説明

フレネルレンズを有する発光装置

【課題】フレネルレンズと光源をケースの内部に設けた発光装置であって、フレネルレンズが所望の放射角特性を容易に発現させることができ、かつ、光源から発生する熱を高効率でもってケースまで伝達することができ、しかも、水深深くまで使用可能なものを提供する。
【解決手段】この発光装置1は、光透過部2aを有し、絶縁性の液体5を内部に密封しているケース2と、ケース2内に設けられ液体5に浸された光源3と、ケース2内に設けられ液体5に浸されていて、光源3から液体5を介して入射された光の放射角を変え、その放射角を変えた光を光透過部2aを通して外部に放射するフレネルレンズ4と、を備え、フレネルレンズ4は、フレネルレンズ形状部41aが一の面に形成された薄板状のレンズ本体41と、レンズ本体41の一の面側に重ねられてフレネルレンズ形状部41aとの間に気体を密封する薄板状の蓋体42と、を有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルレンズと光源をケースの内部に設けた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄くて軽いフレネルレンズは、多くの産業分野にわたって各種装置の構成要素として広く利用されている。例えば、本願発明者の一人が発明者として含まれる特許文献1においては、フレネルレンズは、携帯用の拡大鏡として使用できるものであって、少なくとも2層のプラスチック層からなる積層体となっており、積層体を構成する層の内、少なくとも一つの層の外面に露出しない面の一部がフレネルレンズ形状に加工されているものが提案されている。このものは、フレネルレンズ形状に擦り傷が付き難くなっている。
【0003】
フレネルレンズが用いられる主要な装置として、発光装置があげられる。発光装置においては、フレネルレンズは、光源から入射された光の放射角を目的に応じて効果的に変えて放射する。特許文献2には、水中発光(照明)装置が記載されている。このものは、構造物の水際を照明するものであって、水中にフレネルレンズが配置されており、陸上に設けられた光源から光ファイバーを通して導かれた光がフレネルレンズに導入され、フレネルレンズにより放射角が変えられて構造物の水際に照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−206657号公報
【特許文献2】特開平02−260302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、フレネルレンズは、水中で発光する発光装置にも用いられる。しかし、水中の光の屈折率は空気中の屈折率と異なるため、特許文献2に示されたフレネルレンズにより所望の放射角特性を得ることは、現実的には容易ではない。また、水中の移動(水深方向及び水平方向)の自由度を考慮すれば、光ファイバーを延ばして対応するよりはケースの内部に光源を設ける方が有効である。このためには、ケースを密閉構造にしてその内部に空気が存在し得るようにし、光源とフレネルレンズをその空気の雰囲気中に設けることも考えられる。
【0006】
ところが、被照明物体を十分に照らすために光源を高輝度にすると、光源から多量の熱が発生する。極端な場合、この多量の熱によって光源自体を焼損するといった事態に至る恐れもあるが、そのような事態を招来することなく、密封されている空気を通して高効率にケースまで伝え、ケース外に排出するのは容易ではない。また、発光装置を水深が深いところまで使用可能とすると、大きな水圧に耐え得るようにケースを頑丈にしなければならず、実用的なサイズや重さにするのが困難である。
【0007】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、フレネルレンズと光源をケースの内部に設けた発光装置であって、フレネルレンズが所望の放射角特性を容易に発現させることができ、かつ、光源から発生する熱を高効率でもってケースまで伝達することができ、しかも、水深深くまで使用可能なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発光装置は、光透過部を有し、絶縁性の液体を内部に密封しているケースと、前記ケース内に設けられ前記液体に浸された光源と、前記ケース内に設けられ前記液体に浸されていて、前記光源から前記液体を介して入射された光の放射角を変え、その放射角を変えた光を前記光透過部を通して外部に放射するフレネルレンズと、を備え、前記フレネルレンズは、フレネルレンズ形状部が一の面に形成された薄板状のレンズ本体と、該レンズ本体の一の面側に重ねられて前記フレネルレンズ形状部との間に気体を密封する薄板状の蓋体と、を有して構成されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発光装置は、請求項1に記載の発光装置において、前記フレネルレンズ形状部の中心又は複数の段差の高部の少なくとも1つは蓋体に接していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発光装置は、請求項1又は2に記載の発光装置において、前記フレネルレンズは、フレネルレンズ形状部に向き合う蓋体の一の面に微細凹凸部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発光装置によれば、ケースの中でフレネルレンズと光源が液体に浸された状態になっているとともに、フレネルレンズのフレネルレンズ形状部には気体が接触しているので、フレネルレンズの所望の放射角特性を容易に発現させることができ、かつ、光源から発生する熱を高効率にケースまで伝達することができ、その上、水深深くまで使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る発光装置1の模式的な側面視断面図である。
【図2】同上の発光装置1のフレネルレンズ4を示す模式的な側面視断面図である。
【図3】同上の発光装置1のレンズ本体41を模式的に示すものであって、(a)が側面視断面図、(b)が平面図(及び底面図)である。
【図4】同上の発光装置1のフレネルレンズ4の変形例を示す模式的な側面視断面図である。
【図5】同上の発光装置1のフレネルレンズ4の別の変形例の一部を示す模式的な側面視拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を説明する。本発明の実施形態に係る発光装置1は、図1に示すように、ケース2と、ケース2内に設けられた光源3と、ケース2内に設けられ、光源3から入射された光の放射角(中心軸からの角度)θを変えて放射するフレネルレンズ4と、を備えている。ケース2は、その内部に、絶縁性の液体5を密封している。光源3とフレネルレンズ4は、この液体5に浸された(接触した)状態になっている。
【0014】
ケース2は、箱状をなすその前面部に、形状に限定はないが、高耐圧性の光透過部2aを有している。光透過部2aは、光源3から発せられフレネルレンズ4を通過した光がそれを透過してケース2外の物体に適切に照射される程度に透明である。また、ケース2の光透過部2aを除く部分、本実施形態では後面部に、光源3などを制御するための電力線などが内部に通された電気制御ケーブル6Aが取り付けられている。また、ケース2の内部には、ケース2に固定された支持枠体6Bが有り、後述の光源3やフレネルレンズ4は支持枠体6Bに固定されている。
【0015】
液体5は、電気絶縁油などが適用可能である。液体5は、光源3から発せられた光が透過できる程度に透明(例えば、無色透明又は僅かに黄色がかった透明など)である。この液体5は、気体よりも密度が高く熱伝導率が高いために、光源3から発生した熱を適切に吸収してケース2まで高効率でもって伝達するのである。ケース2に伝達された熱は、ケース2から外部に放出される。
【0016】
光源3は、他の光源も可能ではあるが、通常はLED(Light Emitting Diode)を用い、更には高出力(高輝度)の単一の(1個だけの)LEDを用いるのが好ましい。単一のLEDは、専有領域が小さくなることから発光装置1の小型化及び軽量化が可能であり、また、後述のようにフレネルレンズ4で集光する場合、フレネルレンズ4を1枚用いて所定の範囲(例えば、放射角θの最大が20〜30度程度の範囲)に集光し易くなる。高出力のLEDを用いた光源3は、多量の熱をその小さな専有領域から発生するため、光源3を焼損或いは劣化させないように液体5により熱を適切に吸収させることが非常に有効になる。高出力のLEDとして、例えば、50ワットの消費電力の高出力LEDなどを用いることが可能である。なお、図1における符号6Cは光源3のための電気配線ケーブルである。
【0017】
フレネルレンズ4は、図2に示すように、薄板状のレンズ本体41と薄板状の蓋体42とが積層されることにより構成されている。レンズ本体41と蓋体42は、例えば、プラスチック製又はシリコン樹脂製などである。
【0018】
レンズ本体41は、フレネルレンズ形状部41aが一の面に形成されている。フレネルレンズ形状部41aは、図3に示すように、複数の段差が平面視同心円状に形成されており、それらの段差間の各領域が、滑らかに表面形状が変化し光を屈折させる光屈折領域41aaとなっている。図3において、符号41abは段差の高部(レンズ本体41の厚さが大きい部位)、符号41ab’は段差の低部(レンズ本体41の厚さが小さい部位)を示している。この段差の数は特に限定されるものではない。また、図1〜3においては、フレネルレンズ4のレンズ本体41は放射角θを小さくする、すなわち集光する型のものを示している。この型は、遠くの物体を照らすのに好適である。近くの物体を広く照明するなどの場合のフレネルレンズ4には、図4に示すように、レンズ本体41が光の放射角θを大きくする型のものを用いるようにするとよい。なお、図2及び図4においては、理解を容易にするために破線で光を模式的に書き入れている。
【0019】
蓋体42は、薄板状をなす両面が概ね平らな面となっており、レンズ本体41とほぼ同じ大きさである。蓋体42がフレネルレンズ形状部41aの一の面側に重ねられると、蓋体42の一の面(レンズ本体41に向き合う面)とフレネルレンズ形状部41aの各々の光屈折領域41aaとの間には隙間が生じるので、そこに気体(通常は空気)が存在することになる。蓋体42の周辺端部は、この隙間に液体5が侵入することのないようにレンズ本体41の周辺端部41bに接着されている。従って、フレネルレンズ4のフレネルレンズ形状部4aには、密封された気体が接触している状態が保持されることになる。
【0020】
なお、レンズ本体41の他の面(蓋体42に向き合わない側の面)は、概ね平らな面となっている。レンズ本体41の他の面と蓋体42の他の面(レンズ本体41に向き合わない側の面)に、表面の硬度を向上させるためのハードコート処理を行ったり、レンズ本体41の他の面に、光入射効率を上げるための無反射コート処理を行ったりしてもよい。
【0021】
このフレネルレンズ4では、光源3から液体5を介して届いた光は、レンズ本体41の他の面から入射され、一の面のフレネルレンズ形状部41aから気体中に放射される。この放射のとき、光は、各々の光屈折領域41aaで、レンズ本体41の表面形状及び屈折率と気体の屈折率で決まる特性でもって放射角θを変える。すなわち、容易に、地上(大気中)と同様の所望の放射角特性を発現させることができるのである。なお、この比較実験として、本願発明者は、液体5を電気絶縁油とし、その中にレンズ本体41をそのまま浸けて実験を行ったが、所望の放射角特性を得ることはできなかった。
【0022】
このように、発光装置1は、フレネルレンズ4が所望の放射角特性を容易に発現させることができ、かつ、光源3から発生する熱を高効率にケース2まで伝達することができるものであるが、更なる特長は、水深が深い場所(例えば、水深30m以上)まで使用可能なことである。これは、液体5がケース2の内側に充満し、ケース2を介しての外部からの圧力に対して液体5の体積は極めて僅かにしか変化しないので、ケース2には大きな歪みが発生せず、十分な耐圧を実現することができるからである。
【0023】
また、発光装置1は、上述のような単一のLEDの光源3と、薄くて軽いフレネルレンズ4と、を用いることができるので、全体として非常に小型で軽いものとすることができる。従って推進力がさほど大きくない動力部(スクリュー等)しか持たない水中移動装置であっても、発光装置1に取り付けて、水深が深い場所において発光装置1を遠隔操作し、ケース2外の物体に対して位置や向きを自由自在に変えて光を照射することが可能になる。例えば、発光装置1は、画像撮像水中ロボットのヘッドライトなどに用いることが可能である。
【0024】
次に、フレネルレンズ4ついて更に詳細に説明する。
【0025】
水深が深い場所では、フレネルレンズ4にもケース2及び液体5を介して外部から圧力がかかる。フレネルレンズ形状部41aの形成箇所にも、直交方向(厚さ方向)に力が加わる。このとき、水深が非常に深い場所でも耐え得るように、少なくとも使用条件下で、フレネルレンズ形状部41aの中心41ac又は複数の段差の高部41abの少なくとも1つが蓋体42に接触するようにするのが好ましい(なお、ここでの段差は、集光する型のものの最も外側の段差は除かれる)。こうすると、レンズ本体41の周辺端部41b以外でも蓋体42と接触することになるので、水深が深い場所でのフレネルレンズ形状部41aにおける局部の歪みを軽減し、その結果、耐圧を高くし、放射角特性を保持することができる。図1〜3においては、フレネルレンズ形状部41aの中心41ac及び段差の高部41abの全てが蓋体42と接触しているものを示している。このようにすると、フレネルレンズ4を例えば600気圧までも耐え得るようにすることも可能である。
【0026】
また、フレネルレンズ4は、上述のように、フレネルレンズ形状部41aにより放射角θを変えるのが主な目的ではあるが、光の放射角θを変えるとともに拡散する(換言すれば、散乱する、或いは、ぼかす)ようにすることも可能である。そのためには、図5に示すように、フレネルレンズ形状部41aに向き合う蓋体42の一の面に微細凹凸部42aを有するよう微細凹凸加工(擦りガラス状加工)をする。この微細凹凸部42aは、一つ一つの凹凸がフレネルレンズ形状部41aの光屈折領域41aaの面積(平面視の面積)よりも非常に小さいものである。一つ一つの凹凸の形状や大きさは特に限定されるものではない。その拡散光は、いろいろな向きの光線が含まれ、ケース2外の物体に陰影が生じ難くしたり、光沢有る物体から反射される光の局所的な強さを軽減して光の映り込みを少なくしたりすることができる。
【0027】
ここで、微細凹凸部42aに、レンズ本体41と蓋体42により密封された気体が接触していることが重要である。そうすることにより、微細凹凸部42aの近傍を地上(大気中)と同様な状態とし、容易に所望の拡散特性を発現させることができるのである。なお、この比較実験として、本願発明者は、微細凹凸部42aを有した蓋体42のみを電気絶縁油の液体5の中に浸けてレーザ光を透過させる実験を行ったが、透過したレーザ光が拡散することはなかった。
【0028】
以上、本発明の実施形態に係る発光装置について説明したが、本発明は、実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、発光装置1は、水中のみならず、地上で使用される発熱量が多い発光装置にも適用可能であり、また、照明以外の用途で光照射を行う発光装置にも適用可能である。
【0029】
1 発光装置
2 ケース
2a ケース2の光透過部
3 光源
4 フレネルレンズ
41 フレネルレンズ4のレンズ本体
41a レンズ本体41のフレネルレンズ形状部
41aa フレネルレンズ形状部41aの光屈折領域
41ab フレネルレンズ形状部41aの段差の高部
41ab’ フレネルレンズ形状部41aの段差の低部
41ac フレネルレンズ形状部41aの中心
42 フレネルレンズ4の蓋体
42a 蓋体42の微細凹凸部
5 絶縁性の液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過部を有し、絶縁性の液体を内部に密封しているケースと、
前記ケース内に設けられ前記液体に浸された光源と、
前記ケース内に設けられ前記液体に浸されていて、前記光源から前記液体を介して入射された光の放射角を変え、その放射角を変えた光を前記光透過部を通して外部に放射するフレネルレンズと、を備え、
前記フレネルレンズは、フレネルレンズ形状部が一の面に形成された薄板状のレンズ本体と、該レンズ本体の一の面側に重ねられて前記フレネルレンズ形状部との間に気体を密封する薄板状の蓋体と、を有して構成されることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置において、
前記フレネルレンズ形状部の中心又は複数の段差の高部の少なくとも1つは蓋体に接していることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光装置において、
前記フレネルレンズは、フレネルレンズ形状部に向き合う蓋体の一の面に微細凹凸部を有していることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−59647(P2012−59647A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203819(P2010−203819)
【出願日】平成22年9月11日(2010.9.11)
【出願人】(300074101)株式会社イマック (27)
【出願人】(505309338)有機光学株式会社 (6)
【Fターム(参考)】