説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】耐熱性および強度・剛性に優れ、特に低温において面衝撃強度の高いポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂と、タルクを出発原料とし下記構造式で表され、珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムの混合比率(モル比)が45/55〜35/65で製造され、陽イオン交換容量が50〜70ミリ当量/100gである膨潤性フッ素雲母とからなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
Naα(MgLiβ)Si
ここで、0<α≦0.50、0<β≦0.50、2.5≦x≦3、10≦y≦11、1.0≦z≦2.0であり、α/β=90/10〜10/90である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および強度、剛性に優れ、低温での耐衝撃性の改良されたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂中に膨潤性フッ素雲母が分散したポリアミド樹脂組成物は、従来から知られており、例えば、特許文献1に開示されている。この樹脂組成物は、耐熱性および強度・剛性に優れる反面、伸度や衝撃強度が十分でなかった。
【0003】
この問題を解決する手段として、特許文献2では、膨潤性フッ素雲母が分子レベルで均一分散された、高強度、高耐熱性、高靭性で寸法安定性に優れ、高伸度でかつ高弾性率である強化ポリアミド樹脂が提案された。これによって、衝撃強度はある程度改善されたが、低温域での衝撃強度が不十分だったため、例えば寒冷地での使用が前提であり、高度な耐衝撃性が要求される自動車外装部品等には使用できなかった。
【特許文献1】特開平6−248176号公報
【特許文献2】特開平11−172100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を解消するもので、高強度、高耐熱性、高剛性といった膨潤性フッ素雲母とポリアミド樹脂とからなるポリアミド樹脂組成物が有する性能を保持しつつ、低温域での耐衝撃性が改良され、広い温度領域で衝撃的な外力のもとでも破壊しにくい性能をも併せ持つポリアミド樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂と膨潤性フッ素雲母からなる樹脂組成物において、原料として特定の条件を満たす膨潤性フッ素雲母を用いることで、この目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
ポリアミド樹脂と、タルクを出発原料とし下記構造式で表され、珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムの混合比率(モル比)が45/55〜35/65で製造され、陽イオン交換容量が50〜70ミリ当量/100gである膨潤性フッ素雲母とからなるポリアミド樹脂組成物。
Naα(MgLiβ)Si
ここで、0<α≦0.50、0<β≦0.50、2.5≦x≦3、10≦y≦11、1.0≦z≦2.0であり、α/β=90/10〜10/90である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と膨潤性フッ素雲母とからなるものであり、膨潤性フッ素雲母の珪酸塩層が分子レベルでポリアミド樹脂マトリックス中に分散されたものであることがこのましい。図1に膨潤性フッ素雲母とそれを構成する珪酸塩層との構成的関係をわかりやすく示した。珪酸塩層とは、膨潤性フッ素雲母を構成する基本単位であり、膨潤性フッ素雲母の層構造を崩すこと(以下、「劈開」という)によって得られる板状の無機結晶である。本発明における珪酸塩層とは、珪酸塩層の一枚一枚、もしくは平均5層以下の積層状態を意味する。ここで分子レベルで分散されるとは、膨潤性フッ素雲母の珪酸塩層がポリアミド樹脂マトリックス中に分散する際に、それぞれが平均2nm以上の層間距離を保ち、互いに塊を形成することなく存在している状態をいう。ここで、層間距離とは前記珪酸塩層の重心間距離である。係る状態は、得られたポリアミド樹脂組成物の試験片について、例えば透過型電子顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。
【0008】
本発明において用いるポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。その原料の具体例としては、アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等がある。またラクタムとしてはε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等がある。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等がある。またジカルボン酸としては、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等がある。またこれらジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0009】
係るポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンテレフタルアミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66、またはこれらの共重合体、さらに好ましくはナイロン6またはその共重合体が挙げられる。
【0010】
上記のポリアミド樹脂の相対粘度は、96質量%硫酸中で、温度25℃、濃度1g/dlの条件で求めた値で1.5〜5.0の範囲にあるものが好ましく、2.0〜4.0の範囲にあるものがより好ましい。相対粘度が1.5未満のものは、成形品としたときの機械強度に劣る。一方、相対粘度が5.0を超えるものは、成形性が著しく低下する。
【0011】
本発明における膨潤性フッ素雲母は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した層とその層間に介在する陽電荷(イオン)からなる構造を有するものであり、次式で示される。
Naα(MgLiβ)Si
ここで、0<α≦0.50、0<β≦0.50、2.5≦x≦3、10≦y≦11、1.0≦z≦2.0であり、α/β=90/10〜10/90である。
【0012】
このような膨潤性フッ素雲母の製造法としては、タルク〔MgSi10(OH)〕を出発物質として用い、これにアルカリ金属イオンをインターカレーションして膨潤性フッ素雲母を得る方法が最も好ましい(特開平2−149415号公報)。本発明では、この方法においてタルクに、珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムとの混合物を特定の割合で混合し、磁性ルツボ内で約700〜1200℃で短時間加熱処理することによって膨潤性フッ素雲母を得ることができる。
【0013】
この際、タルクと混合する珪フッ化アルカリの量は、混合物全体の10〜35質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲を外れる場合には膨潤性フッ素雲母の生成収率が低下する傾向にある。
【0014】
上記膨潤性フッ素雲母は、製造時に加える珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムの混合比率が上記組成式におけるα/β比として反映される。この比を変えることによって、陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity、以下、CECと略す)を制御することができる。これは、珪フッ化リチウムに由来するリチウムが実質的にすべて珪酸塩層の構成元素となることで、珪酸塩層の負電荷の一部を電気的に中和して低減し、結果として珪酸塩層とイオン的に対をなす層間の交換性陽イオンの総陽電荷量を減少させることによるものである。珪フッ化ナトリウムに由来するナトリウムイオンの大部分は交換性陽イオンとなり、一部は非交換性イオンとなるがその存在形態の詳細は不明である。
本発明では、CECを80ミリ当量/100g以下とすることが必要であり、50〜70ミリ当量/100gであることが好ましい。従来用いられてきた膨潤性フッ素雲母に比べて低CEC化することにより、分散性を大きく損なうことなく、ポリアミド樹脂中に分散後の珪酸塩層とポリアミド樹脂との相互作用が適度に小さくすることができる。この結果として、ポリアミド樹脂と膨潤性フッ素雲母とからなるポリアミド樹脂組成物が示す高強度、高剛性および高耐熱性などの優れた特性に加え、特に低温での高靱性をも発現する。従ってCECが80ミリ当量/100gを越えるものは、強度や剛性の大幅な向上に比べれば靱性の向上率は小さくなり、特に低温での衝撃強度の改良効果に乏しくなる。一方、CECが50ミリ当量/100gより小さいものは、分散性が低下すると共に、膨潤性フッ素雲母によるポリアミド樹脂の補強効果が小さくなり、耐熱性や強度、剛性の向上効果が認められなくなる。
本発明のごとくCECを最適な値に制御するためには、珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムの混合比率は、モル比で80/20〜35/65とすることが好ましく、55/45〜35/65とすることがより好ましい。
【0015】
膨潤性フッ素雲母のような層状珪酸塩のCECを測定する方法はいくつか知られているが、代表的なものとして、日本ベントナイト工業会標準試験方法による粉状ベントナイトのCEC測定方法[JBAS−106−77](A法)、及びFrank O. Jones, Jr.の方法[粘土ハンドブック(第2版)、587頁、技報堂、1987年](B法)などがあり、本発明ではA法を採用した。
なお、タルクと珪フッ化アルカリとから製造される膨潤性フッ素雲母は、A法とB法とではCEC値が異なる場合があり、例えば後述の「膨潤性フッ素雲母の製造例3」で得られる(M−3)はB法で70ミリ当量/100g、A法では110ミリ当量/100gとなる。
【0016】
上記膨潤性フッ素雲母の初期粒径は、原料のタルクの粒径を適宜選択するか、または製造後に粉砕や分級などの手段によって制御することができる。本発明においては、メタノール分散媒中、レーザー回折法で測定した平均粒径を2.5μm以下、より好ましくは1.5μm以下とすることによって、衝撃強度をさらに改良することができる。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造にあたって、膨潤性フッ素雲母の交換性陽イオンを予めオニウム塩などの有機物と交換する処理を行ってもよいが、膨潤性フッ素雲母は、ポリアミドモノマーの存在下で重合時に添加された際の分散性にすぐれるため、重合時に添加される場合には、オニウム塩等で処理を施さなくても良好な効果が得られる。また、予め水ひ処理(elutriation)により、非膨潤性の微量成分を除去する精製を施すこともできる。
【0018】
本発明において、膨潤性フッ素雲母の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることが特に好ましい。膨潤性フッ素雲母系鉱物の配合量が0.01質量部より少ないものは、成形品としたときの耐熱性および強度・剛性が十分に得られない傾向にある。また、膨潤性フッ素雲母の配合量が50質量部を超えたものは、靭性に劣り、十分な衝撃強度が得られないだけでなく、後述するように、本発明のポリアミド樹脂組成物を製造するに当たって、例えば、その重合が困難になる傾向にある。
【0019】
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法には、膨潤性フッ素雲母の存在下で、出発モノマーを重合する方法がある。この際膨潤性フッ素雲母の配合量は、ポリアミド樹脂を形成するモノマー100質量部に対して0.01〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることがとりわけ好ましい。膨潤性フッ素雲母の配合量が0.01質量部より少ないものは、成形品としたときの耐熱性および強度・剛性が十分に得られない傾向にある。また、膨潤性フッ素雲母の配合量が50質量部を超えたものは、靭性に劣り、十分な衝撃強度が得られないだけでなく、ポリアミド樹脂の重合が困難になる傾向にある。
【0020】
膨潤性フッ素雲母の存在下で、出発モノマーを重合するには、公知のポリアミドの重合方法を採用することができ、中でも、バッチ式、連続式を問わず、溶融重縮合法が好ましい。具体的には、必要な原料をオートクレーブに仕込み、水等の開始剤の存在下で温度240〜300℃、圧力0.2〜3MPaで、1〜15時間の範囲で行えばよい。こうした温度、圧力、時間の条件を採ることで、膨潤性フッ素雲母がポリアミド樹脂中に分子レベルで分散するため好ましい。ナイロン6をマトリクスとする場合には、温度250〜280℃、圧力0.5〜2MPa、3〜5時間の範囲で重合することが好ましい。また、重合後のポリアミド樹脂組成物に残留しているポリアミドのモノマーを除去するために、熱水による精練工程を経ることが好ましい。この場合、好ましくは90〜100℃の熱水中で5時間以上の処理をすればよい。
【0021】
また、膨潤性フッ素雲母とポリアミドモノマーとを、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の分散媒中で混合させる工程を設けてもよい。この工程によって、膨潤性フッ素雲母のモノマー中への分散を促進することができる。温度条件は、室温、あるいは必要に応じて室温以上、分散媒の沸点以下としてもよい。混合においては攪拌効率を上げるための手段として、ホモミキサー、超音波式分散機、高圧分散機等を用いてもよい。
【0022】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法には、ポリアミド樹脂と膨潤性フッ素雲母とを溶融混練する方法もある。この際膨潤性フッ素雲母の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることがとりわけ好ましい。膨潤性フッ素雲母の配合量が0.01質量部より少ないものは、成形品としたときの耐熱性および強度・剛性が十分に得られない傾向にある。また、膨潤性フッ素雲母の配合量が50質量部を超えたものは、靭性に劣り、十分な衝撃強度が得られない傾向にある。
【0023】
溶融混練を行う際、膨潤性フッ素雲母は固体・粉末の状態で樹脂と混合しても良いし、水やエチレングリコール等の極性溶媒中に分散させた状態で混合しても良いが、後者の場合、溶融混練中に発生する溶媒蒸気を除去するために、排気装置が適切に設計された溶融混練装置を用いることが好ましい。また混合に先立って、層間に存在する交換性カチオンをオニウムイオン等の有機カチオンで交換する工程を設けると、混練時に膨潤性フッ素雲母がポリアミド樹脂中に分子レベルで分散しやすくなるため好ましい。
【0024】
また、前記の各方法で作成した膨潤性フッ素雲母を含有するポリアミド樹脂には、前記した各種ポリアミド樹脂から同種又は異種を問わず、適宜選んで混合することができる。この際に選ばれるポリアミド樹脂は、膨潤性フッ素雲母が含有されていてもいなくてもよい。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損わない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤などが添加されていてもよく、これらは重合または溶融混練による製造時、あるいは得られたポリアミド樹脂組成物を溶融混練もしくは溶融成形する際に加えられる。
【0026】
熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
強化材としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。
【0028】
さらに、ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の熱可塑性重合体が少量混合されていてもよく、これらは得られたポリアミド樹脂組成物を溶融混練または溶融成形する際に加えられる。このような熱可塑性重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマー又はこれらの無水マレイン酸等による酸変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレートなどが挙げられる。これらの熱可塑性重合体は、膨潤性フッ素雲母や他の層状珪酸塩、例えばモンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト等を含有するものでもよい。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、通常の成形加工方法で目的の成形品とすることができる。例えば、射出成形、押出成形、吹き込み成形等の熱溶融成形法により各種の成形品とすることができる。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層が分子レベルで分散されてなるものであり、従来この種の樹脂組成物が有する優れた耐熱性および強度、剛性に加え、特に低温域での耐衝撃性に優れており、−30℃の条件で測定した面衝撃強度が10J以上であることを特徴とする。この特性によって、これまで実現が困難であった、寒冷地での使用も考慮される自動車、機械等の外装部品に好適に使用できる。もちろん、衝撃強度は室温においても改良されているため、他の自動車の内外装部品、家電機器や電子機器のハウジング等をはじめ、耐熱性、強度・剛性、衝撃強度等の要求される幅広い分野に適用できる。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、常法により溶融紡糸してフィラメントとすることができる。また、チューブラー法やT−ダイ法あるいは溶液キャスティング法等によりフィルムあるいはシートにすることができる。得られたフィルムは、伸度特性、ガスバリヤー性に優れるため、包装用フィルム等に好適に利用できる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例並びに比較例で用いた物性試験の測定法は次の通りである。
【0033】
(a)膨潤性フッ素雲母の初期平均粒径
レーザー回折法による粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−2000型)を用い、メタノールを分散媒とし、フローセル中で測定することにより求めた。
(b)膨潤性フッ素雲母の陽イオン交換容量(CEC)
日本ベントナイト工業会標準試験方法によるベントナイト(粉状)のCEC測定方法(JBAS−106−77)に基づいて求めた。
すなわち、浸出液容器、浸出管及び受器を縦方向に連結した装置を用いて、まず始めに、pH7に調整した1N酢酸アンモニウム水溶液により、膨潤性フッ素雲母の層間カチオンの全てをNHに交換する。その後、水とエチルアルコールを用いて十分に洗浄してから、前記NH型の膨潤性フッ素雲母を10質量%の塩化カリウム水溶液中に浸し、試料中のNHをKに交換する。引き続いて、前記イオン交換反応に伴って侵出したNHを0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって膨潤性フッ素雲母のCEC(ミリ当量/100g)を求めた。
なお、本発明における膨潤性フッ素雲母は、イオン交換能を有するカチオンは全てナトリウムイオンであるため、陽イオン交換容量は1ミリ当量/100g=1ミリモル/100gに相当する。
(c)樹脂組成物の相対粘度
96質量%硫酸を溶媒としてポリアミド成分の濃度が1g/dlになるよう調製し、ウベローデ型粘度計を用いて25℃で測定した。
(d)試験片の面衝撃強度
デュポン式落錘衝撃試験機にて厚み1.6mm、直径100mmの円板成形片に所定の高さから重錘を落下させて面衝撃強度を測定した。それぞれの高さ、重錘の組合せからなる条件下でn=5、23℃及び−30℃の温度下で測定した。なお、面衝撃強度Gは、以下の式で求められるエネルギーである。
G(J)=G+(G−G)/2
:(成形片が破壊しない最高高さ)×(重力加速度)×(落錘荷重)
:(成形片が破壊する最低高さ)×(重力加速度)×(落錘荷重)
(e)試験片の引張強度および引張破断伸度
ASTM D−638に基づいて測定した。
(f)試験片の曲げ弾性率
ASTM D−790に基づいて測定した。
(g)試験片の荷重たわみ温度
ASTM D−648に基づいて、荷重1.86MPaで測定した。
【0034】
膨潤性フッ素雲母の製造例は以下の通りである。
膨潤性フッ素雲母の製造例1
平均粒径1.0μmのタルクに対し、平均粒径が10μmの珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムのモル比45/55の混合物を全量の15質量%になるように混合し、これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、平均粒径1.0μmの膨潤性フッ素雲母(M−1)を得た。この膨潤性フッ素雲母の組成は、Na0.29(Mg2.92Li0.36)Si101.57、CECは66ミリ当量/100gであった。
【0035】
膨潤性フッ素雲母の製造例2
平均粒径4.5μmのタルクに対し、平均粒径が10μmの珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムのモル比45/55の混合物を全量の15質量%になるように混合し、これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより平均粒径4.5μmの膨潤性フッ素雲母(M−2)を得た。この膨潤性フッ素雲母の組成は、Na0.29(Mg2.92Li0.36)Si101.57、CECは68ミリ当量/100gであった。
【0036】
膨潤性フッ素雲母の製造例3
平均粒径6.0μmのタルクに対し、平均粒径が10μmの珪フッ化ナトリウムを全量の15質量%になるように混合し、これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、平均粒径6.0μmの膨潤性フッ素雲母(M−3)を得た。この膨潤性フッ素雲母の組成は、Na0.60Mg2.63Si101.77、CECは110ミリ当量/100gであった。なおこの膨潤性フッ素雲母は特開平11−172100号公報の実施例で使用されているものと平均粒径のみが異なる同一組成のものである。
上記で得たM−1〜3について、広角X線回折測定(理学電機社製、広角X線回折装置RAD−rB型を使用)を行った結果、いずれについても、原料タルクのc軸方向の厚み9.2Åに対するピークは消失し、膨潤性フッ素雲母の生成を示す12〜13Åに対応するピークが認められた。
【0037】
得られた膨潤性フッ素雲母の組成と特性を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1
ε−カプロラクタム10kg、膨潤性フッ素雲母(M−1)0.2kg、水1kgを内容量30リットルの反応缶に入れ、攪拌しながら、0.7MPaの圧力まで昇圧した。そして徐々に水蒸気を放圧しつつ、圧力0.7MPa、温度260℃に保って2時間重合した後、1時間かけて常圧まで放圧した。その後、常圧下、260℃に2時間放置した後、ストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
次いで、このペレットを95℃の熱水で8時間精練を行い、この操作を2度繰り返した後、真空乾燥することにより、ポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレットを得た。
次に、この乾燥ペレットを射出成形機(東芝製、IS80G型)を用い、シリンダー温度260℃、金型温度70℃で射出成形を行い、各種の試験片を作成した。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0040】
実施例2
膨潤性フッ素雲母として(M−2)を用いた他は実施例1と同様に重合を行い、精練、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0041】
実施例3
膨潤性フッ素雲母(M−1)の仕込量を0.1kgに変えた他は実施例1と同様に重合を行い、精練、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0042】
実施例4
膨潤性フッ素雲母(M−1)の仕込量を0.4kgに変えた他は実施例1と同様に重合を行い、精練、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0043】
比較例1
膨潤性フッ素雲母として(M−3)を用いた他は実施例1と同様に重合を行い、精練、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0044】
比較例2
膨潤性フッ素雲母の代わりに1g(0.1%相当)のタルクを結晶核剤として仕込み、実施例1と同様に重合を行い、精練、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0045】
実施例5
膨潤性フッ素雲母(M−1)0.2kgと12−アミノドデカン酸塩酸塩33.2g(CECに対して当量)とを混合し、90℃の温水中で3時間撹拌した後、固形分を濾別・乾燥し、有機処理雲母を得た。この有機処理雲母の全量とナイロン6樹脂ペレット(ユニチカ株式会社製、A1030BRL)10kgとを混合し、二軸押出機(池貝鉄工社製PCM−30型)を用い、シリンダ温度260℃で溶融混練し、次いでストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを乾燥後、実施例1と同様に射出成形を行い、各種の試験片を作成した。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0046】
実施例6
膨潤性フッ素雲母として(M−1)を用い、12−アミノドデカン酸塩酸塩の量を34.2g(CECに対して当量)に変えた他は実施例6と同様に有機処理、溶融混練を行い、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0047】
比較例3
膨潤性フッ素雲母として(M−3)を用い、12−アミノドデカン酸塩酸塩の量を55.4g(CECに対して当量)に変えた他は実施例6と同様に有機処理、溶融混練を行い、乾燥、射出成形を行うことによりポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレット及び試験片を得た。
上記の方法で得られたポリアミド樹脂組成物のペレット及び試験片を用い、各種の物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2の結果から、次のことが明らかである。
実施例1〜6で得られたポリアミド樹脂組成物は、いずれも耐熱性および強度、剛性に優れ、23℃及び−30℃における面衝撃強度も高いものであった。
【0050】
これに対し、比較例1で得られたポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、強度、剛性および23℃における面衝撃強度に優れていたが、−30℃における面衝撃強度に劣るものであった。比較例2で得られたポリアミド樹脂組成物は、射出成形用非強化ナイロン6の標準的な組成を有しており、膨潤性フッ素雲母が添加されていないため耐熱性および強度、剛性はナイロン6と同等であった。比較例3で得られたポリアミド樹脂組成物は、耐熱性および強度、剛性は高かったが、23℃、−30℃いずれの温度においても面衝撃強度に劣るものであった。
【0051】
(発明の効果)
本発明によれば、耐熱性および強度・剛性に優れ、特に低温において面衝撃強度の高いポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】膨潤性フッ素雲母とそれを形成する珪酸塩層との構成的関係を説明するための図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、タルクを出発原料とし下記構造式で表され、珪フッ化ナトリウムと珪フッ化リチウムの混合比率(モル比)が45/55〜35/65で製造され、陽イオン交換容量が50〜70ミリ当量/100gである膨潤性フッ素雲母とからなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
Naα(MgLiβ)Si
ここで、0<α≦0.50、0<β≦0.50、2.5≦x≦3、10≦y≦11、1.0≦z≦2.0であり、α/β=90/10〜10/90である。
【請求項2】
96質量%硫酸を溶媒としてポリアミド樹脂の濃度が1g/dlになるように調整し、25℃で測定されるポリアミド樹脂組成物の相対粘度が、2.5〜4.0である、請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記膨潤性フッ素雲母が、タルク、珪フッ化リチウム及び珪フッ化ナトリウムとを混合し、加熱することによって得られるものである請求項1又は2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
膨潤性フッ素雲母の初期平均粒径が2.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
−30℃における面衝撃強度が10J以上である請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
−30℃における面衝撃強度が20J以上である請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−217714(P2007−217714A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150240(P2007−150240)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【分割の表示】特願2001−385511(P2001−385511)の分割
【原出願日】平成13年12月19日(2001.12.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000105419)コープケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】