説明

ポリマーセメントグラウト材組成物及びグラウト材

【課題】 従来の再乳化形粉末樹脂と液体収縮低減剤をプレミクスしたポリマーセメントグラウト材と比較して、保存した後もプレミクス初期の流動性を有するポリマーセメントグラウト材組成物及び当該グラウト材組成物を用いたグラウト材を提供する。
【解決手段】 ポリマーセメントグラウト材組成物は、ポルトランドセメント、膨張材、骨材、再乳化形粉末樹脂及び収縮低減剤を含むポリマーセメントグラウト組成物であって、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種に液体収縮低減剤が担持されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントグラウト材組成物及びグラウト材に関し、特に、中性化、塩害、アルカリ骨材反応、凍害などの劣化現象により劣化したコンクリート構造物の断面修復または増厚に用いるセメント系グラウト材で、鉄筋コンクリート構造物からなる橋脚の耐震補強や道路床版の下面増圧工法に用いられるコンクリート構造物の補修・補強工法に用いるポリマーセメントグラウト材組成物及びグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート構造物の断面修復または増厚に用いる材料は、対象となるコンクリートの材質の力学的性質にできる限り類似していることが望ましいことから、セメント系材料が好適に使用されており、特に使用環境が厳しい場所等では、下地との一体性や外部からの有害物質浸透抑制の点から、ポリマーセメント系の材料がよく使用されている。
また、コンクリート構造物の大断面の補修には吹き付け工法やグラウトの充填工法が用いられているが、流し込み成型ができ、人的負担が少なく、マニュアル化による施工安定性の高いグラウト充填工法が大規模な断面修復または増厚には多く適用されている。
【0003】
このようなコンクリート構造物の大断面の断面修復または増厚に使用されるグラウト材として、特開2002−285153号公報(特許文献1)には、セメント、分級フライアッシュ及びカルシウムサルフォアルミネート系膨張材を含むセメント系無機粉体、乾燥収縮低減剤及び細骨材を含有する、ポリマーを添加していないセメント系のグラウト材組成物が開示されている。
【0004】
一方、ポリマーセメント系グラウト材は、ポリマーによる粘性増加による注入・充填性の低下や、乾燥収縮の増加が大きいため、特開平10−265251号公報(特許文献2)には、セメント、石灰石微粉末、珪砂、再乳化性粉体樹脂及び粉体添加物に加えて、スメクタイト型粘土鉱物、シリカヒュームまたは低減収縮剤が所定の割合で均一に混合されて調製された組成物に、更にジエチレングリコールが0.05〜0.5質量%混合された半たわみ性舗装用ポリマーセメント組成物が開示されている。
【0005】
しかし、かかるポリマーセメント組成物を、梁や床版補修のような大断面の修復に用いた場合には、修復した断面にひび割れが発生し易く、ひび割れを通じて劣化因子である水、炭酸ガス、塩化物イオンなどが浸入し易くなり、結果的に断面修復箇所の耐久性が損なわれるといった欠点がある。
また、単純に減水剤の添加や水量の増加によって、かかるポリマーセメント組成物の粘性を低下させると、骨材が沈降し、ひび割れが発生するといった問題点がある。
特にこの傾向は、再乳化型粉末樹脂を用いた材料に発現するため、市販レベルでの一材化ポリマーセメントグラウト材の商品化が困難となっている。
【0006】
かかる点に鑑み、特開2005−82416号公報(特許文献3)には、ポルトランドセメント、膨張材、再乳化型粉末樹脂、骨材、短繊維物質、収縮低減剤、減水剤及び消泡剤を含有する、一材化ポリマーセメントグラウト材に短繊維を混和して、ひび割れを発生しにくくしたポリマーセメント組成物が記載されている。
【0007】
しかし、かかるポリマーセメント組成物は、短繊維を添加しているために、汎用のグラウト材に求められている、日本道路公団規格のJ14ロート流下時間規格値の流動性が確保されていないなどの課題を有している。
また、予めポリマーセメントモルタル組成物を構成する成分の全部を混合しているプレミクスタイプとなっているものに水のみを添加、混練して調製されることが好ましいと記載されているが、ただ単に液体収縮低減剤を混合しているだけでは、再乳化型粉末樹脂と共存して袋などに保存されていることで、水を添加し混練すると、粘性が著しく増加するという課題も有している。
【0008】
更に、特開平2−164754号公報、特開2003−292357号公報や特開2005−126268号公報(特許文献4〜6)には、繊維状マグネシウムオキシサルフェートや塩化ビニリデンバルーン等の吸油性を有する粉状体に界面活性剤を担持させたり、シラスバルーン表面に界面活性剤を吸油させたセメント組成物粉状添加剤が開示されており、粉体に液体をプレミクスする場合のハンドリングが向上したり、保管時の粉体と界面活性剤との分離を低減させることができるとされている。
【0009】
しかし、収縮低減剤に用いられる上記有機化合物は通常使用温度域では液体であり、他の材料とのプレミクスは、固体または粉体状の原材料に液状物質を添加後、所定時間均一に混合することによって行われるものである。
上記プレミクス品の問題としては、粉末樹脂と収縮低減剤が共存した混合物を貯蔵・保管した場合に起きる物理的または化学的な変質があり、これはセメント等のアルカリ成分の共存下において樹脂成分と収縮低減剤が融合することに起因するものである。
かかる変質は、収縮低減剤を含むプレミクス品を所定の水量で混練したモルタルまたはグラウト材混練物の粘性を著しく増加させ、この傾向は保存温度が高いほど、期間が長いほど大きいという問題点を有していた。
【0010】
従って、再乳化形粉末樹脂と液体収縮低減剤をプレミクスした場合、保存後の粘性が著しく増加する問題点を解決したポリマーセメントグラウト材組成物及びグラウト材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−285153号公報
【特許文献2】特開平10−265251号公報
【特許文献3】特開2005−82416号公報
【特許文献4】特開平2−164754号公報
【特許文献5】特開2003−292357号公報
【特許文献6】特開2005−126268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、従来の再乳化形粉末樹脂と液体収縮低減剤とをプレミクスしたポリマーセメントグラウト材と比較して、プレミクス製品として保存した後もプレミクス初期の流動性を有するポリマーセメントグラウト材組成物及び当該グラウト材組成物を用いたグラウト材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するため、液体収縮低減剤と再乳化形粉末樹脂とが直接接触しないようにするために液体収縮低減剤を吸湿性の高い無機粉体に担持させた担持物を用いることで、本発明のポリマーセメントグラウト材組成物及びグラウト材を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の請求項1記載のポリマーセメントグラウト材組成物は、ポルトランドセメント、膨張材、骨材、再乳化形粉末樹脂及び収縮低減剤を含むポリマーセメントグラウト材組成物であって、該収縮低減剤は、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種に担持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載のポリマーセメントグラウト材組成物は、請求項1記載のポリマーセメントグラウト材組成物において、前記天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種100質量部に、前記収縮低減剤が50〜150質量部担持されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載のポリマーセメントグラウト材は、請求項1または2記載のポリマーセメントグラウト材組成物に、水を混合してなることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載のポリマーセメントグラウト材は、請求項3記載のグラウト材において、ポリマーセメントグラウト材組成物中のポルトランドセメントと膨張材とからなる水硬性無機粉体100質量部に対し、水を25〜50質量部混合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリマーセメントグラウト材組成物を用いたグラウト材によれば、従来の再乳化型粉末樹脂と液体収縮低減剤をプレミクスしたグラウト材と比較して、保存・保管した後もプレミクス初期の流動性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を最適例を用いて以下に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のポリマーセメントグラウト材組成物は、ポルトランドセメント、膨張材、骨材、再乳化形粉末樹脂及び収縮低減剤を含むグラウト材組成物であって、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種に液体収縮低減剤が担持されている組成物である。
【0019】
本発明のポリマーセメントグラウト材組成物に用いるセメントとしては、現場の施工条件等を考慮して選定することができ、特に限定されず、例えば普通、早強、中庸熱及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらの各種ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグなどを混合した高炉セメント等の各種混合セメント、速硬セメント等を、単独または2種以上混合して用いることができる。
2種以上を併用する場合には、混合割合は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0020】
また、該セメントには、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏などの公知の混和材を添加することができる。
その配合割合は、特に限定されず、適宜設計することができる。
【0021】
本発明のポリマーセメントグラウト材組成物に用いる膨張材としては、一般に用いられているカルシウムサルホアルミネート系膨張材や生石灰系膨張材が使用できる。
当該膨張材の使用量は、セメント100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、特に2〜15質量部がより好ましい。
これは、1質量部未満では自己収縮を十分に抑えることができない場合があり、20質量部を超えると過剰膨張が発生する場合があるからである。
【0022】
また、本発明のポリマーセメントグラウト材組成物に使用する収縮低減剤としては、グラウト材組成物中に含まれる水の表面張力を減少させることで、補修後の断面の乾燥収縮を抑制又は防止できるものであれば、特に限定されず、公知のものや市販品を用いることができる。
例えば、低級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル、低分子量アルキレンオキシド共重合体を挙げることができ、これらの乾燥収縮低減剤は、単独又は2種以上混合して用いることができる。
2種以上を併用する場合には、その併用割合は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0023】
上記収縮低減剤は、板状の形状を有しかつ平均粒子径が5μm以下のケイ酸アルミニウムまたはケイ酸アルミニウム水和物またはそれらの仮焼物に担持されてもよいが、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種に担持される。
このような形態で収縮低減剤をポリマーセメントグラウト材組成物中に導入することにより、混練時に液体収縮低減剤と粉末樹脂が接触することがなく、グラウト材の粘性が上昇することを抑制できる。
本発明においては、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロイサイトが例示でき、これらの仮焼物も用いることができる。
ここで、仮焼物とは、400℃〜800℃の温度範囲で加熱処理したものをいう。
【0024】
上記ケイ酸アルミニウムまたはケイ酸アルミニウム水和物の形状は、板状であり、かかる形状が板状であることにより、収縮低減剤を板状粒子の層間や面間に保持し、収縮低減剤と粉末ポリマーとの接触を阻害することで、プレミクス品を保存してもグラウト材の流動性の悪化を防止することができる。
また、平均粒子径を5μm以下とすることにより、表面積が増加し、収縮低減剤の担持量を著しく増加させることができる。
かかる平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(日機装株式会社製マイクロトラックSRA)を使用し、分散媒としてエタノールを用いて測定した値である。
【0025】
その担持量は、該天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種100質量部に、液体収縮低減剤が50〜150質量部担持されていることが好ましい。
このような割合で担持することにより、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種の担体の層間または面間に収縮低減剤が担持され、プレミクス品としたときに、収縮低減剤と再乳化型粉末樹脂ポリマーとの直接接触を低減でき、水と混練してグラウト材とした場合の流動性悪化を有効に防止することができる。
また、50質量部未満の担持量では、収縮低減剤添加量に対する天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物等の量が増加するため経済的ではない。
また、グラウト材に占める天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物等の量の割合が増加し、グラウト諸性状が変化してしまう問題も生じる場合がある。
また、150質量部を超えると、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物等の粒子の層間または面間に保持できる収縮低減剤量以上となるため、粉体粒子表面が濡れた状態となり、収縮低減剤と再乳化型粉末樹脂との接触を防止することができず、プレミクス品を保存した場合に、水と混練後のグラウト材の流動性が悪化してしまう場合がある。
【0026】
該天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物に液体収縮低減剤を担持させる方法としては、特に限定されないが、例えば、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物と液体収縮低減剤とを混合機に投入して均一に混練することにより、効果的に担持させることができる。
【0027】
また、本発明のポリマーセメントグラウト材に使用する再乳化形粉末樹脂としては、JIS A 6203に規定されたものを使用することができ、例えば、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサック酸ビニルエステル/アクリル酸エステル等の樹脂が挙げられ、これらの中から適宜、選択して単独、または混合して使用することができる。
特に、耐水性等の耐久性が要求される部材に用いる場合には、アクリル系の再乳化型粉末樹脂の使用が好ましい。
【0028】
再乳化形粉末樹脂は、JIS A 6203に規定するポリマーディスパージョンを噴霧乾燥した粉末樹脂で、水を添加すると再度乳化するものをいい、ポリマーディスパージョンとは、上記ポリマーの微粒子が水中に分散し、浮遊している状態のものである。
ポリマーを安定化する方法としては、例えば、アクリル酸を共重合するカルボキシル方式(アニオン化方式)、水溶性ポリマー例えばポリビニルアルコール等の水溶液中で重合する保護コロイド方式、重合反応性界面活性剤等を共重合する方式、非重合反応性界面活性剤による安定化方式がある。
かかる再乳化形粉末樹脂の製造方法は特に限定されることなく、これらのポリマーディスパージョンを粉末化方法やブロッキング防止法等の公知の任意の方法を用いて調製することができる。
再乳化形粉末樹脂の再乳化液としては、最低造膜温度が0℃以上であることが望ましい。
最低造膜温度が0℃以上であることにより、コンクリートとの付着性およびポリマーセメントグラウト材の表面硬度が硬く、早期強度発現性に優れることとなる。
【0029】
かかる再乳化形粉末樹脂の配合量としては、セメント100質量部に対して、5〜30質量部配合されてなり、好適には、7〜15質量部であることが望ましい。
これは、かかる配合比で、再乳化形粉末樹脂を混合することより、ポリマーセメントグラウト材として使用した際に、コンクリートに対して、良好な接着性を有するものとなるからである。
再乳化形粉末樹脂がセメントに対して5質量部未満では、コンクリートとの付着性能が十分に発揮できない場合があり、また、30質量部を超えると、ポリマーセメントグラウト材の流動性や強度が低下し、コンクリート構造物の断面修復または増厚材としての性能に支障が発生する恐れがあるからである。
【0030】
本発明のポリマーセメントグラウト材に使用する細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、3〜8号珪砂、石灰石、及びスラグ細骨材等を使用することができ、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度調整した珪砂や石灰石等の細骨材を用いることが好ましい。
その配合割合は、上記セメント100質量部に対して、120〜400質量部、好ましくは150〜300質量部とすることが望ましい。
これは、かかる配合比で細骨材を混合することより、作業性が良く、実用的な強度発現性を有し、実用上問題のない硬化収縮を有する補修材料となるからである。
細骨材がセメントに対して120質量部未満では、乾燥収縮や水和熱によるひび割れが発生するおそれがあり、また、400質量部を超えると、コンクリート構造物をはつり取った箇所への充填性や強度発現性に支障の出るおそれがあるからである。
【0031】
なお、本発明のポリマーセメントグラウト材組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、高性能減水剤、消泡剤、発泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、着色剤、保水剤等の公知の化学混和剤、強化繊維を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することができる。
これら化学混和剤や強化繊維は、単独又は2種以上で用いることができ、化学混和剤や強化繊維の混合割合や2種以上を併用する場合の併用割合等は、限定的ではなく、適宜調整しながら用いることが好ましい。
【0032】
本発明のポリマーセメントグラウト材は、上記グラウト材組成物と水とを混練してなるものであって、好ましくは、グラウト材組成物中に含まれる水硬性無機粉体100質量部に対し、水25〜50質量部、好ましくは30〜40質量部を添加し均一に混練することにより得られる。ここで水硬性無機粉体とはセメント及び膨張材からなる無機粉体をいう。
【0033】
本発明のポリマーセメントグラウト材は、前記したグラウト材組成物に所定量の水を添加し、混練するだけで得られるものであり、グラウト材の施工現場までは、例えば袋詰めされたグラウト材組成物の状態で運搬し、施工時に所望量のグラウト材を効率よく調製することが可能である。
【0034】
このようにして得られた本発明のポリマーセメントグラウト材のフレッシュ性状は、下端内径がJ漏斗(J14漏斗)試験において、流下時間が6〜10秒の高流動性を供えるものであり、この値は、所定の流動性を得るために必要な範囲であり、10秒を超えると、充填に必要な高流動性が得られず、6秒未満では材料分離のおそれが生じる。
【0035】
また、本発明のポリマーセメントグラウト材は、プレミクス後一ヶ月経過後であっても、下端内径がJ漏斗(J14漏斗)試験において、流下時間が6〜15秒の高流動性を備えるものであり、このことにより所定の作業性及び優れた施工性を確保することができる。
【実施例】
【0036】
本発明を以下の実施例及び比較例により具体的に説明する。
(使用材料)
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
カルシウムサルホアルミネート系膨張材(商品名「サクス」住友大阪セメント株式会社製)
再乳化型粉末樹脂(商品名「LDM7000P」ニチゴー・モビニール社製)
収縮低減剤(商品名「テスタF#100」住友大阪セメント株式会社製)
乾燥珪砂(珪砂3号と珪砂6号を1:1の割合で混合したもの)
高性能減水剤(商品名「マイティ100」株式会社花王製)
消泡剤(商品名「アデカネートB211F」旭電化工業株式会社製)
水(水道水)
【0037】
(収縮低減剤担持物の調製)
(1)収縮低減剤担体
収縮低減剤担体として、以下の2種の担体を用いた。
・メタカオリン
商品名「SP−33」林化成株式会社製
・繊維状マグネシウムオキシサルフェート
商品名「モスハイジ」宇部マテリアルズ株式会社製
【0038】
前記メタカオリンの形状及び繊維状マグネシウムオキシサルフェートの形状は、走査型電子顕微鏡による粒子形状観察すると前者が板状で、後者が繊維状であり、更にレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日機装製マイクロトラックSRA)により平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
但し、繊維状マグネシウムオキシサルフェートの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察において任意に選んだ繊維100個の直径と長さを測定し、直径と長さそれぞれを平均して求めた。
【0041】
(収縮低減剤担持物の調製)
(1)担持物A
担体としてメタカオリン(商品名「SP−33」林化成株式会社製)20gと収縮低減剤(商品名「テスタF#100」住友大阪セメント株式会社製)20gとを、卓上カッターミルIMF−300(岩谷産業株式会社製)に添加し、カッター羽根回転数20,000rpmで1分間混合して、前記収縮低減剤を担持させた担持物−Aを調製した。
(2)担持物B
担体として繊維状マグネシウムオキシサルフェート(商品名「モスハイジ」宇部マテリアルズ株式会社製)20gと乾燥収縮低減剤(商品名「テスタF#100」住友大阪セメント株式会社製)20gとを、卓上カッターミルIMF−300(岩谷産業株式会社製)に添加し、カッター羽根回転数20,000rpmで1分間混合して、前記収縮低減剤を担持させた担持物−Bを調製した。
【0042】
(実施例1、比較例1〜3)
上記原材料を用いて表2に示す配合割合に従って、V型混合機を使用して20分間混合し、プレミクスされた各ポリマーセメントグラウト組成物を調製した。
【0043】
【表2】

【0044】
得られた各プレミクスポリマーセメントグラウト材組成物粉体に、直ちに水12質量部を添加し、高速ハンドミキサーで混練して各グラウト材を調製した(保存なしグラウト材)。
得られたグラウト材の流動性は、上記減水剤及び消泡剤を添加して均一混練することにより、各ポリマーセメントグラウト材において、日本道路公団試験方法 JHS 312−1992(無収縮モルタル品質管理試験方法)に規定されるJ14ロート流下時間が8±2秒以内(適正範囲)となるように調整された。
【0045】
また、上記と同様にして表1に示す配合割合に従って調製されたプレミクスポリマーセメントグラウト材組成物粉体をポリエチレン製袋に密封し、30℃で28日間保存したものについて水を12質量部添加すること以外は、グラウト材を上記と同様にして得た。
得られたグラウト材(保存ありグラウト材)に、上記保存していないプレミクスポリマーセメントグラウト材に配合したと同一量の減水剤及び消泡剤を添加して、J14ロート流下時間を測定した。
【0046】
当該減水剤添加量を増加させると、ポリマーセメントグラウト材の流動性が向上すると同時に空気の混入量が増加するので、その連行空気の脱泡を目的に消泡剤は添加される。高性能減水剤の添加による流動性の評価はJ14ロートにより評価される。
その具体的な調整方法は、まず高性能減水剤のみを添加することでJ14流下時間を適正範囲に調整し、そのときの単位容積質量を測定し、次に、消泡剤を添加して単位容積質量が増加する上限値の添加量を決定することにより行なう。
但し、J14ロート流下時間によるポリマーセメントグラウト材の流動性の調整は、日本道路公団試験方法「JHS 312−1992」の規定に従って行い、得られたJ14ロート流下時間を表3に示す。
【0047】
このようにして流動性が調整された実施例1および比較例1〜3の各ポリマーセメントグラウト材に対して以下の各試験を20℃の恒温室において以下の方法に従い実施し、前記J14ロート流下時間とともに各試験の結果を表3に示す。
【0048】
(各試験の実施方法)
(1) 材料分離抵抗性試験
充分に混練した各ポリマーセメントグラウト材を内容積5リットルの容器に入れ、混練後1時間静置し、細骨材の分離及びブリーディングの有無を視覚で確認した。
但し、材料分離抵抗性については、以下の基準により評価した。
○:細骨材の分離なし、かつブリーディングなし
×:細骨材の分離またはブリーディングあり、もしくは両方あり
【0049】
(2) 圧縮強度試験
日本道路公団試験方法「JHS 312−1992」の規定に従って、φ50mm×h100mmの各円柱供試体を作製し、温度20℃、湿度60%RHで養生し、材齢28日後における各円柱共試体の圧縮強度を測定した。
【0050】
(3) 長さ変化試験(乾燥収縮試験)
JIS A 1129−3:2001「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第3部ダイヤルゲージ法」の規定に従って4×4×16cmの供試体を作製し、温度20℃、湿度60%RHで養生して、材齢1日、7日、28日の長さ変化を測定した。
【0051】
【表3】

【0052】
比較例1〜3では、材料分離抵抗性、28日圧縮強度および長さ変化率は正常な範囲であるが、ポリエチレン製袋に密封し、30℃で、28日間保管後のJ14ロート流下時間測定が、8±2秒以内(適正範囲)である保管なしの混練直後に比べて、23〜27秒と著しく流動性が低下している。
【0053】
一方、実施例1では、材料分離抵抗性、28日圧縮強度および長さ変化率は正常な範囲であり、ポリマーセメントグラウト材の流動性も適正範囲(J14ロート流下時間8±2秒)である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリマーセメントグラウト材は、コンクリート構造物、特に、鉄筋コンクリート構造物からなる橋脚の耐震補強や道路床版の下面増圧工法に用いられるコンクリート構造物の補修・補強に有効に用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、膨張材、骨材、再乳化形粉末樹脂及び収縮低減剤を含むポリマーセメントグラウト材組成物であって、該収縮低減剤は、天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種に担持されていることを特徴とする、ポリマーセメントグラウト材組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリマーセメントグラウト材組成物において、前記天然カオリン粘土類、合成カオリン、ハロサイト及びこれらの仮焼物からなる群より選ばれる1種100質量部に、前記収縮低減剤が50〜150質量部担持されていることを特徴とする、ポリマーセメントグラウト材組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリマーセメントグラウト材組成物に、水を混合してなることを特徴とする、ポリマーセメントグラウト材。
【請求項4】
請求項3記載のポリマーセメントグラウト材において、ポリマーセメントグラウト材組成物中のポルトランドセメントと膨張材とからなる水硬性無機粉体100質量部に対し、水を25〜50質量部混合してなることを特徴とする、ポリマーセメントグラウト材。

【公開番号】特開2011−57555(P2011−57555A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286850(P2010−286850)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【分割の表示】特願2006−100529(P2006−100529)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】