説明

フューエルポンプ用シャフト、及びその製造方法

【課題】本発明は、シャフトとインペラに対する接圧部の変形を極力少なくし、且つインペラの回転バランスのための凹部も不要となるフューエルポンプ用シャフト、及びその製造方法であり更には、バリ取り等の発生もより少なくなるシャフト、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】軸部2と該軸部2をインペラBの穴部B1に取り付けるための取付け部1を有するフューエルポンプ用シャフトAであって、取付け部1が小判型形状に形成されて回転の際に該穴部B1に二点にて接圧されるフューエルポンプ用シャフト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸となるシャフトに関するものであり、特に詳しくはフューエルポンプに使用されるシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フューエルポンプにおいて、アーマチュアといわゆるインペラ(通常、合成樹脂材で作られている)との間の接続構造はアーマチュアに取り付けられている軸〔通常、ステンレス(SUS)で作られている〕、すなわちシャフトを、インペラの穴部に嵌合して取り付けるいわゆる嵌め合い構造となっている(特許文献1)。
この場合、シャフトは円形から薄肉に切削加工されて断面がD字状になった取付け部が形成されており、他方のインペラの穴部もそれに合った僅かに大きめのD字状の穴部が形成される。
【0003】
そして図8の断面で示すようにシャフトAの取付け部がインペラの穴部B1に装着されることでアーマチュアといわゆるインペラBとは相互に接続される。
その結果、アーマチュアと共にインペラが同体となって回転するのである。
ところが、アーマチュアの回転力はシャフトAとインペラBのD字状の穴部B1の壁面との接圧により伝達されるが、この接圧部は図8の断面で示すような一点となる。
そのためにこの接圧点においてインペラBの壁面が変形し易い。
何故なら上述したように通常、インペラBが合成樹脂材であるために硬いステンレスよりなるシャフトAによって押し潰されるのである。
回転し始める際は、X1点に圧力を受け、反対に回転が減少する際は、X2点に圧力を受けて変形する。
【0004】
一方ではシャフトAとの断面が中心軸対称ではないためにシャフトAとインペラBとの接続部分の回転モーメントに不釣り合いが生じ、それを解消するために、インペラの表面に重量抜きのための凹部(図示略)を設けることが行われている。
このようなインペラの凹部は、シャフトが高速回転すると流体抵抗が大きくなって無視できなくエネルギーの損失となる。
【0005】
一方、シャフトの製造方法についていうと、従来のシャフトでは、規定の長さのバー材の一方側を切削加工して断面D字状の取付け部に形成している。
この場合、切削バリを取るために、バリ取りを念入りに行う必要がある。
このように取付け部のD字状の加工を切削により行うと、バリ取りが必要となり工程数が増える上、材料の歩留りが悪い。
また、通常、バー材は2.5〜3mの長さがあり、これを切削機により先端側から各一定長に切断していくが、最後の部分はチャックで把持している部分(25〜30cm)でありこの部分は製品として使えない。
そのため、必然的にバー材(2.5〜3m)の10%程度は材料の無駄となる欠点がある。
また一定長さに切断する際も、切削で切断しているために突っ切りバイトによって切削屑が生じて材料の歩留りが悪い。
【0006】
【特許文献1】特許第3756337号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような技術的背景をもとに、その問題点を解決するためになされたものである。
すなわち、本発明の目的は、シャフトとインペラに対する接圧部の変形を極力少なくし、且つインペラの回転バランスのための凹部も不要となるフューエルポンプ用シャフト、及びその製造方法を提供することである。
更には、バリ取り等の発生もより少なくなるシャフト、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして、本発明者は、このような課題背景に対して鋭意研究を重ねた結果、シャフトのインペラに対する取付け部の形状を対称形の小判型とすることにより従来の問題点を一挙に解決できることを見出し、この知見により本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)、軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトであって、取付け部が小判型形状に形成されて回転の際に該穴部に二点にて接圧されるフューエルポンプ用シャフトに存する。
【0010】
そして、(2)、取付け部は、絞り加工により形成されたものである上記(1)記載のフューエルポンプ用シャフトに存する。
【0011】
そしてまた、(3)、軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトの製造方法であって、取付け部を冷間鍛造加工により形成するフューエルポンプ用シャフトの製造方法に存する。
【0012】
そしてまた、(4)、軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトの製造方法であって、下記の工程を有するフューエルポンプ用シャフトの製造方法に存する。
1)コイル状のワイヤ鋼材を直線化する工程(直線化工程)、
2)直線化されたワイヤ鋼材を両端部に切削代を見込んで一定長に切断する工程(切断工程)、
3)両端部を切削加工する工程(切削工程)、
4)一方の端部を肉薄に絞り加工して軸部より肉薄の取付け部を形成する工程(絞り工程)
【0013】
そしてまた、(5)、上記切断においては剪断作用により切断する上記(4)記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法に存する。
【0014】
そしてまた、(6)、工程4の後に、順次、熱処理加工、センタレス加工、研磨加工を行う上記(4)記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法に存する。
【0015】
そしてまた、(7)、絞り加工により小判型形状に形成する上記(4)記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法に存する。
【0016】
なお、本発明の目的に添ったものであれば、上記発明を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0017】
フューエルポンプにおいてアーマチュアの回転力は、シャフトとインペラに形成された穴部の壁面との接触により伝達されるが、本発明のフューエルポンプ用シャフトは、その取付け部が小判型形状となっていることにより、インペラの穴部の壁面との接圧部は二点となる。
その結果、従来のように一点の接圧部とは異なって接圧が小さくなり接圧面が変形し難くなる。
またアーマチュアのシャフトとインペラとの接続部分の回転モーメントの不釣り合いが解消されるためにインペラの表面に敢えて重量抜きのための凹部を設ける必要がない。
そのため高速回転すると流体抵抗が増大するようなことが回避される。
【0018】
また、本発明のフューエルポンプ用シャフトを製造方法は、
1)コイル状のワイヤ鋼材を直線化する工程(直線化工程)、
2)直線化されたワイヤ鋼材を両端部に切削代を見込んで一定長に切断する工程(切断工程)、
3)両端部を切削加工する工程(切削工程)、
4)一方の端部を肉薄に絞り加工して軸部より肉薄の取付け部を形成する工程(絞り工程)
を順次経るために、エンドレスに近いワイヤ鋼材を使うことができて歩留りがよい。
また切断も剪断作用を使うために切削屑が発生せず同様に歩留りがよい。
小判型形状の取付け部を形成する工程では、従来のような切削加工を行わないためにバリ取り工程が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
図1はフューエルポンプの使用されているフューエルポンプ用シャフトを示す概略図である。
また図2はフューエルポンプ用シャフトを示し、(A)はフューエルポンプ用シャフトの側面図、(B)はその平面図、(C)は取付け部の断面、また(D)は軸部の断面を示す。
【0020】
フューエルポンプ用シャフトAは、その材料として耐食性と強度とが優れたステンレス(SUS)が用いられており、軸部2とインペラBに取り付けるための特別な形状の取付け部1を有するものでアーマチュア側の回転を的確にインペラB側に伝える。
取付け部1は軸部2より延長された該軸部2より扁平な部分であり、断面が小判型形状となっている。
この小判型形状は、従来のフューエルポンプ用シャフトAのD型形状と異なって、D型形状が反対側に中心軸対称に現れた形である。
すなわち、シャフトAの断面において、その一部が対向する両面で真っ直ぐカットされた形状となっている。
この小判型形状は、鍛造加工である絞り加工により形成されるものであり、詳しくは後述する。
【0021】
ここでフューエルポンプ用シャフトAの取付け部1が小判型形状であるために、フューエルポンプ用シャフトAが回転し始めるとアーマチュアの穴部B1(これも当然小判型形状)の壁面に接圧するが、この接圧部は図3に示すような二点(詳しくは、P1とP2の二点)となる。
逆に回転が停止し始める際も、同様に二点(詳しくは、P3とP4の二点)となる。
先述した従来の場合と異なって、一点の接圧部ではないために一点当たりの圧力が1/2となるため壁面の変形が極力防止される。
また小判型形状となって対称形であるためにアーマチュアのシャフトAとインペラBとの接続部分の回転モーメントの不釣り合いが解消される。
そのため従来のようにインペラBの表面に重量抜きのための凹部を設ける必要がない。
【0022】
フューエルポンプ用シャフトAの一方の端部21は、図4示すフューエルポンプ用シャフトAの端部の拡大図で示すように、切削加工により面取りがなされているが〔図4(B)参照〕、これは従来と同じである。
また他方の端部11、すなわち取付け部側の端部11は、段階的な面取り(この例では60°と120°)がなされ、更に端面が球状に加工されている〔図4(A)参照〕。
これらの面取り加工はシャフトAの設計仕様によって異なる。
次に本発明のフューエルポンプ用シャフトAの製造方法を述べる。
【0023】
図5は、本発明の製造工程を示すブロック図である。
1)コイル状のワイヤ鋼材を直線化する工程(直線化工程)、
まず、材料(SUS)は、従来のような一定長さのバー材ではなくエンドレスに近いコイル状のワイヤ鋼材を使用する。
このワイヤ鋼材は通常、巻回されて束ねられた状態(コイル状態)で保管されているために、レベラー装置によって直線化される。
このレベラー装置は、複数のレベラー内を上下左右に蛇行しながら通過させることで残留応力を除去して湾曲した状態のワイヤ材を直線化するものである。
【0024】
2)直線化されたワイヤ鋼材を剪断機を使用し、両端部に切削代を見込んで一定長に切断する工程(切断工程)、
この剪断機は直線化されたワイヤ鋼材を前方から一定長さに分離切断していくものであり、この切断は剪断作用により行われる。
剪断作用であるために従来のような切削機のバイトによる切断とは異なって切削屑が発生しない利点がある。
【0025】
3)両端部を切削加工する工程(切削工程)
フューエルポンプ用シャフトAの両端部が切削加工される。
まず一方の端部(取付け部側)11は、前述した図4(A)で示すように、段階的な面取り(この例では60°と120°)がなされ、且つ端面が球状に加工される。
また他方の端部21も図4(B)で示すように切削により、段階的に面取りがなされる(この例では10°と20°)。
【0026】
4)一方の端部側を肉薄に絞り加工して軸部2より肉薄の取付け部1を形成する工程(絞り工程)
軸部2の一方側の一定部分を対向する面が生じるように絞って加工し肉薄の取付け部1にする。
その結果、取付け部1は、断面が中心軸対称の小判型形状となる。
因みに、インペラBの穴部B1は取付け部1が装着可能となるような僅かに大きい小判型形状の空所となっている。
【0027】
図6は、その絞り金型(要部)を用いた絞り加工を説明する図である。
前工程(直線化→切断→切削)を経たブランク材Aが絞り加工の対象物となる。
図6(A)は、まだ絞り金型Mに加工対象物(ブランク材A)がセットされていない状態を示す。
最初に、絞り金型Mに図示しない把持手段を使ってフューエルポンプ用シャフトA(両端部を切削加工された後のブランク材A)がセットされる〔図6(B)参照〕。
ここで絞り金型Mは、シャフトAの取付け部1の断面形状(すなわち、小判型)を形成するための型部M1を有している。
次に、絞り金型Mにセットされたブランク材AをパンチピンK1で図でいう下方に押圧する〔図6(C)参照〕。
ブランク材Aは下方に押し下げられて一定長さに渡って小判型形状に形成されて扁平な取付け部1が形成される。
取付け部1が形成された後は、下方からダイスピン(ノックアウトピン)K2で突き上げて、加工されたブランク材Aを金型外にノックアウトする〔図6(D)参照〕。
以上で、取付け部1の絞り加工は終了し、これで取り部1を備えたフューエルポンプ用シャフトが製造される。〔図6(E)参照〕
このような工程の後、熱処理加工である焼入れ、焼き戻しが行われる。
更にセンタレス加工や必要に応じてフィルムラップ又はショットピーニング加工等の研磨加工が施される。
【0028】
以上本発明を説明してきたが本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、その本質を逸脱しない範囲で他の種々の変形が当然可能であることはいうまでもない。
例えば、取付け部1が小判型形状の場合で示したが、D型用の絞り金型を使ってフューエルポンプ用シャフトAの取付け部1をD型形状とすることも可能ではある。
その場合、絞り金型は図7に示す形状ものを使用すればよい。
切削をしない鍛造加工なのでバリ取り工程が不要となる利点はある。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、インペラBの接圧部の変形を少なくし、且つインペラBの回転バランスのための凹部が不要となり、且つバリ取り等の発生が少なくなるシャフト及びその製造方法であるが、フューエルポンプ用シャフトA以外にも、回転シャフトの回転を他部材に伝える接続構造に広く適用されるものであり、その利用分野は広いものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はフューエルポンプに使用されているフューエルポンプ用シャフトAを示す概略図である。
【図2】図2はフューエルポンプ用シャフトAを示し、(A)はフューエルポンプ用シャフトAの側面図、(B)はその平面図、(C)は取付け部1の断面、また(D)は軸部2の断面を示す。
【図3】図3は、フューエルポンプ用シャフトAとアーマチュアとの嵌合状態における接圧部を示す説明図である。
【図4】図4は、フューエルポンプ用シャフトAの各端部の拡大図を示す。
【図5】図5は、本発明の製造工程を説明するブロック図である。
【図6】図6は、その絞り金型を用いて絞り加工を説明する図である。
【図7】図7は、D型形状に対応する絞り金型の例を示す図である。
【図8】図8は、従来のフューエルポンプ用シャフトAとアーマチュアとの嵌合状態における接圧部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
A フューエルポンプ用シャフト(ブランク材)
1 取付け部
11 端部(切削加工部)
12 平面部
2 軸部
21 端部(切削加工部)
B インペラ
B1 穴部
M 絞り金型
M1 型部
K1 パンチピン
K2 ダイスピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトであって、取付け部が小判型形状に形成されて回転の際に該穴部に二点にて接圧されることを特徴とするフューエルポンプ用シャフト。
【請求項2】
取付け部は、絞り加工により形成されたものであることを特徴とする請求項1記載のフューエルポンプ用シャフト。
【請求項3】
軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトの製造方法であって、取付け部を冷間鍛造加工により形成することを特徴とするフューエルポンプ用シャフトの製造方法。
【請求項4】
軸部と該軸部をインペラの穴部に取り付けるための取付け部を有するフューエルポンプ用シャフトの製造方法であって、下記の工程を有することを特徴とするフューエルポンプ用シャフトの製造方法。
1)コイル状のワイヤ鋼材を直線化する工程(直線化工程)、
2)直線化されたワイヤ鋼材を両端部に切削代を見込んで一定長に切断する工程(切断工程)、
3)両端部を切削加工する工程(切削工程)、
4)一方の端部を肉薄に絞り加工して軸部より肉薄の取付け部を形成する工程(絞り工程)
【請求項5】
上記切断においては剪断作用により切断することを特徴とする請求項4記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法。
【請求項6】
工程4の後に、順次、熱処理加工、センタレス加工、研磨加工を行うことを特徴とする請求項4記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法。
【請求項7】
絞り加工により小判型形状に形成することを特徴とする請求項4記載のフューエルポンプ用シャフトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−303349(P2007−303349A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131925(P2006−131925)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(390011198)福井鋲螺株式会社 (41)
【Fターム(参考)】