説明

プラスチック光ファイバケーブルの製造方法

【課題】プラスチック光ファイバと被覆層との密着性が高く、且つ耐熱性に優れたプラスチック光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】コアとその外周に形成された単層または複層構造のクラッド層を有するプラスチック光ファイバと、その外周に形成された1層以上の被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルの製造方法において、プラスチック光ファイバの表面に特定の粗面化処理を施し、その後に被覆層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や航空機、船舶、電車等の移動体内の配線、あるいはFA、家庭内機器、オフィス機器等の短距離通信用配線に好適な、被覆層の密着性が高く、耐熱性に優れたプラスチック光ファイバケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバとしては、広い波長領域にわたって優れた光伝送を行うことができる無機ガラス系光学繊維が知られており、幹線系を中心に実用化されているが、この光学繊維は高価で加工性が低い。そのため、より安価で軽量、大口径であり、端面加工や取り扱いが容易である等の長所を有するプラスチック光ファイバ(以下、「POF」あるいは「POF素線」という)が、ライティング用途やセンサー用途、あるいはFA、OA、LAN等の屋内配線用途の分野で実用化されている。
【0003】
POFは、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、或いはアモルファスポリオレフィンのような、屈折率が大きく、且つ光の透過性に優れる重合体をコアに用い、これよりも屈折率の小さく且つ透明な重合体をクラッドに用いたコア−クラッド構造を有する。POFのコア材のうち、特にポリメタクリル酸メチルは、透明性、耐候性、機械的強度等の力学的性質、耐候性に優れている。
【0004】
POFが実際に屋内配線あるいは自動車内配線のような短・中距離通信用途における高速通信媒体として用いられる場合には、POFの外周に熱可塑性樹脂からなる被覆層を設けたPOFケーブルとして用いられている。特に、自動車内通信媒体に用いられるPOFケーブルは、その被覆材には耐熱性、耐薬品性に優れたナイロン樹脂が用いられる。POFケーブルは、自動車内の天井、エンジン周りに敷設され、100℃以上の高温環境下で使用されることから、90〜105℃程度の高温雰囲気下に長期間暴露された後も、優れた伝送特性を有することが要求される。
【0005】
POFケーブルが、自動車内通信媒体として用いられる場合、光源システムや受光システムとの接続を容易に行えるようにするため、プラグやフェルールを取り付けた形態で用いられる。フェルールとしては、軽量化や加工性の容易さの観点から樹脂製フェルールが用いられ、その固定方法はレーザーによるスポット溶着などが行われている。特に、上述したナイロン樹脂を被覆したPOFケーブルの場合には、レーザー溶着式のナイロン樹脂製のフェルールが標準化されている。
【0006】
このようなフェルール付POFケーブルは、フェルールの固定強度が不十分であると、フェルール取り付け加工時や、自動車内での配線時、自動車走行時の振動等の影響によりフェルールが外れやすくなるなどの問題が生じる場合がある。そのため、フェルールがPOFケーブルに強固に結合していることが要求されている。
【0007】
このフェルールの結合強度に影響する要因として、被覆層に対するフェルールの溶着度合い、及びPOF素線と被覆層との密着性の大きく二つが挙げられる。
【0008】
POFケーブルの被覆層の密着性を強くする技術として、例えば、特許文献1(特開2000−275481号公報)には、ビニリデンフロライド系樹脂からなるクラッド層とナイロン12からなる被覆層との間に、特定の樹脂材料からなる接着層を設けることが開示されている。この密着層の材料には、ビニリデンフロライド成分とテトラフロロエチレン成分とヘキサフロロプロペン成分からなる樹脂が用いられている。また、特許文献2(特開2003−322776号公報)には、最外層がフッ化ビニリデン単位を有する共重合体を主成分とする材料からなるクラッドと、最内層が熱可塑性樹脂を主成分とする材料からなる被覆層との間に、熱可塑性ポリウレタンエラストマー共重合体を主成分とする材料からなる密着層を設けることが開示されている。
【特許文献1】特開2000−275481号公報
【特許文献2】特開2003−322776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で開示されている技術では、密着層の付与工程と被覆層の付与工程が別工程となっているため、POFにかかる熱履歴が大きくなり、POFケーブルとしての光学特性が損なわれる傾向にあった。
【0010】
また、特許文献2で開示されている技術では、90〜105℃程度の高温雰囲気下における十分な伝送特性を維持することができなかった。
【0011】
本発明の目的は、プラスチック光ファイバ(POF素線)と被覆層との密着性が高く、且つ耐熱性に優れたプラスチック光ファイバケーブル(POFケーブル)を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法が提供される。
【0013】
(1)コアと該コアの外周に形成された単層または複層構造のクラッド層を有するプラスチック光ファイバと、該プラスチック光ファイバの外周に形成された1層以上の被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルの製造方法であって、
プラスチック光ファイバにおける、該プラスチック光ファイバ断面の円周方向に沿った外周部を4つのセグメントに等分し、少なくとも一組の対向するセグメントの双方においてそれぞれ一部もしくは全部を、JIS B0601−2001で示された算術平均粗さRa(μm)が0.6μm以上1.0μm以下の範囲にあるように粗面化処理を施し、且つ、この粗面化処理を、該外周部のうち合計で30%以上に実施し、
この粗面化処理されたプラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成する、プラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0014】
(2)前記プラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成するに際して押出法を用いる、上記1項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0015】
(3)前記被覆層が、(メタ)アクリル酸メチル単位を主成分とする樹脂、スチレン単位を主成分とする樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ化ビニリデン単位を主成分とする樹脂、ポリアミド樹脂のうちの少なくとも一種類を用いて形成される、上記1項又は2項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0016】
(4)前記プラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成するに際して、第1の被覆層および該第1の被覆層の外周に形成される第2の被覆層を共押出法を用いて形成する、上記1項又は2項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0017】
(5)第1の被覆層が、(メタ)アクリル酸メチル単位を主成分とする樹脂、スチレン単位を主成分とする樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ化ビニリデン単位を主成分とする樹脂のうちの少なくとも一種類を用いて形成され、
第2の被覆層が、ナイロン11及びナイロン12の少なくとも一種を主成分とするポリアミド樹脂組成物を用いて形成される、上記4項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0018】
(6)前記クラッド層は、テトラフルオロエチレン単位を含み且つ示差走査熱量測定(DSC)における結晶融解熱が40mJ/mg以下である含フッ素オレフィン系樹脂からなる層を少なくとも最外層に有する、上記1項から5項のいずれか一項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0019】
(7)上記1項から6項のいずれか一項に記載の方法によりプラスチック光ファイバケーブルを形成し、該プラスチック光ファイバケーブルの外周に、ポリアミド樹脂組成物からなるフェルールを溶着法により固定する、フェルール付きプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プラスチック光ファイバと被覆層との密着性が高く、且つ耐熱性に優れたプラスチック光ファイバケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の製造方法では、プラスチック光ファイバ(以下「POF」又は「POF素線」という)の表面に対して特定の粗面化処理を行い、その後にPOF素線外周に被覆層を形成する。このような製造方法によれば、被覆層との密着性が高く、耐熱性に優れたプラスチック光ファイバケーブル(以下「POFケーブル」という)を得ることができる。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、例えば溶融複合紡糸法によりPOF素線を形成し、そのPOF素線の表面に粗面化処理を行い、その後、押出法によりPOF素線外周に1層以上の被覆層を設けてPOFケーブルを形成することができる。
【0023】
被覆層は、単層であってもよいが、より優れた耐熱性等を得る点から、少なくともPOF素線の外周に形成する第1の被覆層と、この第1の被覆層の外周に形成する第2の被覆層を有する積層構造を有することが好ましい。
【0024】
このような積層構造を有する被覆層は、二層一括被覆が可能なクロスヘッドダイを有する共押出し被覆装置を用いて第1の被覆層および第2の被覆層を被覆する方法により形成することができる。
【0025】
本製造方法では、POF素線と被覆層との密着性を向上させるために、被覆をおこなう前にPOF素線表面の粗面化をおこなう。POF素線表面の粗面化を行うことにより、POF素線と被覆樹脂との界面でのアンカー効果が発現し、密着性が向上する。
【0026】
POF素線表面の粗面化は、JIS B0601−2001で示された算術平均粗さRa(μm)が0.6μm以上1.0μm以下の範囲にあるように実施する。表面粗さRaが1.0μmより大きくなるような条件では、POF素線と被覆層との密着強度が大きくなる一方で、クラッド表面が大きく荒らされ、また局部的にコアとクラッドの界面が破損し、結果、POF素線の光学特性や耐熱性が低下する恐れがある。引き抜き強度が十分に大きくし、且つ十分な光学特性を確保する観点から、この表面粗さRaは、0.95μm以下が好ましく、0.9μm以下がより好ましく、0.85μm以下がさらに好ましい。
【0027】
また、表面粗さRaが0.6μmより小さくなるような条件では被覆層とPOF素線の密着力を十分に向上することができず、十分な引き抜き強度を得ることができない。十分な引き抜き強度を確保する観点から、この表面粗さRaは0.65μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、0.75μm以上がさらに好ましい。
【0028】
本製造方法では、さらに、POF素線断面(線方向(長手方向)に沿った中心線に対して垂直な断面)の円周方向に沿った外周部のうち、合計で30%以上の部分もしくは全部を上記の表面粗さRaとなるように粗面化する。
【0029】
ここで、「粗面化されている」とは、粗面化処理を施していないPOF素線の表面の十点平均粗さRzを元に、十点平均粗さRzが4.0μm以上であると定義する。すなわち、本発明における粗面化処理は、十点平均粗さRzが4.0μmより小さいPOFに対して有効であり、好ましくは3.5μm以下、より好ましくは3.0μm以下のPOFに対して効果的である。この十点平均粗さRzは、JIS B0601−1994及びJIS B0031−1994に準拠する。
【0030】
POF素線表面外周部のうち、上記範囲にある表面粗さRz及びRaの粗面化部分の割合が30%より少ないと、密着強度が十分に向上せず、十分な引き抜き強度が得られない。粗面化部分の割合の上限は制限されないが、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。引き抜き強度と粗面化処理の簡略化の点から、粗面化部分の割合の上限を95%以下、あるいは90%以下にすることができる。
【0031】
さらに、POF素線表面の粗面化に際しては、POF素線断面の円周方向に沿った外周部を4つのセグメントに等分し(測定開始部分より順にL1〜L4とする)、少なくとも一組の対向するセグメント(L1とL3、もしくはL2とL4)の双方においてそれぞれ一部もしくは全部を粗面化する。対向するセグメントの双方が粗面化されてない場合は、非粗面化状態が連続する部分の面積が大きくなり、十分な引き抜き強度が得られない。より大きな引き抜き強度を得る観点から、二組の対向するセグメントのそれぞれが粗面化されていることがより好ましい。
【0032】
POF素線を粗面化するタイミングは、特に限定されないが、例えば、POF素線の製造工程内で連続的に行う方法、POF素線の製造後に別途粗面化処理工程を実施する方法、POF素線の被覆工程において被覆層の形成直前に連続的に粗面化処理を行う方法などが挙げられ、適宜選択することができる。
【0033】
POF素線の外周部を粗面化する方法としては、ラッピングフィルムをPOF素線外周部に押し当てる方法、サンドブラスト装置による方法、刃物により粗面化する方法、凹凸加工をした熱ロールにてPOF素線を挟み込み、POF表面に凹凸を付与する方法などが挙げられ、適宜選択することが可能である。装置の簡便さ、粗面化度のコントロールを容易にする等の観点からは、ラッピングフィルムを用いる方法や、サンドブラスト装置を用いる方法が好ましい。
【0034】
本発明におけるPOF素線は、そのコア材としては、非晶性の透明重合体が好適であり、例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体、または共重合体が好ましい。メタクリル酸メチルの共重合体としては、原料の全単量体量を100質量%として、メタクリル酸メチル70質量%以上とメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体30質量%以下との共重合体であることが好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−2−2トリフルオロエチル等のメタクリル酸エステル類や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類、耐熱性向上を目的とする場合には、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミドなどのマレイミド化合物や、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトンなどのラクトン単量体が挙げられる。なかでもポリメタクリル酸メチル単独重合体は、POFの優れた光伝送特性が得られることから好ましい。
【0035】
コア材の製造方法は、特に制限は無く、公知の重合方法により製造することができるが、異物の混入等を防止する点から連続塊状重合もしくは連続溶液重合法を用いることが好ましい。
【0036】
本発明におけるPOF素線は、コアの外周に少なくとも1層のクラッドを有する。クラッドが複数層から形成される場合、製造コストを低減する観点から、第1クラッドの外周に、第2クラッドを同心円状に設けた2層構造を有することが好ましい。
【0037】
クラッドがこのような2層構造を有する場合、コアの屈折率n1、第1クラッドの屈折率n2、第2クラッドの屈折率n3が、下記の関係式(1):
1>n2>n3 (1)
を満たすことが好ましい。なお、本発明における屈折率は、ナトリウムD線による25℃における屈折率をいう。
【0038】
上記の関係式を満たすことにより、POFが屈曲されて第1クラッドから光が漏れても、その漏れた光を第2クラッドで反射させることができ、POFを曲げたときの伝送損失を低減できる。
【0039】
第1のクラッドを形成する樹脂としては、フッ素化メタクリレート系重合体、フッ化ビニリデン系重合体等のPOFのクラッド材として提案されている材料から適宜選択することができる。本発明おいては、良好な透明性及び耐熱性を有しながら、屈曲性及び加工性に優れる重合体として、フッ素化メタクリレート系重合体を用いることが好ましい。
【0040】
第1クラッドに用いられるフッ素化メタクリレート系重合体としては、例えば、良好な透明性および耐熱性を有しながら、屈曲性および加工性に優れる重合体として、下記一般式(I):
CH2=CX−COO(CH2m(CF2nY (I)
(式中、Xは水素原子またはメチル基、Yは水素原子またはフッ素原子を示し、mは1又は2、nは1〜12の整数を示す。)
で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの単位(A)15〜90質量%と、他の共重合可能な単量体の単位(B)10〜85質量%からなり、屈折率が1.39〜1.475の範囲にある共重合体を用いることができる。
【0041】
POFに対して特に高帯域が要求される場合には、第1クラッド材として、下記一般式(II):
CH2=C(CH3)COO−(CH2m(CF2nCF3 (II)
(式中、mは1又は2、nは5〜12の整数を示す。)
で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(C)0〜50質量%と、下記一般式(III):
CH2=C(CH3)COO−CH2(CF2mX (III)
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、mは1〜4の整数を示す。)
で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(D)0〜50質量%との少なくとも一方と、他の共重合可能な単量体の単位(E)50〜80質量%からなる共重合体であって、屈折率が1.45〜1.48の範囲にある共重合体を用いることができる。
【0042】
但し、第1クラッドの屈折率が高すぎると、第2クラッドによる曲げ光量損失の抑制効果が不十分になる傾向があるため、POFが使用される環境に応じて伝送帯域と曲げ光量損失とのバランスをとることが望ましい。
【0043】
また、POFに対して特に低曲げ損失が要求される場合には、第1クラッド材として、長鎖フルオロアルキルメタクリレート単位(C)0〜80質量%と、短鎖フルオロアルキルメタクリレート単位(D)10〜90質量%と、他の共重合可能な単量体単位(E)10〜50質量%とからなる共重合体であって、屈折率が1.39〜1.435の範囲にある共重合体を用いることができる。
【0044】
また、POFに対して特に高い耐熱性が要求される場合には、下記一般式(IV)
CH2=C(F)COO−CH2(CF2mX (IV)
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、mは1〜4の整数を示す。)
で表わされるα−フルオロアクリル酸エステルの単位(F)からなる構造単位を有る共重合体であって、屈折率が1.38〜1.435の範囲にあり、ガラス転移温度が100℃以上である共重合体を用いることができる。
【0045】
このようなα−フルオロアクリル酸エステルの単位としては、α−フルオロアクリル酸メチル、α−フルオロアクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、α−フルオロアクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル等の単位が挙げられる。
【0046】
本発明の方法で製造するPOF素線の少なくとも最外層を構成するクラッドの材料としては、テトラフルオロエチレン(TFE)単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、フッ化ビニリデン(VdF)とTFEとの共重合体、VdFとTFEとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、VdFとTFEとHFPと(パーフルオロ)アルキルビニルエーテル(FVE)との共重合体、VdFとTFEとFVEとの共重合体、エチレンとTFEとHFPとの共重合体、TFEとHFPとの共重合体、VdFとTFEとヘキサフルオロアセトンとの共重合体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。TFEに対する共重合成分として、VdF、HFP、FVEの少なくとも1種類を用いて形成される樹脂が透明性が高く、耐熱特性、コストに優れる点から特に好ましい。
【0047】
TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂としては、具体的には、
VdF単位16〜44質量%、TFE単位46〜62質量%、HFP単位10〜22質量%からなる3元共重合体、
VdF単位5〜25質量%、TFE単位50〜80質量%、FVE単位5〜25質量%からなる3元共重合体、
エチレン単位5〜60質量%、TFE単位25〜70質量%、HFP単位5〜45質量%からなる3元共重合体、
VdF単位10〜30質量%、TFE単位40〜68質量%、HFP単位21〜40質量%、FVE単位1〜15質量%からなる4元共重合体等を挙げることができる。
【0048】
TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂は、示差走査熱量測定(DSC)における結晶融解熱(ΔH)が40mJ/mg以下のものが好ましく、30mJ/mg以下のものがより好ましく、15mJ/mg以下のものがさらに好ましい。この結晶融解熱は、含フッ素オレフィン系樹脂におけるTFE単位等に由来(VdF単位を含む場合はVdF単位にも由来)する結晶成分の熱融解に起因するものである。この結晶融解熱が40mJ/mgより大きいと、樹脂自体の結晶性が高くなり、材料が白濁する傾向がある。そのため、POFの初期の伝送層損失が増大したり、POFが高(湿)熱環境下に長期間放置された場合、伝送損失の増加が著しくなる傾向がある。この結晶融解熱が小さい含フッ素オレフィン系樹脂は、比較的低い結晶性を有し、長時間の高温条件においてもPOF素線自体の光学特性を保持することができる。上記の観点から、この結晶融解熱は40mJ/mg以下であることが好ましく、より高い耐熱性を発現するためには15mJ/mg以下であることが好ましい。
【0049】
TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂のVdF単位の含有量は50質量%以下であることが好ましい。VdF単位の含有量が50質量%より多いと、この含フッ素オレフィン系樹脂と内層樹脂(芯のポリメチルメタクリレート、又は第1クラッドのフッ素化(メタ)アクリレート系共重合体)との間に相溶層の形成が進行する傾向がある。結晶性が高い含フッ素オレフィン系樹脂と非結晶性である内層樹脂との間に形成される相溶層は、POFが長時間高温(高湿)状態に曝されることにより相分離を生じ、相間の界面状態が悪化し、光学特性を低下させる。この影響は、温度85℃湿度95%のように、水分が存在するような、高温高湿環境下で著しく現れる傾向がある。TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂のVdF単位の含有量が50質量%以下であると、この含フッ素オレフィン系樹脂と内層樹脂との相間には相溶層を生じにくく、長時間の高温条件においてもPOF素線自体の光学特性を保持することができる。上記の観点から、TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂のVdF単位の含有量は50質量%以下であることが好ましく、より高い耐熱性を発現するためには40質量%以下であることが好ましい。
【0050】
POFケーブルを70〜105℃などの高温環境や、温度差の激しい環境で用いる場合には、ピストニングを抑制するため、高温環境下での連続もしくはバッチ処理でのアニール処理を施してもよい。アニール処理の実施温度は、90℃〜105℃程度が好ましい。これは、105℃より高い温度であると、POFの製造において一般的に強度付与を目的として施される延伸配向が低下する傾向があり、90℃より低い温度では、所望の熱収縮特性を得るために非常に長時間の熱処理が必要になったり、何度も緩和処理を行う必要が生じる傾向があるためである。また、この熱処理及び緩和処理の温度を、コア材のガラス転移温度とクラッド材のガラス転移温度とのいずれか低い方の温度以下で実施することが、前述の延伸配向の低下の抑制、熱収縮特性、機械特性の点から好ましい。
【0051】
POF素線の延伸及びアニール処理の方法としては、水、水蒸気、加熱気体などの加熱媒体によってPOF素線を加熱、あるいは加熱媒体中にPOF素線を通過させ、炉前後のPOF素線の供給、排出速度を変化させることで行うことができる。また、このような処理を行う際、POF素線に数百gf(数千mN)の張力を付与して行うことが、延伸配向の保存性を高める点で好ましい。
【0052】
POF素線の延伸倍率は1.3〜3.0であることが好ましく、1.4〜2.1であることがより好ましい。延伸率が1.3より小さいと、POF素線の機械的強度が不十分になりやすく、POFケーブルが屈曲されたときにそのPOF素線が破断しやすくなる恐れがある。延伸率が3.0より大きいと、高温環境下での使用において収縮しやすくなり、POF素線自体の光伝送特性を損なう恐れがある。
【0053】
本発明におけるPOFケーブルは、POF素線の外周に一層以上の被覆層が設けられたものであり、例えば、このPOF素線に接して、第1の被覆層が被覆され、その外周に第2の被覆層を被覆することができる。
【0054】
第1の被覆層には、第2の被覆層の中に存在する低分子量物や、着色顔料、可塑剤等のPOF素線への移行を防止するバリア機能を持たせることができる。
【0055】
第1の被覆層に用いる材料としては、所望の機能に応じて、POFケーブルの被覆材料として公知の樹脂から適宜選択することができる。例えば、耐熱性の点から、(メタ)アクリル酸メチル単位を主成分とする樹脂((メタ)アクリル酸メチル系樹脂)、スチレン単位を主成分とする樹脂(スチレン系樹脂)、ポリカーボネートを主成分とする樹脂(ポリカーボネート系樹脂)、ポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)、フッ化ビニリデン単位を主成分とする樹脂(フッ化ビニリデン系樹脂)から選ばれる少なくとも一種からなる樹脂材料が好ましい。中でも、バリア機能の点から、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸メチル系樹脂は、(メタ)アクリル酸メチル単位を60質量%以上含む樹脂が好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。スチレン系樹脂は、スチレン単位を60質量%以上含む樹脂が好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。ポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネート成分を60質量%以上含む樹脂が好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、ポリブチレンテレフタレート成分を60質量%以上含む樹脂が好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン単位を60質量%以上含む樹脂が好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。
【0056】
第2の被覆層には、耐薬品性を向上したり、外光の入射を防止したり、機械的強度を向上したり、耐熱性を向上したりする等の機能を持たせることができる。
【0057】
第2の被覆層に用いる樹脂材料としては、所望の機能に応じて、POFケーブルの被覆材料として公知の樹脂から適宜選択することができる。例えば、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、ポリウレタン、フッ素系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、またはこれら2種以上の混合物などが使用できる。中でも、耐薬品性、機械的強度、耐熱性向上の点から、ポリアミド樹脂が好ましく、特にナイロン11、ナイロン12、あるいはこれらの共重合体を形成する単量体単位を組み合わせてなる共重合体が好ましく、ナイロン11およびナイロン12の少なくとも一方が好ましい。これらは被覆時の温度が低く、被覆工程における成形性が良好でPOFに熱的ダメージを与えにくい。しかも高温環境下における寸法安定性に優れるため、POF素線を被覆する第1の被覆層への密着性を高めることで、フェルール外れ等を効果的に防止することもできる。
【0058】
第2の被覆層の材料は、これらの樹脂を60質量%以上含むものが好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。
【0059】
また、第2の被覆層には、外光の入射を防止するために、カーボンブラックなどの遮光材を含有させてもよい。
【0060】
第1の被覆層および第2の被覆層の双方の機能を有効に発現させるためには、第1被覆層および第2の被覆層の厚みの関係を一定範囲に収めることが好ましく、第1被覆層の厚みをdA、第2の被覆層の厚みをdBとしたとき、下記関係式(2):
1.1≦dB/dA≦49 (2)
の範囲であることが好ましい。
【0061】
第1の被覆層のバリア機能をより高く発現するためには、第1の被覆層の厚みはできる限り厚くした方がよいが、dB/dAの値が1.1より小さくなると、第2の被覆層の耐薬品性や機械強度が低下する。密着性の向上のためには第1の被覆層の厚みはできる限り薄くしたほうがよいが、dB/dAの値が49より大きくなると、第1の被覆層のバリア機能が低下する。
【0062】
本発明におけるPOFケーブルの被覆工程は、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて、POF素線の外周を被覆材で被覆することができる。その際、共押出しにより第1の被覆層および第2の被覆層は一括被覆することができる。
【0063】
POF素線を被覆する際の被覆温度Tの範囲は、190℃以上230℃以下であることが好ましい。被覆温度が190℃より低いと、被覆する樹脂が十分に溶融されず、塊となって被覆の厚み変動が大きくなったり、被覆樹脂の被覆装置配管中の流れが悪くなり、樹脂吐出不足を起こし、所望の厚み制御が困難になる。被覆温度が230℃より高くなると、POF素線が溶融しやすくなり、被覆工程の被覆樹脂供給圧力で外径変動を起こしたり、熱劣化による伝送損失の増加等を招く恐れがある。被覆層の厚みをより薄く均一に制御し、且つPOF素線の光学特性を維持するためには、被覆温度Tは200℃から220℃の範囲にあることがより好ましい。
【0064】
被覆装置は、図2に示すようなクロスヘッドを備えた装置(クロスヘッドダイ)を用いることが好ましい。POF素線は、クロスヘッドのダイス21とニップル22に設けられた軸線25に沿った経路を通過し、被覆された後に、ダイス21の先端面21aの開口からPOFケーブルとして外部へ押し出される。その際、このクロスヘッド内では、第1流路23及び第2流路24からの樹脂が共押出しにより一括してPOF素線の外周へ被覆される。第1流路23と第2流路24が合流した第3流路26と軸線25とのなす角度θ(ダイス−ニップルのテーパー角)が20度から60度となっていることが好ましい。すなわち、POF素線と第1の被覆層および第2の被覆層を形成する材料とが、POF素線の中心軸と被覆材料の流路(第3流路26)の流れ方向とのなす角が20度から60度の範囲で接触することが好ましい。θが20度未満では、第1の被覆層および第2の被覆層をPOF素線に均一な厚みで被覆することが困難であり、一方、60度を超えると、高温に加熱された材料がPOF素線に与える熱や応力が大きくなり、POF素線の光学特性が劣化する場合がある。第1の被覆層をより薄く均一に形成するためには、角度θが30〜45度となるように形成されていることが好ましい。
【0065】
第2の被覆層の外側に更に被覆層を設ける場合においても、被覆温度やPOF素線との接触角度は上記範囲に設定することが好ましい。
【0066】
本発明によるPOFケーブルは、特に自動車内通信で用いられる場合には、本発明の方法にて製造されたPOFケーブルの外側に、耐熱性、耐屈曲性、耐薬品性、耐衝撃性に優れるポリアミド系樹脂を被覆することが好ましい。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、ナイロン621、これらを構成する構造単位を含む各種共重合ナイロン、ナイロンエラストマー、及びこれらの混合物などが挙げられる。中でも、ナイロン6、ナイロン66、或いはこれらを構成する構造単位を組み合わせてなる共重合体が好ましい。これらは材料自体の融点が高く、90〜105℃のような高温環境下においても、材料中に含まれる低分子量物質などの不純物の内層樹脂への移行を抑える働きがある。特にナイロン66は、高温環境下でのPOFの光伝送損失を大きく抑制する働きがある点から好ましい。
【0067】
本発明におけるPOFケーブルでは、POF素線への外光の入射を防止するために、被覆材にカーボンブラック等の遮光剤を含有させることもできる。また、POFケーブルの識別性、意匠性を高めるために、被覆剤に着色剤を含有させることもできる。着色剤としては、染料系や無機系の公知のものを用いることができるが、耐熱性の観点から無機顔料を用いることが好ましい。
【0068】
その他、被覆材に難燃性を付与あるいは向上するために、難燃剤を含有させてもよい。難燃剤としては、金属水酸化物、リン化合物、トリアジン系化合物など公知の難燃剤を用いることができる。ポリアミド系樹脂を主成分として用いる場合は、トリアジン系化合物や臭素系化合物が好ましく、特にシアヌル酸メラミン、臭素化ポリスチレンが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
実施例における各種測定方法を説明する。
【0071】
[表面粗さの測定]
高精度形状測定システム(株式会社キーエンス製 KS−1100)を用い、POF素線表面の線方向(中心軸方向)に沿った長さ5mm幅50μmの範囲の表面形状の計測を、POF素線断面の円周方向に沿った外周部全体にわたって行った。計測結果に基づいて、JIS B0601−2001に準拠して算術平均粗さRa(μm)を決定し、JIS B0601−1994及びJIS B0031−1994に準拠して十点平均粗さRz(μm)を決定した。
【0072】
[POF素線断面の円周方向に沿った外周部の粗面化割合の決定]
高精度形状測定システム(株式会社キーエンス製 KS−1100)を用い、POF素線断面の円周方向に沿って外周部の形状を測定した。得られた測定結果について、POF素線断面の円周方向に沿った外周部を4分の1毎に4つのセクション(順にL1、L2、L3、L4と表記する)に分割した。外周部の長さに対する粗面化されている部分の割合と、各セグメント長に対する粗面化されている部分の割合を算出した。
【0073】
なお、粗面化処理を施していないPOF素線(比較例1)表面の十点平均粗さRz2.65μmを元に、Rzが4.0μm以上である部分を粗面化されている部分と定義した。
【0074】
[結晶融解熱(△H)の測定]
示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル社製、商品名:DSC−220)を用いて測定を行った。サンプルを、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して5分間保持して溶融させた後、降温速度10℃/分で0℃まで降温し、再度昇温速度10℃/分で昇温、5分間保持、10℃/分で降温を繰り返し、このときの結晶融解熱を求めた。
【0075】
[フェルール引き抜き強度]
POFケーブルのフェルール引き抜き強度は次のようにして測定した。
【0076】
図1示すように、POFケーブル6を保持する冶具3と、冶具3の一端部に形成された突起2を把持するチャック1と、POFケーブル6を把持するチャック4とを備えた測定装置9を引っ張り試験機(ORIENTEC社製、RTC−1210A)に取り付けて測定した。冶具3には、POFケーブル6に取り付けたフェルール7が収容される保持室5と、POFケーブル6の直径よりも大きくフェルール7の外径よりも狭い貫通孔8が形成されている。
【0077】
測定にあたっては、一端側にフェルール7(銅製、車載POF規格(MOST標準規格)準拠品、タイコ エレクトロニクス アンプ社製)を、フェルールカシメ装置(RENNSTEIG社製 REW 8.71、カシメ強度:MOST標準規格に準拠(初期設定条件))にて取り付けた長さ100mm以上のPOFケーブル6を用意した。次に、冶具3の一端部に形成されている突起2をチャック1で把持し、POFケーブル6のフェルールを取り付けていない側の端部をチャック4で把持した。次に、POFケーブル6の中心軸方向(図中矢印方向)に沿って、一定速度10mm/分でチャック1を移動させて冶具3を引っ張り、POFケーブル6からフェルール7を引き抜いた。このときの引き抜き応力と、POFケーブル6に対するフェルールの引き抜き方向へのずれ量との関係を示す曲線から、引き抜く際の応力のピーク値を読み取り、引抜強度とした。
【0078】
[伝送損失測定]
25−5mのカットバック法により、入射NA=0.1における波長650nmの光を用いて、POFケーブルの伝送損失を測定した。
【0079】
(比較例1)
コア材としてメチルメタクリレート(MMA)の単独重合体(屈折率1.492)(PMMA)を用い、第1クラッド材として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(3FM)/1,1,2,2−パーフルオロデシルメタクリレート(17FM)/メチルメタクリレート(MMA)/メタクリル酸(MAA)=50/31/18/1(質量%)からなるフッ素化メタクリレート系共重合体(屈折率1.416〜1.417)を用い、第2クラッド材としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン=48/43/9(質量%)からなる共重合体(屈折率1.375、結晶融解熱(△H)14mJ/mg)を用いた。これらの重合体を溶融して、220℃の紡糸ヘッドに供給し、同心円状複合ノズルを用いて複合紡糸した後、140℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に1.6倍に延伸し、第1クラッドの厚みが5μm、第2クラッドの厚みが10μmで直径が1mmのPOF素線を得た。得られたPOF素線の伝送損失は130dB/kmと良好であった。
【0080】
上記POF素線の外周に、第1被覆層として、ポリブチレンテレフタレートエラストマー(東レ・デュポン社製、商品名:ハイトレル(Hytrel)4047)、第2の被覆層として、カーボンブラックを1質量%添加した、ナイロン12樹脂(ダイセル・エボニック社製、商品名:ダイアミド−L1640)を、210℃に設定したクロスヘッドダイを用いたクロスヘッドケーブル被覆装置で一括被覆し、外径1.51mmのPOFケーブルを得た。
【0081】
得られたPOFケーブルは、初期の伝送損失が133dB/kmと良好であった。また、金属フェルールを装着した後のフェルール引き抜き強度は62Nであった。105℃で5000時間(hrs)処理後の伝送損失は197dB/kmと良好であった。
【0082】
(実施例1)
比較例1と同様にして作製したPOF素線を、その外周に#2000番のサンドペーパーを10Nの接触圧で包み込み、線速5m/分の速度で、POF表面の粗面化を行った。
【0083】
POF素線外周部の算術平均粗さRaは0.78〜0.85であった。POF断面の円周方向に沿った外周部全体を粗面化した。すなわち、粗面化の割合を合計で100%(各セグメントL1、L2、L3、L4の粗面化割合を100%)とした。
【0084】
上記POF素線の外周に、第1被覆層として、ポリブチレンテレフタレートエラストマー(東レ・デュポン社製、商品名:ハイトレル(Hytrel)4047)、第2の被覆層として、カーボンブラックを1質量%添加した、ナイロン12樹脂(ダイセル・エボニック社製、商品名:ダイアミド−L1640)を、210℃に設定したクロスヘッドダイを用いたクロスヘッドケーブル被覆装置で一括被覆し、外径1.51mmのPOFケーブルを得た。
【0085】
得られたPOFケーブルは、初期の伝送損失が133dB/kmと良好であり、金属フェルールを装着した後のフェルール引き抜き強度は78Nと良好であった。105℃で5000hrs処理後の伝送損失は198dB/kmと良好であった。
【0086】
(比較例2)
粗面化処理に用いるサンドペーパーを#4000番にした以外は、実施例1と同様にして、粗面化処理されたPOFケーブルを作製した。
【0087】
POF素線外周部の算術平均粗さRaは0.42〜0.53であった。得られたPOFケーブルは、初期の伝送損失が133dB/kmであり、105℃で5000hrs処理後の伝送損失が195dB/kmと良好であったが、金属フェルールを装着した後の引き抜き強度は63Nであり、引き抜き強度は向上しなかった。
【0088】
(比較例3)
粗面化処理に用いるサンドペーパーを#1000番にした以外は、実施例1と同様にして、粗面化処理されたPOFケーブルを作製した。
【0089】
POF素線外周部の算術平均粗さRaは1.10〜1.29であった。得られたPOFケーブルは、初期の伝送損失が200dB/kmであり、光学特性が大きく低下した。金属フェルールを装着した後の引き抜き強度は80Nと良好であった。
【0090】
(実施例2)
POF素線の疎面化処理を、図3に示されるように、粗面化割合を合計で70%、各セグメントL1、L2、L3、L4の粗面化割合を70%とした以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを作製した。各セグメントにおける算術平均粗さ(Ra)は、実施例1と同様な値であった。金属フェルールを装着した後の引き抜き強度は76Nと良好であった。
【0091】
(実施例3〜5、比較例4〜6)
POF素線の疎面化処理を、図4〜6(実施例3〜5)、図7〜9(比較例4〜6)に示される割合で行った以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを作製した。各セグメントにおける算術平均粗さ(Ra)は、実施例1と同様な値であった。
【0092】
表2に、各実施例および各比較例のPOFケーブルの初期の伝送損失および105℃で5000hrs処理後の伝送損失、並びに金属フェルールを装着した後の引き抜き強度を示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】フェルール引き抜き強度の測定方法を説明するための断面図である。
【図2】被覆装置を説明するための断面図である。
【図3】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図4】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図5】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図6】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図7】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図8】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【図9】POF素線の粗面化部分と非粗面化部分を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 冶具固定用チャック
2 冶具突起部
3 POFケーブル保持冶具
4 POFケーブル固定用チャック
5 フェルール保持室
6 POFケーブル
7 フェルール
8 冶具33の貫通孔
9 測定装置
21 ダイス
21a 先端面
22 ニップル
23 第1流路(第1の被覆層の樹脂流路)
24 第2流路(第2の被覆層の樹脂流路)
25 POF素線が通る経路の軸線
26 第3流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと該コアの外周に形成された単層または複層構造のクラッド層を有するプラスチック光ファイバと、該プラスチック光ファイバの外周に形成された1層以上の被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルの製造方法であって、
プラスチック光ファイバにおける、該プラスチック光ファイバ断面の円周方向に沿った外周部を4つのセグメントに等分し、少なくとも一組の対向するセグメントの双方においてそれぞれ一部もしくは全部を、JIS B0601−2001で示された算術平均粗さRa(μm)が0.6μm以上1.0μm以下の範囲にあるように粗面化処理を施し、且つ、この粗面化処理を、該外周部のうち合計で30%以上に実施し、
この粗面化処理されたプラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成する、プラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記プラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成するに際して押出法を用いる、請求項1に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記被覆層が、(メタ)アクリル酸メチル単位を主成分とする樹脂、スチレン単位を主成分とする樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ化ビニリデン単位を主成分とする樹脂、ポリアミド樹脂のうちの少なくとも一種類を用いて形成される、請求項1又は2に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記プラスチック光ファイバの外周に被覆層を形成するに際して、第1の被覆層および該第1の被覆層の外周に形成される第2の被覆層を共押出法を用いて形成する、請求項1又は2に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項5】
第1の被覆層が、(メタ)アクリル酸メチル単位を主成分とする樹脂、スチレン単位を主成分とする樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ化ビニリデン単位を主成分とする樹脂のうちの少なくとも一種類を用いて形成され、
第2の被覆層が、ナイロン11及びナイロン12の少なくとも一種を主成分とするポリアミド樹脂組成物を用いて形成される、請求項4に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記クラッド層は、テトラフルオロエチレン単位を含み且つ示差走査熱量測定(DSC)における結晶融解熱が40mJ/mg以下である含フッ素オレフィン系樹脂からなる層を少なくとも最外層に有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法によりプラスチック光ファイバケーブルを形成し、該プラスチック光ファイバケーブルの外周に、ポリアミド樹脂組成物からなるフェルールを溶着法により固定する、フェルール付きプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−276680(P2009−276680A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129632(P2008−129632)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】