ヘッドアップディスプレイ装置
【課題】表示画層の虚像のぼやけを抑制する。
【解決手段】車両1の投影面91に表示画像71を投影することにより、表示画像71の虚像70を車両1の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置100は、表示画像71となる光束を投射するレーザスキャナ10と、室内において視認者が虚像70を視認可能な領域である視認領域60へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材30とを、備え、スクリーン部材30は、格子状に配列される複数の光学素子部32を有し、それら各光学素子部32の表面は、入射する光束を拡散するように曲面32aを形成し、各光学素子部32により拡散されて視認領域60へ入射する光束の回折幅Δdnが視認者の瞳孔径φp以下となるように、各光学素子部32のピッチPnが設定されていることを特徴とする。
【解決手段】車両1の投影面91に表示画像71を投影することにより、表示画像71の虚像70を車両1の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置100は、表示画像71となる光束を投射するレーザスキャナ10と、室内において視認者が虚像70を視認可能な領域である視認領域60へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材30とを、備え、スクリーン部材30は、格子状に配列される複数の光学素子部32を有し、それら各光学素子部32の表面は、入射する光束を拡散するように曲面32aを形成し、各光学素子部32により拡散されて視認領域60へ入射する光束の回折幅Δdnが視認者の瞳孔径φp以下となるように、各光学素子部32のピッチPnが設定されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体の投影面に表示画像を投影することにより、当該表示画像の虚像を移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表示画像となる光束をスクリーン部材で拡散して、拡散された当該光束を移動体の投影面に投影することにより、表示画像の虚像表示を実現するヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」という)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3に開示されるHUD装置のスクリーン部材は、入射光束を透過又は反射により拡散する微小な光学素子部を、格子状に複数並べた光学部材である。ここで光学素子部は、透過の場合にはマイクロレンズ、また反射の場合にはマイクロミラーと一般に呼ばれており、その外縁形状は、特許文献1では円形、特許文献2では六方稠密状、特許文献3では四角形状(矩形状)となっている。
【0004】
こうしたスクリーン部材の光学素子部は、特許文献1〜3では表面が曲面となっており、入射した光束を当該曲面によって所定の拡散角で拡散する。その結果、光学素子部から所定の拡散角で拡散して投影面に投影される表示画像の光束は、移動体の室内において視認者の眼の周囲に導かれる。このとき、光学素子部から拡散する光束の形状は、当該光学素子部の外縁形状に対応した形状となる。これにより、視認者の眼の周囲において光束が導かれる領域の形状も、光学素子部の外縁形状に対応した形状となるので、当該導光領域内では、視認者のアイポイントが移動しても表示画像の虚像の視認が可能となる。即ち、この導光領域が、移動体室内の視認者により表示画像の虚像を視認可能とする視認領域となる。
【0005】
さて、特許文献3には、各光学素子部の幅及び高さを変えることにより、幅方向の拡散光の拡がり角と高さ方向の拡散光の拡がり角とを個別に制御可能となることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128659号公報
【特許文献2】特開2010−145746号公報
【特許文献3】特開平7−270711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者らは、各光学素子部の幅と高さとを実際に変えてみた。その結果、所定の幅と高さとの関係では、乗員が認識する表示画像の虚像にぼやけが発生してしまうという現象を、発見したのである。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記ぼやけの発生を抑制することができるHUD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、鋭意研究を行ったところ、表示画像の虚像がぼやける現象は、視認領域へと入射する光束の回折幅が所定の値をとることを境に顕著となることが、判明した。さらに、ぼやけの発生現象が所定の値を境に顕著となる理由について、検討を重ねたところ、表示画像の虚像がぼやける現象は、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値が視認者の瞳孔に入ったり入らなかったりすることに起因して発生する輝度ムラが原因であり、上記所定の値は視認者の瞳孔径であることが、判明したのである(例えば、図13(a)、(b)参照)。
【0010】
そこで、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が視認者の瞳孔径以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0011】
このような本発明のスクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光(例えば0次光と1次光等)について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0012】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状と視認領域の外縁形状とは、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状であり、投射器から投射される光束の波長をλ、瞳孔径をφp、視認領域の各対向方向の幅をDn(n=1〜N)、各光学素子部により拡散されて視認領域の各対向方向の幅全域に亘って入射する光束の拡散角をθsn(n=1〜N)としたとき、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式1
【数1】
を満足する値である。
【0013】
このような特徴によると、各光学素子部と視認領域とは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向(以下、解決手段の欄では、単に「対向方向」ともいう)の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状を、それぞれ外縁に有する。そこで各対向方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅Dn全域へと入射させるように、各光学素子部の拡散角θsnを設定する。これにより、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときの回折幅は、幅Dn×回折角/拡散角θsnの乗除演算式にて各対向方向毎に表されることとなる。
【0014】
ここで各対向方向において、ピッチPnの格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるときには、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチPnを引数とする逆正弦関数式にて表される。そしてこのとき、いずれかの対向方向において回折幅が瞳孔径φpを超えていると、各回折光の入射箇所では、視認者の感じる輝度が明るくなるが、それら回折光と回折光との間では、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、虚像にぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0015】
そこで、上記逆正弦関数式で表される回折角が上記乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式1を満足させるピッチPnを、各対向方向毎に設定する。これにより、各回折光の入射箇所とその間とで視認者の感じる輝度には、明暗のムラが生じ難くなるので、虚像にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できるのである。
【0016】
なお、瞳孔径φpとしては、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、例えば移動体室内への太陽光の入射により瞳孔周囲の光量が増大する昼間の瞳孔径の他、当該昼間に対する光量の減少により瞳孔が大きくなる夜間の瞳孔径等を、採用可能である。
【0017】
また、本発明のさらなる特徴では、投射器は、単一波長レーザ光の複数色を光束として投射し、波長λは、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長である。
【0018】
このような特徴によると、各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する複数色の単一波長レーザ光については、ピーク波長を中心とする波長幅が限りなく小さいことから、各回折光の入射箇所とその間とで輝度ムラが生じる従来構成の場合には、当該輝度ムラが顕著となる。しかし、各色レーザ光のピーク波長のうち最大波長が数式1の波長λであることによれば、全色レーザ光についての回折幅が瞳孔径φp以下に抑えられて、視認者の感じる輝度ムラが確実に生じ難くなる。故に、表示画像となる光束として、従来では虚像のぼやけを誘引し易い単一波長レーザ光の利用にあっても、当該ぼやけの抑制を達成できるのである。
【0019】
さて、視認領域での虚像のぼやけを抑制するように各光学素子部のピッチを設定した場合、当該設定ピッチが大きくなると、各光学素子部による拡散光束がそれぞれ虚像として結像してなる虚像点のピッチも、同様に大きくなる。こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、各虚像点のピッチが視認者の眼の分解能を超えた場合、各光学素子部の外縁形状は、互いに分離した虚像として視認されてしまうことが、見出されたのである。なお、ここで眼の分解能とは、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲において、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の角度のうち、最小角度により表される。
【0020】
そこで、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束がそれぞれ虚像として結像してなる虚像点(72)のピッチを、視認者の眼の分解能以下とするように、各光学素子部のピッチが設定されている。
【0021】
このような特徴によると、各光学素子部の拡散光束が結像してなる虚像点のピッチは、それら各光学素子部のピッチの設定により、視認者の眼の分解能以下となる。その結果、視認領域では、各光学素子部の外縁形状が互いに分離した虚像として視認され難くなる。故に、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、抑制できるのである。
【0022】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束が投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、各虚像点のピッチは、光学系により、各光学素子部のピッチに対して拡大される。
【0023】
このような特徴によると、各光学素子部の拡散光束が投影面に到達するまでの光路上にて光学系は、各虚像点のピッチを各光学素子部のピッチに対して拡大させることになる。しかし、拡大される各虚像点のピッチであっても、視認者の眼の分解能以下となるので、各光学素子部の外縁形状は分離視認され難くなる。したがって、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0024】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、移動体の表示部材(90)の投影面に拡散光束が到達するまでの光路上には、光学系が設けられ、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の各対向方向における拡大率をMn(n=1〜N)、視認領域から虚像までの距離をL、視認者の眼の分解能をReとしたとき、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式2
【数2】
を満足する値である。
【0025】
このような特徴によると、各光学素子部は、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状を、外縁に有する。ここで各対向方向においては、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により各虚像点のピッチが、各光学素子部のピッチPnに対する拡大率Mnにて拡大されることになる。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチPn×拡大率Mnにて表されるピッチを、眼の分解能Re以下とするように、数式2を満足させるピッチPnを、各対向方向毎に設定する。このとき、距離L、拡大率Mn及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式2に代入されることで、ピッチPnの上限値設定を実現し得る。故に、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0026】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部(32、2032)において曲面の曲率半径は、各光学素子部により拡散されて視認領域の全域に亘って入射する光束の拡散角に基づき、設定されている。
【0027】
このような特徴によると、虚像のぼやけを抑制するようにピッチの設定された各光学素子部では、それぞれの素子部による拡散光束を視認領域の全域へと入射させる拡散角に対して、曲面の曲率半径が一義的に決まる。そこで、各光学素子部の拡散角に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径を設定できるのである。
【0028】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、各光学素子部により拡散されて視認領域の各対向方向の幅全域に亘って入射する光束の拡散角をθsn(n=1〜N)、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチをPn(n=1〜N)としたとき、各光学素子部において曲面の各対向方向の曲率半径Rn(n=1〜N)は、以下の数式3
【数3】
を満足する値である。
【0029】
このような特徴によると、各光学素子部は、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状を、外縁に有する。ここで各対向方向においては、ピッチPnの設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θsnと共に、曲面の曲率半径Rnが数式3を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式3に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径Rnを、各対向方向毎に設定できるのである。
【0030】
さて、上記瞳孔径に相当する所定の値は、好ましくは、視認者の昼間における最小瞳孔径を代表値として、選定することができる。そこで、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が2mm以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0031】
このような本発明のスクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、2mm以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、2mm以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0032】
さらに本発明は、移動体(1)の表示部材(90)に形成される投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内の視認者が虚像を視認可能な領域として外縁形状が四角形状の視認領域(60、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30)とを、備え、スクリーン部材は、入射する光束を視認領域に向けて拡散するように表面が曲面(32a)を形成し、かつ外縁形状が四角形状となる光学素子部(32)を複数有し、それら各光学素子部が格子状に配列されることにより形成されており、投射器から投射される光束の波長をλ、視認者の瞳孔径をφp、水平方向における視認領域の幅をD1、水平方向に垂直な方向を垂直方向として当該垂直方向における視認領域の幅をD2、各光学素子部によって拡散される光束が視認領域の水平方向の幅D1全域に亘って入射するときの光束の拡散角をθs1、各光学素子部によって拡散される光束が視認領域の垂直方向の幅D2全域に亘って入射するときの光束の拡散角をθs2としたとき、水平方向において各光学素子部のピッチP1は、以下の数式4
【数4】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部のピッチP2は、以下の数式5
【数5】
を満足する値であることを特徴とする。
【0033】
このような本発明のスクリーン部材によると、各光学素子部と視認領域とは、互いに対応する四角形状を、それぞれ外縁に有する。そこで、四角形状の水平方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅D1全域に入射させるように、各光学素子部の拡散角θs1を設定する。これにより水平方向では、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときのそれら回折光の間隔である回折幅は、水平方向の幅D1×水平方向の回折角/水平方向の拡散角θs1という乗除演算式にて表される。また、四角形状において水平方向に垂直な垂直方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅D2全域に入射させるように、各光学素子部の拡散角θs2を設定する。これにより垂直方向では、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときのそれら回折光の間隔である回折幅は、垂直方向の幅D2×垂直方向の回折角/垂直方向の拡散角θs2という乗除演算式にて表される。
【0034】
ここで水平方向では、ピッチP1の格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるとき、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチP1を引数とする逆正弦関数式にて表される。また垂直方向では、ピッチP2の格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるとき、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチP2の逆正弦関数式にて表される。そして、こうした水平方向及び垂直方向のいずれかにおいて、視認領域への入射光束の回折幅が視認者の瞳孔径φpを超えていると、各回折光の入射箇所では、視認者の感じる輝度が明るくなるが、それら回折光と回折光との間では、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、虚像にぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0035】
そこで水平方向では、前者の逆正弦関数式で表される回折角が前者の乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式4を満足させるピッチP1を設定する。また垂直方向では、後者の逆正弦関数式にて表される回折角が後者の乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式5を満足させるピッチP2を設定する。これらピッチP1、P2の設定により、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、各回折光の入射箇所とその間とで視認者の感じる輝度には、明暗のムラが生じ難くなるので、虚像にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できるのである。
【0036】
なお、瞳孔径φpについては、先に説明した発明と同様に、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、例えば昼間の瞳孔径の他、夜間の瞳孔径等に設定可能である。
【0037】
上述した数式4、5に従う場合、虚像のぼやけを抑制するためにピッチP1、P2を設定することになるが、それら設定ピッチP1、P2が大きくなると、各光学素子部による拡散光束がそれぞれ結像してなる虚像点のピッチも、同様に大きくなる。こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、各虚像点のピッチが視認者の眼の分解能を超えた場合、各光学素子部の外縁形状は、互いに分離した虚像として視認されることが、見出されたのである。特に、各光学素子部による拡散光束の光路上に光学系が設けられている場合、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により拡大される各虚像点のピッチは、視認者の眼の分解能を超えて各光学素子部の外縁形状を分離視認させ易くする。なお、ここで眼の分解能とは、先に説明した発明と同様に、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲にて、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の最小角度で表される。
【0038】
そこで、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束が表示部材に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の水平方向における拡大率をM1、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の垂直方向における拡大率をM2、視認領域から虚像までの距離をL、視認者の眼の分解能をReとしたとき、水平方向において各光学素子部のピッチP1は、以下の数式6
【数6】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部のピッチP2は、以下の数式7
【数7】
を満足する値である。
【0039】
このような特徴によると、各光学素子部による拡散光束が虚像として結像してなる虚像点のピッチは、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により水平方向では、各光学素子部のピッチP1に対する拡大率M1にて拡大される。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチP1×拡大率M1にて表される各虚像点のピッチを視認者の眼の分解能Re以下とするように、数式6を満足させるピッチP1を設定する。このとき、距離L、拡大率M1及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式6に代入されることで、ピッチP1の上限値設定を実現し得る。
【0040】
また、各光学素子部により拡散された光束が虚像として結像してなる虚像点のピッチは、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により垂直方向では、各光学素子部のピッチP2に対する拡大率M2にて拡大される。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチP2×拡大率M2にて表される各虚像点のピッチを視認者の眼の分解能Re以下とするように、数式7を満足させるピッチP2を設定する。このとき、距離L、拡大率M2及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式7に代入されることで、ピッチP2の上限値設定を実現し得る。
【0041】
以上によれば、各光学素子部の外縁形状が互いに分離した虚像として視認され難くなるので、虚像の表示品質の低下を抑制できるのである。
【0042】
上述した数式4〜7のうち、少なくとも数式4、5に従ってピッチP1、P2の設定された各光学素子部に関して、拡散角θs1、θs2での拡散光束を視認領域の全域に現実に入射させるには、それら各光学素子部の曲面の曲率半径を求める必要がある。
【0043】
そこで、本発明のさらなる特徴では、水平方向において各光学素子部の曲面の曲率半径R1は、以下の数式8
【数8】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部の曲面の曲率半径R2は、以下の数式9
【数9】
を満足する値である。
【0044】
このような特徴によると、水平方向では、ピッチP1の設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θs1と共に、曲面の曲率半径R1が数式8を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式8に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径R1を、水平方向において設定できる。また垂直方向では、ピッチP2の設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θs2と共に、曲面の曲率半径R2が数式9を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式9に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径R2を、垂直方向においても設定できるのである。
【0045】
さて、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置において、室内において視認者が虚像を視認可能な領域を視認領域(60、2060、3060)として、投射器(10)から投射されて表示画像となる光束を視認領域へ導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材であって、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が視認者の瞳孔径以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0046】
このような本発明としてのHUD装置用スクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0047】
さらに本発明は、表示画像(71)の虚像(70)を移動体(1)の室内から視認可能に表示するために、前記移動体の投影面(91)に前記表示画像を投影する画像投影方法であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材として、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成するスクリーン部材(30、2030)とを、用い、所定のピッチで配列される各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅を、視認者の瞳孔径以下に調整することを特徴とする。
【0048】
このような本発明としての画像投影方法によると、格子状配列のうち所定ピッチ配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態によるHUD装置の車両への搭載状態を示す模式図である。
【図2】第1実施形態によるHUD装置の構成を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態によるHUD装置の表示状態を示す正面図である。
【図4】第1実施形態によるHUD装置の構成を示す模式図である。
【図5】第1実施形態によるスクリーン部材の構成例(a)、(b)を示す部分正面図である。
【図6】第1実施形態によるスクリーン部材を部分的に示す斜視図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線断面図である。
【図9】第1実施形態による視認領域を拡大して示す模式図である。
【図10】図7、8の各光学素子部の拡散角と、各光学素子部による光束の反射強度との関係について、一例を示すグラフである。
【図11】図7、8の各光学素子部の拡散角と、各光学素子部による光束の反射強度との関係について、別の例を示すグラフである。
【図12】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図13】第1実施形態に対する比較例の課題を説明するための模式図である。
【図14】図13の比較例に対する第1実施形態の特徴を説明するための模式図である。
【図15】第1実施形態に対する比較例の課題を説明するための模式図である。
【図16】図15の比較例に対する第1実施形態の特徴を説明するための模式図である。
【図17】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図18】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図19】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図20】第2実施形態によるスクリーン部材の構成例を示す部分正面図である。
【図21】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図22】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図23】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図24】第2実施形態による視認領域を拡大して示す模式図である。
【図25】図9の変形例を示す模式図である。
【図26】図2の変形例を示す正面図である。
【図27】図2の変形例を示す正面図である。
【図28】図4の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0051】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態によるHUD装置100は、「移動体」としての車両1に搭載され、インストルメントパネル80内に収容されている。HUD装置100は、車両1の「表示部材」であるウインドシールド90へ表示画像71を投影する。ここで車両1において、ウインドシールド90の室内側の面は、表示画像71が投影される投影面91を、湾曲する凹面状又は平坦な平面状等に形成している。また、車両1においてウインドシールド90は、室内側の面と室外側の面とで、光路差を抑制するための角度差を有するものであってもよいし、あるいは当該光路差抑制のために蒸着膜乃至はフィルム等を室内側の面に設けたものであってもよい。
【0052】
こうしてウインドシールド90の投影面91に対して表示画像71の光束が投影されると、車両1の室内では、当該投影面91により反射した光束が視認者のアイポイント61に到達する。視認者は、アイポイント61への到達光束を知覚することで、ウインドシールド90の前方に結像された表示画像71の虚像70を、視認可能となる。このとき虚像70の視認は、図2に示す視認者の視認領域60内に、アイポイント61が位置するときに限られる。換言すれば、アイポイント61が視認領域60から外れている場合には、視認者による虚像70の視認が困難となる。
【0053】
以上、投影面91への表示画像71の投影によりHUD装置100は、表示画像71の虚像70を、図3に示すように車両1の室内から視認可能に表示するのである。なお、表示画像71の虚像70としては、例えば図3の如く、車両1の走行速度の指示表示70aや、ナビゲーションシステムによる車両1の進行方向の指示表示70b、車両1に関するウォーニング表示70cが、表示される。
【0054】
(基本構成)
このような虚像70の表示機能を実現するHUD装置100の基本構成を、以下に詳細に説明する。HUD装置100は、図1に示すように、レーザスキャナ10、コントローラ29、スクリーン部材30及び光学系40を、ハウジング50内に備えている。
【0055】
図4に示すように、「投射器」であるレーザスキャナ10は、光源部13、導光部20、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)26を有している。
【0056】
光源部13は、三つのレーザ投射部14、15、16等から構成されている。各レーザ投射部14、15、16は、コントローラ29と電気的に接続されている。各レーザ投射部14、15、16は、コントローラ29からの制御信号に従って、互いに異なる色相の単一波長レーザ光をそれぞれ投射する。具体的にレーザ投射部14は、例えばピーク波長が600〜650nmの範囲、好ましくは640nmである赤色のレーザ光を、投射する。レーザ投射部15は、例えばピーク波長が430〜470nmの範囲、好ましくは450nmである青色のレーザ光を、投射する。レーザ投射部16は、例えばピーク波長が490〜530nmの範囲、好ましくは515nmである緑色のレーザ光を、投射する。このように各レーザ投射部14、15、16から投射される三色のレーザ光を加色混合することで、種々の色の再現が可能となる。
【0057】
導光部20は、三つのコリメートレンズ21、ダイクロイックフィルタ22、23、24及び集光レンズ25等から構成されている。各コリメートレンズ21は、それぞれ対応するレーザ投射部14、15、16に対して、レーザ光の投射側に例えば0.5mmの間隔をあけて配置されている。各コリメートレンズ21は、対応するレーザ投射部14、15、16からのレーザ光を屈折させることにより、当該レーザ光を平行光にコリメートする。
【0058】
各ダイクロイックフィルタ22、23、24は、それぞれ対応するコリメートレンズ21に対して、各レーザ投射部14、15、16の投射側に例えば4mmの間隔をあけて配置されている。各ダイクロイックフィルタ22、23、24は、対応するコリメートレンズ21を通過したレーザ光のうち、特定波長のレーザ光を反射し且つそれ以外の波長のレーザ光を透過する。具体的には、レーザ投射部14の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ22は、赤色のレーザ光を透過し、それ以外の色のレーザ光を反射する。レーザ投射部15の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ23は、青色のレーザ光を反射し、それ以外の色のレーザ光を透過する。レーザ投射部16の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ24は、緑色のレーザ光を反射し、それ以外の色のレーザ光を透過する。
【0059】
ここで、ダイクロイックフィルタ24による緑色レーザ光の反射側には、ダイクロイックフィルタ23が例えば6mmの間隔をあけて配置されている。また、ダイクロイックフィルタ23による青色レーザ光の反射側且つ緑色レーザ光の透過側には、ダイクロイックフィルタ22が例えば6mmの間隔をあけて配置されている。さらに、ダイクロイックフィルタ23の赤色レーザ光の透過側且つ青色レーザ光及び緑色レーザ光の反射側には、集光レンズ25が例えば4mmの間隔をあけて配置されている。これら配置形態により本実施形態では、ダイクロイックフィルタ22を透過した赤色のレーザ光と、ダイクロイックフィルタ23、24によりそれぞれ反射された後にダイクロイックフィルタ22により反射された青色及び緑色のレーザ光が、集光レンズ25へと入射されて混色される。
【0060】
集光レンズ25は、平面状の入射面及び凸面状の出射面を有する平凸レンズである。集光レンズ25は、入射面へ入射したレーザ光の屈折より、当該入射光を集束させる。その結果、集光レンズ25を通過したレーザ光は、MEMS26に向かって出射される。
【0061】
MEMS26は、水平スキャナ27、鉛直スキャナ28及び駆動部(図示しない)等から構成されている。水平スキャナ27において、中心部が集光レンズ25に対して例えば5mmの間隔をあけて対向する面には、アルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状の反射面27bが形成されている。水平スキャナ27は、車両1における鉛直方向の回転軸27aまわりに回転可能となっている。一方、鉛直スキャナ28において、中心部が水平スキャナ27に対して例えば1mmの間隔をあけて対向する面には、アルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状の反射面28bが形成されている。鉛直スキャナ28は、車両1における水平方向の回転軸28aまわりに回転可能となっている。MEMS26の駆動部は、電気的に接続されたコントローラ29からの駆動信号に従って、水平スキャナ27及び鉛直スキャナ28をそれぞれ個別に回転駆動する。
【0062】
ここで、レーザスキャナ10の最終段を構成する鉛直スキャナ28の中心部は、スクリーン部材30の走査面31に対して、例えば100mmの間隔をあけて配置されている。こうした配置形態の本実施形態では、集光レンズ25から入射して各スキャナ27、28の反射面27b、28bで順次反射されたレーザ光が、表示画像71となる光束としてスクリーン部材30に投射される。
【0063】
コントローラ29は、プロセッサ等から構成される制御回路である。コントローラ29は、各レーザ投射部14、15、16に制御信号を出力することにより、レーザ光を断続的にパルス投射する。それと共に、コントローラ29は、MEMS26の駆動部に駆動信号を出力することにより、走査面31に対するレーザ光の投射方向を、複数の走査線SLに沿った図4の矢印方向へ順次変化させる。以上の制御の結果、レーザ光により走査される走査面31にて図5の如くスポット状に発光する領域33が移動していくことで、表示画像71が描画されることになる。こうして走査面31に描画される表示画像71は、例えば、水平方向xに480画素且つ垂直方向yに240画素を有する画像として、走査面31に毎秒60フレーム描画される。
【0064】
図5、6に示すようにスクリーン部材30は、樹脂基材乃至はガラス基材の表面にアルミニウムを蒸着させること等により形成された、反射型のスクリーンである。スクリーン部材30は、車両1においてレーザスキャナ10よりも上方に配置されている(図1、2参照)。スクリーン部材30において走査面31は、当該部材30表面へのアルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状に形成されている。走査面31には、レーザスキャナ10からの光束としてレーザ光が投射されることで、表示画像71が描画される。
【0065】
ここで走査面31には、水平方向x及び垂直方向yにて格子状に配置されるマイクロミラーとして、複数の光学素子部32が形成されている。各光学素子部32は、スクリーン部材30において全て一体物として形成されているが、別体に形成されてスクリーン部材30の本体に保持されていてもよい。こうした各光学素子部32は、走査面31に投射されたレーザ光の光束を反射することで、当該光束を所定の角度で拡散させる。また、表示画像71の各構成画素に対して各光学素子部32が1対1にて対応する本実施形態では、レーザ光がスポット状に入射する図5の領域33内に少なくとも一つの光学素子部32が収まるように、図4の走査線SLがコントローラ29によって制御される。なお、レーザ光が投射される領域33の直径φaは、後に詳述する各光学素子部32のピッチを考慮して、例えば70〜400μmの範囲に設定される。
【0066】
図1、2に示すように光学系40は、凹面鏡42及び駆動部(図示しない)を有している。凹面鏡42は、樹脂基材乃至はガラス基材の表面にアルミニウムを蒸着させること等により、形成されている。凹面鏡42は、各光学素子部32により拡散された光束をウインドシールド90の投影面91へと向かって反射するように、反射面42aを形成している。本実施形態の反射面42aは、走査面31及び投影面91から遠ざかる方向に中心部が凹む凹面として、滑らかな曲面状に形成されている。かかる形状により反射面42aは、走査面31からの拡散光束を拡大して反射可能となっている。それと共に反射面42aは、図1に示す水平方向の揺動軸42bまわりに、揺動可能となっている。
【0067】
光学系40の駆動部は、電気的に接続されたコントローラ29からの駆動信号に従って、凹面鏡42を揺動駆動する。こうして凹面鏡42が揺動することで、虚像70の結像位置が上下すると、当該虚像70を視認者により視認可能な図2の視認領域60も、上下することになる。
【0068】
(設計原理)
次に、第1実施形態の設計原理について、詳細に説明する。
【0069】
(1) 光学素子部と視認領域との関係
(1−1) 光学素子部の形状
図6〜8に示すように各光学素子部32の表面は、その一つ一つがレーザスキャナ10に向かう方向z(図2参照)へ突出することで、曲面32aを、本実施形態では円弧面乃至は二次曲面等の凸面状に形成しているが、凹面状に形成してもよい。各光学素子部32の曲面32aは、水平方向xに沿う縦断面において曲率半径R1、また当該方向xに垂直な垂直方向yに沿う縦断面において曲率半径R2を、それぞれ有している。なお、図2に示すように、スクリーン部材30及びその各構成素子部32に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致している。一方、スクリーン部材30及びその各構成素子部32に関する垂直方向yは、本実施形態では車両1の鉛直方向に対して傾いているが、鉛直方向と実質一致していてもよい。
【0070】
図5に示すように各光学素子部32の曲面32aは、方向zから見た外縁形状として、四角形状(矩形状)を呈している。ここで、曲面32aの外縁形状を規定する四角形状とは、Nを2としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向x、yの数がNによって表される多角形状である。
【0071】
こうした曲面32aの外縁を隣同士で重ねてなる各光学素子部32は、図5、6に示すように、水平方向xでは一定のピッチP1にて、且つ垂直方向yでは一定のピッチP2にて、格子状に並んでいる。ここで、水平方向xのピッチP1と垂直方向yのピッチP2は、各光学素子部32において曲面32aの外縁形状を正方形状にする同一値(図5(a)参照)であってもよいし、あるいは当該外縁形状を長方形状にする相異値(図5(b)参照)であってもよい。なお、ピッチP1、P2については、図5に示すように、各光学素子部32の外縁形状を規定する四角形状において各方向x、yに平行な二辺同士の幅によって表すことができ、また図6に示すように、各方向x、yに隣り合う光学素子部32同士の中心間距離によっても表すことができる。
【0072】
(1−2) 視認領域の形状
図2、9に示すように視認領域60の外縁形状は、各光学素子部32に対応する形状として、水平方向x及び垂直方向yにそれぞれ幅D1、D2を有する四角形状となる。即ち、視認領域60の外縁形状を規定する四角形状についても、Nを2としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向x、vの数がNによって表される多角形状となっている。なお、視認領域60に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致し、また視認領域60に関する垂直方向yは、車両1の鉛直方向と実質一致している。
【0073】
こうした視認領域60として、特に図9に示す本実施形態では、両眼のアイポイント61による視認に最適な横長のアイボックス領域、即ち垂直方向yの幅D2よりも水平方向xの幅D1が大きな長方形状の領域を、確保している。なお、水平方向xの幅D1は、例えば80〜200mmの範囲、好ましくは130mmに確保される。一方、垂直方向yの幅D2は、例えば30〜200mmの範囲、好ましくは50mmに確保される。
【0074】
また、本実施形態において視認領域60の位置は、図1に示すアイリプス62を考慮して規定されている。ここでアイリプス62とは、車両1の室内のうち、運転席に着座した任意の視認者を想定したときにアイポイント61が存在可能な空間領域を、表している。そこで、凹面鏡42の揺動に応じて上下する視認領域60については、当該揺動の範囲では少なくとも一部がアイリプス62内へ入るように、即ち当該揺動範囲の任意位置にて虚像70を視認可能に想定される。これにより視認領域60は、図2に示すように、投影面91による反射光束の中心光軸上の反射点92から距離K、例えば500〜1000mm離れた位置にて、また虚像70からは距離L、例えば1000〜3000mm離れた位置にて、測定可能となっている。
【0075】
(1−3) 光学素子部の拡散角と視認領域との関係
図7、8に示すように各光学素子部32は、レーザスキャナ10から投射されるレーザ光の光束を反射することで、当該光束の拡散作用を、水平方向xでは拡散角θs1且つ垂直方向yでは拡散角θs2の角度域にて発揮する。ここで、レーザスキャナ10からの光束強度がビーム成形により実質一定となっている場合には、図10の如く反射強度が実質一定の角度域を、拡散角θs1、θs2と定義する。あるいは、レーザスキャナ10からの光束強度がガウス分布している場合には、視認領域60での輝度ムラを抑制するために、図11の如く例えば70%以上の反射強度が確保される角度域を、拡散角θs1、θs2と定義する。
【0076】
こうした拡散角θs1、θs2をもって各光学素子部32により拡散される光束は、図12に示すように、投影面91へ向かう光路上の光学系40(凹面鏡42)と、同面91を形成するウインドシールド90とに順次反射された後、視認領域60へ入射する。このとき、光学系40は単独で又はウインドシールド90と共同して(図12は共同の例)、各光学素子部32による拡散光束を拡大させる。そこで本実施形態では、各光学素子部32による拡散光束が拡大されても、視認領域60の全域へ入射するように、各方向x、yでの拡散角θs1、θs2を調整する。
【0077】
具体的に水平方向xについては、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による拡大率をM1としたとき、視認領域60の幅D1は、2×L×tan(θs1/2)/M1の式にて表される。同様に垂直方向yについては、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による拡大率をM2としたとき、視認領域60の幅D2は、2×L×tan(θs2/2)/M2の式にて表される。ここで各式におけるL/M1、/L/M2は、車両1の仕様等に応じた固定値となるので、これら各式を満たすように拡散角θs1、θs2を調整することで、各光学素子部32による拡散光束を視認領域60の全域へと入射させることが可能になる。
【0078】
なお、拡散角θs1の数値としては、各光学素子部32による拡散光束を幅D1全域へと入射させるように、例えば10度〜50度、好ましくは30度に調整される。一方、拡散角θs2の数値としては、各光学素子部32による拡散光束を幅D2全域へと入射させるように、例えば5度〜50度、好ましくは10度に調整される。
【0079】
(2) ピッチの設定
(2−1) ピッチの下限値
各光学素子部32は、それぞれに投射された光束を拡散することで、図12に示すように、当該拡散光束の回折を生じさせる。その結果、拡散光束の回折光(例えば0次光、1次光等)が視認される視認領域60では、表示画像71の虚像70にぼやけを発生させる事態が、懸念される。
【0080】
そこで、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、表示画像71の虚像70がぼやける現象は、視認領域60へと入射する光束の回折幅が所定の値をとることを境に顕著となることが、判明した。さらに、ぼやけの発生現象が所定の値を境に顕著となる理由について、検討を重ねたところ、表示画像71の虚像70がぼやける現象は、各光学素子部32で拡散された回折光のピーク値が視認者の瞳孔に入ったり入らなかったりすることに起因して発生する輝度ムラが原因であり、上記所定の値は視認者の瞳孔径であることが、判明したのである。以下、こうした知見に基づいて各光学素子部32のピッチP1、P2の下限値を設定する原理につき、隣接次数の回折光のうち0次光及び1次光を代表的に取り上げて、説明する。
【0081】
図12に示すように、レーザスキャナ10からの光束が光学素子部32に入射されて拡散すると、中心光軸に沿った0次光と、この0次光に対して水平方向xに回折角θd1且つ垂直方向yに回折角θd2だけ偏光して進む1次光とが、視認領域60へと向かって進行する。このとき、各方向x、yにおいて0次光及び1次光間の回折角θdn(n=1、2)は、光学素子部32へ入射する光束の波長λと光学素子部32のピッチPn(n=1、2)との比を引数とした逆正弦関数式、即ちsin−1(λ/Pn)により表される。ここで特に、複数色のレーザ光が光学素子部32への入射光束となる本実施形態では、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長、即ち600〜650nmの範囲、好ましくは640nmである赤色レーザ光のピーク波長が、λとして予設定される。
【0082】
また、図12に示すように光学素子部32によって拡散された0次光及び1次光は、水平方向xに回折幅Δd1且つ垂直方向yに回折幅Δd2の間隔をあけて、視認領域60へと入射する。このとき、各方向x、yにおいて光学素子部32の拡散角θsn(n=1、2)は、視認領域60の幅Dn(n=1、2)の全域へと入射するように調整されているので、回折幅Δdn(n=1、2)については、Dn×θdn/θsnの乗除演算式により表すことができる。なお、2×L×tan(θdn/2)/Mnの式によっても表すことができる回折幅Δdnについては、上述の如くL/Mnが固定値であることから、距離Lには依存せず、回折角θdnに依存した物理量となっている。
【0083】
さらに、図13、14に示すように視認領域60へと入射した0次光及び1次光について、入射箇所での強度は、それら0次光及び1次光の間となる箇所での強度に比べて、大きくなる。その結果、いずれかの方向x、yにおいて0次光及び1次光間の回折幅Δdnが視認者の眼の瞳孔径φpを超えていると、0次光又は1次光の入射箇所では、図13(a)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の右上がりハッチングの面積)が確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。また一方、回折幅Δdnが瞳孔径φp超えの場合に0次光と1次光との間では、図13(b)に示すように、それら回折光のピーク値が入らない瞳孔において入射光量(同図の左上がりハッチングの面積)が上記入射箇所での場合よりも減少し、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、視認領域60を通して視認される虚像70に、ぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0084】
以上に対し、いずれの方向x、yでも回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となる場合、0次光又は1次光の入射箇所では、図14(a)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の右上がりハッチングの面積)が確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。また同様に、回折幅Δdnが瞳孔径φp以下の場合に0次光と1次光との間では、図14(b)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の左上がりハッチングの面積)が上記入射箇所での場合と実質的乃至は近似的に等しく確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。したがって、0次光又は1次光の入射箇所とその間のいずれにアイポイント61が移動した場合でも、視認者の感じる輝度に明暗のムラが生じ難くなるので、虚像70にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できる。
【0085】
こうした知見に基づいて本実施形態では、図14の如く回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となるように、各光学素子部32のピッチPnを各方向x、y毎に設定し、虚像70のぼやけを抑制する。具体的には、上記逆正弦関数式で表される回折角θdnが上記乗除演算式に代入されることで求められる回折幅Δdnを、瞳孔径φp以下とするように、数式1を満足させるピッチPnを設定する。
【数1】
【0086】
なお、数式1の瞳孔径φpとしては、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、太陽光が車両1の室内へ入射することにより瞳孔周囲の光量が10000ルクス程度にまで増大する昼間の瞳孔径に、予設定される(例えば、William Wesley Campbell,Russell N. DeJong,Armin F. Haerer著、「DeJong's The Neurologic Examination」、Lippincott Williams & Wilkins、2005年を参考)。ここで瞳孔径φpの数値としては、上記括弧書きの文献を参考にした例えば2〜6mm、中でも特に、先述した健常者の最小瞳孔径である2mmが好ましい。
【0087】
したがって、このように設定される瞳孔径φpに加えて、上記予設定の波長λと、先の(1)で説明した各光学素子部32の拡散角θsn及び視認領域60の幅Dnとを、数式1に代入することで、虚像70のぼやけ抑制に必要なピッチPnの下限値を、求めることができる。
【0088】
(2−2) ピッチの上限値
上記(2−1)の数式1に従って水平方向xのピッチP1を設定する場合、当該設定ピッチP1が大きくなると、各光学素子部32による拡散光束が虚像70として結像してなる虚像点72の水平方向xのピッチVp1も、図15の如く大きくなる。また同様に、数式1に従って垂直方向yのピッチP2を設定する場合、当該設定ピッチP2が大きくなると、各光学素子部32による拡散光束が虚像70として結像してなる虚像点72の垂直方向yのピッチVp2も、図15の如く大きくなる。ここで本実施形態の虚像点72は、一光学素子部32による拡散光束が結像されることにより、実質的に虚像70の一つの画素を構成している。なお、図2に示すように、各虚像点72に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致している。一方、各虚像点72に関する垂直方向yは、本実施形態では車両1の鉛直方向と実質一致しているが、鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0089】
こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、図15に示すように、各虚像点72のピッチVpn(n=1、2)のいずれかが視認者の眼の分解能Reを超えた場合、各光学素子部32の外縁形状は、互いに分離した虚像70として視認されることが、見出されたのである。また、特に本実施形態では、図12に示す拡散光束の光路上において、光学系40(凹面鏡42)が単独で又はウインドシールド90と共同して、当該拡散光束を拡大させる。故に各方向x、yにおいては、各光学素子部32のピッチPn(n=1、2)に対して所定の拡大率Mn(n=1、2)で拡大されることになる虚像点72のピッチVpnは、分解能Reを超えて各光学素子部32の外縁形状を分離視認させ易くする。なお、ウインドシールド90の光束拡散作用については、例えば、凹面状の投影面91の場合には発揮される一方、平面状の投影面91の場合には実質的に発揮されないようになっている。また、図15及び後述する図16の各々において、ピッチVpnとピッチPnとの大小関係は、模式的にスクリーン部材30を拡大して示している関係上、実際とは逆の関係となっている。
【0090】
以上のことから本実施形態では、図16の如く拡大率Mnにて拡大された各虚像点72のピッチVpnが眼の分解能Re以下となるように、各光学素子部32のピッチPnを各方向x、y毎に設定し、各光学素子部32の外縁形状の分離視認を抑制する。具体的には、視認領域60から距離Lにある虚像70の各虚像点72では、Pn×Mnにて表されるピッチVpnを分解能Re以下とするように、数式2を満足させるピッチPnを設定する。
【数2】
【0091】
なお、図17に示すように分解能Reは、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲において、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の角度のうち、最小角度Aminによって表されるものである。ここで、分解能Re(最小角度Amin)の数値としては、図17の如き視力指標であるランドルト環74の切れ目74aの角度を用いて、例えば1/90〜1/30度の範囲、好ましくは視力1.0の場合の1/60度に予設定される。
【0092】
また、視認領域60からの虚像70の距離Lは、上記(1−3)で説明した視認領域60を測定可能にする距離として、例えば1000〜3000mmに予設定される。さらに、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による横倍率としての拡大率Mnは、HUD装置100のサイズや車両1の室内サイズ等を考慮して、各方向x、y毎に例えば4〜8倍、好ましくは6倍に予設定される。
【0093】
このように予設定される分解能Re、距離L及び拡大率Mnを、数式2に代入することで、各光学素子部32の外縁形状の分離視認を抑制するように、ピッチPnの上限値を求めることができる。
【0094】
なお、(2−1)、(2−2)の設計原理に従うピッチPnの数値として、水平方向xのP1及び垂直方向yのP2はいずれも、例えば50μm〜200μmの範囲、好ましくは100μmに設定されることとなる。
【0095】
(3) 光学素子部の曲率半径
ピッチP1、P2の設定された各光学素子部32に関して、拡散角θs1、θs2での拡散光束を視認領域60の全域に実際に入射させるには、それら各光学素子部32の曲面32aの曲率半径R1、R2を設定する必要がある。そこで本実施形態では、上記(2−1)、(2−2)の数式1、2を満足するピッチP1、P2を設定後、拡散角θs1、θs2に基づいて曲率半径R1、R2を設定するのである。そこで以下では、曲率半径R1、R2の設定原理を説明する。
【0096】
図18に示す水平方向xにおいて、曲面32aの外縁に対する接線がスクリーン部材30のxy平面(同図の2点鎖線)となす角度は、各光学素子部32にて曲率半径R1を有する曲面32aの最大傾斜角θa1となって、各光学素子部32の拡散角θs1の1/4と実質一致する。また同様に、図19に示す垂直方向yにおいて、曲面32aの外縁に対する接線がスクリーン部材30のxy平面となす角度は、各光学素子部32にて曲率半径R2を有する曲面32aの最大傾斜角θa2となって、各光学素子部32の拡散角θs2の1/4と実質一致する。
【0097】
これらのことから、各方向x、yにおいて最大傾斜角θan(n=1、2)は、拡散角θsn(n=1、2)を用いた分数式であるθsn/4によって、表される。また、各方向x、yにおいて曲率半径Rn(n=1、2)は、最大傾斜角θan及びピッチPn(n=1、2)を用いた関係式であるPn/(2×sin(θan)によって、表される。
【0098】
以上より本実施形態では、上記分数式で表される最大傾斜角θanを上記関係式に代入して求められる曲率半径Rnは、拡散角θsnに対して各方向x、y毎に一義的に決まる。そこで、虚像のぼやけを抑制するピッチPnの設定された各光学素子部32に関して、拡散角θsnと曲率半径Rnとの間に成立する数式3に基づくことで、当該数式3を満足してぼやけの抑制機能を損なわせない曲率半径Rnを、設定する。
【数3】
【0099】
したがって、先の(1)、(2)で説明した各光学素子部32の拡散角θsn及びピッチPnを、数式3に代入することで、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径Rnを、各光学素子部32の曲面32aに付与することができる。故に、視認領域60の外縁形状を水平方向xに長い横長の四角形状とした本実施形態では、各方向x、yのピッチPnに応じて、各方向x、yの曲率半径Rnの大小関係を調整可能となる。例えば、横長の視認領域60に対して、ピッチP1とピッチP2とが実質同一値(図5(a)参照)に設定される場合においては、曲率半径R1を曲率半径R2よりも小さく設定できる。あるいは、横長である視認領域60の幅D1と幅D2との比率に対して、ピッチP1とピッチP2との比率が実質等しく設定される場合においては、曲率半径R1と曲率半径R2とを実質同一値に設定できる。
【0100】
なお、こうした曲率半径Rnの数値として、水平方向xのR1は、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは0.4mmに設定される一方、垂直方向yのR2は、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは1mmに設定される。また、以上の設定により曲率半径Rn及びピッチPnが各光学素子部32毎に付与されたスクリーン部材30について、例えば基材を樹脂により形成するには、当該基材を成形する成形型の製造に工夫を要する。具体的には、基材用成形型の製造において曲面32aを形成するためのキャビティ面を加工する際には、例えばxz面でのバイトの駆動を方向yに繰り返す、所謂三次元加工を要するのである。
【0101】
(作用効果)
以上説明した第1実施形態の作用効果を以下に説明する。
【0102】
第1実施形態によると、格子状配列のうち所定ピッチPn配列の各光学素子部32で拡散されて視認領域60へと入射する光束の回折幅Δdnは、各方向x、y毎に数式1を満足するピッチPn設定により、視認者の瞳孔径φp以下となる。ここで特に、健常者の昼間の最小瞳孔径である2mmが数式1のφpとして予設定される場合には、当該数式1を満足するピッチPn設定により、回折幅Δdnは2mm以下となる。これにより、各光学素子部32で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイント61の移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径φp以下の回折幅Δdnにて隣接する隣接次数(例えば0次光と1次光等)の回折光につき、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域60では、表示画像71の光束が入射することで視認される虚像70のぼやけを、抑制できるのである。
【0103】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32で拡散されて視認領域60へと入射する複数色の単一波長レーザ光については、ピーク波長を中心とする波長幅が限りなく小さいことから、各回折光の入射箇所とその間とで輝度ムラが生じる従来構成の場合、当該輝度ムラが顕著となる。しかし、各色レーザ光のピーク波長のうち最大波長が数式1の波長λとして予設定されることによれば、全色レーザ光についての回折幅Δdnが瞳孔径φp以下に抑えられて、視認者の感じる輝度ムラが確実に生じ難くなる。故に、表示画像71となる光束として、従来では虚像70のぼやけを誘引し易い単一波長レーザ光の利用にあっても、当該ぼやけの抑制を達成できるのである。
【0104】
また、第1実施形態によると、所定ピッチPn配列の各光学素子部32により拡散された光束が虚像70として結像してなる虚像点72のピッチVpnは、各方向x、y毎に数式2を満足するピッチPn設定により、視認者の眼の分解能Re以下となる。その結果、視認領域60では、各光学素子部32の外縁形状が互いに分離した虚像70として視認され難くなる。故に、各光学素子部32の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像70の表示品質が低下する事態を、抑制できるのである。
【0105】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32の拡散光束が投影面91に到達するまでの光路上にて光学系40は、単独で又はウインドシールド90と共同して、各虚像点72のピッチVpnを各光学素子部32のピッチPnに対して拡大させる。しかし、数式2を満足するピッチPn設定によれば、拡大されるピッチVpnであっても、視認者の眼の分解能Re以下となるので、各光学素子部32の外縁形状は分離視認され難くなる。したがって、各光学素子部32の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0106】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32の外縁形状を図5(a)の如き正方形状とする場合、いずれの方向x、yにおいても等しくなるピッチPnは、それら両方向x、yにて数式1、2を満足させることが容易となる。これによれば、ピッチPnの設定に要する時間を短縮して、生産性を高めることができる。
【0107】
また、第1実施形態によると、虚像70のぼやけを抑制するようにピッチPn設定された各光学素子部32では、それぞれの素子部32による拡散光束を視認領域60の全域へ入射させる拡散角θsnに対して、曲面32aの曲率半径Rnが一義的に決まる。そこで、拡散角θsnと曲率半径Rnとが満足することで虚像70のぼやけを抑制可能にする数式3に基づいた設計原理によれば、当該ぼやけの抑制機能を損なわせない曲率半径Rnを、各対向方向毎に設定できるのである。
【0108】
また、第1実施形態によると、外縁形状が四角形状に確保される視認領域60は、車両1の室内にてアイポイント61が移動し易い水平方向x及び垂直方向yに、それぞれ幅D1及びD2を有している。これによれば、虚像70の視認に不可欠なアイポイント61の移動範囲へと光束を無駄なく入射させ、エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0109】
また、第1実施形態によると、視認者の両眼による視認領域60は、横長四角形状の外縁形状により、それら両眼のアイポイント61が頭部と共に動き易い水平方向xに、垂直方向yよりも大きな幅を有している。これによれば、虚像70の両眼視認に不可欠なアイポイント61の移動範囲へと光束を無駄なく入射させ、エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0110】
(第2実施形態)
図20〜24に示すように、本発明の第2実施形態は第1実施形態の変形例である。
【0111】
(設計原理)
第2実施形態の設計原理について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0112】
(1) 光学素子部と視認領域との関係
(1−1) 光学素子部の形状
スクリーン部材2030の各光学素子部2032において凸面状に形成される曲面2032aは、方向zから見た外縁形状として、図20に示すように六角形状を呈している。ここで、曲面2032aの外縁形状を規定する六角形状とは、Nを3としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向O1、O2、O3の数がNによって表される多角形状である。さらに図21〜23に示すように、各光学素子部2032の曲面2032aは、各対向方向O1、O2、O3に沿う縦断面においてそれぞれ、曲率半径R1、R2、R3を有している。ここで、各光学素子部32に関する対向方向O1は、スクリーン部材30の水平方向x及び車両1の水平方向と実質一致している。一方、各光学素子部32に関する対向方向O2、O3は、垂直方向yが車両1の鉛直方向に対して傾いた又は実質一致したスクリーン部材2030のxy平面上にて、直角以外の角度で水平方向xに交差している。
【0113】
こうした曲面2032aの外縁を隣同士で重ねてなる各光学素子部2032は、図20〜23に示すように、対向方向O1では一定のピッチP1にて、且つ対向方向O2では一定のピッチP2にて、さらに対向方向O3では一定のピッチP3にて格子状に並んでいる。ここで各ピッチP1、P2、P3は、各光学素子部2032において曲面2032aの外縁形状を相異なる内角の六角形状とする相異値であってもよいし、あるいは当該外縁形状を正多角形状にする同一値であってもよい。なお、ピッチP1、P2、P3については、図20に示すように、各光学素子部2032の外縁形状を規定する六角形状において各方向O1、O2、O3に平行な二辺同士の幅によって表すことができ、また図21〜23に示すように、各方向O1、O2、O3に隣り合う光学素子部2032同士の中心間距離によっても表すことができる。
【0114】
(1−2) 視認領域の形状
図24に示すように視認領域2060の外縁形状は、各光学素子部2032に対応する形状として、各対向方向O1、O2、O3にそれぞれ幅D1、D2、D3を有する六角形状となる。即ち、視認領域2060の外縁形状を規定する六角形状についても、Nを3としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向O1、O2、O3の数がNによって表される多角形状となっている。ここで、視認領域2060に関する対向方向O1は、車両1の水平方向と実質一致している。一方、視認領域2060に関する対向方向O2、O3は、車両1の鉛直面上にて、直角以外の角度で水平方向と交差している。
【0115】
こうした視認領域2060として、特に図24に示す第2実施形態では、視認者が両眼により視認可能な領域として、水平方向xに沿う対向方向O1の幅D1が他の方向O2、O3の幅D2、D3よりも大きな六角形状の領域を、確保している。ここで対向方向O1の幅D1は、例えば80〜200mmの範囲、好ましくは130mmに確保される。一方、対向方向O2、O3の各幅D2、D3は、例えば70〜180mmの範囲、好ましくは114mmに、それぞれ確保される。なお、第2実施形態の視認領域2060についても、凹面鏡42の揺動範囲ではアイリプス62内へと入るように、想定されている。
【0116】
(1−3) 光学素子部の拡散角と視認領域との関係
図21〜23に示すように各光学素子部2032は、レーザスキャナ10から投射されるレーザ光の光束を反射することで、当該光束の拡散作用を、各対向方向O1、O2、O3毎にそれぞれ拡散角θs1、θs2、θs3の角度域で発揮する。なお、レーザスキャナ10からの光束強度に応じた拡散角θs1、θs2、θs3の定義については、第1実施形態に準じたものとなる。また、こうした拡散角θs1、θs2、θs3にて各光学素子部2032により拡散される光束は、第2実施形態においても視認領域2060の全域へと入射するように、それら拡散角θs1、θs2、θs3が第1実施形態に準じて調整されることになる。
【0117】
(2) ピッチの設定
(2−1) ピッチの下限値
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、各方向x、yの物理量Pn、Dn、Δdn、θdn、θsn、Mn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3の物理量Pn、Dn、Δdn、θdn、θsn、Mn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、図20〜24に示す各光学素子部2032のピッチPnを各対向方向O1、O2、O3毎に設定する数式1に従うことで、回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となり、虚像70のぼやけが抑制される。
【0118】
(2−2) ピッチの上限値
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、各方向x、yの物理量Pn、Vpn、Mn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3の物理量Pn、Vpn、Mn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、図20〜24に示す各光学素子部2032のピッチPnを各対向方向O1、O2、O3毎に設定する数式2に従うことで、各虚像点72のピッチVpnが分解能Re以下となり、各光学素子部2032の外縁形状の分離視認が抑制される。
【0119】
なお、(2−1)、(2−2)の設計原理に従うピッチPnの数値として、対向方向O1のピッチP1は、例えば50μm〜200μmの範囲、好ましくは100μmに設定される一方、対向方向O2、O3のピッチP2、P3は、例えば45μm〜180μmの範囲、好ましくは90μmに設定される。
【0120】
(3) 光学素子部の曲率半径
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、図21〜図23に示す各方向x、yの物理量Rn、Pn、θan、θsn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3のRn、Pn、θan、θsn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、拡散光束を視認領域2060の全域へと入射させる拡散角θsnと曲面2032aの曲率半径Rnとの関係を各対向方向O1、O2、O3毎に表した数式3に従うことで、ぼやけの抑制機能を損なわない当該半径Rnが設定される。なお、こうした曲率半径Rnの数値として、各対向方向O1、O2、O3のR1、R2、R3はいずれも、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは0.4mmに設定される。
【0121】
(作用効果)
以上説明した構成から、第2実施形態によっても、第1実施形態に準じた作用効果の発揮が可能となる。
【0122】
(その他の実施形態)
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明したが、本発明は、それら実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0123】
具体的に変形例1では、HUD装置100を作動させる時期を夜間に限るのであれば、瞳孔径φpとして、昼間に対する光量の減少により視認者の瞳孔が大きくなる夜間の瞳孔径のうち最小値、例えば7〜8mmを採用してもよい。
【0124】
変形例2では、各光学素子部32、2032の外縁形状を適宜変更してもよい。例えば、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが第1及び第2実施形態よりも多い4以上の多角形状に、各光学素子部32、2032の外縁形状を変更してもよい。
【0125】
変形例3では、両眼による視認領域60、2060の外縁形状を適宜変更してもよい。例えば第1実施形態では、視認領域60の外縁形状として、四角形状のうち、水平方向x及び垂直方向yの各幅D1、D2が同一の正方形状の他、水平方向xの幅D1よりも垂直方向yの幅D2が大きい長方形状を採用してもよい。あるいは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが第1及び第2実施形態よりも多い4以上の多角形状に、視認領域60、2060の外縁形状を変更してもよい。
【0126】
変形例4では、図25に示すように、視認領域3060を片眼ずつ確保してもよい。この変形例4では、片眼のアイポイント61にそれぞれ対応する各視認領域3060の外縁形状として、四角形状のうち、水平方向x及び垂直方向yの各幅D1、D2が同一となる正方形状の他、水平方向xの幅D1よりも垂直方向yの幅D2が大きい乃至は小さい長方形状を採用してもよい。ここで特に、水平方向xの幅D1については、例えば40〜100mmの範囲、中でも65mmに確保することが好ましく、また垂直方向yの幅D2については、例えば30〜200mmの範囲、中でも50mmに確保することが好ましい。あるいは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが図25よりも多い3以上の多角形状に、視認領域3060の外縁形状を変更してもよい。さらに、こうした形状の視認領域3060を片眼ずつ確保する場合には、レーザスキャナ10、スクリーン部材30、2030及び光学系40の組を、右眼用と左眼用とで一組ずつハウジング50内に設け(図示はしない)、各視認領域3060にて視認される虚像70の視差を利用することで、奥行きのある3D表示を実現してもよい。
【0127】
変形例5では、第1及び第2実施形態で説明した設計原理のうち、(2−2)及び(3)の少なくとも一方については、必ずしも考慮しなくてもよい。即ち、数式2及び数式3の少なくとも一方を考慮しないで、各光学素子部32、2032を設計してもよい。
【0128】
変形例6では、表示画像71の各構成画素に対して各光学素子部32、2032を、1対1以外の比率で対応させてもよい。例えば、表示画像71の一画素に複数の光学素子部32、2032を対応させることで、それら光学素子部32、2032により拡散された光束が結像してなる複数の虚像点72から、虚像70の一画素を構成してもよい。
【0129】
変形例7では、透光性の材料から形成された透過型のスクリーンをスクリーン部材30、2030に用いて、各光学素子部32、2032をマイクロレンズとして形成してもよい。この変形例7では、図26(同図は第1実施形態の変形例7)に示すように、スクリーン部材30、2030の走査面31の反対側からレーザ光の光束を投射することにより、当該部材30、2030を透過した光束を、走査面31の各光学素子部32、2032から出射させることになる。
【0130】
変形例8では、図27(同図は第1実施形態の変形例8)に示すように、光学系40(凹面鏡42)を設けないで、各光学素子部32、2032により拡散された光束を直接に、投影面91へと投射してもよい。なお、上述した変形例7においても、図26に示すように、各光学素子部32、2032により拡散された光束を直接に、投影面91へ投射させている。
【0131】
変形例9では、光学系40の構成要素として、凹面鏡42に代えて又は加えて、凹面鏡42以外の光学要素を採用してもよい。
【0132】
変形例10では、「投射器」であるレーザスキャナ10のMEMS3026として、図28(同図は第1実施形態の変形例10)に示すように、導光部20から投射されるレーザ光を反射する反射面3027bを備えた二軸スキャナ3027を、一つ設けて、鉛直方向の回転軸3027a1及び垂直方向の回転軸3027a2まわりに、当該スキャナ3027を回転駆動してもよい。この変形例10では、集光レンズ25から入射して二軸スキャナ3027の反射面3027bにて反射されるレーザ光は、スクリーン部材30、2030に対する投射方向を当該スキャナ3027の二軸回転に応じて切り替えられることで、表示画像71を走査面31に描画する。
【0133】
変形例11では、スクリーン部材30、2030の走査面31に光束を投射して表示画像71を描画することが可能であれば、種々の構成の「投射器」をレーザスキャナ10に代えて採用してもよい。例えば、Liquid crystal on silicon(LCOS:登録商標)乃至はDigital Mirror Device(DMD)を備えた所謂プロジェクタを、「投射器」として用いてもよい。
【0134】
ここで、シリコン製基板と透光性基板との間に液晶層を挟み込んでなるLCOSは、液晶層に複数の画素を配列して形成していると共に、液晶駆動回路及び光束反射用の電極をシリコン製基板に有している。LCOSにおいて、LED等の可視光光源乃至はレーザ光源から透光性基板に入射される光束は、液晶層を通過してシリコン製基板の電極により反射されることで、外部へと出射される。故に、LCOSにおいて液晶層の各画素で表示画像71を形成することによれば、当該画像71となる光束をスクリーン部材30、2030に対して投射可能となる。
【0135】
一方、基板上に多数の微小鏡面を配列してなるDMDは、微小鏡面のそれぞれにより一画素を形成していると共に、各微小鏡面の傾斜角度を制御信号に基づいて変更可能としている。DMDにおいて、LED等の可視光光源乃至はレーザ光源から入射される光束は、各微小鏡面により反射されることから、それら各微小鏡面の傾斜角度を制御することで、表示画像71となる光束が出射される。したがって、DMDからの出射光束をスクリーン部材30、2030に投射することで、表示画像71の描画が可能となる。
【0136】
変形例12では、投影面91を形成する「表示部材」として、ウインドシールド90以外の要素を採用してもよく、例えば、ウインドシールド90の室内側の面に貼りつけた又はウインドシールド90とは別体に形成されたコンバイナ等を、採用してもよい。
【0137】
変形例13では、車両1以外の船舶乃至は飛行機等の各種移動体(輸送機器)に、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 車両、10 レーザスキャナ、13 光源部、14、15、16 レーザ投射部、20 導光部、21 コリメートレンズ、22、23、24 ダイクロイックフィルタ、25 集光レンズ、26、3026 微小電気機械システム(MEMS)、27 水平スキャナ、28 鉛直スキャナ、29 コントローラ、30、2030 スクリーン部材、31 走査面、32、2032 光学素子部、32a、2032a 曲面、40 光学系、42 凹面鏡、50 ハウジング、60、2060、3060 視認領域、61 アイポイント、62 アイリプス、70 虚像、71 表示画像、72 虚像点、74 ランドルト環、74a 切れ目、80 インストルメントパネル、90 ウインドシールド、91 投影面、92 反射点、100 ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置、3027 二軸スキャナ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体の投影面に表示画像を投影することにより、当該表示画像の虚像を移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表示画像となる光束をスクリーン部材で拡散して、拡散された当該光束を移動体の投影面に投影することにより、表示画像の虚像表示を実現するヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD装置」という)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3に開示されるHUD装置のスクリーン部材は、入射光束を透過又は反射により拡散する微小な光学素子部を、格子状に複数並べた光学部材である。ここで光学素子部は、透過の場合にはマイクロレンズ、また反射の場合にはマイクロミラーと一般に呼ばれており、その外縁形状は、特許文献1では円形、特許文献2では六方稠密状、特許文献3では四角形状(矩形状)となっている。
【0004】
こうしたスクリーン部材の光学素子部は、特許文献1〜3では表面が曲面となっており、入射した光束を当該曲面によって所定の拡散角で拡散する。その結果、光学素子部から所定の拡散角で拡散して投影面に投影される表示画像の光束は、移動体の室内において視認者の眼の周囲に導かれる。このとき、光学素子部から拡散する光束の形状は、当該光学素子部の外縁形状に対応した形状となる。これにより、視認者の眼の周囲において光束が導かれる領域の形状も、光学素子部の外縁形状に対応した形状となるので、当該導光領域内では、視認者のアイポイントが移動しても表示画像の虚像の視認が可能となる。即ち、この導光領域が、移動体室内の視認者により表示画像の虚像を視認可能とする視認領域となる。
【0005】
さて、特許文献3には、各光学素子部の幅及び高さを変えることにより、幅方向の拡散光の拡がり角と高さ方向の拡散光の拡がり角とを個別に制御可能となることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128659号公報
【特許文献2】特開2010−145746号公報
【特許文献3】特開平7−270711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者らは、各光学素子部の幅と高さとを実際に変えてみた。その結果、所定の幅と高さとの関係では、乗員が認識する表示画像の虚像にぼやけが発生してしまうという現象を、発見したのである。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記ぼやけの発生を抑制することができるHUD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、鋭意研究を行ったところ、表示画像の虚像がぼやける現象は、視認領域へと入射する光束の回折幅が所定の値をとることを境に顕著となることが、判明した。さらに、ぼやけの発生現象が所定の値を境に顕著となる理由について、検討を重ねたところ、表示画像の虚像がぼやける現象は、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値が視認者の瞳孔に入ったり入らなかったりすることに起因して発生する輝度ムラが原因であり、上記所定の値は視認者の瞳孔径であることが、判明したのである(例えば、図13(a)、(b)参照)。
【0010】
そこで、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が視認者の瞳孔径以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0011】
このような本発明のスクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光(例えば0次光と1次光等)について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0012】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状と視認領域の外縁形状とは、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状であり、投射器から投射される光束の波長をλ、瞳孔径をφp、視認領域の各対向方向の幅をDn(n=1〜N)、各光学素子部により拡散されて視認領域の各対向方向の幅全域に亘って入射する光束の拡散角をθsn(n=1〜N)としたとき、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式1
【数1】
を満足する値である。
【0013】
このような特徴によると、各光学素子部と視認領域とは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向(以下、解決手段の欄では、単に「対向方向」ともいう)の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状を、それぞれ外縁に有する。そこで各対向方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅Dn全域へと入射させるように、各光学素子部の拡散角θsnを設定する。これにより、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときの回折幅は、幅Dn×回折角/拡散角θsnの乗除演算式にて各対向方向毎に表されることとなる。
【0014】
ここで各対向方向において、ピッチPnの格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるときには、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチPnを引数とする逆正弦関数式にて表される。そしてこのとき、いずれかの対向方向において回折幅が瞳孔径φpを超えていると、各回折光の入射箇所では、視認者の感じる輝度が明るくなるが、それら回折光と回折光との間では、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、虚像にぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0015】
そこで、上記逆正弦関数式で表される回折角が上記乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式1を満足させるピッチPnを、各対向方向毎に設定する。これにより、各回折光の入射箇所とその間とで視認者の感じる輝度には、明暗のムラが生じ難くなるので、虚像にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できるのである。
【0016】
なお、瞳孔径φpとしては、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、例えば移動体室内への太陽光の入射により瞳孔周囲の光量が増大する昼間の瞳孔径の他、当該昼間に対する光量の減少により瞳孔が大きくなる夜間の瞳孔径等を、採用可能である。
【0017】
また、本発明のさらなる特徴では、投射器は、単一波長レーザ光の複数色を光束として投射し、波長λは、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長である。
【0018】
このような特徴によると、各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する複数色の単一波長レーザ光については、ピーク波長を中心とする波長幅が限りなく小さいことから、各回折光の入射箇所とその間とで輝度ムラが生じる従来構成の場合には、当該輝度ムラが顕著となる。しかし、各色レーザ光のピーク波長のうち最大波長が数式1の波長λであることによれば、全色レーザ光についての回折幅が瞳孔径φp以下に抑えられて、視認者の感じる輝度ムラが確実に生じ難くなる。故に、表示画像となる光束として、従来では虚像のぼやけを誘引し易い単一波長レーザ光の利用にあっても、当該ぼやけの抑制を達成できるのである。
【0019】
さて、視認領域での虚像のぼやけを抑制するように各光学素子部のピッチを設定した場合、当該設定ピッチが大きくなると、各光学素子部による拡散光束がそれぞれ虚像として結像してなる虚像点のピッチも、同様に大きくなる。こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、各虚像点のピッチが視認者の眼の分解能を超えた場合、各光学素子部の外縁形状は、互いに分離した虚像として視認されてしまうことが、見出されたのである。なお、ここで眼の分解能とは、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲において、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の角度のうち、最小角度により表される。
【0020】
そこで、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束がそれぞれ虚像として結像してなる虚像点(72)のピッチを、視認者の眼の分解能以下とするように、各光学素子部のピッチが設定されている。
【0021】
このような特徴によると、各光学素子部の拡散光束が結像してなる虚像点のピッチは、それら各光学素子部のピッチの設定により、視認者の眼の分解能以下となる。その結果、視認領域では、各光学素子部の外縁形状が互いに分離した虚像として視認され難くなる。故に、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、抑制できるのである。
【0022】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束が投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、各虚像点のピッチは、光学系により、各光学素子部のピッチに対して拡大される。
【0023】
このような特徴によると、各光学素子部の拡散光束が投影面に到達するまでの光路上にて光学系は、各虚像点のピッチを各光学素子部のピッチに対して拡大させることになる。しかし、拡大される各虚像点のピッチであっても、視認者の眼の分解能以下となるので、各光学素子部の外縁形状は分離視認され難くなる。したがって、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0024】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、移動体の表示部材(90)の投影面に拡散光束が到達するまでの光路上には、光学系が設けられ、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の各対向方向における拡大率をMn(n=1〜N)、視認領域から虚像までの距離をL、視認者の眼の分解能をReとしたとき、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式2
【数2】
を満足する値である。
【0025】
このような特徴によると、各光学素子部は、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状を、外縁に有する。ここで各対向方向においては、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により各虚像点のピッチが、各光学素子部のピッチPnに対する拡大率Mnにて拡大されることになる。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチPn×拡大率Mnにて表されるピッチを、眼の分解能Re以下とするように、数式2を満足させるピッチPnを、各対向方向毎に設定する。このとき、距離L、拡大率Mn及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式2に代入されることで、ピッチPnの上限値設定を実現し得る。故に、各光学素子部の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0026】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部(32、2032)において曲面の曲率半径は、各光学素子部により拡散されて視認領域の全域に亘って入射する光束の拡散角に基づき、設定されている。
【0027】
このような特徴によると、虚像のぼやけを抑制するようにピッチの設定された各光学素子部では、それぞれの素子部による拡散光束を視認領域の全域へと入射させる拡散角に対して、曲面の曲率半径が一義的に決まる。そこで、各光学素子部の拡散角に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径を設定できるのである。
【0028】
また、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、各光学素子部により拡散されて視認領域の各対向方向の幅全域に亘って入射する光束の拡散角をθsn(n=1〜N)、格子状に配列される各光学素子部の各対向方向におけるピッチをPn(n=1〜N)としたとき、各光学素子部において曲面の各対向方向の曲率半径Rn(n=1〜N)は、以下の数式3
【数3】
を満足する値である。
【0029】
このような特徴によると、各光学素子部は、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状を、外縁に有する。ここで各対向方向においては、ピッチPnの設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θsnと共に、曲面の曲率半径Rnが数式3を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式3に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径Rnを、各対向方向毎に設定できるのである。
【0030】
さて、上記瞳孔径に相当する所定の値は、好ましくは、視認者の昼間における最小瞳孔径を代表値として、選定することができる。そこで、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が2mm以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0031】
このような本発明のスクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、2mm以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、2mm以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0032】
さらに本発明は、移動体(1)の表示部材(90)に形成される投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内の視認者が虚像を視認可能な領域として外縁形状が四角形状の視認領域(60、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30)とを、備え、スクリーン部材は、入射する光束を視認領域に向けて拡散するように表面が曲面(32a)を形成し、かつ外縁形状が四角形状となる光学素子部(32)を複数有し、それら各光学素子部が格子状に配列されることにより形成されており、投射器から投射される光束の波長をλ、視認者の瞳孔径をφp、水平方向における視認領域の幅をD1、水平方向に垂直な方向を垂直方向として当該垂直方向における視認領域の幅をD2、各光学素子部によって拡散される光束が視認領域の水平方向の幅D1全域に亘って入射するときの光束の拡散角をθs1、各光学素子部によって拡散される光束が視認領域の垂直方向の幅D2全域に亘って入射するときの光束の拡散角をθs2としたとき、水平方向において各光学素子部のピッチP1は、以下の数式4
【数4】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部のピッチP2は、以下の数式5
【数5】
を満足する値であることを特徴とする。
【0033】
このような本発明のスクリーン部材によると、各光学素子部と視認領域とは、互いに対応する四角形状を、それぞれ外縁に有する。そこで、四角形状の水平方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅D1全域に入射させるように、各光学素子部の拡散角θs1を設定する。これにより水平方向では、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときのそれら回折光の間隔である回折幅は、水平方向の幅D1×水平方向の回折角/水平方向の拡散角θs1という乗除演算式にて表される。また、四角形状において水平方向に垂直な垂直方向では、各光学素子部による拡散光束を、対応する視認領域の幅D2全域に入射させるように、各光学素子部の拡散角θs2を設定する。これにより垂直方向では、隣接次数の回折光が視認領域へ入射したときのそれら回折光の間隔である回折幅は、垂直方向の幅D2×垂直方向の回折角/垂直方向の拡散角θs2という乗除演算式にて表される。
【0034】
ここで水平方向では、ピッチP1の格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるとき、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチP1を引数とする逆正弦関数式にて表される。また垂直方向では、ピッチP2の格子状に配列される光学素子部に波長λの光束が入射されるとき、当該光学素子部により拡散されて視認領域へと向かう隣接次数の回折光間の回折角は、波長λ/ピッチP2の逆正弦関数式にて表される。そして、こうした水平方向及び垂直方向のいずれかにおいて、視認領域への入射光束の回折幅が視認者の瞳孔径φpを超えていると、各回折光の入射箇所では、視認者の感じる輝度が明るくなるが、それら回折光と回折光との間では、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、虚像にぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0035】
そこで水平方向では、前者の逆正弦関数式で表される回折角が前者の乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式4を満足させるピッチP1を設定する。また垂直方向では、後者の逆正弦関数式にて表される回折角が後者の乗除演算式に代入されて求められる回折幅を、瞳孔径φp以下とするように、数式5を満足させるピッチP2を設定する。これらピッチP1、P2の設定により、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、各回折光の入射箇所とその間とで視認者の感じる輝度には、明暗のムラが生じ難くなるので、虚像にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できるのである。
【0036】
なお、瞳孔径φpについては、先に説明した発明と同様に、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、例えば昼間の瞳孔径の他、夜間の瞳孔径等に設定可能である。
【0037】
上述した数式4、5に従う場合、虚像のぼやけを抑制するためにピッチP1、P2を設定することになるが、それら設定ピッチP1、P2が大きくなると、各光学素子部による拡散光束がそれぞれ結像してなる虚像点のピッチも、同様に大きくなる。こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、各虚像点のピッチが視認者の眼の分解能を超えた場合、各光学素子部の外縁形状は、互いに分離した虚像として視認されることが、見出されたのである。特に、各光学素子部による拡散光束の光路上に光学系が設けられている場合、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により拡大される各虚像点のピッチは、視認者の眼の分解能を超えて各光学素子部の外縁形状を分離視認させ易くする。なお、ここで眼の分解能とは、先に説明した発明と同様に、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲にて、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の最小角度で表される。
【0038】
そこで、本発明のさらなる特徴では、各光学素子部により拡散された光束が表示部材に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の水平方向における拡大率をM1、光学系が単独により又は表示部材との共同により拡大する拡散光束の垂直方向における拡大率をM2、視認領域から虚像までの距離をL、視認者の眼の分解能をReとしたとき、水平方向において各光学素子部のピッチP1は、以下の数式6
【数6】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部のピッチP2は、以下の数式7
【数7】
を満足する値である。
【0039】
このような特徴によると、各光学素子部による拡散光束が虚像として結像してなる虚像点のピッチは、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により水平方向では、各光学素子部のピッチP1に対する拡大率M1にて拡大される。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチP1×拡大率M1にて表される各虚像点のピッチを視認者の眼の分解能Re以下とするように、数式6を満足させるピッチP1を設定する。このとき、距離L、拡大率M1及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式6に代入されることで、ピッチP1の上限値設定を実現し得る。
【0040】
また、各光学素子部により拡散された光束が虚像として結像してなる虚像点のピッチは、光学系単独又は光学系及び表示部材の共同により垂直方向では、各光学素子部のピッチP2に対する拡大率M2にて拡大される。そこで、視認領域から距離Lにある虚像の各虚像点では、ピッチP2×拡大率M2にて表される各虚像点のピッチを視認者の眼の分解能Re以下とするように、数式7を満足させるピッチP2を設定する。このとき、距離L、拡大率M2及び分解能Reはいずれも、予設定されて数式7に代入されることで、ピッチP2の上限値設定を実現し得る。
【0041】
以上によれば、各光学素子部の外縁形状が互いに分離した虚像として視認され難くなるので、虚像の表示品質の低下を抑制できるのである。
【0042】
上述した数式4〜7のうち、少なくとも数式4、5に従ってピッチP1、P2の設定された各光学素子部に関して、拡散角θs1、θs2での拡散光束を視認領域の全域に現実に入射させるには、それら各光学素子部の曲面の曲率半径を求める必要がある。
【0043】
そこで、本発明のさらなる特徴では、水平方向において各光学素子部の曲面の曲率半径R1は、以下の数式8
【数8】
を満足する値であり、垂直方向において各光学素子部の曲面の曲率半径R2は、以下の数式9
【数9】
を満足する値である。
【0044】
このような特徴によると、水平方向では、ピッチP1の設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θs1と共に、曲面の曲率半径R1が数式8を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式8に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径R1を、水平方向において設定できる。また垂直方向では、ピッチP2の設定された各光学素子部に関して、拡散光束を視認領域全域に入射させる拡散角θs2と共に、曲面の曲率半径R2が数式9を満足する値となることで、虚像のぼやけの抑制が可能となる。故に、数式9に基づくことによれば、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径R2を、垂直方向においても設定できるのである。
【0045】
さて、本発明は、移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、表示画像の虚像(70)を移動体の室内から視認可能に表示するHUD装置において、室内において視認者が虚像を視認可能な領域を視認領域(60、2060、3060)として、投射器(10)から投射されて表示画像となる光束を視認領域へ導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材であって、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅が視認者の瞳孔径以下となるように、各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする。
【0046】
このような本発明としてのHUD装置用スクリーン部材によると、格子状配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、それら各光学素子部のピッチ設定により、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【0047】
さらに本発明は、表示画像(71)の虚像(70)を移動体(1)の室内から視認可能に表示するために、前記移動体の投影面(91)に前記表示画像を投影する画像投影方法であって、表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、室内において視認者が虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材として、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)の表面は、入射する光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成するスクリーン部材(30、2030)とを、用い、所定のピッチで配列される各光学素子部により拡散されて視認領域へ入射する光束の回折幅を、視認者の瞳孔径以下に調整することを特徴とする。
【0048】
このような本発明としての画像投影方法によると、格子状配列のうち所定ピッチ配列の各光学素子部で拡散されて視認領域へと入射する光束の回折幅は、視認者の瞳孔径以下となる。これにより、各光学素子部で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイントの移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径以下の回折幅にて隣接する隣接次数の回折光について、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域では、表示画像となる光束が入射することで視認される虚像のぼやけを、抑制できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態によるHUD装置の車両への搭載状態を示す模式図である。
【図2】第1実施形態によるHUD装置の構成を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態によるHUD装置の表示状態を示す正面図である。
【図4】第1実施形態によるHUD装置の構成を示す模式図である。
【図5】第1実施形態によるスクリーン部材の構成例(a)、(b)を示す部分正面図である。
【図6】第1実施形態によるスクリーン部材を部分的に示す斜視図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線断面図である。
【図9】第1実施形態による視認領域を拡大して示す模式図である。
【図10】図7、8の各光学素子部の拡散角と、各光学素子部による光束の反射強度との関係について、一例を示すグラフである。
【図11】図7、8の各光学素子部の拡散角と、各光学素子部による光束の反射強度との関係について、別の例を示すグラフである。
【図12】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図13】第1実施形態に対する比較例の課題を説明するための模式図である。
【図14】図13の比較例に対する第1実施形態の特徴を説明するための模式図である。
【図15】第1実施形態に対する比較例の課題を説明するための模式図である。
【図16】図15の比較例に対する第1実施形態の特徴を説明するための模式図である。
【図17】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図18】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図19】第1実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図20】第2実施形態によるスクリーン部材の構成例を示す部分正面図である。
【図21】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である。
【図22】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図23】第2実施形態による設計原理を説明するための模式図である
【図24】第2実施形態による視認領域を拡大して示す模式図である。
【図25】図9の変形例を示す模式図である。
【図26】図2の変形例を示す正面図である。
【図27】図2の変形例を示す正面図である。
【図28】図4の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0051】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態によるHUD装置100は、「移動体」としての車両1に搭載され、インストルメントパネル80内に収容されている。HUD装置100は、車両1の「表示部材」であるウインドシールド90へ表示画像71を投影する。ここで車両1において、ウインドシールド90の室内側の面は、表示画像71が投影される投影面91を、湾曲する凹面状又は平坦な平面状等に形成している。また、車両1においてウインドシールド90は、室内側の面と室外側の面とで、光路差を抑制するための角度差を有するものであってもよいし、あるいは当該光路差抑制のために蒸着膜乃至はフィルム等を室内側の面に設けたものであってもよい。
【0052】
こうしてウインドシールド90の投影面91に対して表示画像71の光束が投影されると、車両1の室内では、当該投影面91により反射した光束が視認者のアイポイント61に到達する。視認者は、アイポイント61への到達光束を知覚することで、ウインドシールド90の前方に結像された表示画像71の虚像70を、視認可能となる。このとき虚像70の視認は、図2に示す視認者の視認領域60内に、アイポイント61が位置するときに限られる。換言すれば、アイポイント61が視認領域60から外れている場合には、視認者による虚像70の視認が困難となる。
【0053】
以上、投影面91への表示画像71の投影によりHUD装置100は、表示画像71の虚像70を、図3に示すように車両1の室内から視認可能に表示するのである。なお、表示画像71の虚像70としては、例えば図3の如く、車両1の走行速度の指示表示70aや、ナビゲーションシステムによる車両1の進行方向の指示表示70b、車両1に関するウォーニング表示70cが、表示される。
【0054】
(基本構成)
このような虚像70の表示機能を実現するHUD装置100の基本構成を、以下に詳細に説明する。HUD装置100は、図1に示すように、レーザスキャナ10、コントローラ29、スクリーン部材30及び光学系40を、ハウジング50内に備えている。
【0055】
図4に示すように、「投射器」であるレーザスキャナ10は、光源部13、導光部20、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)26を有している。
【0056】
光源部13は、三つのレーザ投射部14、15、16等から構成されている。各レーザ投射部14、15、16は、コントローラ29と電気的に接続されている。各レーザ投射部14、15、16は、コントローラ29からの制御信号に従って、互いに異なる色相の単一波長レーザ光をそれぞれ投射する。具体的にレーザ投射部14は、例えばピーク波長が600〜650nmの範囲、好ましくは640nmである赤色のレーザ光を、投射する。レーザ投射部15は、例えばピーク波長が430〜470nmの範囲、好ましくは450nmである青色のレーザ光を、投射する。レーザ投射部16は、例えばピーク波長が490〜530nmの範囲、好ましくは515nmである緑色のレーザ光を、投射する。このように各レーザ投射部14、15、16から投射される三色のレーザ光を加色混合することで、種々の色の再現が可能となる。
【0057】
導光部20は、三つのコリメートレンズ21、ダイクロイックフィルタ22、23、24及び集光レンズ25等から構成されている。各コリメートレンズ21は、それぞれ対応するレーザ投射部14、15、16に対して、レーザ光の投射側に例えば0.5mmの間隔をあけて配置されている。各コリメートレンズ21は、対応するレーザ投射部14、15、16からのレーザ光を屈折させることにより、当該レーザ光を平行光にコリメートする。
【0058】
各ダイクロイックフィルタ22、23、24は、それぞれ対応するコリメートレンズ21に対して、各レーザ投射部14、15、16の投射側に例えば4mmの間隔をあけて配置されている。各ダイクロイックフィルタ22、23、24は、対応するコリメートレンズ21を通過したレーザ光のうち、特定波長のレーザ光を反射し且つそれ以外の波長のレーザ光を透過する。具体的には、レーザ投射部14の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ22は、赤色のレーザ光を透過し、それ以外の色のレーザ光を反射する。レーザ投射部15の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ23は、青色のレーザ光を反射し、それ以外の色のレーザ光を透過する。レーザ投射部16の投射側に配置されるダイクロイックフィルタ24は、緑色のレーザ光を反射し、それ以外の色のレーザ光を透過する。
【0059】
ここで、ダイクロイックフィルタ24による緑色レーザ光の反射側には、ダイクロイックフィルタ23が例えば6mmの間隔をあけて配置されている。また、ダイクロイックフィルタ23による青色レーザ光の反射側且つ緑色レーザ光の透過側には、ダイクロイックフィルタ22が例えば6mmの間隔をあけて配置されている。さらに、ダイクロイックフィルタ23の赤色レーザ光の透過側且つ青色レーザ光及び緑色レーザ光の反射側には、集光レンズ25が例えば4mmの間隔をあけて配置されている。これら配置形態により本実施形態では、ダイクロイックフィルタ22を透過した赤色のレーザ光と、ダイクロイックフィルタ23、24によりそれぞれ反射された後にダイクロイックフィルタ22により反射された青色及び緑色のレーザ光が、集光レンズ25へと入射されて混色される。
【0060】
集光レンズ25は、平面状の入射面及び凸面状の出射面を有する平凸レンズである。集光レンズ25は、入射面へ入射したレーザ光の屈折より、当該入射光を集束させる。その結果、集光レンズ25を通過したレーザ光は、MEMS26に向かって出射される。
【0061】
MEMS26は、水平スキャナ27、鉛直スキャナ28及び駆動部(図示しない)等から構成されている。水平スキャナ27において、中心部が集光レンズ25に対して例えば5mmの間隔をあけて対向する面には、アルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状の反射面27bが形成されている。水平スキャナ27は、車両1における鉛直方向の回転軸27aまわりに回転可能となっている。一方、鉛直スキャナ28において、中心部が水平スキャナ27に対して例えば1mmの間隔をあけて対向する面には、アルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状の反射面28bが形成されている。鉛直スキャナ28は、車両1における水平方向の回転軸28aまわりに回転可能となっている。MEMS26の駆動部は、電気的に接続されたコントローラ29からの駆動信号に従って、水平スキャナ27及び鉛直スキャナ28をそれぞれ個別に回転駆動する。
【0062】
ここで、レーザスキャナ10の最終段を構成する鉛直スキャナ28の中心部は、スクリーン部材30の走査面31に対して、例えば100mmの間隔をあけて配置されている。こうした配置形態の本実施形態では、集光レンズ25から入射して各スキャナ27、28の反射面27b、28bで順次反射されたレーザ光が、表示画像71となる光束としてスクリーン部材30に投射される。
【0063】
コントローラ29は、プロセッサ等から構成される制御回路である。コントローラ29は、各レーザ投射部14、15、16に制御信号を出力することにより、レーザ光を断続的にパルス投射する。それと共に、コントローラ29は、MEMS26の駆動部に駆動信号を出力することにより、走査面31に対するレーザ光の投射方向を、複数の走査線SLに沿った図4の矢印方向へ順次変化させる。以上の制御の結果、レーザ光により走査される走査面31にて図5の如くスポット状に発光する領域33が移動していくことで、表示画像71が描画されることになる。こうして走査面31に描画される表示画像71は、例えば、水平方向xに480画素且つ垂直方向yに240画素を有する画像として、走査面31に毎秒60フレーム描画される。
【0064】
図5、6に示すようにスクリーン部材30は、樹脂基材乃至はガラス基材の表面にアルミニウムを蒸着させること等により形成された、反射型のスクリーンである。スクリーン部材30は、車両1においてレーザスキャナ10よりも上方に配置されている(図1、2参照)。スクリーン部材30において走査面31は、当該部材30表面へのアルミニウムの金属蒸着等により、薄膜状に形成されている。走査面31には、レーザスキャナ10からの光束としてレーザ光が投射されることで、表示画像71が描画される。
【0065】
ここで走査面31には、水平方向x及び垂直方向yにて格子状に配置されるマイクロミラーとして、複数の光学素子部32が形成されている。各光学素子部32は、スクリーン部材30において全て一体物として形成されているが、別体に形成されてスクリーン部材30の本体に保持されていてもよい。こうした各光学素子部32は、走査面31に投射されたレーザ光の光束を反射することで、当該光束を所定の角度で拡散させる。また、表示画像71の各構成画素に対して各光学素子部32が1対1にて対応する本実施形態では、レーザ光がスポット状に入射する図5の領域33内に少なくとも一つの光学素子部32が収まるように、図4の走査線SLがコントローラ29によって制御される。なお、レーザ光が投射される領域33の直径φaは、後に詳述する各光学素子部32のピッチを考慮して、例えば70〜400μmの範囲に設定される。
【0066】
図1、2に示すように光学系40は、凹面鏡42及び駆動部(図示しない)を有している。凹面鏡42は、樹脂基材乃至はガラス基材の表面にアルミニウムを蒸着させること等により、形成されている。凹面鏡42は、各光学素子部32により拡散された光束をウインドシールド90の投影面91へと向かって反射するように、反射面42aを形成している。本実施形態の反射面42aは、走査面31及び投影面91から遠ざかる方向に中心部が凹む凹面として、滑らかな曲面状に形成されている。かかる形状により反射面42aは、走査面31からの拡散光束を拡大して反射可能となっている。それと共に反射面42aは、図1に示す水平方向の揺動軸42bまわりに、揺動可能となっている。
【0067】
光学系40の駆動部は、電気的に接続されたコントローラ29からの駆動信号に従って、凹面鏡42を揺動駆動する。こうして凹面鏡42が揺動することで、虚像70の結像位置が上下すると、当該虚像70を視認者により視認可能な図2の視認領域60も、上下することになる。
【0068】
(設計原理)
次に、第1実施形態の設計原理について、詳細に説明する。
【0069】
(1) 光学素子部と視認領域との関係
(1−1) 光学素子部の形状
図6〜8に示すように各光学素子部32の表面は、その一つ一つがレーザスキャナ10に向かう方向z(図2参照)へ突出することで、曲面32aを、本実施形態では円弧面乃至は二次曲面等の凸面状に形成しているが、凹面状に形成してもよい。各光学素子部32の曲面32aは、水平方向xに沿う縦断面において曲率半径R1、また当該方向xに垂直な垂直方向yに沿う縦断面において曲率半径R2を、それぞれ有している。なお、図2に示すように、スクリーン部材30及びその各構成素子部32に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致している。一方、スクリーン部材30及びその各構成素子部32に関する垂直方向yは、本実施形態では車両1の鉛直方向に対して傾いているが、鉛直方向と実質一致していてもよい。
【0070】
図5に示すように各光学素子部32の曲面32aは、方向zから見た外縁形状として、四角形状(矩形状)を呈している。ここで、曲面32aの外縁形状を規定する四角形状とは、Nを2としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向x、yの数がNによって表される多角形状である。
【0071】
こうした曲面32aの外縁を隣同士で重ねてなる各光学素子部32は、図5、6に示すように、水平方向xでは一定のピッチP1にて、且つ垂直方向yでは一定のピッチP2にて、格子状に並んでいる。ここで、水平方向xのピッチP1と垂直方向yのピッチP2は、各光学素子部32において曲面32aの外縁形状を正方形状にする同一値(図5(a)参照)であってもよいし、あるいは当該外縁形状を長方形状にする相異値(図5(b)参照)であってもよい。なお、ピッチP1、P2については、図5に示すように、各光学素子部32の外縁形状を規定する四角形状において各方向x、yに平行な二辺同士の幅によって表すことができ、また図6に示すように、各方向x、yに隣り合う光学素子部32同士の中心間距離によっても表すことができる。
【0072】
(1−2) 視認領域の形状
図2、9に示すように視認領域60の外縁形状は、各光学素子部32に対応する形状として、水平方向x及び垂直方向yにそれぞれ幅D1、D2を有する四角形状となる。即ち、視認領域60の外縁形状を規定する四角形状についても、Nを2としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向x、vの数がNによって表される多角形状となっている。なお、視認領域60に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致し、また視認領域60に関する垂直方向yは、車両1の鉛直方向と実質一致している。
【0073】
こうした視認領域60として、特に図9に示す本実施形態では、両眼のアイポイント61による視認に最適な横長のアイボックス領域、即ち垂直方向yの幅D2よりも水平方向xの幅D1が大きな長方形状の領域を、確保している。なお、水平方向xの幅D1は、例えば80〜200mmの範囲、好ましくは130mmに確保される。一方、垂直方向yの幅D2は、例えば30〜200mmの範囲、好ましくは50mmに確保される。
【0074】
また、本実施形態において視認領域60の位置は、図1に示すアイリプス62を考慮して規定されている。ここでアイリプス62とは、車両1の室内のうち、運転席に着座した任意の視認者を想定したときにアイポイント61が存在可能な空間領域を、表している。そこで、凹面鏡42の揺動に応じて上下する視認領域60については、当該揺動の範囲では少なくとも一部がアイリプス62内へ入るように、即ち当該揺動範囲の任意位置にて虚像70を視認可能に想定される。これにより視認領域60は、図2に示すように、投影面91による反射光束の中心光軸上の反射点92から距離K、例えば500〜1000mm離れた位置にて、また虚像70からは距離L、例えば1000〜3000mm離れた位置にて、測定可能となっている。
【0075】
(1−3) 光学素子部の拡散角と視認領域との関係
図7、8に示すように各光学素子部32は、レーザスキャナ10から投射されるレーザ光の光束を反射することで、当該光束の拡散作用を、水平方向xでは拡散角θs1且つ垂直方向yでは拡散角θs2の角度域にて発揮する。ここで、レーザスキャナ10からの光束強度がビーム成形により実質一定となっている場合には、図10の如く反射強度が実質一定の角度域を、拡散角θs1、θs2と定義する。あるいは、レーザスキャナ10からの光束強度がガウス分布している場合には、視認領域60での輝度ムラを抑制するために、図11の如く例えば70%以上の反射強度が確保される角度域を、拡散角θs1、θs2と定義する。
【0076】
こうした拡散角θs1、θs2をもって各光学素子部32により拡散される光束は、図12に示すように、投影面91へ向かう光路上の光学系40(凹面鏡42)と、同面91を形成するウインドシールド90とに順次反射された後、視認領域60へ入射する。このとき、光学系40は単独で又はウインドシールド90と共同して(図12は共同の例)、各光学素子部32による拡散光束を拡大させる。そこで本実施形態では、各光学素子部32による拡散光束が拡大されても、視認領域60の全域へ入射するように、各方向x、yでの拡散角θs1、θs2を調整する。
【0077】
具体的に水平方向xについては、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による拡大率をM1としたとき、視認領域60の幅D1は、2×L×tan(θs1/2)/M1の式にて表される。同様に垂直方向yについては、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による拡大率をM2としたとき、視認領域60の幅D2は、2×L×tan(θs2/2)/M2の式にて表される。ここで各式におけるL/M1、/L/M2は、車両1の仕様等に応じた固定値となるので、これら各式を満たすように拡散角θs1、θs2を調整することで、各光学素子部32による拡散光束を視認領域60の全域へと入射させることが可能になる。
【0078】
なお、拡散角θs1の数値としては、各光学素子部32による拡散光束を幅D1全域へと入射させるように、例えば10度〜50度、好ましくは30度に調整される。一方、拡散角θs2の数値としては、各光学素子部32による拡散光束を幅D2全域へと入射させるように、例えば5度〜50度、好ましくは10度に調整される。
【0079】
(2) ピッチの設定
(2−1) ピッチの下限値
各光学素子部32は、それぞれに投射された光束を拡散することで、図12に示すように、当該拡散光束の回折を生じさせる。その結果、拡散光束の回折光(例えば0次光、1次光等)が視認される視認領域60では、表示画像71の虚像70にぼやけを発生させる事態が、懸念される。
【0080】
そこで、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、表示画像71の虚像70がぼやける現象は、視認領域60へと入射する光束の回折幅が所定の値をとることを境に顕著となることが、判明した。さらに、ぼやけの発生現象が所定の値を境に顕著となる理由について、検討を重ねたところ、表示画像71の虚像70がぼやける現象は、各光学素子部32で拡散された回折光のピーク値が視認者の瞳孔に入ったり入らなかったりすることに起因して発生する輝度ムラが原因であり、上記所定の値は視認者の瞳孔径であることが、判明したのである。以下、こうした知見に基づいて各光学素子部32のピッチP1、P2の下限値を設定する原理につき、隣接次数の回折光のうち0次光及び1次光を代表的に取り上げて、説明する。
【0081】
図12に示すように、レーザスキャナ10からの光束が光学素子部32に入射されて拡散すると、中心光軸に沿った0次光と、この0次光に対して水平方向xに回折角θd1且つ垂直方向yに回折角θd2だけ偏光して進む1次光とが、視認領域60へと向かって進行する。このとき、各方向x、yにおいて0次光及び1次光間の回折角θdn(n=1、2)は、光学素子部32へ入射する光束の波長λと光学素子部32のピッチPn(n=1、2)との比を引数とした逆正弦関数式、即ちsin−1(λ/Pn)により表される。ここで特に、複数色のレーザ光が光学素子部32への入射光束となる本実施形態では、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長、即ち600〜650nmの範囲、好ましくは640nmである赤色レーザ光のピーク波長が、λとして予設定される。
【0082】
また、図12に示すように光学素子部32によって拡散された0次光及び1次光は、水平方向xに回折幅Δd1且つ垂直方向yに回折幅Δd2の間隔をあけて、視認領域60へと入射する。このとき、各方向x、yにおいて光学素子部32の拡散角θsn(n=1、2)は、視認領域60の幅Dn(n=1、2)の全域へと入射するように調整されているので、回折幅Δdn(n=1、2)については、Dn×θdn/θsnの乗除演算式により表すことができる。なお、2×L×tan(θdn/2)/Mnの式によっても表すことができる回折幅Δdnについては、上述の如くL/Mnが固定値であることから、距離Lには依存せず、回折角θdnに依存した物理量となっている。
【0083】
さらに、図13、14に示すように視認領域60へと入射した0次光及び1次光について、入射箇所での強度は、それら0次光及び1次光の間となる箇所での強度に比べて、大きくなる。その結果、いずれかの方向x、yにおいて0次光及び1次光間の回折幅Δdnが視認者の眼の瞳孔径φpを超えていると、0次光又は1次光の入射箇所では、図13(a)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の右上がりハッチングの面積)が確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。また一方、回折幅Δdnが瞳孔径φp超えの場合に0次光と1次光との間では、図13(b)に示すように、それら回折光のピーク値が入らない瞳孔において入射光量(同図の左上がりハッチングの面積)が上記入射箇所での場合よりも減少し、視認者の感じる輝度が暗くなる。したがって、このとき視認者は、視認領域60を通して視認される虚像70に、ぼやけが発生したと認識するおそれがある。
【0084】
以上に対し、いずれの方向x、yでも回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となる場合、0次光又は1次光の入射箇所では、図14(a)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の右上がりハッチングの面積)が確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。また同様に、回折幅Δdnが瞳孔径φp以下の場合に0次光と1次光との間では、図14(b)に示すように、それら回折光のピーク値が入る瞳孔において入射光量(同図の左上がりハッチングの面積)が上記入射箇所での場合と実質的乃至は近似的に等しく確保され、視認者の感じる輝度が明るくなる。したがって、0次光又は1次光の入射箇所とその間のいずれにアイポイント61が移動した場合でも、視認者の感じる輝度に明暗のムラが生じ難くなるので、虚像70にぼやけが発生したと視認者が認識する事態を、抑制できる。
【0085】
こうした知見に基づいて本実施形態では、図14の如く回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となるように、各光学素子部32のピッチPnを各方向x、y毎に設定し、虚像70のぼやけを抑制する。具体的には、上記逆正弦関数式で表される回折角θdnが上記乗除演算式に代入されることで求められる回折幅Δdnを、瞳孔径φp以下とするように、数式1を満足させるピッチPnを設定する。
【数1】
【0086】
なお、数式1の瞳孔径φpとしては、健常な視認者の眼の瞳孔径のうち、太陽光が車両1の室内へ入射することにより瞳孔周囲の光量が10000ルクス程度にまで増大する昼間の瞳孔径に、予設定される(例えば、William Wesley Campbell,Russell N. DeJong,Armin F. Haerer著、「DeJong's The Neurologic Examination」、Lippincott Williams & Wilkins、2005年を参考)。ここで瞳孔径φpの数値としては、上記括弧書きの文献を参考にした例えば2〜6mm、中でも特に、先述した健常者の最小瞳孔径である2mmが好ましい。
【0087】
したがって、このように設定される瞳孔径φpに加えて、上記予設定の波長λと、先の(1)で説明した各光学素子部32の拡散角θsn及び視認領域60の幅Dnとを、数式1に代入することで、虚像70のぼやけ抑制に必要なピッチPnの下限値を、求めることができる。
【0088】
(2−2) ピッチの上限値
上記(2−1)の数式1に従って水平方向xのピッチP1を設定する場合、当該設定ピッチP1が大きくなると、各光学素子部32による拡散光束が虚像70として結像してなる虚像点72の水平方向xのピッチVp1も、図15の如く大きくなる。また同様に、数式1に従って垂直方向yのピッチP2を設定する場合、当該設定ピッチP2が大きくなると、各光学素子部32による拡散光束が虚像70として結像してなる虚像点72の垂直方向yのピッチVp2も、図15の如く大きくなる。ここで本実施形態の虚像点72は、一光学素子部32による拡散光束が結像されることにより、実質的に虚像70の一つの画素を構成している。なお、図2に示すように、各虚像点72に関する水平方向xは、車両1の水平方向と実質一致している。一方、各虚像点72に関する垂直方向yは、本実施形態では車両1の鉛直方向と実質一致しているが、鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0089】
こうした知見の下、本発明者らの鋭意研究の成果によると、図15に示すように、各虚像点72のピッチVpn(n=1、2)のいずれかが視認者の眼の分解能Reを超えた場合、各光学素子部32の外縁形状は、互いに分離した虚像70として視認されることが、見出されたのである。また、特に本実施形態では、図12に示す拡散光束の光路上において、光学系40(凹面鏡42)が単独で又はウインドシールド90と共同して、当該拡散光束を拡大させる。故に各方向x、yにおいては、各光学素子部32のピッチPn(n=1、2)に対して所定の拡大率Mn(n=1、2)で拡大されることになる虚像点72のピッチVpnは、分解能Reを超えて各光学素子部32の外縁形状を分離視認させ易くする。なお、ウインドシールド90の光束拡散作用については、例えば、凹面状の投影面91の場合には発揮される一方、平面状の投影面91の場合には実質的に発揮されないようになっている。また、図15及び後述する図16の各々において、ピッチVpnとピッチPnとの大小関係は、模式的にスクリーン部材30を拡大して示している関係上、実際とは逆の関係となっている。
【0090】
以上のことから本実施形態では、図16の如く拡大率Mnにて拡大された各虚像点72のピッチVpnが眼の分解能Re以下となるように、各光学素子部32のピッチPnを各方向x、y毎に設定し、各光学素子部32の外縁形状の分離視認を抑制する。具体的には、視認領域60から距離Lにある虚像70の各虚像点72では、Pn×Mnにて表されるピッチVpnを分解能Re以下とするように、数式2を満足させるピッチPnを設定する。
【数2】
【0091】
なお、図17に示すように分解能Reは、前方に存在する二点を視認者が個別の点として認識可能となる範囲において、それら各点と視認者の眼とを結ぶ線分間の角度のうち、最小角度Aminによって表されるものである。ここで、分解能Re(最小角度Amin)の数値としては、図17の如き視力指標であるランドルト環74の切れ目74aの角度を用いて、例えば1/90〜1/30度の範囲、好ましくは視力1.0の場合の1/60度に予設定される。
【0092】
また、視認領域60からの虚像70の距離Lは、上記(1−3)で説明した視認領域60を測定可能にする距離として、例えば1000〜3000mmに予設定される。さらに、光学系40の単独又はウインドシールド90との共同による横倍率としての拡大率Mnは、HUD装置100のサイズや車両1の室内サイズ等を考慮して、各方向x、y毎に例えば4〜8倍、好ましくは6倍に予設定される。
【0093】
このように予設定される分解能Re、距離L及び拡大率Mnを、数式2に代入することで、各光学素子部32の外縁形状の分離視認を抑制するように、ピッチPnの上限値を求めることができる。
【0094】
なお、(2−1)、(2−2)の設計原理に従うピッチPnの数値として、水平方向xのP1及び垂直方向yのP2はいずれも、例えば50μm〜200μmの範囲、好ましくは100μmに設定されることとなる。
【0095】
(3) 光学素子部の曲率半径
ピッチP1、P2の設定された各光学素子部32に関して、拡散角θs1、θs2での拡散光束を視認領域60の全域に実際に入射させるには、それら各光学素子部32の曲面32aの曲率半径R1、R2を設定する必要がある。そこで本実施形態では、上記(2−1)、(2−2)の数式1、2を満足するピッチP1、P2を設定後、拡散角θs1、θs2に基づいて曲率半径R1、R2を設定するのである。そこで以下では、曲率半径R1、R2の設定原理を説明する。
【0096】
図18に示す水平方向xにおいて、曲面32aの外縁に対する接線がスクリーン部材30のxy平面(同図の2点鎖線)となす角度は、各光学素子部32にて曲率半径R1を有する曲面32aの最大傾斜角θa1となって、各光学素子部32の拡散角θs1の1/4と実質一致する。また同様に、図19に示す垂直方向yにおいて、曲面32aの外縁に対する接線がスクリーン部材30のxy平面となす角度は、各光学素子部32にて曲率半径R2を有する曲面32aの最大傾斜角θa2となって、各光学素子部32の拡散角θs2の1/4と実質一致する。
【0097】
これらのことから、各方向x、yにおいて最大傾斜角θan(n=1、2)は、拡散角θsn(n=1、2)を用いた分数式であるθsn/4によって、表される。また、各方向x、yにおいて曲率半径Rn(n=1、2)は、最大傾斜角θan及びピッチPn(n=1、2)を用いた関係式であるPn/(2×sin(θan)によって、表される。
【0098】
以上より本実施形態では、上記分数式で表される最大傾斜角θanを上記関係式に代入して求められる曲率半径Rnは、拡散角θsnに対して各方向x、y毎に一義的に決まる。そこで、虚像のぼやけを抑制するピッチPnの設定された各光学素子部32に関して、拡散角θsnと曲率半径Rnとの間に成立する数式3に基づくことで、当該数式3を満足してぼやけの抑制機能を損なわせない曲率半径Rnを、設定する。
【数3】
【0099】
したがって、先の(1)、(2)で説明した各光学素子部32の拡散角θsn及びピッチPnを、数式3に代入することで、ぼやけの抑制機能を損なわない曲率半径Rnを、各光学素子部32の曲面32aに付与することができる。故に、視認領域60の外縁形状を水平方向xに長い横長の四角形状とした本実施形態では、各方向x、yのピッチPnに応じて、各方向x、yの曲率半径Rnの大小関係を調整可能となる。例えば、横長の視認領域60に対して、ピッチP1とピッチP2とが実質同一値(図5(a)参照)に設定される場合においては、曲率半径R1を曲率半径R2よりも小さく設定できる。あるいは、横長である視認領域60の幅D1と幅D2との比率に対して、ピッチP1とピッチP2との比率が実質等しく設定される場合においては、曲率半径R1と曲率半径R2とを実質同一値に設定できる。
【0100】
なお、こうした曲率半径Rnの数値として、水平方向xのR1は、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは0.4mmに設定される一方、垂直方向yのR2は、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは1mmに設定される。また、以上の設定により曲率半径Rn及びピッチPnが各光学素子部32毎に付与されたスクリーン部材30について、例えば基材を樹脂により形成するには、当該基材を成形する成形型の製造に工夫を要する。具体的には、基材用成形型の製造において曲面32aを形成するためのキャビティ面を加工する際には、例えばxz面でのバイトの駆動を方向yに繰り返す、所謂三次元加工を要するのである。
【0101】
(作用効果)
以上説明した第1実施形態の作用効果を以下に説明する。
【0102】
第1実施形態によると、格子状配列のうち所定ピッチPn配列の各光学素子部32で拡散されて視認領域60へと入射する光束の回折幅Δdnは、各方向x、y毎に数式1を満足するピッチPn設定により、視認者の瞳孔径φp以下となる。ここで特に、健常者の昼間の最小瞳孔径である2mmが数式1のφpとして予設定される場合には、当該数式1を満足するピッチPn設定により、回折幅Δdnは2mm以下となる。これにより、各光学素子部32で拡散された回折光のピーク値を、視認者のアイポイント61の移動に拘らず瞳孔に入れることができる。その結果、瞳孔径φp以下の回折幅Δdnにて隣接する隣接次数(例えば0次光と1次光等)の回折光につき、各回折光の入射箇所とその間とでアイポイントが移動しても、入射光量の変化が抑えられることになるので、視認者の感じる輝度にムラが生じ難くなる。故に視認領域60では、表示画像71の光束が入射することで視認される虚像70のぼやけを、抑制できるのである。
【0103】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32で拡散されて視認領域60へと入射する複数色の単一波長レーザ光については、ピーク波長を中心とする波長幅が限りなく小さいことから、各回折光の入射箇所とその間とで輝度ムラが生じる従来構成の場合、当該輝度ムラが顕著となる。しかし、各色レーザ光のピーク波長のうち最大波長が数式1の波長λとして予設定されることによれば、全色レーザ光についての回折幅Δdnが瞳孔径φp以下に抑えられて、視認者の感じる輝度ムラが確実に生じ難くなる。故に、表示画像71となる光束として、従来では虚像70のぼやけを誘引し易い単一波長レーザ光の利用にあっても、当該ぼやけの抑制を達成できるのである。
【0104】
また、第1実施形態によると、所定ピッチPn配列の各光学素子部32により拡散された光束が虚像70として結像してなる虚像点72のピッチVpnは、各方向x、y毎に数式2を満足するピッチPn設定により、視認者の眼の分解能Re以下となる。その結果、視認領域60では、各光学素子部32の外縁形状が互いに分離した虚像70として視認され難くなる。故に、各光学素子部32の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像70の表示品質が低下する事態を、抑制できるのである。
【0105】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32の拡散光束が投影面91に到達するまでの光路上にて光学系40は、単独で又はウインドシールド90と共同して、各虚像点72のピッチVpnを各光学素子部32のピッチPnに対して拡大させる。しかし、数式2を満足するピッチPn設定によれば、拡大されるピッチVpnであっても、視認者の眼の分解能Re以下となるので、各光学素子部32の外縁形状は分離視認され難くなる。したがって、各光学素子部32の外縁形状が分離視認されることに起因して虚像の表示品質が低下する事態を、拡散光束の拡大作用に拘らずに抑制できる。
【0106】
また、第1実施形態によると、各光学素子部32の外縁形状を図5(a)の如き正方形状とする場合、いずれの方向x、yにおいても等しくなるピッチPnは、それら両方向x、yにて数式1、2を満足させることが容易となる。これによれば、ピッチPnの設定に要する時間を短縮して、生産性を高めることができる。
【0107】
また、第1実施形態によると、虚像70のぼやけを抑制するようにピッチPn設定された各光学素子部32では、それぞれの素子部32による拡散光束を視認領域60の全域へ入射させる拡散角θsnに対して、曲面32aの曲率半径Rnが一義的に決まる。そこで、拡散角θsnと曲率半径Rnとが満足することで虚像70のぼやけを抑制可能にする数式3に基づいた設計原理によれば、当該ぼやけの抑制機能を損なわせない曲率半径Rnを、各対向方向毎に設定できるのである。
【0108】
また、第1実施形態によると、外縁形状が四角形状に確保される視認領域60は、車両1の室内にてアイポイント61が移動し易い水平方向x及び垂直方向yに、それぞれ幅D1及びD2を有している。これによれば、虚像70の視認に不可欠なアイポイント61の移動範囲へと光束を無駄なく入射させ、エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0109】
また、第1実施形態によると、視認者の両眼による視認領域60は、横長四角形状の外縁形状により、それら両眼のアイポイント61が頭部と共に動き易い水平方向xに、垂直方向yよりも大きな幅を有している。これによれば、虚像70の両眼視認に不可欠なアイポイント61の移動範囲へと光束を無駄なく入射させ、エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0110】
(第2実施形態)
図20〜24に示すように、本発明の第2実施形態は第1実施形態の変形例である。
【0111】
(設計原理)
第2実施形態の設計原理について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0112】
(1) 光学素子部と視認領域との関係
(1−1) 光学素子部の形状
スクリーン部材2030の各光学素子部2032において凸面状に形成される曲面2032aは、方向zから見た外縁形状として、図20に示すように六角形状を呈している。ここで、曲面2032aの外縁形状を規定する六角形状とは、Nを3としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向O1、O2、O3の数がNによって表される多角形状である。さらに図21〜23に示すように、各光学素子部2032の曲面2032aは、各対向方向O1、O2、O3に沿う縦断面においてそれぞれ、曲率半径R1、R2、R3を有している。ここで、各光学素子部32に関する対向方向O1は、スクリーン部材30の水平方向x及び車両1の水平方向と実質一致している。一方、各光学素子部32に関する対向方向O2、O3は、垂直方向yが車両1の鉛直方向に対して傾いた又は実質一致したスクリーン部材2030のxy平面上にて、直角以外の角度で水平方向xに交差している。
【0113】
こうした曲面2032aの外縁を隣同士で重ねてなる各光学素子部2032は、図20〜23に示すように、対向方向O1では一定のピッチP1にて、且つ対向方向O2では一定のピッチP2にて、さらに対向方向O3では一定のピッチP3にて格子状に並んでいる。ここで各ピッチP1、P2、P3は、各光学素子部2032において曲面2032aの外縁形状を相異なる内角の六角形状とする相異値であってもよいし、あるいは当該外縁形状を正多角形状にする同一値であってもよい。なお、ピッチP1、P2、P3については、図20に示すように、各光学素子部2032の外縁形状を規定する六角形状において各方向O1、O2、O3に平行な二辺同士の幅によって表すことができ、また図21〜23に示すように、各方向O1、O2、O3に隣り合う光学素子部2032同士の中心間距離によっても表すことができる。
【0114】
(1−2) 視認領域の形状
図24に示すように視認領域2060の外縁形状は、各光学素子部2032に対応する形状として、各対向方向O1、O2、O3にそれぞれ幅D1、D2、D3を有する六角形状となる。即ち、視認領域2060の外縁形状を規定する六角形状についても、Nを3としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向O1、O2、O3の数がNによって表される多角形状となっている。ここで、視認領域2060に関する対向方向O1は、車両1の水平方向と実質一致している。一方、視認領域2060に関する対向方向O2、O3は、車両1の鉛直面上にて、直角以外の角度で水平方向と交差している。
【0115】
こうした視認領域2060として、特に図24に示す第2実施形態では、視認者が両眼により視認可能な領域として、水平方向xに沿う対向方向O1の幅D1が他の方向O2、O3の幅D2、D3よりも大きな六角形状の領域を、確保している。ここで対向方向O1の幅D1は、例えば80〜200mmの範囲、好ましくは130mmに確保される。一方、対向方向O2、O3の各幅D2、D3は、例えば70〜180mmの範囲、好ましくは114mmに、それぞれ確保される。なお、第2実施形態の視認領域2060についても、凹面鏡42の揺動範囲ではアイリプス62内へと入るように、想定されている。
【0116】
(1−3) 光学素子部の拡散角と視認領域との関係
図21〜23に示すように各光学素子部2032は、レーザスキャナ10から投射されるレーザ光の光束を反射することで、当該光束の拡散作用を、各対向方向O1、O2、O3毎にそれぞれ拡散角θs1、θs2、θs3の角度域で発揮する。なお、レーザスキャナ10からの光束強度に応じた拡散角θs1、θs2、θs3の定義については、第1実施形態に準じたものとなる。また、こうした拡散角θs1、θs2、θs3にて各光学素子部2032により拡散される光束は、第2実施形態においても視認領域2060の全域へと入射するように、それら拡散角θs1、θs2、θs3が第1実施形態に準じて調整されることになる。
【0117】
(2) ピッチの設定
(2−1) ピッチの下限値
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、各方向x、yの物理量Pn、Dn、Δdn、θdn、θsn、Mn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3の物理量Pn、Dn、Δdn、θdn、θsn、Mn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、図20〜24に示す各光学素子部2032のピッチPnを各対向方向O1、O2、O3毎に設定する数式1に従うことで、回折幅Δdnが瞳孔径φp以下となり、虚像70のぼやけが抑制される。
【0118】
(2−2) ピッチの上限値
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、各方向x、yの物理量Pn、Vpn、Mn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3の物理量Pn、Vpn、Mn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、図20〜24に示す各光学素子部2032のピッチPnを各対向方向O1、O2、O3毎に設定する数式2に従うことで、各虚像点72のピッチVpnが分解能Re以下となり、各光学素子部2032の外縁形状の分離視認が抑制される。
【0119】
なお、(2−1)、(2−2)の設計原理に従うピッチPnの数値として、対向方向O1のピッチP1は、例えば50μm〜200μmの範囲、好ましくは100μmに設定される一方、対向方向O2、O3のピッチP2、P3は、例えば45μm〜180μmの範囲、好ましくは90μmに設定される。
【0120】
(3) 光学素子部の曲率半径
第2実施形態では、第1実施形態で説明した設計原理のうち、図21〜図23に示す各方向x、yの物理量Rn、Pn、θan、θsn(n=1、2)を、各対向方向O1、O2、O3のRn、Pn、θan、θsn(n=1、2、3)と読み替えた原理が、各光学素子部2032及び視認領域2060の間で成立する。その結果、拡散光束を視認領域2060の全域へと入射させる拡散角θsnと曲面2032aの曲率半径Rnとの関係を各対向方向O1、O2、O3毎に表した数式3に従うことで、ぼやけの抑制機能を損なわない当該半径Rnが設定される。なお、こうした曲率半径Rnの数値として、各対向方向O1、O2、O3のR1、R2、R3はいずれも、例えば0.1mm〜2mmの範囲、好ましくは0.4mmに設定される。
【0121】
(作用効果)
以上説明した構成から、第2実施形態によっても、第1実施形態に準じた作用効果の発揮が可能となる。
【0122】
(その他の実施形態)
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明したが、本発明は、それら実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0123】
具体的に変形例1では、HUD装置100を作動させる時期を夜間に限るのであれば、瞳孔径φpとして、昼間に対する光量の減少により視認者の瞳孔が大きくなる夜間の瞳孔径のうち最小値、例えば7〜8mmを採用してもよい。
【0124】
変形例2では、各光学素子部32、2032の外縁形状を適宜変更してもよい。例えば、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが第1及び第2実施形態よりも多い4以上の多角形状に、各光学素子部32、2032の外縁形状を変更してもよい。
【0125】
変形例3では、両眼による視認領域60、2060の外縁形状を適宜変更してもよい。例えば第1実施形態では、視認領域60の外縁形状として、四角形状のうち、水平方向x及び垂直方向yの各幅D1、D2が同一の正方形状の他、水平方向xの幅D1よりも垂直方向yの幅D2が大きい長方形状を採用してもよい。あるいは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが第1及び第2実施形態よりも多い4以上の多角形状に、視認領域60、2060の外縁形状を変更してもよい。
【0126】
変形例4では、図25に示すように、視認領域3060を片眼ずつ確保してもよい。この変形例4では、片眼のアイポイント61にそれぞれ対応する各視認領域3060の外縁形状として、四角形状のうち、水平方向x及び垂直方向yの各幅D1、D2が同一となる正方形状の他、水平方向xの幅D1よりも垂直方向yの幅D2が大きい乃至は小さい長方形状を採用してもよい。ここで特に、水平方向xの幅D1については、例えば40〜100mmの範囲、中でも65mmに確保することが好ましく、また垂直方向yの幅D2については、例えば30〜200mmの範囲、中でも50mmに確保することが好ましい。あるいは、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状のうち、Nが図25よりも多い3以上の多角形状に、視認領域3060の外縁形状を変更してもよい。さらに、こうした形状の視認領域3060を片眼ずつ確保する場合には、レーザスキャナ10、スクリーン部材30、2030及び光学系40の組を、右眼用と左眼用とで一組ずつハウジング50内に設け(図示はしない)、各視認領域3060にて視認される虚像70の視差を利用することで、奥行きのある3D表示を実現してもよい。
【0127】
変形例5では、第1及び第2実施形態で説明した設計原理のうち、(2−2)及び(3)の少なくとも一方については、必ずしも考慮しなくてもよい。即ち、数式2及び数式3の少なくとも一方を考慮しないで、各光学素子部32、2032を設計してもよい。
【0128】
変形例6では、表示画像71の各構成画素に対して各光学素子部32、2032を、1対1以外の比率で対応させてもよい。例えば、表示画像71の一画素に複数の光学素子部32、2032を対応させることで、それら光学素子部32、2032により拡散された光束が結像してなる複数の虚像点72から、虚像70の一画素を構成してもよい。
【0129】
変形例7では、透光性の材料から形成された透過型のスクリーンをスクリーン部材30、2030に用いて、各光学素子部32、2032をマイクロレンズとして形成してもよい。この変形例7では、図26(同図は第1実施形態の変形例7)に示すように、スクリーン部材30、2030の走査面31の反対側からレーザ光の光束を投射することにより、当該部材30、2030を透過した光束を、走査面31の各光学素子部32、2032から出射させることになる。
【0130】
変形例8では、図27(同図は第1実施形態の変形例8)に示すように、光学系40(凹面鏡42)を設けないで、各光学素子部32、2032により拡散された光束を直接に、投影面91へと投射してもよい。なお、上述した変形例7においても、図26に示すように、各光学素子部32、2032により拡散された光束を直接に、投影面91へ投射させている。
【0131】
変形例9では、光学系40の構成要素として、凹面鏡42に代えて又は加えて、凹面鏡42以外の光学要素を採用してもよい。
【0132】
変形例10では、「投射器」であるレーザスキャナ10のMEMS3026として、図28(同図は第1実施形態の変形例10)に示すように、導光部20から投射されるレーザ光を反射する反射面3027bを備えた二軸スキャナ3027を、一つ設けて、鉛直方向の回転軸3027a1及び垂直方向の回転軸3027a2まわりに、当該スキャナ3027を回転駆動してもよい。この変形例10では、集光レンズ25から入射して二軸スキャナ3027の反射面3027bにて反射されるレーザ光は、スクリーン部材30、2030に対する投射方向を当該スキャナ3027の二軸回転に応じて切り替えられることで、表示画像71を走査面31に描画する。
【0133】
変形例11では、スクリーン部材30、2030の走査面31に光束を投射して表示画像71を描画することが可能であれば、種々の構成の「投射器」をレーザスキャナ10に代えて採用してもよい。例えば、Liquid crystal on silicon(LCOS:登録商標)乃至はDigital Mirror Device(DMD)を備えた所謂プロジェクタを、「投射器」として用いてもよい。
【0134】
ここで、シリコン製基板と透光性基板との間に液晶層を挟み込んでなるLCOSは、液晶層に複数の画素を配列して形成していると共に、液晶駆動回路及び光束反射用の電極をシリコン製基板に有している。LCOSにおいて、LED等の可視光光源乃至はレーザ光源から透光性基板に入射される光束は、液晶層を通過してシリコン製基板の電極により反射されることで、外部へと出射される。故に、LCOSにおいて液晶層の各画素で表示画像71を形成することによれば、当該画像71となる光束をスクリーン部材30、2030に対して投射可能となる。
【0135】
一方、基板上に多数の微小鏡面を配列してなるDMDは、微小鏡面のそれぞれにより一画素を形成していると共に、各微小鏡面の傾斜角度を制御信号に基づいて変更可能としている。DMDにおいて、LED等の可視光光源乃至はレーザ光源から入射される光束は、各微小鏡面により反射されることから、それら各微小鏡面の傾斜角度を制御することで、表示画像71となる光束が出射される。したがって、DMDからの出射光束をスクリーン部材30、2030に投射することで、表示画像71の描画が可能となる。
【0136】
変形例12では、投影面91を形成する「表示部材」として、ウインドシールド90以外の要素を採用してもよく、例えば、ウインドシールド90の室内側の面に貼りつけた又はウインドシールド90とは別体に形成されたコンバイナ等を、採用してもよい。
【0137】
変形例13では、車両1以外の船舶乃至は飛行機等の各種移動体(輸送機器)に、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 車両、10 レーザスキャナ、13 光源部、14、15、16 レーザ投射部、20 導光部、21 コリメートレンズ、22、23、24 ダイクロイックフィルタ、25 集光レンズ、26、3026 微小電気機械システム(MEMS)、27 水平スキャナ、28 鉛直スキャナ、29 コントローラ、30、2030 スクリーン部材、31 走査面、32、2032 光学素子部、32a、2032a 曲面、40 光学系、42 凹面鏡、50 ハウジング、60、2060、3060 視認領域、61 アイポイント、62 アイリプス、70 虚像、71 表示画像、72 虚像点、74 ランドルト環、74a 切れ目、80 インストルメントパネル、90 ウインドシールド、91 投影面、92 反射点、100 ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置、3027 二軸スキャナ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、
前記スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が前記視認者の瞳孔径以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記各光学素子部の外縁形状と前記視認領域の外縁形状とは、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状であり、
前記投射器から投射される前記光束の波長をλ、前記瞳孔径をφp、前記視認領域の前記各対向方向の幅をDn(n=1〜N)、前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の前記各対向方向の幅全域に亘って入射する前記光束の拡散角をθsn(n=1〜N)としたとき、
前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式1
【数1】
を満足する値であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記投射器は、単一波長レーザ光の複数色を前記光束として投射し、前記波長λは、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長であることを特徴とする請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記各光学素子部により拡散された前記光束がそれぞれ前記虚像として結像してなる虚像点(72)のピッチを、前記視認者の眼の分解能以下とするように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記各虚像点のピッチは、前記光学系により、前記各光学素子部のピッチに対して拡大されることを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、
前記移動体の表示部材(90)の前記投影面に前記拡散光束が到達するまでの光路上には、前記光学系が設けられ、
前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記各対向方向における拡大率をMn(n=1〜N)、前記視認領域から前記虚像までの距離をL、前記視認者の眼の分解能をReとしたとき、
前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式2
【数2】
を満足する値であることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記各光学素子部(32)の外縁形状は、四角形状のうち、前記各対向方向のいずれにおいても等しいピッチで配列される正方形状であることを特徴とする請求項2、3、6のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記各光学素子部(32、2032)において前記曲面の曲率半径は、前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の全域に亘って入射する前記光束の拡散角に基づき、設定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の前記各対向方向の幅全域に亘って入射する前記光束の拡散角をθsn(n=1〜N)、前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチをPn(n=1〜N)としたとき、
前記各光学素子部において前記曲面の前記各対向方向の曲率半径Rn(n=1〜N)は、以下の数式3
【数3】
を満足する値であることを特徴とする請求項8に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項10】
前記視認領域(60)の外縁形状は、水平方向及び垂直方向にそれぞれ幅を有する四角形状であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項11】
前記視認者の両眼による前記視認領域の外縁形状は、前記垂直方向よりも大きな幅を前記水平方向に有する横長の四角形状であることを特徴とする請求項10に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項12】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、
前記スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が2mm以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項13】
前記視認者の眼の分解能を、ランドルト環における切れ目の角度により表したとき、前記各光学素子部により拡散された前記光束がそれぞれ前記虚像として結像してなる虚像点のピッチを、当該分解能としての1/60度以下とするように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする請求項12に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項14】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記移動体の表示部材(90)の前記投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記各虚像点のピッチは、前記光学系の単独により又は前記光学系と前記表示部材との共同により、前記各光学素子部のピッチに対して4〜8倍の拡大率で拡大されることを特徴とする請求項13に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項15】
前記各光学素子部のピッチは、50〜200μmに設定されていることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項16】
前記視認者の両眼による前記視認領域(60)の外縁形状は、水平方向に80〜200mmの幅及び垂直方向に30〜200mmの幅を有する四角形状であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項17】
前記各光学素子部(32)により拡散されて四角形状の前記視認領域の前記水平方向全域に亘って入射する前記光束の拡散角を10度〜50度、前記各光学素子部により拡散されて当該視認領域の前記垂直方向全域に亘って入射する前記光束の拡散角を5度〜50度としたとき、前記各光学素子部における前記曲面(32a)の前記水平方向及び前記垂直方向の曲率半径は、0.1mm〜2mmに設定されていることを特徴とする請求項16に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項18】
前記投射器は、単一波長レーザ光の複数色を前記光束として投射し、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長は、600〜650nmの範囲に現れることを特徴とする請求項12〜17のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項19】
移動体(1)の表示部材(90)に形成される投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内の視認者が前記虚像を視認可能な領域として外縁形状が四角形状の視認領域(60、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30)とを、備え、
前記スクリーン部材は、入射する前記光束を前記視認領域に向けて拡散するように表面が曲面(32a)を形成し、かつ外縁形状が四角形状となる光学素子部(32)を複数有し、それら各光学素子部が格子状に配列されることにより形成されており、
前記投射器から投射される前記光束の波長をλ、前記視認者の瞳孔径をφp、水平方向における前記視認領域の幅をD1、前記水平方向に垂直な方向を垂直方向として当該垂直方向における前記視認領域の幅をD2、前記各光学素子部によって拡散される前記光束が前記視認領域の前記水平方向の幅D1全域に亘って入射するときの前記光束の拡散角をθs1、前記各光学素子部によって拡散される前記光束が前記視認領域の前記垂直方向の幅D2全域に亘って入射するときの前記光束の拡散角をθs2としたとき、
前記水平方向において前記各光学素子部のピッチP1は、以下の数式4
【数4】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部のピッチP2は、以下の数式5
【数5】
を満足する値であることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項20】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記表示部材に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記水平方向における拡大率をM1、前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記垂直方向における拡大率をM2、前記視認領域から前記虚像までの距離をL、前記視認者の眼の分解能をReとしたとき、
前記水平方向において前記各光学素子部のピッチP1は、以下の数式6
【数6】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部のピッチP2は、以下の数式7
【数7】
を満足する値であることを特徴とする請求項19に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項21】
前記水平方向において前記各光学素子部の前記曲面の曲率半径R1は、以下の数式8
【数8】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部の前記曲面の曲率半径R2は、以下の数式9
【数9】
を満足する値であることを特徴とする請求項19又は20に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項22】
前記投射器は、前記光束としてレーザ光を投射することを特徴とする請求項1〜21のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項23】
前記各光学素子部は、前記投光器から入射する前記光束を反射させることにより、当該光束を拡散することを特徴とする請求項1〜22のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項24】
前記各光学素子部は、前記投光器から入射する前記光束を透過させることにより、当該光束を拡散することを特徴とする請求項1〜22のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項25】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置において、前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域を視認領域(60、2060、3060)として、投射器(10)から投射されて前記表示画像となる光束を前記視認領域へ導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材であって、
格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が前記視認者の瞳孔径以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置用スクリーン部材。
【請求項26】
表示画像(71)の虚像(70)を移動体(1)の室内から視認可能に表示するために、前記移動体の投影面(91)に前記表示画像を投影する画像投影方法であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材として、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成するスクリーン部材(30、2030)とを、用い、
所定のピッチで配列される前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅を、前記視認者の瞳孔径以下に調整することを特徴とする画像投影方法。
【請求項1】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、
前記スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が前記視認者の瞳孔径以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記各光学素子部の外縁形状と前記視認領域の外縁形状とは、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される範囲において互いに対応する多角形状であり、
前記投射器から投射される前記光束の波長をλ、前記瞳孔径をφp、前記視認領域の前記各対向方向の幅をDn(n=1〜N)、前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の前記各対向方向の幅全域に亘って入射する前記光束の拡散角をθsn(n=1〜N)としたとき、
前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式1
【数1】
を満足する値であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記投射器は、単一波長レーザ光の複数色を前記光束として投射し、前記波長λは、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長であることを特徴とする請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記各光学素子部により拡散された前記光束がそれぞれ前記虚像として結像してなる虚像点(72)のピッチを、前記視認者の眼の分解能以下とするように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記各虚像点のピッチは、前記光学系により、前記各光学素子部のピッチに対して拡大されることを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、
前記移動体の表示部材(90)の前記投影面に前記拡散光束が到達するまでの光路上には、前記光学系が設けられ、
前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記各対向方向における拡大率をMn(n=1〜N)、前記視認領域から前記虚像までの距離をL、前記視認者の眼の分解能をReとしたとき、
前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチPn(n=1〜N)は、以下の数式2
【数2】
を満足する値であることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記各光学素子部(32)の外縁形状は、四角形状のうち、前記各対向方向のいずれにおいても等しいピッチで配列される正方形状であることを特徴とする請求項2、3、6のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記各光学素子部(32、2032)において前記曲面の曲率半径は、前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の全域に亘って入射する前記光束の拡散角に基づき、設定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記各光学素子部の外縁形状は、Nを2以上の整数としたとき、辺の数が2N且つ平行な二辺同士の対向方向の数がNにより表される多角形状であり、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域の前記各対向方向の幅全域に亘って入射する前記光束の拡散角をθsn(n=1〜N)、前記格子状に配列される前記各光学素子部の前記各対向方向におけるピッチをPn(n=1〜N)としたとき、
前記各光学素子部において前記曲面の前記各対向方向の曲率半径Rn(n=1〜N)は、以下の数式3
【数3】
を満足する値であることを特徴とする請求項8に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項10】
前記視認領域(60)の外縁形状は、水平方向及び垂直方向にそれぞれ幅を有する四角形状であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項11】
前記視認者の両眼による前記視認領域の外縁形状は、前記垂直方向よりも大きな幅を前記水平方向に有する横長の四角形状であることを特徴とする請求項10に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項12】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30、2030)とを、備え、
前記スクリーン部材は、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が2mm以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項13】
前記視認者の眼の分解能を、ランドルト環における切れ目の角度により表したとき、前記各光学素子部により拡散された前記光束がそれぞれ前記虚像として結像してなる虚像点のピッチを、当該分解能としての1/60度以下とするように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とする請求項12に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項14】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記移動体の表示部材(90)の前記投影面に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記各虚像点のピッチは、前記光学系の単独により又は前記光学系と前記表示部材との共同により、前記各光学素子部のピッチに対して4〜8倍の拡大率で拡大されることを特徴とする請求項13に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項15】
前記各光学素子部のピッチは、50〜200μmに設定されていることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項16】
前記視認者の両眼による前記視認領域(60)の外縁形状は、水平方向に80〜200mmの幅及び垂直方向に30〜200mmの幅を有する四角形状であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項17】
前記各光学素子部(32)により拡散されて四角形状の前記視認領域の前記水平方向全域に亘って入射する前記光束の拡散角を10度〜50度、前記各光学素子部により拡散されて当該視認領域の前記垂直方向全域に亘って入射する前記光束の拡散角を5度〜50度としたとき、前記各光学素子部における前記曲面(32a)の前記水平方向及び前記垂直方向の曲率半径は、0.1mm〜2mmに設定されていることを特徴とする請求項16に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項18】
前記投射器は、単一波長レーザ光の複数色を前記光束として投射し、それら各色のレーザ光のピーク波長のうち最大波長は、600〜650nmの範囲に現れることを特徴とする請求項12〜17のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項19】
移動体(1)の表示部材(90)に形成される投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内の視認者が前記虚像を視認可能な領域として外縁形状が四角形状の視認領域(60、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材(30)とを、備え、
前記スクリーン部材は、入射する前記光束を前記視認領域に向けて拡散するように表面が曲面(32a)を形成し、かつ外縁形状が四角形状となる光学素子部(32)を複数有し、それら各光学素子部が格子状に配列されることにより形成されており、
前記投射器から投射される前記光束の波長をλ、前記視認者の瞳孔径をφp、水平方向における前記視認領域の幅をD1、前記水平方向に垂直な方向を垂直方向として当該垂直方向における前記視認領域の幅をD2、前記各光学素子部によって拡散される前記光束が前記視認領域の前記水平方向の幅D1全域に亘って入射するときの前記光束の拡散角をθs1、前記各光学素子部によって拡散される前記光束が前記視認領域の前記垂直方向の幅D2全域に亘って入射するときの前記光束の拡散角をθs2としたとき、
前記水平方向において前記各光学素子部のピッチP1は、以下の数式4
【数4】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部のピッチP2は、以下の数式5
【数5】
を満足する値であることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項20】
前記各光学素子部により拡散された前記光束が前記表示部材に到達するまでの光路上に、当該拡散光束を拡大可能な光学系(40)を、備え、
前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記水平方向における拡大率をM1、前記光学系が単独により又は前記表示部材との共同により拡大する前記拡散光束の前記垂直方向における拡大率をM2、前記視認領域から前記虚像までの距離をL、前記視認者の眼の分解能をReとしたとき、
前記水平方向において前記各光学素子部のピッチP1は、以下の数式6
【数6】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部のピッチP2は、以下の数式7
【数7】
を満足する値であることを特徴とする請求項19に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項21】
前記水平方向において前記各光学素子部の前記曲面の曲率半径R1は、以下の数式8
【数8】
を満足する値であり、
前記垂直方向において前記各光学素子部の前記曲面の曲率半径R2は、以下の数式9
【数9】
を満足する値であることを特徴とする請求項19又は20に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項22】
前記投射器は、前記光束としてレーザ光を投射することを特徴とする請求項1〜21のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項23】
前記各光学素子部は、前記投光器から入射する前記光束を反射させることにより、当該光束を拡散することを特徴とする請求項1〜22のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項24】
前記各光学素子部は、前記投光器から入射する前記光束を透過させることにより、当該光束を拡散することを特徴とする請求項1〜22のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項25】
移動体(1)の投影面(91)に表示画像(71)を投影することにより、前記表示画像の虚像(70)を前記移動体の室内から視認可能に表示するヘッドアップディスプレイ装置において、前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域を視認領域(60、2060、3060)として、投射器(10)から投射されて前記表示画像となる光束を前記視認領域へ導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材であって、
格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)を有し、それら各光学素子部の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成し、
前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅が前記視認者の瞳孔径以下となるように、前記各光学素子部のピッチが設定されていることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置用スクリーン部材。
【請求項26】
表示画像(71)の虚像(70)を移動体(1)の室内から視認可能に表示するために、前記移動体の投影面(91)に前記表示画像を投影する画像投影方法であって、
前記表示画像となる光束を投射する投射器(10)と、
前記室内において視認者が前記虚像を視認可能な領域である視認領域(60、2060、3060)へ前記光束を導くように、当該光束を拡散するスクリーン部材として、格子状に配列される複数の光学素子部(32、2032)の表面は、入射する前記光束を拡散するように曲面(32a、2032a)を形成するスクリーン部材(30、2030)とを、用い、
所定のピッチで配列される前記各光学素子部により拡散されて前記視認領域へ入射する前記光束の回折幅を、前記視認者の瞳孔径以下に調整することを特徴とする画像投影方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図27】
【図28】
【公開番号】特開2013−64985(P2013−64985A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148794(P2012−148794)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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