説明

ファイバブラッググレーティング装置、加入者端末及び光ネットワーク

【課題】FBG装置を特殊な素材を用いることなく、単純な構造で構成し、環境温度の変動に伴うFBGの動作波長変動を小さく、かつ緩慢にする。
【解決手段】ファイバブラッググレーティング部22を有する光ファイバ20と、光ファイバが固定される実装チューブ30とを備えて構成される。ここで、ファイバブラッググレーティング部22は、実装チューブ内に真空封止されている。実装チューブの熱膨張係数は、最大でも2×10−6/Kのものを用いることができる。また、真空封止が、硬化後も柔軟性を有する封止材によってなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ファイバブラッググレーティング装置と、このファイバブラッググレーティング装置を位相符号器として備える、位相符号方式の光符号分割多重ネットワークで用いられる加入者端末と、この加入者端末を含む光ネットワークに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大している。この通信需要の増大に対応して、光ファイバを用いた高速・大容量光ネットワークが整備されつつある。このような高速・大容量光ネットワークでは、複数チャネルの光信号を多重して、一本の光ファイバ伝送路で伝送する光多重伝送技術が必要不可欠である。
【0003】
光多重伝送技術としては、光時分割多重(OTDM:Optical Time Division Multiplexing)、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)及び光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)が盛んに研究されている。
【0004】
これら光多重伝送技術の中で、OCDMは時間軸上で同一の時間スロットに複数のチャネルを設定できる、あるいは、波長軸上においても同一波長に複数のチャネルを設定できるという特徴を有しているので、多重度が高い。また、OCDMは、送信側においてチャネルごとに異なる符号で変調(符号化)し、受信側において、送信側と同一の符号で復調(復号化)する技術であるため、この符号が知られない限り復号化されることが無く、情報の安全確保にも優れている。
【0005】
OCDMとしては、波長ホップ/時間拡散併用方式(以下、波長ホップ方式と称する。)や、位相符号方式の符号化/復号化技術が知られている。
【0006】
波長ホップ方式は、光パルス信号を、互いに異なる波長のチップパルスに分岐し、このチップパルスの時間軸上の配置順序を符号とする方式である。一方、位相符号方式は、光パルス信号を複数のチップパルスに分岐し、チップパルス間の位相差を符号とする方式である。
【0007】
OCDMにおける符号器/復号器としてファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)を用いたものが知られている。FBGは、光ファイバのコア内にグレーティングを形成したデバイスであり、特定波長の光を反射する特徴を有する。
【0008】
近年、多点位相シフト構造を有するスーパーストラクチャFBG(SSFBG:Superstructured FBG)の、位相符号方式OCDMの符号器/復号器への応用が注目されている。
【0009】
このSSFBGは、同一光ファイバ中に複数個の同一構成のFBG(単位FBG)を有しており、構成する符号に応じて隣り合う単位FBGの間隔を「0」又は所定の間隔としている。15ビットの非周期的位相符号で符号化する場合、第1〜15の単位FBGで反射されるチップパルスの位相が、例えば、「0、0、0、π、π、π、π、0、π、0、π、π、0、0、π」となるように、単位FBGの間隔が設定される(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
位相符号方式OCDMでは、光パルス信号が符号器(エンコーダ)の符号に従って、時間軸上に拡散されチップパルス列を形成する。このチップパルス列は、復号器(デコーダ)によって元の光パルス信号に復号される。この場合、エンコーダによって形成されたチップパルス列の各チップパルス間の位相差が符号となる。
【0011】
エンコーダは、光パルス信号をチップパルス列に拡散する際に、各チップパルス間に位相差を与え、デコーダは、エンコーダで与えられた各チップパルス間の位相差をキャンセルする役割を担う。同一符号が与えられている場合、エンコーダとデコーダの構造は同じである。以下の説明において、符号器(エンコーダ)及び復号器(デコーダ)を、区別しない場合は、位相符号器と称する。
【0012】
エンコーダとデコーダに与えられる符号が同じ場合、デコーダで復調される波形は、エンコーダで与えられたチップパルス間の位相差がキャンセルされて、強いピークを有する波形(自己相関波形)となる。一方、エンコーダとデコーダに与えられる符号が異なる場合、デコーダで復調される波形は、エンコーダで与えられたチップパルス間の位相差がキャンセルされないため、複数の小さなピークからなる波形(相互相関波形)となる。
【0013】
位相符号方式OCDMでは、自己相関波形と相互相関波形のピークの信号強度比(コントラスト比)により信号識別が行われる。
【0014】
エンコーダ及びデコーダを構成するFBGのブラッグ反射波長(以下、動作波長と称する。)は、環境温度が変化するとFBGの実効屈折率やグレーティングピッチが変化する。この結果、FBGでの動作波長が変化する。
【0015】
特に位相符号方式OCDMでは、送信側のエンコーダを構成するFBGの動作波長と、受信側のデコーダを構成するFBGの動作波長とが数pm以上異なると、受信側において復号化が実行されない。従って、送信側のエンコーダを構成するFBGと受信側のデコーダを構成するFBGの動作波長の差が数pm未満となるような制御が必要である。このため、環境温度が変化してもエンコーダ及びデコーダを構成するFBGの動作波長が数pmしか変動しないように安定化を図るか、エンコーダあるいはデコーダを構成するFBGの少なくとも一方の動作波長を随時調整する必要がある。
【0016】
FBGの動作波長を調整する手段としては、ペルチエ素子を備えて構成されたサーモモジュールを用いて、環境温度に依存せずにFBGの温度を一定に制御することで、FBGの動作波長を安定化するFBG装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0017】
一方、FBGの動作波長を環境温度によらず安定させる手段としては、熱膨張係数が負である基材にFBGを固定し、環境温度変化に伴う波長変動量を基材の熱伸縮によって変動した応力に伴うFBGの波長変動量によって補償する非感熱性光学素子がある(例えば、特許文献2参照)。
【0018】
また、熱膨張係数が異なる2種類以上の金属によってカンチレバーを構成し、環境温度変化に伴うFBGの波長変動量を、応力に伴うFBGの波長変動量によって補償する温度補償型光学素子もある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−173246号公報
【特許文献2】特表2000−503415号公報
【特許文献3】特表2003−526812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された、FBG装置では、FBGの動作波長の制御のために電力が必要となる。また、上述の特許文献2に開示された非感熱性光学素子では、熱膨張係数が負である特殊な素材を調達する必要がある。また、上述の特許文献3に開示された温度補償型光学素子では、構造が複雑になってしまう。
【0021】
さらに、非感熱性光学素子や、温度補償型光学素子では、波長の安定精度を十分高くするために、設計を綿密に行う必要があるので、製造コストが高くなる。
【0022】
また、これらの素子を位相符号器として備える、位相符号方式のOCDMでは、環境温度の変動に伴って変動する、各位相符号器の動作波長を定期的に監視して、波長変動に応じて収容局の位相符号器の動作波長を調整する必要がある。従って、位相符号器の動作波長の変動が環境温度の変動に対して緩慢であり、波長調整の頻度が少ないことが望ましい。
【0023】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、特殊な素材を用いることなく、単純な構造で構成され、さらに、環境温度の変動に伴うFBGの動作波長変動が小さく、かつ緩慢なファイバブラッググレーティング装置と、このファイバブラッググレーティング装置を位相符号器として備える、位相符号方式の光符号分割多重ネットワークで用いられる加入者端末と、この加入者端末を含む光ネットワークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述した目的を達成するために、この発明のファイバブラッググレーティング装置は、ファイバブラッググレーティング部を有する光ファイバと、光ファイバが固定される実装チューブとを備えて構成される。ここで、ファイバブラッググレーティング部は、実装チューブ内に真空封止されている。
【0025】
また、上述した目的を達成するために、この発明の、1つの局側装置が、複数の加入者端末に接続されて構成される光ネットワークで用いられる加入者端末は、送信データに対応する光パルス上り信号を生成する送信器と、光パルス上り信号を時間軸上に拡散して、符号化上り信号を生成する符号器と、局側装置から受信する符号化下り信号を復号化して、光パルス下り信号を生成する復号器と、光パルス下り信号から受信データを生成する受信器とを備えて構成される。
【0026】
符号器及び復号器は、同一の光ファイバ中に、複数個の同一構成の単位ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)が形成されたSSFBG(Superstructured FBG)を有する当該光ファイバと、光ファイバが固定される実装チューブとを備えて構成される。SSFBGが、実装チューブ内に真空封止されているファイバブラッググレーティング装置で構成される。
【0027】
また、上述した目的を達成するために、この発明の光ネットワークは、1つの局側装置と、局側装置に接続された、複数の上記加入者端末とを備えて構成される。
【0028】
この発明のファイバブラッググレーティング装置及び加入者端末の好適な実施形態によれば、実装チューブの熱膨張係数が最大でも2×10−6/Kであるのが良い。また、実装チューブの材質が、インバー、スーパーインバー及びガラスセラミックのいずれかであるのが良い。
【0029】
また、この発明のファイバブラッググレーティング装置及び加入者端末の好適な実施形態によれば、真空封止が、硬化後も柔軟性を有する封止材によってなされているのが良い。また、封止材が、シリコンゲルであるのが良い。
【0030】
また、この発明の光ネットワークの好適実施形態によれば、加入者端末が、符号器及び復号器の周囲温度を測定し、周囲温度の情報を局側装置に送る温度検知手段を備え、局側装置が、周囲温度の情報を監視する、温度監視手段と、温度監視手段が監視する周囲温度の情報を用いて、動作波長の調整を行う波長調整手段とを備えるのが良い。
【発明の効果】
【0031】
この発明のファイバブラッググレーティング装置、加入者端末及び光ネットワークによれば、ファイバブラッググレーティング部あるいはSSFBGが、実装チューブ内に真空封止されている。この結果、特殊な材料や、複雑な構成を用いることなく、簡単な構成で、FBG領域の温度変化を、環境温度の変化に対して緩やかにすることができる。
【0032】
また、このSSFBGを光ネットワークの加入者端末における位相符号器として用いると、局側装置での動作波長調整の頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ファイバブラッググレーティング装置の概略構成図である。
【図2】位相符号方式のOCDMを用いる光ネットワークの概略構成図である。
【図3】環境温度とFBG温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0035】
(ファイバブラッググレーティング装置)
図1を参照して、この発明のファイバブラッググレーティング装置の一実施形態について説明する。図1は、ファイバブラッググレーティング装置の概略構成図であり、断面の切り口で示してある。なお、断面を示すハッチングは、一部分省略してある。
【0036】
ファイバブラッググレーティング(FBG)装置10は、ファイバブラッググレーティング(FBG)部22を有する光ファイバ20と、光ファイバ20が固定される実装チューブ30とを備えて構成される。ここで、FBG部22は、実装チューブ30内に真空封止されている。
【0037】
FBG部22の構成、例えば、FBG部22に形成されているFBGの個数、各FBGの長さ、各FBGにおける格子間隔などは、用途に応じて好適に設計される。ここでは、FBG部22の構成例として、FBG部22に、位相符号方式のOCDMで用いられる、SSFBGが設けられている場合について説明する。
【0038】
SSFBGは、同一の光ファイバ20中に、複数個の屈折率変調領域である単位FBG24を備えた多点位相シフト構造を有している。光ファイバ20として、例えば、コアにゲルマニウムなどを添加して紫外線感光性を高めたシングルモード光ファイバを用いることができる。
【0039】
単位FBG24の長さ及び回折格子間隔は、全て等しく形成されている。SSFBGが、位相符号方式のOCDM通信における、符号器(エンコーダ)又は復号器(デコーダ)として用いられるとき、SSFBGは、符号長Mに等しい個数の単位FBG24を備えて構成される。
【0040】
SSFBGに光パルス信号が入力されると、光パルス信号は、各単位FBG24で一部が反射され、一部が透過する。この結果、M個に分岐されたチップパルスがSSFBGの入力側から出力される。SSFBGでは、構成する符号に応じて隣り合う単位FBG24の間隔を「0」又は所定の間隔としている。15ビットの非周期的位相符号で符号化する場合、第1〜15の単位FBG24で反射されるチップパルスの位相が、例えば、「0、0、0、π、π、π、π、0、π、0、π、π、0、0、π」となるように、単位FBG24の間隔が設定される。
【0041】
実装チューブ30は、例えば、外径5mm及び内径3mmの円筒形状で構成される。実装チューブ30の長さは、SSFBGが形成されているFBG部22が十分に含まれる長さであればよい。例えばFBG部22の長さが85mmのとき、実装チューブ30の長さは、100mm程度にすればよい。
【0042】
実装チューブ30が環境温度変化に伴い伸縮すると、FBG部22に印加される応力が変化して、動作波長の変動の要因となる場合がある。そこで、実装チューブ30は、熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)の小さい材料で構成されるのが望ましい。すなわち、実装チューブ30のCTEは、最大でも2×10−6/Kであるのが良い。実装チューブ30の材質として、例えば、CTEが2×10−6/K程度であるインバーや、CTEがインバーのCTEに比べて1桁程度、あるいはそれ以上に小さい、スーパーインバー及びガラスセラミックのいずれかを用いることができる。
【0043】
FBG部22の真空封止は、実装チューブ30に、FBG部22が十分含まれるように光ファイバ20を通した後、実装チューブ30の両端で封止材40を用いて封止することによってなされている。
【0044】
封止材40は、封止後に実装チューブ30内の真空を保持するための気密封止に適した材料であれば良く、任意好適なものを用いることができる。
【0045】
なお、例えば、実装チューブ30をインバーで構成した場合などは、環境温度変化に伴って実装チューブ30が僅かに伸縮する。この実装チューブ30の伸縮がそのままFBG部22に伝達されると、FBG部22に印加される応力が変化するので、動作波長の変動要因となる。この場合、封止材40を、硬化後も柔軟性を有する材質として、シリコンゲル(例えば、SE9186(製品名:東レ・ダウコーニング株式会社製))を用いるのが良い。
【0046】
このように、封止材40が柔軟性を有していると、環境温度の変動により、実装チューブが僅かに伸縮した場合であっても、封止材40の柔軟性により、実装チューブの伸縮はFBG部22には伝達されない。このため、FBG部22に印加される応力の変動に伴う動作波長の変動は発生しない。
【0047】
(光ネットワーク)
図2を参照して、位相符号方式のOCDMを用いる光ネットワークについて説明する。
【0048】
光ネットワーク100は、1つの局側装置300と、この局側装置300に光ファイバ網で接続された複数の加入者端末200−1〜n(nは2以上の整数)とを備えて構成される。
【0049】
加入者端末200は、送受信部210と符号処理部220とを備えて構成される。送受信部210には、送信器212と、受信器214とが設けられている。また、符号処理部220には、エンコーダ222とデコーダ224が設けられている。このエンコーダ222及びデコーダ224として、図1を参照して説明した、SSFBGを有するFBG装置10が用いられる。
【0050】
送信器212は、例えば、パルス光源と光変調器を含む。パルス光源は、規則正しい一定の時間間隔で光パルスが並ぶ光パルス列を生成する。光変調器は、光パルス列を光変調して得られる、送信データとしての2値デジタル電気パルス信号を反映した光パルス上り信号(図中、矢印S213で示す。)を生成する。このように、送信器212は、送信データに対応する光パルス上り信号S213を生成する。
【0051】
送信器212で生成された光パルス上り信号S213は、サーキュレータ232を経てエンコーダ222に送られる。エンコーダ222は、エンコーダ222ごとに与えられている符号に従って、光パルス上り信号S213の各光パルスを時間軸上に拡散して、チップパルス列としての符号化上り信号(図中、矢印S223で示す。)を生成する。符号化上り信号S223は、局側装置300に送られる。
【0052】
局側装置300から受け取る符号化下り信号(図中、矢印S301で示す。)は、サーキュレータ234を経てデコーダ224に送られる。デコーダ224は、エンコーダ222と同様に構成される。デコーダ224とエンコーダ222とに同一符号が与えられている場合は、デコーダ224とエンコーダ222の構造は同じになる。
【0053】
符号化の際の符号と同じ符号で復号化される場合、デコーダ224で復号化されて得られる波形は、エンコーダ222で与えられたチップパルス間の位相差がキャンセルされて、強いピークを有する波形(自己相関波形)となる。一方、符号化の際の符号と異なる符号で復号化される場合、デコーダ224で復号化されて得られる波形は、エンコーダ222で与えられたチップパルス間の位相差がキャンセルされないため、複数の小さなピークからなる波形(相互相関波形)となる。
【0054】
デコーダで復号化されて得られた光パルス下り信号(図中、矢印S225で示す。)は、サーキュレータ234を経て受信器214に送られる。
【0055】
受信器214は、例えば、光電変換器を含み、光パルス下り信号S225から、受信データを生成する。
【0056】
局側装置300は、光ネットワーク100を構成する加入者端末200の個数に相当する数の送受信部310−1〜nと符号処理部320−1〜nを備えている。この局側装置300が備える送受信部310−1〜n及び符号処理部320−1〜nは、各加入者端末200が備える送受信部210及び符号処理部220と同様に構成される。
【0057】
ここで、局側装置300が備えるエンコーダ及びデコーダは、例えば特許文献1に開示されている従来構成と同様に、動作波長を調整可能に構成されている。局側装置300は、波長調整手段344を含む制御部340を備えている。この波長調整手段344が、各符号処理部320−1〜nのエンコーダ及びデコーダについて動作波長の調整を行う。
【0058】
このとき、各加入者端末200−1〜nは、任意好適な温度検知手段240を備えるのが良い。この温度検知手段240は、エンコーダ222及びデコーダ224が設置されている周囲の環境温度を測定し、光ファイバ網を経て局側装置300に環境温度の情報を送る。温度検知手段240としては、サーミスタ、熱電対、白金熱抵抗体など、任意好適なものを用いることができる。なお、環境温度の情報は、光ファイバ網とは別の通信回線(図示を省略する。)を介して局側装置300に送る構成にしてもよい。
【0059】
局側装置300は、温度検知手段240から送られた環境温度の情報を監視する温度監視手段342を備え、温度監視手段342が監視する各加入者端末200−1〜nのエンコーダおよびデコーダの周囲温度の情報を用いて、波長調整手段344が各加入者端末に対応する符号処理部320−1〜nのエンコーダおよびデコーダの動作波長の調整を行う。
【0060】
(環境温度が変化した場合の動作)
図3を参照して、位相符号器が設置されている環境の温度が変化した場合のFBG装置の動作について説明する。図3は、環境温度とFBG温度(FBG部の温度)の関係を示す図である。図3では、横軸に時間(単位:分)を取って示し、縦軸に温度(単位:℃)を取って示している。図3には、環境温度(I)、FBG部を真空封止した場合のFBG部の温度(II)及びFBG部を真空封止していない場合のFBG部の温度(III)が示されている。ここで、FBG部の温度は、熱伝導解析によって得られた結果である。
【0061】
ここでは、環境温度の初期状態を25℃としている。先ず、1℃/分の温度変化率で25℃から35℃まで変化させる。次に、環境温度を35℃に10分間維持した後、1℃/分の温度変化率で35℃から25℃まで変化させる。次に、環境温度を25℃に10分間維持する。
【0062】
位相符号器として用いられるFBG装置10が設置されている環境の温度が変化した場合、実装チューブ30の表面などの外気に曝されている領域の温度は、環境温度の変化に応じて変化する。このとき、実装チューブ30の内部が真空であると、真空断熱効果によって、環境温度の変化は、FBG部22には伝達されにくくなる。光ファイバ20自体の熱伝導の影響は避けられないが、光ファイバ20として、熱伝導係数が1.4W/mK程度と、熱伝導の少ないものを用いることができるので、その熱伝導は緩やかになる。
【0063】
FBG部を真空封止していない場合のFBG部の温度(III)は、環境温度(I)とほぼ等しくなるのに対して、FBG部を真空封止している場合のFBG部の温度(II)は、環境温度(I)に対して、緩やかに変化する。例えば、時間0分で25℃の環境温度が、33℃まで、1℃/分の温度変化率で、8分間で上昇したとする。このとき、FBG部を真空封止しているFBG部の温度(II)は、約26℃であり、1℃程度の変化となる。
【0064】
説明を簡単にするため、FBG部の温度変化に伴う波長変動率を10pm/℃とし、同じ符号が割り当てられたエンコーダとデコーダの動作波長が10pm異なると、受信側で復号化ができなくなるとする。この場合、FBG部の温度が1℃変化すると、受信側で復号化ができなくなる。
【0065】
例えば、図3の(I)で示したように環境温度が変化する場合、FBG部を真空封止していない位相符号器では、1分ごとに局側装置で動作波長の調整が必要になる。これに対し、真空封止をしている位相符号器では、6〜8分ごとに波長調整を行えばよい。このように、波長調整を行う頻度を低減することができる。
【0066】
なお、上述した実施形態では、FBG装置を、OCDMにおける位相符号器に用いた例について説明したが、これに何ら限定されない。FBG装置をWDMにおける波長フィルタデバイスなどに適用して、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
10 ファイバブラッググレーティング(FBG)装置
20 光ファイバ
22 ファイバブラッググレーティング(FBG)部
24 単位FBG
30 実装チューブ
40 封止材
100 光ネットワーク
200 加入者端末
210、310 送受信部
212 送信器
214 受信器
220、320 符号処理部
222 エンコーダ
224 デコーダ
232、234 サーキュレータ
240 温度検知手段
300 局側装置
340 制御部
342 温度監視手段
344 波長調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバブラッググレーティング部を有する光ファイバと、
前記光ファイバが固定される実装チューブと
を備え、
前記ファイバブラッググレーティング部が、前記実装チューブ内に真空封止されている
ことを特徴とするファイバブラッググレーティング装置。
【請求項2】
前記実装チューブの熱膨張係数が最大でも2×10−6/Kである
ことを特徴とする請求項1に記載のファイバブラッググレーティング装置。
【請求項3】
前記実装チューブの材質が、インバー、スーパーインバー及びガラスセラミックのいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載のファイバブラッググレーティング装置。
【請求項4】
前記真空封止が、硬化後も柔軟性を有する封止材によってなされている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のファイバブラッググレーティング装置。
【請求項5】
前記封止材が、シリコンゲルである
ことを特徴とする請求項4に記載のファイバブラッググレーティング装置。
【請求項6】
1つの局側装置が、複数の加入者端末に接続されて構成される光ネットワークで用いられる前記加入者端末であって、
送信データに対応する光パルス上り信号を生成する送信器と、
前記光パルス上り信号を時間軸上に拡散して、符号化上り信号を生成する符号器と、
前記局側装置から受信する符号化下り信号を復号化して、光パルス下り信号を生成する復号器と、
前記光パルス下り信号から受信データを生成する受信器と
を備え、
前記符号器及び前記復号器は、
同一の光ファイバ中に、複数個の同一構成の単位ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)が形成されたSSFBG(Superstructured FBG)を有する当該光ファイバと、
前記光ファイバが固定される実装チューブと
を備え、
前記SSFBGが、前記実装チューブ内に真空封止されているファイバブラッググレーティング装置で構成される
ことを特徴とする加入者端末。
【請求項7】
前記実装チューブの熱膨張係数が最大でも2×10−6/Kである
ことを特徴とする請求項6に記載の加入者端末。
【請求項8】
前記実装チューブの材質が、インバー、スーパーインバー及びガラスセラミックのいずれかである
ことを特徴とする請求項6に記載の加入者端末。
【請求項9】
前記真空封止が、硬化後も柔軟性を有する封止材によってなされている
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の加入者端末。
【請求項10】
前記封止材が、シリコンゲルである
ことを特徴とする請求項9に記載の加入者端末。
【請求項11】
1つの局側装置と、
前記局側装置に接続された、複数の加入者端末と
を備える光ネットワークであって、
前記加入者端末は、
送信データに対応する光パルス上り信号を生成する送信器と、
前記光パルス上り信号を時間軸上に拡散して、符号化上り信号を生成する符号器と、
前記局側装置から受信する符号化下り信号を復号化して、光パルス下り信号を生成する復号器と、
前記光パルス下り信号から受信データを生成する受信器と
を備え、
前記符号器及び前記復号器は、
同一の光ファイバ中に、複数個の同一構成の単位ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)が形成されたSSFBG(Superstructured FBG)を有する当該光ファイバと、
前記光ファイバが固定される実装チューブと
を備え、
前記SSFBGが、前記実装チューブ内に真空封止されているファイバブラッググレーティング装置で構成される
ことを特徴とする光ネットワーク。
【請求項12】
前記加入者端末が、
前記符号器及び前記復号器の周囲温度を測定し、前記周囲温度の情報を前記局側装置に送る、温度検知手段
を備え、
前記局側装置が、
前記周囲温度の情報を監視する、温度監視手段と、
前記温度監視手段が監視する周囲温度の情報を用いて、動作波長の調整を行う波長調整手段と
を備えることを特徴とする請求項11に記載の光ネットワーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−250229(P2010−250229A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102050(P2009−102050)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】