説明

プロセスの状態予測方法及びそれを用いたプロセス制御装置

【課題】従来に比べて少ない説明変数からなる、高精度な重回帰モデルを構成して計算時間の短縮が図れるプロセスの状態予測方法及びそれを用いたプロセス制御装置を提供する。
【解決手段】プロセス制御装置10は、プロセスの状態予測方法によって構築された重回帰モデルに基づいて煙突出口NOx濃度を予測するプロセス予測部31と、プロセス予測部31によって算出された煙突出口NOx濃度の予測値に基づいて、アンモニア吹込量を決定する予測制御部32とを備えている。また、プロセスの状態予測方法では、重回帰モデルを構成する説明変数を、プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースから選定し、ステップワイズ法により説明変数を絞り込んだ後、絞り込まれた該説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す説明変数を除外する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント設備におけるプロセスの状態予測方法及びそれを用いたプロセス制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
あるプロセスについて、その状態を把握する必要があるとき、通常の計測機器では分析に時間がかかり、リアルタイムにプロセス状態を把握できないことがある。また、計測環境や計測対象によっては、計測機器の設置自体が困難な場合もある。プロセスの状態を示す明確な物理モデルが得られる場合は、高精度な推定値を計算によって求めることができるが、プラント設備におけるプロセスは複雑な物理化学現象が複合した形で発現することが殆どであるため、物理モデルで表せない場合が多い。
【0003】
そこで、近年、計算機ハードウェアやデータベースシステム技術の進歩に伴い、大量データの蓄積と高速検索が可能になったこと等を背景に、“Just-In-Timeモデリング”と呼ばれる局所モデリング手法が注目されている。Just-In-Timeモデリングでは、観測したデータをデータベースに蓄積しておき、システムの予測等の必要が生じるたびに、入力である“要求点(Query)”と関連性の高いデータをデータベースから近傍データとして検索し、検索した近傍データの出力を補間する局所モデルを構成して、“要求点”の出力を推定する。この手法では、観測データの更なる蓄積があるたびに既存の局所モデルを廃棄し、再び新たな局所モデルを構築する。特許文献1、2では、このJust-In-Timeモデリングを高炉プロセスの操業状態の予測や制御に適用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−4728号公報
【特許文献2】特開2008−146322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Just-In-Timeモデリングでは、予測や制御の都度、蓄積されたデータベースから局所モデルを構築するため、非線形性が強く非定常なプロセスに対しては有効であるが、計算量が多く、結果を得るまでに時間がかかるという問題がある。一方、線形もしくは僅かな非線形性を有する定常なプロセスの場合、データベースから重回帰モデルを構成してプロセスの状態を予測する方法も考えられるが、プラントから得られる操業データが多大であるため、どの変数を説明変数として用いるのかという問題がでてくる。また、目的変数と説明変数との間の時間遅れを考慮した場合、説明変数の数は更に厖大となる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来に比べて少ない説明変数からなる、高精度な重回帰モデルを構成して計算時間の短縮が図れるプロセスの状態予測方法及びそれを用いたプロセス制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、プラント設備におけるプロセスの操業状態を重回帰モデルで予測するプロセスの状態予測方法であって、
前記重回帰モデルを構成する説明変数を、前記プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースから選定した後、ステップワイズ法により前記説明変数を絞り込む工程と、前記ステップワイズ法により絞り込まれた前記説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す前記説明変数を除外する工程とを備えることを特徴としている。
ここで、「実現象」とは、実際に起きる又は起きると予想される物理現象や化学現象などのことを指す。
【0008】
重回帰モデルを構成する説明変数をステップワイズ法により絞り込んでも、実現象と逆の作用を示す説明変数が排除されず、重回帰モデルの精度が低下する場合がある。そこで、第1の発明では、ステップワイズ法により絞り込まれた説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す説明変数を除外する。
【0009】
第1の発明に係るプロセスの状態予測方法が適用可能なプロセスとしては、線形もしくは僅かな非線形性を有する定常なプロセスであることが好ましい。触媒系の反応プロセスはこの条件を満足するものの一つであり、排ガス処理設備に備えられた脱硝触媒装置にアンモニアを吹込んで排ガス中の窒素酸化物(NOx)を分解するプロセスに、第1の発明を適用することができる。
【0010】
また、第2の発明に係るプロセス制御装置は、第1の発明に係るプロセスの状態予測方法によって構築された前記重回帰モデルに基づいてプロセス変数の値を予測し、前記プロセス変数の予測値に基づいてプロセスの操業状態を制御する制御変数の操作量を決定する予測制御手段を備えることを特徴としている。
【0011】
第2の発明に係るプロセス制御装置はモデル予測制御を用いている。モデル予測制御は、制御対象の動特性を表すプロセスモデルを利用して制御対象の今後の状態や挙動(応答)を予測し、これが目標の応答にできるだけ近くなるように制御対象への入力を制御する制御方式である。プロセスモデルを利用することにより、制御対象の応答の遅れを考慮しやすく、制御対象への入力がむやみに変動しないといった利点がある。第2の発明では、第1の発明に係るプロセスの状態予測方法によって構築された重回帰モデルをプロセスモデルとして使用する。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係るプロセスの状態予測方法では、ステップワイズ法により絞り込まれた説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す説明変数を除外することにより、従来に比べて少ない説明変数からなる、高精度な重回帰モデルを構成して計算時間の短縮を図ることができる。
【0013】
第2の発明に係るプロセス制御装置では、第1の発明に係るプロセスの状態予測方法によって構築された重回帰モデルをプロセスモデルとして使用することにより、高精度なプロセス制御を従来に比べて短時間で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】排ガス処理設備の構成の一例を示す模式図である。
【図2】現時刻から2分後の煙突出口NOx濃度の時刻歴グラフである。
【図3】現時刻から3分後の煙突出口NOx濃度の時刻歴グラフである。
【図4】本発明の一実施の形態に係るプロセス制御装置のブロック図である。
【図5】排ガス量とアンモニア吹込量との関係の一例を示すグラフである。
【図6】予測制御有りの場合のシミュレーションモデルである。
【図7】予測制御の有無による煙突出口NOx濃度のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態に付き説明し、本発明の理解に供する。
【0016】
本発明の一実施の形態に係るプロセスの状態予測方法は、重回帰モデルを構成する説明変数を、プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースから選定した後、ステップワイズ法により説明変数を絞り込む工程と、ステップワイズ法を経た説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す説明変数を除外する工程とを備えている。
【0017】
[重回帰モデル]
重回帰モデルは一般に(1)式に示す線形1次式で表すことができる。ここで、kは2以上の整数である。Yは目的変数、x,…,xは説明変数と呼ばれるベクトルであり、各ベクトルは観測値(データ数:n)から構成される。但し、n>kである。また、eは誤差ベクトルであり、aは偏回帰係数と呼ばれるスカラーである。
【0018】
【数1】

【0019】
(1)式を行列を用いて表すと、(2)式のようになる。
【0020】
【数2】

【0021】
未知ベクトルaは、誤差の2乗和を最小にするための必要条件から導くことができ、(3)式で与えられる。ここで、行列の右肩に付されたTは転置行列を、−1は逆行列をそれぞれ表している。
【0022】
【数3】

【0023】
[重回帰モデルを構成する説明変数の選定]
先ず最初に、プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースから、重回帰モデルを構成する目的変数となるプロセス変数、並びに説明変数となる可能性のあるプロセス変数を選定する。目的変数と説明変数との間に時間遅れが存在する可能性がある場合は、見込まれる最大の時間遅れ変数まで全て選定対象に加える。例えば、アンモニアガス流量x(t)の最大遅れ時間が10分の場合、サンプリング間隔を1分とすると、x(t),x(t−1),…,x(t−10)まで説明変数に選定するということである。
【0024】
[ステップワイズ法]
ステップワイズ法は、目的変数に対する影響(寄与率)が小さい説明変数を除外するものであり、変数増加ステップと変数減少ステップとから構成される。以下、ステップワイズ法の手順について説明する。
【0025】
(STEP−1)目的変数に対する単寄与率が最大の説明変数を、先に選定した説明変数の中から決定する。具体的には、各説明変数ごとに単回帰モデル((1)式において説明変数が1つであるモデル)を作成して回帰係数を求めた後、(4)式によりF値を算出し、F値が最大となる説明変数を選択する。
【0026】
【数4】

【0027】
(STEP−2)先の手順で決定された現モデルに説明変数を1つ追加することを考える。即ち、現モデルに含まれていない説明変数の中から、現モデルに一つ説明変数を追加した場合についてそれぞれ偏回帰係数を求め、(4)式によりF値を算出する。そして、F値が最大となる説明変数を探索する。
(STEP−3)最大のF値が、前もって決めているFin以上である場合は、その説明変数を現モデルに追加する。最大のF値がFin未満の場合は、ステップワイズ法による選択手順を終了する。
【0028】
(STEP−4)新たに説明変数が追加された場合は、今度は逆に今までに取り込んだ説明変数が本当に有用な説明変数であるのかどうか調べる。即ち、現モデルを構成する説明変数の中で寄与率が一番低い説明変数を見つけるために、今までに取り込んだ説明変数を順番に一つずつ取り除いて当該説明変数が無い場合におけるF値を計算し、F値が最小となる説明変数を探索する。
(STEP−5)最小のF値が、前もって決めているFout(Fin≧Fout)未満である場合は、その説明変数を現モデルから削除する。説明変数を削除した場合は、(STEP−4)、(STEP−5)を繰り返し、さらに他の説明変数が削除できないか探索する。最小のF値がFout以上の場合は、(STEP−2)のステップに戻る。
【0029】
[実現象と逆の作用を示す説明変数の除去]
本明細書では、排ガス処理設備(プラント設備の一例)における脱硝プロセスを例に採り、実現象と逆の作用を示す説明変数の除去方法について説明する。
図1は、廃棄物処理設備に備えられている排ガス処理設備の一例を示した模式図である。溶融炉や焼却炉などの廃棄物処理炉(図示省略)から排出された排ガスは、ボイラ11に送られて熱回収された後、排ガス温度調節器12で所定温度まで冷却され、濾過式集塵器13で除塵される。除塵された排ガスは、誘引通風機14により脱硝触媒装置15に送られ、脱硝触媒装置15において脱硝された後、煙突16から排出される。
【0030】
脱硝触媒装置15内では、排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)が、装置内部に配置された触媒層に吸着したアンモニア(NH)と反応して窒素と水に分解する。
誘引通風機14と脱硝触媒装置15との間に設けられた排ガス管路17にはアンモニア管路21の終端が接続されており、アンモニア管路21の始端に備えられたアンモニア供給装置18からアンモニア管路21を介して送給されたアンモニアは、排ガス管路17内に吹込まれることにより脱硝触媒装置15内に供給される。
【0031】
アンモニア管路21の経路上には制御弁20が設けられており、後述するプロセス制御装置10によって制御弁20の開閉度を制御することにより、アンモニアの吹込量が調節される。プロセス制御装置10は、煙突16に設置した排ガス流量計22、アンモニア管路21上に設置したアンモニア流量計19の出力、及びその他計測機器の計測値に基づいてアンモニア吹込量を算出して制御弁20の開閉度を制御することにより、煙突出口における煙突出口NOx濃度を低減する。
【0032】
表1は、現時刻(t時刻)から2分後の煙突出口NOx濃度を目的変数とする重回帰モデルにおいて、プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースからステップワイズ法によって絞り込まれた説明変数の一覧を示している。また、表2は、現時刻(t時刻)から3分後の煙突出口NOx濃度を目的変数とする重回帰モデルにおいて、同時系列データベースからステップワイズ法によって絞り込まれた説明変数の一覧を示している。なお、表1、表2中の遅れ時間は、現時刻(t時刻)より何分前のデータであるかを示している。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
ステップワイズ法の使用に当たっては、溶融炉の約3ヶ月分、1分間隔、96変数の実操業データを用い、全ての変数について遅れ時間(アンモニアガス流量については180分前まで、他の変数については30分前まで)を考慮し、3100個の説明変数からなるフルモデルを構築した。そして、Fin=Fout=3000に設定して、ステップワイズ法による変数選択を行った。
【0036】
本ケースの場合、目的変数である煙突出口NOx濃度に最も影響を与える説明変数は、アンモニアガス流量であると考えられる。そこで、表1のアンモニアガス流量の偏回帰係数(削除無)に着目すると、NO.7のみ符号が正となっている。アンモニアガス流量の偏回帰係数の符号が正である場合、NO.7の説明変数の値が大きくなる、即ち、アンモニアガスの吹込量が多くなると、煙突出口NOx濃度が大きくなることを示している。しかし、アンモニアガスの吹込量が多くなると、煙突出口NOx濃度は小さくならなければならないから、NO.7の説明変数は実現象と逆の作用を示していることになる。つまり、アンモニアガス流量の偏回帰係数の符号は負でなければならない。
【0037】
そこで、NO.7の説明変数を除外して、再度、重回帰モデルを構成した結果が表1の偏回帰係数(NO.7削除)である。再び、アンモニアガス流量に着目すると、NO.5のみ符号が正になっている。そのため、さらに、NO.5の説明変数を除外して、重回帰モデルを構成した結果が表1の偏回帰係数(NO.5,7削除)である。アンモニアガス流量の偏回帰係数の符号は全て負になっており、これにより重回帰モデルを構成する説明変数が確定した。
【0038】
同様に、表2において、アンモニアガス流量の偏回帰係数(削除無)に着目すると、NO.11のみ符号が正になっている。そこで、NO.11の説明変数を除外して、再度、重回帰モデルを構成した結果が表2の偏回帰係数(NO.11削除)である。アンモニアガス流量の偏回帰係数の符号は全て負になっており、これにより重回帰モデルを構成する説明変数が確定した。
【0039】
表1の重回帰モデルによって予測された現時刻から2分後の煙突出口NOx濃度を図2に、表2の重回帰モデルによって予測された現時刻から3分後の煙突出口NOx濃度を図3に、それぞれ実測値と比較して示す。これらのグラフから、本重回帰モデルによる予測結果と実測値が良く一致していることがわかる。
【0040】
次に、上述したプロセスの状態予測方法によって構成された重回帰モデルを組み込んだプロセス制御装置について説明する。ここでは、排ガス処理設備の脱硝プロセス制御にプロセス制御装置を適用する場合について説明する。
本発明の一実施の形態に係るプロセス制御装置10のブロック図を図4に示す。プロセス制御装置10は、上述したプロセスの状態予測方法によって構築された重回帰モデルに基づいて煙突出口NOx濃度(プロセス変数)を予測し、煙突出口NOx濃度の予測値に基づいてアンモニア吹込量(制御変数の操作量)を決定する予測制御手段と、計測された排ガス流量に基づいてアンモニア吹込量を決定するフィードバック制御手段とを備えている。
【0041】
予測制御手段は、重回帰モデルを構成する全ての説明変数の計測値が蓄積された記憶部24と、記憶部24に蓄積された説明変数の計測値に基づいて煙突出口NOx濃度を予測するプロセス予測部31と、予測された煙突出口NOx濃度に基づいてアンモニア吹込量を決定する予測制御部32とを有している。
【0042】
記憶部24には、アンモニア流量計19、排ガス流量計22、及びそれ以外の計測機器23によって計測されたプロセス変数の時刻歴データが蓄積されている。
プロセス予測部31には、上述したプロセスの状態予測方法によって構築された、現時刻から所定時間後の煙突出口NOx濃度を目的変数とする重回帰モデルが搭載されている。プロセス予測部31では、この重回帰モデルを構成する全ての説明変数を記憶部24から抽出し、当該重回帰モデルに基づいて所定時間後の煙突出口NOx濃度を予測する。
【0043】
予測制御部32では、プロセス予測部31において予測された煙突出口NOx濃度に基づいて、PID制御によりアンモニア吹込量を決定する。即ち、プロセス予測部31において予測された煙突出口NOx濃度と煙突出口NOx濃度の目標値との偏差に比例する量と、同偏差の積分に比例する量と、同偏差の微分に比例する量の和がアンモニア吹込量として出力される。
【0044】
また、フィードバック制御手段は、煙突16に設置された排ガス流量計22の出力に基づいて排ガス流量を算出する排ガス流量算出部33と、排ガス流量算出部33において算出された排ガス流量に基づいてアンモニア吹込量を決定するフィードバック制御部34とを有している。
【0045】
フィードバック制御部34では、図5に示すような排ガス量とアンモニア吹込量との関係に基づいてアンモニア吹込量を算出する。因みに、図5の例では、排ガス量がc(Nm/h)以下の場合はアンモニア吹込量を一定値とし、c(Nm/h)を超えると、排ガス量の大きさに応じてアンモニア吹込量を増量するようにしている。
【0046】
予測制御部32によって算出されたアンモニア吹込量とフィードバック制御部34によって算出されたアンモニア吹込量は加算部35において合算され、アンモニア吹込量の目標値とされる。一方、アンモニア流量算出部30では、アンモニア管路21上に設置したアンモニア流量計19の出力に基づいてアンモニア供給装置18から供給されるアンモニア流量が算出される。
アンモニア流量調節部36では、アンモニア流量算出部30で得られたアンモニア吹込量(アンモニア流量)の測定値と、加算部35によって算出されたアンモニア吹込量の目標値との偏差に比例する制御信号を出力し、制御弁20の開閉度を制御する。
【0047】
最後に、プロセス制御装置10の効果を検証するために実施したシミュレーションについて説明する。
シミュレーションモデルを図6に示す。上記プロセスの状態予測方法によって構築した重回帰モデルをプラントモデル40とプロセス予測部41に使用することとし、プラントモデル40には、現時刻から3分後の煙突出口NOx濃度を予測する重回帰モデルを、プロセス予測部41には、現時刻から10分後の煙突出口NOx濃度を予測する重回帰モデルを使用した。
【0048】
シミュレーションでは、予測制御部42によって算出されたアンモニア吹込量とフィードバック制御部43によって算出されたアンモニア吹込量との和をプロセス予測部41に入力することにした。アンモニア吹込量以外の説明変数値については実測値を使用した。図7にシミュレーション結果を示す。同図より、予測制御を行うことにより予測制御を行わない場合(フィードバック制御部43による制御のみ)に比べて煙突出口NOx濃度が低減されていることがわかる。
【0049】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態におけるプロセス制御装置では、予測制御部における制御手法をPID制御としているが、最適制御やファジィ制御など他の制御手法でも良いことは言うまでもない。また、上記実施の形態におけるプロセス制御装置では、フィードバック制御手段を併用しているが、フィードバック制御手段は無くてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10:プロセス制御装置、11:ボイラ、12:排ガス温度調節器、13:濾過式集塵器、14:誘引通風機、15:脱硝触媒装置、16:煙突、17:排ガス管路、18:アンモニア供給装置、19:アンモニア流量計、20:制御弁、21:アンモニア管路、22:排ガス流量計、23:計測機器、24:記憶部、30:アンモニア流量算出部、31:プロセス予測部、32:予測制御部、33:排ガス流量算出部、34:フィードバック制御部、35:加算部、36:アンモニア流量調節部、40:プラントモデル、41:プロセス予測部、42:予測制御部、43:フィードバック制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備におけるプロセスの操業状態を重回帰モデルで予測するプロセスの状態予測方法であって、
前記重回帰モデルを構成する説明変数を、前記プロセスの操業状態を示す複数のプロセス変数の時刻歴データが蓄積された時系列データベースから選定した後、ステップワイズ法により前記説明変数を絞り込む工程と、前記ステップワイズ法により絞り込まれた前記説明変数の偏回帰係数の正負をチェックし、実現象と逆の作用を示す前記説明変数を除外する工程とを備えることを特徴とするプロセスの状態予測方法。
【請求項2】
請求項1記載のプロセスの状態予測方法において、前記プロセスが、排ガス処理設備に備えられた脱硝触媒装置にアンモニアを吹込んで排ガス中の窒素酸化物(NOx)を分解するプロセスであることを特徴とするプロセスの状態予測方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプロセスの状態予測方法によって構築された前記重回帰モデルに基づいてプロセス変数の値を予測し、前記プロセス変数の予測値に基づいてプロセスの操業状態を制御する制御変数の操作量を決定する予測制御手段を備えることを特徴とするプロセス制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−128800(P2012−128800A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282015(P2010−282015)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】