説明

プロピレンの製造方法およびプロピレンの製造装置

【課題】触媒を劣化を抑えつつプロピレンの収率を増加させ、ローコストにプロピレンを製造する。
【解決手段】分離器12で分離された各成分のうち、炭素数が4〜6の炭化水素は管3を介して反応器11に還流される。一方、沸点が−50℃以下の低沸点化合物は、その得られた総量に対する70%以上の範囲の分量が、管2を介して反応器11に還流される。また、沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、管2を介して反応器11に還流された分を除く残りの少なくとも一部は、管6を介して低重合器13に送られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ジメチルエーテルおよび/またはメタノールから脱水縮合反応によりプロピレンを製造するプロピレンの製造方法およびプロピレンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エチレンとプロピレンの需要の伸びの違いや、中東地区におけるエタンクラッカーの増設によるエチレンの供給率の上昇などから、プロピレンの選択的増産プロセスの必要性が増してきている。こうしたプロピレンの製造方法として、ゼオライト触媒を備えた反応器にジメチルエーテル(DME)またはメタノールを供給し、プロピレンを含む反応物を得て、この反応物からプロピレンを分離させる方法が知られている。
【0003】
上述したような反応器によってプロピレンを含む反応生成物を得る際に、反応器内に占めるジメチルエーテル(DME)やメタノールの分圧を下げることによって、反応生成物に含まれるプロピレンの割合が増加し、プロピレンなどの低級オレフィンの収率を上げられることが知られている(特許文献1)。
【0004】
こうした反応器内に占める原料となるジメチルエーテル(DME)やメタノールの分圧を下げるために、従来、反応器内に水蒸気や不活性ガスを送り込む方法が知られている(特許文献2)。特に、水蒸気は、ジメチルエーテル(DME)やメタノールを反応させてプロピレンを含む反応生成物を得る際に大量に生成するため、供給の容易さや低コストといった面から、反応器内に占めるジメチルエーテル(DME)やメタノールの分圧を下げる方法として用いやすい。
【特許文献1】米国特許第4083888号公報
【特許文献2】特表2003−535069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジメチルエーテル(DME)やメタノールを原料としてプロピレンを含む反応生成物を得る際に、反応器中の原料分圧を下げてプロピレンの収率を増加させるために、多量の水蒸気を導入すると、反応器に充填されているゼオライト触媒の成分である骨格アルミニウムが、水蒸気の存在によってゼオライト骨格構造から脱離してしまう。この結果、再生不可能な失活(永久失活)が引き起こされ、反応器中の触媒の劣化が加速されるという課題があった。
【0006】
また、反応器中の触媒の劣化を防ぐために、不活性ガスを反応器に導入して、反応器中の原料分圧を下げる方法もあるが、こうした不活性ガス、例えばヘリウムや窒素などは別途供給する必要があり、プロピレンの製造コストが増加するという課題があった。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、触媒の劣化を抑えつつプロピレンの収率を増加させ、ローコストにプロピレンを製造することができるプロピレンの製造方法およびプロピレンの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、ジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を反応器に送り、触媒の存在下で反応させ、得られた反応生成物を分離器に送り、該分離器で、前記反応生成物のうち大気圧下における沸点が−50℃以下の低沸点化合物を分離させ、分離された該低沸点化合物の総量のうち、70%以上の分量の該低沸点化合物を前記反応器に還流させることを特徴とするプロピレンの製造方法が提供される。
【0009】
分離された前記低沸点化合物の総量のうち、80%以上の分量の該低沸点化合物を前記反応器に還流させることが好ましい。また、前記低沸点化合物は、少なくともその一部を炭素数が4〜10の炭化水素に転化させた後、前記反応器に還流させることが好ましい。また、前記分離器で分離された炭素数4〜6の炭化水素の少なくとも一部をジメチルエーテル又はメタノールのうち少なくとも1種とともに前記反応器に還流させることが好ましい。前記触媒は、MFI構造ゼオライト触媒であることが好ましい。前記触媒は、アルカリ土類金属を含むMFI構造ゼオライト触媒であって、該MFI構造ゼオライトのSi/Alモル比は10以上、300以下、アルカリ土類金属/Alモル比は0.75以上、15以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、ジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を触媒の存在下で反応させて、プロピレンを含む反応生成物を生成させる反応器と、該反応器で生成された反応生成物から、少なくともプロピレン、および大気圧下における沸点が−50℃以下の低沸点化合物を分離させる分離器と、前記低沸点化合物のうち、少なくともその一部を炭素数が4〜10の炭化水素に転化させる低重合器とを備えたことを特徴とするプロピレンの製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプロピレンの製造方法によれば、反応器に原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を供給して、プロピレンを含む反応生成物を得る際に、分離器で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物の総量に対する70%以上の範囲の分量を反応器に還流させ、反応器内での原料分圧を下げることによって、反応器で生成されるプロピレンの収率を増加させ、効率的にプロピレンを生産することが可能になる。
【0012】
そして、原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種の、反応器内での分圧を下げるために、分離器で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物を用いて反応器に還流させるので、新たに不活性ガスなどを導入することなく原料分圧を下げることができ、ローコストにプロピレンの収率を増加させることが可能になる。また、沸点が−50℃以下の低沸点化合物をそのまま一括して反応器に還流するので、これらをメタン、エタン、エチレン等の各成分に分離精製する工程が省略でき、分離するためのエネルギーが削減できる。
【0013】
さらに、原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種の、反応器内での分圧を下げるために、分離器で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物を用いることで、反応器で得られた水蒸気を還流させる従来の方法のように、反応器に充填されたゼオライト触媒の骨格構造からアルミニウムが脱離することは起こりにくい。このため、触媒の充填量の低減や、触媒の再生周期の延長などが可能となり、設備費、運転費を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るプロピレンの製造方法およびプロピレンの製造方法の最良の形態について説明する。なお、ここで示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明のプロピレンの製造装置の概要、およびこの製造装置を用いた本発明のプロピレンの製造方法の流れを示す説明図である。
この実施形態のプロピレンの製造装置10は、反応器11、分離器12、および低重合器13を備えている。反応器11は触媒が充填され、原料であるジメチルエーテル/メタノール、後述する分離器12から還流された沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4〜6の炭化水素、低重合器13から供給された炭素数が4〜10の炭化水素を反応させて、プロピレンを含む反応生成物を生成させる。
【0016】
分離器12は、反応器11で得られたプロピレンを含む反応生成物を分離、精製し、プロピレン、プロパン、重質成分、水、沸点が−50℃以下の低沸点化合物、炭素数が4〜10の炭化水素などを取り出す。このうち、沸点が−50℃以下の低沸点化合物は、分離された総量のうち70%以上の範囲の分量が反応器11に還流され、残りの分量の一部が低重合器13に供給される。低重合器13は、分離器12で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうちの一部を低重合させ、炭素数が4〜10の炭化水素を生成させる。
【0017】
このような構成のプロピレンの製造装置を用いた、本発明のプロピレンの製造方法について説明する。まず、原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を、管1を介して反応器11に送り込む。なお、ジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種には、これ以外に水蒸気、メタン、エタン、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの気体が含まれていてもよい。
【0018】
また、分離器12で分離された沸点が−50℃以下の低沸点化合物の一部を、管2を介して反応器11に送り込む。さらに、分離器12で分離された炭素数が4〜6の炭化水素を管3を介して反応器11に送り込む。また、低重合器13で得られた4〜10の炭化水素を管4を介して反応器11に送り込む。
【0019】
こうした反応器11に送り込まれた、原料を成すジメチルエーテル/メタノール、分離器12から還流された沸点が−50℃以下の低沸点化合物と炭素数が4〜6の炭化水素、および低重合器13で得られた4〜10の炭化水素などからなる混合ガスを反応器11内で反応させ、プロピレンを含む反応生成物を得る。
【0020】
このような、反応器11でプロピレンを含む反応生成物を得る工程において、分離器12で分離された沸点が−50℃以下の低沸点化合物を反応器11に還流させることによって、原料を成すジメチルエーテル/メタノールの反応器内に占める分圧は、例えば0.005MPa〜0.20MPaの範囲に保たれる。
【0021】
反応器11内には、触媒が充填されており、この触媒の作用により脱水縮合反応、接触分解反応などによりプロピレン、沸点が−50℃以下の低沸点化合物、炭素数が4〜6の炭化水素、プロパン、重質成分、水などからなる反応生成物が得られる。
【0022】
反応器11内の触媒としては、MFI構造ゼオライト触媒、アルカリ土類金属含有MFI構造ゼオライト触媒、シリカアルミノリン酸系触媒などが用いられ、流動床、固定床、移動床などの方式が用いられる。これらの中でも、低級炭化水素が高い収率で得られることから、MFI構造ゼオライト触媒が好ましく、アルカリ土類金属含有MFI構造ゼオライト触媒がより好ましい。
【0023】
反応器11における反応条件の一例として、反応器11に供給される上記混合ガスを温度350℃以上、600℃以下にて触媒に接触させる。これとともに、単位触媒質量、単位時間当たりに供給されるジメチルエーテル(以下、「DME」と略す。)相当質量である重量基準空間速度(以下、「WHSV」と略す。)を0.025g−DME/(g−触媒・時間)以上、50g−DME/(g−触媒・時間)以下、圧力を常圧以上、1MPa以下の範囲で選ぶことが好ましい。
【0024】
混合ガスを触媒に接触させる温度が350℃未満では、目的反応生成物の生成速度が低く経済的ではない。一方、混合ガスを触媒に接触させる温度が600℃を超えると、触媒の劣化が早く、メタンなどの副反応生成物の生成が多くなる。
また、WHSVが0.025g−DME/(g−触媒・時間)未満では、固定床反応器の単位容積当たりの生産性が低くなり経済的でない。一方、WHSVが50g−DME/(g−触媒・時間)を超えると、触媒の寿命や触媒の活性が不十分となる。
【0025】
反応器11における反応条件を調節することにより、反応生成物中の目的とする低級炭化水素の含有率を変化させることができ、例えば、プロピレンの割合を高めるためには、反応圧力を低圧にすることが好ましい。
【0026】
反応器11で得られたプロピレンを主成分とする反応生成物は、管5を介して図示しない熱交換器に送られて冷却されたのち、分離器12に送られ、ここで各成分、すなわち、プロピレン、プロパン、沸点が−50℃以下の低沸点化合物、炭素数が4〜6の炭化水素、重質成分、水などに分離され、プロピレンやプロパンが回収される。
【0027】
分離器12で分離された各成分のうち、炭素数が4〜6の炭化水素の少なくとも一部は、管3を介して反応器11に還流される。一方、沸点が−50℃以下の低沸点化合物は、その得られた総量に対する70%以上の範囲の分量が、管2を介して反応器11に還流される。また、沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、管2を介して反応器11に還流された分を除く残りの少なくとも一部は、管6を介して低重合器13に送られる。このように、反応生成物から分離された沸点が−50℃以下の低沸点化合物は、管2を介して反応器11に還流される分、管6を介して低重合器13に送られる分などに分流されるが、こうした分流は、例えば分流器14によって所定の割合に分けられ、それぞれの方向に流されればよい。
【0028】
低重合器13は、反応器11から管6を介して供給される沸点が−50℃以下の低沸点化合物を低重合させて炭素数が4〜10の炭化水素を生成させ、この炭素数が4〜10の炭化水素を管4を介して反応器11に供給する。
【0029】
以上のような構成のプロピレンの製造装置、およびプロピレンの製造方法によれば、反応器11に原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を供給して、プロピレンを含む反応生成物を得る際に、分離器12で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物の総量に対する70%以上の範囲の分量を反応器11に還流させ、反応器11内での原料分圧を下げることによって、反応器11で生成されるプロピレンの収率を増加させ、効率的にプロピレンを生産することが可能になる。
【0030】
そして、原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種の、反応器11内での分圧を下げるために、分離器12で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物を用いて反応器11に還流させるので、新たに不活性ガスなどを導入することなく原料分圧を下げることができ、ローコストにプロピレンの収率を増加させることが可能になる。
【0031】
さらに、原料となるジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種の、反応器11内での分圧を下げるために、分離器12で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物を用いることで、反応器で得られた水蒸気を還流させる従来の方法のように、反応器11に充填された骨格構造からアルミニウムが脱離することは起こりにくい。このため、触媒の充填量の低減や、触媒の再生周期の延長などが可能となり、設備費、運転費を削減することができる。
【0032】
また、分離器12で得られた沸点が−50℃以下の低沸点化合物には、メタン、エタン、エチレン等が含まれているが、こうしたメタン、エタン、エチレン等を含む沸点が−50℃以下の低沸点化合物をそのまま一括して反応器11内に還流することによって原料分圧を下げることができる。従って、低沸点化合物からメタン、エタン、エチレン等の各成分に分離精製する工程を省略することができ、分離するためのエネルギーが削減され、より一層ローコストにプロピレンの生産を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[触媒の調製]
特開2005−138000号の調製方法によって、カルシウム含有MFI構造ゼオライトを調製した。次いで、塩酸を使用して通常の操作によりプロトン型とし、120℃にて5時間乾燥した後、空気中で520℃にて10時間焼成し、プロトン型カルシウム含有MFI構造ゼオライト触媒を得た。
[低級炭化水素の合成]
触媒として、上記のHCaMFIを用いて、ジメチルエーテルを原料として低級炭化水素を合成した。
【0035】
「実施例1」
ジメチルエーテルを1200Ncm/時間、メタンを600Ncm/時間、窒素を600Ncm/時間の流量で混合させてHCaMFI触媒を充填した等温の反応器に送り、温度530℃、常圧で反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)の供給量比である重量基準空問速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−触媒・時間)とした。そして、供給したジメチルエーテル(DME)の総量に対して、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が4以上の炭化水素のそれぞれの収率、および転化率を測定した。
「実施例2」
ジメチルエーテルを1200Ncm/時間、エチレンを600Ncm/時間、窒素を600Ncm/時間の流量で混合させてHCaMFI触媒を充填した等温の反応器に送り、温度530℃、常圧で反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)の供給量比である重量基準空問速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−触媒・時間)とした。そして、供給したジメチルエーテル(DME)の総量に対して、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が4以上の炭化水素のそれぞれの収率、および転化率を測定した。
「比較例1」
ジメチルエーテルを1200Ncm/時間、水蒸気を900Ncm/時間、窒素を300Ncm/時間の流量で混合させてHCaMFI触媒を充填した等温の反応器に送り、温度530℃、常圧で反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)の供給量比である重量基準空問速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−触媒・時間)とした。そして、供給したジメチルエーテル(DME)の総量に対して、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が4以上の炭化水素のそれぞれの収率、および転化率を測定した。
「比較例2」
ジメチルエーテルを1200Ncm/時間、窒素を1200Ncm/時間の流量で混合させてHCaMFI触媒を充填した等温の反応器に送り、温度530℃、常圧で反応させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)の供給量比である重量基準空問速度(WHSV)については、9.6g−DME/(g−触媒・時間)とした。そして、供給したジメチルエーテル(DME)の総量に対して、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が4以上の炭化水素のそれぞれの収率、および転化率を測定した。
【0036】
以上のような実施例1,2および比較例1,2における測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す実施例の測定結果によれば、ジメチルエーテル(DME)の総量に対する、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が4以上の炭化水素のそれぞれの収率は、実施例1,2および比較例1,2のいずれも違いは見られなかったが、水蒸気を用いた比較例1は、水蒸気を用いなかった実施例1,2と比較して、ジメチルエーテル(DME)の転化率が低下していた。
【0039】
こうした結果から、原料であるジメチルエーテル(DME)の反応器内での分圧を低下させるために、水蒸気の代わりにメタンやエチレンなどの沸点が−50℃以下の低沸点化合物を用いることによって、水蒸気を用いた場合よりもジメチルエーテル(DME)の転化率を上げて、効率よくプロピレンを製造できることが確認された。
【0040】
「実施例3」
ジメチルエーテル換算供給量として1628NL/時間となるメタノールの脱水反応生成物(メタノール転化率83%)を、HCaMFI触媒を充填した模擬断熱反応器に送り、触媒層入口温度400℃、入口圧力0.2MPa−Gで反応させ、触媒層出口温度550℃で反応させた。反応器から流出した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物の総量のうち、70%を再び反応器に還流させて反応試験を行った。さらに、反応生成物から分離した炭素数4から6の炭化水素全量も反応器に還流させた。触媒量に対する原料のジメチルエーテル(DME)の供給量比である重量基準空問速度(WHSV)については、4.8g−DME/(g−触媒・時間)とした。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「実施例4」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を80%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「実施例5」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を90%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「実施例6」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を95%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「比較例3」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を25%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「比較例4」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を50%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「比較例5」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を60%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
「比較例6」
反応器で生成した反応生成物から分離した沸点が−50℃以下の低沸点化合物のうち、再び反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合を65%としたことおよび触媒層出口温度が550℃になるよう触媒層入口温度を制御したこと以外は実施例3と同様である。そして、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の流量が安定した時点での、沸点が−50℃以下の低沸点化合物および炭素数が4から6の炭化水素の流量、炭素数が2以下の炭化水素、プロピレン、プロパン、炭素数が7以上の炭化水素のそれぞれのジメチルエーテル(DME)に対する収率、およびジメチルエーテル(DME)の分圧を測定した。
【0041】
以上のような実施例3〜6および比較例3〜6における測定結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示す比較例3〜6の測定結果によれば、沸点が−50℃以下の低沸点化合物を反応器に還流させる割合が70%より小さい場合は、分圧低下の変化量が小さく、プロピレン収率の向上に寄与していないことがわかる。一方、実施例3〜6の測定結果から、反応器に還流させる沸点が−50℃以下の低沸点化合物の割合が70%以上である場合、特に80%以上である場合には、ジメチルエーテルの分圧低下の変化量が大きくなり、プロピレン収率が向上することがわかる。
また、表2中のジメチルエーテルの分圧(MPa)を沸点が−50℃以下の化合物の反応器への還流割合(%)に対してプロットして図2の結果を得た。
この図2から、ジメチルエーテルの分圧は、沸点が−50℃以下の化合物を反応器に還流する割合が上昇するにつれて低くなる傾向にある。還流割合が70%より小さい範囲では、沸点が−50℃以下の化合物の反応器への還流割合が上昇するとともにジメチルエーテルの分圧が緩やかに低下するが、還流割合が70%を超えると分圧が低下し、80%を越えると急激に低くなることが示されている。すなわち、沸点が−50℃以下の化合物の反応器への還流割合が70%を超えた場合には、反応器内での原料分圧を効果的に下げることができ、反応器で生成されるプロピレンの収率を増加させ、効率的にプロピレンを生産することが可能になることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のプロピレンの製造装置およびこれを用いた製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】ジメチルエーテルの分圧(MPa)と沸点が−50℃以下の化合物の反応器への還流割合(%)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10 プロピレンの製造装置、11 反応器、12 分離器、13 低重合器。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を反応器に送り、触媒の存在下で反応させ、得られた反応生成物を分離器に送り、該分離器で、前記反応生成物のうち大気圧下における沸点が−50℃以下の低沸点化合物を分離させ、分離された該低沸点化合物の総量のうち、70%以上の分量の該低沸点化合物を前記反応器に還流させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
【請求項2】
分離された前記低沸点化合物の総量のうち、80%以上の分量の該低沸点化合物を前記反応器に還流させることを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記低沸点化合物は、少なくともその一部を炭素数が4〜10の炭化水素に転化させた後、前記反応器に還流させることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記分離器で分離された炭素数4〜6の炭化水素の少なくとも一部をジメチルエーテル又はメタノールのうち少なくとも1種とともに前記反応器に還流させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、MFI構造ゼオライト触媒であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記触媒は、アルカリ土類金属を含むMFI構造ゼオライト触媒であって、該MFI構造ゼオライトのSi/Alモル比は10以上、300以下、アルカリ土類金属/Alモル比は0.75以上、15以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項7】
ジメチルエーテルまたはメタノールのうち少なくとも1種を触媒の存在下で反応させて、プロピレンを含む反応生成物を生成させる反応器と、該反応器で生成された反応生成物から、少なくともプロピレン、および大気圧下における沸点が−50℃以下の低沸点化合物を分離させる分離器と、前記低沸点化合物のうち、少なくともその一部を炭素数が4〜10の炭化水素に転化させる低重合器とを備えたことを特徴とするプロピレンの製造装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81456(P2008−81456A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264514(P2006−264514)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】