレーキ装置に適用される。
そして、このドラムブレーキ装置は、(a)前記ジャッキボルト孔から前記ハブ孔の縁までの、前記ハブ孔の法線方向における距離をL(固着部〜ネジ部)、(b)前記取付面と前記ハブとの間で発生する固着力をF、(c)前記取付面の断面係数をZ、(d)前記ジャッキボルト孔の径に対する前記ハブ孔の円周の比である円周比をiとしたとき、以下の式により前記ハブから前記ブレーキドラムを取り外すときに生じる曲げ応力が、前記ブレーキドラムに使用する材料強度以下となるように前記Lが設定されることを特徴とする。
【数1】

【0007】
この構成においては、ブレーキドラム(すなわちドラムブレーキ装置)を取り外す際にジャッキボルトを使用するが、材料強度を考慮した適切な距離Lを設定するが可能となり、これにより、取り外す際の過大な力による取付面の不具合の発生を防止することが可能となる。
【0008】
また、前記課題を解決した本発明(請求項2に係る発明)のドラムブレーキ装置は、前記取付面の厚さが4.5mm以下で、前記ジャッキボルトの先端部のネジ部をM8、前記ブレーキドラムの材料強度を220Mpaまたは250Mpaとしたときに、前記Lを9mm以下とすることを特徴とする。
【0009】
すなわち、板厚4.5mm以下のときにLを9mm以下にする。この構成によれば、取付面の厚さ(板厚)を4.5mm以下として、軽量化が可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドラムブレーキ装置の取付面の板厚などのパラメータを適切に設定可能な手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の本体をなすブレーキドラムを示す図であり、(a)はその正面図、(b)は(a)のA−A線における矢視断面図である。
【図2】ジャッキボルトを使ってハブからブレーキドラムを取り外す際の様子を模式的に示した斜視図である。
【図3】円周比を説明する際の参照図である。
【図4】ブレーキドラムの回転中心軸から上側の断面図であり、(a)は取付面の薄肉化を図る前の例を、(b)は取付面の薄肉化を図った後の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明である、ドラムブレーキ装置するための形態(以下「実施形態」という)について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
まず、図1を参照して、ドラムブレーキ装置の構成を説明する。正面図である図1(a)に示されるように、ドラムブレーキ装置の本体をなすブレーキドラム1は、円形の外観をしており、かつ、図1(a)のA−A線矢視断面図である図1(b)に示されるように、側面視して段つき形状をしている。すなわち、ブレーキドラム1は、段つき形状をした外観をした皿状の部材である。換言すると、円形の取付面1aの外周部分に立ちあがり部(胴部)が形成されている寸胴形状をしている。
【0014】
図1(a)に示されるように、取付面1aの中央には、ハブ2の先端部であるハブ先端2a(図2参照)が挿通されるハブ孔15が形成されている。また、ハブ2の側から突き出しているホイールボルト12(図2参照)が挿通されるホイールボルト孔11が、ハブ孔15の周りに等間隔(90度間隔)で4か所、形成されている。また、ジャッキボルト孔13(径B)が、ハブ孔15の周りに2か所、180度対向する位置に形成されている。このジャッキボルト孔13には、ジャッキボルト14(図2参照)の先端部に切られた雄ネジに対応した雌ネジが切られている。ちなみに、この例では、ジャッキボルト孔13は、ホイールボルト孔11よりも内周側に、かつ、角度にしてα度ずらして形成されている。
なお、ブレーキドラム1がハブ2にどのように取り付けられているのかは、背景技術で上げた特許文献1と同じであり、また、特に文献を挙げるまでもなく周知であるので、その説明を省略する。
【0015】
図2は、前記のとおり、ジャッキボルト14を使ってハブ2からブレーキドラム1を取り外す様子を模式的に示している。
ブレーキドラム1(つまりドラムブレーキ装置)をハブ2から取り外す作業は、車検(自動車検査登録制度に基づく検査)の度に行われるが、つまり、初回は3年目に・以後は2年ごとに行われるが、取り外しの際には、まず、図示しないナットを4つのホイールボルト12から全部緩め取り、次に、図示しないホイールを外す。ホイールを外した後は、図2に示すように、ジャッキボルト孔13にジャッキボルト14をねじ込んでジャッキボルト孔13の軸周りに回転させ、ブレーキドラム1をハブ2のハブフランジ2bから引き剥がすようにジャッキアップする。この際、取付面1aとハブフランジ2bとが固着していると、取付面1aには曲げ応力が生じる。固着が強固であると、曲げ応力が取付面1aの材料強度を上回り、取付面1aに不具合を生じてしまう。ちなみに、ハブ孔15の周り(ハブ孔15の縁)とハブ2の間に錆などによる固着が生じやすく、その部分(固着部)の固着が強固であると、取付面1aに生じる曲げ応力は大きくなる。
なお、取付面1aに発生する曲げ応力は、下記の式で計算される
【数2】

【0016】
ここで、式の各パラメータについて説明する。固着力F(単位N)は、通常の測定方法により測定されるが、後記する表においては、過去の例などからわかっている値に基づいて、マージンを加味した閾値的に15840Nや18000Nを設定している。
【0017】
また、距離L(単位mm)は、ジャッキボルト孔13の中心から固着部であるハブ孔15の縁までの距離である。ちなみに、距離Lは、ハブ孔15の法線方向における平面視した距離である。つまり、ジャッキボルト孔13の中心からハブ孔15の縁までの最短距離が距離Lである。なお、上記の式から明らかなように、距離Lが大きくなるほど曲げ応力は大きくなるので、取付面1aに不具合が生じやすくなる。
【0018】
断面係数Z(単位mm)は、ブレーキドラム1の断面積から通常の求め方により算出した。ちなみに、断面係数Zは,材料の材質、強度などに関係なく、その部材の形状により求まる。上記の式から、断面係数Zが大きいほど曲げ応力は小さくなるので、不具合が生じにくくなると言える。なお、部材(取付面1a)の板厚(肉厚)が増すほど、断面係数Zの値も大きくなる。後記する表では、板厚を4.0〜5.0mmの間で振っている。
【0019】
円周比i(無次元単位)は、図3の図面上にて、ハブ孔15の縁にジャッキボルト孔13を配置した場合、つまり、ハブ孔15の縁が最も多く隠れるようにハブ孔15の縁にジャッキボルト孔13を配置した場合において求まる値であり、円周比iは、ハブ孔15の周長(全周長)を分子とし、ジャッキボルト孔13により覆い隠される部分のハブ孔15の周長を分母として計算される。図3では、ハブ孔15の全周の角度である360度をジャッキボルト孔13に隠される部分の角度θで除す例を示している(円周比i=360/θ)。ちなみに、ジャッキボルト孔13の径(径B)が一定、かつ、ハブ孔15の周長を一定とすれば、前記の距離Lが変化しても、円周比iは一定である。なお、上記の曲げ応力を求める式から明らかなように、円周比iが大きくなるほど曲げ応力は小さくなるので、取付面1aに不具合が生じにくくなる。
【0020】
つまり、前記の式に基づき、前記の距離Lなどのパラメータを適切に設定することができる。以下は、取付面1aの薄肉化(軽量化)の観点から、本発明の実施形態のより具体的な例(実施形態例1〜4)を説明する。
【0021】
なお、実施形態例の説明の前に、図4を簡単に説明すると、図4は、ブレーキドラム1の回転中心軸から上側の断面図であり、図4(a)のブレーキドラム1’は、取付面1aの薄肉化を図る前の例を示している(板厚t1)。一方、図4(b)のブレーキドラム1は、取付面1aの薄肉化を図った後の例を示している(板厚t)。取付面1aの板厚はt1>tである。ここで、符号17はリブを示しているが、このリブ17は、図1、図2においては記載を省略している。
【0022】
≪実施形態例1≫
表1は、材料強度Fが220N/mm(=220MPa)であるFC220(FC;ねずみ鋳鉄)を用いたブレーキドラム1について、そのジャッキボルト孔13に、先端部がM8のネジ部(雄ネジ)を有するジャッキボルト14をねじ込み、ハブ2からブレーキドラム1外す際の例を示している。
【表1】

【0023】
この表1は、実施形態例1の結果を示す表である。この表1においては、板厚tを4.0〜5.0というように振ることで、取付面1aの断面係数Zを振っている。ちなみに、従来の板厚t1(図3(a))は5mmである。
また、この表では、固着力Fは、全部15840Nである。固着力は、JIS Z2371の「塩水噴霧試験方法」に基づいて、塩水をかけて腐食による固着を生じさせたものである。また、距離L(図1参照)は、全部9mmである。また、円周比iも、全部24である。
【0024】
表1は、計算により求まる曲げ応力が、FC220の材料強度である220N/mm以下のものを○とし、一方、220N/mmを超えるものを×とした。この具体例から、板厚tを5mm以下にすることが可能であることが理解される。逆に、板厚tを4.5mmにして軽量化しようとすれば、距離Lを9mmで材料をFC220にすればよいことが理解される。
【0025】
≪実施形態例2≫
表2は、実施形態例2の結果を示す表である。表1との相違は、材料強度が250N/mm(=250MPa)であるFC250(FC;ねずみ鋳鉄)を用いている点と、固着力Fを、全部18000Nとしている点である。その他、距離Lなどは、表1と同じである。
【表2】

【0026】
表2は、計算による求まる曲げ応力が、FC250の材料強度である250N/mm以下のものを○とし、一方、250N/mmを超えるものを×とした。この具体例から、表1よりも強く固着している場合でも、FC250を用いることで、板厚を5mm以下にすることが可能であることが理解される。逆にいえば、強く固着している場合でも、板厚tを4.5mmにして軽量化しようとすれば、距離Lを9mmで材料をFC250にすればよいことが理解される。
【0027】
≪実施形態例3≫
表3は、実施形態例3の結果を示す表である。表1との相違は、距離Lも7〜11mmの範囲で振っている点である。その他、固着力Fや材料強度などは、表1(実施形態例1)と同じである。
【表3】

【0028】
この表3も表1と同様、計算による求まる曲げ応力が、FC220の材料強度である220N/mm(220MPa)以下のものを○とし、一方、220N/mm(220MPa)を超えるものを×とした。この例では、すべてが○である。つまり、表1において×となった板厚tが4.4mm以下のものについて、距離Lを9mmよりも小さくすることで、曲げ応力が材料強度である220N/mmを超えないようにすることができた。ちなみに、ジャッキボルト孔13の径は、ジャッキボルト14の先端のM8の雄ネジに合わせたものであるので、すなわち、ジャッキボルト孔13の内径が8mmの雄ネジに合わせたものであるので、距離Lを小さくするのには限界があり、距離L=7mmが下限といえる数値である。
【0029】
≪実施形態例4≫
表4は、実施形態例4の結果を示す表である。表2との相違は、距離Lも7〜11mmの範囲で振っている点である。その他、固着力Fや材料強度などは、表2(実施形態例2)と同じである。
【表4】

【0030】
この表4も表2と同様、計算による求まる曲げ応力が、FC250の材料強度である250N/mm(250MPa)以下のものを○とし、一方、250N/mm(250MPa)を超えるものを×とした。この例では、すべてが○である。つまり、表2において×となった板厚tが4.4mm以下のものについて、表3と同様に、距離Lを9mmよりも小さくすることで、曲げ応力が材料強度である250N/mm(250MPa)を超えないようにすることができた。
【0031】
以上説明した本発明によれば、ドラムブレーキ装置(ブレーキドラム1)の取付面2aの板厚tなどのパラメータを、材料強度などを加味しつつ薄板化が可能なように適宜設定可能な手法を提供することができる。なお、本発明は、前記した実施形態(実施形態例1〜4)に限定されるものではなく、種々、変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 ブレーキドラム
1a 取付面
11 ホイールボルト孔
12 ホイールボルト
13 ジャッキボルト孔
14 ジャッキボルト
15 ハブ孔
2 ハブ
2a ハブ先端
2b ハブフランジ
B ジャッキボルト孔の径
L 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備わるハブの先端が挿通されるハブ孔と、前記ハブに備わるハブフランジへの取付面とを有するブレーキドラムを具備し、
前記取付面には、前記ブレーキドラムを前記ハブから外すためのジャッキボルトが挿通されるジャッキボルト孔が複数個所設けられているドラムブレーキ装置において、
前記ジャッキボルト孔から前記ハブ孔の縁までの、前記ハブ孔の法線方向における距離をL、
前記取付面と前記ハブとの間で発生する固着力をF、
前記取付面の断面係数をZ、
前記ジャッキボルト孔の径に対する前記ハブ孔の円周の比である円周比をiとし、
以下の式により前記ハブから前記ブレーキドラムを取り外すときに生じる曲げ応力が、前記ブレーキドラムに使用する材料強度以下となるように前記Lを設定することを特徴とするドラムブレーキ装置。
【数3】

【請求項2】
前記取付面の厚さが4.5mm以下で、前記ジャッキボルトをM8、前記ブレーキドラムの材料強度を220Mpaまたは250Mpaとしたときに、
前記Lを9mm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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