プラズマ加工装置及びプラズマ加工方法
【課題】水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供する。
【解決手段】プラズマ加工処理装置10は、水素雰囲気下にてシリコン基板2に近接させた電極11とシリコン基板2との間に生成した水素プラズマ6を、シリコン基板2の表面に接触させてシリコン基板2をエッチングする。水素プラズマ6を生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発振器23と、電極11を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板2の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素導入ライン12とを備える。シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングする。
【解決手段】プラズマ加工処理装置10は、水素雰囲気下にてシリコン基板2に近接させた電極11とシリコン基板2との間に生成した水素プラズマ6を、シリコン基板2の表面に接触させてシリコン基板2をエッチングする。水素プラズマ6を生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発振器23と、電極11を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板2の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素導入ライン12とを備える。シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素プラズマによりシリコン表面の表面粗さを悪化させることなく鏡面加工可能なプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体関連分野において、単結晶シリコン、多結晶シリコン、及びアモルファスシリコン等のシリコン材料をプラズマにより加工する技術は必要不可欠な技術であり、様々な技術分野において発明が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1及び特許文献2には、プラズマによるシリコンウェハの加工変質層除去を目的とした発明が開示されている。例えば、上記特許文献1は、図11に示すように、一次ポリッシング後のシリコンウェハ101を、プラズマエッチングにより平坦化しており、この平坦化工程では、六弗化硫黄と水素ガスとを含むガスを使用している。具体的には、この装置では、プロセスガスである水素ガスを含んだ六弗化硫黄ガスをプロセスガス供給ライン102から導入し、プラズマ発生装置103を稼動して石英放電管104の中でフッ素ラジカル105を発生せしめ、その先端ノズル106より照射せしめる。シリコンウェハ101は、水平駆動されながら、上記石英放電管104の先端ノズル106から照射されるフッ素ラジカルによりエッチング作用を受ける。フッ素ラジカルはその下に位置するシリコンウェハ101の部分に局部的に作用するが、シリコンウェハが前述の通り水平駆動されるので、それによりウェハ全面がエッチング加工されるようになっている。
【0004】
一方、例えば、特許文献3には、シリコンウェハやSOI(Silicon on Insulator)ウェハのシリコン層を一様に薄くしたり、均一に平坦化したりすることを目的として、フッ素化合物ガスに水素又はアンモニアを添加することによって、エッチング後の表面粗さを改善する旨記載されている。さらに、特許文献4には、LSI製作工程におけるトレンチ加工に関する発明が開示されており、フッ素化合物を有するエッチングガスの利用により、フロン系ガスを用いずにシリコンのエッチングを行う旨が記載されている。
【特許文献1】特開2000−256094号公報(2000年9月19日公開)
【特許文献2】特開2001−244240号公報(2001年9月7日公開)
【特許文献3】特開2000−174004号公報(2000年6月23日公開)
【特許文献4】特開平10−163175号公報(1998年6月19日公開)
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.Vol.67 No.24 p.3590
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.vol.46 No.10A p.6796
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、シリコン材料をプラズマによりエッチング加工する場合には、前述したように、CF4 、SF6 等のフッ素系ガス、又は塩素系ガスが、エッチングガスとして用いられている。
【0006】
これらのフッ素系ガスは、温暖化係数が高く、地球環境への負荷が大きいというデメリットがある。また、塩素系ガスにおいては、毒性があり、設備を腐食させるというデメリットがある。さらには、これらのガスを用いる際には、除害設備等の設置にも多大なコストがかかる。また、ハロゲン系ガスは、非常に吸着エネルギが大きく、真空槽内へ多分に残留するため、これらを真空槽内から除去するには、ベーキング等のさらなるエネルギを必要とする。
【0007】
一方、フッ素系ガス及び塩素系ガス以外でシリコンをエッチングできるガスとしては水素ガスが挙げられ、水素ガスならば前述のような問題を伴うことはない。
【0008】
しかしながら、一般に、水素プラズマにてシリコンをエッチングすると、過剰水素がシリコン表面近傍に拡散・混入することにより、プレートレット欠陥が生じ、生じた欠陥を起点としてエッチングが進行するため表面粗さが悪化するという問題点を有していることが知られている。
【0009】
尚、例えば、非特許文献1には、水素プラズマ処理による表面粗さの悪化とそのメカニズムに関する考察が記載されている。また、非特許文献2には、水素プラズマ処理により表面粗さが悪化することを逆に利用し、シリコン表面にテクスチャ構造を形成することを目的とした試みが記載されている。
【0010】
以上のように、水素をエッチングガスとしたプラズマ加工では表面粗さが大きく悪化するため、各種デバイスを形成するには不向きであると考えられている。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプラズマ加工装置は、上記課題を解決するために、水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工装置において、上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられていることを特徴としている。
【0013】
本発明のプラズマ加工方法は、上記課題を解決するために、水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工方法において、上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングすることを特徴としている。
【0014】
上記の発明によれば、水素雰囲気下にてマイクロ波により高密度な原子状水素である水素プラズマを生成し、この水素プラズマを直接シリコン基板に接触させてエッチング加工を行う。そして、このとき、エッチング制御手段にてシリコン基板のエッチング加工速度を飛躍的に向上させ、シリコン基板内部への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行う。そして、水素のシリコン基板内部への拡散速度以上の速度にてエッチング加工することにより、シリコン基板の表面近傍でのプレートレット欠陥の発生が抑制されるため、シリコン基板の鏡面加工が可能となる。
【0015】
また、従来の大気圧プラズマ中でのエッチング加工では、多数の原子や分子等が存在することから、大気圧プラズマ中のイオンはシリコン基板の表面に衝突する前に何らかの原子や分子と衝突し、加工の際にシリコン基板の表面にダメージを与える可能性がある。
【0016】
この点、本発明では、水素雰囲気下による水素プラズマにてエッチング加工するので、大気圧プラズマ中のイオンが直接シリコン基板の表面に衝突することがない。このため、加工の際に表面にダメージを与えることがない。すなわち、結晶学的に乱れのない表面が実現できる。また、水素ガスのみを用いており、フッ素系ガス又は塩素系ガスを使用することがないため、除害設備等にかかる多大なコストや装置腐食に対するメンテナンス費用を低減することができる。
【0017】
したがって、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することができる。
【0018】
本発明のプラズマ加工装置では、前記エッチング制御手段は、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にて前記シリコン基板をエッチングすることが好ましい。
【0019】
これにより、シリコン基板の表面粗さをRMS(Root Mean Square)粒状度0.02μm以下の鏡面仕上げにすることが可能となる。
【0020】
本発明のプラズマ加工装置では、前記エッチング制御手段は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給することが好ましい。
【0021】
これにより、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板をエッチングすることが可能となる。
【0022】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板を搭載する基板搭載部には、基板冷却手段が設けられていることが好ましい。
【0023】
すなわち、水素プラズマによりシリコン基板をエッチング加工する場合、シリコン基板の温度が低い方がエッチング加工速度は上昇する。
【0024】
この点、本発明では、シリコン基板を搭載する基板搭載部には基板冷却手段が設けられているので、基板冷却手段にてシリコン基板を冷却することができる。そして、シリコン基板に近接する電極のパイプの内部からシリコン基板加工面に向けて比較的大流量の水素ガスを吹き付けるため、シリコン基板を低温に維持することが可能であり、エッチング加工速度を向上させることができる。
【0025】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板を前記電極に対して平行移動させる平行移動手段が設けられていることが好ましい。
【0026】
これにより、平行移動手段にてシリコン基板を電極に対して平行移動させることによって、シリコン基板を2次元的に鏡面加工することができる。
【0027】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板をエッチングするときの反応容器内の圧力を、50〜200Torrに保つ圧力保持手段を備えていることが好ましい。
【0028】
これにより、低圧雰囲気を形成するために必要とされるような強度を有する反応容器や強力な排気システム等が必要でなくなり、装置コストを低下させることができる。したがって、最終製品のコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のプラズマ加工装置は、以上のように、水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられているものである。
【0030】
本発明のプラズマ加工方法は、以上のように、水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングする方法である。
【0031】
それゆえ、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態について図1ないし図10に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0033】
本実施の形態のプラズマ加工装置としてのプラズマ加工処理装置10の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明に用いられるプラズマ加工処理装置10の好ましい一例の模式的な側面透視図である。
【0034】
上記プラズマ加工処理装置10は、図1に示すように、シリコン基板2をプラズマ加工処理する反応場となる内部空間が設けられた反応容器1と、上記シリコン基板2に近接可能に設けられて、シリコン基板2との間に生成した水素プラズマをシリコン基板2の表面に接触させるパイプ状の電極11と、上記電極11のパイプ内を通して該電極11の先端出口に水素を供給する水素ガス供給手段としての水素導入ライン12と、上記電極11出口への水素の供給量を調整する水素ガス流量調器13と、上記電極11に導波管21及び誘電体22を介してマイクロ波電力を供給するマイクロ波発生手段としてのマイクロ波発振器23とを備えている。
【0035】
上記シリコン基板2は、反応容器1の底面に対して水平に設けられた基板搭載部及び平行移動手段としての基板ステージ3に載置されるようになっている。この基板ステージ3は、図1の矢印Xで示される水平方向、及び図1の矢印Yで示される紙面に対して垂直な方向(電極11に対し垂直方向)に走査可能に構成されている。また、基板ステージ3には、この基板ステージ3上に載置されるシリコン基板2を吸着固定するための図示しない真空チャックが設けられており、基板ステージ3の移動によって、プラズマ加工処理中のシリコン基板2が載置位置からずれないように固定されている。
【0036】
さらに、上記基板ステージ3は接地されていると共に、この基板ステージ3の内部には、該基板ステージ3上に載置されるシリコン基板2を冷却するための基板冷却手段としての冷却機構4が設けられている。また、基板ステージ3は銅製にてなっており、熱伝導率がよいので、冷却機構4のシリコン基板2への冷却効率が増大するようになっている。
【0037】
尚、本実施の形態では、冷却機構4の冷媒として例えば20℃の水を使用しているが、本発明においては、必ずしもこれに限らず、他の冷媒を用いることも可能である。
【0038】
一方、上記電極11は、上記基板ステージ3の上方に基板ステージ3に対して垂直になるように設けられている。上記電極11は上下方向に移動可能に構成されており、電極11が上下方向に移動することにより、下方のシリコン基板2と電極11との距離を適宜変更することができるようになっている。また、電極11は水素ガスを導入するための水素導入ライン12に繋がっており、電極11パイプの内部からシリコン基板2に向けて水素ガスが供給可能となっている。
【0039】
上記導波管21には、マイクロ波整合器24及び可動短絡端25が設けられている。また、本実施の形態では、例えば2.45GHzのマイクロ波を用いている。
【0040】
上記反応容器1内には、ガスを排出するためのガス排気ライン5が設けられており、このガス排気ライン5は、反応容器1の外部にガスを吸引するための図示しないポンプに接続されている。したがって、上記ガス排気ライン5は、本発明の圧力保持手段としての機能を有している。
【0041】
尚、本発明のエッチング制御手段は、マイクロ波発生手段と、水素ガス供給手段と、基板冷却手段と、圧力保持手段とを含んでおり、これらによって、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板2をエッチングするようになっている。
【0042】
上記構成のプラズマ加工処理装置10を用いて、シリコン基板2の表面をプラズマ加工処理する方法の一例について以下に説明する。
【0043】
まず、反応容器1の内部のガスをガス排気ライン5によって十分に排気した後、水素導入ライン12からパイプ状の電極11の内部を通し、水素ガスを反応容器1の内部に導入する。ここで、水素ガスの供給とガス排気ライン5からの排気を同時に行うことにより、反応容器1の内部の圧力を所定の圧力に維持する。
【0044】
次いで、反応容器1の外部に設けられたマイクロ波発振器23からマイクロ波電力を導波管21及び誘電体22を介して電極11に印加する。このマイクロ波電力が電極11に印加されると、電極11と基板ステージ3との間に電場が生じる。
【0045】
上記電極11と基板ステージ3との間に形成された電場は、電極11とシリコン基板2の表面との間に供給された水素ガスを分解及び励起して、電極11とシリコン基板2の表面との間に水素プラズマ6を形成する。この水素プラズマ6がシリコン基板2の表面に接触し、水素プラズマ6によって生成した原子状水素がシリコン基板2の表面に作用し、SiH4 ガスを生成し、気相中に気化・拡散することによって、シリコン基板2の加工が進行する。
【0046】
この場合、シリコン基板2が載置された基板ステージ3を所定の走査方向に所定の速度で走査させることによって、電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させながら、水素プラズマ6をシリコン基板2に接触させることもできる。電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させることによって、シリコン基板2の表面が大きい場合でもシリコン基板2の表面全体を加工することができる。
【0047】
また、電極11とシリコン基板2の表面との間の距離を一定とした状態にて電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させることが好ましい。このときには、シリコン基板2の表面の加工ばらつきを低減することができる。
【0048】
また、シリコン基板2の温度は、図2に示すように、300℃以下が好ましい。すなわち、図2はプラズマ加工処理装置10における基板温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。この図2に示すように、例えば、Si(001)面では、300℃以下でエッチングレートが極度に大きくなっており、他の結晶面においても300℃以下でエッチングレートが大きくなっていることが分かる。尚、この現象は、例えば、CF4 等とは反対の特性となっている。
【0049】
このように、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10は、水素雰囲気下にてシリコン基板2に近接させた電極11とシリコン基板2との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板2の表面に接触させて該シリコン基板2をエッチングする。
【0050】
そして、プラズマ加工処理装置10は、水素プラズマ6を生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発振器23と、電極11を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板2の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素導入ライン12とを備えると共に、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングするエッチング制御手段が設けられている。
【0051】
本実施の形態では、水素雰囲気下にてマイクロ波により高密度な原子状水素である水素プラズマ6を生成し、この水素プラズマ6を直接シリコン基板2に接触させてエッチング加工を行う。そして、このとき、水素ガス流量調器13にてシリコン基板2のエッチング加工速度を飛躍的に向上させ、シリコン基板2内部への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行う。そして、水素のシリコン基板2内部への拡散速度以上の速度にてエッチング加工することにより、シリコン基板2の表面近傍でのプレートレット欠陥の発生が抑制されるため、シリコン基板2の鏡面加工が可能となる。すなわち、シリコン基板2の未処理状態と同等の鏡面加工が可能となる。
【0052】
尚、この原理としては、シリコン(Si)バルク内への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行うことにより、水素のシリコン(Si)バルク内への過剰進入を抑制することによって達成されるものと考えられる。
【0053】
ところで、従来の大気圧プラズマ中でのエッチング加工では、多数の原子や分子等が存在することから、大気圧プラズマ中のイオンはシリコン基板2の表面に衝突する前に何らかの原子や分子と衝突し、加工の際にシリコン基板2の表面にダメージを与える可能性がある。
【0054】
この点、本実施の形態では、水素雰囲気下による水素プラズマ6にてエッチング加工するので、大気圧プラズマ中のイオンが直接シリコン基板2の表面に衝突することがない。このため、加工の際に表面にダメージを与えることがない。すなわち、結晶学的に乱れのない表面が実現できる。また、水素ガスのみを用いており、フッ素系ガス又は塩素系ガスを使用することがないため、除害設備等にかかる多大なコストや装置腐食に対するメンテナンス費用を低減することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、水素プラズマ6を生成するために例えば2.45GHzのマイクロ波を用いている。このため、例えば、一般的な周波数である13.56MHzの高周波を用いる場合に比べて、水素ラジカル密度が多くなり、水素のシリコン基板2内部への拡散速度以上の速度でのエッチング加工が可能である。
【0056】
したがって、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板2を鏡面加工し得るプラズマ加工処理装置10及びプラズマ加工方法を提供することができる。
【0057】
本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、エッチング制御手段は、シリコン基板2の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングする。これにより、シリコン基板2の表面粗さをRMS(Root Mean Square)粒状度0.02μm以下の鏡面仕上げにすることが可能となる。尚、一般的には、4μm/min以上のエッチング速度の実現は困難である。また、シリコン基板2の移動速度は、深さ方向への加工速度には、影響しない。すなわち、速く走査していても、遅く走査していても、深さ方向へは同じ速度でエッチングされる。
【0058】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、エッチング制御手段の一つである水素ガス流量調器13は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給する。すなわち、本実施の形態では、水素ガス供給量が、従来のフッ素化合物ガス等でのエッチングのガス供給量に比べて格段に大きいものとなっている。例えば、前述した特許文献4では、フッ素化合物ガスを30〜40cc/minにて供給しているのに対して、本実施の形態では、水素ガスを10〜30L/minにて供給するものとなっている。
【0059】
これにより、シリコン基板2の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングすることが可能となる。また、これにより、大量の水素ガスを供給するので、水素プラズマ6が高温になるのを防止し、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度の増大を抑制することができる。
【0060】
ところで、水素プラズマ6によりシリコン基板2をエッチング加工する場合、シリコン基板2の温度が低い方がエッチング加工速度は上昇する。
【0061】
この点、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2を搭載する基板ステージ3には、冷却機構4が設けられている。このため、冷却機構4にてシリコン基板2を冷却することができる。そして、シリコン基板2に近接する電極11のパイプの内部からシリコン基板2加工面に向けて比較的大流量の水素ガスを吹き付けるため、シリコン基板2を低温に維持することが可能であり、エッチング加工速度を向上させることができる。尚、水冷にて冷却する場合には、水温5〜20℃が好ましい。
【0062】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2を電極11に対して平行移動させる基板ステージ3が設けられている。これにより、基板ステージ3にてシリコン基板2を電極11に対して平行移動させることによって、シリコン基板2を2次元的に鏡面加工することができる。つまり、シリコン基板2の表面を鏡面加工することができる。
【0063】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2をエッチングするときの反応容器1内の圧力を、50〜200Torrに保つガス排気ライン5を備えている。
【0064】
これにより、低圧雰囲気を形成するために必要とされるような強度を有する反応容器1や強力な排気システム等が必要でなくなり、装置コストを低下させることができる。したがって、最終製品のコストダウンを図ることができる。
【0065】
また、反応容器1内の圧力を50〜200Torrとすることにより、このような反応装置では、一般に、50Torr未満の低圧にて反応が行われることが多い、しかし、このような50Torr未満の低圧では、水素の供給量も必然的に少なくなる。
【0066】
この点、本実施の形態では、50Torr未満の低圧に比べて大気圧近傍である50〜200Torrとしているので、水素の供給量を多くすることができる。したがって、水素ラジカルの密度を非常に高くしてエッチング加工速度を向上させることができる。
【0067】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0068】
以下、図1に示されたプラズマ加工処理装置10によりシリコン基板2を加工する場合に、水素ガスのみにて鏡面加工を実現するための最適な条件を設定するための実験を行ったので、その結果について説明する。
〔実施例1:加工速度と加工後表面粗さとの相関検討〕
図1に示すプラズマ加工処理装置10のパイプ状の電極11から水素ガスを供給し、マイクロ波電力を供給することにより、電極11とシリコン基板2との間に水素プラズマ6を生成し、加工実験を行った。このパイプ状の電極11は、例えば、外径6.4mm(1/4inch)、内径4.0mmのSUSチューブを使用している。
【0069】
実験条件を表1に示す。加工実験中は、表1の水素供給流量にて電極11内から水素プラズマ6の内部へ直接水素ガスを供給し続けており、ガス排気ライン5の排気速度を変化させることにより、雰囲気圧力を表1の範囲内で一定に保っている。実験中は、基板ステージ3の内部に20℃の冷却水を供給し続けてシリコン基板2の冷却を行った。これにより、シリコン基板2の温度は約38℃であった。
【0070】
加工速度と加工後表面粗さとの相関について検討するため、表1の条件範囲にて加工したサンプルの加工深さから加工速度を算出し、それぞれの加工後表面粗さをレーザ顕微鏡により測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
結果を図3に基づいて説明する。図3は加工後表面粗さの加工速度依存性を示すグラフである。
【0073】
図3に示すように、加工速度2μm/min以下の領域では、加工速度の上昇と共に表面粗さは大きくなっている。これは、加工時間を一定としたため、加工速度の上昇と共に加工深さが深くなるためであると考えられる。加工速度2μm/min以上の領域では、加工速度の上昇と共に表面粗さは小さくなり、加工速度4μm/min以上では、レーザ顕微鏡の測定限界であるRMS(Root Mean Square)粒状度が0.02μm以下となった。
【0074】
加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面は、表面粗さが悪化したため目視レベルでは白濁して見える。しかし、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面は目視レベルでは全て鏡面であった。それぞれの領域のサンプル表面をSEMにて観察した結果を、図4(a)(b)に示す。図4(a)は加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面を示す顕微鏡写真であり、図4(b)は加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面を示す顕微鏡写真である。
【0075】
図4(a)に示すように、加工速度4μm/min未満の領域Aでは表面粗さが非常に悪化していることが分かるが、図4(b)に示すように、加工速度4μm/min以上の領域Bでは顕著な凹凸は確認できなかった。
【0076】
レーザ顕微鏡観察及び走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察から、長周期的な表面粗さの悪化は確認できなかったが、より微小な領域での表面粗さについて評価するため、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプル表面の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)での測定を行った。AFM測定結果を図5に示す。
【0077】
図5に示すように、500nm×500nmの範囲にて測定を行ったところ、RMS(Root Mean Square)粒状度が0.149nmとなり、サブnmオーダーの表面粗さが達成できていることが分かる。
【0078】
このように、加工速度4μm/min以上では鏡面が得られたが、前述したように、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度を上回る速度にて加工することにより、過剰水素の混入による表面近傍での欠陥発生を抑制し、鏡面加工を実現できるものと考えている。
【0079】
加工速度4μm/min以上を達成するためには、適切な実験条件に設定する必要があるが、各パラメータと加工速度との相関について検討した結果、表1の実験条件の中で加工速度に対し最も強い相関を示すパラメータは水素供給流量(流速)であった。
【0080】
図3に示したサンプル作成時の各水素流量から、電極11とシリコン基板2との間のギャップ部を通過する水素流速を求め、加工速度との相関についてまとめた結果を、図6に示す。図6は水素供給流速と加工速度との関係を示すグラフである。
【0081】
図6に示すグラフから分かるように、水素供給流速の上昇に伴って加工速度が上昇する傾向にある。流速(流量)の上昇に伴って供給される原子状水素の絶対数が上昇すること、及び流量上昇に伴って基板冷却効果が高くなることが、加工速度上昇の要因であると考えている。ただし、水素流速が過多になると水素プラズマ6に内部での反応時間が短くなり過ぎ、逆に下降速度は低下するため、実施例1におけるプラズマ加工処理装置10の装置構成においては、水素供給流速は200m/sec程度以下に設定することが好ましいと言える。
【0082】
尚、加工速度4μm/min以上を達成するためには、50m/sec以上の水素供給流速が必要であることが、図6のグラフから分かる。電極サイズの変更に伴い、必要な水素供給流量は変わると考えられるが、水素供給流速50m/sec以上となるように水素供給流量を設定すれば、電極11のサイズが異なる場合においても加工速度4μm/minを達成でき、鏡面加工を実現できるものと考えられる。
〔実施例2:多結晶シリコン基板の鏡面加工〕
水素プラズマによってシリコン基板2を加工する場合、面方位の違いによって加工速度が異なることが一般に知られている。これは面方位によって最表面におけるシリコン原子のバックボンドの数が異なることが要因であると考えられている。したがって、面方位による加工速度比は(100)面>(110)面>(111)面となる。
【0083】
このように、従来の水素プラズマ処理では、面方位により加工速度に大きな差が生じるため、様々な面方位をもつ多結晶シリコン基板を加工した場合、前述した過剰水素の混入による表面への欠陥導入のみならず、面方位による加工速度の違いも表面粗さ悪化の原因となるため、平坦化加工を実現することは困難である。
【0084】
しかし、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10ならば、多結晶シリコン基板の鏡面加工を行うことも可能である。
【0085】
まず、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10にて、Si(100)面及びSi(111)面を加工した結果を以下に説明する。表2の実験条件にて実施例1と同様の手順で水素プラズマ6を生成し、Si(100)面及びSi(111)面の加工を行い、面方位の違いによる加工速度の違いを評価した。
【0086】
【表2】
【0087】
結果を図7に示す。図7は本実施の形態のプラズマ加工処理装置10における、Si(100)面及びSi(111)面の加工速度を示すグラフである。
【0088】
図7から分かるように、面方位による加工速度の差は殆ど見られなかった。
【0089】
次に、表2の実験条件にて水素プラズマ6を生成し、多結晶シリコン基板の加工を行った。加工後の多結晶シリコン基板の写真を、図8に示す。
【0090】
図8に示すように、シリコン基板2の中央部の加工部が光沢を持っており、鏡面加工されていることが分かる。すなわち、外径6.4mm、内径4mm(肉厚:1.2mm)のパイプ状の電極11を用いることによって、図8に示すように、幅10mm程度のエッチング加工が可能であることが分かる。
【0091】
ここで、加工部及び未加工部の表面粗さをレーザ顕微鏡により測定した結果を、図9示す。図9に示すように、未加工部に比較し加工部では表面粗さが大きく改善されていることが分かる。また、図10は、多結晶シリコン基板の粒界部分をレーザ顕微鏡により測定した結果を示している。図10に示すように、顕著な段差等は確認されず、やはり面方位による加工速度の差は生じずに、平坦化されていることが分かる。
【0092】
以上のように、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10にて最適な加工条件に設定することにより、過剰水素の混入による表面への欠陥導入を抑制し、なおかつ面方位による加工速度差を抑制できるため、多結晶シリコン基板の鏡面加工を行うことも可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、単結晶シリコンウェハ製造時の加工変質層の除去方法、またSOI(Silicon on Insulator)ウェハの均一平坦化方法、SOIウェハのシリコン層薄膜化、その他、LSI(Large Scale Integrated circuit:大規模集積回路)製造工程や液晶製造工程等のシリコン半導体素子形成工程において好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明におけるプラズマ加工処理装置の実施の一形態を示すものであり、プラズマ加工処理装置の構成を示す模式的な側面透視図である。
【図2】上記プラズマ加工処理装置における基板温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図3】上記プラズマ加工処理装置における加工速度と加工後の表面粗さとの相関を示すグラフである。
【図4】(a)は上記プラズマ加工処理装置にてエッチング加工されたシリコン基板表面をSEMにて観察した結果を示すものであって、加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面のSEM画像を示す図であり、(b)は同、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面のSEM画像を示す図である。
【図5】上記プラズマ加工処理装置において加工速度4μm/min以上にて加工されたシリコン基板表面をAFMにて測定した結果のAFM画像を示す図である。
【図6】上記プラズマ加工処理装置における水素供給流速と加工速度との相関を示すグラフである。
【図7】上記プラズマ加工処理装置におけるSi(100)面及びSi(111)面の加工速度を示すグラフである。
【図8】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板画像を示す図である。
【図9】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板における加工部及び未加工部の表面粗さを示すチャートである。
【図10】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板における粒界部分の段差をレーザ顕微鏡により測定した結果を示すチャートである。
【図11】従来のプラズマ加工装置の構成を示す模式的な側面透視図である。
【符号の説明】
【0095】
1 反応容器
2 シリコン基板
3 基板ステージ(平行移動手段、基板搭載部)
4 冷却機構(基板冷却手段、エッチング制御手段)
5 ガス排気ライン(圧力保持手段、エッチング制御手段)
10 プラズマ加工処理装置(プラズマ加工装置)
11 電極
12 水素導入ライン(水素ガス供給手段、エッチング制御手段)
13 水素ガス流量調器(エッチング制御手段)
21 導波管
22 誘電体
23 マイクロ波発振器(マイクロ波発生手段、エッチング制御手段)
24 マイクロ波整合器
25 可動短絡端
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素プラズマによりシリコン表面の表面粗さを悪化させることなく鏡面加工可能なプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体関連分野において、単結晶シリコン、多結晶シリコン、及びアモルファスシリコン等のシリコン材料をプラズマにより加工する技術は必要不可欠な技術であり、様々な技術分野において発明が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1及び特許文献2には、プラズマによるシリコンウェハの加工変質層除去を目的とした発明が開示されている。例えば、上記特許文献1は、図11に示すように、一次ポリッシング後のシリコンウェハ101を、プラズマエッチングにより平坦化しており、この平坦化工程では、六弗化硫黄と水素ガスとを含むガスを使用している。具体的には、この装置では、プロセスガスである水素ガスを含んだ六弗化硫黄ガスをプロセスガス供給ライン102から導入し、プラズマ発生装置103を稼動して石英放電管104の中でフッ素ラジカル105を発生せしめ、その先端ノズル106より照射せしめる。シリコンウェハ101は、水平駆動されながら、上記石英放電管104の先端ノズル106から照射されるフッ素ラジカルによりエッチング作用を受ける。フッ素ラジカルはその下に位置するシリコンウェハ101の部分に局部的に作用するが、シリコンウェハが前述の通り水平駆動されるので、それによりウェハ全面がエッチング加工されるようになっている。
【0004】
一方、例えば、特許文献3には、シリコンウェハやSOI(Silicon on Insulator)ウェハのシリコン層を一様に薄くしたり、均一に平坦化したりすることを目的として、フッ素化合物ガスに水素又はアンモニアを添加することによって、エッチング後の表面粗さを改善する旨記載されている。さらに、特許文献4には、LSI製作工程におけるトレンチ加工に関する発明が開示されており、フッ素化合物を有するエッチングガスの利用により、フロン系ガスを用いずにシリコンのエッチングを行う旨が記載されている。
【特許文献1】特開2000−256094号公報(2000年9月19日公開)
【特許文献2】特開2001−244240号公報(2001年9月7日公開)
【特許文献3】特開2000−174004号公報(2000年6月23日公開)
【特許文献4】特開平10−163175号公報(1998年6月19日公開)
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.Vol.67 No.24 p.3590
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.vol.46 No.10A p.6796
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、シリコン材料をプラズマによりエッチング加工する場合には、前述したように、CF4 、SF6 等のフッ素系ガス、又は塩素系ガスが、エッチングガスとして用いられている。
【0006】
これらのフッ素系ガスは、温暖化係数が高く、地球環境への負荷が大きいというデメリットがある。また、塩素系ガスにおいては、毒性があり、設備を腐食させるというデメリットがある。さらには、これらのガスを用いる際には、除害設備等の設置にも多大なコストがかかる。また、ハロゲン系ガスは、非常に吸着エネルギが大きく、真空槽内へ多分に残留するため、これらを真空槽内から除去するには、ベーキング等のさらなるエネルギを必要とする。
【0007】
一方、フッ素系ガス及び塩素系ガス以外でシリコンをエッチングできるガスとしては水素ガスが挙げられ、水素ガスならば前述のような問題を伴うことはない。
【0008】
しかしながら、一般に、水素プラズマにてシリコンをエッチングすると、過剰水素がシリコン表面近傍に拡散・混入することにより、プレートレット欠陥が生じ、生じた欠陥を起点としてエッチングが進行するため表面粗さが悪化するという問題点を有していることが知られている。
【0009】
尚、例えば、非特許文献1には、水素プラズマ処理による表面粗さの悪化とそのメカニズムに関する考察が記載されている。また、非特許文献2には、水素プラズマ処理により表面粗さが悪化することを逆に利用し、シリコン表面にテクスチャ構造を形成することを目的とした試みが記載されている。
【0010】
以上のように、水素をエッチングガスとしたプラズマ加工では表面粗さが大きく悪化するため、各種デバイスを形成するには不向きであると考えられている。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプラズマ加工装置は、上記課題を解決するために、水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工装置において、上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられていることを特徴としている。
【0013】
本発明のプラズマ加工方法は、上記課題を解決するために、水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工方法において、上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングすることを特徴としている。
【0014】
上記の発明によれば、水素雰囲気下にてマイクロ波により高密度な原子状水素である水素プラズマを生成し、この水素プラズマを直接シリコン基板に接触させてエッチング加工を行う。そして、このとき、エッチング制御手段にてシリコン基板のエッチング加工速度を飛躍的に向上させ、シリコン基板内部への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行う。そして、水素のシリコン基板内部への拡散速度以上の速度にてエッチング加工することにより、シリコン基板の表面近傍でのプレートレット欠陥の発生が抑制されるため、シリコン基板の鏡面加工が可能となる。
【0015】
また、従来の大気圧プラズマ中でのエッチング加工では、多数の原子や分子等が存在することから、大気圧プラズマ中のイオンはシリコン基板の表面に衝突する前に何らかの原子や分子と衝突し、加工の際にシリコン基板の表面にダメージを与える可能性がある。
【0016】
この点、本発明では、水素雰囲気下による水素プラズマにてエッチング加工するので、大気圧プラズマ中のイオンが直接シリコン基板の表面に衝突することがない。このため、加工の際に表面にダメージを与えることがない。すなわち、結晶学的に乱れのない表面が実現できる。また、水素ガスのみを用いており、フッ素系ガス又は塩素系ガスを使用することがないため、除害設備等にかかる多大なコストや装置腐食に対するメンテナンス費用を低減することができる。
【0017】
したがって、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することができる。
【0018】
本発明のプラズマ加工装置では、前記エッチング制御手段は、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にて前記シリコン基板をエッチングすることが好ましい。
【0019】
これにより、シリコン基板の表面粗さをRMS(Root Mean Square)粒状度0.02μm以下の鏡面仕上げにすることが可能となる。
【0020】
本発明のプラズマ加工装置では、前記エッチング制御手段は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給することが好ましい。
【0021】
これにより、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板をエッチングすることが可能となる。
【0022】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板を搭載する基板搭載部には、基板冷却手段が設けられていることが好ましい。
【0023】
すなわち、水素プラズマによりシリコン基板をエッチング加工する場合、シリコン基板の温度が低い方がエッチング加工速度は上昇する。
【0024】
この点、本発明では、シリコン基板を搭載する基板搭載部には基板冷却手段が設けられているので、基板冷却手段にてシリコン基板を冷却することができる。そして、シリコン基板に近接する電極のパイプの内部からシリコン基板加工面に向けて比較的大流量の水素ガスを吹き付けるため、シリコン基板を低温に維持することが可能であり、エッチング加工速度を向上させることができる。
【0025】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板を前記電極に対して平行移動させる平行移動手段が設けられていることが好ましい。
【0026】
これにより、平行移動手段にてシリコン基板を電極に対して平行移動させることによって、シリコン基板を2次元的に鏡面加工することができる。
【0027】
本発明のプラズマ加工装置では、前記シリコン基板をエッチングするときの反応容器内の圧力を、50〜200Torrに保つ圧力保持手段を備えていることが好ましい。
【0028】
これにより、低圧雰囲気を形成するために必要とされるような強度を有する反応容器や強力な排気システム等が必要でなくなり、装置コストを低下させることができる。したがって、最終製品のコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のプラズマ加工装置は、以上のように、水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられているものである。
【0030】
本発明のプラズマ加工方法は、以上のように、水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングする方法である。
【0031】
それゆえ、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板を鏡面加工し得るプラズマ加工装置及びプラズマ加工方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態について図1ないし図10に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0033】
本実施の形態のプラズマ加工装置としてのプラズマ加工処理装置10の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明に用いられるプラズマ加工処理装置10の好ましい一例の模式的な側面透視図である。
【0034】
上記プラズマ加工処理装置10は、図1に示すように、シリコン基板2をプラズマ加工処理する反応場となる内部空間が設けられた反応容器1と、上記シリコン基板2に近接可能に設けられて、シリコン基板2との間に生成した水素プラズマをシリコン基板2の表面に接触させるパイプ状の電極11と、上記電極11のパイプ内を通して該電極11の先端出口に水素を供給する水素ガス供給手段としての水素導入ライン12と、上記電極11出口への水素の供給量を調整する水素ガス流量調器13と、上記電極11に導波管21及び誘電体22を介してマイクロ波電力を供給するマイクロ波発生手段としてのマイクロ波発振器23とを備えている。
【0035】
上記シリコン基板2は、反応容器1の底面に対して水平に設けられた基板搭載部及び平行移動手段としての基板ステージ3に載置されるようになっている。この基板ステージ3は、図1の矢印Xで示される水平方向、及び図1の矢印Yで示される紙面に対して垂直な方向(電極11に対し垂直方向)に走査可能に構成されている。また、基板ステージ3には、この基板ステージ3上に載置されるシリコン基板2を吸着固定するための図示しない真空チャックが設けられており、基板ステージ3の移動によって、プラズマ加工処理中のシリコン基板2が載置位置からずれないように固定されている。
【0036】
さらに、上記基板ステージ3は接地されていると共に、この基板ステージ3の内部には、該基板ステージ3上に載置されるシリコン基板2を冷却するための基板冷却手段としての冷却機構4が設けられている。また、基板ステージ3は銅製にてなっており、熱伝導率がよいので、冷却機構4のシリコン基板2への冷却効率が増大するようになっている。
【0037】
尚、本実施の形態では、冷却機構4の冷媒として例えば20℃の水を使用しているが、本発明においては、必ずしもこれに限らず、他の冷媒を用いることも可能である。
【0038】
一方、上記電極11は、上記基板ステージ3の上方に基板ステージ3に対して垂直になるように設けられている。上記電極11は上下方向に移動可能に構成されており、電極11が上下方向に移動することにより、下方のシリコン基板2と電極11との距離を適宜変更することができるようになっている。また、電極11は水素ガスを導入するための水素導入ライン12に繋がっており、電極11パイプの内部からシリコン基板2に向けて水素ガスが供給可能となっている。
【0039】
上記導波管21には、マイクロ波整合器24及び可動短絡端25が設けられている。また、本実施の形態では、例えば2.45GHzのマイクロ波を用いている。
【0040】
上記反応容器1内には、ガスを排出するためのガス排気ライン5が設けられており、このガス排気ライン5は、反応容器1の外部にガスを吸引するための図示しないポンプに接続されている。したがって、上記ガス排気ライン5は、本発明の圧力保持手段としての機能を有している。
【0041】
尚、本発明のエッチング制御手段は、マイクロ波発生手段と、水素ガス供給手段と、基板冷却手段と、圧力保持手段とを含んでおり、これらによって、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板2をエッチングするようになっている。
【0042】
上記構成のプラズマ加工処理装置10を用いて、シリコン基板2の表面をプラズマ加工処理する方法の一例について以下に説明する。
【0043】
まず、反応容器1の内部のガスをガス排気ライン5によって十分に排気した後、水素導入ライン12からパイプ状の電極11の内部を通し、水素ガスを反応容器1の内部に導入する。ここで、水素ガスの供給とガス排気ライン5からの排気を同時に行うことにより、反応容器1の内部の圧力を所定の圧力に維持する。
【0044】
次いで、反応容器1の外部に設けられたマイクロ波発振器23からマイクロ波電力を導波管21及び誘電体22を介して電極11に印加する。このマイクロ波電力が電極11に印加されると、電極11と基板ステージ3との間に電場が生じる。
【0045】
上記電極11と基板ステージ3との間に形成された電場は、電極11とシリコン基板2の表面との間に供給された水素ガスを分解及び励起して、電極11とシリコン基板2の表面との間に水素プラズマ6を形成する。この水素プラズマ6がシリコン基板2の表面に接触し、水素プラズマ6によって生成した原子状水素がシリコン基板2の表面に作用し、SiH4 ガスを生成し、気相中に気化・拡散することによって、シリコン基板2の加工が進行する。
【0046】
この場合、シリコン基板2が載置された基板ステージ3を所定の走査方向に所定の速度で走査させることによって、電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させながら、水素プラズマ6をシリコン基板2に接触させることもできる。電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させることによって、シリコン基板2の表面が大きい場合でもシリコン基板2の表面全体を加工することができる。
【0047】
また、電極11とシリコン基板2の表面との間の距離を一定とした状態にて電極11をシリコン基板2の表面に対して平行方向に相対的に移動させることが好ましい。このときには、シリコン基板2の表面の加工ばらつきを低減することができる。
【0048】
また、シリコン基板2の温度は、図2に示すように、300℃以下が好ましい。すなわち、図2はプラズマ加工処理装置10における基板温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。この図2に示すように、例えば、Si(001)面では、300℃以下でエッチングレートが極度に大きくなっており、他の結晶面においても300℃以下でエッチングレートが大きくなっていることが分かる。尚、この現象は、例えば、CF4 等とは反対の特性となっている。
【0049】
このように、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10は、水素雰囲気下にてシリコン基板2に近接させた電極11とシリコン基板2との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板2の表面に接触させて該シリコン基板2をエッチングする。
【0050】
そして、プラズマ加工処理装置10は、水素プラズマ6を生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発振器23と、電極11を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板2の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素導入ライン12とを備えると共に、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングするエッチング制御手段が設けられている。
【0051】
本実施の形態では、水素雰囲気下にてマイクロ波により高密度な原子状水素である水素プラズマ6を生成し、この水素プラズマ6を直接シリコン基板2に接触させてエッチング加工を行う。そして、このとき、水素ガス流量調器13にてシリコン基板2のエッチング加工速度を飛躍的に向上させ、シリコン基板2内部への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行う。そして、水素のシリコン基板2内部への拡散速度以上の速度にてエッチング加工することにより、シリコン基板2の表面近傍でのプレートレット欠陥の発生が抑制されるため、シリコン基板2の鏡面加工が可能となる。すなわち、シリコン基板2の未処理状態と同等の鏡面加工が可能となる。
【0052】
尚、この原理としては、シリコン(Si)バルク内への水素の拡散速度を上回る速度でエッチングを行うことにより、水素のシリコン(Si)バルク内への過剰進入を抑制することによって達成されるものと考えられる。
【0053】
ところで、従来の大気圧プラズマ中でのエッチング加工では、多数の原子や分子等が存在することから、大気圧プラズマ中のイオンはシリコン基板2の表面に衝突する前に何らかの原子や分子と衝突し、加工の際にシリコン基板2の表面にダメージを与える可能性がある。
【0054】
この点、本実施の形態では、水素雰囲気下による水素プラズマ6にてエッチング加工するので、大気圧プラズマ中のイオンが直接シリコン基板2の表面に衝突することがない。このため、加工の際に表面にダメージを与えることがない。すなわち、結晶学的に乱れのない表面が実現できる。また、水素ガスのみを用いており、フッ素系ガス又は塩素系ガスを使用することがないため、除害設備等にかかる多大なコストや装置腐食に対するメンテナンス費用を低減することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、水素プラズマ6を生成するために例えば2.45GHzのマイクロ波を用いている。このため、例えば、一般的な周波数である13.56MHzの高周波を用いる場合に比べて、水素ラジカル密度が多くなり、水素のシリコン基板2内部への拡散速度以上の速度でのエッチング加工が可能である。
【0056】
したがって、水素ガスをエッチングガスとして用いた場合に、シリコン材料の表面粗さを悪化させることなく、シリコン基板2を鏡面加工し得るプラズマ加工処理装置10及びプラズマ加工方法を提供することができる。
【0057】
本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、エッチング制御手段は、シリコン基板2の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングする。これにより、シリコン基板2の表面粗さをRMS(Root Mean Square)粒状度0.02μm以下の鏡面仕上げにすることが可能となる。尚、一般的には、4μm/min以上のエッチング速度の実現は困難である。また、シリコン基板2の移動速度は、深さ方向への加工速度には、影響しない。すなわち、速く走査していても、遅く走査していても、深さ方向へは同じ速度でエッチングされる。
【0058】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、エッチング制御手段の一つである水素ガス流量調器13は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給する。すなわち、本実施の形態では、水素ガス供給量が、従来のフッ素化合物ガス等でのエッチングのガス供給量に比べて格段に大きいものとなっている。例えば、前述した特許文献4では、フッ素化合物ガスを30〜40cc/minにて供給しているのに対して、本実施の形態では、水素ガスを10〜30L/minにて供給するものとなっている。
【0059】
これにより、シリコン基板2の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にてシリコン基板2をエッチングすることが可能となる。また、これにより、大量の水素ガスを供給するので、水素プラズマ6が高温になるのを防止し、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度の増大を抑制することができる。
【0060】
ところで、水素プラズマ6によりシリコン基板2をエッチング加工する場合、シリコン基板2の温度が低い方がエッチング加工速度は上昇する。
【0061】
この点、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2を搭載する基板ステージ3には、冷却機構4が設けられている。このため、冷却機構4にてシリコン基板2を冷却することができる。そして、シリコン基板2に近接する電極11のパイプの内部からシリコン基板2加工面に向けて比較的大流量の水素ガスを吹き付けるため、シリコン基板2を低温に維持することが可能であり、エッチング加工速度を向上させることができる。尚、水冷にて冷却する場合には、水温5〜20℃が好ましい。
【0062】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2を電極11に対して平行移動させる基板ステージ3が設けられている。これにより、基板ステージ3にてシリコン基板2を電極11に対して平行移動させることによって、シリコン基板2を2次元的に鏡面加工することができる。つまり、シリコン基板2の表面を鏡面加工することができる。
【0063】
また、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10では、シリコン基板2をエッチングするときの反応容器1内の圧力を、50〜200Torrに保つガス排気ライン5を備えている。
【0064】
これにより、低圧雰囲気を形成するために必要とされるような強度を有する反応容器1や強力な排気システム等が必要でなくなり、装置コストを低下させることができる。したがって、最終製品のコストダウンを図ることができる。
【0065】
また、反応容器1内の圧力を50〜200Torrとすることにより、このような反応装置では、一般に、50Torr未満の低圧にて反応が行われることが多い、しかし、このような50Torr未満の低圧では、水素の供給量も必然的に少なくなる。
【0066】
この点、本実施の形態では、50Torr未満の低圧に比べて大気圧近傍である50〜200Torrとしているので、水素の供給量を多くすることができる。したがって、水素ラジカルの密度を非常に高くしてエッチング加工速度を向上させることができる。
【0067】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0068】
以下、図1に示されたプラズマ加工処理装置10によりシリコン基板2を加工する場合に、水素ガスのみにて鏡面加工を実現するための最適な条件を設定するための実験を行ったので、その結果について説明する。
〔実施例1:加工速度と加工後表面粗さとの相関検討〕
図1に示すプラズマ加工処理装置10のパイプ状の電極11から水素ガスを供給し、マイクロ波電力を供給することにより、電極11とシリコン基板2との間に水素プラズマ6を生成し、加工実験を行った。このパイプ状の電極11は、例えば、外径6.4mm(1/4inch)、内径4.0mmのSUSチューブを使用している。
【0069】
実験条件を表1に示す。加工実験中は、表1の水素供給流量にて電極11内から水素プラズマ6の内部へ直接水素ガスを供給し続けており、ガス排気ライン5の排気速度を変化させることにより、雰囲気圧力を表1の範囲内で一定に保っている。実験中は、基板ステージ3の内部に20℃の冷却水を供給し続けてシリコン基板2の冷却を行った。これにより、シリコン基板2の温度は約38℃であった。
【0070】
加工速度と加工後表面粗さとの相関について検討するため、表1の条件範囲にて加工したサンプルの加工深さから加工速度を算出し、それぞれの加工後表面粗さをレーザ顕微鏡により測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
結果を図3に基づいて説明する。図3は加工後表面粗さの加工速度依存性を示すグラフである。
【0073】
図3に示すように、加工速度2μm/min以下の領域では、加工速度の上昇と共に表面粗さは大きくなっている。これは、加工時間を一定としたため、加工速度の上昇と共に加工深さが深くなるためであると考えられる。加工速度2μm/min以上の領域では、加工速度の上昇と共に表面粗さは小さくなり、加工速度4μm/min以上では、レーザ顕微鏡の測定限界であるRMS(Root Mean Square)粒状度が0.02μm以下となった。
【0074】
加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面は、表面粗さが悪化したため目視レベルでは白濁して見える。しかし、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面は目視レベルでは全て鏡面であった。それぞれの領域のサンプル表面をSEMにて観察した結果を、図4(a)(b)に示す。図4(a)は加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面を示す顕微鏡写真であり、図4(b)は加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面を示す顕微鏡写真である。
【0075】
図4(a)に示すように、加工速度4μm/min未満の領域Aでは表面粗さが非常に悪化していることが分かるが、図4(b)に示すように、加工速度4μm/min以上の領域Bでは顕著な凹凸は確認できなかった。
【0076】
レーザ顕微鏡観察及び走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察から、長周期的な表面粗さの悪化は確認できなかったが、より微小な領域での表面粗さについて評価するため、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプル表面の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)での測定を行った。AFM測定結果を図5に示す。
【0077】
図5に示すように、500nm×500nmの範囲にて測定を行ったところ、RMS(Root Mean Square)粒状度が0.149nmとなり、サブnmオーダーの表面粗さが達成できていることが分かる。
【0078】
このように、加工速度4μm/min以上では鏡面が得られたが、前述したように、シリコン基板2の内部への水素の拡散速度を上回る速度にて加工することにより、過剰水素の混入による表面近傍での欠陥発生を抑制し、鏡面加工を実現できるものと考えている。
【0079】
加工速度4μm/min以上を達成するためには、適切な実験条件に設定する必要があるが、各パラメータと加工速度との相関について検討した結果、表1の実験条件の中で加工速度に対し最も強い相関を示すパラメータは水素供給流量(流速)であった。
【0080】
図3に示したサンプル作成時の各水素流量から、電極11とシリコン基板2との間のギャップ部を通過する水素流速を求め、加工速度との相関についてまとめた結果を、図6に示す。図6は水素供給流速と加工速度との関係を示すグラフである。
【0081】
図6に示すグラフから分かるように、水素供給流速の上昇に伴って加工速度が上昇する傾向にある。流速(流量)の上昇に伴って供給される原子状水素の絶対数が上昇すること、及び流量上昇に伴って基板冷却効果が高くなることが、加工速度上昇の要因であると考えている。ただし、水素流速が過多になると水素プラズマ6に内部での反応時間が短くなり過ぎ、逆に下降速度は低下するため、実施例1におけるプラズマ加工処理装置10の装置構成においては、水素供給流速は200m/sec程度以下に設定することが好ましいと言える。
【0082】
尚、加工速度4μm/min以上を達成するためには、50m/sec以上の水素供給流速が必要であることが、図6のグラフから分かる。電極サイズの変更に伴い、必要な水素供給流量は変わると考えられるが、水素供給流速50m/sec以上となるように水素供給流量を設定すれば、電極11のサイズが異なる場合においても加工速度4μm/minを達成でき、鏡面加工を実現できるものと考えられる。
〔実施例2:多結晶シリコン基板の鏡面加工〕
水素プラズマによってシリコン基板2を加工する場合、面方位の違いによって加工速度が異なることが一般に知られている。これは面方位によって最表面におけるシリコン原子のバックボンドの数が異なることが要因であると考えられている。したがって、面方位による加工速度比は(100)面>(110)面>(111)面となる。
【0083】
このように、従来の水素プラズマ処理では、面方位により加工速度に大きな差が生じるため、様々な面方位をもつ多結晶シリコン基板を加工した場合、前述した過剰水素の混入による表面への欠陥導入のみならず、面方位による加工速度の違いも表面粗さ悪化の原因となるため、平坦化加工を実現することは困難である。
【0084】
しかし、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10ならば、多結晶シリコン基板の鏡面加工を行うことも可能である。
【0085】
まず、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10にて、Si(100)面及びSi(111)面を加工した結果を以下に説明する。表2の実験条件にて実施例1と同様の手順で水素プラズマ6を生成し、Si(100)面及びSi(111)面の加工を行い、面方位の違いによる加工速度の違いを評価した。
【0086】
【表2】
【0087】
結果を図7に示す。図7は本実施の形態のプラズマ加工処理装置10における、Si(100)面及びSi(111)面の加工速度を示すグラフである。
【0088】
図7から分かるように、面方位による加工速度の差は殆ど見られなかった。
【0089】
次に、表2の実験条件にて水素プラズマ6を生成し、多結晶シリコン基板の加工を行った。加工後の多結晶シリコン基板の写真を、図8に示す。
【0090】
図8に示すように、シリコン基板2の中央部の加工部が光沢を持っており、鏡面加工されていることが分かる。すなわち、外径6.4mm、内径4mm(肉厚:1.2mm)のパイプ状の電極11を用いることによって、図8に示すように、幅10mm程度のエッチング加工が可能であることが分かる。
【0091】
ここで、加工部及び未加工部の表面粗さをレーザ顕微鏡により測定した結果を、図9示す。図9に示すように、未加工部に比較し加工部では表面粗さが大きく改善されていることが分かる。また、図10は、多結晶シリコン基板の粒界部分をレーザ顕微鏡により測定した結果を示している。図10に示すように、顕著な段差等は確認されず、やはり面方位による加工速度の差は生じずに、平坦化されていることが分かる。
【0092】
以上のように、本実施の形態のプラズマ加工処理装置10にて最適な加工条件に設定することにより、過剰水素の混入による表面への欠陥導入を抑制し、なおかつ面方位による加工速度差を抑制できるため、多結晶シリコン基板の鏡面加工を行うことも可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、単結晶シリコンウェハ製造時の加工変質層の除去方法、またSOI(Silicon on Insulator)ウェハの均一平坦化方法、SOIウェハのシリコン層薄膜化、その他、LSI(Large Scale Integrated circuit:大規模集積回路)製造工程や液晶製造工程等のシリコン半導体素子形成工程において好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明におけるプラズマ加工処理装置の実施の一形態を示すものであり、プラズマ加工処理装置の構成を示す模式的な側面透視図である。
【図2】上記プラズマ加工処理装置における基板温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図3】上記プラズマ加工処理装置における加工速度と加工後の表面粗さとの相関を示すグラフである。
【図4】(a)は上記プラズマ加工処理装置にてエッチング加工されたシリコン基板表面をSEMにて観察した結果を示すものであって、加工速度4μm/min未満にて加工したサンプルの加工後表面のSEM画像を示す図であり、(b)は同、加工速度4μm/min以上にて加工したサンプルの加工後表面のSEM画像を示す図である。
【図5】上記プラズマ加工処理装置において加工速度4μm/min以上にて加工されたシリコン基板表面をAFMにて測定した結果のAFM画像を示す図である。
【図6】上記プラズマ加工処理装置における水素供給流速と加工速度との相関を示すグラフである。
【図7】上記プラズマ加工処理装置におけるSi(100)面及びSi(111)面の加工速度を示すグラフである。
【図8】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板画像を示す図である。
【図9】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板における加工部及び未加工部の表面粗さを示すチャートである。
【図10】上記プラズマ加工処理装置にて加工された多結晶シリコン基板における粒界部分の段差をレーザ顕微鏡により測定した結果を示すチャートである。
【図11】従来のプラズマ加工装置の構成を示す模式的な側面透視図である。
【符号の説明】
【0095】
1 反応容器
2 シリコン基板
3 基板ステージ(平行移動手段、基板搭載部)
4 冷却機構(基板冷却手段、エッチング制御手段)
5 ガス排気ライン(圧力保持手段、エッチング制御手段)
10 プラズマ加工処理装置(プラズマ加工装置)
11 電極
12 水素導入ライン(水素ガス供給手段、エッチング制御手段)
13 水素ガス流量調器(エッチング制御手段)
21 導波管
22 誘電体
23 マイクロ波発振器(マイクロ波発生手段、エッチング制御手段)
24 マイクロ波整合器
25 可動短絡端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工装置において、
上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、
上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、
上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられていることを特徴とするプラズマ加工装置。
【請求項2】
前記エッチング制御手段は、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にて前記シリコン基板をエッチングすることを特徴とする請求項1記載のプラズマ加工装置。
【請求項3】
前記エッチング制御手段は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給することを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ加工装置。
【請求項4】
前記シリコン基板を搭載する基板搭載部には、基板冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のプラズマ加工装置。
【請求項5】
前記シリコン基板を前記電極に対して平行移動させる平行移動手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置。
【請求項6】
前記シリコン基板をエッチングするときの反応容器内の圧力を、50〜200Torrに保つ圧力保持手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置。
【請求項7】
水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工方法において、
上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、
上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、
上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングすることを特徴とするプラズマ加工方法。
【請求項1】
水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工装置において、
上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力するマイクロ波発生手段と、
上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給する水素ガス供給手段とを備えると共に、
上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングするエッチング制御手段が設けられていることを特徴とするプラズマ加工装置。
【請求項2】
前記エッチング制御手段は、シリコン基板の深さ方向に対して4μm/min以上のエッチング速度にて前記シリコン基板をエッチングすることを特徴とする請求項1記載のプラズマ加工装置。
【請求項3】
前記エッチング制御手段は、水素を前記プラズマ内部へ水素ガス供給流速50m/sec以上にて供給することを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ加工装置。
【請求項4】
前記シリコン基板を搭載する基板搭載部には、基板冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のプラズマ加工装置。
【請求項5】
前記シリコン基板を前記電極に対して平行移動させる平行移動手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置。
【請求項6】
前記シリコン基板をエッチングするときの反応容器内の圧力を、50〜200Torrに保つ圧力保持手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置。
【請求項7】
水素雰囲気下にてシリコン基板に近接させた電極とシリコン基板との間に生成した水素プラズマを、該シリコン基板の表面に接触させて該シリコン基板をエッチングするプラズマ加工方法において、
上記水素プラズマを生成するためのマイクロ波を出力し、
上記電極を形成するパイプ内を通して水素ガスをシリコン基板の加工面へ向けてプラズマ内部へ供給し、
上記シリコン基板の内部への水素の拡散速度以上のエッチング速度にて上記シリコン基板をエッチングすることを特徴とするプラズマ加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図8】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図8】
【公開番号】特開2010−87006(P2010−87006A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251163(P2008−251163)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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