説明

プラズマ処理装置

【課題】処理ガスや反応生成物が基板の外周側縁部の上側に滞留するのを防止したり、基台にバイアス電位を均一にかけることができるプラズマ処理装置などを提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置1は、処理チャンバ11と、処理チャンバ11内に配設され、基板Kが載置される基台と、処理ガスを供給するガス供給装置と、供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成装置40と、基台の電極17に高周波電圧を印加する高周波電源45と、環状且つ板状に形成され、基台上に載置された基板Kの外周側縁部上面を内周側縁部により覆う保護部材25と、基台を駆動して、基台上の基板Kが保護部材25により覆われる保護位置と覆われない退避位置との間で昇降させる駆動装置23とを備えており、保護部材25は、基台が保護位置に移動したときに、基板Kの上面から保護部材25の上面までの高さが1mm以上5mm以下となる板厚に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化し、プラズマ化した処理ガスによって処理チャンバ内の基板を処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理の一例としてエッチング処理があり、このエッチング処理の対象となる基板(例えば、シリコン基板)の外周側縁部上面には、レジスト膜や酸化膜が形成されていないことがある。この場合、処理チャンバ内に配置された基台上に基板を載置した後、前記処理チャンバ内に処理ガスを供給,プラズマ化するとともに、前記基台にバイアス電位を与えて前記基板にプラズマ処理を施すと、前記基板上面の、レジスト膜や酸化膜が形成されていない環状の部分がエッチングされることになる。
【0003】
しかしながら、この部分のエッチングを防止する必要がある場合もあり、このようなときには、例えば、特開平5−347362号公報に記載された保持具により基板を保持すると効果的である。
【0004】
この保持具は、基板が載置される円形状のステージと、このステージに載置された基板の外周側縁部上面を押さえるリング状の押さえと、この押さえを昇降させる、前記ステージに取り付けられたシリンダとを備えて構成されており、基板の外周側縁部上面が押さえによって押さえられているので、この基板の外周側縁部上面については、ステージに与えられたバイアス電位によるイオン入射が行われず、エッチングが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−347362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記保持具では、基板の外周側縁部上面のエッチングが防止されるものの、以下に説明するような問題があった。即ち、押さえの厚みが厚く、ステージ上の基板上面から押さえ上面までの高さが高いため、エッチング処理に費やされた処理ガスやエッチング処理で生じた反応生成物が、押さえの内周部であって基板の外周側縁部の上側に滞留し易く、これらをスムーズに排気することができないという問題、ステージの、基板の外周側縁部にバイアス電位がかかり難く、ステージにかかるバイアス電位が不均一になるという問題があった。そして、これらの問題のために、エッチングにより形成される穴や溝の側壁が基板上面に対して垂直ではなく、傾斜するなど、エッチング形状が悪くなって基板を高精度にエッチングすることができなかった。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、プラズマ処理に費やされた処理ガスやプラズマ処理で生じた反応生成物が基板の外周側縁部の上側に滞留するのを防止することができるとともに、基板が載置される基台にバイアス電位を均一にかけることができるプラズマ処理装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、
閉塞空間を有する処理チャンバと、
高周波電圧が印加される電極、及び、この電極上に設けられ、基板が載置される絶縁体を有し、前記処理チャンバ内に配設される基台と、
前記基台の絶縁体上に載置された基板を吸着してこの基台上に固定する吸着手段と、
前記処理チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記処理チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、
前記基台の電極に高周波電圧を印加する電圧印加手段と、
前記処理チャンバ内のガスを排気して内部を減圧する排気手段と、
環状且つ板状に形成され、その内周側縁部によって、前記基台上に載置された基板の外周側縁部上面を覆う保護部材と、
前記基台及び保護部材のいずれか一方を昇降させ、これを、前記基台上の基板が前記保護部材により覆われる保護位置と、覆われない退避位置との間で移動させる駆動手段とを備えたプラズマ処理装置であって、
前記保護部材の少なくとも前記基板を覆う部分は、前記保護位置において、前記基板上面から前記保護部材上面までの高さが1mm以上5mm以下となる板厚に形成されてなることを特徴とするプラズマ処理装置に係る。
【0009】
この発明によれば、基台の絶縁体上に基板が載置され、吸着手段によって基台上に固定された後、駆動手段により基台及び保護部材のいずれか一方が駆動されて退避位置から保護位置に昇降移動せしめられ、基台上の基板の外周側縁部上面が保護部材の内周側縁部により覆われると、ガス供給手段により処理チャンバ内に処理ガスが供給され、供給された処理ガスがプラズマ生成手段によりプラズマ化されるとともに、電圧印加手段により高周波電圧が基台の電極に印加されてこの電極と処理ガスのプラズマとの間に電位差(バイアス電位)が生ぜしめられる。尚、処理チャンバ内のガスは排気手段によって排気されており、内部の圧力が所定圧力に減圧されている。
【0010】
そして、基台上の基板には、プラズマ中のラジカルや、バイアス電位により基板側に移動,入射するプラズマ中のイオンによって所定のプラズマ処理が施されるが、このとき、基板の外周側縁部上面におけるイオン入射が保護部材によって防止され、これにより、基板は、その外周側縁部上面を除いた部分がプラズマ処理される。
【0011】
尚、前記保護位置とは、保護部材により基台上の基板が覆われる位置のことであり、前記退避位置とは、保護部材により基台上の基板が覆われない位置のことである。また、前記プラズマ処理としては、例えば、エッチング処理,アッシング処理及び成膜処理などを挙げることができ、このような処理の対象となる基板としては、例えば、シリコン基板やガラス基板などを挙げることができる。
【0012】
ところで、上記プラズマ処理装置では、上述のように、保護部材の少なくとも基板を覆う部分の板厚を、保護位置において基板上面から保護部材上面までの高さが1mm以上5mm以下となるように形成している。これは、1mmよりも小さいと、板厚が薄くなって強度不足となるからであり、5mmよりも大きいと、プラズマ処理に費やされた処理ガスやプラズマ処理で生じた反応生成物が、保護部材の内周部であって基板の外周側縁部の上側に滞留し易く、これらをスムーズに排気することができないという問題や、基板の外周側縁部において電極とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難く、生じるバイアス電位が不均一になるという問題を生じるからである。
【0013】
したがって、上記範囲とすれば、ガスの流れを良くして、プラズマ処理に費やされた処理ガスやプラズマ処理で生じた反応生成物の滞留を防止することができるとともに、基板の外周側縁部において電極とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難くなるのを防止してバイアス電位を均一に生じさせることができ、効果的にプラズマ処理を実施することができる。尚、より好ましい範囲としては、前記高さが1mm以上2mm以下となる板厚である。
【0014】
尚、前記基台の電極は、その外径が前記基板の外径よりも大径に形成されて、前記基台上に固定される基板よりも外周部が外側に張り出すように設けられていることが好ましい。このようにすれば、基板の外周側縁部において電極とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難くなるのをより効果的に防止してバイアス電位をより均一に生じさせることが可能になり、更に効果的にプラズマ処理を実施することができる。
【0015】
また、前記基台の電極は、その外周部の、前記基台上の基板からの張出量が29mm以下となるように構成されていることが好ましい。上述のように、前記電極は、その外周部が基台上の基板よりも外側に張り出すように設けることが望ましいのであるが、その張出量が大き過ぎると、却って逆効果となる。これは、一定の高周波電圧が電極に印加されたときに生じるバイアス電位の大きさは、電極上面の表面積が大きくなるほど小さくなるので、前記張出量が大きいほど、生じるバイアス電位が小さくなるからである。このような観点から、前記張出量は29mm以下であることが好ましく、この範囲であれば、一定の高周波電圧を電極に印加したときに所定レベル以上のバイアス電位を生じさせることができる。
【0016】
また、前記基台の絶縁体と保護部材は同一材料から構成され、前記基台の絶縁体の厚さは、前記基板の外周側縁部より中央側の領域に対応する部分の厚さ(X)が前記基板の外周側縁部付近の領域に対応する部分の厚さ(Y)よりも厚く形成され、前記厚さ(X)は、前記厚さ(Y)と、前記基板を覆う部分の前記保護部材の板厚(Z)とを合計した値と略等しいことが好ましい。このようにすれば、電極とプラズマとの間に存在する絶縁物を同じ性質(例えば、同じ比誘電率)にすることができるとともに、基台及び保護部材のいずれか一方が保護位置に移動した状態で、電極とプラズマとの間に存在する絶縁物の厚さを基板の外周側縁部においても同じにすることができるので、生じるバイアス電位を基板の全面に渡って均一にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係るプラズマ処理装置によれば、処理ガスや反応生成物の滞留を防止すること、及び、バイアス電位を均一に生じさせることができる。これにより、基板に対しプラズマ処理を効果的に施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るエッチング装置の概略構成を示した断面図である。
【図2】図1における矢示A方向の平面図である。
【図3】図1におけるB部の詳細図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る基板保持装置の一部分の概略構成を示した断面図である。
【図5】シリコン基板の中心からの距離と、エッチングによって形成される穴や溝の側壁傾斜角度との関係を示したグラフである。
【図6】従来例に係る基板保持装置の一部分の概略構成を示した断面図である。
【図7】側壁傾斜角度を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。尚、図1は、本発明の一実施形態に係るエッチング装置の概略構成を示した断面図であり、図2は、図1における矢示A方向の平面図であり、図3は、図1におけるB部の詳細図である。
【0020】
図1乃至図3に示すように、本例のプラズマ処理装置たるエッチング装置1は、閉塞空間を有する処理チャンバ11と、エッチング対象であるシリコン基板Kを保持する基板保持装置15と、基板保持装置15により保持されたシリコン基板Kの外周側縁部上面を覆う保護部材25と、保護部材25を支持する支持部材26と、処理チャンバ11内の圧力を減圧する排気装置30と、処理チャンバ11内に処理ガスを供給するガス供給装置35と、処理チャンバ11内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成装置40と、基板保持装置15の第1電極17及び第2電極21に高周波電圧を印加する基台用高周波電源45などを備える。
【0021】
前記処理チャンバ11は、相互に連通した内部空間を有する下部容器12及び上部容器13から構成され、上部容器13は、下部容器12よりも小さく形成される。
【0022】
前記基板保持装置15は、円板状をした第1電極17と、第1電極17の上面に形成され、シリコン基板Kが上面に載置される第1絶縁体18と、第1電極17に直流電圧を印加する直流電源19とを備え、直流電源19によって第1電極17に直流電圧を印加することによりシリコン基板Kと第1絶縁体18との間に吸着力を生じさせてシリコン基板Kを吸着,保持する静電チャック16と、第1電極17が上面に配設される円板状の下部部材20と、環内部に第1電極17が配置されて内周面が第1電極17の外周面に当接するように下部部材20上に設けられる第2電極21と、第2電極21の上面及び外周面を覆うように下部部材20上に設けられる第2絶縁体22と、下部部材20の下面に接続され、この下部部材20を下降端位置と上昇端位置との間で昇降させる昇降シリンダ23とから構成されており、前記第1電極17,第1絶縁体18,下部部材20,第2電極21及び第2絶縁体22は、前記下部容器12内に配置される。
【0023】
前記第1電極17及び第1絶縁体18は、その外周部がシリコン基板Kの外周部よりも内側に小さくなっており、前記第2絶縁体22は、その内周側上面が第1絶縁体18の上面よりも低くなっている。また、第2絶縁体22とシリコン基板Kの外周面との間には隙間Sが形成されており、この隙間Sが小さいと、均一にバイアス電位を生じさせ難くなることから、この隙間Sは、例えば、1.5mm〜3.5mm程度であることが好ましい。前記第2電極21は、静電チャック16上に吸着,保持されたシリコン基板Kよりも外周部が外側に張り出しており、その張出量Pが29mm以下となっている。
【0024】
また、前記第1電極17及び第2電極21は、例えば、アルミニウムから構成され、前記第1絶縁体18及び第2絶縁体22は、例えば、セラミック(例えば、酸化アルミニウムからなるセラミック)から構成される。尚、前記第1電極17,第1絶縁体18,下部部材20,第2電極21及び第2絶縁体22からなる構造体は、シリコン基板Kが載置される基台として機能する。また、前記第1電極17及び第2電極21が1つの電極を、前記第1絶縁体18及び第2絶縁体22が1つの絶縁体を構成している。また、前記基板保持装置15は、図4に示すように、前記第2電極21を省略して、前記第1電極17及び第1絶縁体18の外周部に前記第2絶縁体22のみを設けるようにしても良い。
【0025】
前記保護部材25は、アルミニウムにアルマイトコーティングを施したもの或いはセラミック(例えば、酸化アルミニウムからなるセラミック)からなる環状且つ板状の部材から構成されており、前記下部部材20が上昇端位置にあるときに、前記静電チャック16上に吸着,保持されたシリコン基板Kの外周側縁部上面を内周側縁部により覆うようになっている。また、保護部材25は、前記下部部材20が上昇端位置にあるとき、シリコン基板Kの上面からこの保護部材25の上面までの高さHが1mm以上5mm以下、より好ましくは1mm以上2mm以下となるような板厚に形成されている。尚、この保護部材25は、前記第1絶縁体18及び第2絶縁体22と同じ材料から構成することが好ましく、本例では、同一材料から構成されている。
【0026】
また、更に、保護部材25は、下部部材20が上昇端位置にあるとき、内周側の下面の一部が前記第2絶縁体22の上面に当接するようになっており、前記第1絶縁体18の厚さ(X),第2絶縁体22の内周側縁部(シリコン基板Kの外周側縁部付近)における厚さ(Y)及び保護部材25の内周側縁部における板厚(Z)の関係は、前記厚さ(X)が前記厚さ(Y)と前記板厚(Z)とを合計した値と略等しくなる関係となっている。尚、下部部材20の上昇端位置は、保護部材25によって静電チャック16上のシリコン基板Kが覆われる保護位置と、下部部材20の下降端位置は、保護部材25によって静電チャック16上のシリコン基板Kが覆われない退避位置となっており、この保護位置及び退避位置には前記昇降シリンダ23によって移動せしめられる。また、保護部材25とシリコン基板Kの外周側縁部上面及び外周面との間には隙間が形成されており、保護部材25とシリコン基板Kの外周面との間の隙間Tは、例えば、1mm〜3mm程度であることが好ましい。また、保護部材25には、表裏に貫通するガス抜き用の貫通穴25aが形成されている。
【0027】
前記支持部材26は、前記下部容器12の底面上に配設された環状のベース27と、ベース27上に立設され、上端が保護部材25の外周側下面を支持する複数の支柱28とから構成されており、各支柱28の内側に前記下部部材20などが配置されている。
【0028】
前記排気装置30は、排気ポンプ31と、排気ポンプ31と下部容器12の側面とを接続する排気管32とから構成され、排気管32を介して下部容器12内の気体を排気し、処理チャンバ11の内部を所定圧力にする。前記ガス供給装置35は、前記処理ガスとしてエッチングガスを含んだガスを供給するガス供給部36と、ガス供給部36と上部容器13の上面とを接続する供給管37とから構成され、ガス供給部36から供給管37を介して上部容器13内に処理ガスを供給する。
【0029】
前記プラズマ生成装置40は、上部容器13の外周部に配設された複数のコイル41と、各コイル41に高周波電圧を印加するコイル用高周波電源42とから構成され、コイル用高周波電源42によってコイル41に高周波電圧を印加することにより、上部容器13内に供給された処理ガスをプラズマ化する。前記基台用高周波電源45は、前記第1電極17及び第2電極21に高周波電圧を印加することにより、この第1電極17及び第2電極21と処理チャンバ11内のプラズマとの間に電位差(バイアス電位)を生じさせる。
【0030】
以上のように構成された本例のエッチング装置1によれば、まず、シリコン基板Kが処理チャンバ11の下部容器12内に搬入され、静電チャック16の第1絶縁体18の上面に載置された後、直流電源19により直流電圧が第1電極17に印加されてシリコン基板Kが吸着,保持されるとともに、昇降シリンダ23により下部部材20が下降端位置から上昇端位置に移動せしめられてシリコン基板Kの外周側縁部上面が保護部材25の内周側縁部により覆われる。
【0031】
ついで、ガス供給装置35により処理チャンバ11内に処理ガスが供給されるとともに、コイル用高周波電源42によりコイル41に高周波電圧が印加されて、供給された処理ガスがプラズマ化され、また、基台用高周波電源45により高周波電圧が第1電極17及び第2電極21に印加されてバイアス電位が生ぜしめられる。尚、このとき、処理チャンバ11内は、排気装置30により所定圧力に調整されている。
【0032】
そして、静電チャック16上のシリコン基板Kは、プラズマ中のラジカルや、バイアス電位によりシリコン基板K側に移動,入射するプラズマ中のイオンによってエッチングされるが、このとき、シリコン基板Kの外周側縁部上面におけるイオン入射が保護部材25によって防止されているので、シリコン基板Kは、その外周側縁部上面を除いた部分がエッチングされる。
【0033】
この後、エッチングが完了すると、昇降シリンダ23により下部部材20が上昇端位置から下降端位置に移動せしめられ、シリコン基板Kが下部容器12の外部に搬出される。
【0034】
ところで、上記エッチング装置1では、上述のように、保護部材25の板厚を、下部部材20が上昇端位置に移動したときにシリコン基板Kの上面から保護部材25の上面までの高さHが1mm以上5mm以下(より好ましくは1mm以上2mm以下)となるように形成している。これは、1mmよりも小さいと、板厚が薄くなって強度不足となるからであり、5mmよりも大きいと、エッチング処理に費やされた処理ガスやエッチング処理で生じた反応生成物が、保護部材25の内周部であってシリコン基板Kの外周側縁部の上側に滞留し易く、これらをスムーズに排気することができないという問題や、シリコン基板Kの外周側縁部において第1電極17及び第2電極21とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難く、生じるバイアス電位が不均一になるという問題を生じるからである。
【0035】
したがって、上記範囲とすれば、ガスの流れを良くして、エッチング処理に費やされた処理ガスやエッチング処理で生じた反応生成物の滞留を防止することができるとともに、シリコン基板Kの外周側縁部において第1電極17及び第2電極21とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難くなるのを防止してバイアス電位を均一に生じさせることができる。これにより、エッチングによって形成される穴や溝の側壁が傾斜するのを防止してシリコン基板Kを高精度にエッチングすることができる。
【0036】
また、第1電極17の外周部に第2電極21を設けて、第1電極17及び第2電極21からなる構造体の外径をシリコン基板Kの外径よりも大径にするとともに、この構造体の外周部が静電チャック16上のシリコン基板Kよりも外側に張り出すようにしたので、シリコン基板Kの外周側縁部において第1電極17及び第2電極21とプラズマとの間にバイアス電位が生じ難くなるのをより効果的に防止してバイアス電位をより均一に生じさせることが可能になり、より精度良くシリコン基板Kにエッチングを施すことができる。
【0037】
また、第2電極21の外周部の張出量Pを29mm以下としているのは、一定の高周波電圧が第1電極17及び第2電極21に印加されたときに生じるバイアス電位の大きさは、第1電極17及び第2電極21の上面の表面積が大きくなるほど小さくなるからである。したがって、前記張出量Pが大きいほど表面積が大きくなって、生じるバイアス電位が小さくなるが、張出量Pがこの範囲であれば、一定の高周波電圧を第1電極17及び第2電極21に印加したときに所定レベル以上のバイアス電位を生じさせることができる。
【0038】
また、第1絶縁体18,第2絶縁体22及び保護部材25を同一材料から構成し、第1絶縁体18の厚さ(X),第2絶縁体22の内周側縁部における厚さ(Y)及び保護部材25の内周側縁部における板厚(Z)の関係を、前記厚さ(X)が前記厚さ(Y)と前記板厚(Z)とを合計した値と略等しくなるようにしているので、第1電極17及び第2電極21とプラズマとの間に存在する絶縁物を同じ性質(例えば、同じ比誘電率)にすることができるとともに、下部部材20が上昇端位置に移動したときに、第1電極17及び第2電極21とプラズマとの間に存在する絶縁物の厚さをシリコン基板Kの外周側縁部においても同じにすることができるので、生じるバイアス電位をシリコン基板Kの全面に渡って均一にすることができる。
【0039】
因みに、前記高さHを変えて、6インチのシリコン基板Kに直径500μmで深さ400μmの穴が形成されるようにエッチングしたところ、シリコン基板Kの中心からの距離と穴の側壁の傾斜角度γとの関係について図5に示すような実験結果が得られた。図5では、高さHが7.8mmを実験例1として、高さHが6mmを実験例2として、高さHが5mmを実験例3として、高さHが4mmを実験例4として、高さHが3mmを実験例5として、高さHが2mmを実験例6として示しており、実験例1では、図6に示すような従来例に係る基板保持装置15’を用い、実験例2〜6では、図4に示すような基板保持装置15を用いた。また、図5には、実験例7として、前記高さHが2mmで図3に示すような基板保持装置15を用いたときの実験結果を併せて示している。
【0040】
尚、穴の側壁の傾斜角度γは次のようにして算出する。即ち、図7に示すように、穴50の側壁が垂直に形成された場合の側壁51,53と実際の側壁52,54との、穴50の底部におけるずれ量W1,W2を、穴50の側壁のL方向及びR方向についてそれぞれ測定して次の数式1により傾斜角度α,βを算出した後、次の数式2により傾斜角度γを求める。また、傾斜角度α,βは、側壁52,54が側壁51,53よりもL方向に傾斜しているときは正の角度として、R方向に傾斜しているときは負の角度として算出する。図7において、符号Dは穴の深さであり、符号Mはマスクである。
【0041】
(数式1)
α=tan−1(W1/D)、β=tan−1(W2/D)
【0042】
(数式2)
γ=(α+β)/2
【0043】
この図5に示すように、実験例1〜6から、シリコン基板Kの中心からの距離が大きくなるほど、即ち、シリコン基板Kの外周側に近づくほど、傾斜角度γは大きくなるが、高さHが低ければ、シリコン基板Kの中心からの距離が大きくなっても傾斜角度γが小さいことが分かる。尚、実験例1と実験例2〜6では、用いた基板保持装置15’,15が異なるが、実験結果にはさほど影響しないものと思われる。
【0044】
また、シリコン基板Kの中心からの距離が約40mm以上のところにおいて、高さHが2mm〜5mmまでの場合は、高さHが2mmから3mmに、高さHが3mmから4mmに、高さHが4mmから5mmにといったように高さHが高くなると、ほぼ同じような割合で傾斜角度γが大きくなるが、高さHが6mm及び7.8mmの場合は、高さHが2mm〜5mmまでの場合よりも傾斜角度γが大きくなる割合が高くなっている。
【0045】
これらのことから、高さHを5mm以下、好ましくは2mm以下とすることで、傾斜角度γを一定角度以下に収めて高精度なエッチング形状が得られることが分かる。したがって、処理ガスや反応生成物の滞留を防止したり、バイアス電位を均一に生じさせることが可能であることが分かる。
【0046】
また、実験例6及び7からは、第1電極17及び第2電極21からなる構造体の外周部をシリコン基板Kの外周部よりも外側に大きくすることで、より傾斜角度γが小さくなっていることが分かる。したがって、バイアス電位をより均一に生じさせ、これにより、より高精度なエッチング形状が得られることが分かる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0048】
上例では、前記第1電極17と第2電極21を別部材から構成したが、これらを一体的に構成しても良い。また、前記保護部材25を固定するのではなく、前記第1電極17,第1絶縁体18,下部部材20,第2電極21及び第2絶縁体22からなる構造体を固定し、保護部材25を保護位置と退避位置との間で昇降させるようにしても良い。
【0049】
また、保護部材25は、下部部材20が上昇端位置にあるときにシリコン基板Kの上面からこの保護部材25の上面までの高さHが1mm以上5mm以下、より好ましくは1mm以上2mm以下となる板厚に、その全体の板厚が形成されていても良いが、保護部材25のシリコン基板Kを覆う部分だけがそのような板厚に形成されていたり、保護部材25のシリコン基板Kを覆う部分を含む内周側がそのような板厚に形成されていても良い。この場合において、保護部材25のその他の部分における板厚は8mm以下であることが好ましい。
【0050】
また、前記保護部材25,第1絶縁体18及び第2絶縁体22は、上述のように、同一材料から構成することが好ましいが、これは、材料が同じであれば、保護部材25,第1絶縁体18及び第2絶縁体22の厚さを調整して、第1絶縁体18の厚さ(X)を、第2絶縁体22の内周側縁部における厚さ(Y)と保護部材25の内周側縁部における板厚(Z)とを合計した値と略等しくするだけで、簡単に、生じるバイアス電位をシリコン基板Kの全面に渡って均一にすることができるからである。但し、保護部材25,第1絶縁体18及び第2絶縁体22を構成する各材料の物性値を考慮し、前記厚さ(X),厚さ(Y)及び板厚(Z)をそれぞれ調整することにより、生じるバイアス電位をシリコン基板Kの全面に渡って均一にすることができるのであれば、保護部材25,第1絶縁体18及び第2絶縁体22を異なる材料から構成しても何ら差し支えない。
【0051】
また、上例では、プラズマ処理の一例としてエッチング処理を挙げたが、これに限定されるものではなく、アッシング処理や成膜処理などにも本発明を適用することができる。また、処理対象となる基板Kは、シリコン基板に限られず、ガラス基板など、どのような基板であっても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 エッチング装置
11 処理チャンバ
15 基板保持装置
16 静電チャック
17 第1電極
18 第1絶縁体
19 直流電源
20 下部部材
21 第2電極
22 第2絶縁体
23 昇降シリンダ
25 保護部材
26 支持部材
30 排気装置
35 ガス供給装置
40 プラズマ生成装置
41 コイル
42 コイル用高周波電源
45 基台用高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞空間を有する処理チャンバと、
高周波電圧が印加される電極、及び、この電極上に設けられ、基板が載置される絶縁体を有し、前記処理チャンバ内に配設される基台と、
前記基台の絶縁体上に載置された基板を吸着してこの基台上に固定する吸着手段と、
前記処理チャンバ内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記処理チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、
前記基台の電極に高周波電圧を印加する電圧印加手段と、
前記処理チャンバ内のガスを排気して内部を減圧する排気手段と、
環状且つ板状に形成され、その内周側縁部によって、前記基台上に載置された基板の外周側縁部上面を覆う保護部材と、
前記基台及び保護部材のいずれか一方を昇降させ、これを、前記基台上の基板が前記保護部材により覆われる保護位置と、覆われない退避位置との間で移動させる駆動手段とを備えたプラズマ処理装置であって、
前記保護部材の少なくとも前記基板を覆う部分は、前記保護位置において、前記基板上面から前記保護部材上面までの高さが1mm以上5mm以下となる板厚に形成されてなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記基台の電極は、その外径が前記基板の外径よりも大径に形成されて、前記基台上に固定される基板よりも外周部が外側に張り出すように設けられてなることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記基台の電極は、その外周部の、前記基台上の基板からの張出量が29mm以下となるように構成されてなることを特徴とする請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記基台の絶縁体と保護部材は同一材料から構成され、
前記基台の絶縁体の厚さは、前記基板の外周側縁部より中央側の領域に対応する部分の厚さ(X)が前記基板の外周側縁部付近の領域に対応する部分の厚さ(Y)よりも厚く形成され、
前記厚さ(X)は、前記厚さ(Y)と、前記基板を覆う部分の前記保護部材の板厚(Z)とを合計した値と略等しいことを特徴とする請求項2又は3記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−192488(P2010−192488A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32145(P2009−32145)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】