説明

マウスHIG1ポリペプチドに対するモノクローナル抗体

【課題】マウスHIG1(Hypoxia induced gene 1)ポリペプチドに対して高い親和性を持つモノクローナル抗体を提供することを目的とする。更に、本発明は、該抗体から得られる抗体断片、該抗体の可変領域をコードするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該抗体を産生する細胞株、該抗体又は抗体断片を含む試薬及び検査試薬、該抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法等を提供する。
【解決手段】マウスHIG1ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であって、全長マウスHIG1ポリペプチドに対する解離定数(Kd)が9×10-9 M以下である抗体、該抗体から得られる抗体断片、該抗体の可変領域をコードするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該抗体を産生する細胞株、該抗体又は抗体断片を含む試薬及び検査試薬、並びに該抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスHypoxia induced gene 1(HIG1)ポリペプチドに対するモノクローナル抗体に関する。更に、本発明は、該抗体から得られる抗体断片、該抗体の可変領域をコードするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該抗体を産生する細胞株、該抗体又は抗体断片を含む試薬、並びに該抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法及び検査試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴い癌、心疾患及び脳血管疾患の割合は益々増加する一方にある。そして、これら疾患の共通点として血液循環障害に伴う「低酸素」が挙げられる。生体内に潜む異常な低酸素状態を確実に感度よく検出することができれば、これら三大疾患の早期発見を可能とするばかりでなく、早期治療や新規治療法の開発にも貢献できると考えられる。
【0003】
このような例として、特許文献1には、患者の体液のオステオポンチン(OPN)のレベルを検出し、そのレベルを予め決定された値と比較することを含む、癌患者の腫瘍低酸素症を診断する方法が開示されている。
【0004】
HIG1は、低酸素状態で誘導される遺伝子の一つとして2000年に報告されており(非特許文献1)、HIG1はグルコース濃度の低下によっても誘導される。HIG1はミトコンドリアの内膜に局在し、低酸素状態での細胞死を抑制する機能があるのではないかと考えられているが、その詳細は未だ明らかになっていない。また、特許文献2及び3においても、ヒトの低酸素誘導遺伝子HIG1及びHIG2の塩基配列、並びにコードされるポリペプチド配列が開示されている。
【0005】
非特許文献2では、マウスのHIMP1(Hypoglycemia/hypoxia inducible Mitochondorial Protein 1、又はHIG1)遺伝子がクローニングされたことが報告されている。このマウスのHIMP1遺伝子からは、選択的スプライシングによりHIMP1-a (95aa)とHIMP1-b (99aa)の2種類のタンパク質が生成する。又、BLASTサーチの結果、HIMP1-aはHIG1と同一のものであることが記載されている。非特許文献2では、マウスHIMP1をウサギのポリクローナル抗HIMP1血清を用いて解析している。
【0006】
しかしながら、抗体を用いたHIG1分子の解析方法に関して、これまでにモノクローナル抗体の使用事例はない。非特許文献2に記載されているようなポリクローナル抗体では一定した品質の抗体を安定して供給することは困難であり、非特異的な抗体も多く含まれることから分子レベルの詳細な解析を行うには限界がある。また、上記特許文献2及び3にも、HIG1ポリペプチドに対するモノクローナル抗体を実際に取得した実施例は何ら開示されていない。
【0007】
それ故、HIG1と疾患との関係を詳細に調べるには、動物(特にマウス)を用いた病態モデルでの検討が必須であり、マウスHIG1に対するモノクローナル抗体の出現が待望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0044862号明細書
【特許文献2】国際公開第99/48916号
【特許文献3】国際公開第01/23426号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Denko, N., Schindler, C., Koong, A., Laderoute, K., Green, C., and Giaccia, A. Clinical Cancer Research, Vol.6, p.480-p.487, 2000
【非特許文献2】Wang, J., Cao, Y., Chen, Y., Chen, Y., Gardner, P., and Steiner, D. F. Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol.103, p.10636-p.10641, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、マウスHIG1ポリペプチドに対して高い親和性を持つモノクローナル抗体を提供することを目的とする。更に、本発明は、該抗体から得られる抗体断片、該抗体の可変領域をコードするDNA、該DNAを含む発現ベクター、該抗体を産生する細胞株、該抗体又は抗体断片を含む試薬及び検査試薬、該抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、マウスHIG1の部分ペプチドを繰り返し免疫したが抗体価の十分な上昇が認められなかったので、全長HIG1ポリペプチドをラットに免疫し、リンパ組織細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマを作製することにより、マウスHIG1ポリペプチドに結合する高親和性のモノクローナル抗体を作製することができるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき完成されたものであり、次のモノクローナル抗体等を提供するものである。
【0012】
項1.マウスHIG1(Hypoxia induced gene 1)ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であって、全長マウスHIG1ポリペプチドに対する解離定数(Kd)が9×10-9 M以下である抗体。
【0013】
項2.ヒトHIG1ポリペプチドと交差反応をしない、項1に記載の抗体。
【0014】
項3.ラットモノクローナル抗体である、項1又は2に記載の抗体。
【0015】
項4.全長マウスHIG1遺伝子を含む発現ベクターで形質転換された細胞で発現させることにより得られるポリペプチドに結合する、項1〜3のいずれか一項に記載の抗体。
【0016】
項5.前記細胞が大腸菌又は動物細胞である、項4に記載の抗体。
【0017】
項6.重鎖及び軽鎖の可変領域が以下のCDRを有する、項1〜5のいずれか一項に記載の抗体:
配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号4のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、
配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3。
【0018】
項7.項1〜6のいずれか一項に記載の抗体から得られる抗体断片。
【0019】
項8.Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFvフラグメント又は単鎖抗体である、項7に記載の抗体断片。
【0020】
項9.標識化された項1〜6のいずれか一項に記載の抗体。
【0021】
項10.前記標識化が酵素、蛍光物質、放射性化合物又はビオチンによるものである、項9に記載の抗体。
【0022】
項11.標識化された項7又は8に記載の抗体断片。
【0023】
項12.前記標識化が酵素、蛍光物質、放射性化合物又はビオチンによるものである、項11に記載の抗体断片。
【0024】
項13.タグ化された項1〜6のいずれか一項に記載の抗体。
【0025】
項14.前記タグ化がFlag、Myc、HA、GST、又はヒスチジンによるものである、項13に記載の抗体。
【0026】
項15.タグ化された項7又は8に記載の抗体断片。
【0027】
項16.前記タグ化がFlag、Myc、HA、GST、又はヒスチジンによるものである、項15に記載の抗体断片
項17.項6に記載の抗体の軽鎖又は重鎖の可変領域をコードする塩基配列からなるDNA。
【0028】
項18.項17に記載のDNAを含む発現ベクター。
【0029】
項19.項18に記載の発現ベクターで形質転換されてなる形質転換体。
【0030】
項20.項13又は14に記載の抗体をコードする塩基配列からなるDNA。
【0031】
項21.項20に記載のDNAを含む発現ベクター。
【0032】
項22.項15又は16に記載の抗体断片をコードする塩基配列からなるDNA。
【0033】
項23.項22に記載のDNAを含む発現ベクター。
【0034】
項24.項21又は23に記載の発現ベクターで形質転換されてなる形質転換体。
【0035】
項25.項1〜6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体を産生する細胞株。
【0036】
項26.受託番号FERM P-22007のハイブリドーマ。
【0037】
項27.項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を含むマウスHIG1ポリペプチドを検出するための試薬。
【0038】
項28.酵素免疫測定用である、項27に記載の試薬。
【0039】
項29.ウエスタンブロッティング用である、項27に記載の試薬。
【0040】
項30.免疫組織染色用である、項27に記載の試薬。
【0041】
項31.細胞の低酸素状態評価用である、項27に記載の試薬。
【0042】
項32.細胞の低グルコース状態評価用である、項27に記載の試薬。
【0043】
項33.細胞の虚血状態評価用である、項27に記載の試薬。
【0044】
項34.項27〜33のいずれか一項に記載の試薬を含む測定キット。
【0045】
項35.項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法。
【0046】
項36.項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を含む低酸素状態、低グルコース状態又は虚血状態の検査試薬。
【発明の効果】
【0047】
本発明により、マウスHIG1ポリペプチドに対して高い親和性を持つモノクローナル抗体を提供することができる。本発明のモノクローナル抗体により、マウスHIG1ポリペプチドを高感度で検出、解析及び定量することができる。従って、本発明のモノクローナル抗体を用いれば、低酸素状態、低グルコース状態又は虚血状態の検査をすることができ、又、動物(マウス)の病態モデルを使用し、HIG1と疾患との関係を詳細に調べることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1(3)における初回免疫後のラット血清抗体価の推移を示すグラフである。横軸の△はT20-KLHを、▲は全長HIG1ポリペプチドをラットに免疫した日を示す。
【図2】実施例1で得られたモノクローナル抗体を使用した実施例3(1)における抗原特異性に関するELISA測定の結果を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたモノクローナル抗体を使用した実施例3(2)におけるマウスとヒトHIG1に対する交差反応性に関するELISA測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られたモノクローナル抗体を使用した実施例4におけるELISA競合阻害試験の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られたモノクローナル抗体を使用した実施例5におけるウエスタンブロッティングの結果を示す図である。
【図6】実施例1で得られたモノクローナル抗体を使用した実施例6における免疫染色の結果を示す図である。Transfection(+):遺伝子導入された細胞、Transfection(-):遺伝子導入されていない細胞
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明のモノクローナル抗体等について詳細に説明する。
【0050】
モノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は、マウスHIG1ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であって、全長マウスHIG1ポリペプチドに対する解離定数(Kd)が9×10-9 M以下であることを特徴とする。
【0051】
マウスHIG1(HIMP1)は、低酸素状態及びグルコース濃度の低下によって誘導される遺伝子であり、マウスHIG1ポリペプチドは主にミトコンドリアの内膜に局在すると考えられている。このマウスのHIMP1遺伝子からは、選択的スプライシングによりHIMP1-a (95aa)とHIMP1-b (99aa)の2種類のタンパク質が生成する。HIMP1-aとHIMP-bの塩基配列及びコードされるポリペプチド配列は、それぞれGenBankデータベースにアクセッションナンバーAY028386及びAY028387として登録されている。また、HIMP1-aとHIMP1-bのポリペプチド配列は非特許文献2にも記載され、BLASTサーチの結果、HIMP1-aはHIG1と同一のものであることが報告されている。本発明のモノクローナル抗体は、マウスHIG1と相同性の高い(86%)ヒトHIG1ポリペプチドと交差反応をしないことが特徴である。
【0052】
本発明のモノクローナル抗体の全長マウスHIG1ポリペプチドに対する解離定数(Kd)は、好ましくは3×10-9 M以下である。当該解離定数は競合ELISA、表面プラズモン共鳴などにより測定することができる。
【0053】
本発明のモノクローナル抗体は、実施例においてはIgMクラスのラット抗体であるが、そのクラスは特に限定されない。
【0054】
本発明のモノクローナル抗体としては、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット等に由来する抗体を挙げることができるが、好ましくはラットモノクローナル抗体である。
【0055】
本発明の抗体は、好ましくは全長マウスHIG1遺伝子を含む発現ベクターで形質転換された細胞で発現させることにより得られるポリペプチドに結合することを特徴とする。当該細胞としては、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞(ヒト細胞、マウス細胞等)等を使用することができるが、中でも大腸菌及び動物細胞が好ましい。本発明のモノクローナル抗体は、マウスHIG1ポリペプチドが生理的に発現している状態でも当該ポリペプチドに反応できる。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体は、マウスにin vivo投与する場合はマウスの抗体と構造が類似していることが好ましく、そのような抗体としては、Fc領域がマウス由来である抗体、定常領域がマウス由来である抗体、相補性決定領域(CDR)以外の領域がマウス由来である抗体等が挙げられる。これらのキメラ抗体は公知(US4816567、Nature, Vol.321, p.522-p.525, 1986などに記載)の方法により作製することができる。但し、キメラ化はマウスに限定したものではなく、使用目的に応じて、マウス以外のキメラ抗体を作製しても良い。
【0057】
本発明のモノクローナル抗体は、好ましくは、重鎖の可変領域のアミノ酸配列として、配列番号1〜3のアミノ酸配列を含み、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列として、配列番号4〜6のアミノ酸配列を含む。
【0058】
本発明のモノクローナル抗体は、更に好ましくは、重鎖及び軽鎖の可変領域が、配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、配列番号4のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む。
【0059】
本発明のモノクローナル抗体の可変領域におけるフレームワーク領域(FR領域)の配列は、マウスHIG1ポリペプチドに対する結合活性に影響がない限り、特に限定されない。
【0060】
本発明の抗体断片は、本発明の抗体、又は当該抗体をコードする遺伝子の配列情報から作製することができる。抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv等が挙げられる。
【0061】
Fabとは、抗体をシステイン存在下パパイン消化することにより得られる、L鎖とH鎖フラグメントから構成される分子量約5万の断片である。本発明のFabは、上記モノクローナル抗体をパパイン消化することにより得ることができる。また、当該FabをコードするDNAをベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体によりFabを製造することもできる。
【0062】
Fab'とは、下記のF(ab')2のH鎖間のジスルフィド結合を切断することにより得られる分子量が約5万の断片である。本発明のFab'は、上記モノクローナル抗体をペプシン消化し、還元剤を用いてジスルフィド結合を切断することにより得ることができる。また、当該Fab’をコードするDNAをベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体によりFab’を製造することもできる。
【0063】
F(ab')2とは、抗体をペプシン消化することにより得られる、L鎖とH鎖フラグメントとから構成されるFab'がジスルフィド結合で結合した分子量約10万の断片である。本発明のF(ab')2は、上記モノクローナル抗体をペプシン消化することにより得られる。また、当該F(ab')2をコードするDNAをベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体によりF(ab')2を製造することもできる。
【0064】
Fvとは、H鎖可変領域とL鎖可変領域からなる抗体断片である。本発明のFvは、上記モノクローナル抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードするDNAをベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体によりFvを製造することができる。
【0065】
scFvとは、H鎖可変領域とL鎖可変領域からなるFvを、適当なペプチドリンカーで連結した抗体断片である。本発明のscFvは、上記モノクローナル抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードするDNAを用いてscFv発現用ベクターを構築し、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体によりscFvを製造することができる。
【0066】
本発明のモノクローナル抗体及び抗体断片は、酵素、蛍光物質、放射線化合物、ビオチン等により標識化されていてもよい。上記酵素としては、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ等が、上記蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)等が、放射線化合物としては、125I、131I等が挙げられる。
【0067】
本発明のモノクローナル抗体及び抗体断片はタグ化されていても良く、当該タグとしては、Flag、Myc、HA(ヘマグルチニン)、GST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)、ヒスチジン等が挙げられる。当該タグ化された抗体又は抗体断片は、本発明の抗体及び抗体断片をコードするDNAにタグをコードするDNAを付加し、該DNAをベクターに組み込み、該ベクターを用いて形質転換した形質転換体により製造することができる。
【0068】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば、マウスHIG1ポリペプチドを、ラットに免疫して得られたハイブリドーマから産生することができる。上記ポリペプチドの部分ペプチドを、適当なタンパク質とコンジュゲートして、免疫原として使用しても良い。使用されるコンジュゲートとしては、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミン、キーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)等が挙げられるが、特にキーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)が好ましい。上記免疫原は、免疫の前に、その免疫反応を増強させるために、適当なアジュバントと混合させることができる。
【0069】
免疫に用いられる動物としては、例えば哺乳動物としてはラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット等が挙げられるが、ラットが特に好ましい。
【0070】
本発明のモノクローナル抗体は、例えばマウスHIG1ポリペプチドを免疫原としてハイブリドーマを作製した後、上記ポリペプチドに反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択、クローニングし、これが産生するモノクローナル抗体を精製することで得られる。免疫の惹起は、通常1 ng〜10 mgの量の免疫原を10〜14日の日数を開けて1〜7回に分けた操作で行うことができる。十分な免疫後、抗体産生能を有する細胞が集積している器官(脾臓やリンパ節)を動物から無菌的に摘出し、細胞融合時の親株とする。なお、摘出する器官としては、脾臓又はリンパ節が好ましい。細胞融合のパートナーとしては、ミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞には、マウス由来、ラット由来、ヒト由来等が挙げられる。細胞融合には、不活化センダイウイルスを用いる方法、ポリエチレングリコールを用いる方法、細胞電気融合法等が挙げられるが、不活化センダイウイルスを用いる方法が、融合効率が高く、且つ簡便で好ましい。細胞融合しなかった脾臓細胞やミエローマ細胞とハイブリドーマとの選択は、例えばHATサプリメント(ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン)を添加した血清培地で培養することで行うことができる。
【0071】
マウスHIG1ポリペプチドに対する抗体を産生するハイブリドーマの選択は、前述の培養上清を採取し、マウスHIG1ポリペプチドを固相化したプレートでのELISAにより行うことが好ましい。ELISAの結果、強い発色がみられたウェルを選択し、そのウェルの細胞をクローニングに供する。抗体産生ハイブリドーマを選別し単一化する作業(クローニング)には、限界希釈法、フィブリンゲル法、セルソーターを用いる方法等があるが限界希釈法が簡便で好ましい。これにより、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを獲得することができる。
【0072】
上記方法により得られたハイブリドーマを培養することで、培養上清中にモノクローナル抗体を得ることができる。さらに、大量のモノクローナル抗体を得るには、インビボおよびインビトロによる方法があり、目的に応じて選択することができる。培養上清やマウス腹水からのモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム塩折法、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー等により行われるが、精製純度や簡便性を考慮するとアフィニティークロマトグラフィーが最も好ましい。さらに高純度のモノクローナル抗体を得る必要がある場合には、アフィニティークロマトグラフィーの後に最終精製としてゲルろ過クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等を行うのが好ましい。
【0073】
細胞株
本発明の細胞株は、上記モノクローナル抗体を産生することを特徴とする。
【0074】
当該細胞株としては、前述する方法により製造されるハイブリドーマが挙げられる。本発明の細胞株は、好ましくは、受託番号FERM P-22007のハイブリドーマである。
【0075】
抗体の可変領域をコードする塩基配列からなるDNA
本発明のDNAは、上記モノクローナル抗体の軽鎖又は重鎖の可変領域をコードする塩基配列からなることを特徴とする。
【0076】
具体的には、配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を有する重鎖可変領域をコードするDNA、並びに配列番号4のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を有する軽鎖可変領域をコードするDNAが挙げられる。
【0077】
本発明のDNAは、化学合成、生化学的切断/再結合などの常法で作製することができる。当該DNAは、マウスHIG1ポリペプチドのアミノ酸配列に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する抗体又は抗体断片の作製等に使用することができる。
【0078】
本発明の発現ベクターは、上記DNAを含むことを特徴とし、本発明の発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換することができる。使用するベクターの種類は、本発明のDNAを組込むことができ、且つ宿主細胞で発現できるものであれば特に限定されない。宿主細胞としては、本発明の発現ベクターにより形質転換され、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されないが、例えば、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞を挙げることができる。
【0079】
マウスHIG1ポリペプチドを検出するための試薬
本発明の試薬は、マウスHIG1ポリペプチドを検出するための試薬であって、上記モノクローナル抗体又は抗体断片を含むことを特徴とする。
【0080】
当該試薬の用途としては、酵素免疫測定(ELISA)用、ウエスタンブロッティング用、免疫組織染色用、細胞の低酸素状態評価用、細胞の低グルコース状態評価用、細胞の虚血状態評価用等が挙げられる。
【0081】
ELISA法は、一般的な競合法、サンドイッチ法等の手法に従って行うことができる。
【0082】
ELISA法は例えば次のようにして行うことができる。標準抗原(マウスHIG1ポリペプチド)を適当な担体に固定化し、ブロッキングする。次いで、マウスHIG1ポリペプチドを含有する試料と本発明の抗体を上記固定化標準抗原と接触させて、本発明の抗体-試料中のマウスHIG1ポリペプチド免疫複合体及び本発明の抗体-標準抗原免疫複合体を競合的に生成させる。生成した本発明の抗体-標準抗原免疫複合体の量を測定し、予め作製した検量線から試料中のマウスHIG1ポリペプチドの量を決定することができる。
【0083】
また、ELISA法では、本発明の抗体を第一抗体として用い、この第一抗体に対する第二抗体を標識して用いることもできる。この場合は本発明の抗体-マウスHIG1ポリペプチド免疫複合体の量は、これに結合した標識第二抗体の標識量を測定することにより容易に求めることができる。上記方法の変法として、標識した第二抗体を用いることなく、第一抗体を例えば酵素で標識して利用することもできる。
【0084】
ウエスタンブロット法は、例えば、試料液をアクリルアミドゲル電気泳動させた後、メンブレンに転写し、本発明の抗体と反応させ、生成する反応物(免疫複合体)を、標識第二抗体を用いて検出することにより行うことができる。
【0085】
本発明の測定キットは、上記試薬を含むことを特徴とする。当該測定キットは、上記試薬に加え、好ましくは使用される測定法に必要な試薬が必要量備えられたものである。このようなキットとしては、例えば、ELISA法を用いてマウスHIG1ポリペプチドの検出を行うためのキットであって、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片が、固相吸着用抗体及び/又は検出用標識化抗体として用いられ、当該検出用標識化抗体はHRPにより標識され、その他のELISA法に必要となる試薬(例えばマイクロプレート、抽出溶液、緩衝液等)が備えられたキットが挙げられる。
【0086】
マウスHIG1ポリペプチドの検出方法
本発明の方法は、マウスHIG1ポリペプチドを検出する方法であって、上記モノクローナル抗体又は抗体断片を使用することを特徴とする。
【0087】
当該方法は、ウエスタンブロット法、イムノブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス凝集反応測定(LA)、免疫比濁法(TIA)、イムノクロマト法等の常法に従い行うことができる。本発明の方法では、特にELISA及びウエスタンブロット法が好ましい。また、当該方法は、インビトロで行うことが好ましい。
【0088】
本発明の方法によれば、マウスHIG1ポリペプチドを高精度、高感度で検出することができる。この検出結果は、低酸素状態、低グルコース状態及び虚血状態の評価に役立つものであり、これによって、マウスの病態モデルにおけるHIG1と疾患との関係を詳細に調べることが可能となる。
【0089】
検査試薬
本発明の検査試薬は、マウスの低酸素状態、低グルコース状態又は虚血状態の検査試薬であって、上記モノクローナル抗体又は抗体断片を含むことを特徴とする。
【0090】
当該検査試薬により、ウエスタンブロット法、イムノブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス凝集反応測定(LA)、免疫比濁法(TIA)、イムノクロマト法等の検出法によってマウスHIG1ポリペプチドを定量あるいは定性的に測定することで、低酸素状態、低グルコース状態又は虚血状態を診断することができる。本発明の検査試薬は、好ましくは体外検査試薬として使用される。更に、本発明は、当該検査試薬を含む検査用キットも提供する。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕モノクローナル抗体の調製
(1)ペプチド抗原の調製
マウスHIG1(HIMP1-a)の部分ペプチド(C末端側の20ペプチド配列TLGMGYSMYQEFWANPKPKP、配列番号7)を株式会社東レリサーチセンター(東京)に依頼し合成した(10 mg、純度90%以上)。この合成ペプチド(以下T20ペプチドと表す)とキャリアタンパク質をEDC法(Imject Immunogen EDC Kit with mcKLH and BSA;PIERCE;No.77601)によりコンジュゲートした。キャリアタンパク質として、上記キットに添付されたKLH (Keyholelimpet hemocyanin)及びBSA(Bovine serum albumin)を用いた。作製されたT20ペプチドとキャリアタンパク質とのコンジュゲートは以下それぞれT20-KLHおよびT20-BSAで表す。
【0093】
(2)動物への免疫
2 mg/mLの抗原(T20-KLH)を、等量のフロイント完全アジュバント(CFA)(SIGMA社製、F-5881)と混合してエマルジョンを作製したのち、0.5 mL(抗原0.5 mg)/匹ずつ、LEW/CrlCrlj(Lewis)ラット(雌、6〜8週齡)の尾根部皮内に免疫した。2週間後、0.1 mg/mLの抗原と等量のAlumアジュバント(PIERCE社製、77140)との混合液を1 mL(抗原0.05 mg)/匹ずつ腹腔内に追加免疫を行った。追加免疫5回目及び6回目(最終免疫)では抗原を60μg/mLのHIG1-Flag(実施例2の方法により調製)に変えて同様に免疫を行った。初回免疫時から1〜2週間間隔で尾静脈より採血を行い、抗体価の確認を行った。
【0094】
(3)抗体価の測定
抗体価は酵素免疫測定法(ELISA)を用いて測定した。すなわち、抗原としてT20-BSA 又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)-HIG1(実施例2の方法により調製)を10μg/mL(50 mM炭酸緩衝液、pH9.6、SIGMA、No.C3041)の濃度で50μL/wellずつ、室温で96ウェルプレート(IWAKI、No.3801-096)にコーティングした。0.05w/v% Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、10v/v% Fetal Bovine Serum(10%FBS)を含むPBSで1時間ブロッキングした。ブロッキング液を吸入除去後、10% FBSを含むPBS-T(10% FBS-PBS-T)で段階(2百倍、2千倍、2万倍)希釈したマウス血清を50μL/wellずつ入れて室温で1時間静置した。
【0095】
PBS-Tで3回洗浄後、10% FBS-PBS-Tで1000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識2次抗体(Goat anti Rat IgG(H+L)-AP (Southern Biotechnology Associa, No.3050-04))を50μL/wellずつ入れて室温で1時間静置した。PBS-Tで5回洗浄後、1 mg/mLのp-ニトロフェニルフォスフェート(SIGMA、No.N9389)を含む0.1Mグリシン緩衝液(pH10.4)を100μL/wellずつ入れ、37℃で20分間反応させた。反応後、405 nmの吸光度を測定した(SPECTRAmax250、Molecular Devices社)。初回免疫後のラット血清抗体価の推移を図1に示す。その結果、T20-KLHの追加免疫では全長HIG1ポリペプチドに対する抗体価の上昇は低かったが、5回目の追加免疫で全長HIG1-Flagを追加免疫することにより、全長HIG1ポリペプチドに対する抗体価の大きな上昇が見られ、血清の2万倍希釈溶液においても、抗原に対する抗体価の上昇が確認された。
【0096】
(4)細胞融合及び抗体産生ハイブリドーマのクローニング
上記で抗体価の上昇が確認されたラットの脾臓細胞とミエローマ細胞X-63-Ag8.653とを、5 : 1の割合でセンダイウイルス・エンベロープ(Hemagglutinating virus of Japan envelope; HVJ-E)法(石原産業株式会社製、GenomONE-CF細胞融合用キット, No.CF004)により細胞融合し、HAT(Gibco、No.21060-017)およびHT(Gibco、No.11067-030)を含む10% FBS含有RPMI-1640培地(SIGMA、No.R8785)でハイブリドーマの選択培養を行った。細胞融合10〜12日目にハイブリドーマ培養上清を回収し、抗体価の測定(前記(3)参照)と同様の手法でELISAによるスクリーニングを行った。
【0097】
上記スクリーニングで選抜されたハイブリドーマの細胞数を測定後、0.5個/wellとなるように96ウェルプレートにまきこみ、限界希釈法によるクローニングを行った。同様にして、ELISAによるスクリーニングで陽性となったハイブリドーマについて再度サブクローニングを行い、ISK-RMH-TK3を選抜した。この培養上清中の抗体についてアイソタイピング(Rat Monoclonal Antibody Isotyping Test kit、DSファーマバイオメディカル、No.RMT1)を行った結果、IgMκであった。
【0098】
ここで得られたハイブリドーマISK-RMH-TK3は、平成22年8月27日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-22007として寄託されている。
【0099】
〔実施例2〕HIG1タンパク質の調製
(1)形質転換体の作製
E.coliコンピテントセル(Rosetta(DE3)、Novagen No. 709543)10μLとGST-HIG1発現プラスミドpGST-HIG1(pGEX 6P-1(GE Healthcare社)のMultiple Cloning SiteにマウスHIG1配列を挿入したプラスミド)あるいはpGST-HIG1-Flag(さらにHIG1の下流にFlagタグ配列を挿入したプラスミド)1μLを混合、氷冷30分、42℃で30秒ヒートショック処理し、氷冷2分後、100μL SOC培地(Novagen No. 709543、付属品)で希釈、37℃で1時間振とう培養した。その後、LB(20μg/mLカナマイシン、34μg/mLクロラムフェニコール、10 mg/mLペプトン、5 mg/mL酵母エキス、10 mg/mL塩化ナトリウム、pH7.4)プレートに塗布し組換え体コロニーを作製した。
【0100】
(2)培養・集菌
プレートに出現した1コロニーを100 mLのLB培地に添加し、フラスコ内37℃、300 rpmで一晩培養を行った。上記の培養液全量を1.5LのLB培地に混合し、37℃、150 rpmでOD600=0.6まで培養した。15℃にて30分静置後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(ナカライテスク社)を終濃度0.5 mMとなるよう添加し15℃で約16時間フラスコ内で振とう培養した。遠心分離した菌体の湿重量を測定し、湿菌体1 gあたり5 mLの超音波破砕用バッファー(50 mM Tris-HCl(pH8.0)、0.15 M NaCl、1 mM EDTA)に懸濁した。氷冷下で超音波破砕(15秒、インターバル30秒、5セット)後、TritonX-100を0.2w/v%となるように添加し、4℃で30分間転倒混和した。菌体破砕液を4℃、10000gで30分遠心後、その遠心上清を0.45μmフィルターをパスさせた。GST-HIG1(-Flag)のGSTとHIG1の間には、PreScission Protease認識配列が存在するので、以下の手順でGSTの切断を行い、HIG1(-Flag)を調製した。即ち、GSTカラム(GSTrap FF、GE Healthcare社No.17-5130-01)に、フィルターでパスした菌体破砕液、PreScission Protease反応溶液(50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.15 M NaCl、1mM EDTA、1mM DTT)、PreScission Protease(GE Healthcare社 No.27-0843-01)溶液を順次通し、カラムを4℃で一晩静置しGSTを切断した後、GSTカラムにPreScission Protease反応溶液を加え、HIG1(-Flag)溶液を回収した。この溶液を透析膜(Spectra/Por6 MWCO:1000、Spectrum Laboratories Inc.、No.132636)を用いてPBSに置換することによってHIG1(-Flag)溶液を得た。必要に応じてプロテアーゼ処理を行わずGST-HIG1(-Flag)溶液を得た。
【0101】
〔実施例3〕本発明のモノクローナル抗体の性質の検討1
本実施例では、モノクローナル抗体のHIG1ポリペプチドに対する特異性及び交差反応性をELISA法により確認した。
【0102】
(1)抗原特異性の確認
抗原としてGST-HIG1、T20-BSA、GST又はKLHを10μg/mL(50 mM炭酸緩衝液、pH9.6、SIGMA、No.C3041)の濃度で50μL/wellずつ、室温で96ウェルプレート(IWAKI、No.3801-096)にコーティングした。PBS-Tで3回洗浄後、10%FBSを含むPBS(10%FBS-PBS)で1時間ブロッキングした。ブロッキング液を吸入除去後、ハイブリドーマ培養上清を50μL/wellずつ入れて室温で1時間静置した。PBS-Tで3回洗浄後、10% FBS-PBS-Tで1000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識2次抗体(Goat anti Rat IgM-AP (Rock Land, No.612-1507))を50μL/wellずつ入れて室温で1時間静置した。PBS-Tで5回洗浄後、1 mg/mLのp-ニトロフェニルフォスフェート(SIGMA、No.N9389)を含む0.1Mグリシン緩衝液(pH10.4)を100μL/wellずつ入れ、37℃で60分間反応させた。反応後、405 nmの吸光度を測定した(SPECTRAmax250、Molecular Devices社)。その結果、実施例1で得られたISK-RMH-TK3は、T20の部分ペプチド、GST及びKLHには反応せず、全長HIG1ポリペプチドであるGST-HIG1に特異的に反応することが確認された(図2)。
【0103】
(2)交差反応性の確認
GST-HIG1(マウス由来)及びFlag-HIG1(ヒト由来)に対するISK-RMH-TK3の交差反応性を前記(1)と同様のELISA法により確認した。その結果、今回取得したISK-RMH-TK3は、ヒト由来のHIG1ポリペプチド(Flag-HIG1)に対しては全く反応せず、マウス由来のHIG1ポリペプチド(GST-HIG1)に特異的に反応することが確認された(図3)。
【0104】
〔実施例4〕本発明のモノクローナル抗体の性質の検討2
本実施例では、モノクローナル抗体のHIG1ポリペプチドに対する特異性をELISA競合反応試験により確認した。
【0105】
すなわち、固相抗原として実施例2で得られたGST-HIG1を5μg/mL(50 mM 炭酸緩衝液pH9.6、SIGMA、No.C3041)の濃度で50μL/wellずつ、室温で1時間プレートにコーティングした。PBS-Tで3回洗浄後、10% FBS-PBSで室温1時間ブロッキングした。PBS-Tで3回洗浄後、実施例1で得られた抗体培養上清のPBS-T希釈液と競合物質の希釈溶液(PBS-Tで段階希釈)とを混合し、室温で1時間反応した。上記反応液をプレートに50μL/wellずつ入れて、さらに室温で1時間静置した。なお、抗体培養上清の希釈率は競合物質がない時の吸光度が1付近となるよう予備試験にて前もって決定した(ISK-RMH-TK3は75倍希釈)。また、競合物質としてGST-HIG1(2.1μg/mLから公比3倍で8段希釈)またはT20-BSA(3.7μg/mLから公比3倍で8段希釈)を用いた。PBS-Tで3回洗浄後、10% FBS-PBS-Tで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識2次抗体(Anti-Rat IgM, conjugated AP、Rock Land、No.612-1507)を50μL/wellずつ入れて室温で1時間静置した。PBS-Tで5回洗浄後、1 mg/mLのp-ニトロフェニルフォスフェートを含む0.1Mグリシン緩衝液 (pH10.4)を100μL/wellずつ入れ、37℃で1時間反応させた。反応後、405 nmの吸光度を測定した。実施例1で得られたISK-RMH-TK3についての結果を図4に示す。
【0106】
その結果、ISK-RMH-TK3は26-233 ng/mLの範囲でGST-HIG1を特異的かつ定量的に測定することが可能であった。また、「Antibody engineering; A Practical Approach(Edited by McCaffety J., et al.), Chapter 4, 77-97, IRL Press Oxford」を参考に解離定数(Kd値)を算出したところ、2.5×10-9 Mであった。
【0107】
〔実施例5〕本発明のモノクローナル抗体の性質の検討3
本実施例では、モノクローナル抗体のウエスタンブロッティングでの反応性を確認した。
【0108】
GST-HIG1をSDS-PAGE(15w/v%ゲル)後、クリアブロットメンブレン(アトー、No.AE-6667)に転写した後、5w/v%スキムミルク(森永乳業)入りの0.1w/v% Tween20を含有した20 mMトリス緩衝生理食塩水(TBS-T)で4℃、16〜18時間ブロッキング操作を行った。本実施例における以後の操作は特に言及しない限り室温で行った。ブロッキング液を除去後、10% FBS-PBS-Tで0.5μg/mLの濃度に調製した実施例1で得られた抗体培養上清と1時間反応を行った。メンブレンをTBS-Tで3回洗浄後、TBS-Tで1000倍希釈した2次標識抗体(Anti-Rat IgM、conjugated AP、Rock Land、No.612-1507)で1時間反応した。続いてTBS-Tで3回洗浄後、発光基質のLumi-Phos WB(PIERCE社、No.34150)と5分間反応させ、LAS-3000ルミノイメージアナライザー(FUJIFILM)にて解析した。結果を図5に示す。
【0109】
その結果、ISK-RMH-TK3では6.16 ng-55.4 ngの範囲でGST-HIG1タンパク質の用量に依存したバンドが検出された。
【0110】
〔実施例6〕本発明のモノクローナル抗体の性質の検討4
本実施例では、細胞に遺伝子導入し発現させたHIG1分子への反応性を確認した。
【0111】
BHK(シリアンハムスター仔腎臓)細胞1×104個/wellを48ウェル培養プレート(Corning、No.3548)に10% FBS含有D’MEM(SIGMA、No.D5796)液に懸濁、播種し1日培養(37℃、5%CO2)後、Lipofectamine 2000(Invitrogen、No.11668-027)とpCAG-Flag-HIG1(CAGプロモーター下流にFlagタグ配列、さらにその下流にマウスのHIG1配列を挿入したプラスミド)のプラスミドDNAとのコンプレックスを添加することにより遺伝子導入し、さらに1日培養した。その後PBSで2回洗浄後、以下の方法にて免疫染色を行った。即ち、4w/v%パラフォルムアルデヒドにて細胞を固定(室温、10分間)し、PBSで1回洗浄後、0.2w/v%TritonX-100を含むPBSで室温、5分間処理した。続いてPBSで2回洗浄し、1w/v%BSAを含むPBSで4℃、16〜18時間ブロッキング処理した後、10% FBS-PBS-Tで0.5μg/mLの濃度に調整した実施例1で得られた抗体培養上清希釈液と1時間室温で反応を行った。なお、陰性対称として、市販のコントロールラット抗体(Rat IgM, kappa monoclonal [RTK2118]- isotype control, abcam社 No.ab35768)を使用した。次にPBSで3回洗浄後、10% FBS-PBS-Tで500倍希釈したAlexaFlour488蛍光標識抗ラットIgM抗体(Invitrogen、No.21212)で室温1時間反応した。さらにPBSで3回洗浄後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、No.IX70)にて観察した。なお本実施例の洗浄操作は全て室温で実施した。結果を図6に示す。
【0112】
その結果、ISK-RMH-TK3では全長マウスHIG1遺伝子を含むプラスミドDNAを導入した細胞において特異的に免疫染色像が観察された。
【0113】
〔実施例7〕本発明のモノクローナル抗体の可変領域の解析
ISK-RMH-TK3の可変領域の遺伝子配列を常法により解析した。
【0114】
シークエンス解析の結果、推測されるPCR反応で増幅されたDNA断片の配列(プライマー配列部分は小文字で表記)、そのDNA配列をもとに変換したアミノ酸配列は以下の通りであった。尚、各CDRのアミノ酸配列は、Infection and Immunity, Vol.68, p.1871-p.1878, 2000を参考に決定した。
【0115】
ISK-RMH-TK3 L鎖(DNA配列)
gtgctctggattcgggaaccaaaggtGATGTTGTGCTGACCCAGACTCCATCCATATTGTCTGCTACCATTGGACAATCGGTCTCCATCTCTTGCAGGTCAAGTCAGAGTCTCTTAGATAGTGATGGAAACACCTATTTATATTGGTTCCTACAGAGGCCAGGCCAGTCTCCACAGCGTCTAATTTATTTGGTATCCAACCTGGGATCTGGGGTCCCCAACAGGTTCAGTGGCAGTGGGTCAGGAACAGATTTCACACTCAAAATCAGTGGAGTGGAGGCTGAGGATTTGGGAGTTTATTACTGCATGCAAGCTACCCATGCTCCGTACACGTTTGGAGCTGGGACCAAGCTGGAACTGAAAcgggctgatgctgcaccaactgtatccatcttcccaccagtccgactagtcg (配列番号8)
【0116】
ISK-RMH-TK3 H鎖(DNA配列)
tttttaaaaggggtccagtgTGAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGGGGCGGCTTAGTGCAGCCTGGAAGGTCCATGAAACTCTCCTGTGCAGCCTCAGGATTCACTTTCAGTAACTATGGCATGGCCTGGGTCCGCCAGGCTCCAAAGAAGGGTCTGGAGTGGGTCGCATACATTAGTTATGATGGTGGTAGCACTTACTATCGAGACTCCGTGAAGGGCCGATTCACTATCTCCAGAGATAATGCAAAAAGCACCCTATACCTGCAAATGGACAGTCTGAGGTCTGAGGACACGGCCACTTATTACTGTACAACAGAGGGGGGTAGCGGGGATTACTGGGGCCAAGGAGTCATGGTCACAGTCTCCTCAGAGAGTCAGTCCTCCCCAACTGTCTTCCCCCTCGTCTCCTGCGAGAGCCCCCTGTCTgatgagaatttggtggcc (配列番号9)
【0117】
ISK-RMH-TK3 L鎖(アミノ酸配列)
ALDSGTKGDVVLTQTPSILSATIGQSVSISCRSSQSLLDSDGNTYLYWFLQRPGQSPQRLIYLVSNLGSGVPNRFSGSGSGTDFTLKISGVEAEDLGVYYCMQATHAPYTFGAGTKLELKRADAAPTVSIFPPVRLV (配列番号10)
【0118】
ISK-RMH-TK3 H鎖(アミノ酸配列)→上記DNA配列の3塩基目からアミノ酸に変換
FLKGVQCEVQLVESGGGLVQPGRSMKLSCAASGFTFSNYGMAWVRQAPKKGLEWVAYISYDGGSTYYRDSVKGRFTISRDNAKSTLYLQMDSLRSEDTATYYCTTEGGSGDYWGQGVMVTVSSESQSSPTVFPLVSCESPLSDENLVAMGCLA (配列番号11)
【0119】
ISK-RMH-TK3 (CDRのアミノ酸配列)
重鎖CDR1:NYGMA (配列番号1)
重鎖CDR2:YISYDGGSTYYRDSVKG (配列番号2)
重鎖CDR3:EGGSGDY (配列番号3)
軽鎖CDR1:RSSQSLLDSDGNTYLY (配列番号4)
軽鎖CDR2:LVSNLGS (配列番号5)
軽鎖CDR3:MQATHAP (配列番号6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスHIG1(Hypoxia induced gene 1)ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であって、全長マウスHIG1ポリペプチドに対する解離定数(Kd)が9×10-9 M以下である抗体。
【請求項2】
ヒトHIG1ポリペプチドと交差反応をしない、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ラットモノクローナル抗体である、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
全長マウスHIG1遺伝子を含む発現ベクターで形質転換された細胞で発現させることにより得られるポリペプチドに結合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記細胞が大腸菌又は動物細胞である、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
重鎖及び軽鎖の可変領域が以下のCDRを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体:
配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号4のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、
配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体から得られる抗体断片。
【請求項8】
Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFvフラグメント又は単鎖抗体である、請求項7に記載の抗体断片。
【請求項9】
標識化された請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記標識化が酵素、蛍光物質、放射性化合物又はビオチンによるものである、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
標識化された請求項7又は8に記載の抗体断片。
【請求項12】
前記標識化が酵素、蛍光物質、放射性化合物又はビオチンによるものである、請求項11に記載の抗体断片。
【請求項13】
タグ化された請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
前記タグ化がFlag、Myc、HA、GST又はヒスチジンによるものである、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
タグ化された請求項7又は8に記載の抗体断片。
【請求項16】
前記タグ化がFlag、Myc、HA、GST又はヒスチジンによるものである、請求項15に記載の抗体断片。
【請求項17】
請求項6に記載の抗体の軽鎖又は重鎖の可変領域をコードする塩基配列からなるDNA。
【請求項18】
請求項17に記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体を産生する細胞株。
【請求項20】
受託番号FERM P-22007のハイブリドーマ。
【請求項21】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を含むマウスHIG1ポリペプチドを検出するための試薬。
【請求項22】
酵素免疫測定用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項23】
ウエスタンブロッティング用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項24】
免疫組織染色用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項25】
細胞の低酸素状態評価用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項26】
細胞の低グルコース状態評価用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項27】
細胞の虚血状態評価用である、請求項21に記載の試薬。
【請求項28】
請求項21〜27のいずれか一項に記載の試薬を含む測定キット。
【請求項29】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を用いたマウスHIG1ポリペプチドの検出方法。
【請求項30】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の抗体又は抗体断片を含む低酸素状態、低グルコース状態又は虚血状態の検査試薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−70648(P2012−70648A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216440(P2010−216440)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】