説明

ボタン形アルカリ電池

【課題】無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金を含む負極を備えたボタン形アルカリ電池の過放電時の水素ガス発生量を低減させることである。
【解決手段】正極と、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金及びアルカリ電解液を含むゲル状負極9と具備するボタン形アルカリ電池であって、前記負極9は、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有することを特徴とするボタン形アルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタン形アルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のボタン形アルカリ電池では、負極作用物質として汞化亜鉛合金粉末を使用していたため、負極集電体を兼ねる負極容器としてNi/SUS/Cuの3層クラッド材を用いても、負極容器の内面に形成されるHgアマルガム層の存在によりZnとCuの局部電池形成を防止でき、継続的な水素ガス発生を抑えることができていた。
【0003】
しかしながら、環境問題に配慮して負極作用物質として無汞化かつ鉛無添加の亜鉛合金粉末を採用した結果、負極容器の内面に配されたCuが負極作用物質中のZnと局部電池を形成して水素ガスが発生する問題を生じた。マンガン乾電池や筒形アルカリマンガン乾電池は電池内に空隙を有する筒形構造であるために多少の水素が発生したとしても影響をほとんど受けないが、空気亜鉛電池や酸化銀電池のようなボタン形アルカリ電池はボタン形で空隙がほとんどない上、サイズが小さいので少しでも水素が発生すると缶が膨らみ、極端な場合には漏液に至り、長期間にわたる電池の安全性が確保できなくなる。
【0004】
この水素ガス発生の問題を解決するため、負極容器の負極と対向する内面をSn,ZnやInのようなCuより水素過電圧の高い金属から形成したところ、使用前や放電中断時の水素ガス発生は軽減されたものの、過放電時の水素ガス発生量が多くなるという新たな問題が生じた。
【0005】
特許文献1には、有底円筒形アルカリ電池において、ビスマスが添加された亜鉛基合金を使用すると共に、ビスマスイオンと反応して錯体を形成する化合物を負極に添加すると、過放電時の水素ガス発生量が抑えられることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の錯体は、亜鉛基合金からのビスマス溶出に有効であるものの、負極容器に起因する水素ガス発生には有効でなかった。
【特許文献1】特開2002−50349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金を含む負極を備えたボタン形アルカリ電池の過放電時の水素ガス発生量を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るボタン形アルカリ電池は、正極と、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金及びアルカリ電解液を含むゲル状負極と具備するボタン形アルカリ電池であって、
前記負極は、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明によれば、その一実施形態として、正極と、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金及びアルカリ電解液を含むゲル状負極と、前記ゲル状負極の集電体を兼ねている負極容器と具備するボタン形アルカリ電池であって、
前記負極は、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有し、
前記負極容器の前記ゲル状負極と対向する内面に、Sn、Zn及びInよりなる群から選択される少なくとも一種類の金属元素が配されていることを特徴とするボタン形アルカリ電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金を含む負極を備えたボタン形アルカリ電池の過放電時の水素ガス発生量を低減させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金及びアルカリ電解液を含むゲル状負極と、このゲル状負極の負極集電体を兼ねている負極容器とを備えるボタン形アルカリ電池において、負極容器の少なくともゲル状負極と対向する内面を、Sn、Zn及びInよりなる群から選択される少なくとも一種類の金属元素で形成し、前記ゲル状負極中にジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有させることによって、使用前並びに放電中断時の水素ガス発生量を抑えつつ、過放電時の水素ガス発生量が低減されることを見出したのである。
【0012】
すなわち、負極容器の内面に配されたSn、Zn及びInよりなる群から選択される少なくとも一種類の金属元素は、使用前及び放電中断時の水素ガスの発生を抑制することができる。過放電状態に陥ると、負極容器の内面に配された金属元素だけでなく、内部の基材(例えばCu層)も電解液中に溶出する。前述した種類の有機系インヒビターは、基材を形成する金属(例えばCu)のイオンと錯体を形成することができるため、未反応の亜鉛合金上に金属イオン(例えばCuイオン)が再析出されず、局部電池形成による水素ガス発生を抑制することができる。これにより、過放電時の電池総高膨れ、内圧上昇による漏液等の問題を防止することが出来る。
【0013】
従って、本発明によれば、電池内部での水素ガス発生が低減され、高性能な、安全で環境にやさしい無水銀且つ鉛無添加のボタン形アルカリ電池を提供することができる。
【0014】
なお、有機系インヒビターは、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩が好ましい。また、有機系インヒビターの中でも、ピペラジンジチオカルバミン酸塩、N1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩が好ましい。
【0015】
以下、ゲル状負極と負極容器について説明する。
【0016】
1)ゲル状負極
ゲル状負極は、例えば、無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末と、アルカリ電解液と、増粘剤(ゲル化剤)と、前述した種類の中から選択される少なくとも1種類の有機系インヒビターとを混合することにより形成される。
【0017】
無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金は、アルミニウム、ビスマス及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも1種類を含有するものが望ましい。かかる無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金の中でも、Bi含有量が50〜1000ppm、In含有量が100〜1000ppmで、Al及びCaから選択される少なくとも1種類の含有量が10〜100ppmの亜鉛合金が好ましい。Bi含有量のさらに好ましい範囲は100〜500ppmで、In含有量のさらに好ましい範囲は300〜700ppmで、Al及びCaから選択される少なくとも1種類の含有量のさらに好ましい範囲は20〜50ppmである。
【0018】
無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金は、その粉末10gをKOH33wt%水溶液10g中に浸漬して60℃雰囲気に保管した際の24時間経過後から72時間までのガス発生速度が90(μL/g・day)以下であることが望ましい。これにより、電池の使用前の水素ガス発生を低減させて、実用上膨れや漏液の問題の無いボタン形アルカリ電池とすることが出来る。更には、ガス発生速度が30(μL/g・day)以下である無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末を採用することが望ましい。
【0019】
ゲル状負極中の有機系インヒビターの含有量は、亜鉛合金の質量に対して50ppm以上、5000ppm以下であることが望ましい。これは以下に説明する理由によるものである。有機系インヒビターの含有量を50ppm以上にすることによって、過放電後の電池総高変化を十分に抑制することが可能である。但し、有機系インヒビターの含有量を5000ppmよりも多くするのは、添加に見合ったほどの十分な効果を期待できず、また、過剰の有機系インヒビターにより電池の内部抵抗が高くなる恐れがある。よって、有機系インヒビターの含有量は、50ppm以上、5000ppm以下にすることが望ましい。有機系インヒビターの含有量のより好ましい範囲は、100ppm以上、2000ppm以下である。
【0020】
アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液等を挙げることができる。アルカリ電解液中の水酸化カリウム濃度は30〜45重量%の範囲にすることが好ましい。
【0021】
増粘剤(ゲル化剤)としては、アルカリ電解液の粘性を増加させてゲル化させる機能を有するものを使用することができる。このような増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸のような吸水性高分子を挙げることができる。
【0022】
また、負極中に酸化インジウム、水酸化インジウム及び酸化ビスマスよりなる群から選択される少なくとも1種類の無機系インヒビターを亜鉛合金の質量に対して100ppm以上、1000ppm以下含有することが望ましい。これにより、電池が使用されて一時休止状態になった場合の水素ガス発生を抑制することができ、実用上膨れや漏液の問題の無いボタン形アルカリ電池とすることが出来る。無機系インヒビターの含有量のより好ましい範囲は、200ppm以上、800ppm以下である。
【0023】
2)負極容器
負極容器は、基材と、In、Sn及びZnよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素から形成された表面層とが積層された板材から形成されており、表面層が負極容器の少なくとも内面に位置している。
【0024】
表面層は、In、SnまたはZnの単体金属から形成されていても、これらの金属を含む合金から形成されていても良い。また、In層とSn層のような金属層同士、あるいは合金層同士、もしくは金属層と合金層を積層した多層板を表面層としても良い。中でも、Sn金属層、Sn合金層が好ましい。このSn合金層では、Sn含有量を80質量%以上にし、かつZn及びInよりなる群から選択される少なくとも1種類からなる添加金属元素の含有量を0.1質量%以上、20質量%以下にすることが望ましい。さらに好ましい範囲は、Sn含有量が85質量%以上で、かつ添加金属元素の含有量が5質量%以上、15質量%以下である。
【0025】
クラッド加工により表面層を形成する場合、表面層の厚さは、3μm以上、40μm以下にすることが望ましい。これは以下に説明する理由によるものである。クラッド加工により形成された表面層の厚さを3μm未満にすると、過放電時でなくとも、結晶粒界腐食により基材が表出する恐れがある。一方、クラッド加工により形成された表面層の厚さが40μmを超えると、かしめ固定による封口強度が低下して漏液の発生が助長される恐れがある。さらに好ましい範囲は5μm以上、30μm以下である。
【0026】
電解めっきまたは無電解めっきなどのめっきにより表面層を形成する場合、表面層の厚さは0.05μm以上、5μm以下にすることが望ましい。これは以下に説明する理由によるものである。めっきにより形成された表面層の厚さを0.05μm未満にすると、電解液への溶出により基材が表出して負極作用物質と局部電池を形成する恐れがある。一方、めっきにより形成された表面層の厚さが5μmを超えると、かしめ固定による封口強度が低下して漏液の発生が助長される恐れがある。
【0027】
基材としては、例えば、Ni/SUS/Cuの3層クラッドの板材、Ni/SUS等、電気的特性、強度や電池としての外観等に問題がなければ、その使用目的に応じて特に限定されるものではない。なお、Ni層はクラッド加工あるいはめっきにより形成することが可能である。
【0028】
基材の厚さは、50μm以上、150μm以下にすることが望ましい。さらに好ましい範囲は、50μm以上、120μm以下である。
【0029】
基材と表面層との接合方法には、例えば、クラッド加工、電解めっき、無電解めっき等を採用することができる。クラッド加工としては、表面活性化接合法を用いても良い。
【0030】
ここで、表面活性化接合法の概要を説明すると、真空雰囲気の中で所定の厚さの各種板材の接合面となる面をイオンエッチングにより表面の酸化皮膜を除去した清浄で活性な状態に処理して、室温下で各々の処理面を低圧下で接合する方法である。このようにして、加工硬化を取り除くために焼鈍処理のような加熱をすることなく、融点の大きく異なる金属でもクラッド材とすることができる。
【0031】
本発明に係わる一実施形態を図面を参照して説明する。
【0032】
図1は本発明に係るボタン形アルカリ電池の一実施形態である空気亜鉛電池を示す模式的な断面図である。図2は図1の空気亜鉛電池の要部拡大断面図である。
【0033】
図1に示すように、有底円筒形をなす正極容器1は、その開口部の上端2がかしめ加工により内方に折り曲げられている。正極容器1は、底部に空気孔3を有する。この正極容器1は、例えばステンレス鋼などの金属から形成されており、正極端子を兼ねているものである。この正極容器1内には、正極触媒層4が収納されている。正極触媒層4に含まれる正極触媒としては、例えば、活性炭及び二酸化マンガンのようなマンガン酸化物の混合物を使用することができる。正極触媒層4は、例えば、活性炭と、マンガン酸化物と、導電性材料として膨張化黒鉛と、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末とを混合し、シート状に成型することにより得られる。
【0034】
正極触媒層4に空気を均一に拡散させるための拡散紙5は、正極容器1の底部内面に配置されている。拡散紙5には、例えば、クラフト紙を使用することができる。拡散紙5の厚さは50〜100μmの範囲にすることが望ましい。酸素透過性を有する撥水膜6は、拡散紙5と正極触媒層4の間に介装されている。この撥水膜6は、アルカリ電解液が正極容器1の空気孔3から外部に漏れ出すのを防止するためのものである。撥水膜6は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルムのようなフッ素樹脂フィルムから形成することができる。なお、撥水膜6は、1枚に限らず、2枚以上重ねて使用することも可能である。
【0035】
正極集電体7は、正極触媒層4上に配置され、その周縁部が正極容器1の内面と接している。これにより、正極と正極容器1との導通が確保される。正極集電体7は、例えば、金属ネットのような導電性の多孔質板から形成することができる。
【0036】
正極集電体7には、セパレータ8及びゲル状の負極9がこの順番に積層されている。セパレータ8は、例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィン製の微多孔膜と不織布とから形成されている。微多孔膜の方を負極9と対向させ、不織布を正極集電体7と対向させる。微多孔膜は、酸化亜鉛の析出による内部短絡を防止するためのものである。アルカリ電解液の保持に寄与しているのは、主に不織布である。
【0037】
負極容器10は、負極集電体と負極端子を兼ねているものである。負極容器10は、有底円筒形状で、外周面に折り返されたリバース部11を有する。
【0038】
負極容器10は、基材13と、In、Sn及びZnよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素から形成された表面層14とが積層された板材から形成されており、表面層14が負極容器10の内周面、リバース部11の底面12及びリバース部11の外周面に位置している。
【0039】
負極容器10は、例えば、基材13と表面層14とが接合された板材を、内面が表面層14となるように絞り加工により有底円筒形に成型した後、その開口端を外周面に折り返してリバース部11を形成することによって得られる。具体的な負極容器の作製方法として、Ni/SUS/Cuの3層クラッドの板材のCu面に電解めっきを施してから絞り加工等の成形を行うか、表面活性化接合法によりNi/SUS/CuあるいはNi/SUSの板材などにSn箔をクラッドしてから絞り加工等の成形を行うなどが挙げられるが、その製法は特に限定されるものではない。
【0040】
また、基材13をNi面が外表面となるように絞り加工により有底円筒形に成型した後、その開口端を外周面に折り返してリバース部11を形成し、次いで、容器の内周面とリバース部11の底面12及び外周面とに無電解めっきで表面層14を形成することによって、負極容器10を得ても良い。具体的には、Ni/SUS/Cuの3層クラッドの板材をCu面が内面となるように絞り加工等の成形を施した後、Cu面に無電解めっきを施すことが可能であるが、その製法は特に限定されるものではない。
【0041】
このような負極容器10は、正極容器1の開口部に配置され、封口部材として機能する。負極容器10のリバース部11の外周面は、正極容器1の開口部付近の内周面と対向している。
【0042】
リング状の絶縁ガスケット15は、正極容器1の内周面とこれと対向する負極容器10との間、並びに正極容器1の内周面とゲル状負極9の外周面との間に介在されている。絶縁ガスケット15は、内周面に環状に段差16が形成されており、この段差16に負極容器10のリバース部11の底面12が配置されている。絶縁ガスケット15は、例えばナイロン製で、その表面がポリアミド系樹脂でコーティングされている。このような材料から形成された絶縁ガスケット15は、耐アルカリ性を向上することができる。
【0043】
正極容器1の空気孔3は、未使用時の無駄な放電を防ぐため、正極容器1の底面に貼られたシールテープ17で一時的に塞がれている。
【0044】
上述したような構造の空気亜鉛電池によれば、負極容器10の内周面、リバース部11の底部12及び外周面が、Sn、Zn及びInよりなる群から選択される少なくとも一種類の金属元素からなる表面層14で形成されているため、使用前及び放電停止時に、無水銀かつ鉛無添加の負極作用物質と負極容器10とが局部電池を形成するのを抑制することができ、水素ガスの発生を抑えることができる。
【0045】
また、過放電の際には、負極容器10の表面層14だけでなく、基材13も電解液中に溶出するものの、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターは、基材13を形成する金属(例えばCu)のイオンと錯体を形成することができるため、未反応の亜鉛合金上への金属イオン(例えばCuイオン)の再析出を抑制することができ、局部電池形成による水素ガス発生を抑えることができる。よって、使用前及び放電停止時だけでなく、過放電時の水素ガス発生も抑制されたボタン形アルカリ電池を実現することができる。
【0046】
有機系インヒビターの添加量を亜鉛合金の質量に対して50ppm以上、5000ppm以下にすることによって、過放電時の電池総高膨れをさらに低減することが可能である。
【0047】
また、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金として、その粉末10gをKOH33wt%水溶液10g中に浸漬して60℃雰囲気に保管した際の24時間経過後から72時間までのガス発生速度が90(μL/g・day)以下であるものを使用することによって、使用前の漏液発生率をさらに少なくすることができる。
【0048】
さらに、ゲル状負極9に、酸化インジウム、水酸化インジウム及び酸化ビスマスよりなる群から選択される少なくとも1種類の無機系インヒビターを亜鉛合金の質量に対して100ppm以上、1000ppm以下含有させることによって、放電中断時の水素ガス発生による電池総高変化をさらに低減することができる。
【0049】
本発明は集電体も兼ねる負極容器を用いるボタン形電池であれば、種類とサイズに関係なく適用することが可能である。例えば、前述した図1では、正極作用物質として酸素を使用する例を説明したが、正極作用物質として二酸化マンガンあるいは酸化銀を使用するボタン形アルカリ電池にも同様に適用することが可能である。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0051】
[実施例]
以下、本発明の実施例を前述した図面を参照して詳細に説明する。
【0052】
(実施例1)
電解液の増粘作用を持つゲル化剤としてのポリアクリル酸の微粉末9.0重量部に無機系インヒビターとしての酸化インジウム(In23)1.0重量部を均一になるまで混合・攪拌した。次いで、Biを127ppm、Inを503ppm、Alを33ppm含有する平均粒径205μmで粒径75μm〜300μmの粒子が85重量%以上を占める粒度分布で、該亜鉛合金粉末10gをKOH33wt%水溶液10g中に浸漬して60℃雰囲気に保管した場合の24時間経過後から72時間までの間のガス発生速度が87.5(μL/g・day)の無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末200重量部と、KOH 30%とZnO 1%からなるアルカリ電解液52重量部と、前述したポリアクリル酸と酸化インジウムの混合物1.0重量部(酸化インジウムは亜鉛合金粉末の質量に対して500ppm)と、有機系インヒビターとしてのピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを4%含有した溶液2重量部(亜鉛合金粉末の質量に対して400ppm)とを混合・攪拌して、ゲル状の亜鉛負極を調製した。
【0053】
また、Ni/SUS304/Cuから成る厚さ150μmの3層クラッド材をCu面が内面となるように成型加工してPR44形空気亜鉛電池の負極容器を作製した。この負極容器のCu面に無電解置換Snめっきを施し、厚さが0.2μmのSn金属からなる表面層を形成した。
【0054】
ナイロン製で、表面がポリアミド系樹脂でコーティングされた絶縁ガスケットを用意した。この絶縁ガスケットは、リング状をなし、その内周面に環状に段差が設けられている。この絶縁ガスケット内に負極容器を挿入し、リバース部の底面を段差に配置し、負極容器と絶縁ガスケットを一体化した。
【0055】
こうして得られたゲル状亜鉛負極を負極容器に充填後、正極触媒層が収納された正極容器にかしめ加工により固定し、前述した図1に示す構造を有するJIS規格PR44型のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0056】
なお、亜鉛合金粉末のガス発生速度は、以下に説明する方法で測定した。図3は亜鉛合金のガス発生速度を測定するための測定装置を示す模式図である。
【0057】
60℃の恒温水槽内において、例えば内容積が25mLの三角フラスコ21内に、KOH33wt%水溶液22を10gと、亜鉛合金粉末23を10gとを収容した後、流動パラフィン24を三角フラスコ内一杯に充填した。次いで、流動パラフィン移動管25が挿入されたゴム栓26で三角フラスコ21に栓をし、流動パラフィン移動管25の下端を流動パラフィン24内に挿入した。
【0058】
なお、流動パラフィン移動管25は、内容積が2.0mLのメスピペットの下端の開口部を封鎖すると共に、下端付近の側壁に穴27を開けることにより作製した。
【0059】
亜鉛合金粉末23とKOH溶液22との反応により発生したガスは、三角フラスコ21内の流動パラフィン24の上部に位置する空間28に溜まり、その発生したガスの体積分の流動パラフィン24が流動パラフィン移動管25の穴27から押し出されて移動管25内を上昇する。ある一定時間での移動管25の目盛りと、それからさらに一定時間経過後の目盛りとを読み、これら目盛りの差分の体積変化量をガス発生量とみなし、このガス発生量を経過時間で除することによりガス発生速度を得る。
【0060】
恒温水槽内に三角フラスコ21を浸漬してからしばらくの間は温度変化による液体の体積膨張を生じ、ガス発生によらない体積変化を生じる。よって、三角フラスコ21内にKOH33wt%水溶液22と亜鉛合金粉末23とを収容してから24時間経過した時点で移動管25の目盛りを読み、それからさらに48時間後(三角フラスコ21内にKOH33wt%水溶液22と亜鉛合金粉末23とを収容してから72時間後に相当)の目盛りを読み、この目盛りの差からガス発生速度を算出する。測定終了を72時間後としたのは、これ以上測定時間が長くなると、ガス発生速度が徐々に遅くなるため、なるべく直線的なガス発生速度を示す時間内での測定とする方が明確な比較が可能となるからである。
【0061】
(実施例2)
有機系インヒビターの種類を下記表1に示すように変更すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0062】
(実施例3)
Biを502ppm、Inを503ppm、Alを30ppm含有する平均粒径201μmで粒径75μm〜300μmの粒子が85重量%以上を占める粒度分布で、かつ実施例1で説明したのと同様な方法で測定したガス発生速度が15.3(μL/g・day)の無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0063】
(実施例4)
前述した実施例3で説明したのと同様な亜鉛合金粉末を使用すると共に、無機系インヒビターとして酸化ビスマス(Bi23)0.5重量部(亜鉛合金粉末の質量に対して250ppm)と水酸化インジウム(In(OH)3)0.5重量部(亜鉛合金粉末の質量に対して250ppm)とを用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0064】
(実施例5)
Biを892ppm、Inを497ppm、Alを32ppm含有する平均粒径198μmで粒径75μm〜300μmの粒子が85重量%以上を占める粒度分布で、かつ実施例1で説明したのと同様な方法で測定したガス発生速度が118.7(μL/g・day)の無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0065】
(実施例6)
有機系インヒビターとしてピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを4%含有した溶液を1重量部(亜鉛粉質量に対して20ppm)用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0066】
(実施例7)
前述した実施例1で説明したのと同様な亜鉛合金粉末200重量部と、KOH 30%とZnO 1%からなるアルカリ電解液52重量部と、ポリアクリル酸を9重量部と、有機系インヒビターとしてのピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを4%含有した溶液2重量部(亜鉛粉質量に対して400ppm)と混合・攪拌して、ゲル状の亜鉛負極を調製すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0067】
(実施例8〜10)
有機系インヒビターの種類を下記表1に示すように変更すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0068】
(比較例)
電解液の増粘作用を持つゲル化剤としてのポリアクリル酸の微粉末9.0重量部に無機インヒビターとしての酸化インジウム(In)1.0重量部を均一になるまで混合・攪拌した。次いで、Biを127ppm、Inを503ppm、Alを33ppm含有する平均粒径205μmで粒径75μm〜300μmの粒子が85重量%以上を占める粒度分布で、かつ実施例1で説明したのと同様な方法で測定したガス発生速度が87.5(μL/g・day)の無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末200重量部と、KOH 30%とZnO 1%からなるアルカリ電解液52重量部と、前述したポリアクリル酸と酸化インジウムの混合物1.0重量部と混合・攪拌して、ゲル状の亜鉛負極を調製した。
【0069】
このゲル状の亜鉛負極を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成のボタン形空気亜鉛電池を製造した。
【0070】
実施例1〜10及び比較例の各PR44形空気亜鉛電池について、放電特性(250Ω定抵抗放電・1.0Vまでの放電容量、n=20の平均値)、放電終了後に120時間過放電を行った直後の電池総高変化(n=20の平均値)、放電深度40%で室温放置2週間(2W)後の電池総高変化(n=20の平均値)、45℃93%RHに60日間貯蔵後の漏液数の調査(n=50)を行った。その結果を下記表1に示す。
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有する負極を備えた実施例1〜10の電池は、これら有機系インヒビターが無添加の比較例1の電池と比較して、ほぼ同等の放電容量を実現しつつ、120時間過放電直後の電池総高変化を小さくできることがわかる。放電前の電池総高は約5.2mmであるので、実施例1〜4及び7〜10では過放電後の電池総高がPR44のJIS規格である5.4mmをいずれも下まわっており、実用上の問題が少ない。
【0072】
実施例1と実施例5の比較から、水素ガス発生速度が90(μL/g・day)以下である亜鉛合金粉末を負極作用物質として用いた実施例1では、実施例5に比較して電池総高変化が小さく、漏液特性に優れている。これは、貯蔵中に発生した水素ガスによる電池の内部圧力の上昇が抑制されたためと考えられる。貯蔵漏液は亜鉛合金自体の自己溶解速度やインヒビター添加が総合的に効いているようであるが、亜鉛合金の自己溶解、すなわち水素ガス発生をできる限り抑制することは長期信頼性の基本であることは明確であり、更には30(μL/g・day)以下が望ましい。
【0073】
実施例1と実施例6の比較から、有機系インヒビターの添加量が50〜5000ppmの範囲である実施例1の方が過放電後の電池総高変化が小さくなることが理解できる。また、実施例には記載していないが、有機系インヒビターの添加量が5000ppmを越えると、その顕著な効果があまり見られなくなり、コストを考えると5000ppm以下が適当である。
【0074】
実施例1と実施例7の比較から、酸化インジウムのような無機系インヒビターを含有する負極を備えた実施例1の電池では、放電深度を40%で止めて放置した場合の電池総高が小さくなっており、無機系インヒビター添加による水素ガス発生抑制効果は明らかである。また、添加量が100ppm以下ではその効果が十分ではない恐れがあり、1000ppmを越えると顕著な効果があまり見られず、性能およびコストを考慮すると100〜1000ppmが望ましい。
【0075】
以上説明したように、本発明によれば無水銀且つ鉛無添加の亜鉛合金粉末を含有する負極でありながら、電池内部での水素ガス発生が長期間にわたり抑制され、電池膨れや漏液などの問題の無い、安全で環境にやさしい高性能なボタン形アルカリ電池を提供することができる。
【0076】
なお、前述した実施例では、ボタン型空気亜鉛電池の例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態をとることができる。たとえば、コイン型、主面の形状が四角もしくは略四角形の扁平形等にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は本発明に係るボタン形アルカリ電池の一実施形態である空気亜鉛電池を示す模式的な断面図。
【図2】図1の空気亜鉛電池の要部拡大断面図。
【図3】亜鉛合金のガス発生速度を測定するための測定装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0078】
1…正極容器、2…開口部の上端、3…空気孔、4…正極触媒層、5…空気拡散紙、6…撥水膜、7…正極集電体、8…セパレータ、9…ゲル状亜鉛負極、10…負極容器、11…リバース部、12…リバース部の底面(負極容器の開口部の端面)、13…基材、14…表面層、15…絶縁性ガスケット、16…段差、17…シールテープ、21…三角フラスコ、22…KOH33重量%水溶液、23…亜鉛合金粉末、24…流動パラフィン、25…流動パラフィン移動管、26…ゴム栓、27…穴、28…ガス収容空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、無水銀かつ鉛無添加の亜鉛合金及びアルカリ電解液を含むゲル状負極と具備するボタン形アルカリ電池であって、
前記負極は、ジメチルジチオカルバミン酸塩、ジプロピルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩及びN1,N2,N3,N5−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機系インヒビターを含有することを特徴とするボタン形アルカリ電池。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の有機系インヒビターは、前記亜鉛合金の質量に対して50ppm以上、5000ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のボタン形アルカリ電池。
【請求項3】
前記亜鉛合金は、その粉末10gをKOH33wt%水溶液10g中に浸漬して60℃雰囲気に保管した際の24時間経過後から72時間までのガス発生速度が90(μL/g・day)以下であることを特徴とする請求項1または2記載のボタン形アルカリ電池。
【請求項4】
前記負極は、酸化インジウム、水酸化インジウム及び酸化ビスマスよりなる群から選択される少なくとも1種類の無機系インヒビターを前記亜鉛合金の質量に対して100ppm以上、1000ppm以下含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のボタン形アルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−179325(P2006−179325A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371808(P2004−371808)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】