説明

プラスチック成形品の製造装置、該製造方法及びプラスチック成形品

【課題】 本発明は、高圧を維持しながら可動部を可動させるための装置等を用いず、かつ高圧ガスを溶解することでプラスチックの軟化温度を低下させ、加熱/冷却の工程を要することなくプラスチック母材の表面に転写面を高精度転写することのできる低コストのプラスチック成形品の製造装置、該製造方法及びプラスチック成形品を提供する。
【解決手段】 本発明のプラスチック成形品は、熱可塑性樹脂からなるプラスチック母材に高圧ガスを溶解させる高圧ガス溶解手段と、該高圧ガス溶解手段によって高圧ガスが溶解されたプラスチック母材の表面に、少なくとも1つ以上の転写面が形成された金型の転写面を押圧する転写手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック成形品の製造装置、該製造方法及びプラスチック成形品に関し、詳細には表面に高精度な光学鏡面や微細パターンを有する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品の製造方法としては、一般的に射出成形法が用いられている。この射出成形法は、溶融した樹脂を、その軟化温度以下の温度に加熱維持された金型のキャビティ内に充填して、固化させるといった方法である。キャビティ内に樹脂を充填した直後に冷却固化が始まるため、非常に速い成形サイクルで、3次元形状の成形品を作製することができる。しかし、樹脂がキャビティ内に充填された直後に冷却されるために、特にプラスチックレンズのように高精度な鏡面転写が要求されるものに対しては、鏡面を精度良く樹脂表面に転写することができないといった問題が生じる。また、回折レンズや導光板のように表面に微細な凹凸パターンを有する成形品においては、樹脂がその微細な凹凸パターンに充填する前に固化してしまうといった問題も生じる。
【0003】
そこで、近年では上述した微細パターンを樹脂表面に転写する方法として熱インプリント法が知られている。これは、樹脂をその軟化温度以上に加熱して、微細パターンが形成された転写面を押圧して、樹脂表面に転写し、その後軟化温度以下まで冷却して離型する方法である。しかし、この熱インプリント法によれば、押圧時に樹脂はその軟化温度以上に加熱されているため、微細パターンへの充填は可能となるが、加熱/冷却の工程が必要であり、非常に成形時間が長くなるという問題があった。
【0004】
このような問題点に対して、近年では超臨界二酸化炭素を成形加工に応用する試みが複数なされている。二酸化炭素のような不活性ガスを高圧にしてプラスチック中に溶解させると、その軟化温度が低下することが知られており、この性質を応用したものが従来よりいくつか提案されている。
【0005】
その一つとして例えば特許文献1では、金型キャビティ内に予め二酸化炭素ガスを充填し、その後金型キャビティ内に樹脂を充填する方法が提案されている。また、特許文献2では、金型と樹脂表面のスキン層の間に隙間を形成し、この隙間に二酸化炭素ガスを注入し、再度保圧を高めてスキン層と転写面を再密着させ、転写面を転写させている。更に、特許文献3では、熱インプリント法に超臨界二酸化炭素を応用し、プラスチック母材表面近傍に二酸化炭素ガスを含有させ、次いで金型転写面を母材に押し付ける方法が提案され、プラスチック母材全体の温度を高温する必要なく、微細パターンを転写することができる。
【特許文献1】特許第3,096,904号明細書
【特許文献2】特許第3,445,778号明細書
【特許文献3】特開2006−175756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1によれば、樹脂の粘度が低下するが、樹脂の流動を伴って二酸化炭素が溶解されるため、流動が不安定になり、それに伴う外観不良が生じる。また、高圧ガスで加圧されたキャビティ内へ樹脂を充填するために、成形品の未充填といった問題が生じやすくなる。また、上記特許文献2では、樹脂の流動を伴わずに二酸化炭素を溶解させることができるが、再密着させるために転写面周囲に摺動部が必要となり、そこからのガスのリーク等の問題で安定して、高圧ガスを注入することができない、また、保圧によって圧力を負可させると、樹脂の流入口であるゲート部近傍のみに応力が集中し、転写面に均一に圧力を負可させることができない。更に、上記特許文献3によれば、高圧ガスに耐えるだけの密閉金型キャビティ内に、モールドを押し付けるための可動部が必要となり、密閉金型のシール性を確保することが困難であり、またそれを確保するためには装置が複雑かつ高価となるといった問題が生じる。
【0007】
本発明はこれらの問題点を解決するためのものであり、高圧を維持しながら可動部を可動させるための装置等を用いず、かつ高圧ガスを溶解することでプラスチックの軟化温度を低下させ、加熱/冷却の工程を要することなくプラスチック母材の表面に転写面を高精度転写することのできる低コストのプラスチック成形品の製造装置、該製造方法及びプラスチック成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明のプラスチック成形品の製造装置は、熱可塑性樹脂からなるプラスチック母材に高圧ガスを溶解させる高圧ガス溶解手段と、該高圧ガス溶解手段によって高圧ガスが溶解されたプラスチック母材の表面に、少なくとも1つ以上の転写面が形成された金型の転写面を押圧する転写手段とを有することに特徴がある。よって、プラスチック母材の粘度が低下し、転写面の押圧によって確実に転写面をプラスチック母材の表面に転写することができる。また、転写面を押圧する工程を密閉状態で実施する必要がなく、そのシール性を確保するための複雑かつ高価な装置が不要となり、簡易でかつ低コスト化が図れる。
【0009】
また、高圧ガス溶解手段は、予め略最終形状に加工されたプラスチック母材を挿入され、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスを注入する密閉容器を有している。そして、プラスチック母材が挿入された密閉容器内に所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスを注入し所定時間保持した後減圧させ、プラスチック母材中に所定量高圧ガスを溶解させる。よって、確実に、プラスチック母材中に高圧ガスを溶解することができ、その粘度を低下させることができる。
【0010】
更に、密閉容器が、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが注入される高圧ガス注入槽、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが所定時間保持される高圧ガス維持槽、減圧させる高圧ガス減圧槽の少なくとも3つ以上の槽に分離されている。そして、プラスチック母材が各槽内を順次移動することにより、高圧ガスの溶解に時間がかかっても、注入、維持、減圧の工程を同時に実施することが可能となり、成形効率が向上する。
【0011】
また、高圧ガスを減圧するときの密閉容器内の減圧速度を調整する減圧速度調整手段を密閉容器に設けることにより、プラスチック母材中に発泡は生じるのを防ぐことができる。
【0012】
更に、転写手段は、高圧ガス溶解手段によって高圧ガスが溶解されたプラスチック母材の表面に、金型の転写面を大気圧中で押圧する。よって、押圧時の雰囲気を維持するための特別な装置が不要で、装置全体のコストを低くすることができる。
【0013】
また、転写手段は、高圧ガス溶解手段によって高圧ガスが溶解されたプラスチック母材の表面に、大気圧下でのプラスチック母材の軟化温度以下の温度に加熱保持された転写面を有する金型の転写面を押圧する。よって、押圧時に加熱/冷却が必要とないため、加工時間を短くでき、その時の消費電力も小さくできる。
【0014】
更に、転写手段は、高圧ガス溶解手段によって高圧ガスが溶解されたプラスチック母材を、転写面を有する複数の金型で順次押圧する。よって、プラスチック母材からの脱ガスに時間を要しても、効率よく生産することができる。
【0015】
また、高圧ガスが二酸化炭素であることが好ましく、プラスチックへの溶解性が高く、容易にプラスチックの粘度を低くできると同時に取り扱いが容易となる。
【0016】
更に、別の発明としてのプラスチック成形品は上記プラスチック成形品の製造装置を用いて製造される。よって、例えばプロジェクタ用投射レンズやレーザプリンタ用fθ用レンズのように光学鏡面を有する光学素子や、例えば表面に無反射機能を有する表面に微細な凹凸パターンが形成された光学素子を含むプラスチック成形品を高精度、低歪み、低コストで提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプラスチック成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂からなるプラスチック母材に高圧ガスを溶解させる第1の工程と、高圧ガスが溶解されたプラスチック母材の表面に、少なくとも1つ以上の転写面が形成された金型の前記転写面を押圧する第2の工程とを有している。よって、プラスチック母材の粘度が低下し、転写面の押圧によって確実に転写面をプラスチック表面に転写することができる。また、転写面を押圧する工程を密閉状態で実施する必要がなく、そのシール性を確保するための複雑かつ高価な装置が不要となり、加工装置も簡易かつ低コスト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明のプラスチック成形品の製造方法により製造されるプラスチック成形品を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示すプラスチック成形品は光ピックアップ装置用の回折レンズ10である。同図の(b)に示すように、レンズ面の一方には凸面の高精度な光学鏡面11を有し、他方は複数の輪帯構造を有する微細な回折パターン12が形成されている。樹脂素材としては、軟化温度110℃のメタクリル樹脂(PMMA)を使用した。
【0019】
図2は本発明の第1の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。同図に示す本実施の形態のプラスチック成形品の製造方法による製造工程は、主として、プラスチック中に高圧ガスを溶解させる高圧ガス溶解工程と、プラスチックに金型転写面を転写させる転写工程の2つの工程とからなる。そして、高圧ガス溶解工程を行う高圧ガス溶解装置100は、同図の(a)に示すように、主として、密閉容器101とそれに接続された二酸化炭素ボンベ102とを含んで構成されている。そして、二酸化炭素ボンベ102に接続されたガス配管103は二系統に分離され、一方の第1の系統には増圧装置104、高温・高圧タンク105が接続されており、高温・高圧タンク105内では二酸化炭素ボンベ102中の二酸化炭素ガスが所定の圧力、温度に調整され、貯蔵されるようになっている。また、他方の第2の系統は直接密閉容器101に接続している。なお、密閉容器101と二酸化炭素ボンベ102との配管にはバルブ106が、密閉容器101と高温・高圧タンク105との配管にはバルブ107がそれぞれ設けられ、開閉可能なようになっている。また、密閉容器101には、減圧速度調整可能な減圧弁108が備えられていて、密閉容器内を一定圧力で維持、もしくは所定速度で減圧できるようになっている。更に、密閉容器101には、密閉容器内の内圧を検出する圧力センサ109が設けられている。
【0020】
また、転写工程を行う転写装置200は、同図の(b)に示すように、上側金型201と下側金型202から構成され、上側金型201は回折パターンが形成された転写面203を有し、一方下側金型202には高精度に加工された鏡面を有する転写面204を有している。上側金型201、下側金型202は図中の矢印方向に移動可能なようになっており、上側金型201と下側金型202の間に挿入されたプラスチックに対して押圧力を付加させることが可能となっている。また、上側金型201、下側金型202には温度制御用のヒーター205が備えられており、所定の温度に金型を加熱維持できるようになっている。
【0021】
次に、本実施の形態のプラスチック成形品の製造工程について図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4において図2と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。
はじめに、図3の(a)に示すように、予め略最終形状に加工されたプラスチック母材301を用意して高圧ガス溶解装置100の密閉容器101内に挿入する。そして、図3の(b)に示すように、バルブ106を開の状態に、バルブ107を閉の状態にして、更に減圧弁108を開の状態とし、二酸化炭素ボンベ102からの二酸化炭素ガスを第2の系統を介して密閉容器101内に注入し、密閉容器101内雰囲気を二酸化炭素ガスに置換する。
【0022】
次に、図3の(c)に示すように、バルブ106を閉の状態に、バルブ107を開の状態に、更に減圧弁108を閉の状態とし、増圧装置104で増圧された二酸化炭素ガスが貯蔵された高温・高圧タンク105から5MPa、50℃の二酸化炭素ガスを密閉容器101内に充填し、プラスチック母材301中に二酸化炭素ガスを溶解させる。この時、密閉容器101内では、圧力センサ109によって検出される圧力値をモニタしながら常に一定圧力が維持されるように、減圧弁108で調整される。また、密閉容器101は、図示しない温度調節器によって、容器内が一定温度に維持できるようにしている。
【0023】
その後、図3の(d)に示すように、バルブ106を閉の状態のまま、バルブ107を閉の状態に、更に減圧弁108を開の状態で、密閉容器101内の高圧の二酸化炭素ガスを大気圧まで減圧させる。この時、減圧弁108によって一定速度で減圧されるように調整される。そして、二酸化炭素ガスが溶解されたプラスチック母材301を密閉容器101から取り出す。
【0024】
次に、図4の(a)に示すように、取り出したプラスチック母材301を、転写工程を行う転写装置200の上側金型201と下側金型202の間に、プラスチック母材301を挿入する。そして、上側金型201と下側金型202に設けられたヒーター205によって、プラスチック母材301の軟化温度以下である50℃に加熱保持される。そして、図4の(b)に示すように、上側金型201と下側金型202が可動してプラスチック母材301を押圧し、プラスチック母材301の表面を変形させ、所望の回折パターン及び光学鏡面を転写する。プラスチック母材301の中から二酸化炭素ガスが抜け、樹脂が固化した後に、図4の(c)に示すように、上側金型201と下側金型202を開いて作製された回折レンズ10を取り出す。
【0025】
このように、本実施の形態では、二酸化炭素ガスが溶解されたプラスチック母材の軟化温度が低下することを利用して、プラスチック母材の軟化温度以下の一定温度下での押圧転写が可能であり、加熱/冷却の工程が不要となり、成形サイクルを短くすることができる。また、それに伴って、加工に必要とされる消費エネルギーも小さくなる。更に、プラスチック母材への二酸化炭素ガスの溶解と、転写面への転写を別の工程で実施し、特に転写のための押圧は大気圧下で実施することが可能なため、従来のように高圧ガスに耐えるだけの密閉金型キャビティ内に、モールドを押し付けるための可動部を設ける必要がなく、製造設備が簡易化できる。また、二酸化炭素ガス溶解工程と転写工程とは並列して同時に実施することができるため、工程が増えることによる成形時間の増加は生じない。
【0026】
なお、最終成形品で要求される微細パターンや鏡面は転写工程で転写面を押圧して転写するため、プラスチック母材表面に鏡面や微細パターンを形成しておく必要はなく、最終成形品と体積がほぼ同等の略最終形状であればよい。その製法としては限定されるものではないが、本実施の形態のような偏肉のバルク形状の場合は射出成形等によって簡易に作製することができる。また、シート状や矩形上のものであれば押し出し成形やキャスティング等を用いることもできる。更に、本実施の形態の高圧ガス溶解工程におけるガス圧及び温度は、5MPa、50℃としたが、これに限定されるものではなく、使用樹脂材料や成形品形状によって、適宜設定される。一般に、ガス圧や温度が高いほど溶解速度は増加するが、密閉容器への機密性の要求が大きくなるばかりでなく、プラスチックによっては、減圧する前に相分離して、プラスチック中に発泡が生じるといった問題が生じる。減圧速度に関しても同様で、あまり速くしすぎるとガスが抜けきれずに減圧されて、プラスチック母材中に発泡が生じるため、本実施の形態のような内部品質も要求されるレンズ等では問題となる。但し、発泡が生じるのは内部であり、一般的にプラスチック母材の表層部では発泡が生じる前にガスが抜けるため、発泡は生じない。従って、光学ミラーのように表面の転写性のみが求められる成形品の場合は、内部発泡が生じても問題とならず、減圧速度を速くして成形サイクルを短くすることができる。
【0027】
また、本実施の形態では、高圧ガスとして二酸化炭素を用いたが、本発明は二酸化炭素に限定されるものではなく、窒素ガス等他のガスを使用することも可能である。但し、二酸化炭素は、他のガスと比較してプラスチックへの溶解性が高く、かつ取り扱いが容易であることから、本発明を実施する上では好ましい。
【0028】
図5は本発明の第2の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。同図において、図2と同じ参照符号は同じ構成要件を示す。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、プラスチック中に高圧ガスを溶解させる高圧ガス溶解工程と、プラスチックに金型転写面を転写させる転写工程の2つの工程から構成される。ここでは、第1の実施の形態と異なる高圧ガス溶解工程についてのみ記述する。
【0029】
高圧ガス溶解工程を行う高圧ガス溶解装置400は、図5に示すように、主として、密閉容器101とそれに接続された二酸化炭素ボンベ102とを含んで構成されている。そして、二酸化炭素ボンベ102に接続されたガス配管103は二系統に分離され、一方の第1の系統には増圧装置104、高温・高圧タンク105が接続されており、高温・高圧タンク105内では二酸化炭素ボンベ102中の二酸化炭素ガスが所定の圧力、温度に調整され、貯蔵されるようになっている。また、他方の第2の系統は直接密閉容器101に接続している。なお、密閉容器101と二酸化炭素ボンベ102との配管にはバルブ106が、密閉容器101と高温・高圧タンク105との配管にはバルブ107がそれぞれ設けられ、開閉可能なようになっている。また、密閉容器101には、減圧速度調整可能な減圧弁108が備えられていて、密閉容器101内を一定圧力で維持、もしくは所定速度で減圧できるようになっている。本実施の形態の高圧ガス溶解装置100の密閉装置101は、高圧ガス注入槽401、高圧ガス維持槽402、高圧ガス減圧槽403の3つの槽に分離され、高圧ガス注入槽401にはプラスチック母材301を入れるための扉404が設けられ、かつ各槽を分離する分離壁には扉405,406が設けられ、更には高圧ガス減圧槽403にはプラスチック母材301を取り出す扉407が設けられている。このように各槽を分離する扉405,406を開閉することでプラスチック母材301が3つの槽内を順次移動するようになっている。また、各槽には各槽内の圧力を検出する圧力センサ408〜410が設けられている。なお、それぞれの槽には図示しない加熱用ヒーターが備えられていて、所定温度に維持されるようになっている。
【0030】
次に、本実施の形態における第1の工程の高圧ガス溶解工程について工程図である図6を用いて説明する。
はじめに、図6の(a)に示すように、作製されたプラスチック母材301を、高圧ガス注入槽401に挿入し、第1の実施の形態と同様、槽内を二酸化炭素ガスで置換し、その後高圧ガスを注入する。そして、高圧ガス注入槽401の内圧が圧力センサ408によって検出される圧力値をモニタしながら所定圧力に達したら、図6の(b)に示すように、プラスチック母材301を高圧ガス維持槽402との間の扉405を開いて高圧ガス維持槽402に移動させる。その際、高圧ガス維持槽402は圧力センサ409によって検出される圧力値をモニタしながら予め所定の圧力/温度の高圧ガスを充填する。所定の圧力に達したとき、図6の(c)に示すように、扉405を閉じ、その後扉404を開けて次のプラスチック母材301を高圧ガス注入槽401に挿入する。そして、図6の(d)に示すように、扉404を閉じてから槽内を二酸化炭素ガスで置換した後高圧ガスを注入する。高圧ガス維持槽402で所定時間達したら、図6の(e)に示すように、次いで高圧ガス減圧槽403との間の扉406を開き、プラスチック母材301を高圧ガス減圧槽403に移動させ、圧力センサ410によって検出される圧力値をモニタしながら減圧弁108によって所定速度で大気圧まで減圧する。そして、図6の(f)に示すように、扉407を開けて高圧ガス減圧槽403からプラスチック母材301が槽外に取り出され、図4に示す第2の工程の転写工程に移動する。その後は、図6の(a)に示す工程に戻って各工程を繰り返す。このように、密閉容器101を高圧ガス注入槽401、高圧ガス維持槽402、高圧ガス減圧槽403に分離し、それぞれの槽を順次プラスチック母材301が移動するようにすることで、注入、維持、減圧を同時に実施することが可能となり、プラスチック母材301への高圧ガス溶解の効率が上がる。特に、プラスチック母材301が肉厚である場合、その中に高圧ガスを溶解させるのには時間を要するため、本実施の形態のようなシステムとすることで、非常に生産効率が上がる。
【0031】
なお、本実施の形態では、プラスチック母材を1個ずつ移動させているが、複数個ずつ移動させてももちろん問題ない。また、プラスチック母材を複数個同時に移動させる場合は、第2の工程の転写工程における転写面を有する金型を複数用意し、同時にプラスチック母材を押圧するようにすることで、効率よく生産できるようになる。
【0032】
図7は本発明の第3の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。なお、本実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程はシート状プラスチックに適用した場合について説明する。また、本実施の形態では、密閉容器501に接続されているボンベ、高温・高圧タンク等は省略する。
【0033】
図7に示すように、第1の工程での密閉容器501と、第2の工程での微細な凹凸が形成された転写面502を有する金型503が並列して並んでいる。シート状プラスチック504は図示しない駆動源によって順次連続的に送られるようになっている。先ず、図7の(a)に示すように、密閉容器501内で高圧ガスを溶解させ、次いで減圧後次の転写工程に移動する。図7の(b)に示すように、大気圧中で金型503の転写面502を押圧され、シート状プラスチック504の表面に微細な凹凸を転写することができる。このとき、密閉容器501内では次段のシート状プラスチック504に対して高圧ガスを溶解させている。次に、図7の(c)に示すように金型503を前段のシート状プラスチック504から離型させる。そして、図7の(d)に示すように、次段のシート状プラスチック504は減圧後転写工程に移動し、前段のシート状プラスチック504は図示しない裁断装置によって最終成形品の大きさに切断される。このように、シート状プラスチック504のようにプラスチック母材が薄い場合、高圧ガスが短時間でシート全体に溶解されるため、本実施の形態によれば連続的に第1の工程、第2の工程を順次実施することで非常に効率の良く作製することができる。
【0034】
なお、以上説明したような本発明において適用できる樹脂、各実施の形態に用いたものに限定されるものではないことは言うまでもない。また、本発明の適用は各実施の形態における回折レンズに限定されるものでもなく、導波板、光ディスクといった微細な凹凸を有する光学素子やプリズム、fθレンズ等非常に光学鏡面を有する光学素子、更には光学素子以外の精密部品の成形においても適用可能である。
【0035】
また、本発明は上記実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のプラスチック成形品の製造方法により製造されるプラスチック成形品を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。
【図3】第1の実施の形態のプラスチック成形品の製造工程における第1の工程を示す概略図である。
【図4】第1の実施の形態のプラスチック成形品の製造工程における第2の工程を示す概略図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。
【図6】第2の実施の形態のプラスチック成形品の製造工程における第1の工程を示す概略図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法の製造工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0037】
100;高圧ガス溶解装置、101,501;密閉容器、
102;二酸化炭素ボンベ、103;ガス配管、
104;増圧装置、105;高温・高圧タンク、
106,107;バルブ、108;減圧弁、
109,408〜410;圧力センサ、200;転写装置、
201;上側金型、202;下側金型、
203,204,502;転写面、205;ヒーター、
301;プラスチック母材、401;高圧ガス注入槽、
402;高圧ガス維持槽、403;高圧ガス減圧槽、
404〜407;扉、503;金型、504;シート状プラスチック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるプラスチック母材に高圧ガスを溶解させる高圧ガス溶解手段と、
該高圧ガス溶解手段によって前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、少なくとも1つ以上の転写面が形成された金型の前記転写面を押圧する転写手段と
を有することを特徴とするプラスチック成形品製造装置。
【請求項2】
前記高圧ガス溶解手段は、予め略最終形状に加工されたプラスチック母材を挿入され、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスを注入する密閉容器を有し、前記プラスチック母材が挿入された前記密閉容器内に所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスを注入し所定時間保持した後減圧させ、前記プラスチック母材中に所定量高圧ガスを溶解させることを特徴とする請求項1記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項3】
前記密閉容器が、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが注入される高圧ガス注入槽、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが所定時間保持される高圧ガス維持槽、減圧させる高圧ガス減圧槽の少なくとも3つ以上の槽に分離され、前記プラスチック母材が前記各槽内を順次移動することを特徴とする請求項2記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項4】
前記高圧ガスを減圧するときの前記密閉容器内の減圧速度を調整する減圧速度調整手段を前記密閉容器に設けることを特徴とする請求項2又は3に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項5】
前記転写手段は、前記高圧ガス溶解手段によって前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、金型の前記転写面を大気圧中で押圧することを特徴とする請求項1記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項6】
前記転写手段は、前記高圧ガス溶解手段によって前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、大気圧下での前記プラスチック母材の軟化温度以下の温度に加熱保持された転写面を有する金型の転写面を押圧することを特徴とする請求項1又は5に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項7】
前記転写手段は、前記高圧ガス溶解手段によって前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材を、転写面を有する複数の金型で順次押圧することを特徴とする請求項1、5又は6のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項8】
前記高圧ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造装置。
【請求項9】
熱可塑性樹脂からなるプラスチック母材に高圧ガスを溶解させる第1の工程と、
前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、少なくとも1つ以上の転写面が形成された金型の前記転写面を押圧する第2の工程と
を有することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項10】
前記第1の工程において、予め略最終形状に加工されたプラスチック母材を密閉容器内に挿入し、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスを前記密閉容器内に注入し、所定時間保持した後減圧させ、前記プラスチック母材中に所定量高圧ガスを溶解させることを特徴とする請求項9記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項11】
前記密閉容器が、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが注入される高圧ガス注入槽、所定の温度及び所定の圧力の高圧ガスが所定時間保持される高圧ガス維持槽、減圧させる高圧ガス減圧槽の少なくとも3つ以上の槽に分離され、前記プラスチック母材が前記各槽内を順次移動することを特徴とする請求項10記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項12】
前記高圧ガスを減圧するときの前記密閉容器内の減圧速度を調整することを特徴とする請求項10又は11に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項13】
前記第2の工程において、前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、金型の前記転写面を大気圧中で押圧することを特徴とする請求項9記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項14】
前記第2の工程において、前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材の表面に、大気圧下での前記プラスチック母材の軟化温度以下の温度に加熱保持された転写面を有する金型の転写面を押圧することを特徴とする請求項9又は13に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項15】
前記第2の工程において、前記高圧ガスが溶解された前記プラスチック母材を、転写面を有する複数の金型で順次押圧することを特徴とする請求項9、13又は14のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項16】
前記高圧ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項9〜15のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造装置を用いて、あるいは請求項9〜16のいずれか1項に記載のプラスチック成形品の製造方法で製造されることを特徴とするプラスチック成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−56619(P2009−56619A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223669(P2007−223669)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】