説明

ドラム式洗濯機の制振装置及びドラム式洗濯機

【課題】リニアアクチュエータを用いた制振制御と、リニアアクチュエータが発電した電力の利用とを適切に切り替えることができるドラム式洗濯機の制振装置を提供する。
【解決手段】スプリングとリニアモータとを並列に配置して構成される電動サスペンション11によって筐体22の内部に配置される洗濯槽14を弾性的に支持し、洗濯槽14と筐体22とにそれぞれ加速度センサ41,42を配置する。そして、制御装置44のトルク制御部58は、洗濯乾燥機21の運転状態と、電動サスペンション11の変位量を検出する位置センサ8の検出出力と、加速度センサ41,42の検出出力とに応じてリニアモータの駆動力を制御する制振制御と、リニアモータにおいて発生する電力を回生する回生制御とを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム式洗濯機の運転時に発生する振動を抑制する装置,及びその装置を備えてなるドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム式洗濯機は、筐体の内部においてドラム(回転槽)が水平方向,若しくは水平よりやや仰角方向を軸にして配置されているが、そのドラムは、ダンパやばねなどの弾性支持装置によって支持されており、運転時に発生する振動を吸収するようにしている。例えば特許文献1では、弾性支持装置として空気圧アクチュエータを用い、運転時に発生する振動をよりアクティブに抑制する技術が開示されている。また、特許文献1では空気圧アクチュエータをモータ機構に置き換えても良いことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−183297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気圧アクチュエータをモータ機構に置き換えると、リニアモータを用いて構成されるアクチュエータ,いわゆるリニアアクチュエータになる。リニアアクチュエータを用いることを想定すると、アクチュエータ側よりドラム側に、振動に抗する駆動力を与えることで、振動をよりアクティブに抑制することも可能となる。
しかしながら、洗濯機では、運転中に発生する振動の振幅がそれほど大きくはならず、必ずしもその抑制をアクティブに行う必要がない期間も存在する。すると、アクチュエータが駆動力を出力しない場合は、逆に振動が外力として加えられることでリニアモータが発電作用をなすことになるが、その発電された電力を有効に利用することについては、特許文献1に何ら開示がない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リニアアクチュエータを用いた制振制御と、リニアアクチュエータが発電した電力の利用とを適切に切り替えることができるドラム式洗濯機の制振装置,及びその制振装置を備えてなるドラム式洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載のドラム式洗濯機の制振装置は、回転槽を収容すると共に洗濯機を構成する筐体の内部に配置される洗濯槽を、前記筐体との間で支持するリニアアクチュエータと、
前記筐体並びに前記洗濯槽にそれぞれ配置され、振動の発生に応じて変化する物理量を検出する振動センサと、
前記リニアアクチュエータの変位量を検出する位置センサと、
前記振動センサの検出出力と前記位置センサの検出出力とに応じて前記リニアアクチュエータの駆動力を制御することで、前記洗濯機の運転時に発生する振動を抑制する制振制御手段とを備え、
前記制振制御手段は、前記洗濯機の運転状態と、前記振動センサ及び前記位置センサの検出出力とに応じて、前記リニアアクチュエータを駆動する制振制御と、前記リニアアクチュエータにおいて発生する電力を回生する回生制御とを切り替えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項9記載のドラム式洗濯機は、回転槽を回転させる洗濯用モータと、
この洗濯用モータを制御する洗濯制御手段と、
請求項1ないし8の何れかに記載の制振装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のドラム式洗濯機の制振装置,又は請求項9記載のドラム式洗濯機によれば、洗濯機の運転状態と、振動センサ及び位置センサの検出出力とに応じて、制振制御と回生制御とを切り替えるから、洗濯槽に発生する振動を効果的に抑制しつつ、リニアアクチュエータが発生した電力を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施例であり、リニアモータをベクトル制御する制御装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図2】リニアモータが発電した電力を利用するための構成部分を示図
【図3】トルク制御部を中心とする制御内容を示すフローチャート
【図4】洗濯機の洗いモード,脱水モードの場合に、モータの回転数変化の一例を示す図
【図5】制振制御を行った場合,行わなかった場合について、共振周波数における洗濯槽の変位を、ドラム内のアンバランス荷重の大きさを変えて比較した図
【図6】リニアモータの構成を、一部を透過させて示す斜視図
【図7】電動サスペンションの構成を示す正面図
【図8】ドラム式洗濯乾燥機の縦断側面図
【図9】ドラム式洗濯乾燥機の一部を破断して示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施例について図面を参照して説明する。本実施例では、リニアモータを用いて電動サスペンションを構成する。図6は、リニアモータの構成を、一部を透過させて示す斜視図である。リニアモータ(リニアアクチュエータ)1は、シャフト2と、そのシャフト2にN極,S極が交互に並ぶように配置される永久磁石3(N,S)とで構成される固定子4と、内部にU,V,W相の巻線5を有し、直方体状の本体6を備えてなる可動子7とで構成されている。また、本体6には、可動子7の相対的な変位位置を出力する位置センサ8が配置されている。
【0011】
そして、図7ないし図9に示すように、本実施例では、リニアモータ1とスプリングとを組み合わせることで、ドラム式洗濯乾燥機の洗濯槽を支持するための電動サスペンション(アブソーバ)11を構成する。図7は、電動サスペンション11の構成を示す正面図である。洗濯乾燥機の底面側に配置される基部12には支持部材13が立設されており、その支持部材13が、リニアモータ1の可動子7を下方側より支持している。
【0012】
リニアモータ1のシャフト2の上端は、ランドリの洗濯槽14の一部であるシャフト固定部14aに固定されており、シャフト固定部14aと可動子7の上端側との間には、スプリング(弾性体)15が配置されている。したがって、電動サスペンション11が洗濯乾燥機に配置された状態では、可動子7が固定側となり、固定子4が可動側となっている。尚、シャフト固定部14aは、その一部が例えばゴムなどの弾性体で構成されており、図中に破線に示すように変形した状態でも洗濯槽14を支持可能となっている。
【0013】
図8はドラム式洗濯乾燥機の縦断側面図であり、図9は同一部を破断して示す斜視図である。ドラム式洗濯乾燥機(電機機器)21の外殻を形成する筐体22は、前面に円形状に開口する洗濯物出入口23を有しており、この洗濯物出入口23は、ドア24により開閉される。筐体22の内部には、背面が閉鎖された有底円筒状の洗濯槽14が配置されており、この洗濯槽14の背面中央部には洗濯用モータとしての永久磁石モータ25の固定子がねじ止めにより固着されている。そして、洗濯槽(制振対象物)14は、上述した電動サスペンション11により基部12上に支持されている。尚、電動サスペンション11は、実際には、図1に示すように正面から見て洗濯槽14の左右に2つ(L,R)配置されている。
【0014】
永久磁石モータ25の回転軸26は、後端部(図8では右側の端部)が永久磁石モータ25の回転子に固定されており、前端部(図8では左側の端部)が洗濯槽14内に突出している。回転軸26の前端部には、背面が閉鎖された有底円筒状のドラム(回転槽)27が洗濯槽14に対して同軸状となるように固定されており、このドラム27は、永久磁石モータ25の駆動により回転軸26と一体的に回転する。なお、ドラム27には、空気および水を流通可能な複数の流通孔28と、ドラム27内の洗濯物の掻き上げやほぐしを行うための複数のバッフル29が設けられている。
【0015】
洗濯槽14には給水弁30が接続されており、当該給水弁30が開放されると、洗濯槽14内に給水される。また、洗濯槽14には排水弁31を有する排水ホース32が接続されており、当該排水弁31が開放されると、洗濯槽14内の水が排出される。洗濯槽14の下方には、前後方向へ延びる通風ダクト33が設けられている。この通風ダクト33の前端部は前部ダクト34を介して洗濯槽14内に接続されており、後端部は後部ダクト35を介して洗濯槽14内に接続されている。通風ダクト33の後端部には、送風ファン36が設けられており、この送風ファン36の送風作用により、洗濯槽14内の空気が、矢印で示すように、前部ダクト34から通風ダクト33内に送られ、後部ダクト35を通して洗濯槽14内に戻される。
【0016】
通風ダクト33内部の前端側には蒸発器37が配置されており、後端側には凝縮器38が配置されている。これら蒸発器37および凝縮器38は、コンプレッサ39や図示しない絞り弁40とともにヒートポンプ40を構成しており、通風ダクト33内を流れる空気が、蒸発器37により除湿され凝縮器38により加熱されて、洗濯槽14内に循環される。洗濯槽14の重心位置の真下に相当する洗濯槽14の外底部には、振動を加速度(物理量)として検出する加速度センサ(振動センサ)41が取り付けられており、筐体22の内底部にも加速度センサ(振動センサ)42が取り付けられている。また、筐体22の上底部と洗濯槽14の上端との間は、スプリング43によって弾性的に連結されている。
【0017】
図1は、リニアモータ1をベクトル制御する制御装置(ベクトル演算手段,制振装置)44の構成をブロック図で示したものである。ベクトル制御では、巻線5に流れる電流を、界磁である永久磁石3の磁束方向と、それに直交する方向とに分離してそれらを独立に調整し、磁束と発生トルクとを制御する。電流制御には、リニアモータ1の可動子4の移動ピッチを周期として回転する座標系、いわゆるd−q座標系で表わした電流値が用いられるが、d軸は永久磁石3の作る磁束方向であり、q軸はd軸に直交する方向である。巻線5に流れる電流のq軸成分であるq軸電流Iqはトルクを発生させる成分であり(トルク成分電流)、同d軸成分であるd軸電流Idは磁束を作る成分である(励磁または磁化成分電流)。
【0018】
電流センサ50(U,V,W)は、モータ1の各相(U相、V相、W相)に流れる電流Ia,Ib,Icを検出するセンサである。尚、電流センサ50(電流検出手段)に替えて、インバータ回路51(駆動回路)を構成する下アーム側のスイッチング素子とグランドとの間に3個のシャント抵抗を配置し、それらの端子電圧に基づいて電流を検出する構成としても良い。尚、電流センサ50は、実際にはインバータ回路51の出力端子とモータ1の巻線5との間に介挿されている。
【0019】
電流センサ50により検出された電流Ia,Ib,Icは、A/D変換器52によりA/D変換されて、電流変換部53において2相電流Iα,Iβに変換された後、更にd軸電流Id,q軸電流Iqに変換される。α,βは、モータ1の固定子4に固定された2軸座標系の座標軸である。電流変換部53における座標変換の計算には、後述する可動子7の位相(α軸とd軸との位相差,電気角)θが用いられる。d軸電流Id,q軸電流Iqは、電流制御部54に与えられている。
【0020】
リニアモータ1の可動子7に配置されている位置センサ8が出力する位置信号は、制御装置44の位置演算部(位相検出手段)55に与えられている。位置演算部55は、上記位置信号を可動子7の移動ピッチを周期とする位相θに変換して、電流変換部53,後述する電圧変換部56に出力する。
積分器57a,57b,57c,57dにおいて、洗濯槽14に取り付けた加速度センサ41と筐体22に取り付けた加速度センサ42から、出力された加速度信号α(1,2)を積分して速度v(1,2)を演算し、速度v(1,2)を積分して変位p(1,2)を演算し、トルク制御部(制振制御手段)58に出力する。
【0021】
トルク制御部58には、洗濯乾燥機21の制御回路部(上位システム)より洗いや脱水などの運転モードを示す信号が与えられていると共に、永久磁石モータ25の回転速度指令ωrefが与えられている。そして、トルク制御部58は、洗濯乾燥機21のドラム27が回転することで洗濯槽14に振動が発生した場合に、洗い,脱水,すすぎ等の各モードに対応して検出されるモータ25の回転数ωや、加速度センサ41,42より得られる加速度α,及びそれに基づき得られる速度v,変位pに応じて、洗濯槽14,筐体22の何れの振動を抑制するか、優先度を決定する。また、洗い運転や脱水運転等の各運転モードの区間に対応して検出されるモータ25の回転数ωや、加速度センサ41,42より得られる加速度α,及びそれに基づき得られる速度v,変位pに基づいて、複数の制振状態を決定し、各状態について、振動に応じた減衰ブレーキトルクを発生させるようq軸電流指令Iqrefを生成出力する。
【0022】
トルク制御部58は、洗濯槽14の加速度α1,速度v1,変位P1,及び筐体22の加速度α2,速度v2、変位P2に、フィードバックゲインK1〜K6をそれぞれ乗じて加算した出力をq軸電流指令Iqrefとして生成し、洗濯槽14を弾性支持する2つの電動サスペンション11(L,R)にそれぞれ出力する。すなわち、
Iqref=K1・α1+K2・v1+K3・p1
+K4・α2+K5・v2+K6・p2+Iqr
となる。但しIqrは、回生制御を行う場合の電流指令Iqrefを、ゼロでないある値に設定するための項である。
尚、図1では、一方の電動サスペンション11Rに対応する構成しか示されていないが、実際には、電流制御部60からインバータ回路51までの制御系は、2つの電動サスペンション11L,11Rについて個別に用意されている。
【0023】
トルク電流指令Iqrefは、電流制御部54に出力される。また、基本的にリニアモータ1を全界磁運転させるため、励磁電流指令Idrefは「0」に設定する。これらの電流指令は、電流制御部54の減算器59q,59dにおいて、電流変換部53より出力されるd軸電流Id,q軸電流Iqとの差が演算されて、偏差ΔIq,ΔIdが算出される。電流偏差ΔIq,ΔIdは、比例積分器60q,60dにおいて比例積分演算され、d−q座標系で表わされた電圧指令Vq,Vdが算出される。電圧指令Vq,Vdは、電圧変換部56によりα−β座標系で表わした値に変換され、更にαβ/abc座標系で表わした各相電圧指令Va,Vb,Vcに変換される。
【0024】
各相電圧指令Va,Vb,Vcは電圧出力部61に入力され、指令値に一致する電圧を供給するためのパルス幅変調(PWM)されたゲート駆動信号が形成される。インバータ回路51は例えばIGBTなどのスイッチング素子を三相ブリッジ接続して構成され、図示しない直流電源回路より直流電源電圧が供給される。
【0025】
電圧出力部61で形成されたゲート駆動信号(上アーム:u,v,w/下アーム:x,y,z)は、インバータ回路51を構成する各スイッチング素子のゲートに与えられ、それにより各相電圧指令Va,Vb,Vcに一致する、PWM変調された三相交流電圧が生成されてリニアモータ1の巻線5に印加される。尚、電圧出力部61において、上記直流電源電圧に応じたPWM指令電圧を生成するため、A/D変換器52は、直流電源電圧を
適切な電圧レベルに分圧した上でA/D変換し、変換したデータを電圧出力部61に与えている。
【0026】
上記の構成において、減算器59q,59dと比例積分器60q,60dとで、比例積分(PI)演算による電流ループのフィードバック制御が行なわれ、d軸電流Id,q軸電流Iqは、それぞれd軸電流指令Idref,q軸電流指令Iqrefに一致するように制御される。尚、ドラム27を回転駆動する永久磁石モータ25は、洗濯乾燥機21の運転全般を制御する上記制御回路部(マイクロコンピュータで構成される。洗濯制御手段)によって、リニアモータ1と同様にベクトル制御される。
【0027】
図2は、リニアモータ1及びインバータ回路51と、リニアモータ1が外力を受けることで発電した電力を回生させて、その電力を利用するための構成部分を示したものである。インバータ回路51と駆動電源(直流電源)との間には、例えばNチャネルMOSFETで構成されるスイッチ(電力経路切替え手段)62が接続されている。LED(照明手段)63は、ユーザが洗濯乾燥機21のドア24を開放した場合に点灯して、ドラム27の内部を照明するために配置されている。LED63のカソードはグランドに接続されており、アノードは、電流制限用の抵抗素子64を介して電磁リレー65の端子(3)に接続されている。
【0028】
電磁リレー65の端子(4)は、スイッチ62と同様のFETで構成されるスイッチ(電力経路切替え手段)66を介してインバータ回路51の正側母線に接続されていると共に、コンデンサ(充電手段,例えばスーパーキャパシタや電気二重層コンデンサ)67を介してグランドに接続されている。コンデンサ67は、LED63に電源を供給するためにリニアモータ1の回生電力によって充電される。電磁リレー65の端子(5)は、5V電源に接続され、端子(1)は、NPNトランジスタで構成されるスイッチ68を介してグランドに接続されている。また、端子(1),(5)の間には、ダイオード69が接続されている。尚、コンデンサ67に替えて二次電池を用いても良い。
【0029】
スイッチ62がオンでスイッチ66がオフであれば、リニアモータ1が発電した電力は、インバータ回路51を構成する上アーム側IGBT51u〜51wのコレクタ,エミッタ間に接続されているフリーホイールダイオードを介して電源側に回生される。また、スイッチ62がオフでスイッチ66がオンであれば、リニアモータ1が発電した電力によってコンデンサ67が充電される。そして、電磁リレー65は、スイッチ68がオンすると、端子(1),(5)の間の励磁コイルに通電が行われてオフとなり、コンデンサ67からLED63に対する電源供給が遮断され、スイッチ68がオフすると、コンデンサ67の充電電荷によってLED63に電源が供給される。
【0030】
次に、本実施例の作用について図3ないし図5を参照して説明する。洗濯乾燥機21において洗濯運転が行われる場合、モータ25によりドラム27が回転駆動されると洗濯槽14に振動が発生する。図4は、洗濯機における洗いモードと、それに続く脱水モードの場合に、モータ25の回転数変化の一例を示したものである。洗いモードでは、モータ25の回転数は高々数10rpm程度であり、短い期間で正反転を切り替える。この場合、ドラム27はあまり大きく振動しないため、図中に破線で示す位置センサ8(電動サスペンション11)の変位量も、それほど大きな値を示さない。
【0031】
一方、脱水モードにおいては、モータ25の最高回転数は数100rpmから1000rpmを超える場合もあり、最初の加速期間と、最後の減速期間ではドラム27が大きく振動する場合がある。特に、加速期間では、回転数がドラム27を中心とする振動系の水平方向における共振点と、垂直方向における共振点とに達する際に、振動が大きくなり易い。このような場合には、位置センサ8の変位量が大きな値となる。
したがって、脱水モードの加速期間及び減速期間では、リニアモータ1を駆動して、電動サスペンション11が発生する駆動力を洗濯槽14側に与えることで、振動をアクティブに抑制する期間とする(制振区間)。そして、その他の期間については、電動サスペンション11に外力として加えられる振動のエネルギーを電気エネルギーに変換して、発生した電力を回生させる(回生区間)。
【0032】
図3は、トルク制御部58を中心とする制御内容を示すフローチャートである。先ず、運転モード信号を参照して、洗いモードか、脱水モードかを判断する(ステップS1)。なお、洗いモードは「すすぎ」の場合も含まれる。そして、洗いモードであれば図4に示す回生区間に該当し、動作中にリニアモータ1が洗濯槽14の振動を外力として受けることで発電した電力を電源側に回生させるか、コンデンサ67に充電させるかを判断するため、ステップS7に移行する。
【0033】
トルク制御部58は、スイッチ66をオンしてコンデンサ67を充電した電力量(電力×充電時間)を計測しており、その電力量が所定の閾値以上であれば、スイッチ62をオン,スイッチ66をオフしてリニアモータ1の発電電力を電源側に回生させる。この場合、フィードバックゲインK1〜K6を全てゼロに設定し、可動子7の速度に合わせて各相に逆電圧をかけるようにq軸電流指令Iqrefを制御する。この場合、可動子7の変位方向とは逆方向にブレーキトルクが作用してリニアモータ1で回生電力が発生するが、ブレーキトルクによる制振作用も生じる。一方、コンデンサ67の充電電力量が所定の閾値未満であれば、スイッチ62をオフ,スイッチ66をオンしてコンデンサ67を充電する。
【0034】
ステップS1において、運転モードが脱水モードであれば、モータ25の回転数が所定の閾値以上であるか、閾値未満かを判断する(ステップS2)。尚、モータ25の回転数は、上記速度指令ωrefに基づいて判断する。また、速度指令ωrefが与えられない場合でも、洗濯槽14の加速度α1,速度v1,変位p1から周波数を抽出して求めることが可能である。ここでの回転数閾値は、振動系の固有周波数付近に対応した値に設定され、個別の仕様に応じて異なるが、例えば数10rpmから300rpm程度の範囲内で設定される。回転数が閾値未満であれば図4に示す制振区間に該当するので、加速度センサ41から得られたセンサ出力より得られる変位p1が、洗濯槽14の振動が問題となる閾値以上になったか否かを判断する(ステップS3)。
【0035】
ステップS3において変位p1が閾値以上であれば洗濯槽14を対象として、その振動を抑制する。すなわち、洗濯槽14の共振点付近で発生している振動に応じて減衰ブレーキトルクを発生させるようにq軸電流指令Iqrefを生成出力する。
例えば、洗濯槽14の加速度α1,速度v1,変位p1に乗ずるフィードバックゲインK1〜K3を予め算出した値に設定し、筐体22の加速度α2,速度v2,変位p2に乗ずるフィードバックゲインK4〜K6を「0」に設定する。フィードバックゲインK1〜K3は、モータ25の回転数に応じて振動を抑制するのに適正な値にするため、シミュレーションや事前の実機実験等によって求めておき、データテーブルなどにより設定する。
【0036】
すると、電動サスペンション11の位置センサ8が出力する位置信号に基づき得られる位相角θによりベクトル演算が行われてq軸電流Iqが制御され、インバータ回路51を介してリニアモータ1が駆動される。その結果、洗濯槽14の振動を減衰させるブレーキトルクが発生し、上記振動を抑制するように作用する。
【0037】
一方、ステップS3において、変位p1が上記閾値未満であった場合は、加速度センサ42から得られたセンサ出力より得られる加速度α2に、洗濯乾燥機21全体の重量Mを乗じることで得られる変位荷重M・α2が、筐体22の振動が問題となる閾値以上になったか否かを判断する(ステップS4)。そして、変位荷重M・α2が閾値以上であれば、筐体22を対象としてその振動を抑制する。すなわち、筐体22が自身の共振点付近で振動しており、その振動が床に伝播しているような状態において、筐体22の振動を減衰させるブレーキトルクを発生させて前記振動を抑制する。
【0038】
この場合、フィードバックゲインK4〜K6を予め算出した値に設定する。この場合のフィードバックゲインK4〜K6も、上記と同様にシミュレーションや事前の実機実験等によって求めておき、データテーブルなどにより設定する。また、ステップS4において、変位荷重M・α2が閾値未満であった場合はステップS7に移行して、発電電力の回生又は発電電力による充電を行う。
【0039】
ステップS2において、モータ25の回転数が閾値以上であればステップS5に移行して、ステップS3と同様の判断を行う。そして、変位p1が閾値以上であれば、やはり洗濯槽14を対象として振動を抑制する。また、ステップS5において変位p1が閾値未満であれば、ステップS6に移行してステップS4と同様の判断を行う。そして、変位荷重M・α2が閾値以上であれば、やはり筐体22を対象として振動を抑制する。ステップS6において変位荷重M・α2が閾値未満であれば、ステップS7に移行する。
【0040】
尚、洗濯槽14若しくは筐体22の振動を抑制する場合、加速度センサ41,42より出力された加速度αに乗ずるフィードバックゲインK1,K4を予め算出した値に設定し、その他のフィードバックゲインをゼロに設定した場合は加速度フィードバックとなる。また、速度vに乗ずるフィードバックゲインK2,K5を予め算出した値に設定し、その他のフィードバックゲインをゼロに設定した場合はスカイフック制御となる。また、速度vと変位pに乗ずるフィードバックゲインK2,K3,K5,K6を予め算出した値に設定し、その他のフィードバックゲインをゼロに設定した場合はLQ制御となる。
また、例えば加速度フィードバックとスカイフック制御とを組み合わせて、フィードバックゲインを設定することもできる。尚、これらの制御形態の何れが振動の抑制に適しているかは、洗濯機の仕様に応じて異なるはずであるから、上述したように、シミュレーションや事前の実機実験等によって決定する。
【0041】
以上のように処理を行うことで、コンデンサ67が充電された状態にあると、洗濯乾燥機21の運転が終了して主電源の供給が遮断された後に、ユーザがドア24を開放してドラム27内の洗濯物を取り出そうとする場合には、スイッチ68がオフされて電磁リレー65がオンすることで、コンデンサ67からLED63に電源が供給される。すると、LED63が発光してドラム27の内部が照明される。
【0042】
ここで、図5は、本実施例の制振制御を行った場合と制振制御を行わなかった場合とについて、振動系の共振周波数における洗濯槽14の変位を、ドラム27内におけるアンバランス荷重の大きさを変えて比較したものである。アンバランス荷重が大きくなるのに従って制振制御を行わなかった場合との差が大きくなっており、本実施例の制振制御が有効であることが判る。
【0043】
以上のように本実施例によれば、スプリング15とリニアモータ1とを並列に配置して構成される電動サスペンション11によって筐体22の内部に配置される洗濯槽14を弾性的に支持し、洗濯槽14と筐体22とにそれぞれ加速度センサ41,42を配置する。そして、制御装置44のトルク制御部58は、洗濯乾燥機21の運転状態と、電動サスペンション11の変位量を検出する位置センサ8の検出出力と、加速度センサ41,42の検出出力とに応じてリニアモータ1の駆動力を制御する制振制御と、リニアモータ1において発生する電力を回生する回生制御とを切り替えるようにした。
【0044】
したがって、洗濯槽14に発生する振動を効果的に抑制しつつ、リニアモータ1が発生した電力を有効に利用することができる。そして、ドラム27を回転させる永久磁石モータ25と、永久磁石モータ25を制御する制御回路と、制御装置44を備えて洗濯乾燥機21を構成したので、脱水モード等において発生しようとする振動や騒音を極力抑制して、静音性を高めることができる。
【0045】
また、トルク制御部58は、洗濯乾燥機21を制御する制御回路部が運転状態に応じて出力する速度指令ωrefに基づいて、制振制御と回生制御とを切り替える。すなわち、脱水モードにおいて振動が大きくなるのは、モータ25,ドラム27回転数が振動系の共振周波数に相当する速度に係る場合であるから、そのような回転数の領域では制振制御を行い、回転数がある程度上昇した時点で回生制御に切り替えることで、振動を効果的に抑制できると共に、振動エネルギーに基づいてリニアモータ1が発電した電力を効率的に回収できる。
【0046】
そして、トルク制御部58は、加速度センサ41,42及び位置センサ8の検出出力を、それぞれについて設定した閾値と比較した結果に応じて、制振対象を筐体22と洗濯槽14とに切り替えるので、それぞれの振動変位の大きさや、振動荷重の大きさ等に基づいて、制振を行うべき対象を適切に切り替えることができる。またこの場合、制振対象の切り替えに応じて、フィードバック制御におけるゲインK1〜K6の設定を変化させるので、各対象の振動を抑制するために適切なゲインを付与することができる。
【0047】
また、振動が外力として加わることでリニアモータ1が発電した電力をコンデンサ67に充電可能となるように構成し、スイッチ62,67によって、前記電力を電源側に回生させるか、コンデンサ67に充電させるかを切り替え可能として、リニアモータ1の発電電力の大きさとその電力が発生したタイミングとに応じて、回生と充電とを切り替えるようにした。具体的には、コンデンサ67に充電されている電力量が閾値以上か否かに応じて回生と充電とを切り替える。したがって、コンデンサ67を適切な充電状態に維持し、必要に応じて充電した電力を利用することができる。
そして、コンデンサ67に充電された電力を、ドラム27の内部を照明するLED63に供給するので、洗濯乾燥機21の主電源供給が遮断された状態でも、ユーザがドア24を開けてドラム27内の洗濯物を取り出す間に、LED63を点灯させて内部を見易くすることができる。
【0048】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
ステップS2において設定する回転数の閾値は、各製品特有の振動系の共振点付近に対応した回転数に設定すると良い。
ステップS3において設定する変位の閾値は、製品の規定により決まる値であり、その値の範囲内であれば適宜変更して良い。
ステップS4において設定する変位荷重の閾値も、製品の規定により決まる値であり、重量Mが固定される場合、加速度はその値の範囲内であれば適宜変更して良い。
ステップS7において設定する電力量(電力×時間)の閾値は、コンデンサ等の充電手段の容量に応じて決まる値であり、その値の範囲内であれば適宜変更して良い。
【0049】
脱水モードの場合は回生制御,洗いモードの場合は制振制御とするように切り分けても良い。
変位や振動荷重について設定する閾値は、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
リニアモータの可動子を可動側として、固定子を固定側として電動アクチュエータを構成しても良いことは勿論である。
リニアモータの電流は、必ずしも3相全てを電流センサ等により検出する必要はなく、何れか2相のみ検出し、残りの1相は演算で求めても良い。
リニアモータの磁石はN極,S極が交互に並ぶように配置される構成に限らず、ハルバッハ配列や、磁石対向型などにしても良い。
弾性体はスプリング15に限ることなく、固定側に対して制振対象物を弾性的に支持する構造であればどのようなものでも良い。
【0050】
洗濯槽14に取り付ける加速度センサ41の位置は、洗濯槽14の重心位置の真下にかかわらず、洗濯槽14の横や前、後ろなど他の位置でも良い。
電動サスペンション11の取り付け位置は、左右ではなく前後などにしてもよい。
リニアモータ1は、スプリング15と並列に取り付ける構成ではなく、リニアモータ1単体で、垂直方向に筐体22を支える構成としても良い。
加速度センサ41を、洗濯槽14に替えて、リニアモータ1の可動部に取り付けても良い。
筐体22に取り付ける加速度センサ42の位置は、洗濯槽14の横や前、後ろなど他の構成でもよい。
制振制御を行う場合の制御方式は、加速度フィードバック制御,スカイフック制御,LQ制御にかぎらず、他の方法を用いても良い。
洗濯槽14,筐体22の振動を抑制する方式は、複数を併用しても良い。
【0051】
洗濯槽14の加速度、速度、変位、もしくは、筐体22の加速度、速度、変位にフィードバックゲインを乗じた出力を、複数の電動サスペンション11に振り分ける割合は、不均等でもよい。
フィードバックゲインK1〜K6は、予め算出した値を用いるだけでなく、加速度センサ41,42より得られたセンサ出力の値に応じて変更するように構成しても良い。すなわち、実際の動作状態に応じて最適な制振効果が得られるゲインを決定するように、学習機能を持たせても良い。
回生制御を行う場合は、逆電圧を印加する制御を行わずとも、振動エネルギーを受けてリニアモータ1が発電した電力をそのまま回生させても良い。
制振対象が異なる複数の制振状態で用いられる加速度、速度、変位の情報は、加速度センサ41,42から得られたセンサ出力より算出した相対値を用いてもよい。
コンデンサ67に充電させた電力は、LED63以外の照明手段に供給しても良いし、照明手段以外の機器に供給しても良い。
乾燥機能がないドラム式洗濯機に適用しても良い。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1はリニアモータ(リニアアクチュエータ)、8は位置センサ、11は電動サスペンション、14は洗濯槽、15はスプリング(弾性体)、21はドラム式洗濯乾燥機、22は筐体、27はドラム(回転槽)、41,42は加速度センサ(振動センサ)、44は制御装置(制振装置)、58はトルク制御部(制振制御手段)、62はスイッチ(電力経路切替え手段)、63はLED(照明手段)、67はコンデンサ(充電手段)、68はスイッチ(電力経路切替え手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転槽を収容すると共に洗濯機を構成する筐体の内部に配置される洗濯槽を、前記筐体との間で支持するリニアアクチュエータと、
前記筐体並びに前記洗濯槽のそれぞれについて、振動の発生に応じて変化する物理量を検出する振動センサと、
前記リニアアクチュエータの変位量を検出する位置センサと、
前記振動センサの検出出力と前記位置センサの検出出力とに応じて前記リニアアクチュエータの駆動力を制御することで、前記洗濯機の運転時に発生する振動を抑制する制振制御手段とを備え、
前記制振制御手段は、前記洗濯機の運転状態と、前記振動センサ及び前記位置センサの検出出力とに応じて、前記リニアアクチュエータを駆動する制振制御と、前記リニアアクチュエータにおいて発生する電力を回生する回生制御とを切り替えることを特徴とするドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項2】
前記洗濯槽を、前記筐体との間で弾性的に支持する弾性体を備えたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項3】
前記弾性体と、前記リニアアクチュエータとを並列に配置して電動サスペンションを構成したことを特徴とする請求項2記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項4】
前記制振制御手段は、前記回転槽を回転させる洗濯用モータを制御する洗濯制御手段が、前記洗濯機の運転状態に応じて出力する前記洗濯機モータの速度指令に基づいて、前記制振制御と前記回生制御とを切り替えることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項5】
前記制振制御手段は、前記振動センサ及び前記位置センサの検出出力を、それぞれについて設定した閾値と比較した結果に応じて、制振対象を前記筐体と前記洗濯槽との何れかに切り替えることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項6】
前記制振制御手段は、前記制振対象の切り替えに応じて、フィードバック制御におけるゲイン設定を変化させることを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項7】
前記リニアアクチュエータが発電した電力を充電させる充電手段と、
前記電力を電源側に回生させるか、前記充電手段に充電させるかを切り替える電力経路切替え手段とを備え、
前記制振制御手段は、前記電力の大きさと、前記電力が発生したタイミングとに応じて、前記電力経路切替え手段の経路切替えを制御することを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項8】
前記回転槽の内部を照明する照明手段を備え、
前記充電手段に充電させた電力を、前記照明手段に供給可能に構成されることを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載のドラム式洗濯機の制振装置。
【請求項9】
回転槽を回転させる洗濯用モータと、
この洗濯用モータを制御する洗濯制御手段と、
請求項1ないし8の何れかに記載の制振装置とを備えることを特徴とするドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−62346(P2011−62346A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215598(P2009−215598)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】