説明

ポリオレフィン系多層シート及び成型品

【課題】環境汚染の少ないシートであり、従来のポリプロピレン系シートに比べより薄肉化しても剛性を維持した上に熱成形性に優れ、熱成形して得られた成型品の熱収縮率、外観が従来のポリプロピレン系シートの成型品と変わらないシートを多層押出機で安価に提供することである。
【解決手段】特定のMFRをもつポリプロピレン系樹脂(A)と高密度ポリエチレン(B)を混合したポリオレフィン系樹脂(C)92〜80重量%とタルク(D)8〜20重量%とからなる基材層とポリプロピレン系樹脂(E)を主成分とするポリオレフィン系樹脂(F)からなる最外層とを有するポリオレフィン系多層シートとしたことであり、最外層のポリオレフィン系樹脂(F)がポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)の構成で、最外層の厚みを規定したポリオレフィン系多層シートからなる成型品としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリプロピレン系シートに比べ薄肉化しても剛性を維持した上に熱成形性に優れたポリオレフィン系多層シートに関するもので、例えば真空成形や圧空成形などの熱成形後の成形収縮率、外観が従来の成型品と変わらないポリオレフィン系多層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系シートは、熱成形、例えば真空成形や圧空成形などによって各種容器、
カップ、トレーなどに成形されている。しかし、得られた成型品は腰がなく剛性不足という問題があった。そこで、剛性があってかつ耐熱性を有するシート、成型品の要求が強まり、ポリプロピレン系樹脂に無機充填剤を配合したシート(以下、PPフィラーシートという)が開発された(特許文献1)。しかし、このPPフィラーシートの成型品はポリプロピレン系シートの成型品と比較して成形収縮率が小さため、PPフィラーシートはポリプロピレン系シートの金型をそのまま使用できず、新たに高価な金型を作らなければならなった。又、表面の艶が異なり外観が変わり商品価値が下がってしまうという問題もあった。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−157136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のポリプロピレン系シートに比べ薄肉化しても剛性を維持した上に熱成形性に優れ、例えば真空成形や圧空成形などの熱成形後の成型品成形収縮率、外観が従来のポリプロピレン系シートの成型品と変わらないポリオレフィン系多層シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明を達成するに至った。すなわち本発明は、MFR1が0.1〜2.5g/10分であるポリプロピレン系樹脂(A)とMFR2が0.02〜3.0g/10分である高密度ポリエチレン(B)との混合比率が(A):(B)=80:20〜30:70であるポリオレフィン系樹脂(C)92〜80重量%とタルク(D)8〜20重量%とからなる基材層とポリプロピレン系樹脂(E)を主成分とするポリオレフィン系樹脂(F)からなる最外層とを有するポリオレフィン系多層シートとしたことであり(請求項1)、最外層のポリオレフィン系樹脂(F)がポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)からなり、その混合比率が(E):(G)=100:0〜70:30であって、最外層の厚みを20〜80μmとしたことであり(請求項2)、さらに、上記ポリオレフィン系多層シートからなる成型品としたことである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリオレフィン系多層シートは、従来のポリプロピレン系シートに比べ薄肉化しても剛性を維持した上に熱成形性に優れ、真空成形や圧空成形などの熱成形後成型品の収縮率、外観が従来のポリプロピレン系シートの成型品と変わらないため、容易に従来のポリプロピレン系シートの代替を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のポリオレフィン系多層シートについて具体的に説明する。本発明のポリオレフィン系多層シートはMFR1が0.1〜2.5g/10分であるポリプロピレン系樹脂(A)とMFR2が0.02〜3.0g/10分である高密度ポリエチレン(B)との混合比率が(A):(B)=80:20〜30:70であるポリオレフィン系樹脂(C)92〜80重量%とタルク(D)8〜20重量%とからなる基材層とポリプロピレン系樹脂(E)を主成分とするポリオレフィン系樹脂(F)からなる最外層とを有し、最外層のポリオレフィン系樹脂(F)がポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)とからなり、その混合比率を(E):(G)=100:0〜70:30とし、最外層の厚みを20〜80μmとすることが好ましい。さらに、上記ポリオレフィン系多層シートからなるシート成型品である。
【0008】
本発明の基材層に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)の成分には特に制限はなく、ホモポリマー、プロピレンと30%以下のエチレンを共重合したブロック共重合体やランダム共重合体、また、プロピレンと30%以下のエチレンおよび他のα−オレフィンよりなる三元共重合体などが使用できる。ポリプロピレン系樹脂(A)のMFR1は0.1〜2.5g/10分であることが必要であり、0.1g/10分より低いとシート成形時の押出特性が低下し、一方2.5g/10分より高いと熱成形時のドローダウンが大きく熱成形に耐えられないシートとなる。好ましくは0.3〜1.5g/10分の範囲である。ポリプロピレン系樹脂の選択は用途により使い分けができ、場合によっては2種以上を混合することも可能である。
【0009】
本発明の基材層に用いられる高密度ポリエチレン(B)は高密度ポリエチレンである必要があり、さらにそのMFR2は0.02〜3.0g/10分であることが必要である。MFR2が0.02g/10分より低いとシート成形時の押出特性が低下し、一方3g/10分より高いと熱成形のドローダウンが大きく熱成形に耐えられないシートとなる。好ましくは0.05〜2.0g/10分の範囲である。
【0010】
さらに、ポリプロピレン系樹脂(A)と高密度ポリエチレン(B)との混合比率が(A):(B)=80:20〜30:70の範囲で選定する必要がある。好ましくは(A)と(B)との混合比率が(A):(B)=70:30〜40:60である。ここでポリプロピレン系樹脂(A)の混合比率が80より多くなると熱成形後の成型品の収縮率が従来のポリプロピレン系シートの成型品より小さくなるため従来使用していた金型が使用できなくなる。逆に高密度ポリエチレン(B)の混合比率が70より多くなると熱成形後の成型品の収縮率が従来のポリプロピレン系シートの成型品より大きくなるため従来使用していた金型が使用できなくなる。従ってこれらの配合量は(A)、(B)それぞれの樹脂特性、後に述べるタルクの配合量によって最適配合比を決定すればよい。
【0011】
本発明の基材層に用いるタルク(D)としては特に制限はないが、平均粒径1μm〜20μm、好ましくは3μm〜15μmのものが使用される。本発明のポリオレフィン系多層シートの基材層はポリオレフィン系樹脂(C)とタルク(D)成分からなり、ポリオレフィン系樹脂(C)92〜80重量%に対し、タルク(D)8〜20重量%の範囲で選定する必要がある。好ましくはポリオレフィン系樹脂(C)90〜82重量%、タルク(D)10〜18重量%の範囲である。ここでタルクの配合量が20重量%より多くなると剛性はアップするが、熱成形後の成型品の収縮率が成型品より小さくなるため従来使用していた金型が使用できなくなる。又、成型品の外観も落ちてしまう。逆に8重量%より少ないと剛性が不足してしまう。
【0012】
本発明の最外層に用いられるポリプロピレン系樹脂(E)の成分には特に制限はなく、ホモポリマー、プロピレンと30%以下のエチレンを共重合したブロック共重合体やランダム共重合体、また、プロピレンと30%以下のエチレンおよび他のα−オレフィンよりなる三元共重合体などが使用される。ポリプロピレン系樹脂の選択は用途により使い分けができ、場合によっては2種以上を混合することも可能である。
【0013】
本発明の最外層に用いられるポリエチレン系樹脂(G)の成分は高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどが使用される。ポリエチレン系樹脂の選択は用途により使い分けができ、場合によっては2種以上を混合することも可能である。
【0014】
本発明の最外層に用いられるポリオレフィン系樹脂(F)は、ポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)とからなりその混合比率が(E):(G)=100:0〜70:30の範囲であることが好ましく、より好ましくは(E):(G)=100:0〜80:20である。ここでポリプロピレン系樹脂(E)の混合比率が70より少なくなると、外観が従来のポリプロピレン系シートで得られた成型品と変わってしまう場合がある。従って、従来のポリプロピレン系シートと同等の外観を得るにはポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)との混合比率が(E):(G)=100:0〜70:30の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の最外層の厚みは20〜80μmの範囲が好ましく、より好ましくは30〜60μmである。最外層の厚みが20μmより小さいと光沢が低下し従来のポリプロピレン系シートから得られた成型品と外観が変わってしまう場合がある。逆にシート総厚みが80μmを超えるとシートの剛性が落ちてしまう場合がある。従って、最外層の厚みは20〜80μmの範囲が好ましい。
【0016】
本発明のポリオレフィン系多層シートの基材層または最外層には、上述したポリプロピレン系樹脂(A)、高密度ポリエチレン系樹脂(B)、タルク(D)、ポリプロピレン系樹脂(E)、ポリエチレン系樹脂(G)の他に、必要に応じて各種添加剤、例えば、フェノール系、ホスファイト系等の酸化防止剤、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド等の滑剤、ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールエーテル、脂肪酸エステル或いはエタノールアミド、モノ及びジグリセリド、エトキシル基脂肪酸アミド等の帯電防止剤、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤、HALS等の光安定剤、酸化チタン、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、酸化鉄、群青等の顔料などを目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0017】
本発明でいう熱成形とは、一般的にいわれているように熱可塑性樹脂製シートを加熱軟化させて外力を加えて成形する方法を意味する。熱成形には、外力としてエアを用いる方法として、真空成形と圧空成形の2通りがある。またシートの加熱方法として、ヒーターによる間接加熱方式と熱板に接触して加熱させる直接加熱方式の区分がある。また、型の凹凸及び組み合わせ、プラグの使用、補助エアの使用を含め多くの成形方法が知られている。例えば、ストレート真空成形、ストレート圧空成空、ドレープ真空成形、ドレープ圧空成形、プラグアシスト真空成形、ドレープアンドプラグアシスト成形、プラグアシスト圧空成形、プラグアシストリバースドロー成形、エアクション成形、プラグアシストエアスリップ成形、マッチモールド(プレス)成形等が挙げられるがこれらに限定されることはない。
【0018】
本発明のポリオレフィン系多層シートを製造するには、通常の共押出法、ドライラミネート法、押出ラミネート法を採用することができる。共押出法としては、通常、複数の押出機とダイスを設置した装置が用いられ、マルチマニホールド法、フィードブロック法等を採用することが一般的である。
【0019】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、各実施例及び比較例において実施した評価方法及び評価基準を以下に示す。
<剛性>
シートの剛性については1%割線弾性率で評価する。1%割線弾性率とは定速度引張試験機を用いてチャック間50mm、引張速度5mm/minで試料を引張、伸び率1%時の荷重を読み取る。
(試料の大きさ)
長さ:200mm 幅:10mm
(計算式)
1%割線弾性率=
読み取り荷重(MPa)×10/シート厚み(mm)×シート幅(10mm)
(評価)
○:1150MPa以上
ポリプロピレン系シートより剛性が大きく、10%の薄肉化が可能。
△:1000MPa以上〜1150MPa未満
ポリプロピレン系シートより剛性があり、5〜10%未満の薄肉化が可能。
×:1000MPa未満
ポリプロピレン系シートと剛性が同等或いはそれ以下であり、薄肉化が不可能。
<ドローダウン>
350mm×350mmのシートサンプルを300mm×300mmの枠でクランプし200℃のオーブン中に水平に保持し、シート中央部が20mm垂れ下がるまでの時間を測定する。この時間が長いほど熱成形性が良いことを示す。
(評価)
○:80秒以上 ポリプロピレン系シートより熱成形性がはるかに優れている。
△:65秒以上〜80秒未満 ポリプロピレン系シートより熱成形性が優れている。
×:65秒未満 ポリプロピレン系シートと同等或いはそれ以下の熱成形性である。
<成形収縮率>
350mm×350mmのシートサンプルを300mm×300mmの枠でクランプし、シート表面温度200℃で100mmΦ×30mm深さの丸カップを真空圧空成形し、出来上がった成型品を23℃の雰囲気中に24時間放置した後、成形収縮率を測定する。
*成形時の金型温度30℃、冷却時間30秒。

(評価)
○:1.4%以上〜2.0%未満
ポリプロピレン系シートで使用していた金型がそのまま使用できる。
×:1.4%未満、2.0%以上
ポリプロピレン系シートで使用していた金型が使用できない。
<成型品の外観>
成型品の外観は目視で判定した。
○:ポリプロピレン系シートと変わらない
△:ポリプロピレン系シートより若干劣るが、ほぼ同等レベル。
×:ポリプロピレン系シートより艶がなく、外観が変わってしまう。
【実施例】
【0020】
<実施例1〜14>
表1及び2に示す基材層の所定量のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、タルク、最外層の所定量のポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂を多層押出機を使用して総厚み400μmの2種3層ポリオレフィン系多層シートを得た。この多層シートは最外層1+基材層+最外層2の3層構造であり、最外層1と最外層2の厚みは同じに設定した。得られたシートの剛性、ドローダウン、成形収縮率、熱成形して得られた成型品外観の評価結果を表1及び2に示す。
<比較例1〜8>
【0021】
表3に示す基材層の所定量のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、タルク、最外層の所定量のポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂を多層押出機を使用して、実施例1〜14と同様にして総厚み400μmの2種3層ポリオレフィン系多層シートを得た。得られたシートの剛性、ドローダウン、成形収縮率、熱成形して得られた成型品外観の評価結果を表3に示す。
【0022】
表1

最外層は前記したように2層あるが、表中の最外層厚みの数値は片側のみの値である。



















【0023】
表2

【0024】
表3


*1 ホモポリプロピレン MFR1=0.5g/10分
*2 ホモポリプロピレン MFR1=1.0g/10分
*3 ホモポリプロピレン MFR1=3.3g/10分
*4 ブロックポリプロピレン MFR1=0.7g/10分
*5 高密度ポリエチレン MFR2=0.2g/10分
*6 高密度ポリエチレン MFR2=0.35g/10分
*7 高密度ポリエチレン MFR2=5.0g/10分
*8 低密度ポリエチレン MFR2=3.0g/10分
*9 平均粒径10μmのタルク
*10 ホモポリプロピレン MFR1=1.5g/10分
*11 高密度ポリエチレン MFR2=1.0g/10分
*12 低密度ポリエチレン MFR2=1.6g/10分
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のシートは、従来のポリプロピレン系シートに比べ、より薄肉化しても剛性を維持した上に熱成形性に優れ、熱成形して得られた成型品の熱収縮率、外観が従来のポリプロピレン系シートの成型品と変わらないとともに、環境汚染を与える可能性の少ないシートとして有用であり、従来のポリプロピレン系シートの代替品として広く利用できる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFR1(測定温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトインデックス)が0.1〜2.5g/10分であるポリプロピレン系樹脂(A)とMFR2(測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトインデックス)が0.02〜3.0g/10分である高密度ポリエチレン(B)との混合比率が(A):(B)=80:20〜30:70であるポリオレフィン系樹脂(C)92〜80重量%とタルク(D)8〜20重量%とからなる基材層とポリプロピレン系樹脂(E)を主成分とするポリオレフィン系樹脂(F)からなる最外層とを有することを特徴とするポリオレフィン系多層シート。
【請求項2】
上記最外層のポリオレフィン系樹脂(F)がポリプロピレン系樹脂(E)とポリエチレン系樹脂(G)とからなり、その混合比率が(E):(G)=100:0〜70:30であって、最外層の厚みが20〜80μmであることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系多層シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン系多層シートからなることを特徴とする成型品。













【公開番号】特開2006−76181(P2006−76181A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263766(P2004−263766)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】