説明

プレキャストコンクリート部材の接合構造、構造物

【課題】可変減衰ダンパーを用いることなく、地震情報に基づいて部材の剛性を変えることで制振効果を発揮させることができるプレキャストコンクリート部材の接合構造及び構造物を得る。
【解決手段】制御部50が大地震と算定した場合には、制御部50は、ポンプ部材46を制御して、貫通孔42からシリンダ部材30内へオイルを注入し、貫通孔40からシリンダ部材30内のオイルを排出させる。これにより、ピストン部材32を移動させ、鋼線24の緊張力を解放し、梁部材16と柱部材14との圧着力を弱まる。これにより、構造物の剛性を低下させることで構造物10の全体が変形して構造物10が長周期化し、大地震によって振動する地盤と構造物10とが共振するのが抑制される。このように、地震情報に基づいて部材の剛性を変えることで制振効果を発揮させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材の接合構造、及びこのプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えた構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地震発生初期のP波によって得られる地震情報に基づいて、可変減衰ダンパーの特性を変えて免震性能の向上を図る制振制御方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−45885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、可変減衰ダンパーを用いていたため、可変減衰ダンパーを設置するスペースが別途必要となっていた。
【0005】
本発明の課題は、可変減衰ダンパーを用いることなく、地震情報に基づいて部材の剛性を変えることで制振効果を発揮させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、プレキャストコンクリート製の柱部材と、プレキャストコンクリート製の梁部材の端面を前記柱部材の仕口部に圧着接合する圧着接合手段と、前記圧着接合手段の圧着力を変化させる圧着力変化手段と、地震発生初期のP波に基づいて前記圧着力変化手段を制御して前記圧着接合手段の圧着力を変化させる制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、地震発生初期のP波に基づいて制御部は、圧着力変化手段を制御して圧着接合手段の圧着力を変化させる(弱める)。梁部材の柱部材への圧着力を弱めることで、柱部材における仕口部の上下層の剛性が低下してこの梁と柱から構成される構造物の層の剛性が低下する。この結果、構造物の固有周期が長周期化する。
【0008】
このように、構造物の固有周期を長周期化させることで、大地震の卓越周期より構造物の固有周期が長くなり、共振するのが抑制される。これにより、大地震時の構造物への入力エネルギーを減少させて制振効果を発揮させることができる。
【0009】
本発明の請求項2に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、請求項1に記載において、前記圧着接合手段は、前記柱部材の仕口部を貫通して両側の前記梁部材に固定され、緊張力を付与されることで圧着力を発揮する緊張部材であり、前記圧着力変化手段は、特定の前記緊張部材に設けられ、前記圧力変化手段が設けられた前記梁部材と前記柱部材から構成される構造物の層には、変形して地震エネルギーを吸収する制振装置が設けられることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、緊張部材は、柱部材の仕口部を貫通して両側の梁部材に固定され、緊張力を付与されることで圧着力を発揮する。
【0011】
また、圧着力変化手段は、特定の圧着接合部材に設けられ、さらに、圧着力変化手段が設けられた梁部材と柱部材から構成される構造物の層には、変形して地震エネルギーを吸収する制振装置が設けられる。
【0012】
このように、特定の層の圧着度合いを弱めることで、その層の上下層の曲げ剛性を低下させ、その層を変形させることで長周期化を図ることができる。
【0013】
また、圧着力変化手段が設けられた梁部材と柱部材から構成される構造物の層に設置された制振装置が効果的に地震エネルギーを吸収する。
【0014】
本発明の請求項3に係る構造物は、請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、構造物に請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造を設けることで、大地震時には、柱部材における仕口部の上下層の剛性を低減させて構造物を長周期化して、大地震時の構造物への入力エネルギーを低減する制振効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造を示した断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造を示した断面図である。
【図3】(A)(B)本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造に用いられた圧着力変化装置等を示した断面図である。
【図4】(A)(B)本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造を示した側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る構造物を示した側面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る構造物を示した側面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る構造物の特性を説明するのに使用したグラフであって、縦軸に地震の加速度スペクトル、横軸に周期を示した図面である。
【図8】(A)(B)本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造を示した側面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る構造物を示した側面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る構造物の変形例を示した側面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る構造物の変形例を示した側面図である。
【図12】(A)(B)本発明の第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びこのプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えた構造物の一例について図1〜図7に従って説明する。なお、図中矢印UPは鉛直方向上方を示す。
【0018】
(全体構成)
図5に示されるように、構造物10は、地盤(GL)に鉛直方向に埋め込まれた円柱状の複数本の杭(図示省略)と、地盤(GL)に構築され、杭に支持されたコンクリート基礎12(以下単に基礎12と言う)とを備えている。
【0019】
さらに、この基礎12の上側(鉛直方向上側)には、の鉛直方向に延びるプレキャスト製(以下、PCa製)の柱部材14と、水平方向に延びるPCa製の梁部材16とを含んで構築された4階建ての上部構造体18が構築されている。
【0020】
(要部構成)
次ぎに、PCa製の柱部材14とPCa製の梁部材16との接合構造38について説明する。
【0021】
図1、図2に示されるように、鉛直方向に延びる柱部材14の両側の仕口部14Aには、水平方向に延びる梁部材16の端面16Aが突き当てられている。そして、鉛直方向(図1参照)及び水平方向(図2参照)に並んで配置された緊張部材20によって柱部材14の仕口部14Aと梁部材16の端面16Aとは圧着接合されている。
【0022】
詳細には、緊張部材20は、柱部材14の両側に設けられた仕口部14Aを貫通して梁部材16の端面16Aから梁部材16の内部に埋め込まれる管状の鋼管部材22と、この鋼管部材22の内部を挿通する鋼線24と、を備えている。
【0023】
さらに、鋼線24の一端側には、鋼線24の一端をその場で保持する保持部材26が設けられ、鋼線24の他端側には、梁部材16に付与する圧着力を変化させる圧着力変化手段としての圧着力変化装置28が設けられている。
【0024】
図3(A)に示されるように、圧着力変化装置28は、鋼線24の他端側が挿入されると共に内部にオイルが充填された筒状のシリンダ部材30と、シリンダ部材30の内部を鋼線24の長手方向(以下単に「鋼線長手方向」と言う)に移動可能に支持されるピストン部材32と、を含んで構成されている。
【0025】
さらに、ピストン部材32には、シリンダ部材30の内周面に沿って形成された円盤状の押圧部32Aと、この押圧部32Aに基端部が固定され、先端部が鋼線長手方向に延びてシリンダ部材30の外部に突出する円筒部32Bと、を備えている。そして、鋼線24の他端部は、円筒部32Bを挿通して円筒部32Bの先端部から突出している。
【0026】
また、鋼線24の他端部には雄ねじが形成された雄ねじ部24Aが設けられており、円筒部32Bの先端部から突出した雄ねじ部24Aにナット36が締め込まれている。これにより、ピストン部材32の移動に追従して鋼線24の他端部が移動するようになっている。
【0027】
さらに、シリンダ部材30の壁面には、押圧部32Aを挟んで2個の貫通孔40、42が形成されている。また、貫通孔40、42を挟んでシリンダ部材30の反対側には、貫通孔40、42を通してシリンダ部材30内へオイルの注入又はシリンダ部材30内からオイルの排出を行うポンプ部材46が設けられている。
【0028】
この構成により、ポンプ部材46を稼動させ、貫通孔42からシリンダ部材30内へオイルを注入し、貫通孔40からシリンダ部材30内のオイルを排出させると、ピストン部材32が、図3(A)で示す矢印方向へ移動して、鋼線24の緊張力を解放するようになっている(図3(B)参照)。つまり、図1に示されるように、鋼線24の緊張力を解放することで、梁部材16の柱部材14に対する圧着力が弱まり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が低下するようになっている。
【0029】
これに対し、図3(B)に示されるように、ポンプ部材46を稼動させ、貫通孔40からシリンダ部材30内へオイルを注入し、貫通孔42からシリンダ部材30内のオイルを排出させると、ピストン部材32が、図3(B)で示す矢印方向へ移動して、鋼線24に緊張力を付与するようになっている。つまり、図1に示されるように、鋼線24に緊張力を付与することで、梁部材16の柱部材14に対する圧着力が強まり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が高くなるようになっている。
【0030】
また、圧着力変化装置28を構成するポンプ部材46を制御して圧着力変化装置28の圧着力を変化させる制御手段としての制御部50が設けられている。通常時(地震が発生していない時)には、制御部50は、ポンプ部材46を制御してピストン部材32を図3(A)に示す位置に移動させ、鋼線24を緊張させて梁部材16の柱部材14に対する圧着力を強め、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性を高くするようになっている。
【0031】
一方、地震波には伝播速度が速いP波(初期微動)と、伝播速度は遅いが大きな揺れを起こす振幅の大きいS波(主要動)がある。そして、気象庁の緊急地震速報(ナウキャスト)や、防災科学技術研究所のリアルタイム地震情報活用システム(REIS)等によって、地震発生時に震源の近くで検知されたP波による地震に関するリアルタイム地震情報が発信されている。
【0032】
図5に示されるように、構造物10には、前述したリアルタイム地震情報を衛星通信又はインターネットを介して受信するセンサ52が設けられている。
【0033】
制御部50(図1参照)は、センサ52からのリアルタイム地震情報を常時取り込み可能に設定されおり、取り込まれたリアルタイム地震情報から、地震レベル又は構造物10の応答値を算出するようになっている。
【0034】
詳細には、制御部50には、マグニチュードと震源位置に関するリアルタイム地震情報から構造物10の建設地点における地震動レベルとして最大加速度振幅を算出するための距離減衰式を用いた演算プログラムが組み込まれている。
【0035】
この距離減衰式としては、下記のような式が知られている。
【0036】
logA=aM+b・R+c−log(R+e) D≦30km
logA=aM+b・R+c D>30km
【0037】
ここで、A:最大加速度応答スペクトル、M:マグニチュード、R:震源からの距離、a、b、c:回帰係数、e:補正項、D:震源深さ、である。
【0038】
そして、マグニチュードMと震源位置に関するリアルタイム地震情報が制御部50に取り込まれると、震源位置と構造物10の建設地点の位置情報とにより震源からの距離Rや震源深さDが算定され、さらにこれらR、Dの値とマグニチュードMとから、上記距離減衰式により、構造物10の建設地点における地震動の最大加速度振幅が算定されるようになっている。
【0039】
この結果に基づいて、制御部50がポンプ部材46を制御して圧着力変化装置28による圧着力を変化させるようになっている。
【0040】
そして、図4(A)に示されるように、鋼線24に緊張力が付与された状態では、梁部材16の柱部材14に対する圧着力が強くなり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が高くなるようになっている。
【0041】
これに対し、図4(B)に示されるように、鋼線24の緊張力が解放された状態では、鋼線24の緊張力消失により曲げ剛性の低下および圧縮軸力の低減によるコンクリートの見かけ上のヤング係数の低減にともなうせん断剛性の低下が生じる。
【0042】
そして、梁部材16では、鋼線24の緊張力消失による曲げ耐力の低下が生じる。これにより、梁部材16の柱部材14に対する圧着力が弱まり、柱部材14と梁部材16とが相対的に移動可能となり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が低下するようになっている。
【0043】
なお、柱部材14と梁部材16との接合構造38は、柱部材14、梁部材16、緊張部材20、圧着力変化装置28及び制御部50を含んで構成されている。
【0044】
(作用・効果)
次ぎに、柱部材14と梁部材16との接合構造38を用いて構造物10に制振効果を発揮させる方法について説明する。
【0045】
図5に示されるように、ある場所で地震が発生すると、その震源の近くで検知された初期微動を示すP波によって得られたリアルタイム地震情報が防災科学技術研究所のREIS等から発信せられる。
【0046】
そうすると、構造物10に設置されたセンサ52が、発信されたリアルタイム地震情報を受信し、制御部50(図1参照)は、センサ52が受信したリアルタイム地震情報を取り込む。さらに、取り込んだリアルタイム地震情報に基づいて制御部50は、震源からの距離Rや震源深さDを算定し、さらに、構造物10の建設地点における地震動の最大加速度振幅を算定する。
【0047】
図1に示されるように、制御部50が大地震(例えば震度5弱以上)と算定した場合には、制御部50がポンプ部材46を制御して圧着力変化装置28による圧着力を変化させる。
【0048】
詳細には、図3(A)で示されるように、制御部50は、ポンプ部材46を制御して、貫通孔42からシリンダ部材30内へオイルを注入し、貫通孔40からシリンダ部材30内のオイルを排出させる。これにより、ピストン部材32を図3(A)で示す矢印方向へ移動させ、鋼線24の緊張力を解放する(図3(B)参照)。
【0049】
図6に示されるように、構造物10全体の剛性を低下させることで構造物10の全体が変形して構造物10が長周期化し、大地震の卓越周期より構造物10の固有周期が長くなり、振動する地盤と構造物10とが共振するのが抑制される。そして、大地震によって振動する地盤と構造物10とが共振するのが抑制されることで、大地震による構造物10への入力エネルギーが減少する。
【0050】
ここで、図7には、縦軸が地震の加速度スペクトルを示し、横軸が地震の周期を示すグラフが記載されている。例えば、グラフ上で斜線にて示した範囲の周期を大地震の卓越周期Tとし、卓越周期Tの中に通常時の構造物10の固有周期Tが存在するとする。構造物10を固有周期Tから卓越周期Tより周期が長い固有周期Tとすること(長周期化)で、構造物10が受ける加速度スペクトルがaからaに減少すると共に地震による構造物10への入力エネルギーが小さくなる。このように、大地震時には、構造物10を長周期化させることで、地震による構造物10への入力エネルギーが小さくなることが分かる。なお、大地震の卓越周期T内に、通常時の構造物10の固有周期Tが存在していなくても、同様の考えがあてはまる。
【0051】
一方、図3(B)に示されるように、大地震が終了すると、制御部50は、ポンプ部材46を制御して、貫通孔40からシリンダ部材30内へオイルを注入し、貫通孔42からシリンダ部材30内のオイルを排出させる。これにより、ピストン部材32を図3(B)で示す矢印方向へ移動させ、鋼線24に緊張力を付与する(図3(A)参照)。鋼線24に緊張力が付与されことで、梁部材16の柱部材14に対する圧着力が強くなり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性を高くなり、構造物10が通常の剛性に復帰する。
【0052】
以上説明したように、構造物10を大地震の卓越周期より長周期化させることで、大地震によって振動する地盤と構造物10とが共振するのが抑制され、大地震による構造物10への入力エネルギーが減少して制振効果を発揮させることができる。
【0053】
また、プレキャストコンクリート造(PCa造)で通常用いられる部材のみを使用し、特別な装置(例えば可変減衰ダンパー)を用いる構造となっていないため、空間の有効利用を図ることができる。
【0054】
また、梁部材16の柱部材14に対する圧着力を弱めて構造物10の剛性を低下させる構成となっているため、大地震時に、梁部材16の端部に有害な損傷が生じるのを抑制することができる。
【0055】
また、梁部材16の端部の損傷が抑制されるため、地震終了後に圧着力を強めることで、構造物10の剛性を大地震が発生する前の状態(通常状態)に戻すことができる。つまり、構造物10の継続使用性を確保することができる。
【0056】
また、構造物10全体の剛性を低下させることで構造物10の全体が変形して長周期化するため、仕上げ材の構成を各層(各階)で同じにすることができる。
【0057】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、防災科学技術研究所のREIS等から発信されたリアルタイム地震情報に基づいて制御部50が、ポンプ部材46を制御したが、例えば、構造物10のエレベータに備えられているP波検出装置が検出したP波に基づいて制御部50がポンプ部材46を制御してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、構造物10について杭基礎を例にとって説明したが、特にこれに限定されるものではなく、基礎形式については、立地する地盤状況に応じて適宜、直接基礎、地盤改良、杭基礎等を選択すればよい。
【0059】
また、上記実施形態では、4階建ての構造物10を例にとって説明したが、特にこれに限定されるものではなく、本発明の技術的思想は低層建物から高層建物まで適用することができる。
【0060】
次ぎに、本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びこのプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えた構造物の一例について図8〜図11に従って説明する。
【0061】
なお、第1実施形態と同一部材については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0062】
図8(A)(B)に示されるように、構造物70の接合構造72に設けられる圧着力変化装置76は、2階の床スラブ(図示省略)を支持する梁部材16を柱部材14に圧着させる緊張部材74に設けられ、他の階の床スラブを支持する緊張部材74には設けられてない。さらに、圧着力変化装置76が設けられた梁部材16と柱部材14から構成される構造物70の層には、変形して地震エネルギーを吸収する制振装置としての制振ダンパー78が設けられている。
【0063】
図8(A)に示されるように、梁部材16の柱部材14に対する圧着力を強くした状態では、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が高くなる。これに対し、図8(B)に示されるように、梁部材16の柱部材14に対する圧着力を弱めた状態では、柱部材14と梁部材16とが相対的に移動可能となり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の剛性が低下する。
【0064】
以上の構成により、図9に示されるように、2階の床スラブを支持する梁部材16の上下層の剛性を低下させることで、2階の床スラブを支持する梁部材16と柱部材14から構成される構造物70の層の剛性が低下する。この結果、構造物70を大地震の卓越周期より長周期化させることで、大地震によって振動する地盤と構造物70とが共振するのが抑制される。
【0065】
そして、大地震によって振動する地盤と構造物70とが共振するのが抑制されることで、大地震による構造物70への入力エネルギーが減少する。
【0066】
このように、特定の層の圧着力を弱めることで、その層の剛性を低下させ、その層を変形させることで長周期化を図ることができる。
【0067】
また、大地震発生時には、圧着力変化装置76が設けられた梁部材16と柱部材14が相対的に移動するため、圧着力変化装置76が設けられた梁部材16と柱部材14から構成される構造物70の層に設けられた制振ダンパー78によって効果的に地震エネルギーを吸収することができる。
【0068】
また、構造物70の用途に応じて、特定の層に変形を集中させることで、他の層が変形するのを抑制することができる。
【0069】
また、全ての緊張部材74に圧着力変化装置76を設ける必要がないため、安価な構成とすることができる。
【0070】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、2階の梁部材16を柱部材14に圧着させる緊張部材74に圧着力変化装置76を設けたが、特に2階の梁部材16に限定されることなく、3(中間)階の床スラブを支持する梁部材16であってもよく(図10参照)、4(最上)階の床スラブを支持する梁部材16であってもよく(図11参照)、その構造物の用途に応じて適宜決めればよい。
【0071】
この場合には、図10、図11に示されるように、振動モードを変えることができる。
【0072】
次ぎに、本発明の第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びこのプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えた構造物の一例について図12に従って説明する。
【0073】
なお、第2実施形態と同一部材については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0074】
図12(A)(B)に示されるように、構造物80の接合構造82に設けられる圧着力変化装置86は、2階の床スラブ(図示省略)を支持する梁部材16を柱部材14に圧着させる緊張部材84に設けられ、他の階の床スラブを支持する緊張部材84には設けられてない。さらに、圧着力変化装置86が設けられた梁部材16と柱部材14から構成される構造物80の層(本実施形態の場合、1階と2階との間に設けられた層)には、変形して地震エネルギーを吸収する制振装置としてのオイルダンパー88が設けられている。
【0075】
詳細には、柱部材14の1階の仕口部14Aから一対のブレース部材90が、互いに先端部が近づくように配設されており、一対のブレース部材90の先端部は、接合部材92によって接合されている。さらに、前述したオイルダンパー88はブラケット94を介して2階の梁部材16に固定されており、オイルダンパー88の可動ロッド88Aの先端部は接合部材92に固定されている。
【0076】
図12(A)に示されるように、梁部材16の柱部材14に対する圧着力を強くした状態では、柱部材14における2階の仕口部14Aの上下層の剛性が高くなる。これに対し、図12(B)に示されるように、2階の梁部材16の柱部材14に対する圧着力を弱めた状態では、柱部材14と梁部材16とが相対的に移動可能となり、柱部材14における仕口部14Aの上下層の曲げ耐力が低下する。
【0077】
大地震発生時には、圧着力変化装置86が設けられた梁部材16と柱部材14が図12(B)に示すように相対的に移動する。これにより、オイルダンパー88の可動ロッド88Aが可動して効果的に地震エネルギーを吸収することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 構造物
14 柱部材
14A 仕口部
16 梁部材
16A 端面
20 緊張部材(圧着接合手段)
28 圧着力変化装置(圧着力変化手段)
38 接合構造
50 制御部(制御手段)
70 構造物
72 接合構造
74 緊張部材(圧着接合手段)
76 圧着力変化装置(圧着力変化手段)
78 制振ダンパー(制振装置)
80 構造物
82 接合構造
84 緊張部材(圧着接合手段)
86 圧着力変化装置(圧着力変化手段)
88 オイルダンパー(制振装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製の柱部材と、
プレキャストコンクリート製の梁部材の端面を前記柱部材の仕口部に圧着接合する圧着接合手段と、
前記圧着接合手段の圧着力を変化させる圧着力変化手段と、
地震発生初期のP波に基づいて前記圧着力変化手段を制御して前記圧着接合手段の圧着力を変化させる制御手段と、
を備えたプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項2】
前記圧着接合手段は、前記柱部材の仕口部を貫通して両側の前記梁部材に固定され、緊張力を付与されることで圧着力を発揮する緊張部材であり、
前記圧着力変化手段は、特定の前記緊張部材に設けられ、
前記圧力変化手段が設けられた前記梁部材と前記柱部材から構成される構造物の層には、変形して地震エネルギーを吸収する制振装置が設けられる請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造を備えた構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−162978(P2011−162978A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25604(P2010−25604)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】