説明

マグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物

【課題】本発明の目的は、従来のマグネシア−クロム質不焼成耐火物の優れた耐食性を維持しつつ、かつ前述の従来技術の諸問題を克服することができる優れた耐食性、耐構造的スポーリング性、耐熱スポーリング性を兼ね備えたマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物を提供することにある。
【解決手段】本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料よりなる耐火性組成物100質量%に対し、窒化硼素原料を外掛で0.3〜5質量%添加し、更に、バインダーを加えて混練した後、所定形状に成形、乾燥したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RH、AOD、VODなどの溶融金属精錬容器の内張り用の不焼成耐火物に関し、特に、低コストで良好な耐食性と耐浸潤性、耐スポーリング性を有するマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
RH、AOD、VODなどの溶融金属精錬容器の内張り耐火物としては、従来、その優れた耐食性の点から、高温で焼成されたマグネシア−クロム質、あるいはドロマイト質などの塩基性焼成耐火物が使用されるのが一般的であった。しかし、これらの高温焼成塩基性耐火物は良好な耐食性を有するものの、耐熱スポール性には劣っており、また、使用中に稼動面へのスラグの浸潤を防止し得ないため、浸潤変質層が剥離損傷する所謂構造的スポーリング性に劣っているという欠点があった。更に、これら焼成塩基性耐火物は、通常1800℃あるいはそれ以上の超高温で焼成する必要があり、焼成に要する設備、燃料などの費用のためコスト的にも不利な点があった。
【0003】
これらの点を改善する方法として、鱗状黒鉛とマグネシアからなるマグネシア−カーボン質不焼成耐火物が近年一部のRHで使用されている。このマグネシア−カーボン質不焼成耐火物は耐熱スポール性に優れ、かつ黒鉛の効果によりスラグ浸潤も抑えられるため、耐構造的スポーリング性にも優れるという特徴を持っているが、低塩基度スラグに対する耐食性はマグネシア−クロム質焼成耐火物に比して大幅に劣るとともに、温度が1650℃以上の高温になるとマグネシアとカーボンが反応して揮発、飛散してしまう所謂マグ・カーボン反応によって損傷が増大してしまうという欠点があるため使用条件が厳しい精錬炉では実質的に使用不可能であった。
【0004】
また、特許文献1には、マグネシア原料とカーボン原料との配合物にクロム鉄鉱を3〜50重量%(質量%)添加することを特徴とするマグネシア・カーボンれんがが開示されている。
【0005】
更に、特許文献2には、マグネシア原料とカーボン原料との配合物にマグネシア・クロムクリンカーを5〜50重量%(質量%)添加することを特徴とするマグネシア・カーボンれんがが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、MgO:20〜90重量%(質量%)、Cr:5〜80重量%(質量%)、SiO:10重量%(質量%)以下、Al:20重量%(質量%)以下,Fe:20重量%(質量%)以下から成る焼成又は電融によって得られる耐火原料を、5〜80重量%(質量%)含有し、残部を黒鉛:3〜30重量%(質量%)、MgO:15〜90重量%(質量%)含むことを特徴とする黒鉛含有溶融金属精錬用耐火れんがが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平3−205347号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開平3−205348号公報 特許請求の範囲
【特許文献3】特開平5−148010号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
即ち、特許文献1及び2に開示されているマグネシア・カーボンれんがは、一般的なマグネシア−カーボンれんがにおいて、スラグコーティング性や耐食性、耐酸化性を改善することを目的にクロム鉄鉱、あるいはマグネシア−クロムクリンカーを配合するものである。しかしながら、特許文献1及び2に開示されているマグネシア・カーボンれんがでは高温においてマグネシアとカーボンが反応して揮発、飛散してしまう、所謂マグ・カーボン反応による損傷増大の欠点は本質的に改善されていない。また、実際にはクロム鉄鉱及びマグネシア−クロムクリンカー中の酸化クロム成分が高温ではカーボンとの反応により次式のようにカーボンがCOガスとなって揮発、飛散するとともに、酸化クロムが金属クロムにまで還元されてしまうために、れんが組織が脆弱化し、損傷が増大してしまうという欠点がある。
【0009】
Cr+3C−2Cr(金属)+3CO(ガス)
【0010】
更に、特許文献3に開示されている黒鉛含有溶融金属精錬用耐火煉瓦は、黒鉛を多量に含むため、本質的に先に述べた高温での酸化クロムとカーボンの酸化、還元反応によるれんが組織の脆弱化と損傷増大という欠点は改善し得ない。
【0011】
従って、本発明の目的は、従来のマグネシア−クロム質不焼成耐火物の優れた耐食性を維持しつつ、かつ前述の従来技術の諸問題を克服することができる優れた耐食性、耐構造的スポーリング性、耐熱スポーリング性を兼ね備えたマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料にカーボンと類似した特性を有する窒化硼素(BN)原料を組み合わせることにより、高温での酸化−還元反応の影響を排除しつつ、かつ優れた耐食性、耐熱スポーリング性、耐構造的スポーリング性を実現できることを見出したものである。
【0013】
即ち、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料よりなる耐火性組成物100質量%に対し、窒化硼素原料を外掛で0.3〜5質量%添加し、更に、バインダーを加えて混練した後、所定形状に成形、乾燥したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、マグネシア質耐火原料が、純度95質量%以上の天然、焼結または電融マグネシアであることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、クロム質耐火原料が、天然クロム鉱、クロム鉱とマグネシアを電気溶融した電融マグクロクリンカー、三酸化二クロム及びピクロクロマイトからなる群から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、良好な耐食性、耐浸潤性、耐スポーリング性を有し、かつ不焼成であるがゆえに低コストであり、RHなどの溶融金属精錬容器の内張り耐火物として、安価なコストで優れた耐用を実現できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
窒化硼素(BN)は、別名「ホワイトカーボン」とも呼ばれ、黒鉛と同様の結晶構造を有するとともに、溶融スラグや溶融金属に濡れにくい等、多くの点で黒鉛と類似した特性を持つ。一方、窒化硼素はマグネシアやクロム質原料との共存下においても、カーボンのようにこれらの原料と反応して、酸化、還元反応を生ずることがないという利点を有する。従って、これらの原料を組み合わせることにより、優れた耐食性、耐浸潤性、耐熱スポーリング性を兼ね備えた不焼成耐火物を構成することが可能となる。
【0018】
従って、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物においては、マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料よりなる耐火性組成物100質量%に対し、外掛で0.3〜5質量%の窒化硼素原料を配合してなるものである。
【0019】
ここで、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物に使用されるマグネシア質耐火原料としては、マグネシアの純度が95質量%以上、好ましくは97質量%以上の天然、焼結または電融マグネシアを使用することができる。なお、マグネシアの純度が95質量%未満の場合は骨材自身の耐食性が大幅に劣るため好ましくない。
【0020】
また、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物に使用されるクロム質耐火原料としては天然のクロム鉱、クロム鉱とマグネシアを電気溶融した所謂電融マグクロクリンカー、三酸化二クロムのような酸化クロム及びピクロクロマイトからなる群から選ばれた1種あるいは2種以上を使用することができる。
【0021】
なお、上記耐火性組成物におけるマグネシア質耐火原料とクロム質耐火原料の混合比率は特に限定されものではないが、使用する溶融金属精錬炉のスラグ組成や温度などの使用条件により適宜決定することができ、例えばマグネシア質耐火原料3〜97質量%、好ましくは5〜70質量%、クロム質耐火原料3〜97質量%、好ましくは30〜95質量%の範囲内である。
【0022】
次に、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物に使用される窒化硼素原料の配合量は、前記マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料よりなる耐火性組成物100質量%に対し外掛けで0.3〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%の範囲内である。ここで、窒化硼素原料の配合量が0.3質量%未満の場合には、スラグ浸潤を抑制する効果がほとんど発揮されないために好ましくない。一方、該配合加量が5質量%を超えると、窒化硼素原料は比重が軽いためその体積が過大となり、事実上混練、成形するのが困難になるとともに、窒化硼素は比較的高価な原料であるため、コストも高くなり好ましくない。なお、使用する窒化硼素原料の純度については特に規定するものではないが、耐食性、溶融スラグに対する濡れ性などの点から、純度95質量%以上、好ましくは97質量%以上のものが望ましい。
【0023】
上記耐火性組成物に窒化硼素原料を配合してなる組成物を混練、成形するためにバインダーを使用することができる。バインダーとしては、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂などの合成樹脂、セルロース類、デキストリン、澱粉、多糖類、PVAなどの有機バインダー、あるいは、珪酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩などの無機バインダーなどを使用することができる。バインダーの配合量は特に限定されるものではなく、慣用公知の量で使用可能であり、例えば上記組成物に対して外掛けで1〜6質量%、好ましくは2〜4質量%の範囲内である。ここで、バインダーの配合量が1質量%未満であると、成形が困難となるために好ましくなく、また、6質量%を超えると、揮発分が多くなり、耐食性が低下するために好ましくない。
【0024】
また、組成物の混練、所定形状への成形並びに乾燥工程は特に限定されるものではなく、慣用公知の手法により行なうことができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
表1に示した原料配合の組成物を、実施例1〜6及び比較例12〜15バインダーとしてフェノール樹脂を外掛けで3質量%用いて混練した後、定法により成形、乾燥してJIS並形形状の不焼成れんがを得た。
また、比較例7〜11については、バインダーとして同じくフェノール樹脂を外掛けで3質量%用いて混練、成形した後、トンネルキルンで1850℃にて焼成することにより、JIS並形形状の所謂超高温焼成マグネシア−クロムれんがを得た。
【0026】
これらのれんがについて、見掛気孔率、かさ比重、圧縮強さを測定した。ここで、見掛気孔率は、JIS R2205により測定したものである。また、かさ比重は、JIS R2205により測定したものである。更に、圧縮強さは、JIS R2206により測定したものである。得られた結果を表1に記載する。
【0027】
また、これらのれんがを回転ドラム式侵食試験装置にて侵食試験を行った結果を表1中に示す。なお、侵食試験は、回転ドラム侵食試験により、アーク加熱1650℃、5時間、スラグ塩基度1.5の条件にて行なった。
更に、これらのれんが1400℃急加熱15分−水冷3分+空冷12分を5回反復することによりスポーリング試験を実施した結果を同じく表1に示す。なお、耐スポール性の欄において、良は、亀裂が発生するも軽微、可は、小亀裂数本発生、不可は、大亀裂多数発生または剥落をそれぞれ示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
侵食試験について、実施例1〜6の本発明品と、比較品7〜11の超高温焼成マグネシア−クロムれんがを比較した場合、侵食量はほぼ同等かもしくは若干大きいが、浸潤深さは従来の超高温焼成マグネシア−クロムれんががいずれも35mmを超えているのに対して、本発明品は3mm以下であり耐浸潤性に優れており、従って所謂耐構造的スポーリング性に優れることが判る。また、実施例1〜6の本発明品と比較例12〜15の比較品を比較すると、比較品は含有する黒鉛の効果により耐浸潤性には優れるものの、黒鉛とクロム質原料及びマグネシアの酸化、還元反応によりれんが組織が脆弱化するため侵食量そのものは大きくなり耐食性に劣る。
【0031】
また、耐スポール性について、比較例7〜11の従来の超高温焼成マグネシア−クロムれんがは多数の大きな亀裂が発生し、耐熱スポーリング性に劣るのに対して、不焼成れんがである本発明品及び比較例12〜15の比較品は全く亀裂が発生しないか、発生しても軽微であり、明らかに耐熱スポーリング性に優れる。以上のように、本発明による実施例1〜6は、耐食性、耐浸潤性、耐熱スポーリング性において総合的に優れた特性を有することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によるマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物は、良好な耐食性、耐浸潤性、耐スポーリング性を有し、かつ不焼成であるがゆえに低コストであり、RH、AOD、VODなどの溶融金属精錬容器の内張り耐火物として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア質耐火原料及びクロム質耐火原料よりなる耐火性組成物100質量%に対し、窒化硼素原料を外掛で0.3〜5質量%添加し、更に、バインダーを加えて混練した後、所定形状に成形、乾燥したことを特徴とするマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物。
【請求項2】
マグネシア質耐火原料は、純度95質量%以上の天然、焼結または電融マグネシアである、請求項1記載のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物。
【請求項3】
クロム質耐火原料は、天然クロム鉱、クロム鉱とマグネシアを電気溶融した電融マグクロクリンカー、三酸化二クロム及びピクロクロマイトからなる群から選ばれた1種または2種以上である、請求項1または2記載のマグネシア−クロム−窒化硼素質不焼成耐火物。

【公開番号】特開2006−76863(P2006−76863A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265462(P2004−265462)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】