説明

ポリオキサゾリドン樹脂、ならびにその製造方法および用途

【課題】 耐熱性、接着性、絶縁性および可撓性に優れ、かつ保存安定性に優れた新規なオキサゾリドン樹脂およびその効率的な製造方法、ならびにこのようなオキサゾリドン樹脂を用いた絶縁塗料および絶縁電線を提供すること。
【解決手段】 (a)−NHCOOBで表される基(Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す)を3〜4個有するポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物と、
(b)ジエポキシ化合物と
を反応させて得られ、
少なくとも、−NHCOOB末端と下記式(1)
【化9】


(式(1)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
で表される繰り返し単位とを有するポリオキサゾリドン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリオキサゾリドン樹脂およびその製造方法、ならびにそれを用いた絶縁塗料および絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の小型化、軽量化に伴い、電線やケーブルの細径化、軽量化や、基板の薄型化、軽量化が進められており、安価で、より優れた耐熱性を有する絶縁被覆材が望まれている。
【0003】
安価な多官能イソシアネートと多官能エポキシ化合物との反応によって得られるオキサゾリドン環を有する樹脂(非特許文献2参照)は、優れた熱特性を示すことから、電気絶縁性、耐熱性を有する新規な樹脂素材として期待されている。多官能イソシアネートと多官能エポキシ樹脂との反応によって得られるこの種の樹脂は、生成反応の進行が複雑、困難であり、多量の望ましくない副生成物が形成される。主な副生成物としては、イソシアナートの三量化により形成されるイソシアヌレートや、多官能エポキシ化合物のホモ重合により形成されるポリエーテルが挙げられる。
【0004】
このようなオキサゾリドン環以外の構造を有する副生成物を含むポリオキサゾリドン樹脂は、一般に耐熱性は良好であるが、堅くて脆い、つまり熱硬化後の樹脂の硬度が高くなる。このため、このような樹脂で被覆した電線や金属板に、巻き付けや折り曲げといった加工を施すと、被膜が破損するなどの不具合があり、特に衝撃強度が小さいか、あるいは可撓性が悪いという欠点を有することが指摘されている。
【0005】
さらに、多官能イソシアネートと多官能エポキシ化合物との反応において、多官能エポキシ化合物の量が多くなると強い発熱反応が起こり、その結果、成形体にスコーチが発生し、成形体の熱劣化が生じることが指摘されている。
【0006】
これに対して、ビスウレタンとビスエポキシとから、三量化イソシアヌレートを含まないポリオキサゾリドン樹脂を形成させる方法が知られている(特許文献1および非特許文献1参照)。この方法などにおいて、耐熱性、電気絶縁性を示すポリオキサゾリドン樹脂に十分な可撓性を付与することができれば、安価な耐熱性絶縁被覆材として利用できるものと期待される。しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載のオキサゾリドン樹脂は、三量化イソシアヌレート基を含まず、基本骨格としてオキサゾリン環のみを有する点で、構造的にシンプルなポリマーであるが、末端にエポキシ基を有するため、エポキシ基がさらに反応して架橋するなど、樹脂特性として硬く脆い性質があり、熱的にも安定ではなく、また、耐熱性や保存安定性に劣ったり、接着性が不十分であるという問題点があった。さらに、非特許文献1に記載の製造方法では、反応速度が遅く、分子量が高く有用なポリマーを得るには時間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開平5−306327号公報
【非特許文献1】岩倉ら、ジャーナル オブ ポリマー サイエンス パートA−1(J.Polymer Sci.Part A−1)、4巻、751〜760頁、1966年
【非特許文献2】サンダーら(Sander et.al.)、ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス(J.Appl.Polymer Sci.)、9巻、1994頁、1965年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、耐熱性、接着性、絶縁性および可撓性に優れ、かつ保存安定性に優れた新規なオキサゾリドン樹脂およびその効率的な製造方法、ならびにこのようなオキサゾリドン樹脂を用いた絶縁塗料および絶縁電線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究した結果、ポリイソシアナートをブロック剤でブロックしたポリアルキルカーバメート化合物とジエポキシ化合物とを反応させることにより、耐熱性、接着性および可撓性に優れ、かつ保存安定性に優れた新規なオキサゾリドン樹脂を効率的に得られることを見出し、さらに、この樹脂は優れた絶縁性を有し、絶縁材料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、(a)−NHCOOBで表される基(Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す)を3〜4個有するポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物と、(b)ジエポキシ化合物と
を反応させて得られ、
少なくとも、−NHCOOB末端と下記式(1)
【0010】
【化3】

【0011】
(式(1)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
で表される繰り返し単位とを有することを特徴とする。
【0012】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)との反応を促進させるために用いられた触媒(c)の残存含有量は0.2重量%以下であることが好ましい。
【0013】
上記ポリオキサゾリドン樹脂を製造する際、前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)とを、前記反応を促進させる触媒(c)の存在下、前記ジエポキシ化合物(b)に対して前記アルキルカーバメート化合物(a)を過剰に用いて反応させることが好ましく、モル当量比(a)/(b)が1.001〜1.1の範囲で反応させることがより好ましい。
【0014】
前記アルキルカーバメート化合物(a)は、3〜4官能のポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートおよび3〜4官能のウレトンイミン変性ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートからなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物であることが好ましい。
【0015】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)とを反応させた後、得られた粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部、有機溶媒100〜3000重量部、水1〜40重量部および吸着剤0.05〜5.0重量部と、前記触媒(c)1モルに
対して無機酸または有機酸0.5〜8モル当量とを混合し、次いで、この混合物から水を留去した後、ろ過操作を施すことが好ましい。
【0016】
本発明に係る絶縁塗料は、上記ポリオキサゾリドン樹脂を含有し、本発明に係る絶縁電線は、電気導体と、該電気導体に上記絶縁塗料を塗布し、焼き付けて形成した絶縁層とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、基本骨格としてオキサゾリン環を有するため、絶縁性、耐熱性、接着性に優れ、かつイソシアヌレート基およびエポキシ基を有さないため、可撓性および保存安定性に優れている。また、本発明によると、このような樹脂を効率的に製造することができる。さらに、このような樹脂は、絶縁性、耐熱性、接着性、可撓性および半田付け性を兼ね備えた塗膜を形成することができ、絶縁塗料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔ポリオキサゾリドン樹脂およびその製造方法〕
(a)ポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物
本発明に用いられるポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物(a)(以下、「アルキルカーバメート化合物(a)」ともいう)は、−NHCOOBで表される基(Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す)を3〜4個有し、3〜4個のイソシアナート基を有するポリイソシアナートのイソシアナート基をブロック剤でブロックすることにより得ることができる。
【0019】
(a1)ポリイソシアナート
上記ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアナート、脂肪族ポリイソシアナート、脂環式ポリイソシアナートなどが挙げられる。
【0020】
さらに詳細には、芳香族ポリイソシアナートとしては、3〜4官能のポリメチレンポリフェニルポリイソシアナート、3〜4官能のウレトンイミン変性ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナート(以下、UI−MDI)と略す)、トリフェニルメタントリイソシアナート、トリス(フェニルイソシアナート)チオホスフェート、トリレンジイソシアネート(以下「TDI」と略す)等の芳香族ジイソシアナートのトリメチロールプロパン(以下「TMP」と略す)アダクト体、メチレン基やイソプロピル基等で架橋されたジフェニルベンゼン型の2核3官能トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナートベンゼン等が挙げられる。
【0021】
脂肪族または脂環式のポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族または脂環式のジイソシアナート類のTMPアダクト体、前記ジイソシアナート類のビュウレット体、前記ジイソシアナート類のイソシアヌレート体、リジンエステルトリイソシアナート、メチレン、メチン、および/またはイソプロピリデンに結合したイソシアネート基を3〜4個有する化合物が挙げられる。
【0022】
(a2)ブロック剤
上記ブロック剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等の炭素数が1〜12のモノアルコールが挙げられる。これらのモノアルコールは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらのブロック剤のうち、2−エチルヘキサノール、ブタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0023】
(アルキルカーバメート化合物(a)の調製)
本発明に用いられるポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物は、上記ポリイソシアネートに上記ブロック剤を従来公知の方法により付加させることにより得ることができる。この付加反応により形成される−NHCOOBで表される基中のBは、ブロック剤の炭化水素残基である。
【0024】
上記付加反応において、ブロック剤は、ポリイソシアネートのイソシアネート基に対して当量用いることが好ましいが、当量以上使用して未反応のブロック剤を回収してもよい。また、上記付加反応は、20〜150℃の温度で行うことが好ましい。
【0025】
本発明では、ポリイソシアナートのブロック化は、後述するジエポキシ化合物(b)との縮合反応の前に予め実施することが望ましいが、ジエポキシ化合物(b)とブロック剤の混合液中にポリイソシアナートを加え、縮合反応させながらブロック化することもできる。
【0026】
(b)ジエポキシ化合物
本発明において用いられるジエポキシ化合物(b)としては、ジグリシジルエーテル類、ジグリシジルエステル類、線状脂肪族ジエポキシド類、脂環式ジエポキシド類等が挙げられる。
【0027】
ジグリシジルエーテル類としては、たとえば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のその他の2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
ジグリシジルエステル類としては、たとえば、テレフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸やダイマー酸のジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0029】
線状脂肪族ジエポキシド類としては、たとえば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。
脂環式ジエポキシド類としては、たとえば、ダイセル化学工業社のセロキサイド2021、3000など;3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
【0030】
これらのジエポキシ化合物のうち、グリシジルエーテル類が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールAのグリシジルエーテル(以下、「BPA−DGE」略す)が特に好ましい。
【0031】
(c)触媒
本発明では、ポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)とを反応させる際に、この反応を促進させる触媒(c)を使用することが好ましい。
【0032】
このような触媒(c)としては、下記式(2)
【0033】
【化4】

【0034】
(式(2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
で表されるホスフィンオキシド化合物が挙げられるが、この式(1)は極限構造式である。上記(1)において、リン原子と酸素原子の間を二重結合で表現しているが、本発明に用いられるホスフィンオキシド化合物は、酸素原子上に電子が偏ったアニオンとリン原子上にカチオンが生じた形態(P+−O-)で用いてもよい。また、リン原子上のカチオンは共役系を通して全体に非局在化していてもよい。さらに、本発明に用いられるホスフィンオキシド化合物は、上記全ての形態を含んだ共鳴混成体であってもよい。
【0035】
上記式(2)で表されるホスフィンオキシド化合物が水を含む場合、その水とホスフィンオキシド化合物との相互作用は、ホスフィンオキシド化合物の特性を失わず、本発明の目的を阻害しない限り、特に制限されない。
【0036】
上記式(2)中のRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、アリル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ブテニル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2−メチル−1−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、4−メチル−2−ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−ヘプチル、3−ヘプチル、1−オクチル、2−オクチル、2−エチル−1−ヘキシル、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル(通称、tert−オクチル)、ノニル、デシル、フェニル、4−トリル、ベンジル、1−フェニルエチルおよび2−フェニルエチル等の脂肪族または芳香族の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基のうち、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、tert−ペンチルおよび1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル等の炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
上記式(2)で表される具体的なホスフィンオキシド化合物としては、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドが挙げられる。
上記式(2)で表されるホスフィンオキシド化合物は、ジー.エヌ.コイダン(G.N.Koidan)ら、ジャーナル オブ ジェネラル ケミストリー オブ ザ ユーエスエスアール(USSR)、55巻、1453頁、1985年に記載の方法で合成することができる。
【0038】
これらのホスフィンオキシド化合物は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
また、本発明では、下記式(3)
【0039】
【化5】

【0040】
(式(3)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Z-はアニオン
を表す。)
で表されるホスファゼニウム化合物を触媒(c)として使用することもできる。
上記式(3)中のカチオンは、その電荷が中心の燐原子上に局在する極限構造式で表しているが、これ以外にも多数の極限構造式で表され、実際にはその正電荷がカチオン全体に非局在化している。
【0041】
上記式(3)中のRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、具体的には、式(2)において例示したRと同様の炭化水素基が挙げられる。
上記式(2)中のZ-としては、ハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルコキシ
アニオン、アリールオキシアニオンおよびカルボキシアニオンが挙げられる。具体的には、フッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン等のハロゲンアニオン;ヒドロキシアニオン;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノール、オクタヒドロナフトール等のアルコール類から導かれるアルコキシアニオン;フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、2−メチル−1−ナフトール、9−フェナンスロール等の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオン;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、デカンカルボン酸、オレイン酸等のカルボン酸から導かれるカルボキシアニオンなどが挙げられる。
【0042】
これらのアニオンのうち、ヒドロキシアニオン;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの炭素数1〜4の飽和アルキルアルコールから導かれるアルコキシアニオン;フェノール、クレゾールなどの炭素数6〜8の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオンが好ましく、ヒドロキシアニオン、メトキシアニオン、フェノキシアニオンがより好ましく、ヒドロキシアニオンが特に好ましい。
【0043】
上記式(3)で表される具体的なホスファゼニウム化合物としては、式:[(Me2
3P=N]4+・OH-で表される、水酸化テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムが挙げられる。
【0044】
上記式(3)で表されるホスファゼニウム化合物は、EP特許0791600号公開公
報の12〜13頁に記載の方法またはこれに類似の方法で合成することができる。
これらのホスファゼニウム化合物は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明では、上記式(2)および(3)で表される化合物以外に、従来公知の触媒も使用できる。このような触媒としては、たとえば、ブトキシリチウム、メトキシナトリウム等の金属アルコラート;塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸;このルイス酸とトリフェニルホスフィンオキサイド等のルイス塩基との混合物;テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリラウリルメチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム等のクロライド、ブロマイド、ヨーダイド、アセテート等の4級アンモニウム塩;トリエチルアミン、ジブチルメチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルモルホリン等の3級アミン類;2−エチル−4−メチルイミダゾール(以下、「EMI」と略す)、N−イソブチルー2メチルイミダゾール、N−ベンジルー2−メチルイミダゾール、N−ベンジルー2−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
【0046】
これらの触媒(c)は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。単独で使用する場合、上記触媒(c)のうち、触媒活性、および縮合反応時または保管中にゲル化が起こりにくいという点から、上記式(2)または(3)で表される化合物が好ましい。2種以上を混合して用いる場合、上記式(2)で表されるホスフィンオキシド化合物、上記式(3)で表されるホスファゼニウム化合物、および従来公知の触媒からなる群から2種以上を選択して使用することができるが、このうち、触媒活性、および縮合反応時または保管中にゲル化が起こりにくいという点から、上記式(2)で表されるホスフィンオキシド化合物および/または上記式(3)で表されるホスファゼニウム化合物を主として使用することが好ましい。
【0047】
本発明において、触媒(c)は、ジエポキシ化合物(b)に対して、5ppm〜2重量%の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは10ppm〜1重量%である。
また、触媒(c)は、そのまま使用してもよいし、適当な溶剤に希釈して用いてもよい。
【0048】
さらに、本発明では、上記触媒(c)とともに、ポリイソシアネートのアルキルカーバメート化合物(a)中のブロック剤由来の炭化水素残基(B)の解離を促進する解離促進剤を使用してもよい。解離促進剤としては、錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩等が挙げられる。解離促進剤は、ジエポキシ化合物(b)に対して、10ppm〜1重量%の範囲で使用することが好ましい。
【0049】
(d)溶剤
本発明では、ポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)との反応を、無溶剤で実施してもよいが、溶剤中で実施してもよい。溶剤を使用する場合、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略す)、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略す)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略す)、ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と略す)、メチルイソブチルケトン(以下、「MIBK」と略す)、ブチルセロソルブアセテート等の活性水素を含まない溶剤が好ましい。
【0050】
<ポリオキサゾリドン樹脂>
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、上記ポリイソシアネートのアルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)とを縮合反応させることにより製造することができる。この縮合反応は、加熱により以下のように脱アルコール反応が起こることにより進行し、その結果、オキサゾリドン環が形成される。
【0051】
【化6】

【0052】
(式中、R1〜R3およびBは、上記式(1)におけるR1〜R3およびBと同義である。)
上記縮合反応では、上記触媒(c)を使用することが好ましい。また、ジエポキシ化合物(b)に対して上記アルキルカーバメート化合物(a)を過剰に用いることが好ましく、具体的には、ジエポキシ化合物(b)1モル(2当量)に対して、アルキルカーバメート化合物(a)の使用量を好ましくは1.001〜1.1モル当量比、より好ましくは1.01〜1.05モル当量比、特に好ましくは1.01〜1.03モル当量比とすることが望ましい。アルキルカーバメート化合物(a)の使用量が上記範囲にあると、ジエポキシ化合物の自己硬化反応が起こりにくく、ポリオキサゾリドン樹脂の分子量を増加させることができるとともに、得られるポリオキサゾリドン樹脂は、エポキシ基やイソシアネート基を含有せず、末端がブロックされているため、保存安定性に優れている。また、アルキルカーバメート化合物が量論的に残存しにくく、アロファネート化合物の生成を抑制でき、耐熱性に優れたポリオキサゾリドン樹脂を得ることができる。
【0053】
アルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)との反応は、好ましくは100℃〜230℃、より好ましくは120℃〜220℃、さらに好ましくは150℃〜200℃、特に好ましくは150〜190℃、最も好ましくは160〜180℃の範囲の温度で実施することが望ましい。反応温度が上記範囲にあると、−NHCOOBが良好に解離して脱アルコール反応が起こり、縮合反応が十分に進行するとともに、良好な触媒活性が得られ、イソシアヌレート環の生成等の副反応や生成した樹脂の劣化を抑制できる。その結果、可撓性、密着性等に優れたポリオキサゾリドン樹脂が得られる。なお、上記反応の進行とともに、アルキルカーバメート化合物(a)からブロック剤が再生されるが、
これらは反応系内からデカンター等を使用して系外に除去することができる。
【0054】
本発明において、上記アルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)との縮合反応は、上記アルキルカーバメート化合物(a)とジエポキシ化合物(b)とを上記当量比で混合し、この混合物を上記温度に加熱することにより実施することができる。
【0055】
また、予め、上記ジエポキシ化合物(b)を上記温度に保持し、上記アルキルカーバメート化合物(a)を分割挿入することにより、縮合反応を行うこともできる。このとき、触媒(c)を使用する場合には、触媒(c)はアルキルカーバメート化合物(a)に予め添加しておくことが望ましいが、ジエポキシ化合物(b)に添加しておくこともできる。この場合、ジエポキシ化合物(b)を反応器に所定量投入して所定温度に加熱し、その後、触媒(c)をそのまま、あるいは適当な溶剤に混ぜて投入することが望ましい。触媒投入温度は、好ましくは80〜180℃、より好ましくは100〜180℃で、特に好ましくは120〜180℃、最も好ましくは140〜180℃である。上記下限未満の温度で触媒を投入すると、所定の反応温度に到達するまでにエポキシ基と分子内2級アルコール性基との反応が促進され、エポキシ基濃度が低下するおそれがあり、上記上限を超える温度で触媒を投入すると、縮合反応が暴走するおそれがある。
【0056】
次いで、アルキルカーバメート化合物(a)を、そのまま、あるいは適当な溶剤に混合して投入する。このとき、1回または数回に分けて、さらに間欠的または連続的に滴下することができる。滴下は、30分間以上かけて実施することが好ましく、より好ましくは1〜3時間、特に好ましくは1〜2時間かけて滴下することが望ましい。上記範囲の時間をかけて滴下すると、イソシアネレート環の生成やエポキシ樹脂の変質を抑制することができる。
【0057】
このようにして得られたポリオキサゾリドン樹脂は、少なくとも、−NHCOOB末端と下記式(1)
【0058】
【化7】

【0059】
(式(1)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
で表される繰り返し単位とを有する。この樹脂は、上記式(1)で表されるオキサゾリドン環を有するため、耐熱性、絶縁性に優れているとともに、溶融粘度が低く、取扱い性にも優れている。また、末端基がブロックされているため、保存安定性にも優れている。この末端基は加熱により容易に脱アルコールされ、架橋構造を形成することができる。さらに、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、ジイソシアナートのアルキルカーバメート化合物を使用した場合に比べて耐熱性に優れている。これは、本発明に用いられるアルキルカーバメート化合物(a)が3〜4個の−NHCOOB基を有するため、上記縮合反応により適度な架橋構造が形成されるとともに、さらに高温で熱処理により十分な架橋構造が形成されるためであると推察される。
【0060】
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5000〜30
0000、より好ましくは20,000〜300,000、特に好ましくは30,000〜300,000である。
【0061】
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂はイソシアヌレートの含有量が少なく、良好な保存安定性を示し、優れた可撓性を有する。ワニス状態やプリプレグ状態とした場合には、保存安定性がさらに良好となる。イソシアヌレートの含有量は、具体的には、赤外吸収スペクトル測定により求められる、オキサゾリドン環由来のカルボニル基の伸縮振動ピーク(1750cm-1付近)とイソシアヌレート環由来カルボニル基の伸縮振動ピーク(1709cm-1付近)の吸光度の比(IS/OX比)が、0.1以下が好ましくは、0.03以下が特に好ましい。
【0062】
<触媒除去方法>
上記のようにして得られたポリオキサゾリドン樹脂は、耐熱性に優れているが、触媒(c)を用いてポリオキサゾリドン樹脂を調製した場合、残存する触媒(c)の作用により高温環境下においてオキサゾリドン環の熱分解反応が起こることがあり、高温時の熱的安定性が低下することがある。このため、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂の製造方法では、たとえば以下に示す触媒除去操作を実施し、ポリオキサゾリドン樹脂に対して触媒(c)の残存含有量を0.2重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%にすることが望ましい。なお、触媒(c)の残存含有量はできる限り少ないことが望ましいのは言うまでもない。
【0063】
触媒(c)がホスファゼニウム化合物の場合、触媒の残存含有量は、テトラメチルシランを内部標準として、重水素化ジメチルホルムアミド溶液による1H−NMR(日本電子
製400MHzNMR)測定から定量化することができる。なお、化学シフトは、2.6ppm(d,J=9.9Hz、72H)である。
【0064】
残存触媒量を上記範囲に低減する具体的な方法としては、たとえば、以下の方法が挙げられる。
(1)触媒(c)を用いて上記方法により製造された粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部と溶媒100〜3000重量部とからなる樹脂溶液に、水を1〜40重量部、吸着剤を0.05〜5.0重量部、および粗製ポリオキサゾリドン樹脂中の触媒(c)1モルに対して無機酸または有機酸を0.5〜8モル当量、好ましくは0.5〜2.5モル当量混合する。その後、水を留去し、さらにろ過操作を施して、中和された触媒(c)および吸着剤を除去することにより、触媒(c)の残存含有量が0.2重量%以下のポリオキサゾリドン樹脂溶液を得ることができる。
(2)触媒(c)を用いて上記方法により製造された粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部と溶媒100〜3000重量部とからなる樹脂溶液に、ポリオキサゾリドン樹脂に不活性な有機溶剤と水との混合溶媒を2〜100重量部混合した後、粗製ポリオキサゾリドン樹脂中の触媒(c)1モルに対して無機酸または有機酸を0.5〜8モル当量、好ましくは0.5〜2.5モル当量添加し、50〜130℃で触媒(c)を中和する。その後、粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部に対して吸着剤を0.05〜5.0重量部添加した後、減圧処理により水および有機溶剤を留去し、さらにろ過操作を施して、中和された触媒(c)および吸着剤を除去することにより、触媒(c)の残存含有量が0.2重量%以下のポリオキサゾリドン樹脂溶液を得ることができる。
(3)触媒(c)を用いて上記方法により製造された粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部と溶媒100〜3000重量部とからなる樹脂溶液に、水のみ、または水とポリオキサゾリドンに不活性な有機溶剤との混合物を10〜200重量部添加し、これを15〜130℃で攪拌した後、2〜30時間静置分液することによりポリオキサゾリドン樹脂中の触媒(c)を水に抽出することができる。反応スケールにもよるが、3〜5回の有機相を水洗した後、加熱減圧処理により水および有機溶剤を留去することにより、触媒(c)
の残存含有量が0.2重量%以下のポリオキサゾリドン樹脂溶液を得ることができる。
(4)触媒(c)を用いて上記方法により製造された粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部と溶媒100〜3000重量部とからなる樹脂溶液に、水を100〜900重量部加えて15〜100℃で接触させた後、析出したポリオキサゾリドン樹脂を有機溶媒で再溶解した後、残存水分を減圧処理により除去することにより、触媒(c)の残存含有量が0.2重量%以下のポリオキサゾリドン樹脂溶液を得ることができる。
【0065】
以下に、上記触媒除去方法をより詳細に説明する。
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂の製造方法において、触媒(c)の使用量が多い場合、触媒(c)の中和の際に用いられる、水あるいは有機溶剤の量が、ポリオキサゾリドン樹脂中から触媒(c)を除去するための重要な因子となる。中和の際、上記方法(1)では、水を粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部に対して通常1〜40重量部、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは1.2〜20重量部用いることが望ましい。上記方法(2)では、ポリオキソゾリドン樹脂に不活性な有機溶剤と水との混合溶媒を粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部に対して通常2〜100重量部、好ましくは2〜60重量部、より好ましくは3〜30重量部用いることが望ましい。また、上記混合溶媒は水を20重量%以上含むことが望ましい。水としては、イオン交換水、市水等を用いることが好ましい。
【0066】
ポリオキソゾリドン樹脂に不活性な有機溶剤としては、トルエン、ヘキサン類、ペンタン類、ヘプタン類、ブタン類、低級アルコール類、シクロヘキサン、シクロペンタン、キシレン類などの炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0067】
上記無機酸としては、たとえば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、塩酸、硫酸、亜硫酸およびそれらの水溶液が挙げられる。また、リン酸二リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素リチウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム(たとえば、ピロリン酸水素ナトリウム)等の無機酸酸性塩も中和に使用することができる。上記有機酸としては、たとえば、ギ酸、シュウ酸、コハク酸、酢酸、マレイン酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸およびそれらの水溶液が挙げられる。また、Ti系化合物(テトラアルコキシチタン化合物等)を用いて中和することもできる。これらの酸のうち、リン酸、塩酸、硫酸、マレイン酸、シュウ酸が好ましく、特にこれらの酸を水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0068】
これらの酸は、粗製ポリオキソゾリドン樹脂中に含まれる触媒(c)1モルに対して通常0.5〜8モル、好ましくは0.5〜6モル、より好ましくは0.5〜2.5モル使用することが望ましい。触媒(c)1モルに対して酸の量が8モルに近いときは酸吸着剤を併用することが好ましい。酸の使用量が上記範囲にあると、酸吸着剤を多量に使用することなく、ポリオキサゾリドン樹脂中の触媒(c)量を十分に低減できる。
【0069】
中和操作は通常50〜130℃、好ましくは70〜95℃の範囲で実施することが望ましい。また、中和時間は反応スケールにより適宜決定されるが、たとえば0.5〜3時間が好ましい。
【0070】
吸着剤は、ナトリウム溶出分が少ないものが好ましく、たとえば、合成ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、活性白土、酸性白土、合成ケイ酸アルミニウム・マグネシウム等が挙げられる。具体的には、トミックスシリーズ、たとえば、トミックスAD−100、トミックスAD−200、トミックスAD−300、トミックスAD−400、トミックスAD−500、トミックスAD−600、トミックスAD−700、トミック
スAD−800、トミックスAD−900(富田製薬(株)製);キョーワードシリーズ、たとえば、キョーワード200、キョーワード300、キョーワード400、キョーワード500、キョーワード600、キョーワード700、キョーワード1000キョーワード2000(協和化学工業(株)製);MAGNESOL(DALLAS社製)等の各種市販品を使用することができる。
【0071】
吸着剤は、粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部に対して通常0.05〜5.0重量部、好ましくは0.05〜1.5重量部、より好ましくは0.03〜1.1重量部使用することができる。
【0072】
上記方法(1)および(2)では、吸着剤投入後、温度60〜140℃、減圧度1330Pa(10mmHgabs.)の条件で加熱減圧操作することにより、水、または、水と有機溶剤とを留去することができる。その後、ろ過操作を施すことにより、ポリオキサゾリドン樹脂溶液から中和された触媒(c)および吸着剤を除去することができる。このとき、けいそう土、セライトなどのろ過助剤を用いてもよい。
【0073】
本発明では、上記触媒除去方法以外に、下記のイオン交換処理法によっても粗製ポリオキサゾリドン樹脂から触媒(c)を除去することができる。
たとえば、粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部を溶媒900部に溶解した樹脂溶液に、水を20〜200重量部加え、15〜100℃でイオン交換樹脂と接触させた後、減圧処理により脱水する。このとき、酸化防止剤を用いることが好ましい。イオン交換樹脂と粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液との接触方法としては、イオン交換樹脂充填塔に粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液を通液する方法、粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液にイオン交換樹脂を添加して攪拌する方法などが挙げられる。イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂が好ましく、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のスルホン化物がより好ましい。また、ゲル型とマクロポーラス型のどちらの形態のイオン交換樹脂も使用することができる。さらに、強酸性、弱酸性のどちらのイオン交換樹脂も使用できるが、強酸性イオン交換樹脂が好ましく用いられる。このような強酸性イオン交換樹脂としては、レバチットS100、同S109、同SP112、同SP120、同S100LF(バイエル社製);ダイヤイオンSK1B、同PK208、同PK212(三菱化学社製);ダウエックスHCR−S、50WX1、50WX2(ダウケミカル社製);アンバーライトIR120、同IR122、同200C(ロームアンドハース社製)等の各種の市販品が挙げられる。
【0074】
〔絶縁材料〕
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は絶縁性に優れていることから、絶縁塗料に好適に使用することができる。このとき、絶縁塗料には、ジイソシアナートのアルキルカーバメート化合物とジエポキシ化合物とを縮合反応させて得られる、下記式(4)
【0075】
【化8】

【0076】
(式(4)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素ま
たは炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す。nは1〜300の整数である。)
で表されるポリオキサゾリドン樹脂が含まれていてもよい。本発明の係るポリオキサゾリドン樹脂と上記式(4)で表されるポリオキサゾリドン樹脂とを併用する場合、本発明の係るポリオキサゾリドン樹脂の含有量は、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、50重量%以上が特に好ましい。
【0077】
ジイソシアナートとしては、トリレンジイソシアネート(以下、「TDI」と略す)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI−PH」と略す)、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート(以下、「NDI」と略す)、フェニレンジイソシアナート、3,3’−ジメチルジフェニル―4,4’−ジイソシアネート(以下、「TODI」と略す)、キシリレンジイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート;テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」と略す)、2,2,4(または2,4,4)−トリメチル−1,6−ジイソシアナトヘキサン、リジンジイソシアネート等の炭素数が好ましくは4〜18、より好ましくは5〜14、特に好ましくは6〜12の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略す)、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、1,3−ビス(2−イソシアナトプロピル−2イル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジメチルジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の炭素数が好ましくは8〜22、より好ましくは8〜18、特に好ましくは8〜16の脂環式ジイソシアネート;テトラメチルキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の炭素数が好ましくは8〜22、より好ましくは8〜18、特に好ましくは8〜16の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0078】
上記ジイソシアナートのアルキルカーバメート化合物は、上記ポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物(a)と同様に、ジイソシアナートのイソシアナート基をブロック剤によりブロックすることにより得られる。ここで、ブロック剤は上記ブロック剤(a2)と同様のものを用いることができる。
【0079】
上記ジイソシアナートのアルキルカーバメート化合物と反応させるジエポキシ化合物としては、上記ジエポキシ化合物(b)と同様のものが挙げられる。
ジイソシアナートのアルキルカーバメート化合物とジエポキシ化合物との縮合反応は、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂の製造方法における縮合反応と同様にして実施することができる。
【0080】
また、本発明では、ポリオキサゾリドン樹脂に加えて、他のエポキシ樹脂および/または他のポリイソシアナート類、ならびにこれらの誘導体を併用することができる。さらに、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂を含有する絶縁塗料には、さらに、以下に示す当該技術分野で常用される溶剤、硬化促進剤、顔料、充填剤、添加剤等を適宜混合して含有させることができる。
【0081】
溶剤としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール類;水等が挙げられる。
【0082】
硬化促進剤としては、イミダゾール類、第3級アミン類、ホスフィン類、アミノトリアゾール類、錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩等の硬化促進剤が挙げられる。
顔料としては、キナクリドン系、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料;酸化チタン、金属箔状顔料、防錆顔料等の無機顔料が挙げられる。
【0083】
充填剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、タルク、クレー等が挙げられる。
添加剤としては、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、ヒドラジド系等の酸化防止剤;シラン系、チタン系等のカップリング剤;レベリング剤;レオロジーコントロール剤;顔料分散剤;ハジキ防止剤;消泡剤等が挙げられる。
【0084】
また必要に応じて、ガラス繊維、ガラス布、炭素繊維等の強化材を含有させてもよい。
さらに、上記絶縁塗料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリビニルホルマール等の熱可塑性樹脂;ポリエステルイミド、ポリウレタン、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;染料、顔料、潤滑剤、その他塗料用添加剤等を添加することもできる。
【0085】
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、絶縁性、耐熱性、接着性および可撓性に優れ、かつその塗膜は半田付け性に優れていることから、絶縁電線の絶縁層に好適に用いることができる。本発明に係る絶縁電線は、上記絶縁塗料を適当な溶媒で希釈して、作業に適した粘度に調整した後、軟銅線等の導体上に従来公知の方法に従って塗布、焼付けして絶縁層を形成することにより製造できる。さらに、この絶縁層の上に、従来公知の方法により、他の絶縁塗料を塗布、焼付けして絶縁層を形成して、他の諸特性を付与させることができる。たとえば、耐熱性および機械物性をさらに向上させるために、上記絶縁塗料を塗布、焼付けした絶縁層上に、ポリイミド系絶縁塗料またはポリアミドイミド系塗料を塗布、焼付けして絶縁層を形成することができる。
【0086】
また、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、エナメル線用ワニスとして使用することもできる。この場合、電気導体との密着性を向上させる目的で、トリアジン化合物、ヘテロ環状メルカプタン化合物等を添加することができる。具体的には、syn−トリアジン−2,4,6−トリチオール、syn−トリアジン−2,4,6−トリチオールのモノシクロヘキシルアミン塩、syn−トリアジン−2,4−トリチオール−6−シクロヘキシルアミノスルフェン、2−アミノー5−メルカプト1、3,4−チアジアゾール等を添加することができる。これらのうち、syn−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が好ましい。
【0087】
トリアジン化合物の配合量は、エナメル線用ワニス中のワニス樹脂分に対して、0.005〜1重量%の範囲が好ましい。トリアジン化合物の配合量が上記範囲にあると十分な密着性、可撓性が得られる。密着性と可撓性とのバランスの観点から、トリアジン化合物の配合量は0.01〜0.2重量%がより好ましい。なお、添加量の基準となる樹脂分の重量は、JIS C2351−1988の7.3による不揮発分試験による値である。
【0088】
本発明に係る絶縁電線に用いられる電気導体としては、銅、鉄、ニッケル、ステンレス、アルミニウム、銀、金等の金属が挙げられ、これらの金属の単体あるいは2種以上の合金であってもよい。また、これらの金属の形状は、糸状、板状あるいは、成型加工したものであってもよい。これらの電気導体のうち、銅線は汎用性が高い点で好ましい。
【0089】
本発明に係る絶縁電線は、従来公知の方法により製造できる。特に、エナメル線は、線状の電気導体上にエナメル線用ワニスを塗布・焼付けする際の条件に制限はなく、通常実施されている塗布・焼付け条件により製造できる。たとえば、線状の電気導体をアプリケーターにセットされた金属製ダイに通すことによって、原液または溶剤で適当な濃度に希
釈されたエナメル線用ワニスを電気導体に塗布し、300〜500℃に設定された焼付炉に通してワニスを硬化させる。この操作を連続的に数回繰り返した後、エナメル線巻き取り枠に巻き取る。このとき使用される焼付炉としては、たとえば、電気炉、熱風循環炉等が挙げられ、炉の大きさ、設定温度、塗装および焼き付け回数によって、最適の硬化度合いを得るために、焼き付け速度、すなわち、巻き取り速度が選定される。
【0090】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特記しない限り、それぞれ「重量部」および「重量%」を示す。また、樹脂の物性評価は下記の試験方法により実施した。
【0091】
<縮合反応中の残存エポキシ基の検査>
ポリオキゾリドン樹脂の合成中の溶液の一部を採取し、岩塩板にはさみ、赤外吸収スペクトル測定装置(IR)を用いてエポキシ基の赤外吸収が検出されなくなるまで縮合反応を続けた。赤外吸収スペクトルはフーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR360:ニコレ社製)により測定した。
【0092】
<重合状態の観察>
ポリオキゾリドン樹脂の合成時におけるゲル化の有無を目視で観察し、下記基準で評価した。
A:全くゲルが生成せず安定に合成できた。
B:部分的にゲルの生成がみられた。
C:系全体がゲル化し、合成できなかった。
【0093】
<オキサゾリドン環の定量分析>
得られたポリオキサゾリドン樹脂について、赤外吸収スペクトル測定装置(IR)で赤外吸収スペクトルを測定した。ポリオキサゾリドン樹脂に含まれるイソシアヌレート環由来のカルボニル基の伸縮振動ピーク(1709cm-1付近)の吸光度とオキサゾリドン環由来のカルボニル基の伸縮振動ピーク(1750cm-1付近)の吸光度との比(IS/OX比)を、ピーク高さの比から求めた。
【0094】
<固形分濃度>
直径5cmのアルミカップに約1gのワニスを精秤して均一に広げ、120℃の窒素下で2時間、さらに210℃に昇温して2時間乾燥した後、デシケーターに移し、室温まで放冷し、重量を精秤する。固形分濃度は次式から算出した。
【0095】
固形分濃度(重量%)=乾燥後の重量/乾燥前の重量×100
<5%重量損失温度>
固形分濃度測定後の試料について、示差熱/熱重量分析装置を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で樹脂の5%重量損失温度を測定した。
【0096】
<樹脂の数平均分子量測定>
樹脂をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、ポリプロピレングリコール(PPG)を標準物質として、樹脂の数平均分子量を求めた。GPCの測定条件は、以下の通りであった。
測定および解析装置:島津製作所(株)製、LC−6Aシステム
検出器:島津製作所(株)製、RID−6A示差屈折計
分離カラム:昭和電工(株)製、Shodex GPC KF−801、802、
802.5、803の4本直列
溶離液:液体クロマトグラム用DMF
液流量:0.8ml/min
カラム温度:40℃
<電線被覆材としての可撓性評価>
直径0.5mmの銅線にワニスを付着させ、フェルトで拭き取った後、300℃で30秒間硬化させた。この工程を合計3回繰り返して被覆電線を作製した後、この被覆電線を、直径2.5mm、2.0mm、1.5mm、1.0mm、0.5mmのステンレス棒(以下、それぞれ「5d」、「4d」、「3d」、「2d」、「1d」と表わす。)それぞれに360°巻き付け、銅線の被膜の割れを観察し、割れが生じなかった最小径で評価した。
【0097】
<金属板被覆剤としての可撓性評価>
50mm(縦)×50mm(横)×0.5mm(厚さ)の銅板およびアルミニウム板の片面にワニスをポリオキサゾリドン樹脂の固形分換算で0.25g塗布し、120℃のオーブン中で1時間加熱して溶媒を蒸発させ、さらに230℃のオーブンに移して15分間硬化させ、室温まで冷却し、被覆金属板を作製した。この被覆金属板を、被覆層が外側になるように二つに折り曲げ、被覆層に割れが発生する折り曲げ角度を求めた。(最大折り曲げ角度は180°である。)
<銅箔との接着性評価>
ポリイミドフィルム(カプトン100Hフイルム、厚さ25μm)にワイヤーロッドにより、乾燥後の膜厚が約10μmになるようにワニスを塗布し、200℃で5分間乾燥した。その後、1/2オンス(18μm)圧延銅箔黒処理面を重ね合わせて、210℃、20MPaで5分間プレス接着を行ない、試験片を作製した。
【0098】
このフイルムの90度ピール強度を測定して、接着強度を下記基準で評価した。
A:常態での90度ピール強度が0.5N/mm2以上
B:常態での90度ピール強度が0.5N/mm2以下
<樹脂フイルムの絶縁破壊評価>
樹脂を0.1〜0.2mmの均一なフイルム状に成形し、膜厚1mm当たりの破壊電圧を測定した。測定器としてWithstand voltage tester(型番:TP−5115 ADMPS)を用い、5回測定して平均値を求めた。
【0099】
[実施例1]
(ポリオキサゾリドン樹脂の調製)
500mlのセパラブルフラスコに、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂(BPA−DGE、エポキシ当量=185)74.0g(0.2モル当量)およびDMAc溶媒80gとを仕込み、攪拌しながら160℃まで加熱溶解した(以下、「エポキシ樹脂溶液」という。)。
【0100】
一方、200ml滴下ロートに、3官能のウレトイミン変性ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナート(UI−MDI)を20重量%含有する液状MDIをイソプロパノール(IPA)でブロックしたイソプロピルカーバメート化合物(mp=137℃)84g(0.202モル当量)と水酸化テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウム(以下、「cat.B」と略す)を10重量%含有するDMAc溶液15.6gとDMAc溶媒96gとからなる混合液を仕込んだ。
【0101】
上記エポキシ樹脂溶液に、上記滴下ロート中の混合液を、窒素気流下、約90分間かけて滴下挿入した。その後、さらに窒素気流下で160〜165℃の範囲に保温しながら攪拌し、生成するイソプロパノールをデカンターを用いて留去しながら、3.5時間縮合反応させ、イソプロパノールの留出が完全に終了したことを確認した。
【0102】
生成物を赤外吸収スペクトルにより分析した結果、エポキシ基に基づく吸収(915cm-1)が消失し、オキサゾリドン環のカルボニル基に基づく吸収(1752cm-1付近)のが発現していることを確認した。また、1709cm-1付近に観察されるイソシアヌレート由来の吸収は全く観られなかった(図1参照)。
【0103】
反応後の樹脂溶液(樹脂分:131g)の温度を約60℃まで冷却し、DMAc溶媒30g、純水2g、吸着剤(キョーワード700、協和化学工業(株)製)12gを添加し、90〜100℃の範囲で約2時間攪拌した。その後、同温度で減圧下、脱水した後、加圧ろ過器を用いて反応液中の吸着剤を除去し、ポリオキサゾリン樹脂溶液を得た。
【0104】
得られた樹脂溶液(ワニス)について、IS/OX値、固形分濃度、5%重量損失温度、樹脂の数平均分子量を測定した。結果を表1および表2に示す。また、上記触媒除去処理前のポリオキサゾリン樹脂について5%重量損失温度を測定したところ380℃であった。この結果から、触媒除去処理により耐熱性が向上したことがわかる。
【0105】
得られたポリオキサゾリドン樹脂は、赤外吸収スペクトル分析(図1)、およびプロトンの核磁気共鳴スペクトル分析(図2)から、−NHCOOB末端と上記式(1)で表される構造を有することが確認された。すなわち、ポリオキサゾリドン樹脂の両末端基がアルキルカーバメートであることはIR分析およびH−NMR分析(ウレタン基の-水素シ
グナル9.2ppmの存在)から確認することができた。さらに、原料であるUI−MDIのイソプロピルカーバメート化合物が存在しないことが生成物のGPC分析より確認された。
【0106】
[実施例2]
液状MDIの替わりに、3官能のポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートを55重量%含有するクルードMDI(以下、「MDI−CR」と略す)を使用し、触媒量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にして縮合反応を行った。
【0107】
得られた樹脂溶液(ワニス)について、IS/OX値、固形分濃度、5%重量損失温度、数平均分子量を測定した。結果を表1および表2に示す。
得られたポリオキサゾリドン樹脂は、赤外吸収スペクトル分析(図3)、およびプロトンの核磁気共鳴スペクトル分析(図4)から、−NHCOOB末端と上記式(1)で表される構造を有することが確認された。すなわち、ポリオキサゾリドン樹脂の両末端基がアルキルカーバメートであることはIR分析およびH−NMR分析(ウレタン基の-水素シグ
ナル9.2ppmの存在)から確認することができる。さらに、原料である3官能のポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートのイソプロピルカーバメート化合物が存在しないことが生成物のGPC分析より確認された。
【0108】
[比較例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量=185)10部、NMP15部および2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI)0.1部を入れたセパラブルフラスコに、撹拌機、温度計、冷却管、窒素吹き込み管を取り付け、フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下で130℃に昇温し、この温度に維持して攪拌しながら4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI−PH)7.6部とNMP27部との混合物を1時間かけて添加した。添加終了後、反応温度を130℃に保持して6時間撹拌し、ポリオキサゾリドン樹脂溶液を得た。
【0109】
得られたポリオキサゾリドン樹脂の赤外吸収スペクトルを図5に示す。オキサゾリドン環由来のカルボニル基に基づく吸収(1752cm-1付近)とイソシアヌレートのカルボ
ニル基に基づく吸収(1709cm-1付近)が観察された。一方、イソシアナート基に基づく吸収(2270cm-1付近)は観察されなかった。
【0110】
得られたポリオキサゾリドン樹脂溶液(ワニス)について、IS/OX値、固形分濃度、5%重量損失温度を測定した。結果を表1および表2に示す。
このポリオキサゾリドン樹脂は、イソシアヌレート環が多量に生成したため、重合安定性に劣り、溶融粘度が高かった。
【0111】
[比較例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量=185)20部を入れたセパラブルフラスコに、撹拌機、温度計、冷却管、窒素吹き込み管を取り付け、フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下で170℃に昇温し、この温度に維持して攪拌しながらトリレンジイソシアネート(TDI)10.4部を1時間かけて滴下した。なお、TDIの滴下開始と同時にEMI触媒0.2部を添加した。反応温度を170℃に保持して4時間撹拌し、ポリオキサゾリドン樹脂溶液を得た。
【0112】
得られたポリオキサゾリドン樹脂の赤外吸収スペクトルには、オキサゾリドン環由来のカルボニル基に基づく吸収(1752cm-1付近)とイソシアヌレートのカルボニル基に基づく吸収(1709cm-1付近)が観察された。一方、イソシアナート基に基づく吸収(2270cm-1付近)は観察されなかった。
【0113】
得られたポリオキサゾリドン樹脂溶液(ワニス)について、IS/OX値を測定した。結果を表1に示す。
このポリオキサゾリドン樹脂は、イソシアヌレート環が多量に生成したため、重合安定性に劣り、溶融粘度が高かった。
【0114】
[実施例3〜4および比較例3〜5]
実施例1および2で得られたポリオキサゾリドン樹脂溶液ならびに比較例1で得られたポリオキサゾリドン樹脂溶液を用いて以下のようにして絶縁塗料を調製した。
【0115】
上記ポリオキサゾリドン樹脂100部を含む溶液に、安定剤としてヒンダードフェノール0.1部および架橋剤としてジエポキシ化合物0.1部を添加した。樹脂溶液中の残存触媒を低減する目的で、上記ポリオキサゾリドン樹脂100部当たり酸化アルミナ系吸着剤1部を添加し、室温で十分撹拌した後、孔径約5ミクロンのフィルターで加圧ろ過して、溶媒に不溶な浮遊物を除去した。得られたポリオキサゾリドン樹脂溶液に、希釈溶媒としてDMAcを添加して、樹脂濃度40重量%、粘度2600cpsの絶縁塗料を得た。
【0116】
これらの絶縁塗料および市販のワニスA(ポリエステルイミド、大日精化工業(株)製、商品名:EH402)およびワニスB(ポリアミドイミド、大日精化工業(株)製、商品名:AI602)について、可撓性、接着性、絶縁破壊を評価した。結果を表2に示す。
【0117】
表2に示したように、本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂(実施例1および2)は、従来のポリオキサゾリドン樹脂(比較例1)に比べて、イソシアヌレート環の生成による架橋密度の増大が抑制され、その硬化物は可撓性が向上した。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
[実施例5]
実施例1において、触媒除去前の樹脂溶液にDMAc溶媒を添加して、ホスファゼニウム化合物を含んだ粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液の樹脂濃度を30重量%に調整した。この粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液100重量部(樹脂分30重量部)に対してイオン交換水2重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して6.7重量%)と、ホスファゼニ
ウム化合物1モルに対して7.5重量%のリン酸水溶液をリン酸換算で4モル添加し、90℃で2時間中和反応を行った。中和反応終了後、減圧下で脱水し、吸着剤(協和化学工業(株)製、商品名:KW−700)を0.6重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して2重量%)、または吸着剤(富田製薬(株)製、商品名:AD−600NS)を0.9重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して3重量%)添加した。その後、減圧下で脱水しながら最終的に105℃、10mmHgabs.(1,330Pa)以下で1時間、減圧脱水した。次いで、ろ過助剤(ケイソウ土、昭和化学工業(株)製、商品名:R−#500)を2重量部加え、105℃で20分間攪拌した後、アドバンテック東洋(株)製の5Cろ紙を用いて減圧ろ過し、ホスファゼニウム塩および吸着剤を除去した。触媒除去後のポリオキサゾリドン樹脂中の触媒残存量は220ppmであった。
【0121】
[実施例6]
吸着剤として、協和化学工業(株)製吸着剤(商品名:KW−700)0.45重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して1.5重量%)と富田製薬(株)製吸着剤(商品名:AD−600NS)0.21重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して0.7重量%)に変更した以外は、実施例5と同様にして、粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液からホスファゼニウム塩および吸着剤を除去した。触媒除去後のポリオキサゾリドン樹脂の触媒残存量は300ppmであった。
【0122】
[実施例7]
リン酸の替わりに、ホスファゼニウム化合物1モルに対して、8.5重量%のシュウ酸水溶液をシュウ酸換算で2.02モル添加し、70℃で1時間中和反応を行い、吸着剤として、協和化学工業(株)製吸着剤(商品名:KW−700)0.03重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して0.1重量%)と富田製薬(株)製吸着剤(商品名:AD−600NS)0.36重量部(粗製ポリオキサゾリドン樹脂に対して1.2重量%)を添加した以外は、実施例5と同様にして、粗製ポリオキサゾリドン樹脂溶液からホスファゼニウム塩および吸着剤を除去した。触媒除去後のポリオキサゾリドン樹脂の触媒残存量は460ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係るポリオキサゾリドン樹脂は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であり、溶融粘度が低く、耐熱性、絶縁性、可撓性、接着性に優れており、接着剤、シーリング材、成型材料、複合材料、積層板、封止材等として優れた性能を発揮する。特に、絶縁塗料、エナメル線用ワニスとして、耐熱性、接着性、絶縁性および半田適正に優れており、高温環境下での絶縁塗料としての優れた性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1は、実施例1で得られたポリオキサゾリドン樹脂の赤外吸収スペクトル分析のチャートである。
【図2】図2は、実施例1で得られたポリオキサゾリドン樹脂のH−磁気共鳴スペクトル分析のチャートである。
【図3】図3は、実施例2で得られたポリオキサゾリドン樹脂の赤外吸収スペクトル分析のチャートである。
【図4】図4は、実施例2で得られたポリオキサゾリドン樹脂のH−磁気共鳴スペクトル分析のチャートである。
【図5】図5は、比較例1で得られたポリオキサゾリドン樹脂の赤外吸収スペクトル分析のチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)−NHCOOBで表される基(Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す)を3〜4個有するポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物と、
(b)ジエポキシ化合物と
を反応させて得られる、
少なくとも、−NHCOOB末端と下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
で表される繰り返し単位とを有するポリオキサゾリドン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)とを、前記反応を促進させる触媒(c)の存在下、前記ジエポキシ化合物(b)に対して前記アルキルカーバメート化合物(a)を過剰に用いて反応させることを特徴とする請求項1に記載のポリオキサゾリドン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)とを、モル当量比(a)/(b)が1.001〜1.1の範囲で反応させることを特徴とする請求項2に記載のポリオキサゾリドン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記アルキルカーバメート化合物(a)が、3〜4官能のポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートおよび3〜4官能のウレトンイミン変性ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートからなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオキサゾリドン樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)とを反応させた後、得られた粗製ポリオキサゾリドン樹脂100重量部、有機溶媒100〜3000重量部、水1〜40重量部および吸着剤0.05〜5.0重量部と、前記触媒(c)1モルに対して無機酸または有機酸0.5〜8モル当量とを混合し、次いで、この混合物から水を留去した後、ろ過操作を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリオキサゾリドン樹脂の製造方法。
【請求項6】
(a)−NHCOOBで表される基(Bは炭素数1〜12個の1価の炭化水素基を表す)を3〜4個有するポリイソシアナートのアルキルカーバメート化合物と、
(b)ジエポキシ化合物と
を反応させて得られ、
少なくとも、−NHCOOB末端と下記式(1)
【化2】

(式(1)中、R1は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜60の有機基を表し、
2は炭素、水素、酸素から構成される炭素数2〜30の炭化水素基を表し、R3は水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
で表される繰り返し単位とを有することを特徴とするポリオキサゾリドン樹脂。
【請求項7】
前記アルキルカーバメート化合物(a)と前記ジエポキシ化合物(b)との反応を促進させるために用いられた触媒(c)の残存含有量が0.2重量%以下であることを特徴とする請求項6に記載のポリオキサゾリドン樹脂。
【請求項8】
請求項6または7に記載のポリオキサゾリドン樹脂を含有する絶縁塗料。
【請求項9】
電気導体と、該電気導体に請求項8に記載の絶縁塗料を塗布し、焼き付けて形成した絶縁層とからなる絶縁電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−213793(P2006−213793A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26492(P2005−26492)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】