説明

ポータブルトイレ

【課題】背もたれに沿って起立した状態で長取っ手を格納できるポータブルトイレの利点を継承しつつ格納状態の長取っ手の上端が背もたれから突出するのを防止する。
【解決手段】ポータブルトイレ100に組み込まれる左右一対の取っ手部材110は、長尺の木片112と、前後に離置した短い第1、第2の短尺木片114,116とを有し、後側短尺木片116の下端の透孔122は左右の取っ手部材110のピボット軸124を構成する。取っ手部材110を揺動させて長尺木片112を倒すことで、長尺木片112は「長取っ手」として機能する。また、前側の短尺木片114が、長取っ手の支持部材として機能する。他方、長尺木片112が格納姿勢のときは、前側の短尺木片114が「短取っ手」として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはポータブルトイレに関し、より詳しくは、ベッドの脇に置いて使用者が自力で又は介助者の手を借りてポータブルトイレに移乗して用を足すのに好都合な自立支援介護用品としてのポータブルトイレに関する。
【背景技術】
【0002】
ベッドの脇で使用するのが好適なポータブルトイレとして、長短の左右の取っ手を備えた椅子型のポータブルトイレが普及している(特許文献1、2)。この種のポータブルトイレは、一方の取っ手が便座の側縁の全長よりも短いため(短取っ手)、この短取っ手の前方の空間を使って使用者が自力で又は介助者の手を借りてベッドサイドから座位姿勢でポータブルトイレの便座に移乗できるという利点があり、自立支援介護用品として注目されている。
【0003】
特許文献1のポータブルトイレは、ベッドサイドから遠い側の取っ手の長さが便座の側縁の全長よりも長く、ポータブルトイレの前方に突出した長さ寸法に設定されている。後に説明する特許文献2との違いを明確にするために、この特許文献1のポータブルトイレを「前方突出取っ手」タイプと呼ぶこととし、また、長取っ手を「前方突出取っ手」と呼ぶことにする。この前方突出取っ手タイプのポータブルトイレは、使用者が、前方突出取っ手の前端を支えに前屈みの姿勢から重心移動するのに都合が良いという利点がある。
【0004】
特許文献2は、ベッドサイドから遠い側の取っ手の長さが便座の側縁の全長とほぼ等しい長さ寸法に設定されたポータブルトイレを開示している。特許文献2のポータブルトイレを「肘掛け取っ手」タイプと呼ぶこととし、また、長取っ手を「肘掛け取っ手」と呼ぶことにする。この肘掛け取っ手タイプのポータブルトイレのなかには、肘掛け取っ手を上に跳ね上げることのできる格納式ポータブルトイレが出現している。
【0005】
この従来例の概要を示したのが図12である。図12を参照して、参照符号Hはベッドサイドの高さレベルを示し、このベッドサイドの高さレベルHと略一致するように便座2の高さ位置を調整することができる。従来の跳ね上げ式ポータブルトイレは、左右一対の肘掛け取っ手3と、左右一対の短取っ手4とを有し、各肘掛け取っ手3は、その基端3aを中心に揺動可能である。肘掛け取っ手3の揺動中心を参照符号5で示す。肘掛け取っ手3は背もたれ6に沿って起立した起立姿勢(仮想線で図示した姿勢)と、傾倒した水平姿勢(実線で図示の状態)とを取ることができ、水平姿勢では、肘掛け取っ手3は短取っ手4の上に乗った状態で短取っ手4によって支持される。
【0006】
上記の従来例のポータブルトイレは、肘掛け取っ手3を跳ね上げて起立姿勢を取らせることで、既に存在しているところの短取っ手4が出現する。このことから、ベッドサイドにポータブルトイレを設置するときに、使用者にとって都合の良い側の肘掛け取っ手3を跳ね上げて起立姿勢(格納姿勢)を取らせることで長短の取っ手を備えたポータブルトイレに変身させることができる。
【0007】
また、使用者が着座した後に、例えば起立姿勢の肘掛け取っ手3を倒すことで、左右両側に肘掛け取っ手3を備えたポータブルトイレに変身させることができ、使用者は左右の肘掛け取っ手3を肘掛けとして利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5−38619号公報
【特許文献2】特開2008−104833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ベッドサイド型ポータブルトイレの適用例は、これを使用する者(患者)に残存している身体機能や身体能力によって次の類型に大別して考えることができる。
(1)介助者の手によって使用者をベッドサイドに座らせ、そして、介助者の手助けによって、使用者を座位姿勢のままポータブルトイレに移乗させる(全介助)。
【0010】
(2)使用者が自力でベッドサイドに座った姿勢をとり、そして使用者の臀部を自力で横移動させることで、ポータブルトイレに移乗することができる。
(3)使用者が起立又は着座するときに長取っ手の前端に手を置いて、この長取っ手を支えに自力で起立又は着座することができる。なお、この長取っ手が前方突出取っ手の場合(引用文献1)には、前方突出取っ手の前端を支えに前屈みの姿勢から重心移動することができるという利点がある。
【0011】
図12を参照して、跳ね上げ式の肘掛け取っ手3を備えたポータブルトイレは、格納状態の肘掛け取っ手3つまり起立姿勢の肘掛け取っ手3の上端部分が背もたれ6から上方に大きく突出した状態になる。この背もたれ6から上方に突出する肘掛け取っ手3の存在は、使用者の身の回りを世話する介助者にとって邪魔であり、特に、ポータブルトイレの後方から使用者を世話するときに介助の障害物になり易い。
【0012】
そこで、本発明の目的は、背もたれに沿って起立した状態で長取っ手を格納できるポータブルトイレの利点を継承しつつ格納状態の長取っ手の上端が背もたれから大きく突出してしまうことのないポータブルトイレを提供することにある。
【0013】
本発明の更なる目的は、便座の側縁の全長よりも長い前方突出取っ手を背もたれに沿って起立した状態で格納しても、この前方突出取っ手の上端が背もたれから上方に突出しないポータブルトイレを提供することにある。
【0014】
本発明の更なる目的は、背もたれに沿って起立した状態で長取っ手を格納できるポータブルトイレの利点を継承しつつ長取っ手を背もたれに沿って起立した状態で格納したときには、この長取っ手が短取っ手に変化するポータブルトイレを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
便座の両側に、便座の前後長さによりも短い短取っ手と、便座の前後長さと略等しいかそれよりも長い長取っ手とを備え、前記長取っ手が背もたれに沿って起立した格納姿勢をとることのできるポータブルトイレを前提として、
前記長取っ手の揺動中心が、前記短取っ手の高さ位置よりも低位であり且つ前記背もたれよりも前方の位置に位置決めされていることを特徴とするポータブルトイレを提供することによって達成される。
【0016】
長取っ手の揺動中心を前記短取っ手の高さ位置よりも低位であり且つ前記背もたれよりも前方の位置に位置決めすることにより、長取っ手が背もたれに沿って起立した格納姿勢をとったときに、長取っ手の上端の高さ位置を従来に比べて低位にすることができる。ここに、長取っ手は、便座の前後長さと実質的に等しい「肘掛け取っ手」に限られず、便座の前後長さよりも長い長取っ手つまり便座の前端から前方に突出した「前方突出取っ手」であってもよい。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態のポータブルトイレは、
便座の各側に位置する短取っ手の機能と長取っ手の機能とを備えた取っ手部材と、
前記ポータブルトイレの座部を構成する座部躯体構造の前後方向中間部分に前記取っ手部材を揺動可能に軸支するピボット軸とを有し、
前記取っ手部材が、前記長取っ手が水平位置になる長取っ手態様と、該長取っ手が前記ポータブルトイレの背もたれに沿って起立した格納態様とをとることができる。
【0018】
この実施形態によれば、座部躯体構造に揺動可能に取り付けられた取っ手部材は、これを揺動させて、取っ手部材を格納姿勢に位置決めしたときには短取っ手として機能し、また、長取っ手態様に位置決めしたときには長取っ手として機能する。
【0019】
本発明の他の目的、作用効果は、以下の本発明の好ましい実施形態の詳しい説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施例のポータブルトイレの斜視図である。
【図2】第1実施例のポータブルトイレに組み込まれる取っ手部材の斜視図である。
【図3】前方突出長取っ手として機能する第1実施例のポータブルトイレの取っ手部材の動作と、これに伴う機能の変化を説明するための図である。
【図4】肘掛け取っ手として機能する変形例の取っ手部材を組み込んだポータブルトイレの取っ手部材の動作と、これに伴う機能の変化を説明するための図である。
【図5】変形例として、短取っ手と長取っ手とが別体構造のポータブルトイレの基本構成を説明するための図である。
【図6】第2実施例のポータブルトイレを斜め前方から見た斜視図である、取っ手部材を倒した状態の図である。
【図7】図6に図示のポータブルトイレの側面図である。
【図8】取っ手部材を位置固定するためにポータブルトイレのピボット固定具の構造を説明するための図である。
【図9】図6と同様に第2実施例のポータブルトイレを斜め前方から見た斜視図であるが、取っ手部材が格納状態の図である。
【図10】図9に図示のポータブルトイレの側面図である。
【図11】第2実施例の変形例のポータブルトイレの側面図であり、取っ手部材が格納状態の図である。
【図12】従来の肘掛け取っ手型ポータブルトイレの機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0022】
第1実施例(図1〜図5)
図1は第1実施例のポータブルトイレの斜視図である。図1を参照して、第1実施例のポータブルトイレ100は、従来と同様に、左右合計4本の脚102と、便座104と、背もたれ106とを有する椅子の形態を有している。
【0023】
ポータブルトイレ100の座部の躯体構造を説明すると、左側及び右側の前後の脚102a、102bは、横片102cによって側面視H状の一体構造であり、この横片102cに植設されたボルト(図示せず)が、座部側壁ボード108の長孔108aに挿通されており、このボルトに螺着するナット部材(図示せず)を締め付けることにより前後の脚102a、102bを座部側壁ボード108に固定することができる。そして、座部側壁ボード108の長孔108aは上下に延在しており、この長孔108aによって脚102a、102bの実質的な長さを調整して、便座104の高さ位置をベッドサイドの高さレベルHに略一致させることができる。
【0024】
第1実施例のポータブルトイレ100は、上述した座部の躯体構造は木材で構成されている。この種のポータブルトイレは「家具調トイレ」と呼ばれている。便座104の下つまり左右の座部側壁ボード108で囲まれた空間には、従来と同様に、排泄物を受け止めるバケツ(図示せず)が収容される。
【0025】
便座104は、平面視したときに、矩形の外形形状を有しており、便座104の幅Wは、左右の座部側壁ボード108、108の間の離間距離にほぼ等しい。
【0026】
図2は、ポータブルトイレ100に組み込まれる左右一対の取っ手部材110を示す。取っ手部材110は、前後方向に延びる長尺の木片112と、前後に離置した比較的短い前側の第1の木片114と後側の第2の木片116とを有し、この第1、第2の短尺木片114、116の上端が長尺木片112の長手方向中央部分に直交した状態で固定されている。第1、第2の短尺木片114、116の下端部は、好ましくは、前後方向に延びる補強用木片118によって互いに連結される。この補強用木片118は、第1、第2の短尺木片114、116に対する補強材としての機能に止まらず、ベッドに横たわっている使用者(患者)が横向き姿勢になるときに使用可能な取っ手としての機能も有している。
【0027】
後の説明から明らかになるように、後側の短尺木片116はリンク部材として機能し、そして、長尺木片112は「長取っ手」として機能し、前側の短尺木片114は「短取っ手」として機能する。図2から最も良く分かるように、長尺木片112の後端には第1の透孔120が形成されている。この第1の透孔120には、後に説明するハンドルノブ(図1の参照符号126)を備えたボルトが挿通される。また、第2(後側)の短尺木片116の下端には第2の透孔122が形成されている。この後側短尺木片116の第2の透孔122は左右の取っ手部材110の揺動中心(ピボット軸)124を構成するものである。
【0028】
図1に戻って、取っ手部材110は、第2(後側)の短尺木片116の第2の透孔122を利用して、この第2の透孔122にピボット軸を構成するボルト(図示せず)などを使って、座部躯体構造の例えば、対応する各座部側壁ボード108の上端部且つ前後方向中央部分に連結される。
【0029】
上記の構成により、取っ手部材110は第2の透孔122を中心に揺動可能である。図1の図面の奥に位置する右側取っ手部材110Aは、長尺木片112が水平に延びており、この長尺木片112は、便座104の前端から前方に突出する長さ寸法を有している。他方、図1の手前に位置する左側取っ手部材110Bは、長尺木片112が起立した状態にある。当業者であれば、図1を見ると直ちに理解できるように、右側取っ手部材110Aは、長尺木片112によって「前方突出取っ手」として機能する。他方、左側取っ手部材110Bは第1(前側)短尺木片114によって「短取っ手」として機能し、この短取っ手の態様では、長尺木材112が背もたれ106に沿って起立した格納位置を取る。
【0030】
取っ手部材110の後端の第1の透孔120には、ハンドルノブ126を備えたボルトが挿通される。そして、このハンドルノブ126を操作することで、長取っ手態様及び短取っ手態様の双方の態様で、取っ手部材110を位置固定することができる。
【0031】
具体的に説明すると、背もたれ106は、その両側に位置して背もたれの骨格を構成する左右の背もたれ支柱128を有し、この背もたれ支柱128の上下方向中央部分にナット付きの透孔が形成されている。また、座部側壁ボード108の後端部分にナット付きの透孔が形成されている。このナット付きの透孔は作図上の関係から図面に現れていない。
【0032】
取っ手部材110の長尺木片112を起立させて背もたれ106に沿って上下に延びる格納状態にすると、この長尺木片112の下端に位置する第1の透孔120(ハンドルノブ126を備えたボルト)が、座部側壁ボード108の後端部のナット付き透孔と整合し、そして、ハンドルノブ126を操作することで、ボルトナットの螺合によって起立状態の長尺木片112の下端を座部側壁ボード108に固定することができる。この態様が、前述した短取っ手態様であり、第1(前側)短尺木片114が「短取っ手」として機能する。
【0033】
取っ手部材110の長尺木片112を倒した状態にすると、この長尺木片112の後端に位置する第1の透孔120(ハンドルノブ126を備えたボルト)が、背もたれ支柱128のナット付き透孔と整合し、そして、ハンドルノブ126を操作することで、ボルトナットの螺合によって水平状態の長尺木片112の後端を背もたれ支柱128の上下方向中央部分に固定することができる。この態様が、前述した「長取っ手態様」であり、長尺木片112が「前方突出取っ手」として機能する。
【0034】
上述したハンドルノブ126に植設されたボルトを使った取っ手部材110の位置固定に関し、必要であれば、背もたれ支柱128のナット付き透孔の部位を、別途用意した補強部材を使って補強してもよい。
【0035】
長取っ手態様では、背もたれ106の上下方向中央部分から前方に且つ水平方向に延びる長尺木片112は、この長尺木片112から直角に垂下する前側短尺木片114及び後側短尺木片116によって支持された状態となる。特に、前側短尺木片114は、その下端が座部側壁ボード108の上端面に着座した状態で長尺木片112を支持する。なお、この実施例では、次に説明するトランスファー部材132が座部側壁ボード108の上に取り付けられているため、前側短尺木片114の下端はトランスファー部材132の上に着座した状態で長尺木片112を支持する。
【0036】
第1実施例のポータブルトイレ100は、また、便座104の両側に位置する座部側壁ボード108の水平な上端面において、後側短尺木片116の前方に、平面視長方形のトランスファー部材132が配設されている。トランスファー部材132は、便座104の前部の側方位置に位置している。具体的には、トランスファー部材132は、後側短尺木片116に隣接した位置から便座104の前端縁に対応する位置まで延びる長さ寸法を備えている。このトランスファー部材132は、便座104とベッドサイドとの間の隙間を埋めるものであり、トランスファー部材132は、その上面の高さ位置が便座104の上面と略同じ高さ位置となるように設定されている。
【0037】
便座104とベッドサイドとの間のギャップをトランスファー部材132によって埋めることができるため、トランスファー部材132の上を使用者が座位姿勢のまま臀部を横に滑らせてベッドサイドからポータブルトイレ100にギャップを感じることなく楽に移乗でき、同様に、ポータブルトイレ100からベッドサイドに楽に移乗することができる。
【0038】
図3を参照して、第1実施例のポータブルトイレ100によれば、取っ手部材110の揺動中心124(図2)が、背もたれ106よりも前方且つ長取っ手又は短取っ手の高さ位置よりも低位に位置決めされているため、「前方突出取っ手」として機能する長尺木片112を背もたれに沿って起立した格納姿勢にしたとしても、この長尺木片112が背もたれ106の上端から上方に突出してしまうのを防止することができる。
【0039】
また、第1実施例のポータブルトイレ100によれば、長尺木片112を含む取っ手部材110に前側短尺木片114が組み込んであるため、長尺木片112が前方突出取っ手として機能するときに、前側短尺木片114は長尺木片112を支える支持部材として機能するだけでなく、長尺木片112が起立した格納姿勢のときに、この前側短尺木片114を「短取っ手」として機能させることができる。
【0040】
長尺木片112を格納して前側短尺木片114を短取っ手として機能させるとき、図1から直ちに分かるように、この前側短尺木片114と後側短尺木片116の下端部同士を互いに連結する補強用木片118は背もたれ106の前方位置で起立した姿勢を取る。ベッドに寝ている患者(使用者)は、この起立した補強用木片118を把持することで、身体をベッドサイドに移動する、或いは、身体を横向きに姿勢変換することができる。つまり、ベッドサイドに一般的に採用される柵の代わりに補強用木片118を使用して身体の移動や姿勢変換を行うことができる。この目的のために、実施例に含まれる補強用木片118は、手で把持するのに好都合な太さの木材が採用され且つ角を丸めた横断面円形の木片が採用されている。
【0041】
このように、取っ手部材110を「前方突出取っ手」又は「短取っ手」として択一的に機能させるのに、リンク部材として機能する後側短尺木片116の長さL1と、前側短尺木片114と後側短尺木片116との間の離間距離L2とが略等しくなるように設定するのがよい(図3)。これにより、長尺木片112が「前方突出取っ手」として機能するときの高さ位置と、前側短尺木片114が「短取っ手」として機能するときの高さ位置とを略等しくすることができる。
【0042】
取っ手部材110の変形例210を図4に示す。この変形例の取っ手部材210は相対的に短い長尺木片212を有し、それ以外は、図2に示す取っ手部材110と同じである。この変形例の取っ手部材210に含まれる長尺木片212は便座104の前後長さと略等しい。変形例の取っ手部材210を組み込むことにより、図1のポータブルトイレ100は、前述した肘掛け取っ手を備えたトイレになる。
【0043】
他の変形例のポータブルトイレ200の基本構造を図5に示す。図5に示すポータブルトイレ200は、図1に図示の便座104の前後長さと実質的に同じ長さ寸法を備えた長取っ手(肘掛け取っ手)202と、便座104の前後長さよりも短い短取っ手204とを備え、この短取っ手204は固定式である。
【0044】
長取っ手202の後端部には、下方に延びるリンク部材206が固設され、このリンク部材206の下端にピボット軸124が配設されている。このピボット軸124に関し、例えば座部側壁ボード108(図1)から上方に延びる支柱部材208をポータブルトイレ200の座部躯体構造の一部として採用し、この支柱部材208を座部側壁ボード108に固定して、この支柱部材208の上端にピボット軸124が設けられる。
【0045】
長取っ手202のピボット軸124を短取っ手204の高さ位置よりも下方且つ背もたれ106よりも前方に位置決めしてあるため、図5に仮想線で示すように、長取っ手202を起立させて背もたれ106に沿って上下に延びる格納姿勢を取らせたときに、この長取っ手202の上端が背もたれ106から上方に突出してしまうのを防止することができる。
【0046】
第2実施例(図6〜図11)
第2実施例のポータブルトイレ300は、上述した第1実施例のポータブルトイレ100に含まれる取っ手部材110を除いて、その他の構成は実質的に同じであることから、第1実施例のポータブルトイレ100と同じ要素には同じ参照符合を付すことによりその説明を省略し、以下に第2実施例のポータブルトイレ300の特徴部分を図6〜図11を参照して説明する。
【0047】
第2実施例のポータブルトイレ300は取っ手部材302に特徴を有している。取っ手部材302は、長尺木片304と、この長尺木片304の長手方向中間部分から下方且つ斜め後方に延びる第1リンク木片306と、長尺木片304の後端部から下方且つ斜め前方に延びて第1リンク木片306の下端部に連なる第2リンク木片308とで骨格が作られ、これら3つの木片304、306、308で囲まれた三角形の空所は目隠しボード310で閉じられている。
【0048】
取っ手部材302は、リンク木片306の下端部が、前述した躯体構造材である座部側壁ボード108の前後方向中間部分且つ上端から若干下位の高さレベルに揺動自在に連結されている。このピボット軸を参照符合124で図示してある。なお、必須ではないが、第1、第2のリンク木片306、308の下端の合流部分にはピン312が植設されている。他方、座部側壁ボード108にはアーチ溝314が形成され、このアーチ溝314によってピン312が案内されると共に、アーチ溝314の一端と他端でピン312が受け止められることによって第1、第2のリンク木片306、308の揺動範囲つまり取っ手部材302の揺動範囲が規定される。
【0049】
取っ手部材302は、前述した第1実施例と同様に、長尺木片304が背もたれ106に沿って起立した格納態様(図9、図10)と、長尺木片304が水平状態の長取っ手態様の二つの態様(図6、図7)をとることができる。背もたれ106の各側面に位置して背もたれ106の骨格を構成する背もたれ支柱128には、取っ手部材302を位置固定するためのピボット固定具320が配設されている。なお、図10から最も良く分かるように、取っ手部材302が格納状態にあるときに起立姿勢の長尺木片304の上端が下端よりも前方に位置する傾斜した状態にあるが、この格納状態で長尺木片304が垂直に起立した状態となるように設定してもよい。
【0050】
図9を参照して、ピボット固定具320は、操作ハンドル320aと、この操作ハンドル320aの軸部を中心に揺動可能な係止フラップ320bとで構成され、操作ハンドル320aを一方向に回転させることで、係止フラップ320bを長尺木片304と係合させて起立状態の長尺木片304を位置固定することができる。操作ハンドル320aを逆方向に回転させることで係止フラップ320bをリリースすることができる。このピボット固定具320は、長尺木片304が起立して取っ手部材302が格納態様をとるときに(図9、図10)、この長尺木片304の長手方向中央部分と係合して長尺木片304を位置固定することができ、また、長尺木片304が水平状態となって取っ手部材302が長取っ手態様(図6、図7)をとるときに、長尺木片304の後端部と係合して、水平状態の長尺木片304を位置固定することができる。
【0051】
図10から最も良く分かるように、取っ手部材302の長尺木片304が起立した格納態様を取ったときに、第1のリンク部材306は背もたれ106から前方且つ斜め下方に位置しており、使用者はこの斜めに延びる第1リンク部材306を拠り所にしてベッドからポータブルトイレ300へ移動することができる。つまり、この傾斜した第1リンク部材306は、第1実施例に含まれる短取っ手112、補強用木片114の機能と実質的に同じ機能を発揮する。
【0052】
図7、図10に見られる参照符号326は、便座104の上に載置されたクッションであり、このクッション326は、折り畳むことで、背もたれ106に格納することができる(図6、図9)。
【0053】
図7から最も良く分かるように、長尺木片304は長取っ手態様をとったときに、便座104の前端から前方に突出する長さ寸法を有しているが、勿論、従来の肘掛け取っ手を備えたポータブルトイレとして使うのであれば、長尺木片304の長さ寸法を短縮して、この長尺木片304の長さ寸法を便座104の前後方向長さと略同一に設定すればよく、また、長尺木片304の長さ寸法は、長尺木片304の前端が便座104の前端よりも若干後方に位置する長さ寸法であってもよい。
【0054】
図11は第2実施例の変形例のポータブルトイレ400を示す。このポータブルトイレ400の取っ手部材402は、これに含まれる第1リンク木片404が上述した第2実施例に含まれる第1リンク木片306と形状が異なっているだけで他の要素は実質的に同じである。
【0055】
変形例の取っ手部材402の第1リンク木片404は、側面視したときにL字状の形状を有し、取っ手部材402が格納態様(図11)のときに、背もたれ106から便座104の長手方向途中部分まで水平方向に延びる短取っ手を構成するように作られている。この短取っ手として機能する部分を参照符号404aで図示してある。また、格納態様の取っ手部材402を位置固定するためのボルト付きのハンドルノブ406が目隠しボード310に設けられているが、このハンドルノブ406を例えば第2リンク部材308に配置してもよい。
【0056】
第2実施例及びその変形例(図6〜図11)において、取っ手部材302、402から目隠しボード310を省いてもよいが、目隠しボード310を設けることによって、ポータブルトイレ300、400の使用者の臀部を隠すことができる。
【0057】
図6、図9を再び参照して、取っ手部材302と座部側壁ボード108との間には、厚みを備えたスペーサ木片330が配設され、このスペーサ木片330を介して取っ手部材302がピボット軸124によって座部側壁ボード108に取り付けられている。より詳しくは、スペーサ木片330は前記取っ手部材302に固定されており、スペーサ木片330は取っ手部材302と一緒にピボット軸124を中心に揺動する。なお、上述したピン部材312はこのスペーサ木片330に取り付けられているが、取っ手部材302に取り付けてもよいのは勿論である。作図上の理由から図11から必ずしも明確ではないが、この変形例のポータブルトイレ400においても、取っ手部材402と座部側壁ボード108との間にスペーサ木片330が介在している。
【0058】
このように座部側壁ボード108と、この座部側壁ボード108に対して揺動する取っ手部材402との間に、厚みを有するスペーサ木片330を介在させて、座部側壁ボード108と取っ手部材402との間に間隔を設けることにより、取っ手部材402を倒したときに、便座104の脇に置いた使用者の手が座部側壁ボード108と取っ手部材402との間に挟まれてしまうのを防止することができる。スペーサ木片330は安全性確保の観点から、その厚さ寸法を決定するのがよい。
【0059】
また、取っ手部材302の骨格304、306、308で囲まれた空所を目隠しボード310で閉じることによって、この空所に使用者が手を差し入れるのを防止することができる。換言すれば、取っ手部材302に目隠しボード310を設けない場合には、骨格304、306、308で囲まれた空所に使用者が手を差し入れているのを知らずに取っ手部材402を上げ下げしてしまう可能性が有り、目隠しボード310を設けることで、この事態の発生を未然に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、自立支援の介護用品としてベッドの脇に設置するポータブルトイレに好適に適用される。
【符号の説明】
【0061】
100 第1実施例のポータブルトイレ
102 脚
104 便座
106 背もたれ
108 座部側壁ボード
110 取っ手部材
112 長尺木片(長尺部材)
114 前側短尺木片(前側短尺部材)
116 後側短尺木片(後側短尺部材)
118 補強用木片
120 第1の透孔
122 第2の透孔
124 取っ手部材の揺動中心(ピボット軸)
128 背もたれ支柱
300 第2実施例のポータブルトイレ
302 取っ手部材
304 第1リンク木片
306 第2リンク木片
310 目隠しボード
320 ピボット固定具
320a 操作ハンドル
320b 係止フラップ
H ベッドサイドの高さレベル
W 矩形の便座の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座の両側に、便座の前後長さによりも短い短取っ手と、便座の前後長さと略等しいかそれよりも長い長取っ手とを備え、前記長取っ手が背もたれに沿って起立した格納姿勢をとることのできるポータブルトイレにおいて、
前記長取っ手の揺動中心が、前記短取っ手の高さ位置よりも低位であり且つ前記背もたれよりも前方の位置に位置決めされていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項2】
便座の各側に短取っ手と長取っ手とを有するポータブルトイレであって、
前記短取っ手の機能と前記長取っ手の機能とを備えた取っ手部材と、
前記ポータブルトイレの座部を構成する座部躯体構造の前後方向中間部分に前記取っ手部材を揺動可能に軸支するピボット軸とを有し、
前記取っ手部材が、前記長取っ手が水平位置になる長取っ手態様と、該長取っ手が前記ポータブルトイレの背もたれに沿って起立した格納態様とをとることができることを特徴するポータブルトイレ。
【請求項3】
前記長取っ手は、前記取っ手部材が前記長取っ手態様をとったときに、前記長取っ手の前端が前記便座の前端よりも前方に突出する長さ寸法を有する、請求項2に記載のポータブルトイレ。
【請求項4】
前記長取っ手は、前記取っ手部材が前記長取っ手態様をとったときに、前記長取っ手の前端が前記便座の前端と略等しい長さ寸法を有する、請求項2に記載のポータブルトイレ。
【請求項5】
前記取っ手部材と前記座部躯体構造との間にスペーサが介装され、該スペーサを介して前記取っ手部材が前記座部躯体構造に対して前記ピボット軸によって軸支されている、請求項2〜4のいずれか一項に記載のポータブルトイレ。
【請求項6】
前記取っ手部材が前記長取っ手と該長取っ手の長手方向中間部分から下方且つ斜め後方に延びるリンク部材を有し、
該リンク部材の下端部が前記ピボット軸によって前記座部躯体構造に軸支され、
前記取っ手部材が前記格納態様をとったときに、前記リンク部材によって前記背もたれから斜め前方に延びる前記短取っ手として機能する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のポータブルトイレ。
【請求項7】
取っ手部材が、その前記格納姿勢及び前記長取っ手態様のいずれの態様であっても、使用者の臀部を目隠しする目隠しボードを有する、請求項2〜6のいずれか一項に記載のポータブルトイレ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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