説明

ポンプの制御方法及びその制御装置

【課題】構造の簡単化を図りつつ、液体の排水時間の短縮化とキャビテーション発生の抑制とを両立できるポンプの制御方法及びその制御装置を提供する。
【解決手段】バラストタンク4に対して注排水するためのポンプ1の吐出側に接続された吐出弁5と、吸込圧センサ2と、吐出圧センサ3と、吸込圧Pinと吐出圧Poutに基づいて吐出弁5を制御する制御器10とを備え、制御器10は、流量演算手段11と、NPSH特性線Lhとキャビテーション判定特性線Lcと復帰判定特性線Lsとを記憶した特性記憶手段12と、作動状態Xが吸込圧Pinの減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達した際に復帰判定特性線Ls上の作動状態になるまで吐出弁5を絞り側へ調整した後、復帰判定特性線Lsとキャビテーション判定特性線Lcの中間近傍の作動状態になるまで吐出弁5を開き側へ調整する吐出弁調整制御手段13を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を貯留するタンクに対して注排水するためのポンプの制御方法及びその制御装置に関し、特にタンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御方法及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オイルタンカー等の油槽船では、プロペラ没水深度の確保や空荷時における安全航行の確保のために複数のバラストタンクを設け、貨油管や貨油ポンプ等の貨油管系設備とは分離されたバラスト注排水専用のバラスト管系設備を有している。これにより、出港前にバラスト水(海水)を注水して喫水を形成することができ、荷役中のバラスト水の排水や航海中のバラスト水の入替えを行なうことができる。
【0003】
ポンプの吸込性能を評価する数値としてNPSH(Net Positive Suction Head)が使用され、このNPSHには、実際上利用できる有効吸込ヘッド(NPSH Available)と、ポンプ自身の性能によって固有の値である必要吸込ヘッド(NPSH Required)とがある。
注排水用ポンプは、運転中に必要吸込ヘッドの値が有効吸込ヘッドの値を超えると、インペラにキャビテーションが発生して、ポンプの全揚程、流量及びポンプ効率が急激に低下し、騒音や振動、更には、インペラ周辺に潰食による破損を生じることが知られている。特に、前記の貨油ポンプやバラストポンプのような高速且つ大容量のポンプでは、小型のポンプに比べてキャビテーションが発生する可能性が高く、キャビテーション損傷の対策が深刻な課題である。
【0004】
特許文献1のポンプの運転制御装置は、回転数を制御可能なポンプの吸込側に設けられた吸込タンクと、ポンプ揚液から気体を分離する置換室と、置換室のポンプ揚液を吸込タンクに還流させる再循環弁と、必要吸込ヘッドと有効吸込ヘッドを演算すると共にポンプ回転数と吐出弁開度と再循環弁開度とを制御するコントローラとを備え、ポンプ運転時、吸込タンクの液位に基づき吐出弁の開度を絞り側に制御することにより、必要吸込ヘッドが有効吸込ヘッドを超えないようにポンプの吐出流量を調節している。
【0005】
また、油槽船のように大容量のポンプが必要とされる場合、回転数が一定に維持された、所謂定格回転数ポンプを備えた注排水設備が用いられている。このような注排水設備では、タンクに対して注排水するためのポンプの吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁と、ポンプ吸込側の吸込圧を検出する吸込圧センサと、ポンプ吐出側の吐出圧を検出する吐出圧センサと、両センサにより検出された吸込圧と吐出圧に基づいて吐出弁を制御する制御器とを備えている。
【0006】
図6は、本願出願人が採用してきた注排水制御に関するものであり、前記制御器は、タンクの液位(有効吸込ヘッド相当)がポンプ吸込側の吸込圧Pinにより代替え可能であることを利用して、吸込圧Pinとポンプの吐出流量Qとをパラメータとして夫々予め設定した、必要吸込ヘッド特性線Lhと、この必要吸込ヘッド特性線Lhから第1許容幅離隔させて流量減少側に設定したキャビテーション判定特性線Lcと、このキャビテーション判定特性線Lcよりも第2許容幅離隔させて流量減少側に設定した復帰判定特性線Lsとを記憶している。そして、検出された吸込圧Pinと吐出圧Poutとに基づいて演算された現在のポンプ流量Qと吸込圧Pinとで決まるポンプの作動状態が、吸込圧Pinの減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達したとき、制御器は、作動状態が復帰判定特性線Ls上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整し、その後、この調整制御を繰り返し行なっている。
【0007】
前記調整制御で使用される復帰判定特性線Lsは、タンクが水平状態のとき検出される吸込圧Pinよりも相対的に圧力が高く検出される傾斜状態からタンクが水平状態に復帰した場合、更には、船体復帰時の反動により反対側へタンクが傾斜した傾斜状態の場合でも、ポンプ吸込側の吸込圧Pin(有効吸込ヘッド)が必要吸込ヘッド特性線Lhを下回ることがないように、航行中の船体の揺動を考慮した設計条件に基づいた第2許容幅を用いて設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2716823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のポンプの運転制御装置では、ポンプ回転数と吐出弁開度と再循環弁開度とを統合制御することにより、キャビテーションの抑制を自動制御することが可能である。
しかし、コントローラに与える制御条件が多く、そのための計測機器が増加するため、構造が複雑化し、製造コストや故障対応等のメインテナンスの面で不利になる虞がある。しかも、注排水作業の効率化のためにポンプの吐出流量を増加した場合、キャビテーションが発生する可能性が高まり、適正な吐出弁の開度調整が困難である。
【0010】
図6に示した注排水制御では、制御条件を検出する計測機器が少なく、吐出弁のみの調整制御であるため、簡単な構造でキャビテーションの発生を抑制することが可能である。
しかし、作動状態が吸込圧の減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達した際に復帰判定特性線Ls上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整しているため、ポンプの吐出流量が大幅に減少し、排水時間が長期化する虞がある。特に、オイルタンカー等の油槽船では、バラスト水の排出に数十時間要するため、排水時間の長期化は、日程や安全航行に影響を与えることが懸念される。
【0011】
ポンプの吐出流量を増すため、前記復帰判定特性線をキャビテーション判定特性線Lcから第2許容幅よりも小さな許容幅だけ離隔させて設定することも可能である。しかし、航行中の船体は揺動しているため、許容幅を小さくした場合、キャビテーション発生の虞がある。即ち、船体の揺動が大きなとき、タンクが水平状態において検出される吸込圧よりも相対的に圧力が高く検出される傾斜状態で吸込圧がキャビテーション判定特性線Lcに達した場合、復帰判定特性線Ls上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整中、或いは、調整後に、船体が反動により反対側へ傾斜した状態になることがある。このとき、キャビテーション判定特性線Lcから離隔した許容幅が小さな復帰判定特性線Lsを用いた調整制御を実行した場合、吐出弁を絞り側(復帰判定特性線Ls上の作動状態)に調整したにも拘わらず、ポンプ吸込側の吸込圧の増加が不足し、吸込圧が急激に低下した結果、吸込圧が必要吸込ヘッド特性線を下回る虞がある。
【0012】
本発明の目的は、構造の簡単化を図りつつ、液体の排水時間の短縮化とキャビテーション発生の抑制とを両立できるポンプの制御方法及びその制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1のポンプの制御方法は、液体を貯留するタンクに対して注排水するためのポンプの吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁を、タンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御方法において、前記ポンプ吸込側の吸込圧と流量をパラメータとして、NPSH特性線と、このNPSH特性線から第1許容幅離隔させて流量減少側に設定したキャビテーション判定特性線と、このキャビテーション判定特性線よりも第2許容幅離隔させて流量減少側に設定した復帰判定特性線とを予め設定して特性記憶手段に記憶しておき、吸込圧検出手段により検出したポンプ吸込側の吸込圧と、吐出圧検出手段により検出したポンプ吐出側の吐出圧とを用いて現在の流量を演算する第1工程と、前記現在流量と検出された吸込圧とで決まる作動状態が、吸込圧の減少に応じて前記キャビテーション判定特性線に達したか否か判定する第2工程と、前記第2工程で肯定判定された際に、前記作動状態が前記復帰判定特性線に達するまで吐出弁を絞り側へ調整する第3工程と、前記第3工程の後に前記作動状態が前記復帰判定特性線と前記キャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態になるまで吐出弁を開き側へ調整する第4工程と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項2のポンプの制御装置は、液体を貯留するタンクに対して注排水するためのポンプの吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁を、タンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御装置において、前記ポンプ吸込側の吸込圧を検出する吸込圧検出手段と、前記ポンプ吐出側の吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、前記両検出手段により検出された吸込圧と吐出圧に基づいて吐出弁を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記検出された吸込圧と吐出圧に基づいて現在の流量を演算する流量演算手段と、前記ポンプ吸込側の吸込圧と流量をパラメータとして夫々予め設定した、NPSH特性線と、このNPSH特性線から第1許容幅離隔させて流量減少側に設定したキャビテーション判定特性線と、このキャビテーション判定特性線よりも第2許容幅離隔させて流量減少側に設定した復帰判定特性線とを記憶した特性記憶手段と、前記流量演算手段で演算された現在流量と検出された吸込圧とで決まる作動状態が、吸込圧の減少に応じて前記キャビテーション判定特性線に達した際に前記復帰判定特性線上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整した後、前記復帰判定特性線と前記キャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態になるまで吐出弁を開き側へ調整する吐出弁調整制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ポンプを制御する制御条件が少なく且つそのための計測機器も少ないため、設備の構造を簡単化でき、製造コストや故障対応等のメインテナンスの面で有利である。ポンプの作動状態が吸込圧の減少に応じてキャビテーション判定特性線に達したとき、復帰判定特性線とキャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態(目標安定流量)になるまで吐出弁を絞り側へ調整するため、復帰判定特性線上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整したときのポンプ流量に比べてポンプ流量の減少幅を抑制でき、排水時間を短縮化することができる。
【0016】
また、吐出弁を復帰判定特性線とキャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態に調整する前段階において、吐出弁を一旦目標安定流量に対応した作動状態よりも絞り側の作動状態に調整することができる。それ故、タンクが水平状態において検出される吸込圧よりも相対的に圧力が高く検出される傾斜状態で吸込圧がキャビテーション判定特性線に達し、船体が反動により反対側へ傾斜した傾斜状態になった場合でも、前記作動状態よりも絞り側で且つ目標安定流量よりも絞り側の調整期間を形成することができるため、ポンプ吸込側の吸込圧の低下を抑えることができ、吸込圧が必要吸込ヘッド特性線を下回ることによるキャビテーションの発生を抑制することができる。しかも、前記絞り側の調整期間において、吐出弁を復帰判定特性線上の作動状態に調整しているため、吐出弁の調整制御を簡単化でき、キャビテーションの発生を一層抑制することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、基本的に、請求項1の発明と同様の効果を奏するポンプの制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係るポンプの制御装置の全体構成図である。
【図2】実施例1に係るポンプの特性線図を示し、(a)は全揚程とポンプ流量との関係式、(b)は必要吸込ヘッドとポンプ流量との関係式を示す図である。
【図3】吐出弁調整制御のフローチャートである。
【図4】実施例1に係るポンプの調整制御の作動状態を示す図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】従来のポンプの調整制御の作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、タンカーのバラスト管系設備のポンプの制御装置に適用した実施例に基づいて説明する。尚、以下の説明は、ポンプの制御方法の説明を含むものである。
【0020】
図1に示すように、このポンプ1の制御装置は、ポンプ1の吸込側の吸込圧Pinを検出する吸込圧センサ2(吸込圧検出手段)と、ポンプ1の吐出側の吐出圧Poutを検出する吐出圧センサ3(吐出圧検出手段)と、制御器10(制御手段)とを備え、海水(液体)を貯留するバラストタンク4(タンク)に対して注排水するためのポンプ1の吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁5を、バラストタンク4から海水排出時にキャビテーションが発生しないように制御している。このバラストタンク4は、1又は複数、例えば、船体の左右舷夫々に複数設けられ、各バラストタンク4がポンプ1に対して並列状に接続されている。
【0021】
ポンプ1は、常時水面下に位置するように配置された吐出口6とバラストタンク4の下部近傍位置とを接続する接続配管7の途中部に設けられている。このポンプ1は、一定回転数で回動される定格回転数ポンプであり、一方向にのみ吐出可能に構成されている。それ故、ポンプ1は、吐出方向切替回路(図示略)を介して接続管管7に接続され、バラストタンク4から排水後において、海水を吸引してバラストタンク4に注水するとき、吐出方向切替回路を操作して海水の流れる方向を逆方向に変更している。
【0022】
制御器10は、吸込圧センサ2と吐出圧センサ3と吐出弁5とに夫々電気的に接続され、両センサ2,3により検出された吸込圧Pinと吐出圧Poutとに基づいて吐出弁5の開度を調整可能に構成されている。この制御器10は、マイクロコンピュータを有し、流量演算手段11と、特性記憶手段12と、吐出弁調整制御手段13とを備えている。
流量演算手段11は、検出された吸込圧Pinと吐出圧Poutとに基づいて現在のポンプ1の吐出流量Qを演算している。全揚程Hとポンプ流量Qとの関数f(H)が予め特性記憶手段12に記憶されているため(図2(a)参照)、流量演算手段11は、吸込圧Pinと吐出圧Poutとの圧力差に基づいて全揚程Hを算出し、この全揚程Hから関数f(H)を用いて現在の流量Qを演算している。
【0023】
図2,図4,図5に示すように、特性記憶手段12には、前述した全揚程Hとポンプ流量Qとの関数f(H)と、ポンプ1の性能から予め設定されるポンプ流量Qと必要吸込ヘッドhとの関数f(Q)と、NPSH特性線Lhと、キャビテーション判定特性線Lcと、復帰判定特性線Lsとが予め記憶されている。
【0024】
有効吸込ヘッドは、ポンプ1の基準面において、液体が持つ全圧が液体のその温度における飽和蒸気圧よりもいくら高いかをヘッド(水頭)を用いて表したものであり、本実施例では、ポンプ吸込側の吸込圧Pinが有効吸込ヘッドに相当している。これにより、必要吸込ヘッドhに相当するNPSH特性線Lhは、ポンプ吸込側の吸込圧Pinとポンプ1の吐出流量Qをパラメータとして、関数f(Q)に基づき予め設定することができる。それ故、キャビテーション判定特性線Lcは、NPSH特性線Lhから第1許容幅、例えば、ヘッド換算にて0.5m相当流量減少側に離隔させて設定し、復帰判定特性線Lsはキャビテーション判定特性線Lcから第2許容幅、例えば、ヘッド換算にて0.5m相当流量減少側に離隔させて設定している。尚、第2許容幅は、バラストタンク4が水平状態のとき検出される吸込圧Pinよりも相対的に圧力が高く検出される傾斜状態から船体復帰時の反動により反対側へタンクが傾斜した傾斜状態の場合でも、ポンプ吸込側の吸込圧PinがNPSH特性線Lhを下回ることがないように予め実験値に基づき設定されている。
【0025】
吐出弁調整制御手段13は、流量演算手段11で演算された現在流量Qと検出された吸込圧Pinとから決まるポンプ1の作動状態Xが、吸込圧Pin(有効吸込ヘッド)の減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達した際に復帰判定特性線Ls上の作動状態になるまで吐出弁5を絞り側へ調整した後、復帰判定特性線Lsとキャビテーション判定特性線Lcの中間近傍の目標安定流量Qtn(但し、n=1,2…)に対応した作動状態になるまで吐出弁5を開き側へ調整するように構成されている。これにより、ポンプ1を目標安定流量Qtnに調整する前に、目標安定流量Qtnよりもポンプ流量を絞った調整期間を確保することができる。
【0026】
次に、図3の吐出弁調整制御のフローチャート及び図4,図5の説明図に基づき、ポンプ1の流量調整の処理手順について具体的に説明する。尚、Si(i=1,2…)は各ステップを示す。
【0027】
まず、S1にて、バラストタンク4からの排水開始と同時に、吸込圧センサ2で検出された吸込圧Pinと吐出圧センサ3で検出された吐出圧Poutとを夫々読み込み、S2へ移行する。S2では、吸込圧Pinと吐出圧Poutとから全揚程Hを算出し、関数f(H)を用いて現在のポンプ流量Qを演算する。
図5に示すように、作動状態Xは現在のポンプ流量Qと吸込圧Pinとから決定することができ、処理開始時において、作動状態X(Q,Pin)は、初期流量Q1を維持した状態において吸込圧Pinは徐々に減少する。
【0028】
S3では、作動状態Xが吸込圧Pinの減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達したか否か判定している。S3の判定の結果、作動状態Xがキャビテーション判定特性線Lcに達したとき、所定の速度で吐出弁5を閉操作し(S4)、作動状態Xがキャビテーション判定特性線Lcに達していないとき、S1へリターンする。
図5に示すように、吸込圧Pinの減少により作動状態Xがキャビテーション判定特性線Lc上の点X1(Q1,P1)に達したとき、吐出弁5を絞り側に閉操作する。作動状態Xがキャビテーション判定特性線Lc上の点X1(Q1,P1)に達していないときは、現在の流量Q1を維持した状態で排水を継続する。
【0029】
S5では、作動状態Xが吐出弁5の閉操作に応じて復帰判定特性線Lsに達したか否か判定している。S5の判定の結果、作動状態Xが復帰判定特性線Lsに達したとき、目標安定流量Qtnを決定し(S6)、作動状態Xが復帰判定特性線Lsに達していないとき、S4へリターンする。図5に示すように、吐出弁5の閉操作により作動状態Xが復帰判定特性線Ls上の点X2(Q2,P1)に達したとき、吐出弁5の閉操作を停止し、目標安定流量Qtnを演算している。作動状態Xが復帰判定特性線LS上の点X2(Q2,P1)に達していないとき、吐出弁5の閉操作を継続すし、ポンプの流量減少幅を増加する。
【0030】
S6では、目標安定流量Qtnを演算する。
本実施例では、目標安定流量Qtnを次式(1)により演算する。
Qtn=(Qn+Q(n+1))/2 … (1)
(n=1,2,3…)
図5に示すように、目標安定流量Qt1は(Q1+Q2)/2に設定され、この目標安定流量Qt1になるように吐出弁5が開操作される(S7)。
【0031】
S8では、吐出弁5の開操作によって、作動状態Xがこの目標安定流量Qt1に対応した作動状態X3(Qt1,P2)に達したか否か判定する。
図5に示すように、S8の判定の結果、作動状態Xがこの目標安定流量Qt1に対応する作動状態X3(Qt1,P2)に達したとき、吐出弁5の開操作を停止する。S8の判定の結果、作動状態Xがこの目標安定流量Qt1に対応する作動状態X3(Qt1,P2)に達していないとき、S7にリターンして吐出弁5の開操作を継続する。
【0032】
図5に示すように、目標安定流量Qt1に対応する作動状態X3(Qt1,P2)に達した後、ポンプ1の目標安定流量Qt1を維持し(S9)、リターンする。これにより、吐出弁5を作動状態X2(Q2,P1)を経由して目標安定流量Qt1に対応する作動状態X3(Qt1,P2)に調整するため、目標安定流量Qt1よりも絞り側の調整期間を形成することができる。
【0033】
図5に示すように、S9の後、作動状態Xは、目標安定流量Qt1を維持した状態で吸込圧Pinが徐々に減少するため、作動状態X(Q,Pin)がキャビテーション判定特性線Lc上の点X4(Qt1,P3)に達したとき、吐出弁5を絞り側に閉操作する。以下、前述の調整制御が繰り返され、吐出弁5を作動状態X5(Q3,P3)を経由して目標安定流量Qt2に対応した作動状態X6(Qt2,P4)に調整するため、目標安定流量Qt2よりも絞り側の調整期間を形成することができる。これらの調整制御が、バラストタンク4が所定の貯留量になるまで繰り返される。
【0034】
次に、本ポンプの制御装置の作用・効果について説明する。
本ポンプの制御装置によれば、ポンプ1を制御する制御条件が少なく且つそのための計測機器も少ないため、設備の構造を簡単化でき、製造コストや故障対応等のメインテナンスの面で有利である。ポンプ1の作動状態が吸込圧Pinの減少に応じてキャビテーション判定特性線Lcに達したとき、復帰判定特性線Lsとキャビテーション判定特性線Lcの中間近傍の作動状態X3,X6になるまで吐出弁5を絞り側へ調整するため、復帰判定特性線Ls上の作動状態X2,X5になるまで吐出弁5を絞り側へ調整したときのポンプ流量Qに比べてポンプ流量Qの減少幅を抑制でき、排水時間を短縮化することができる。
【0035】
また、図4,図5に示すように、吐出弁5を復帰判定特性線Lsとキャビテーション判定特性線Lcの中間近傍の作動状態X3,X6に調整する前段階において、吐出弁5を作動状態X3,X6よりも絞り側の作動状態X2,X5に調整することができる。それ故、バラストタンク4が水平状態において検出される吸込圧Pinよりも相対的に圧力が高く検出される傾斜状態で吸込圧Pinがキャビテーション判定特性線Lcに達し、復帰判定特性線Lsとキャビテーション判定特性線Lcの中間近傍の作動状態X3,X6になるまで吐出弁5を絞り側へ調整した後に、船体が反動により反対側へ傾斜した傾斜状態になった場合でも、前記作動状態X3,X6よりも絞り側で且つ目標安定流量Qt1,Qt2よりも絞り側の調整期間を形成することができるため、ポンプ吸込側の吸込圧Pinの低下を抑えることができ、吸込圧Pinが必要吸込ヘッド特性線Lhを下回ることによるキャビテーションの発生を抑制することができる。しかも、前記絞り側の調整期間において、吐出弁2を復帰判定特性線Ls上の作動状態X2,X5に調整しているため、吐出弁5の調整制御を簡単化でき、キャビテーションの発生を一層抑制することができる。
【0036】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、バラスト注排水用ポンプの例を説明したが、貨油ポンプ等にも適用することができる。また、船舶分野に限ることなく、他の分野のポンプ制御にも適用しても良い。
【0037】
2〕前記実施例においては、吸込圧の減少により作動状態がキャビテーション判定特性線上に達したときから作動状態が復帰判定特性線上に達するときまで、吐出弁の閉操作を吸込圧を一定にした例を説明したが、少なくとも、絞り側の調整期間を形成することができればよく、吐出弁の閉操作に伴い吸込圧が増加するような閉操作であっても良い。
【0038】
3〕前記実施例においては、目標安定流量をキャビテーション判定特性線上に達したときのポンプ流量と復帰判定特性線上に達したときのポンプ流量との間において50%に設定した例を説明したが、少なくとも、キャビテーション判定特性線上に達したときのポンプ流量と復帰判定特性線上に達したときのポンプ流量との間において40〜60%の範囲に設定すれば本発明の効果を奏することが可能である。
【0039】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、タンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御方法及びその制御装置において、吸込圧がキャビテーション判定特性線に達したとき、目標安定流量に絞り調整する前に目標安定流量よりも絞り側の調整期間を形成することにより、構造の簡単化を図りつつ、液体の排水時間の短縮化とキャビテーション発生の抑制とを両立できる。
【符号の説明】
【0041】
1 ポンプ
2 吸込圧センサ
3 吐出圧センサ
4 バラストタンク
5 吐出弁
10 制御器
11 流量演算手段
12 特性記憶手段
13 吐出弁調整制御手段
Lh NPSH特性線
Lc キャビテーション判定特性線
Ls 復帰判定特性線
X 作動状態


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留するタンクに対して注排水するためのポンプの吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁を、タンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御方法において、
前記ポンプ吸込側の吸込圧と流量をパラメータとして、NPSH特性線と、このNPSH特性線から第1許容幅離隔させて流量減少側に設定したキャビテーション判定特性線と、このキャビテーション判定特性線よりも第2許容幅離隔させて流量減少側に設定した復帰判定特性線とを予め設定して特性記憶手段に記憶しておき、
吸込圧検出手段により検出したポンプ吸込側の吸込圧と、吐出圧検出手段により検出したポンプ吐出側の吐出圧とを用いて現在の流量を演算する第1工程と、
前記現在流量と検出された吸込圧とで決まる作動状態が、吸込圧の減少に応じて前記キャビテーション判定特性線に達したか否か判定する第2工程と、
前記第2工程で肯定判定された際に、前記作動状態が前記復帰判定特性線に達するまで吐出弁を絞り側へ調整する第3工程と、
前記第3工程の後に前記作動状態が前記復帰判定特性線と前記キャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態になるまで吐出弁を開き側へ調整する第4工程と、
を備えたことを特徴とするポンプの制御方法。
【請求項2】
液体を貯留するタンクに対して注排水するためのポンプの吐出側に接続された流量調整可能な吐出弁を、タンクから液体排出時にキャビテーションが発生しないように制御するポンプの制御装置において、
前記ポンプ吸込側の吸込圧を検出する吸込圧検出手段と、
前記ポンプ吐出側の吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、
前記両検出手段により検出された吸込圧と吐出圧に基づいて吐出弁を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記検出された吸込圧と吐出圧に基づいて現在の流量を演算する流量演算手段と、
前記ポンプ吸込側の吸込圧と流量をパラメータとして夫々予め設定した、NPSH特性線と、このNPSH特性線から第1許容幅離隔させて流量減少側に設定したキャビテーション判定特性線と、このキャビテーション判定特性線よりも第2許容幅離隔させて流量減少側に設定した復帰判定特性線とを記憶した特性記憶手段と、
前記流量演算手段で演算された現在流量と検出された吸込圧とで決まる作動状態が、吸込圧の減少に応じて前記キャビテーション判定特性線に達した際に前記復帰判定特性線上の作動状態になるまで吐出弁を絞り側へ調整した後、前記復帰判定特性線と前記キャビテーション判定特性線の中間近傍の作動状態になるまで吐出弁を開き側へ調整する吐出弁調整制御手段とを備えたことを特徴とするポンプの制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108446(P2013−108446A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254666(P2011−254666)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】