説明

ブレーキパッドの製造方法

【課題】接着剤を摩擦材の接着面に塗布する際に、効率的に塗布でき、保管方法、品質管理も可能なブレーキパッドの製造方法を提供する。
【解決手段】摩擦材の予備成形物の金属製プレッシャプレート側の表面に粉体接着剤を静電塗布する。摩擦材側の接着面に直接粉体接着剤を塗布するため、金属製のプレッシャプレートの処理は前処理のみとなり、金属製のプレッシャプレートヘのプライマー塗布、接着剤塗布、乾燥工程が必要ない。従って、50%以上の大幅な処理時間の短縮が図れ、それに伴う設備費削減が図れ、摩擦材と金属製のプレッシャプレートとの接着面以外に塗布されないため、材料コストの削減にもなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械、鉄道車両、二輪車、商用車、乗用車等のブレーキに用いるブレーキパッドの製造に際して、プレッシャプレート(裏板)に摩擦材を接着させる摩擦材接着技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のブレーキパッドは、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した金属製(鉄又はアルミニウム製)のプレッシャプレート上と摩擦材の予備成形物とを重ね合せ、成形用金型内で熱成形し、熱処理、塗装、焼き付け、研磨等の工程を経て、製造されている。
【0003】
従来の摩擦材の予備成形物とプレッシヤプレートとの接着について更に説明すると、プレッシヤプレートに対して、前処理(洗浄、表面処理)を施した後、溶剤型のプライマー、接着剤塗布あるいは粉体接着剤を塗布し、乾燥、予備硬化を行う(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、この特許文献1、2の発明では、プレッシヤプレートの処理に長時間を要するという問題や、摩擦材との接着面以外の箇所にも接着剤が塗布され、材料の無駄が発生するという問題があった。更に、接着剤の塗布されたプレッシャプレートの経時変化、劣化防止のための保管方法、期間等品質管理面での問題もあった。
【0005】
また、特許文献2の発明では、プライマー処理したプレッシャプレートヘの予熱(熱成形温度での予熱)効果が記載されているが、プライマーの溶出、硬化促進が起きてしまうため、プライマーの軟化点(80℃)以上の温度での予熱は実際上行われていなかった。
【特許文献1】特開平7−158672号公報
【特許文献2】特開平11−93996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は 接着剤を摩擦材の接着面に塗布する際に、効率的に塗布でき、保管方法、品質管理も可能なブレーキパッドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するため、下記の手段を採用した。
すなわち、本発明のブレーキパッドの製造方法は、繊維補強材、摩擦調整材、充填材、熱硬化性樹脂結合材を含む摩擦材の原材料を所定の圧力で成形した摩擦材の予備成形物と、金属製のプレッシャプレートとを重ね合わせて所定の温度と圧力で熱成形するブレーキパッドの製造方法であって、
前記予備成形物は、前記金属製のプレッシャプレート側の表面に熱硬化性樹脂の粉体接着剤を静電塗布し、
前記金属製のプレッシャプレートは、その表面を化成処理後、プライマー処理を施さずに前記摩擦材の成形温度まで予熱し、
前記粉体接着剤を静電塗布された前記予備成形物と、予熱された前記金属製のプレッシャプレートとを重ね合わせ、
所定の温度と圧力により前記予備成形物の熱形成と前記金属製のプレッシャプレートへの接着を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、摩擦材側の接着面に直接粉体接着剤を塗布するため、金属製のプレッシャプレートの処理は前処理のみとなり、金属製のプレッシャプレートヘのプライマー塗布も必要ない上、接着剤塗布、乾燥工程が除かれる。従って、50%以上の大幅な処理時間の短縮が図れ、それに伴う設備費削減が図れ、摩擦材の予備成形物と金属製のプレッシャプレートとの接着面以外に塗布されないため、材料コストの削減にもなる。
【0009】
従って、本発明によれば、接着剤を摩擦材の接着面に塗布する際に、効率的に塗布でき、保管方法、品質管理も可能なブレーキパッドの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明であるブレーキパッドの製造方法を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。なお、以下の実施の形態は車両のブレーキに使用するブレーキパッドの製法に応用したものである。
【0011】
この実施の形態に係るブレーキパッドの製造方法は、繊維補強材、摩擦調整材、充填材、熱硬化性樹脂結合材を含む摩擦材の原材料を所定の圧力で成形した摩擦材の予備成形物と、金属製プレッシャプレートとを重ね合わせて所定の温度と圧力で熱成形する手順で行われる。
【0012】
すなわち、この実施の形態では、図1の実施例の処理工程図に示すように、予備成形物に対し、まず金属製プレッシャプレート側の表面に熱硬化性樹脂の粉体接着剤を静電塗布する工程を施す。
【0013】
粉体接着剤は、熱硬化性タイプが可能であるが、複合型フェノール樹脂接着剤(熱硬化
性変性、熱可塑性変性、エラストマー変性)が好ましく、フェノール樹脂はレゾール、ヘ
キサミン含有のノボラックが使用できる。
【0014】
一方、金属製プレッシャプレートに対し、その表面を脱脂し、リン酸鉄処理等の化成処理後、プライマー処理を施さずに摩擦材の成形温度(例えば、150℃)まで予熱する工程を施す。
【0015】
次に、粉体接着剤を静電塗布された予備成形物と、150℃に予熱された金属製プレッシャプレートとを重ね合わせ、所定の温度と圧力により熱形成処理、加熱処理、仕上げ処理を施し、予備成形物とプレッシャプレートとを接着する。
【0016】
なお、金属製プレッシャプレートは、脱脂、化成処理、乾燥までの処理、ショットブラスト、ウェットブラスト等の表面粗しを施したもの、あるいは両者を併用したもの等が熱成形に供給される。
【0017】
なお、図1の実施例では、摩擦材の予備成形物の接着面側に粉体接着剤を均一に塗布した後、通常の工程である熱成形、加熱、研磨等を経てブレーキパッドを得た。
【0018】
また、金属製プレッシャプレートは、化成皮膜(リン酸鉄)を施し、予備成形物への粉体接着剤塗布方法は、粉体静電(静電塗布装置としてはトリボ帯電方式)を利用し行なった。
【0019】
トリボ帯電方式では、塗布ベルト上に予備成形物を置き、搬送途中、塗布ブース内でベルトを通電させ、粉体接着剤を静電塗本装置にて予備成形物の接着面上に塗布した。
【0020】
接着剤塗布量は、塗布条件の変更により制御できる。
【0021】
[比較例]
図1の比較例は、プレッシャプレートに対して、前処理(脱脂、化成処理)を施した後、粉体接着剤を塗布し、80℃まで予熱した工程を示す。
【0022】
この実施の形態(実施例)は、摩擦材側の接着面に直接粉体接着剤を塗布することを特徴とする方法であり、金属製プレッシャプレートの処理は前処理のみとなる。このように、この実施例では、金属製プレッシャプレートヘのプライマー塗布、接着剤塗布、乾燥工程が除かれる。従って、実施例は比較例に比して50%以上の大幅な処理時間の短縮が図れ、それに伴う設備費削減が図れ、摩擦材とプレッシャプレートとの接着面以外に塗布されないため、材料コストの削減にもなる。
【0023】
また、金属製プレッシャプレートは、耐熱性の低いプライマー、接着剤が施されていないため、高温での予熱(200℃まで)ができ、成形時間の短縮が可能である。
【0024】
更に、結果として、接着剤の塗布された金属製プレッシャプレートの経時変化、劣化防止のための保管方法、期間等品質管理面で、従来の製法に比して優位である。
【0025】
図1は、実施例と比較例に対する予備成形物への塗布量、接着強度結果を示した物である。図に示すように、ほぼ同量の接着剤塗布量で、実施例のせん断強度は、比較例のものより同等以上の強度を有し、優れた接着強度を有することがわかる。
【0026】
なお、接着剤塗布の他の方法として、予備成形物を熱成形工程への搬送パッケージに入れた後、予備成形物の接着面およびパッケージに静電塗布し、接着剤塗布された予備成形物を熱型へ投入することもできる。この場合、パッケージに付着した接着剤はブラッシングにて除去し、リサイクルを行なう。また、その他、静電塗布以外での予備成形物への塗布も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ブレーキパッドの作製工程の流れ図であり、本発明(実施例)と従来技術(比較例)を示す。
【図2】本発明(実施例)と従来技術(比較例)との比較において、摩擦材せん断試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強材、摩擦調整材、充填材、熱硬化性樹脂結合材を含む摩擦材の原材料を所定の圧力で成形した摩擦材の予備成形物と、金属製のプレッシャプレートとを重ね合わせて所定の温度と圧力で熱成形するブレーキパッドの製造方法であって、
前記予備成形物は、前記金属製のプレッシャプレート側の表面に熱硬化性樹脂の粉体接着剤を静電塗布し、
前記金属製のプレッシャプレートは、その表面を化成処理後、プライマー処理を施さずに前記摩擦材の成形温度まで予熱し、
前記粉体接着剤を静電塗布された前記予備成形物と、予熱された前記金属製のプレッシャプレートとを重ね合わせ、
所定の温度と圧力により前記予備成形物の熱形成と前記金属製のプレッシャプレートへの接着を行うことを特徴とするブレーキパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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