説明

ハニカム構造体、Si−SiC系複合材料、ハニカム構造体の製造方法及びSi−SiC系複合材料の製造方法

【課題】より容易に電極部を形成すると共に、体積抵抗率をより低減する。
【解決手段】ハニカム構造体20は、流体の流路となる複数のセル23を形成する隔壁部22を備えている。このハニカム構造体20は、隔壁部22の一部に形成されSiC相とSi酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と金属Siと金属Alとを含み金属Siと該金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相とを有する電極部32と、隔壁部22の一部であり電極部32より体積抵抗率が高い発熱部34とを備えている。このハニカム構造体は、SiC相とSi酸化物を含む酸化物相とを有するハニカム基材の一部の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成し、不活性雰囲気下で加熱して金属Si及び金属Alをハニカム基材の気孔内に含浸させて得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、Si−SiC系複合材料、ハニカム構造体の製造方法及びSi−SiC系複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハニカム構造体としては、排ガス中に含まれる窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素等の有害物質を除去するために、触媒を担持したものが知られている。このようなものにおいて、排ガスの温度が低温である場合には、有害物質を十分に除去することができないことがあった。そこで、ハニカム構造体を加熱することにより、通過する排ガスの温度を高めて排ガスの浄化性能を高めるものが提案されている。例えば、特許文献1では、隔壁に通電する際の電流の流れを制御することにより発熱を制御してなる通電発熱用ハニカム体であって、体積抵抗率が低い電極部と体積抵抗率が高い発熱部とを備え、電極部が両端面全面に形成され、発熱部の体積抵抗率が0.1〜10Ωcmで、電極部の体積抵抗率が発熱部の体積抵抗率の1/10以下であり、少なくとも発熱部が金属とセラミックの複合材料から構成される通電発熱用ハニカム体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−229976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のハニカム体では、例えば、Si−SiC系のハニカム体表面に金属Siを接触させて真空下で加熱して金属Siを溶融含浸させ、金属Siを含浸させていない中央部を発熱部とし、金属Siを含浸させた両端部を電極部としている。このようなものにおいて、金属Siを含浸させる際、一般的な量産条件である常圧下では十分に含浸されないことがあった。また、Siを含浸させるだけでは、電極部と発熱部との電気抵抗の差が十分でないことがあった。このように、電極部の形成がより容易で、電極部の体積抵抗率をより低減することが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、Si−SiC系のハニカム構造体において、電極部の形成がより容易であり、且つ体積抵抗率をより低減することができるハニカム構造体、Si−SiC系複合材料、ハニカム構造体の製造方法及びSi−SiC系複合材料の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため鋭意研究したところ、本発明者らは、Si−SiC系のハニカム基材に金属Siを含む含浸材を溶融含浸させるに際して、含浸材に金属Alとアルカリ土類金属化合物とを加えると、常圧で含浸可能であり、また、体積抵抗率を低減できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のハニカム構造体は、
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備えたハニカム構造体であって、
前記隔壁部の一部に形成され、SiC相と、Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、金属Siと金属Alとを含み該金属Siと該金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相とを有する電極部と、
前記隔壁部の一部であり、前記電極部より体積抵抗率が高い発熱部と、
を備えたものである。
【0008】
本発明のSi−SiC系複合材料は、
SiC相と、
Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、
金属Siと金属Alとを含み該金属Siと該金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相と、
を備えたものである。
【0009】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備え、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有するハニカム基材の一部の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成する形成工程と、
前記含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含むものである。
【0010】
本発明のSi−SiC系複合材料の製造方法は、
SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有する多孔質基材の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材と、アルカリ土類金属化合物とを形成する形成工程と、
前記含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含むものである。
【0011】
本発明では、Si−SiC系のハニカム構造体において、電極部の形成がより容易であり、且つ体積抵抗率をより低減することができる。この理由は明らかではないが、以下のように推察される。例えば、金属Siに金属Alを加えた含浸基材では、金属Alを加えないものに比して、含浸基材の共融点を下げ、かつSiC相表面や含浸基材表面のSi酸化物を還元することができるため、SiC粒子表面と含浸基材との濡れ性が向上すると考えられる。また、さらにアルカリ土類金属化合物を加えた含浸基材では、溶融含浸時に酸化物相の共融点を下げて移動させることなどによりSiC表面や含浸基材表面のSi酸化物を除去することにより、SiC粒子表面と含侵基材との濡れ性がよいものと考えられる。そして、これらの両者を組み合わせることによって、基材に酸化物相が多く存在する場合にも、金属Siを含む含浸基材を常圧で含浸させることができるものと推察される。また、金属Siと共に金属Alが含浸されているため、金属Siだけを含浸させた場合に比して、電極部の体積抵抗率をより低減することができるものと推察される。
【0012】
あるいは、本発明のハニカム構造体の製造方法は、
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備え、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有するハニカム基材の一部に、酸性溶液を接触させて前記ハニカム基材に含まれる酸化物相を除去する酸化物相除去工程と、
前記酸化物相を除去したハニカム基材に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材を形成する形成工程と、
前記含浸基材を形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含むものである。
【0013】
この製造方法では、含浸基材にアルカリ土類金属化合物を加えるかわりに、基材に含まれる酸化物相を予め除去してから含浸基材を形成する。こうしても、SiC相とSi酸化物を含む酸化物相とを含む基材に、金属Siを含む含浸基材を常圧で含浸させることができる。また、金属Siだけを含浸させた場合に比して体積抵抗率をより低減することができる。なお、この製造方法において、上述したハニカム構造体及びその製造方法の種々の態様を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ハニカム構造体20の構成の概略の一例を示す説明図。
【図2】形成工程及び含浸工程の一例を示す説明図。
【図3】形成工程及び含浸工程の一例を示す説明図。
【図4】ハニカム構造体20Bの構成の概略の一例を示す説明図。
【図5】ハニカム構造体20Cの構成の概略の一例を示す説明図。
【図6】各実験例の試験条件及び含浸処理後の観察結果をまとめた説明図。
【図7】含浸処理後の断面の反射電子像。
【図8】含浸処理後の断面の反射電子像。
【図9】フッ化水素処理前後のハニカム基材の断面の反射電子像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。本発明のハニカム構造体は、例えば、自動車のエンジンの排気を浄化する触媒を担持する触媒担体としてエンジンの排気管に配設される。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明のハニカム構造体20の構成の概略の一例を示す説明図である。このハニカム構造体20は、図1に示すように、流体の流路となる複数のセル23を形成する隔壁部22を備えている。このハニカム構造体20は、セル23の両端が開放している構造を有し、隔壁部22の一部に形成された電極部32と、隔壁部22の一部であり電極部32より体積抵抗率が高い発熱部34と、を備えている。このハニカム構造体20では、隔壁部22を形成したのちに、その端部領域に対して所定の含浸処理を行うことにより、隔壁部22の一部を電極部32としている。この隔壁部22のうち、電極部32が形成されていない領域は発熱部34であり、電極部32と発熱部34とは隣接している。このハニカム構造体20の電極部32間に電圧を印加すると、発熱部34が通電により発熱する。
【0017】
このハニカム構造体20の外形は、特に限定されないが、円柱状、四角柱状、楕円柱状、六角柱状などの形状とすることができる。また、セル23は、その断面の形状として四角形、三角形、六角形、八角形、円形、楕円形などの形状とすることができる。ここでは、ハニカム構造体20の外形が円柱状に形成され、セル23の形状が断面四角形に形成されている場合について主として説明する。
【0018】
隔壁部22は、その一部に電極部32が形成されると共に、その残部が発熱部34として構成されている。隔壁部22は、その気孔率が20体積%以上85体積%以下であることが好ましく、25体積%以上50体積%以下であることがより好ましい。また、この隔壁部22は、その平均細孔径が2μm以上30μm以下の範囲であることが好ましい。こうすれば、電極部32を形成させる際に、気孔内に含浸基材を含浸させやすく、かつ、排ガスに含まれる有害成分の除去を十分に図ることができる。この隔壁部22は、その厚さである隔壁厚さが20μm以上300μm以下で形成されていることが好ましく、30μm以上200μm以下であることがより好ましく、50μm以上150μm以下であることが更に好ましい。このような気孔率、平均細孔径、厚さで隔壁部22を形成すると、排ガスが隔壁部22に接触しやすく、有害成分を除去しやすい。なお、この隔壁部22の気孔率や平均細孔径は、水銀圧入法で測定した結果をいうものとする。
【0019】
発熱部34は、隔壁部22そのものとして構成されており、骨材としてのSiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、金属Si相とを備えている。この発熱部34は、骨材であるSiC相が電極部32と共通するため、熱膨張率や強度などが電極部32と近く、電極部32と発熱部34との間でのクラックの発生などを抑制することができる。また、酸化物相を備えているため、耐食性や強度をより高めることができる。この発熱部34は、複数の領域であってもよいが、ハニカム構造体20全体を均一に加熱するといった観点から連続した一つの領域であることが好ましい。発熱部34において、SiC相と酸化物相との比率や、気孔率などは特に限定されるものではない。また、発熱部34は金属Siを含むものとしてもよいが、電極部32に比して金属Siの比率が低いことが好ましい。こうすれば、電極部32より体積抵抗率を高めることができる。なお、実質的に効率よく発熱させるといった観点から体積抵抗率は10〜200Ωcmであることが好ましい。
【0020】
電極部32は、電源と接続され、発熱部34に通電させるものである。電源との接続方法は、特に限定されず、電源に接続された給電線や給電端子を、ロウ付けしてもよいし、リベットなどを用いて機械的に接続してもよい。電極部32は、隔壁部22の一部に形成されていればよく、1箇所に形成されていてもよいし、2箇所以上に形成されていてもよい。電極部32が1箇所に形成されている場合には、電極部32以外の隔壁部22に外付け電極を取り付け、電極部32と外付け電極とによって隔壁部22に通電させることができる。電極部32が2箇所以上に形成されている場合には、対をなす電極部32によって隔壁部22に通電させることができる点で好ましい。なお、電極部32が2箇所以上に形成されている場合であっても、電極部32以外の隔壁部22に外付け電極を取り付けて電極部32と外付け電極とによって隔壁部22に通電させてもよい。電極部32は、ハニカム構造体20の一方の端部とそれに対向する他方の端部とに形成されていることが好ましい。なお、以下では、このような態様のものを「端部に対向して形成された態様」とも称する。端部に形成されていれば、給電線や給電端子などの取り付けが容易であり、電源からの電力供給が容易である。また、電極部32が対向して形成されていれば、電極部の間の領域内における隔壁部22からの発熱量の分布をほぼ均一にすることができる。特に、電極部32の対向面が互いに平行になるように電極部が形成されていれば、発熱部34の長さ、即ち抵抗を一定にできるため、発熱部34からの発熱量の分布をより均一にすることができ好ましい。
【0021】
ここでは、電極部32は、端部に対向して形成された態様であり、図1に示すように、電極部32が、ハニカム構造体20の上流側の端部と下流側の端部とに形成されたものとした。このようなものでは、隔壁部22に沿って電流が流れるため、隔壁部22からの発熱量を上流側から下流側までほぼ一定にでき、好ましい。この電極部32は、ハニカム構造体に通電する方向の全体の長さに対する電極部32の長さ、即ち、ハニカム構造体20の流路方向の全長に対する電極部32の長さが1/100以上1/5以下であることが好ましい。1/100以上であれば、十分な導電パスを確保できるために通電発熱時に大量の電流を流しても電極内で電位差を生じさせにくく、電極としてより好適である。また、1/5以下であれば、発熱部34が少なくなりすぎない。また、車載用に使用するハニカム構造体として使用する際には、電極部32の流路方向の実質的な長さは、1mm以上50mm以下が好ましく、5mm以上30mm以下がより好ましい。特に上流側の端部の電極部32の流路方向の長さは5mm以上であることが好ましい。上流側では、排ガス流による隔壁部22の壊食(エロージョン)などが生じやすいが、この場合でも電極が残るような厚さが必要だからである。このとき、電極部32は、上流側の端部のうちの一部と、下流側の端部のうちの一部に形成されていてもよい。こうすれば、例えば、内周領域のみを加熱したい場合や、外周領域のみを加熱したい場合などに、範囲を定めて加熱することができ、好ましい。また、電極部32は、上流側の端部の全体と、下流側の端部の全体に形成されていてもよい。こうすれば、エンジン始動時などの急速加熱が必要なときにハニカム構造体20の全体を効率よく均一に加熱することができる。また、温度差が生じにくいため、クラックの発生をより抑制できる。さらに、電極部32と発熱部34との間の一部にクラックなどが生じたとしても、通電が確保されるため、好ましい。
【0022】
電極部32は、骨材としてのSiC相と、Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、金属Siと金属Alとを含みこの金属Siと金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相を有している。このような電極部32では、金属相にAlを含まないものに比して体積抵抗率を低減することができる。電極部32において、SiC相と酸化物相と金属相との比率や、気孔率などは特に限定されるものではない。例えば、電極部32は、15体積%以上50体積%以下のSiC相と、2体積%以上30体積%以下の酸化物相と、25体積%以上80体積%以下の金属相と、1体積%以上30体積%以下の気孔と、を備えているものとしてもよい。なお、電極部32の体積抵抗率を発熱部34より十分に低いものとするといった観点からは、金属相の比率が高く、気孔の比率が低いものが好ましい。ここで、体積比は、まず、アルキメデス法もしくは水銀圧入法で気孔率(体積%)を求め、残りの部分がSiC相と酸化物相と金属相であるものと仮定し、組成比から換算して、SiC相と酸化物相と金属相との体積%を求めることができる。なお、上述とは別の方法として、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて研磨面を撮影し、得られた写真をコンピュータ画像解析することによって求めることもできる。より具体的には、反射電子像のコントラストの違いからSiC相、酸化物相、金属相、気孔部を区別し、各々の面積比を体積比とすることができる。電極部32は、SiC相と酸化物相と金属相と気孔との比率が、全域に渡り一定でもよいし、一定でなくてもよい。例えば、電極部32は、隣接する発熱部34にむけて、金属相が少なくなる傾向に形成されているものとしてもよい。こうすれば、発熱部34に近い領域ほど体積抵抗率が大きくなって通電時の発熱量が大きくなるため、発熱量の小さい電極部32と発熱量の大きい発熱部34との温度勾配を緩やかにすることができる。このため、電極部32と発熱部34との境界領域でのクラックの発生などを抑制できる。また、例えば、電極部32の気孔率は、隣接する発熱部34にむけて、発熱部34の気孔率に近づく傾向に形成されているものとしてもよい。こうすれば、電極部32と発熱部34との強度の勾配が緩やかになり、電極部32と発熱部34との境界領域でのクラックの発生などを抑制できる。このとき、電極部32の気孔率は、隣接する発熱部34にむけて、高くなる傾向に形成されていることが好ましい。こうすれば、電極部32がハニカム構造体20の端部に形成されている場合に、ハニカム構造体20の表面の強度が高くなる傾向にあり、エロージョンに対する耐久性を高めることができるからである。
【0023】
電極部32において、酸化物相は、Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含んでいる。なお、ここでは、アルカリ土類金属をMで表すものとする。Si酸化物は、Siを酸化物として含むものであればよく、SiO2のほか、例えば、Si−Al複合酸化物や、Si−M複合酸化物、Si−Al−M複合酸化物のような複合酸化物であってもよい。同様に、Al酸化物は、Al23のほか、例えば、Al−Si複合酸化物や、Al−M複合酸化物、Al−Si−M複合酸化物のような複合酸化物であってもよい。同様に、アルカリ土類金属酸化物は、Mxy(x,yは1以上の整数)で表されるもののほか、例えば、M−Si複合酸化物や、M−Al複合酸化物、M−Si−Al複合酸化物のような複合酸化物であってもよい。このように、Si酸化物、Al酸化物、アルカリ土類金属酸化物は、明確に区別できるものでなくてもよい。酸化物相において、アルカリ土類金属酸化物に含まれるアルカリ土類金属はMg、Ca、Sr及びBaのうちのいずれか1種以上であることが好ましい。こうすれば、耐酸化性や耐熱衝撃性を向上させたり、強度を高めたりすることができる。
【0024】
電極部32において、金属相は、金属Siと金属Alとを含んでいる。金属Siと金属Alとは、隣接して存在していてもよいし、離れて存在していてもよい。また、一方が他方に固溶していてもよく、例えば、金属Siに金属Alが固溶していてもよい。この金属相は、金属Siと金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である。金属Alの割合が0.001mol%以上であれば電極部32の体積抵抗率を低減することができるからである。また、金属Alの割合が20mol%以下であれば、耐熱性の低下をより抑制することができるためである。この金属相での金属Alの割合は0.1mol%以上がより好ましく0.4mol%以上が更に好ましい。電極部32の体積抵抗率を更に低減できるからである。また、金属相での金属Alの割合は10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることが更に好ましい。耐熱性の低下を更に抑制することができるためである。
【0025】
電極部32は、体積抵抗率が発熱部34に比して1/2以下であることが好ましい。こうすることで、ハニカム構造体を通電発熱させる際に、電流をハニカム構造体の端面(電極部32)全体で電位差なく流し、発熱部全体を均一に加熱することができる。なお、より均一に加熱できるといった観点から、電極部32の体積抵抗率は低いほどよく、1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、さらに1/100以下であることがより好ましい。また、実質的にSiC相、酸化物相、金属Si相、気孔部を含むといった観点からは、電極部32の体積抵抗率は、10-6Ωcm以上10Ωcm以下であることが好ましい。このうち、実質的に電位差が生じ難いといった観点から、5Ωcm以下であることが好ましく、1Ωcm以下であることがより好ましい。
【0026】
電極部32において、電極部32のヤング率が発熱部34のヤング率の1.4倍以下であることが好ましい。こうすれば、ハニカム構造体を通電発熱させた際に、発熱部34の変形に追従して電極部32も変形できるため、ハニカム構造体の変形に伴う内部応力の発生が軽減され、クラックなどの発生を抑制することができる。また、内部応力の発生をさらに軽減するという観点からは、電極部32のヤング率が発熱部34のヤング率の1.2倍以下であることがより好ましい。また、電極部32のヤング率は、隣接する発熱部34にむけて、発熱部34のヤング率に近づく傾向に形成されているものとしてよい。こうすれば、電極部32と発熱部34との変形量の変化が緩やかになり、ハニカム構造体内部に発生する応力が軽減され、クラックなどの発生をより抑制することができる。なお、電極部32において、電極部32のヤング率が発熱部34のヤング率の1.0倍以上であるものとしてもよい。
【0027】
このようにして作製されたハニカム構造体の隔壁部22には、その用途によって適宜触媒が担持される。触媒により、排ガスに含まれるHC、CO,NOx、粒子状物質(PM)などの有害物質を除去できるからである。この際、触媒は、電極部32の隔壁部に担持されていてもよいが、少なくとも発熱部34の隔壁部に担持されていることが好ましい。こうすれば、通電による発熱部34からの発熱により、触媒による浄化に適した温度まで排ガスを昇温させることができるからである。このような構成とすることで、エンジン始動時に早期に触媒を活性化できる。また、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車など排ガス温度の低い自動車でも触媒を活性化して効率よく浄化させることができるのである。触媒としては、例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)やアルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)からなるNOx吸蔵触媒、三元触媒、CeとZrとの少なくとも一方を含む酸化物に代表される助触媒、HC(Hydro Carbon)吸着材等が挙げられる。また、このハニカム構造体20をDPFに適用する場合などには、触媒としては、PMを酸化、燃焼させることのできる酸化触媒を好適に用いることができる。酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属などが挙げられる。
【0028】
次に、流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部22を備えたハニカム構造体20の製造方法について説明する。このハニカム構造体の製造方法は、例えば、SiC相とSi酸化物を含む酸化物相とを有するハニカム基材を作製する基材作製工程と、作製したハニカム基材の一部の表面に金属Siと金属Alとを含む含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成する形成工程と、含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alをハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、を含むものとしてもよい。
【0029】
基材作製工程で作製するハニカム基材は、骨材としてのSiC相と、Si酸化物を含む酸化物相とを備えたものである。さらに、金属Siを含む金属Si相を備えたものであってもよい。ハニカム基材において、SiC相と酸化物相と金属相との比率や、気孔率などは特に限定されるものではない。例えば、ハニカム基材は、15体積%以上50体積%以下のSiC相と、2体積%以上30体積%以下の酸化物相と、10体積%以上65体積%以下の金属相と、10体積%以上50体積%以下の気孔と、を備えているものとしてもよい。酸化物相は、Si酸化物のほかにAl酸化物やアルカリ土類金属酸化物を含むことが好ましい。耐酸化性や体熱衝撃性を向上させたり、強度を高めたりすることができるからである。なお、Si酸化物、Al酸化物、アルカリ土類金属酸化物は、明確に区別できるものでなくてもよい。例えば、Si酸化物やAl酸化物やアルカリ土類金属酸化物は、複合酸化物であってもよい。この酸化物相において、アルカリ土類金属酸化物に含まれるアルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr及びBaのうちのいずれか1種以上であることが好ましい。耐酸化性や体熱衝撃性をより向上させ、強度をより高めることができるからである。
【0030】
基材作製工程では、ハニカム基材の原料を混合し、所定の成形方法で隔壁部を形成する。基材の原料としては、例えば、骨材としてのSiCと、金属Siと、酸化物と、造孔材と、分散媒と、を混合して坏土やスラリーを調整して用いてもよい。例えば、SiC粉末と金属Si粉末と酸化物粉末とを所定の体積割合で混合し、水などの分散媒、造孔材に加えて、更に、これに有機バインダ−等を添加して混練し、可塑性の坏土を形成することができる。混練して坏土を調整する手段は、特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機などを用いる方法を挙げることができる。造孔材としては、のちの焼成により焼失するものが好ましく、例えば、澱粉、コークス、発泡樹脂などを用いることができる。バインダーとしては、例えばセルロース系などの有機系バインダーを用いることが好ましい。分散剤としては、エチレングリコールなどの界面活性材を用いることができる。このハニカム基材は、例えば、セルが並んで配設される形状の金型を用いて上述した任意の形状に押出成形することによりハニカム成形体として形成するものとしてもよい。得られたハニカム成形体は、乾燥処理、仮焼処理、焼成処理を行うことが好ましい。仮焼処理は、焼成温度よりも低い温度でハニカム成形体に含まれる有機物成分を燃焼除去する処理である。焼成温度は、1400℃以上1500℃以下とすることができ、1430℃以上1450℃以下が好ましい。焼成雰囲気は特に限定されないが、不活性雰囲気が好ましく、Ar雰囲気がより好ましい。このような工程を経て、焼結体であるハニカム基材を得ることができる。
【0031】
形成工程では、作製したハニカム基材の一部の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成する。このように、金属Siのほかに金属Alとアルカリ土類金属を用いることで、常圧での金属Siの含浸が可能となる。図2は、含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを別々に形成する含浸材料層40による形成工程及び含浸工程の一例を示す説明図であり、図3は、含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを一体に形成する含浸材料層40Bによる形成工程及び含浸工程の一例を示す説明図である。即ち、この形成工程において、含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とをハニカム基材の一部の表面に形成するに際して、図2に示すように、アルカリ土類金属化合物層41と含浸基材42とを別々に形成した含浸材料層40を隔壁部22上へ形成するものとしてもよい。また、図3に示すように、アルカリ土類金属化合物と含浸基材(金属Al,金属Si)とを混合した含浸材料層40Bを隔壁部22上に形成するものとしてもよい。なお、隔壁部22上の含浸材料層の形成領域は、例えば、ハニカム構造体20における流体の流路方向の全体の長さに対して1/100以上1/5以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、電極としてより好適である。
【0032】
含浸基材のハニカム基材への形成に際して、含浸基材は、例えば、金属Si粉末と金属Al粉末と、分散剤を添加した分散媒とを混合した含浸スラリーや含浸ペーストとして用いてもよい。分散媒としては、金属粉末を酸化させないといった観点から、エタノールやメタノール、アセトンなどの有機溶媒を好適に用いることができる。分散剤としては、金属粉末表面に吸着しやすく、かつ有機溶媒へ可溶なものが好ましく、例えば、アルキルアンモニウム塩などの界面活性剤を用いることができる。含浸基材のハニカム基材への形成方法は、特に限定されるものではなく、含浸スラリーや含浸ペーストをハニカム基材の一部に塗布してもよいし、含浸スラリーにハニカム基材の一部を浸漬させてもよい。また、金属Si粉末と金属Al粉末とをハニカム基材にのせるだけでもよい。含浸基材を形成する領域は、特に限定されないが、電極部32を形成しようとする領域の隔壁部22の表面に形成すればよい。こうすれば、含浸基材を形成した領域に電極部32が形成される。具体的には、例えば、ハニカム基材の一方の端部の表面と該端部に対向する他方の端部の表面とに含浸基材を形成することが好ましい。このうち、ハニカム基材の上流側の端部の表面と下流側の端部の表面とに含浸基材を形成することがより好ましく、ハニカム基材の上流側の端部全体の表面と下流側の端部全体の表面とに含浸基材を形成することがより好ましい。ハニカム基材の端部に含浸基材を形成するものとすれば、含浸基材の形成が容易だからである。また、ハニカム基材の端部全体に含浸基材を形成するものとすれば、含浸スラリーに端部全体を浸漬させることで含浸基材を形成することができ、含浸基材の形成がより容易だからである。なお、含浸スラリーや含浸ペーストを形成した後、余剰スラリーや余剰ペーストを除去する処理を行い、更に乾燥してもよい。また、形成、除去、乾燥のうちのいずれか1以上を複数回繰り返して含浸基材の形成量を調整してもよい。この含浸基材は、金属Siと金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上であることが好ましく、20mol%以下であることが好ましい。金属Alの割合が0.001mol%以上であれば、後の含浸工程でハニカム基材への含浸が可能であり、また、得られるハニカム構造体の体積抵抗率を低減できる。また、金属Alの割合が20mol%以下であれば、熱膨張率の高いAlの量が多すぎないため、電極部32の熱膨張によるハニカム基材の破損等をより抑制でき、さらに高温強度を高めることができ、好ましい。なお、後の含侵工程で金属相の粘度をさげ、かつSiC相と金属相との濡れ性を高めるといった観点から、0.1mol%以上であることがより好ましく、0.4mol%以上であることが更に好ましい。金属相の共融点を下げ、かつSiC相表面のSi酸化物を還元することができるためである。また、形成される電極部32の耐熱性、高温強度を高め、かつ熱膨張率を好適なものとするといった観点からは、10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることが更に好ましい。含浸基材は、金属Siと金属Alとを含むものであればよいが、金属Si粉末と金属Al粉末とを含むものであることがより好ましい。
【0033】
アルカリ土類金属化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの塩であることが好ましく、このうち炭酸塩が好ましい。後の含浸工程において、ハニカム基材に含浸基材がより含浸されやすいからである。また、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr及びBaが好ましく、このうちCa及びSrがより好ましい。後の含浸工程において、ハニカム基材に含浸基材がより含浸されやすいからである。アルカリ土類金属の化合物の量は特に限定されないが、含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとの総量に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。1質量%以上であれば、後の含浸工程において、含浸基材をハニカム基材に含浸させることが可能であり、30質量%以下であれば、得られるハニカム構造体における不純物の量を抑制できる。
【0034】
アルカリ土類金属化合物のハニカム基材への形成に際して、アルカリ土類金属化合物粉末は、アルカリ土類金属化合物と、分散剤を添加した分散媒とを混合したアルカリ土類金属化合物スラリーやアルカリ土類金属化合物ペーストとして用いてもよい。分散剤や分散媒は、含浸基材で説明したものと同様のものを好適に用いることができる。また、アルカリ土類金属化合物のハニカム基材への形成方法も、含浸基材で説明した方法と同様の方法を好適に用いることができる。また、含浸基材にアルカリ土類金属化合物粉末を混合する際にも上記と同様の方法で行うことができる。
【0035】
含浸工程では、含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる。加熱時の雰囲気は、窒素雰囲気、希ガス雰囲気など不活性雰囲気であれば特に限定されないが、常圧のAr雰囲気が好ましい。ここでは、アルカリ土類金属の化合物を用いることにより、酸化物相が形成され濡れ性の低い隔壁部へ含浸基材を常圧で含浸することができる。また、常圧であれば、含浸基材を形成した領域外への含浸基材の含浸を抑制することができる。なお、圧力を調整して、含浸基材を含浸させる温度を調整してもよい。加熱温度は、金属Si及び金属Alが溶融する温度以上、ハニカム基材が変質しない温度以下であれば特に限定されないが、1000℃以上1500℃以下が好ましく、1300℃以上1450℃以下がより好ましい。含浸工程を経ることにより、図2,3に示すように、隔壁部22の一部領域に電極部32が形成される。
【0036】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法において、電極部32のヤング率が発熱部34のヤング率の1.4倍以下となるよう、上述の工程を行うものとしてもよい。こうすれば、ハニカム構造体を通電発熱させた際に、発熱部34の変形に追従して電極部32も変形できるため、ハニカム構造体の変形に伴う内部応力の発生が軽減され、クラックなどの発生を抑制することができる。ヤング率を制御する方法としては、例えば、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の質量を適宜変更することにより行うことができる。例えば、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の質量の変更に伴って、気孔率を適宜変更することにより、ヤング率を制御することができる。電極部32の気孔率は、例えば、30体積%を超え、40体積%以下の範囲としてもよい。それ以外の方法としては、例えば、焼成温度を下げることや発熱部34に比して電極部32の原料粒度を小さくすることによっても、ヤング率を制御することができる。
【0037】
このように作製したハニカム構造体20は、電極部32と発熱部34とを備えており、電極部32から電圧を印加することによって発熱部34により発熱させ、ハニカム構造体20全体の温度を上昇させることができる。したがって、例えば、ハニカム構造体20が自動車のエンジンの排気中に含まれる排気を浄化する触媒を担持する触媒担体として用いられた場合に、エンジンの下流側の排気管にハニカム構造体20が配設され、エンジンからの排ガスの温度が排ガスに含まれる有害物質の除去可能な温度に満たないときには、電極部32から電圧を印加してハニカム構造体20の温度を高めることが可能であり、排ガスの浄化性能をより高めることができる。
【0038】
以上詳述した第1実施形態のハニカム構造体20の製造方法では、電極部32の形成がより容易であり、且つ電極部32の体積抵抗率をより低減することができる。この理由は、以下のように推察される。一般に、Si酸化物は、金属Siとの濡れ性が悪く、Si酸化物をより多く含む酸化物相などが隔壁部22(隔壁基材)に存在すると金属Siを含む含浸基材が隔壁部22へ含浸するのが困難となる。ここでは、金属Siに金属Alを加えて含浸基材に用いるため、金属Alを加えないものに比して、SiC粒子や含浸基材に含まれるSi粒子表面に存在する酸化物を除去することにより、SiCとSiとの濡れ性が向上するものと考えられる。また、さらにアルカリ土類金属化合物を用いた含浸基材では、溶融含浸時に酸化物相を巻き込むなど、酸化物相との濡れ性がよいものと考えられる。そして、これらの両者を組み合わせることによって、隔壁基材に酸化物相が多く存在する場合にも、金属Siを含む含浸基材を常圧で含浸させることができるものと推察される。また、金属Siと共に金属Alが含浸されているため、金属Siだけを含浸させた場合に比して、電極部の体積抵抗率をより低減することができるものと推察される。なお、ハニカム基材に含まれる相とハニカム構造体20に含まれる相との関係は、おおむね、以下の通りであると考えられる。即ち、ハニカム基材のSiC相が電極部32のSiC相を構成し、含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとハニカム基材の金属Si相とが電極部32の金属相を構成するものと考えられる。また、ハニカム基材の金属Si相や含浸した金属Siや含浸した金属Alや含浸に用いたアルカリ土類金属化合物などとハニカム基材の酸化物相とが、電極部32の酸化物相を構成するものと考えられる。
【0039】
なお、本発明は上述した第1実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0040】
例えば、上述した第1実施形態では、ハニカム構造体について説明したが、ハニカム構造体としなくてもよい。こうしても、例えば、電極部と発熱部とを備えた通電発熱体として用いることができる。また、第1実施形態では、電極部と発熱部とを備えたものとしたが、電極部だけを備えたものとしてもよい。例えば、SiC相と、Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、金属Siと金属Alとを含み金属Siと金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相と、を備えたSi−SiC系複合材料としてもよい。
【0041】
第1実施形態では、ハニカム構造体の製造方法について説明したが、これに限定されない。例えば、ハニカム基材に代えて多孔質基材を作製し、これを用いて電極部と発熱部とを備えた通電発熱体を製造するものとしてもよい。また、第1実施形態では、電極部と発熱部とを備えたものを製造するものとしたが、電極部だけを製造するものとしてもよい。例えば、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有する多孔質基材の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材と、アルカリ土類金属の化合物とを形成する形成工程と、前記含浸基材とアルカリ土類金属の化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、を含む、Si−SiC系複合材料の製造方法としてもよい。
【0042】
[第2実施形態]
上述した第1実施形態では、隔壁部22上にアルカリ土類金属化合物及び含浸基材を形成し、アルカリ土類金属化合物を含浸助剤として用いて酸化物相の多く含まれる隔壁部22への常圧含浸処理を実現し、電極部32を隔壁部22の一部に形成するものとした。この第2実施形態では、電極部とする隔壁部の一部に含まれる酸化物相を予め除去したのち、隔壁部上に含浸基材を形成し、隔壁部への常圧含浸処理を実現し、電極部を隔壁部の一部に形成する態様について説明する。この第2実施形態のハニカム構造体は、電極部にアルカリ土類金属酸化物を含まない場合があること以外は、第1実施形態のハニカム構造体と同様である。このため、ここでは、ハニカム構造体の説明については記載を省略する。
【0043】
次に、第2実施形態のハニカム構造体20の製造方法について説明する。このハニカム構造体の製造方法は、例えば、流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備えSiC相とSi酸化物を含む酸化物相とを有するハニカム基材を作製する基材作製工程と、作製したハニカム基材の一部に酸性溶液を接触させてハニカム基材に含まれる酸化物相を除去する酸化物相除去工程と、酸化物相を除去したハニカム基材の一部の表面に金属Siと金属Alとを含む含浸基材を形成する形成工程と、含浸基材を形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alをハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、を含むものとしてもよい。基材作製工程と、含浸工程については、第1実施形態と同様であるから、ここでは記載を省略する。
【0044】
酸化物除去工程では、ハニカム基材の一部に酸性溶液を接触させてハニカム基材に含まれる酸化物相を除去する。金属Siは、Si酸化物を含む酸化物相との濡れ性が悪いことから、ハニカム基材に含浸されにくく、この酸化物相を除去することによって、金属Siをハニカム基材に容易に含浸させることができる。酸性溶液は特に限定されるものではなく、酸化物相を除去できるものであればよい。例えば、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、硝酸などを用いることができる。このうち、フッ化水素酸がSi酸化物を容易に除去可能であり、好ましい。また、フッ化水素酸は、金属Siなど他の相の溶解速度が遅いため、SiC相のネッキングの溶解などを抑制し、機械的強度の低下をより抑制することができる。酸性溶液の濃度や、接触方法、接触時間、接触温度などは、経験的に求めることができる。例えば、フッ化水素酸を用いる場合には、濃度は、10%以上30%以下が好ましく、20%以上25%以下がより好ましい。このとき、接触方法は、塗布や浸漬などが挙げられるが、浸漬が好ましい。浸漬時間は例えば10分以上30分以下とすることができる。浸漬温度は、例えば、20℃以上30℃以下とすることができる。接触を終えたら、更なる反応を抑制するため、酸性溶液を除去する。酸性溶液を除去する方法は限定されないが、水、エタノール、アセトンなどで洗浄することが好ましい。また、洗浄後、ハニカム基材を乾燥させてもよい。乾燥条件は限定されないが例えば、100℃以上150℃以下で行うことができる。酸性溶液と接触させる領域は、特に限定されないが、電極部32を形成しようとする隔壁部の領域とする。こうすれば、酸性溶液と接触させた領域で、且つ、後の形成工程で含浸基材を形成した領域に、電極部32を形成することができる。具体的には、例えば、ハニカム基材の一方の端部とその端部に対向する他方の端部とを酸性溶液と接触させることが好ましい。このうち、ハニカム基材の上流側の端部と下流側の端部とを酸性溶液と接触させることがより好ましく、ハニカム基材の上流側の端部全体と下流側の端部全体とに酸性溶液と接触させることがより好ましい。
【0045】
形成工程では、酸化物を除去したハニカム基材の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材を形成する。なお、第1実施形態における形成工程との違いは、アルカリ土類金属の化合物を形成しなくてもよい点である。含浸基材の詳細や、含浸基材の形成方法は、第1実施形態と同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0046】
以上詳述した第2実施形態のハニカム構造体の製造方法では、SiC相とSi酸化物を含む酸化物相とを含むハニカム基材に、金属Siを含む含浸基材を常圧で含浸させることができる。この理由は、含浸基材との濡れ性が悪い酸化物相が事前に取り除かれており、酸化物相の少ない領域に含浸基材を形成して含浸処理を実行することができるためである。また、電極部32では、金属Siだけを含浸させた場合に比して体積抵抗率をより低減することができる。これは、金属Siと共に金属Alが含浸されているためと推察される。なお、ハニカム基材に含まれる相とハニカム構造体20に含まれる相との関係は、おおむね、以下の通りであると考えられる。即ち、ハニカム基材のSiC相が電極部32のSiC相を構成し、含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとハニカム基材の金属相とが電極部32の金属相を構成するものと考えられる。また、ハニカム基材の金属Si相や含浸した金属Siや含浸した金属Alなどとハニカム基材の酸化物相とが、電極部32の酸化物相を構成するものと考えられる。
【0047】
なお、本発明は上述した第2実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0048】
例えば、第2実施形態では、ハニカム構造体について説明したが、ハニカム構造体としなくてもよい。こうしても、例えば、電極部と発熱部とを備えた通電発熱体として用いることができる。また、第2実施形態では、電極部と発熱部とを備えたものとしたが、電極部だけを備えたものとしてもよい。例えば、SiC相と、Si酸化物とAl酸化物とを含む酸化物相と、金属Siと金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相と、を備えたSi−SiC系複合材料としてもよい。
【0049】
例えば、第2実施形態では、ハニカム構造体の製造方法について説明したが、これに限定されない。例えば、ハニカム基材に代えて多孔質基材を作製し、これを用いて電極部と発熱部とを備えた通電発熱体を製造するものとしてもよい。また、第2実施形態では、電極部と発熱部とを備えたものを製造するものとしたが、電極部だけを製造するものとしてもよい。例えば、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有するハニカム基材の一部の表面に、酸性溶液を接触させて前記ハニカム基材に含まれるSi酸化物を除去する酸化物除去工程と、前記Si酸化物を除去したハニカム基材に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材を形成する形成工程と、前記含浸基材を形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、を含む、Si−SiC系複合材料の製造方法としてもよい。
【0050】
第1実施形態及び第2実施形態では、上流端部と下流端部とに電極部32を設けたハニカム構造体20として説明したが、図4に示すように、電極部は、ハニカム構造体の一方の端部とこの端部に対向する他方の端部とに形成されているものとすれば、特にこれに限定されない。図4は、ハニカム構造体20Bの構成の概略の一例を示す説明図である。図4に示すように、中心領域にセル23に沿って発熱部34Bが形成されており、この発熱部34Bを挟んで、ハニカム構造体20Bの外周面の壁部を含む領域にセル23に沿って電極部32Bが互いに対向するように形成されたものとしてもよい。即ち、ハニカム構造体20Bの上端部及び下端部(あるいは右端部及び左端部)に電極部32Bが形成されているものとしてもよい。この場合、電極部32Bは、上流側の端部から下流側の端部まで、流路に平行に、連続的又は断続的に形成されているものとしてもよい。こうすれば、ハニカム構造体20Bの上流側から下流側まで効率よく加熱することができる。また、対向する電極部32Bがいずれも上流側の端部以外の領域にも形成されているため、上流側の端部の隔壁部がエロージョンなどで滅失しても、電極部が残り十分通電することができる。
【0051】
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、一体成形されたハニカム構造体としたが、図5に示すように、ハニカムセグメント21を接合層27により接合したハニカム構造体20Cとしてもよい。こうすれば、接合層27で接合した構造によって、ハニカムの外郭部に熱膨張によって集中する応力を緩和することができる。
【0052】
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、セル23の両端が開放している構造を有するハニカム構造体として説明したが、特にこれに限定されず、例えば、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止部により目封止されたセルと一方の端部が目封止部により目封止され且つ他方の端部が開口したセルとが交互に配置されるよう形成された、いわゆるハニカムフィルタとしてもよい。更に、このハニカムフィルタにおいて、隔壁部には流体(排ガス)に含まれる固体成分(PM)を捕集する層である捕集層が形成されているものとしてもよい。このハニカムフィルタでは、入口側からセルへ入った排ガスが捕集層及び隔壁部を介して出口側のセルを通過して排出され、このとき、排ガスに含まれるPMが捕集層上に捕集される。こうすれば、排ガスに含まれる固体成分を除去することができる。
【0053】
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、製造方法は、基材作製工程を含むものとしたが、この工程を省略してもよい。たとえば、予め用意したハニカム基材を用いてもよい。また、上述した基材作製工程では、焼成済みのハニカム基材を用いるものとしたが、特にこれに限定されず、未焼成のハニカム成形体を用いるものとしてもよい。また、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、酸化処理工程を含むものとしたが、この工程を省略してもよい。また、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、触媒担持工程を含むものとしたが、この工程を省略してもよい。
【実施例】
【0054】
以下では、ハニカム構造体を具体的に製造した例について説明する。まず、酸化物相を有するハニカム基材に金属Siを含む含浸基材を含浸可能であるか否かの実験を行った。ここでは、ハニカム基材と同じ材質のペレット基材を作製し、このペレット基材上に種々の含浸基材を含む含浸材料層を形成し、含浸工程を行ったあとの各試料の断面を観察し、含浸基材がハニカム基材に含浸されたか否かを検討した。
【0055】
[実験例1〜5]
ペレット基材原料として、SiC粉末、金属Si粉末およびアルカリ土類金属を含む酸化物粉末を体積比で38:22:2となるように混合し、ペレット状に成形し、常圧のAr雰囲気下、1430℃で3時間焼成を行った。得られたペレット基材の上部に金属Si粉をペレット状にプレス成形した含浸基材を乗せ、再度常圧のAr雰囲気下、1430℃で3時間の含浸処理を行い、これを実験例1とした。また、金属Si粉体と金属Al粉体とをモル比で80:20となるように混合してプレス成形したものを含浸基材とした以外は、実験例1と同様の条件でペレット基材の作製及び含浸処理を行ったものを実験例2とした。また、金属Si粉末及び金属Al粉末を80:20のモル比で混合した混合粉末に対して13.5質量%の炭酸カルシウムをペレット基材と含浸基材の間に配置させた以外は、実験例2と同様の条件でペレット基材の作製及び含浸処理を行ったものを実験例3とした。また、実験例1と同様にペレット基材を作製したのちに、これを常温常圧で20分間、濃度を23%に調製したフッ化水素酸液(HF液)に浸漬し蒸留水、エタノール及びアセトンで3回ずつ洗浄し、120℃で3時間乾燥したペレット基材を用いた以外は、実験例1と同様の含浸処理を行ったものを実験例4とした。また、実験例4と同様に酸化物相をHF液で除去したペレット基材を用い、実験例2と同様に金属Si粉体と金属Al粉体とをプレス成形した含浸基材を用いた以外は、実験例1と同様の含浸処理を行ったものを実験例5とした。
【0056】
(観察結果)
図6は、各実験例の試験条件及び含浸処理後の結果をまとめた説明図である。各実験例に対し含浸処理を行ったのちに、その断面を観察し、ペレット基材の気孔内に含浸基材が含浸されたか否かを目視により判定した。その結果、図6に示すように、金属Siに金属Alを添加しても含浸はできないことがわかった。一方、含浸基材に金属Alを加えると共に、CaCO3粉体を加えると、酸化物相が多く形成されているペレット基材であっても含浸することができることがわかった。また、酸化物相(主として酸化Si)をHF処理により除去した実験例4でも金属Siだけでは含浸しにくいことがわかった。一方、酸化物相をHF処理により除去し、且つ金属Alを含浸基材に加えた実験例5では、含浸することができることがわかった。したがって、金属Siを含む含浸基材に金属Alを加えること、及びアルカリ土類金属化合物の添加剤を用いるか、酸化物相を取り除く酸処理を行うかにより、SiCのハニカム基材に金属Siを含浸することができることがわかった。
【0057】
(SEM観察)
得られたペレット基材について、電子顕微鏡(日本電子製JSM−5410)を用いて反射電子像を撮影した。この反射電子像では、SiC相は濃い灰色、金属相は淡い灰色、気孔は黒色でそれぞれ観察された。なお、酸化物相は含有する元素の組成によりSiC相より濃い灰色であったり、金属相よりも淡い灰色であったりする。図7は、実験例3で得られたペレット基材の断面の反射電子像である。図7より、金属相が多孔質基材中に溶融含侵され、ほぼ緻密に埋設されていることがわかった。図8は、実験例5で得られたペレット基材の断面の反射電子像である。図8より、実験例3と同様に金属相が多孔質基材中に溶融含侵され、ほぼ緻密に埋設されていることがわかった。また、図9は、実験例5のフッ化水素処理を行う前後のペレット基材の断面の反射電子像である。図9より、フッ化水素処理によって、酸化物が減少していることがわかった。以上の結果を踏まえて、ハニカム構造体への含浸基材の含浸について、以下検討した。
【0058】
(1)アルカリ土類金属化合物を用いたハニカム構造体の作製
[実施例1]
(ハニカム基材の作製)
ハニカム基材原料として、SiC粉末、金属Si粉末およびアルカリ土類金属を含む酸化物粉末を体積比で38:22:2となるように混合し、ハニカム状の成形体を作製し、常圧のAr雰囲気下、1430℃で3時間焼成を行った。このようにして、隔壁厚さ100μm、セル密度62個/cm2(400cpsi)で、直径100mm、長さ100mmの、ハニカム基材を得た。このハニカム基材は、中央部の体積抵抗率が117Ωcmであり、隔壁部の気孔率が38体積%であった。
【0059】
(含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の形成)
含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の形成は、以下のように行った。まず、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物を含む含浸スラリーを以下のように調製した。金属Si粉末(平均粒径2μm)及び金属Al粉末(平均粒径1μm)を80:20のモル比で混合して混合粉末を得た。次に、分散媒としてのエタノールに、エタノールに対して1.0重量%の分散剤(アルキルアンモニウム塩)を添加し、さらに、エタノールに対して20質量%の混合粉末と、混合粉末に対して13.5質量%の炭酸カルシウムとを添加して、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物を含む含浸スラリーを調製した。続いて、上述のようにして作製したハニカム基材を、調製した含浸スラリーに常温常圧で10秒間浸漬し、さらに、ハニカム基材表面の余剰スラリーをエアーで吹き払った後、大気雰囲気下、120℃で3時間乾燥した。そして、狙いの重量の含浸基材がハニカム基材に形成されるまで浸漬から乾燥までの処理を繰り返し、ハニカム基材表面に含浸基材を形成した。ここでは、狙いの重量は、電極部が所望の体積抵抗率になる量であればよいが、気孔内に含浸させるといった観点から気孔体積より算出される最大含浸量から算出される値とした。
【0060】
(含浸処理)
含浸処理は、図2に示すように、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物を形成したハニカム基材を、常圧のAr雰囲気下、1450℃で4時間焼成することにより行った。このようにして、実施例1のハニカム構造体を得た。
【0061】
[実施例2,3]
金属Si粉末と金属Al粉末とを95:5のモル比で混合した混合粉末を含浸基材として用いて含浸スラリーを調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例2のハニカム構造体を得た。また、金属Si粉末と金属Al粉末とを99.6:0.4のモル比で混合した混合粉末を含浸基材として用いて含浸スラリーを調製した以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例3のハニカム構造体を得た。
【0062】
[実施例4,5]
含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の形成に際して、後の含浸処理で隔壁部の気孔率が24体積%となるような、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の重量とした以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例4のハニカム構造体を得た。また、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の形成に際して、後の含浸処理で隔壁部の気孔率が30体積%となるような、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の重量とした以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例5のハニカム構造体を得た。
【0063】
[実施例9〜13]
更に、アルカリ土類金属化合物を用いたハニカム構造体を作製した。ハニカム基材の原料として、SiC粉末、金属Si粉末およびアルカリ土類金属を含む酸化物粉末を体積比で34:26:2となるように混合し、粒径の異なる金属Si粉末(平均粒径2μm,6μm,12μm)を混合して用いた以外は、実施例1と同様の条件でハニカム状の成形体を作製した。また、含浸基材の原料として金属Si粉末及び金属Al粉末を95:5のモル比で混合し、分散媒としてのエタノールを加えた含浸スラリーを用いたこと、および、含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の質量を変更したこと以外は、実施例1と同様の工程を行い、得られたハニカム構造体を実施例9〜13とした。
【0064】
(2)酸処理を用いたハニカム構造体の作製
[実施例6]
(ハニカム基材の作製)
ハニカム基材の作製は、実施例1と同様に作製した。
【0065】
(フッ化水素処理)
フッ化水素処理(以下HF処理とも称する)は、以下のように行った。まず、濃度を23%に調製したHF液を準備した。続いて、上述のようにして得られた多孔質構造体を、常温常圧で20分間、HF液に浸漬した。次に、多孔質構造体をHF液から取り出し、蒸留水で3回洗浄し、エタノールで3回洗浄し、アセトンで3回洗浄した。洗浄した多孔質構造体を、大気雰囲気下、120℃で3時間乾燥した。
【0066】
(含浸基材の形成)
含浸基材の形成は、以下のように行った。まず、含浸基材を含む含浸スラリーを以下のように調製した。金属Si粉末(平均粒径2μm)及び金属Al粉末(平均粒径1μm)を80:20のモル比で混合して混合粉末を得た。次に、分散媒としてのエタノールに、エタノールに対して1.0重量%の分散剤(アルキルアンモニウム塩)を添加し、さらに、エタノールに対して20質量%の混合粉末を添加して、含浸基材を含む含浸スラリーを調製した。続いて、上述のようにして作製したハニカム基材を、調製した含浸スラリーに常温常圧で10秒間浸漬し、さらに、ハニカム基材表面の余剰スラリーをエアーで吹き払った後、大気雰囲気下、120℃で3時間乾燥した。そして、所定重量の含浸基材がハニカム基材に形成されるまで浸漬から乾燥までの処理を繰り返し、ハニカム基材表面に含浸基材を形成した。ここでは、所定重量は、電極部が所望の体積抵抗率になる量であればよいが、気孔内に含浸させると言った観点から気孔体積より算出される最大含浸量から算出される値とした。
【0067】
(含浸処理)
含浸処理は、含浸基材を形成したハニカム基材を、常圧のAr雰囲気下、1450℃で4時間焼成することにより行った。このようにして、実施例6のハニカム構造体を得た。
【0068】
[実施例7,8]
金属Si粉末と金属Al粉末とを95:5のモル比で混合した混合粉末を含浸基材として用いて含浸スラリーを調製した以外は、実施例6と同様の工程を経て実施例7のハニカム構造体を得た。また、金属Si粉末と金属Al粉末とを99.6:0.4のモル比で混合した混合粉末を含浸基材として用いて含浸スラリーを調製した以外は、実施例6と同様の工程を経て実施例8のハニカム構造体を得た。
【0069】
(4)比較例のハニカム構造体の作製
[比較例1]
含浸基材およびアルカリ土類金属化合物の形成と、含浸処理と、を行わなかった以外は、実施例1と同様の工程を経て、比較例1のハニカム構造体を得た。
【0070】
[比較例2]
ハニカム基材を構成する金属Siの割合を高めるため、SiC粉末、金属Si粉末およびアルカリ土類金属を含む酸化物粉末を体積比で34:26:2となるように混合して混合原料を得た以外、比較例1と同様の工程を経て比較例2の構造体を得た。
【0071】
[比較例3]
炭酸カルシウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の工程を経て比較例3の構造体を得た。
【0072】
[比較例4]
ハニカム基材の原料として、SiC粉末、金属Si粉末およびアルカリ土類金属を含む酸化物粉末を体積比で34:26:2となるように混合し、粒径の異なる金属Si粉末(平均粒径2μm,6μm,12μm)を混合して用いた以外、比較例1と同様の工程を経て比較例4の構造体を得た。
【0073】
(4)気孔率の測定
気孔率は、水銀ポロシメーター(カンタクローム社製ポアマスター)を用いた水銀圧入法により測定した。
【0074】
(5)体積抵抗率の測定
体積抵抗率は、以下のように測定した。まず、作製したハニカム構造体から、3セル分(リブ厚0.01cm、リブ数4)の直方体の試験片を切り出した。この試験片の両端面にPtペーストを塗布し、Pt線により配線して、電圧印加電流測定装置につなぎ、直流4端子法で流路方向に電圧を印加した。測定結果を用い、試料高さa、電極間隔bとし、体積抵抗率(Ωcm)=抵抗率×0.01×4×a/b、の式より計算した。
【0075】
(6)結果と考察
表1に、実施例1〜13および比較例1〜4の実験結果を示す。含浸基材と共にアルカリ土類金属化合物を形成した実施例1〜5,9〜13や、フッ化水素処理を行った実施例6〜8では、基材と比較して気孔率が減少していた。このことから、アルカリ土類金属化合物を用いる又は、フッ化水素処理を行う、いずれでも、金属Siを含む含浸基材を含浸させることができることがわかった。また、実施例では、いずれも体積抵抗率が10Ωcm以下、特に、実施例1〜8では、体積抵抗率が1Ωcm以下と低く、基材とほぼ同等の体積抵抗率を示すと考えられる比較例の体積抵抗率の1/2以下であった。特に、実施例1〜8では、比較例の体積抵抗率の1/100以下であった。このことから、含浸基材を含浸させることで体積抵抗率を低減できることがわかった。また、詳細については省略するが、ハニカム状でないペレット状の多孔質基材を用いた実験例1〜5の体積抵抗率でもほぼ同等の結果が得られた。このことから、本発明は、ハニカム状のものに限定されず、種々の態様のものに適用できるものと推察された。なお、フッ化水素処理を行い、且つ、含浸基材と共にアルカリ土類金属化合物を形成しても、同様の効果が得られるものと推察された。
【0076】
【表1】

【0077】
(通電試験)
次に、作製したハニカム構造体の電極部に数kWの直流電源を接続して通電を行うことで発熱部を発熱させた際のハニカム構造体の異常の有無を観察した。
【0078】
[実施例14〜17,比較例5]
発熱部のヤング率に対する電極部のヤング率の比が、それぞれ1.05,1.14,1.20,1.24,1.42になるようにハニカム構造体を作製し、それぞれを実施例14〜17、比較例5とした。製造方法は、実施例1と同様の工程としたが、ヤング率を変更するために、それぞれ、ハニカム基材の原料の体積比と焼成温度、含浸基材の金属粉末粒径と混合比、含浸処理温度を変更した。ハニカム基材の原料比は、SiC相が15体積%以上50体積%以下、酸化物相が2体積%以上30体積%以下、金属相が10体積%以上65体積%以下、気孔が10体積%以上50体積%以下の範囲となるようそれぞれ変更した。また、焼成温度は1400℃〜1500℃の範囲で変更した。含浸基材の金属粉末の平均粒径を0.1μm〜10μmの範囲で変更した。また、金属Si粉末及び金属Al粉末を80:20〜95:5のモル比の範囲で変更した。含浸処理温度は、1300℃〜1450℃の範囲で変更した。
【0079】
表2に実施例14〜17および比較例5の実験結果を示す。2kWの直流電源を用いた通電試験では、発熱部に対する電極部のヤング率の比が1.4倍を超える比較例5では、ハニカム構造体にクラックが発生した。一方、発熱部に対する電極部のヤング率の比が1.4倍以下である実施例14〜17では、クラックは発生しなかった。また、発熱量の大きい3kWの直流電源を用いた通電試験では、発熱部に対する電極部のヤング率の比が1.2倍を超える比較例5及び実施例17では、ハニカム構造体にクラックが発生した。一方、発熱部に対する電極部のヤング率の比が1.2倍以下である実施例14〜16では、クラックは発生しなかった。以上より、発熱部に対する電極部のヤング率の比は、1.40以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましいことがわかった。電極部のヤング率が小さいほど発熱部の発熱に伴う変形に追従して電極部が変形できるため、ハニカム構造体の変形に伴う内部応力の発生が軽減され、クラックなどの発生が抑制できるものと推察された。
【0080】
【表2】

【符号の説明】
【0081】
20,20B,20C ハニカム構造体、21 ハニカムセグメント、22 隔壁部、23 セル、27 接合層、32,32B,32C 電極部、34,34B,34C 発熱部、40,40B 含浸材料層、41 アルカリ土類金属化合物層、42 含浸基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備えたハニカム構造体であって、
前記隔壁部の一部に形成され、SiC相と、Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、金属Siと金属Alとを含み該金属Siと該金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相とを有する電極部と、
前記隔壁部の一部であり、前記電極部より体積抵抗率が高い発熱部と、
を備えた、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記電極部は、前記ハニカム構造体の一方の端部と該端部に対向する他方の端部とに形成されている、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記電極部は、前記ハニカム構造体の上流側の端部と下流側の端部とに形成されている、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記電極部は、前記発熱部と隣接しており、該発熱部にむけて、前記金属相が少なくなる傾向に形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記電極部は、体積抵抗率が前記発熱部の体積抵抗率の1/2以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記電極部は、体積抵抗率が10-6Ωcm以上10Ωcm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記電極部は、該電極部のヤング率が前記発熱部のヤング率の1.4倍以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記電極部は、該電極部のヤング率が前記発熱部のヤング率の1.0倍以上1.2倍以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項9】
SiC相と、
Si酸化物とAl酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを含む酸化物相と、
金属Siと金属Alとを含み該金属Siと該金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である金属相と、
を備えたSi−SiC系複合材料。
【請求項10】
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備え、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有するハニカム基材の一部の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成する形成工程と、
前記含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含む、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記含浸基材は、前記金属Siと前記金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である、請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
前記ハニカム基材は、焼結体である、請求項10又は11に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
前記含浸工程では、前記含浸基材と前記アルカリ土類金属化合物とを形成したハニカム基材を1000℃以上1500℃以下の温度で加熱する、請求項10〜12のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項14】
前記形成工程では、前記ハニカム基材の一方の端部の表面と該端部に対向する他方の端部の表面とに、前記含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成する、請求項10〜13のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項15】
前記形成工程では、前記ハニカム基材の上流側の端部の表面と下流側の端部の表面とに、前記含浸材とアルカリ土類金属化合物とを形成する、請求項10〜14のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項16】
前記形成工程では、前記含浸基材と前記アルカリ土類金属化合物とを混合して形成する、請求項10〜15のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項17】
前記形成工程では、前記アルカリ土類金属化合物を形成してから前記含浸基材を形成する、請求項10〜15のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項18】
前記アルカリ土類金属化合物は、Ca及びSrのうち少なくとも一方の化合物を含む、請求項10〜17のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項19】
前記形成工程では、前記含浸基材に含まれる金属Siと金属Alとの総量に対して、1質量%以上30質量%以下のアルカリ土類金属の化合物を形成する、請求項10〜18のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項20】
前記含浸基材は、金属Si粒子と金属Al粒子とを含むスラリーである、請求項10〜19のいずれか1項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項21】
SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有する多孔質基材の表面に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材と、アルカリ土類金属化合物とを形成する形成工程と、
前記含浸基材とアルカリ土類金属化合物とを形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含む、Si−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項22】
流体の流路となる複数のセルを形成する隔壁部を備え、SiC相と、Si酸化物を含む酸化物相と、を有するハニカム基材の一部に、酸性溶液を接触させて前記ハニカム基材に含まれる酸化物相を除去する酸化物相除去工程と、
前記酸化物相を除去したハニカム基材に、金属Siと金属Alとを含む含浸基材を形成する形成工程と、
前記含浸基材を形成したハニカム基材を不活性雰囲気下で加熱し、前記形成した含浸基材に含まれる金属Si及び金属Alを前記ハニカム基材の気孔内に含浸させる含浸工程と、
を含む、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項23】
前記含浸基材は、前記金属Siと前記金属Alとの総量に対する金属Alの割合が0.001mol%以上20mol%以下である、請求項22に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項24】
前記酸化物相除去工程では、前記酸性溶液としてフッ化水素酸を用いる、請求項22又は23に記載のハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−214364(P2012−214364A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53090(P2012−53090)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】