説明

パラメトリックスピーカー

【課題】 装置全体の小型化を図りながら、所望の範囲や位置に高い音圧の再生可聴音を得ることができ、更に、組立性や保守性に優れたパラメトリックスピーカーを提供することを課題としている。
【解決手段】 同一の長尺基板上に複数の超音波振動子を実装して超音波振動子モジュールを構成し、超音波振動子モジュールの各超音波振動子に正対する位置に反射板を設ける。超音波振動子から放射した超音波を反射板で反射させた後に反射音波を合成して可聴音を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可聴音信号等で変調された超音波を空気中へ放射した際に、超音波に対する空気の非線形特性の結果、超音波伝搬路に沿って変調信号が可聴音として復調されるパラメトリックアレイ効果を利用したパラメトリックスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定範囲の空間に可聴音を発生させる装置として、超音波に対する空気の非線形性を利用したパラメトリックスピーカーが提案されている。その一例として、特許文献1がある。この特許文献1では、可聴音信号源、搬送波発振器、変調器、パワーアンプ、超音波振動子、をそれぞれ備え、搬送波発振器から発生した超音波を可聴音信号源から発生した可聴域信号で振幅変調し、振幅変調された搬送波としての超音波をパワーアンプを経て超音波振動子から空中に放射するようにしており、空中に放射された超音波(1次波)は、搬送波と上下の側帯波とが空気中で非線形相互作用を起こし、超音波伝搬路に沿って変調信号が自己復調されて可聴音(2次波)が発生する作用効果を得ることができるものである。
【0003】
そして、こうしたパラメトリックスピーカーの指向性を向上させる技術として、超音波を放射する超音波振動子をアレー状にし且つ曲面上に配置したり(特許文献2)、電気音響変換して超音波振動子から放射した超音波を曲面で反射させる方式(特許文献3)が提案されている。しかし、特許文献2の方式では、個々の超音波振動子から超音波を放射する際に広がりながら放射される分についての対処が無い為、超音波振動子を配置する曲面の曲率で定められる位置に集音を図る場合に、集音位置がある程度広い範囲にわたってしまうという問題がある。超音波振動子から超音波を放射する段階で音が広がる為、複数の超音波振動子から放射した超音波を特定の位置に集めようとしても狭い範囲に集中させることは困難であり、集音位置が超音波振動子から遠くなるほどこの問題は大きくなる。
【0004】
一方、特許文献3では超音波振動子から反射板に向けて超音波を放射し、反射板の反射面形状によって反射後の超音波放射方向を定めるようにしている為、個々の超音波振動子がもとより備えている超音波放射特性の影響は反射板で反射させた時点で取り除くことができる。したがって、反射板の形状を楕円形状にしたりあるいは放物線形状にするなど適宜設定することにより、超音波の放射方向を適宜設定することが可能になる。しかし、この特許文献3の方式は、1つの反射板を使用してその焦点位置に超音波振動子を置く構造である為、使用する超音波振動子の数を増やすことが困難であり、超音波振動子から放射するエネルギーの絶対量そのものを高めることが難しく、高い音圧の可聴音を得難いという問題があった。同時に、スピーカー装置全体の大きさが嵩むという問題も抱えていた。
【特許文献1】特公平1−15198号
【特許文献2】特開2003−158788号
【特許文献3】特開平7−107588
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記先行例が抱える問題点に対処してなされたものであり、スピーカー装置全体の小型化を図りながら、所望の範囲や位置に高い音圧の再生可聴音を得ることができ、更に、組立性や保守性に優れたパラメトリックスピーカーを提供できないかという点を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために、可聴音信号で変調された超音波を媒質中に放射する複数の超音波振動子と、超音波振動子から放射される超音波を反射する反射板とを備え、媒質の非線形性により可聴音信号を復調するパラメトリックスピーカーにおいて、複数の前記超音波振動子を複数個ごとに同一の長尺基板上に実装して超音波振動子モジュールを構成し、該超音波振動子モジュールの各振動子ごとに前記反射板を設けたことを特徴とするパラメトリックスピーカーを提案する。
【0007】
上記パラメトリックスピーカーの超音波振動子は、反射後の超音波が前記長尺基板の面に対して平行になる向きに実装することが望ましく、反射板の断面形状が略放物線形状であり、放物線の焦点位置と前記超音波振動子の超音波放射面位置とを略一致させることが望ましい。また、超音波振動子モジュールに対向する複数の前記反射板を曲線に沿って配置し、長尺基板上に実装する超音波振動子の超音波放射面を反射板に正対させて固定することが望ましい。更に、長尺基板上に超音波振動子を所定間隔で実装した超音波振動子モジュールを所定間隔で平行に複数配設し、各超音波振動子に対向して複数の前記反射板を二次元に配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同一の長尺基板上に複数の超音波振動子を実装して各超音波振動子ごとに反射板を設け、超音波振動子から放射した超音波を反射板で反射させて可聴音を再生する。この構成により、超音波振動子から放射した超音波をいったん反射板で反射させることで超音波放射方向の調整を容易にするというこれまでの構造の利点を活かしながら、超音波振動子ごとに反射板を設けたことによって複数の反射板から放射される反射後の超音波を合成して再生可聴音とすることができ、大きな外形サイズの反射板を用いる必要が無くなると共に1つのスピーカーとして使用する超音波振動子の数を増やすことができる。従ってスピーカ装置の外形寸法を大きくすることなく高い再生音圧で可聴音を再生することや可聴領域の制御が可能なパラメトリックスピーカーを実現することができる。
【0009】
また、超音波振動子が各超音波振動子ごとに対応した反射板の焦点に位置し、且つ超音波振動子の超音波放射面が反射板に正対する姿勢となるように、複数の超音波振動子をまとめて同一の長尺状基板に実装している為、反射板と超音波振動子との位置合わせを複数個分まとめて行うことができ、組立性を向上させることができる。また、超音波振動子に故障や不具合が発生した際にも、長尺基板ごと取り外して故障発生箇所の修理に対応したりあるいは長尺基板全体を交換することが可能になり、従来の超音波振動子をアレー状に配列した構造と比較して部分的な修理や交換に対応することが可能になる。
【0010】
また、超音波振動子ごとに具備する反射板の断面形状が略放物線形状であり、放物線の焦点位置に超音波振動子を置く構造としている為、反射板で反射した後の超音波は平行に進むことになる。従って、個々の反射板の向きを適宜設定することにより、反射音波を一点で交差させて任意の箇所に焦点を出現させたり、あるいは焦点を持たない平行なビーム状の可聴音発生領域を出現させるなど、スピーカー全体としての特性を容易に設定することが可能になる。
【実施例】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を説明する。図1は本発明の外観を示す説明図である。図示の通り、本発明に係るパラメトリックスピーカーは本体ケーシング1の内部にスピーカー駆動回路を内蔵し、ケーシングの前面には音響発生用の開口部を形成してこの開口部を織布で覆っている。
【0012】
図2は本発明実施例に係るパラメトリックスピーカーの駆動回路を含む全体構成を示すブロック図である。11は音声信号や音楽信号等のオーディオ信号が入力される可聴音信号入力部、12は可聴音信号入力部に入力した信号の振幅を自動的に制限するAGC(オートゲインコントロール)回路、13は超音波帯域の周波数である40kHzの基準搬送波信号を得る為のパルス信号を発生する搬送波信号発生部、14は搬送波信号発生部13から出力する搬送波に可聴音信号入力部11から出力されたオーディオ信号をパルス幅変調するパルス幅変調部である。15はパルス幅変調部14から出力される被変調信号の可聴音周波数以上をカットするローパスフィルターで、そのカットオフ周波数は適宜設定可能である。本実施例ではカットオフ周波数を10kHzとしており、復調しても実際には聞こえにくい高音帯域をカットしながら、被変調信号に対するスプリアスの発生を抑制するようにしている。16は音響出力部で、複数の超音波振動子をアレー状に配列して成り、ローパスフィルター15を介して入力される被変調信号を受けて、媒質たる空気中に超音波として放射する。
【0013】
上記構成において、可聴音信号入力部11に入力されるオーディオ信号を、本装置内部の記憶装置に記憶させてオーディオ音源としても良いが、本装置の外部に存在するオーディオ音源を用いることも可能である。外部にあるオーディオ音源の信号送出端子と本装置の外部信号入力端子(図示しない)とを信号ケーブルで接続し、信号ケーブルを通じて送出されてくるオーディオ信号が可聴音信号入力部11に入力されれば良い。また、上記搬送波信号発生部13では少なくとも160kHzのパルス信号を発生しており、パルス幅変調部14でパルス幅変調する際に40kHzの基準搬送波の1周期を4パルスで構成するようにしている。
【0014】
次に、図2を基にしてパルス幅変調部14の動作について説明する。図2は、可聴音信号入力部11より4kHzのオーディオ信号が出力されたときの様子を示している。まず、4kHzのオーディオ信号をサンプリング周波数40kHzでサンプリングし(図2(a))、10ビット(1024段階)で量子化する。デジタル化したオーディオ信号は、図2(b)に示すように1周期あたり4つのパルスで構成する40kHzの搬送波にパルス幅変調する。こうして生成された図2(b)に示す被変調信号はローパスフィルター15を介して音響出力部16に送出され、デジタル信号の状態で音響出力部内部に配列した超音波振動子のピエゾ素子を駆動し、電気音響変換を行う。このように本発明に係るパラメトリックスピーカーでは、アナログ信号で入力されるオーディオ信号をデジタル信号化した上で超音波周波数帯のパルス状搬送波にパルス幅変調し、パルス幅変調したデジタルパルス信号で超音波振動子を直接駆動する方式を採用している。
【0015】
次に、音響出力部16の構成について図4を基に詳細に説明する。図4(a)は音響出力部16を正面より見た説明図であり、図4(b)は図4(a)のL−L断面を示した説明図である。21は超音波振動子であり、長尺基板22に7個の超音波振動子を所定間隔で実装し、超音波振動子モジュール23を構成している。図に示すように、超音波振動子21から導出される一対のリード端子21a及び21bが長尺基板22を跨ぐようにして基板の一方の面と他方の面に当接固定し、リード端子21a・21bが導出される側の反対側から放射される超音波が長尺基板22の面に対して平行に放射される位置関係となるように実装している。このようにして構成される超音波振動子モジュール23に対向する位置には、反射板24が配設される。この反射板24は、超音波振動子モジュール23を構成する7個の超音波振動子の1つ1つに対応して設けられ、超音波振動子の超音波放射面21cに対して反射板24の反射面を正対させて固定している。
【0016】
ここで、超音波振動子21と反射板24の配置位置の関係について説明する。図5は超音波振動子21と反射板24をそれぞれ正規の位置に取り付けた状態を示した説明図である。反射板24の反射面24aは、その断面形状を放物線形状に形成しており、その放物線の焦点となる位置に超音波振動子の超音波放射面21cを位置させている。超音波放射面21cから扇状に広がりながら放射された超音波は、反射面24aで反射を起こし同じ進行方向を持つ平行な波となる。本実施例では、反射面24aで反射した超音波は平行に揃ったビーム状の進行波となり、その一部は超音波振動子21と長尺基板の断面に当たって再度反射板24側へ反射するものの、大部分は本パラメトリックスピーカーの外部へ向けて放射されることになり、パラメトリックアレイ効果に基づく可聴音の発生に寄与する有効な超音波となる。ちなみに、超音波振動子の大きさ(超音波振動子の径)に対して反射板の大きさ(反射面24aの面積)を大きくすることにより、反射する超音波の指向性を向上させることが可能になるが、それは同時に反射後の超音波の単位面積当たりのエネルギーが低下することにつながる。反対に反射板の大きさを小さくすれば、反射する超音波の指向性は低下するものの反射後の超音波のエネルギー密度を高くすることができる。この場合の指向性は反射する音波の波長と反射面の直径との比に深い関係があり、その比が小さい方が光の反射に近い理想的な反射に近付くということが分かっている。本実施例では超音波振動子からの超音波放射角度を約90度とし、この90度で形成する超音波放射範囲を反射板の直径寸法が包含するものであることを条件として設定し、同時に超音波の波長(周波数が40kHzであることから約8〜9mm)と反射面直径との比率も勘案した結果、反射板の直径を30mmとしている。
【0017】
以上のような構成により、超音波振動子モジュール23を構成する長尺基板上の7つの超音波振動子の配置間隔は、反射板24の直径寸法と略同一となり、対する7つの反射板は超音波振動子モジュール23の各超音波振動子と正対する位置に密接して直線状に配列することになる。そして、図4(a)に示すように超音波振動子モジュール23を取付ステー25を介して7列(行)に平行配置し、それぞれの超音波振動子モジュール23に実装した超音波振動子により全体として縦7個×横7個のアレー状配列を形成している。その結果、7つの超音波振動子モジュールにより合計49個の超音波振動子を縦横等間隔に配列した音響出力部16が構成される。この構造により、超音波振動子と反射板との取付位置に関する調整を1つずつ行う必要がなくなり、超音波振動子モジュールごとに振動子実装用の治具を使用して7個の超音波振動子をまとめて実装角度を合わせながら実装することができる。また、取り付けステー25と超音波振動子モジュールとはねじ等の固定手段によって着脱自在に固定されており、超音波振動子に故障や不具合が発生した場合には、超音波振動子モジュールを取り外して修理や交換に対応することができる。
【0018】
ところで、図4に示す構造は、超音波振動子21と反射板24を平面上に配列してアレー配列を形成している。従って、図2に示す駆動回路で駆動すると、49個の超音波振動子と反射板の二次元的な対から放射される超音波は、反射板を配列した面に垂直な方向へ向かって進む平行なビーム状の進行波となり、その結果、図1に示す開口2の開口面積に相当する断面積で本体ケーシング1の前方にビーム状に放射され、本スピーカーの基礎原理により可聴音領域がこれに沿って形成され、指向性可聴音波の発生を可能にしている。
【0019】
次に、音響出力部16の別実施例について図6を基に説明する。図6は超音波振動子に対向配置する反射板24を球面上に配置した構造を示しており、超音波振動子モジュール23の長尺基板22に実装する超音波振動子も反射板24の反射面に正対させて取り付けている。図6(a)に示す音響出力部16を正面より見た状態では、図4に示した例と同様に、超音波振動子と反射板とをそれぞれ縦横7個配置したアレーとして確認されるが、図6(a)のM−M断面を示す図6(b)に示すようにアレー配列を側方から見た状態では、反射板24が球面に沿って配置されており、対する超音波振動子21も長尺基板22に対して球面の曲線に応じた角度で実装されている。また、7段に積層する超音波振動子モジュールについても、取付ステー25に対して球面の曲線に応じた角度を付与しながらモジュールに実装した7つの振動子がそれぞれ反射板に正対するように固定保持している。この構成による音響出力部16を図2の駆動回路で駆動すると、49個の超音波振動子と反射板の対から放射される超音波は球面の中心に向かって進む収束状の進行波となり、球面の中心で収束した後発散する。この場合には、球面の中心部への収束前後で高い音圧部が得られ、効率の良い復調が起こり比較的小さな高音圧可聴音領域が発生する。また発散後の領域では可聴音があたかも球面の中心にあるように聞こえ、空中に仮想音源が設定できる。なお、この実施例においても超音波振動子モジュールごとに振動子実装用の治具を使用して7個の超音波振動子をまとめて実装角度を合わせながら実装することが可能であり、組立性を向上させることができる。また、取り付けステー25と超音波振動子モジュール23を着脱自在に固定し、超音波振動子に故障・不具合が発生した際の対応を容易にしている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施例の外観を示す説明図である。
【図2】本発明実施例の全体構成を示すブロック図である。
【図3】本発明実施例のパルス幅変調動作を示す説明図である。
【図4】本発明実施例に係る音響出力部の構成を示す説明図である。
【図5】超音波振動子と反射板との位置関係を示す説明図である。
【図6】本発明別実施例に係る音響出力部の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 本体ケーシング
2 開口
11 可聴音信号入力部
12 AGC回路
13 搬送波信号発生部
14 パルス幅変調部
15 ローパスフィルター
16 音響出力部
21 超音波振動子
21a、21b リード端子
21c 超音波放射面
22 長尺基板
23 超音波振動子モジュール
24 反射板
24a 反射面
25 取付ステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可聴音信号で変調された超音波を媒質中に放射する複数の超音波振動子と、超音波振動子から放射される超音波を反射する反射板とを備え、媒質の非線形性により可聴音信号を復調するパラメトリックスピーカーにおいて、
複数の前記超音波振動子を複数個ごとに同一の長尺基板上に実装して超音波振動子モジュールを構成し、該超音波振動子モジュールの各振動子ごとに前記反射板を設けたことを特徴とするパラメトリックスピーカー。
【請求項2】
前記超音波振動子は、反射後の超音波が前記長尺基板の面に対して平行になるよう実装したことを特徴とする請求項1記載のパラメトリックスピーカー。
【請求項3】
前記反射板の断面形状が略放物線形状であり、放物線の焦点位置と前記超音波振動子の超音波放射面位置とを略一致させることを特徴とする請求項1または2何れか記載のパラメトリックスピーカー。
【請求項4】
前記超音波振動子モジュールに対向する複数の前記反射板を曲線に沿って配置し、前記長尺基板上に実装する超音波振動子の超音波放射面を反射板に正対させて固定したことを特徴とする請求項1乃至3何れか記載のパラメトリックスピーカー。
【請求項5】
前記長尺基板上に超音波振動子を所定間隔で実装した超音波振動子モジュールを所定間隔で平行に複数配設し、各超音波振動子に対向して複数の前記反射板を二次元に配置したことを特徴とする請求項1乃至4何れか記載のパラメトリックスピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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