説明

パッド交換治具

【課題】アンカピンの誤組み付けを防止するためのパッド交換治具を提供する。この発明は、パッド交換治具を一個つくるだけで多くのパッドアッセンブリの交換作業に対応できコストが安く抑えられるとともに現行部品(支持プレート)に穴を開けるだけで、対応でき開発コストが大幅に圧縮できる。
【解決手段】ブレーキアームの開放端部に設置されたパッドホルダの支持プレートにスライド装着されるパッドアセンブリを抜止めするためにアンカピンを組み付けるパッド交換治具において、前記治具は、前記支持プレートに対して折り曲げかつ着脱自在に取り付けることができる治具本体を備え、前記治具本体には支持プレートに形成した支持プレート溝1bと同じ幅を有する組み付けガイド溝15aが形成されていることを特徴とするパッド交換治具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキアームの開放端部に設置されたパッドホルダの支持プレートにスライド装着されるパッドアッセンブリの抜止め用のアンカピンを組み付けるために好適なパッド交換治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からブレーキを搭載する車両、特に鉄道車両用のディスクブレーキ(キャリパブレーキ)として、一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行う梃子式のキャリパブレーキが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
従来の梃子式の鉄道車両用キャリパブレーキ装置の構成を説明すると、図6(a)はキャリパブレーキ装置の正面図、(b)はその要部正面図であり、図1中、101は支持プレート、102は支持プレートにより支持されるパッドアッセンブリ、103はパッドアッセンブリ102の脱落を防止するためのアンカブロック、104はアンカブロック103に付随し支持プレート101に係合するアンカピン、105はアンカブロック103に取り付けられているガイドプレート、106はアンカブロックを固定するボルト、107はアクチュエータ、108はブレーキアーム、109はブレーキロータである。ブレーキアーム108下部には前記支持プレート101が保持され、前記支持プレート101が図示せぬ油圧シリンダによりディスク109側に押し出され、支持プレート101のあり溝に取り付けられているパッドアッセンブリ102をブレーキロータ109に押圧し制動力が得られるようになっている。これら構成は従来公知の鉄道車両用キャリパブレーキと同様となっている。
【0004】
上記キャリパブレーキにあっては、図7に示すようにブレーキアーム108にパッドアッセンブリ102を取り付ける場合、支持プレート101がブレーキアーム108に対してディスクロータ側に離れていると、アンカピン104が支持プレート101の背後に位置し、アンカピン104と首部104aが支持プレート101とパッドアッセンブリ102のライニング裏板に係合しない状態でアンカブロック103がボルト106によって締結される可能性がある。こうしてアンカピン104の誤組み付けが行われた場合、支持プレート101からパッドアッセンブリ102が脱落する不具合が生じるため、アンカピン104の誤組み付けを確実に防止する必要がある。
【0005】
このため、アンカピンの誤組み付けを防止するために、以下のような技術が提案されている。
提案技術は、図8に示すように支持プレート101にディスクロータと略平行に延びる支持プレート延長下端部90を設け、この支持プレート延長下端部90に支持プレート溝91に接続して車両の前後方向に延びる延長ガイド溝92を形成した構成としてある。さらに支持プレート101にアンカピン84の頭部を挿入させるアンカピン頭部挿入穴81が形成されている。この技術ではパッドアッセンブリの組み付け時にアンカピン84の首部86をアンカピン頭部挿入穴81を通して延長ガイド溝92に係合させた状態で、アンカピン84を待避させる。この状態でパッドアッセンブリのライニング裏板を支持プレート101のアリ溝に差し込む。その後、アンカピン84の首部86を延長ガイド溝92に沿って支持プレート溝91に係合させる(特許文献1)。なお、符号87はアンカピン84の頭部である。
【特許文献1】特開2008−164159号公報(公報要約書参照)
【0006】
提案技術にによると、パッドアッセンブリの組み付け時にアンカピン84の首部86がこの延長ガイド溝92に係合して支持プレート溝91に案内される。これにより、パッドアッセンブリ及びアンカピン84の取り付け作業が支持プレート延長下端部90を介して確実に行われ、アンカピンの首部86が支持プレート溝91に係合しない状態でアンカブロック85がキャリパ本体に締結されることがなく、アンカピン85の誤組み付けによって支持プレート101からパッドアッセンブリが脱落する不具合を回避できるという効果を達成できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたアンカピン誤組み付け防止機構付キャリパブレーキ装置は、支持プレート101にディスクロータと略平行に延びる支持プレート延長下端部90を設け、この支持プレート延長下端部に支持プレート溝に接続して車両の前後方向に延びる延長ガイド溝92を形成する構成としたため、支持プレートが大きくなり、そのため振動、飛び石、キャリパ単体の保管方法等に課題がある。
【0008】
そこで本発明では、そこで誤組み付け防止部の支持プレートを分割化(治具化)することで課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明が採用した課題を解決するための手段は、
ブレーキアームの開放端部に設置されたパッドホルダの支持プレートにスライド装着されるパッドアッセンブリを抜止めするためにアンカピンを組み付けるパッド交換治具において、前記治具は、前記支持プレートに対して折り曲げかつ着脱自在に取り付けることができる治具本体を備え、前記治具本体には支持プレートに形成した支持プレート溝1bと同じ幅を有する組み付けガイド溝15aが形成されていることを特徴とするパッド交換治具である。
また、前記パッド交換治具に部品載置部を設けたことを特徴とするパッド交換治具である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パッド交換治具を使用することにより、アンカピンの誤組み付けを防止できる。またパッドアッセンブリの交換作業は、現行のブレーキ装置とそれほど変わりなく良好な交換作業ができる。パッド交換治具を一個つくるだけで多くのパッドアッセンブリの交換作業に対応できコストが安く押さえられる。作業終了後に治具を取り外すので重量アップがない。現行部品(支持プレート)に穴を開けるだけで、対応でき開発コストが大幅に圧縮できる。支持プレートを大きくする改造することはなく、また作業終了後にはパッド交換治具を取り外すので支持プレートが飛び石等で変形する恐れがない。ブレーキキャリパの取扱も現状のものと変わりなく作業が容易である。パッド交換治具にボルト、ワッシャ等を受けるケース(のせるケース)を設けたためにボルト、ワッシャ等の紛失が防止できる、等の特有の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】はブレーキアーム下端部に本発明に係るパッド交換治具を取り付けた状態の正面図である。
【図2】は図1の状態からアンカブロックを固定するボルトを取外し、パッド交換治具に載せた状態の正面図である。
【図3】は図2の状態からアンカブロック及びアンカブロックに付随しているアンカピンをパッド交換治具内で図中下方に移動した状態の正面図である。
【図4】は図3の状態からアンカブロック及びアンカブロックに付随しているアンカピンをパッド交換治具とともに上方に揺動した正面図である。
【図5】(a)支持プレートの平面図、(b)支持プレートにパッド交換治具を取り付けた状態の平面図である。
【図6】(a)従来公知の鉄道車両用キャリパブレーキの正面図、(b)要部説明図である。
【図7】従来公知の鉄道車両用キャリパブレーキにおいて、アンカピンの誤組み付けが発生している状態の説明図である。
【図8】アンカピンの誤組み付けを防止するために提案された従来公知の支持プレートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るパッド交換治具の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、鉄道車両用のキャリパブレーキ装置は、パッドホルダ7に保持されたパッドアッセンブリ2が図示せぬ車輪のディスクロータを挟持し、制動を掛けるものである。パッドアッセンブリ2はディスクロータに押し付けられるパッド部材を備えている。
【0013】
パッドホルダ7には油圧シリンダにより駆動される支持プレート1が設けられ、この支持プレート1は油圧シリンダの伸縮作動によってディスクロータに対して進退するように駆動される。
支持プレート1は板状をしており、図5(a)に示すように支持プレート1の前後端(図では上下端)にはプレート端部を折り曲げて作られたアリ溝1aが形成され、このアリ溝1aに対して前記パッドアッセンブリを差し込んで両者は嵌合される。図中、符号9はアジャスタピン係合用の孔である。
【0014】
また支持プレート1の下端部(図5(a)中、右方端)にはアンカピンの首部が係合する支持プレート溝1bが開口している。支持プレート溝1bの両側にはパッド交換治具を取り付けるためのネジ孔1cが形成されている。
【0015】
図5(b)において、支持プレート1に取り付けるパッド交換治具10は支持ブレート1と同様に基本的には板材で構成されており、この交換治具10は前述の支持プレート1と結合するためのネジ部11と治具本体12とを備え、治具本体には前記支持プレート溝1bと同じ幅を有する組み付けガイド溝15aが形成されている。ネジ部11は治具本体12に対して蝶番13で揺動可能に取り付けられており、パッド交換治具10をネジ部11を介して支持プレート1に取り付けた場合パッド交換治具10を蝶番13の部分で折り曲げできる構成となっている。またパッド交換治具10の図中右端にはアンカブロックを固定するためのボルトを載置するボルト載置部14が形成されている。
【0016】
以上のように構成されたパッド交換治具の使用方法を図1〜図4を参照して説明する。 先ず、パッドアッセンブリ2を支持プレート1から取り外す場合について説明する。
図1において、アンカブロック3のアンカピン4の首部がパッド交換治具10の組み付けガイド溝15aに入るようにパッド交換治具を配置し、その状態でパッド交換治具10のネジ部11を支持プレート1の下端にネジで固定する。この結果、支持プレート1とパッド交換治具10とは図5(b)に示す状態に結合される。
このようにパッド交換治具10を支持プレート1に対して取り付けた後、図2に示すように、アンカブロック3を固定しているボルト6を外し、パッド交換治具のボルト載置部14に載せる。
【0017】
ついで、図3に示すようにアンカブロック3及びアンカブロックに付随しているアンカピン4をパッド交換治具10の組み付けガイド溝15aに沿って図中下方に移動し、アンカピン4を支持プレート1の支持プレート溝1bから外す。その後、アンカブロック3及びアンカブロックに付随しているアンカピン4を図4に示すように持ち上げ、蝶番13でパッド交換治具10を折り曲げて上方に揺動すると、アンカブロック3によるパッドアッセンブリ2への係止がとかれ、パッドアッセンブリ2を図4中下方に引き抜くことができる。
【0018】
パッドアッセンブリ2を交換した後、アンカブロック3を取り付ける場合は上記の手順と逆の工程により行なう。パッドアッセンブリ2の交換が終了し、図1の状態になったところで、パッド交換治具10のネジ部11を支持プレート1から外し、パッド交換治具10を取り外すことで、パッドアッセンブリ2の交換作業が完了する。
【0019】
以上のように支持プレート1にネジを利用してパッド交換治具10を取り付けるだけで、アンカブロックの誤組み付けを防止できる。またパッドアッセンブリ2の交換作業は、現行のブレーキ装置とそれほど変わりなく良好な交換作業ができる。パッド交換治具10を一個つくるだけで多くのパッドアッセンブリ2の交換作業に対応できコストが安く抑えられる。現行部品(支持プレート1)に穴を開けるだけで、対応でき開発コストが大幅に圧縮できる。支持プレート1を大きくする改造することはなく、また作業終了後にはパッド交換治具10を取り外すので支持プレート1が飛び石等で変形する恐れがない。ブレーキキャリパの取扱も現状のものと変わりなく作業が容易である。パッド交換治具10にボルト、ワッシャ等を受けるボルト載置部14を設けたためにボルト、ワッシャ等の紛失が防止できる、等の特有の効果を奏することができる。
【0020】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のパッド交換治具は、好適には鉄道車両のキャリパ型ディスクブレーキのパッドアッセンブリ交換に適用できるが、自動車等の車両や産業用ディスクブレーキ等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 支持プレート
1a アリ溝
1b 支持プレート溝
1c ネジ孔
2 パッドアッセンブリ
3 アンカブロック
4 アンカピン
6 ボルト
7 パッドホルダ
9 アジャスタピン係合用の孔
10 パッド交換治具
11 ネジ部
12 治具本体
13 蝶番
14 ボルト載置部
15a 組み付けガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキアームの開放端部に設置されたパッドホルダの支持プレートにスライド装着されるパッドアッセンブリを抜止めするためにアンカピンを組み付けるパッド交換治具において、前記治具は、前記支持プレートに対して折り曲げかつ着脱自在に取り付けることができる治具本体を備え、前記治具本体には支持プレートに形成した支持プレート溝と同じ幅を有する組み付けガイド溝が形成されていることを特徴とするパッド交換治具である。
【請求項2】
前記パッド交換治具に部品載置部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のパッド交換治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−62980(P2012−62980A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208734(P2010−208734)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】