説明

ブレーキライニング用擦り合わせ装置

【課題】ブレーキライニングの擦り合わせ作業を効率的に行い、且つ、ブレーキライニングの交換時に現地での擦り合わせ作業を不要にする。
【解決手段】本擦り合わせ装置は、基台4と、基台4に設けられたモータ5と、モータ5の出力軸5cに設けられたホイール8と、一端部が基台4に対して所定の角度内で回転自在に設けられたアーム6と、ブレーキライニング1をアーム6に対して着脱自在に取り付けるための取付手段13とを備える。そして、取付手段13によってブレーキライニング1をアーム6に取り付け、その状態でアーム6を一側に傾倒し、ブレーキライニング1をホイール8の外周面に押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベーターのブレーキ装置に用いられるブレーキライニングに対し、ブレーキ装置への装着前に擦り合わせを行うためのブレーキライニング用擦り合わせ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターのブレーキ装置では、例えば、モータの出力軸(或いは、出力軸に連動する回転軸)にブレーキホイールを設置することにより、このブレーキホイールにブレーキライニングを押し付けて、エレベーターのかごを昇降路内で静止保持するための静止保持力を発生させている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
このような構成を有するブレーキ装置では、エレベーターの使用によってブレーキライニングが徐々に摩耗していくため、定期的或いはその摩耗状態に応じてブレーキライニングを交換しなければならない。従来、ブレーキライニングの交換が必要な場合は、新しいブレーキライニングをブレーキ装置に取り付けた後、現地(エレベーターの設置現場)においてブレーキライニングの擦り合わせ作業を行っていた。
【0004】
具体的に、この擦り合わせ作業では、エレベーターのかごを昇降路内に突き上げた状態で停止させておき、ブレーキホイールにサンドペーパーを貼り付ける。そして、そのブレーキホイール(に貼り付けたサンドペーパー)にブレーキライニングを押し当てて、ブレーキホイールを手動で回転させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−35746号公報
【特許文献2】特開2006−193292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来では、ブレーキライニングの交換が必要になると、現地において行われる上記擦り合わせ作業に多大な時間と労力とが掛かり、エレベーターの停止時間が長くなるといった問題があった。
また、サンドペーパーによって削られたブレーキライニングの粉がエレベーターの実機に付着してしまうため、擦り合わせ作業後の現地清掃も大変になり、エレベーターの停止時間が延びてしまうといった問題もあった。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、ブレーキライニングの擦り合わせ作業を効率的に行うことができ、更に、ブレーキライニングの交換時に現地での擦り合わせ作業を不要にすることができるブレーキライニング用擦り合わせ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るブレーキライニング用擦り合わせ装置は、基台と、基台に設けられたモータと、モータの出力軸に設けられ、外周面にサンドペーパーを取り付けることが可能なホイールと、基台に対して所定の角度内で回転自在に設けられたアームと、アームに設けられ、ブレーキライニングをアームに対して着脱自在に取り付けるための取付手段と、を備え、アームが一側に傾倒されることにより、取付手段を介してアームに取り付けられたブレーキライニングが、ホイールの外周面に押し付けられるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ブレーキライニングの擦り合わせ作業を効率的に行うことができ、更に、ブレーキライニングの交換時に現地での擦り合わせ作業を不要にすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1におけるブレーキライニング用擦り合わせ装置を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるブレーキライニング用擦り合わせ装置を示す側面図である。
【図3】図1のブレーキライニング用擦り合わせ装置において用いられる木製ホイールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるブレーキライニング用擦り合わせ装置を示す斜視図、図2はこの発明の実施の形態1におけるブレーキライニング用擦り合わせ装置を示す側面図、図3は図1のブレーキライニング用擦り合わせ装置において用いられる木製ホイールを示す図である。
【0013】
図1乃至図3に示す擦り合わせ装置は、エレベーターのブレーキ装置に用いられるブレーキライニング1に対し、ブレーキ装置への装着前に擦り合わせを行うためのものである。ブレーキライニング1は、例えば、ブレーキシュー2と一体に設けられている。また、ブレーキシュー2には、球面座(図示せず)等を介して、ブレーキ装置の所定個所に取り付けるための取付部3が設けられている。
【0014】
即ち、エレベーターの保守等においてブレーキ装置のブレーキライニング1を交換する場合、作業者は、上記ブレーキライニング1、ブレーキシュー2、取付部3が一体化したユニットを、古いものから新しいものに取り替える。
【0015】
次に、本擦り合わせ装置の構成について、具体的な説明を行う。
4は平板状を呈する基台である。基台4は、本擦り合わせ装置の土台を構成するものであり、モータ5とアーム6とが設けられている。モータ5は、例えば、電源部5a、本体部5b、出力軸5cにより構成され、本体部5bが取付台7を介して基台4に強固に固定されている。また、モータ5の上記出力軸5cには、その先端部に、円柱状のホイール8が設けられている。
【0016】
ホイール8は、エレベーターのブレーキ装置に用いられているブレーキホイールと同様の外形を有するものであり、その外周面に、サンドペーパーを取り付けることができるように構成されている。また、ホイール8は、ブレーキライニング1の交換が必要な種々のブレーキ装置に対応するため、モータ5の出力軸5cに対して着脱自在に構成されている。
【0017】
本実施の形態におけるホイール8は、軽量化のため、その要部(例えば、外周面を形成する部分)が木製によって構成されている。そして、このホイール8は、軸方向に貫通する複数(本実施の形態においては2つ)の取付孔9a及び9bが形成されており、取付ボルト10及びナット11を用いてモータ5の出力軸5cに固定される。なお、図3は、モータ5の出力軸5cに対して取付可能な種々のホイールを示している。このホイール8a乃至8cは、それぞれ異なる径を有しており、出力軸5cへの固定用のため、取付孔9a及び9bが同じ間隔で形成されている。
【0018】
また、上記アーム6は、ホイール8の側方に配置されており、その下端部が、軸12を介して基台4に設けられている。即ち、アーム6は、この軸12により、基台4に対して所定の角度の範囲内で回転自在となるように構成されている。なお、アーム6を支持する軸12は、ホイール8の下方において、ホイール8の回転軸(即ち、モータ5の出力軸5c)と平行に配置されている。このため、アーム6は、基台4に対して揺動自在に構成され、ブレーキホイール8の外周面に接近及び離隔するように傾倒する。
【0019】
13はブレーキライニング1をアーム6に対して着脱自在に取り付けるための取付手段である。上記アーム6は、その上端部がホイール8よりも上方に突出し、取付手段13は、このアーム6の中間部に設けられている。この取付手段13は、例えば、アーム6に形成された取付孔(図示せず)や、取付部3に嵌合するナット等によって構成される。
【0020】
次に、上記構成を有する擦り合わせ装置を用いてブレーキライニング1の擦り合わせ作業を行う場合の手順について説明する。
作業者は、先ず、ブレーキライニング1、ブレーキシュー2、取付部3が一体化した新品のユニットを用意する。また、作業者は、上記構成のユニットの交換が必要な現地のブレーキ装置と同じサイズのホイール8を選定し、その選定したホイール8を、取付ボルト10及びナット11を用いてモータ5の出力軸5cに強固に固定する。
【0021】
適切な径のホイール8を出力軸5cに固定すると、作業者は、次に、そのホイール8の外周面にサンドペーパー(図示せず)を貼り付け、ホイール8の全周に渡ってサンドペーパーを配置する。また、作業者は、上記用意した新品のユニットを取付手段13を介してアーム6に取り付け、ブレーキライニング1の当たり面をホイール8(上のサンドペーパー)に対して適切に対向させる。なお、ブレーキシュー2は球面座等を介して取付部3に固定されているため、アーム6をホイール8側に傾倒させて、ブレーキライニング1をホイール8(上のサンドペーパー)に押し当てることにより、ブレーキライニング1とホイール8との当たりを適切な状態にすることができる。
【0022】
ホイール8及び上記ユニットを適切に装着した後、作業者は、電源部5aをコンセントに差し込み、モータ5の出力軸5c、即ちホイール8を回転させる。そして、作業者は、アーム6をホイール8側に手動で傾倒させることによって、回転しているホイール8(上のサンドペーパー)にブレーキライニング1を梃子の原理で押し付け、ブレーキライニング1の擦り合わせを実施する。
【0023】
また、上記擦り合わせ作業が終了すると、作業者は、ブレーキライニング1とホイール8との当たりの状態を確認する作業を行う。
具体的に、この確認作業では、作業者は、ホイール8からサンドペーパーを取り外してホイール8の外周面を露出させた後、ホイール8を再度回転させて、ホイール8の外周面にブレーキライニング1を押し付ける。その後、ブレーキライニング1の当たり面を目視にて確認し、ホイール8との当たり(ブレーキライニング1の当たり面において光沢が出ている所)が、例えば、80%以上出ていれば、擦り合わせを完了とする。
【0024】
この発明の実施の形態1によれば、上記構成の擦り合わせ装置を使用することにより、ブレーキライニング1の擦り合わせ作業を、例えば、エレベーター保守会社の事務所内等において実施することができる。即ち、ブレーキライニング1の交換が必要な場合であっても、ブレーキライニング1の擦り合わせ作業を現地にて行う必要がない。このため、ブレーキライニング1の交換を現地にて行う際に、エレベーターの停止時間を大幅に短縮させることができる。また、ブレーキライニング1の擦り合わせ作業を現地にて行う必要がないため、擦り合わせ時に発生する摩耗粉によって現地のブレーキホイールが汚れてしまうこともなく、現地での清掃作業も大幅に簡素化できる。
【0025】
また、上記構成の擦り合わせ装置を用いることにより、ブレーキライニング1の交換前、即ち、作業者が現地に赴く前に、ブレーキライニング1の当たりの確認作業まで行うことができる。このため、現地では、ブレーキライニング1を交換した直後から安定したブレーキトルクを確保することができる。
【0026】
なお、本擦り合わせ装置は、擦り合わせ作業専用のモータ5を備えているため、その作業時に、適切な速度によってホイール8を回転させることができる。このため、現地のブレーキホイールを手動で回転させていた従来と比較し、その作業効率を大幅に向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 ブレーキライニング
2 ブレーキシュー
3 取付部
4 基台
5 モータ
5a 電源部
5b 本体部
5c 出力軸
6 アーム
7 取付台
8、8a、8b、8c ホイール
9a、9b 取付孔
10 取付ボルト
11 ナット
12 軸
13 取付手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
前記基台に設けられたモータと、
前記モータの出力軸に設けられ、外周面にサンドペーパーを取り付けることが可能なホイールと、
前記基台に対して所定の角度内で回転自在に設けられたアームと、
前記アームに設けられ、ブレーキライニングを前記アームに対して着脱自在に取り付けるための取付手段と、
を備え、
前記アームが一側に傾倒されることにより、前記取付手段を介して前記アームに取り付けられたブレーキライニングが、前記ホイールの外周面に押し付けられることを特徴とするブレーキライニング用擦り合わせ装置。
【請求項2】
前記アームは、一端部が、前記ホイールの回転軸と平行に配置された軸を介して前記基台に設けられたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキライニング用擦り合わせ装置。
【請求項3】
前記アームは、一端部が、前記ホイールの下方において前記軸を介して前記基台に設けられ、他端部が前記ホイールよりも上方に突出し、
前記取付手段は、前記アームの中間部に設けられた
ことを特徴とする請求項2に記載のブレーキライニング用擦り合わせ装置。
【請求項4】
前記ホイールは、外周面を形成する部分が木製からなり、前記モータの出力軸に対して着脱自在に構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のブレーキライニング用擦り合わせ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190905(P2011−190905A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59261(P2010−59261)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】