説明

フレキシブル積層板の製造方法

本発明の目的は、外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供することである。本発明は、耐熱性接着フィルム3の少なくとも一面に金属箔2を貼り合わせてなるフレキシブル積層板5の製造方法であって、耐熱性接着フィルム3と金属箔2とを一対の金属ロール4の間において保護フィルム1を介して熱ラミネートする工程と、保護フィルム1を分離する工程とを含み、上記保護フィルム1の分子配向比が、1.0〜1.7であることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、熱ラミネート工程を有するフレキシブル積層板の製造方法に関し、特に外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
従来から、ポリイミドフィルムなどの耐熱性フィルムの少なくとも一面に銅箔などの金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板が、携帯電話などの電気機器の中のプリント基板として用いられている。
従来、フレキシブル積層板は、耐熱性フィルムに金属箔をアクリル系またはエポキシ系などの接着剤で貼り合わせて製造されていた。しかしながら、近年、上記アクリル系またはエポキシ系などの熱硬化型接着剤を用いずに、耐熱性接着フィルムと金属箔とを熱ラミネートして製造されたフレキシブル積層板が耐熱性および耐久性の観点から注目されている。
上記耐熱性接着フィルムと金属箔とを熱ラミネートして製造されたフレキシブル積層板は、耐熱性接着フィルムにポリイミド系の接着層が存在することから、耐熱性に優れている。また、フレキシブル積層板が折り畳み式携帯電話の折り畳み部のヒンジの箇所に用いられる場合には、熱硬化型接着剤を用いたフレキシブル積層板では約3万回の折り畳みが可能であるのに対して、ポリイミド系接着層を用いたフレキシブル積層板では約10万回の折り畳みが可能となるため耐久性にも優れている。
電気機器の製造工程において、フレキシブル積層板ははんだリフローなどの高温に曝される工程を経るため、フレキシブル積層板の熱的な信頼性を高める観点から、耐熱性接着フィルムとしては、接着層としてガラス転移温度(Tg)が200℃以上のポリイミド系熱融着性層を有するフィルムが一般的に用いられている。したがって、耐熱性接着フィルムと金属箔とを熱ラミネートするためには、接着層となる熱融着性層のTgよりも高い、たとえば300℃以上の温度で熱ラミネートする必要があった。
通常、熱ラミネート機は、熱ラミネート時における圧力の不均一性を緩和するために、熱ラミネートに用いられるロールの少なくとも一方にゴムロールが用いられている。しかしながら、ゴムロールを用いて300℃以上の高温で熱ラミネートすることは非常に困難であるため、一対の金属ロールを有する熱ラミネート機が用いられる。しかしながら、一対の金属ロールを用いて熱ラミネートをする場合には、ゴムロールを用いる場合と異なり、熱ラミネート時の圧力の均一性を保持するのが難しく、また、熱ラミネートの際に急激な温度変化が生じることから、フレキシブル積層板の外観にシワが発生してしまい、フレキシブル積層板の外観が悪くなってしまうという問題があった。そこで、耐熱性接着フィルムと金属箔を熱ラミネート機により貼り合わせる際に、一対の熱ロールとの間に保護フィルムを介在させることにより上記外観不良を改良する技術が提案されている(たとえば、特開2001−129918号公報参照)。この技術によると、金属箔の外側に上記保護フィルムを介在させて金属箔と耐熱性接着フィルムとを熱ラミネートするため、上記保護フィルムによって、金属箔および耐熱性接着フィルムへの熱および圧力の集中を緩和するとともに、金属箔および耐熱性接着フィルムの膨張および収縮を抑制することにより、シワなどの外観不良の発生を抑制するものである。
しかし、特開2001−129918号公報には、保護フィルムの分子配向およびそのバラツキについては考慮されておらず、得られるフレキシブル積層板の寸法変化については記載されていない。
【発明の開示】
上記問題を解決するため、本発明は、外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、耐熱性接着フィルムの少なくとも一面に金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板の製造方法であって、耐熱性接着フィルムと金属箔とを一対の金属ロールの間において保護フィルムを介して熱ラミネートする工程と、保護フィルムを分離する工程とを含み、保護フィルムの分子配向比(Molecular Orientation Ratio;以下MORという)が、1.0〜1.7の範囲となっており、かつ、保護フィルムの搬送方向および幅方向についての分子配向比の変動幅が0.1以下となっていることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法である。
本発明にかかるフレキシブル積層板の製造方法においては、上記保護フィルムの200℃〜300℃における線膨張係数αが、金属箔の200℃〜300℃における線膨張係数をαとするとき、(α−10)ppm/℃以上(α+10)ppm/℃以下であることが好ましい。また、上記保護フィルムの25℃における引張弾性率は2GPa以上10GPa以下であることが好ましく、上記保護フィルムの厚さは75μm以上であることが好ましい。さらに、上記保護フィルムは非熱可塑性のポリイミドフィルムであることが好ましい。
上記のように、本発明によると、外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させたフレキシブル積層板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に用いられる熱ラミネート機の好ましい一例の概略図である。
図2は、本発明に用いられる積層体の模式的な拡大断面図である。
図3は、本発明によって製造されるフレキシブル積層板の模式的な拡大断面図である。
図中、1は保護フィルムを、2は金属箔を、3は耐熱性接着フィルムを、4は金属ロールを、5はフレキシブル積層板を、6は分離ロールを、そして7は積層体を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
図1に、本発明に用いられる熱ラミネート機の好ましい一例の模式的な概略図を示す。この熱ラミネート機は、金属箔2と耐熱性接着フィルム3とを保護フィルム1を介して熱ラミネートするための一対の金属ロール4と、保護フィルム1を分離するための分離ロール6とを含む。
本発明にかかるフレキシブル積層板の一の製造方法は、図1を参照して、上記ラミネート機において、耐熱性接着フィルム3と金属箔2とが一対の金属ロール4の間で保護フィルム1を介して熱ラミネートされ、図2の拡大断面図に示すような耐熱性接着フィルム3と金属箔2とからなるフレキシブル積層板5に保護フィルム1がさらに貼り合わされた積層体7が形成され、この積層体7が冷却されながら複数のロールによって搬送される。さらに、分離ロール6によって保護フィルム1が積層体7から分離され、図3の拡大断面図に示すようなフレキシブル積層板5を製造するものである。
ここで、本発明においては、保護フィルム1として、MORが1.0〜1.7のフィルムが用いられる。本発明者らは、保護フィルムに用いられるポリイミドフィルムは、一般的に、分子配向の異方性があり、その異方性により上記金属箔および耐熱性接着フィルムの膨張および収縮に対する抑制力に違いが生じて、フレキシブル積層板にシワなどの外観不良が生じる場合があることを見出した。また、フレキシブル積層板の金属箔の少なくとも一部をエッチングして配線および/または回路を形成する場合に、フレキシブル積層板の熱ラミネート後の残留応力によって、金属箔除去後の寸法変化率が大きくなる場合があることも見出した。
従って、本発明においては、分子配向の異方性が小さい保護フィルムを用いることにより、熱ラミネートの際の耐熱性接着フィルムおよび金属箔の膨張および収縮を全方向にわたって均等に抑制することにより、フレキシブル積層板の外観および金属箔除去後の寸法安定性を向上させる。かかる観点から、保護フィルムのMORは、1.0〜1.5が好ましく、1.0〜1.3がより好ましい。
本発明において保護フィルムのMORとは、マイクロ波共振導波管中にフィルム面がマイクロ波の進行方向に垂直になるように保護フィルムを導入して、保護フィルムを回転させながら透過したマイクロ波の電場強度(以下、マイクロ波透過強度という)を測定したときのマイクロ波透過強度の最小値に対する最大値の比をいう。このようにして得られるMORは、フィルムの厚さに比例するため、本発明における保護フィルムのMORとは、厚さ75μmに換算したものをいうものとする。
保護フィルムのMORは、保護フィルムの製造条件によって適宜調整することができる。製造条件は、各工程の条件変更がその後の工程にも影響するため、厳密に言及することは出来ないが、たとえば、保護フィルムがポリイミドフィルムである場合には、
▲1▼前駆体であるポリアミド酸フィルムの残溶媒量を制御する、
▲2▼フィルム製膜後にテンター炉内でのフィルムの拡縮を制御するもしくはテンター炉内の温度分布を制御する
などの方法により、ポリイミドフィルムのMORの値を1.0に近づけることができる。また、フィルム製膜の際に一方向に延伸するなどの方法により、MORの値を大きくすることができる。
本実施の形態において、保護フィルム1の搬送方向(MD方向)および幅方向(TD方向)についての分子配向比の変動幅が0.1以下であることも重要である。分子配向比の変動幅を小さくすることにより、熱ラミネートの際の耐熱性接着フィルムおよび金属箔の膨張および収縮を全方向にわたってさらに均等に抑制することにより、フレキシブル積層板の外観および金属箔除去後の寸法安定性をさらに向上させることができる。上記観点から、MD方向およびTD方向について分子配向比の変動幅は0.08以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましい。本発明において分子配向比の変動幅は、用いる保護フィルムの全面について、MD方向に0.3mごとに分子配向を測定し、同様にTD方向に0.3mごとに分子配向を測定し、これらのバラツキが0.1以下となっていることを確認すればよい。保護フィルムの分子配向比の変動を確認するには、0.3mごとの測定することで十分である。なお、長尺フィルムを用いる場合には、長さ100mごとに2m抜き取ってMORの測定を行い、バラツキが0.1以下となっていることを確認すれば十分である。
分子配向比のバラツキが0.1以下の保護フィルムを得る方法としては、テンター炉内の温度のバラツキを制御する方法が挙げられる。
また、保護フィルム1の200℃〜300℃における線膨張係数αは、上記金属箔の200℃〜300℃における線膨張係数をαとするとき、(α−10)ppm/℃以上(α+10)ppm/℃以下であることが好ましい。保護フィルムは、金属箔と接触した状態で熱ラミネートされるため、保護フィルムの線膨張係数αと金属箔の線膨張係数αとの差が大きいとフレキシブル積層板の残留応力が大きくなる。かかる観点から、保護フィルムの線膨張係数は、(α−5)ppm/℃以上(α+5)ppm/℃以下であることがより好ましい。
また、保護フィルム1の25℃における引張弾性率は、2GPa以上10GPa以下であることが好ましい。引張弾性率が2GPa未満であると熱ラミネートの際の張力によって保護フィルムが伸びる可能性があり、10GPaを超えると保護フィルムが硬くなり熱ラミネートの際の金属箔および耐熱性接着フィルムへの熱および圧力の集中を緩和する効果が損なわれる可能性がある。かかる観点から、保護フィルムの25℃における引張弾性率は、4GPa以上6GPa以下であることがより好ましい。
また、保護フィルム1の厚さは75μm以上であることが好ましい。保護フィルムの厚さが75μm未満であると、熱ラミネートの際の金属箔および耐熱性接着フィルムへの熱および圧力の集中を緩和する効果が小さくなる。かかる観点から、保護フィルムの厚さは125μm以上であることがより好ましい。一方、保護フィルムの厚さは225μm以下であることが好ましい。保護フィルムの厚さが225μmを超えると、熱ラミネートの際に熱ロールからの熱が伝わりにくい、熱ラミネート後の保護フィルム分離の円滑さが損なわれるなどの支障が生じる可能性がある。
また、保護フィルム1には、特に制限はないが、等方的な分子配向を得ることができる、すなわちMORを1.0に近づけることができる樹脂フィルムが好ましく、さらに耐熱性、耐久性などのバランスに優れる点から非熱可塑性のポリイミドフィルムであることがより好ましい。ここで、本発明において、非熱可塑性のポリイミドフィルムとは、熱硬化性ではないがラミネート温度において可塑性を示さないポリイミドフィルムをいい、ガラス転位温度が分解温度より高いポリイミドフィルムに加えて、ガラス転位温度が分解温度より低くてもラミネート温度より高いポリイミドフィルムを含む。
金属箔2としては、たとえば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔またはステンレススチール箔などが用いられる。金属箔2は単層で構成されていてもよく、表面に防錆層や耐熱層(たとえば、クロム、亜鉛、ニッケルなどのメッキ処理による層)が形成された複数の層で構成されていてもよい。中でも、金属箔2としては、導電性およびコストの観点から、銅箔を用いることが好ましい。また、銅箔の種類としては、たとえば圧延銅箔、電解銅箔などがある。また、金属箔2の厚みが薄いほどプリント基板となるフレキシブル積層板における回路パターンの線幅を細線化できることから、金属箔2の厚みは35μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。
また、耐熱性接着フィルム3としては、熱融着性を示す樹脂からなる単層フィルム、熱融着性を示さないコア層の両面または片面に熱融着性を示す樹脂からなる熱融着性層を形成した複数層フィルムなどを用いることができる。ここで、熱融着性を示す樹脂としては、熱可塑性ポリイミド成分で構成される樹脂が好ましく、たとえば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミドなどを用いることができる。中でも、熱可塑性ポリイミドおよび熱可塑性ポリエステルイミドを用いることが特に好ましい。なお、これら熱融着性を示す樹脂に、エポキシ樹脂などの熱硬化性成分を配合してもよい。また、熱融着性を示さないコア層としては、熱融着性を示す樹脂からなる熱融着性層の強度を補強し、耐熱性を保持するものであれば特に限定されず、たとえば非熱可塑性ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアリレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムなどを用いることができる。しかし、電気的特性(絶縁性)の観点から、非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いることが特に好ましい。
さらに、耐熱性接着フィルム3の200℃〜300℃における線膨張率は、200℃〜300℃における線膨張係数をαとするとき、
(α−10)ppm/℃以上(α+10)ppm/℃以下であることが好ましい。熱ラミネートにより耐熱性接着フィルムは金属箔と融着されるため、耐熱性接着フィルムの線膨張係数と金属箔の線膨張係数αとの差が大きいとフレキシブル積層板の残留応力が大きくなる。かかる観点から、耐熱性接着フィルムの線膨張係数は、(α−5)ppm/℃以上(α+5)ppm/℃以下であることがより好ましい。
また、金属ロール4による熱ラミネート温度は、耐熱性接着フィルム3の熱融着性を示す樹脂のガラス転移温度よりも50℃以上高い温度であることが好ましく、熱ラミネート速度を上げるためには、耐熱性接着フィルム3のガラス転移温度よりも100℃以上高い温度であることがさらに好ましい。金属ロール4の加熱方式としては、たとえば、熱媒循環方式、熱風加熱方式または誘電加熱方式などがある。
た、金属ロール4における熱ラミネート時の圧力(線圧)は49N/cm以上490N/cm以下であることが好ましい。熱ラミネート時の線圧が49N/cm未満である場合には線圧が小さすぎて金属箔2と耐熱性接着フィルム3との密着性が弱まる傾向にあり、490N/cmよりも大きい場合には線圧が大きすぎてフレキシブル積層板5に歪みが生じて金属箔2の除去後のフレキシブル積層板5の寸法変化が大きくなることがある。かかる観点から、熱ラミネート時の線圧は98N/cm以上294N/cm以下であることがより好ましい。金属ロール4の加圧方式としては、たとえば、油圧方式、空気圧方式またはギャップ間圧力方式などがある。
また、熱ラミネート速度には、特に制限はないが、生産性向上の観点から0.5m/min以上であることが好ましく、1m/min以上であることがさらに好ましい。
また、熱ラミネート前に、急激な温度上昇を避ける観点から、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3に予備加熱を施すことが好ましい。ここで、予備加熱は、たとえば、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3を熱ロール4に接触させることによって行なうことができる。
また、熱ラミネート前に、保護フィルム1、金属箔2および耐熱性接着フィルム3の異物を除去する工程を設けることが好ましい。特に、保護フィルム1を繰り返し用いるためには、保護フィルム1に付着した異物の除去が重要となる。異物を除去する工程としては、たとえば、水や溶剤などを用いた洗浄処理や粘着ゴムロールによる異物の除去などがある。中でも、粘着ゴムロールを用いる方法は、簡便な設備である点から好ましい。
さらに、熱ラミネート前に、保護フィルム1および耐熱性接着フィルム3の静電気を除去する工程を設けることが好ましい。静電気を除去する工程としては、たとえば除電エアによる静電気の除去などがある。
【実施例】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、実施例および比較例において、MOR、線膨張率、外観、寸法変化率は以下のようにして測定または評価した。
[MOR]
保護フィルムのMOR測定は、KSシステムズ社製マイクロ波分子配向計MOA2012A型により行なった。まず、保護フィルムから、MD方向に0.3mごとに、同様にTD方向に0.3mごとに、4cm×4cmのサンプルを採取した。
サンプルとなる保護フィルムを、マイクロ波の進行方向にフィルム面が垂直になるようにマイクロ波共振導波管中に挿入し、この保護フィルムを回転させながら透過したマイクロ波の電場強度(以下、マイクロ波透過強度という)を測定した。ここで、MORは、マイクロ波透過強度の最小値に対する最大値の比であり、下式(1)により、算出した。すなわち、MORの値が1に近いほど分子配向が等方的であり、MORの値が大きいほど分子配向が異方的であることを示す。なお、マイクロ波透過強度が最小となる方位が分子配向の主軸となる。
MOR
=(マイクロ波透過強度の最大値)/(マイクロ波透過強度の最小値) (1)
しかし、かかるMORは、フィルムの厚さに比例する数値であるため、本発明におけるMORとして、厚さ75μmのフィルムに換算したMOR75を用いた。この、MOR75は、厚さtμmの保護フィルムのMOR測定値をMORとすると、下式(2)によって算出される。なお、上記MOR75の測定は、MD方向およびTD方向のそれぞれについて、0.3mの間隔をあけて、3点以上行なった。
MOR75=1+(MOR−1)×75/t (2)
[線膨張係数]
線膨張係数とは、圧力一定のもとで、物体が熱膨張する時、その長さの相対変化量の温度変化量に対する割合をいい、本発明においては、ppm/℃の単位を用いて表示する。保護フィルム、耐熱性接着フィルムおよび金属箔の線膨張係数は、セイコーインスツルメント社製熱機械的分析装置(商品名:TMA(Thermomechanical Analyzer)120C)により、窒素気流下、上昇温度10℃/minにて20℃から400℃に昇温した後、上昇温度10℃/minにて20℃から400℃の温度範囲で測定した200℃〜300℃の範囲内の平均値を求めた。
[外観]
フレキシブル積層板の外観は、目視により評価した。特に、フレキシブル積層板1mあたりに発生したシワの個数を数えることにより、以下の評価基準により評価した。
◎・・・シワが全くない
○・・・1mあたり1個以下のシワがある
×・・・1mあたり2個以上のシワがある
[寸法変化率]
金属箔除去前後の寸法変化率は、JIS C6481を参考にして、以下のように測定・算出した。すなわち、フレキシブル積層板から200mm×200mmの正方形のサンプルを切り出し、このサンプルにおいて150mm×150mmの正方形の四隅に直径1mmの穴を形成した。なお、200mm×200mmの正方形のサンプル、及び150mm×150mmの正方形の2辺はMD方向に、残り2辺はTD方向に沿うようにした。また、これら2つの正方形の中心が一致するようにした。このサンプルを20℃、60%RHの恒温恒湿室に12時間放置して調湿した後、上記4つの穴の距離を測定した。次に、フレキシブル積層板の金属箔をエッチング処理により除去した後、20℃60%RHの恒温室に24時間放置した。その後、エッチング処理前と同様に、4つの穴についてそれぞれの距離を測定した。金属箔除去前の各穴の距離の測定値をD1、金属箔除去後の各穴の距離の測定値をD2として、下式(3)に基づいて寸法変化率を算出した。この寸法変化率の絶対値が小さいほど寸法安定性に優れていることを示す。
寸法変化率(%)={(D2−D1)/D1}×100 (3)
[実施例1]
図1に示す熱ラミネート機を用いてフレキシブル積層板を製造した。まず、保護フィルム1として、MOR75が1.07〜1.10、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.03、線膨張係数が12ppm/℃、引張弾性率が6GPa、厚さが75μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムが巻きつけられているロールと、金属箔2として線膨張係数が19ppm/℃、厚さ18μmの銅箔が巻きつけられているロールと、耐熱性接着フィルム3として非熱可塑性のポリイミドフィルムからなるコア層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂層(ガラス転移温度:240℃)を備えた25μmの厚みの三層構造の接着フィルムが巻きつけられているロールとを熱ラミネート機に設置した。
次いで、これらのロールを回転させて、除電、異物の除去および予備加熱を行なった後に、非熱可塑性ポリイミドフィルム、銅箔および接着フィルムを一対の金属ロール4にて、熱ラミネート条件(温度:360℃、線圧:196N/cm、熱ラミネート速度:1.5m/min)で熱ラミネートし、接着フィルムの両面に銅箔および非熱可塑性ポリイミドフィルムがこの順序で貼り合わされた五層構造の積層体7を作製した。
そして、積層体7を複数のロールによって徐冷した後、分離ロール6により銅箔から非熱可塑性ポリイミドフィルムを分離して、フレキシブル積層板5を製造した。このフレキシブル積層板の外観評価および寸法測定を行なった。
さらに、上記フレキシブル積層板の銅箔をエッチング処理により除去し、銅箔除去後の寸法を測定して、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率(MD方向、TD方向)を算出した。これらの結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.02%であった。 用いた保護フィルムのMOR測定は、幅端部から0.15mの点、およびこの点からTD方向に0.3m毎に3点、MD方向に0.3m毎に5点、合計15点について行ない、MOR75の範囲および0.3mあたりのMOR75の変動幅を算出した。
[実施例2]
保護フィルム1として、MOR75が1.07〜1.10、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.03、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが75μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例2のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.03%であった。
[実施例3]
保護フィルム1として、MOR75が1.25〜1.30、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.05以下、線膨張係数が12ppm/℃、引張弾性率が6GPa、厚さが125μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例3のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.03%であった。
[実施例4]
保護フィルム1として、MOR75が1.25〜1.30、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.05以下、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが75μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例4のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.02%であった。
[実施例5]
保護フィルム1として、MOR75が1.25〜1.30、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.05以下、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが125μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例5のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.02%であった。
[実施例6]
保護フィルム1として、MOR75が1.42〜1.50、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.08以下、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが75μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例6のフレキシブル積層板にはシワが全くなく、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.03%、TD方向が+0.02%であった。
[実施例7]
保護フィルム1として、MOR75が1.60〜1.70、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.10以下、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが75μm,幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。実施例7のフレキシブル積層板に発生したシワは1mあたり1個以下であり、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.04%、TD方向が+0.03%であった。
(比較例1)
保護フィルム1として、MOR75が2.15〜2.30、MD方向およびTD方向について0.3mあたりのMOR75の変動幅が0.15以下、線膨張係数が16ppm/℃、引張弾性率が4GPa、厚さが125μm、幅が0.9mの非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、フレキシブル積層板を製造し外観評価を行ない、金属箔(銅箔)除去前後の寸法変化率を算出した。結果を表1に示す。比較例1のフレキシブル積層板に発生したシワは1mあたり2個以上であり、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向が−0.09%、TD方向が+0.07%であった。

表1より明らかなように、保護フィルムのMOR75が1.0〜2.0であるフレキシブル積層板は、シワの発生が1mあたり1個以下であり外観に優れるとともに、銅箔除去前後の寸法変化率は、MD方向およびTD方向のいずれの方向においても±0.05%の範囲内と極めて高い寸法安定性を示した。ここで、銅箔除去前後の寸法変化率が±0.05%の範囲内とは、フレキシブル積層板に微細配線を形成する場合においても寸法精度に問題が生じない範囲である。また、保護フィルムのMOR75が1.0〜1.5であるフレキシブル積層板には、シワの発生が認められず外観がさらに向上した。
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
上記のように、本発明は、外観および金属箔除去後の寸法安定性の向上を目的として、フレキシブル積層板の製造方法に広く利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性接着フィルムの少なくとも一面に金属箔を貼り合わせてなるフレキシブル積層板の製造方法であって、
前記耐熱性接着フィルムと前記金属箔とを一対の金属ロールの間において保護フィルムを介して熱ラミネートする工程と、前記保護フィルムを分離する工程とを含み、
前記保護フィルムの分子配向比が、1.0〜1.7の範囲となっており、かつ、保護フィルムの搬送方向および幅方向についての分子配向比の変動幅が0.1以下となっていることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項2】
前記保護フィルムの200℃〜300℃における線膨張係数αが、前記金属箔の200℃〜300℃における線膨張係数をαとするとき、
(α−10)ppm/℃以上(α+10)ppm/℃以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項3】
前記保護フィルムの25℃における引張弾性率が、2GPa以上10GPa以下であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項4】
前記保護フィルムの厚さが75μm以上であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれか一項に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項5】
前記保護フィルムが、非熱可塑性のポリイミドフィルムであることを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれか一項に記載のフレキシブル積層板の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/063468
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516683(P2005−516683)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019493
【国際出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】