説明

モータの冷却装置および冷却方法並びにその冷却装置付きモータを搭載した車両

【課題】冷媒を自己循環させることにより、冷却システムのコンパクト化および軽量化を達成できるモータの冷却装置および冷却方法並びにその冷却装置付きモータを搭載した車両を得る。
【解決手段】冷媒を溜めたリザーバタンク11と、モータ1の発熱部となるステータ4の内部に並列配置した複数の冷媒蒸発通路12a〜12fと、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通した冷媒凝縮通路13a〜13fと、リザーバタンク11内の冷媒を上流側逆止弁14を介して冷媒蒸発通路12a〜12fに分配して供給する冷媒供給通路15と、冷媒凝縮通路13a〜13fを通過した冷媒を集合させて下流側逆止弁16を介してリザーバタンク11に戻す冷媒還流通路17と、を設けることで、冷媒の自己循環が可能になるとともに、各通路の微少な偏りにより液相の冷媒に振動流を発生させて液相の冷媒流量を減少し、冷却装置10のコンパクト化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの冷却装置および冷却方法並びにその冷却装置付きモータを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の駆動方式の1つとして、タイヤホイールの中にモータを組み込んだインホイールドライブ方式が提案されており、このインホイールドライブ方式は車室内の有効利用空間が拡大することや各輪独立駆動による従来の自動車と異なる運転感覚が得られるという特徴がある。
【0003】
このようなドライブシステムを実現するにはモータのコンパクト化が必須であるが、モータ体積を小さくすると損失により発生する熱を放熱する面積も減るため、温度の上昇が顕著になり、ひいては、モータの冷却が大きな問題となる。
【0004】
この冷却には液冷方式や空冷方式等が知られるが、液冷方式では高い冷却効率が期待できるが、タイヤホイールに取り付けられたモータに冷媒液を循環するためのポンプなどの循環装置や配管部品が必要となり、この場合、一般的にはフロントグリル近傍に冷媒液の熱交換器を設けて、この熱交換器とモータとを長い配管で繋ぐことになり、冷却システム全体が大型化してしまう。
【0005】
一方、密閉型電動圧縮機で、モータハウジングの外壁に給湯用の水を流通させるチューブを巻き付け、吸入冷媒をモータハウジング内に流通させるようにしたものがあり、この場合、冷媒を循環させるためのポンプを一体に組み付けてある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−12352号公報(第3頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる従来の密閉型電動圧縮機では冷媒を循環させるポンプを一体に組み付けた場合にも、その冷媒を冷却するための給湯用チューブ内の水は外部動力で循環させる必要があり、この場合にあっても冷却システムが大型化してしまうとともに、前記冷媒の循環は一体に組付けたとはいえ、やはりポンプが必要となり、その電動圧縮機をモータに適用した場合にもモータの大型化が余儀なくされる。
【0007】
そこで、本発明は、冷媒を自己循環させることにより、冷却システムのコンパクト化および軽量化を達成できるモータの冷却装置および冷却方法並びにその冷却装置付きモータを搭載した車両を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモータの冷却装置は、回転軸と、この回転軸に結合されたロータと、このロータの外周を囲繞するステータと、を備えたモータであって、モータの発熱で液相から気相に変化する冷媒を溜めたリザーバタンクと、モータの発熱部に並列配置される複数の冷媒蒸発通路と、前記複数の冷媒蒸発通路の下流側にそれぞれ連通されて低温部に配置される複数の冷媒凝縮通路と、前記リザーバタンク内の冷媒を第1の逆止弁を介して前記複数の冷媒蒸発通路に分配して供給する冷媒供給通路と、前記複数の冷媒凝縮通路を通過した冷媒を集合させて第2の逆止弁を介して前記リザーバタンクに戻す冷媒還流通路と、を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモータの冷却装置によれば、リザーバタンク内に溜めた冷媒が、冷媒供給通路、冷媒蒸発通路、冷媒凝縮通路および冷媒還流通路を経て再度リザーバタンクに戻るという閉ループが構成されており、冷媒蒸発通路で冷媒の気相化により発生した蒸気の圧力で、冷媒凝縮通路で液相化した冷媒を冷媒還流通路に押し出す作用と、冷媒供給通路および冷媒還流通路にそれぞれ設けた第1および第2の逆止弁の作用と、によって冷媒の自己循環が可能になるとともに、モータの発熱部の廃熱を冷媒蒸発通路内の冷媒が蒸発潜熱として回収し、その熱回収した冷媒が冷媒凝縮通路内に導入されることにより凝縮潜熱として放出されてモータを冷却することができるようになる。その結果、冷却装置のコンパクト化を図ることができる。
【0010】
また、冷媒蒸発通路を複数並列配置させるとともに、冷媒凝縮通路を冷媒蒸発通路にそれぞれ連通させて複数並列配置させることで、複数の冷媒蒸発通路および冷媒凝縮通路の径や長さがそれぞれ同一条件で形成されている場合であっても、各通路において微少な偏りが存在するため、各通路における蒸発のタイミングが同一になることがない。すなわち、各通路のうち少なくとも1つの通路における蒸発のタイミングを異ならせることができる。このように、蒸発のタイミングを異ならせることで、最初に蒸発が発生した冷媒蒸発通路内の圧力が他の冷媒蒸発通路にも影響することとなり、複数の冷媒蒸発通路および冷媒凝縮通路を流れる液相の冷媒に振動流を発生させることができる。
【0011】
こうして、振動流を発生させることにより各冷媒蒸発通路に液相の状態で流れ込む冷媒量を減少させることができ、ひいては、冷媒凝縮通路での気相化された冷媒の凝縮効率を上昇させることができるようになる。その結果、冷媒凝縮通路の容量を小さくすることができ、冷却装置の更なるコンパクト化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。なお、以下では、インホイールドライブ方式の電気自動車に用いられるモータを例示して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1〜図8は本発明にかかるモータの冷却装置および冷却方法並びにその冷却装置付きモータを搭載した車両の第1実施形態を示し、図1はインホイールドライブ方式としてモータの組み込み状態を示すタイヤホイールの斜視図である。
【0014】
本実施形態の冷却装置10が適用されるモータ1は、図1に示すように、インホイールドライブ方式として車輪アクスルW・Aに設けられている。このモータ1はハウジング側が車輪アクスルW・Aに取付支持されており、モータ1の駆動軸側がタイヤホイールT・Wの内側凹部Wh内に挿入されて車輪を駆動するようになっている。
【0015】
なお、本実施形態では、車輪Wはアッパ,ロアリンクL・U,L・LおよびショックアブソーバS・Aを備えたダブルウイッシュボーン方式のサスペンション装置Sによって車体側に支持されているが、特にサスペンションはこのダブルウイッシュボーンに限定するものではない。
【0016】
図2は冷却装置を設けたモータの縦断面図、図3は図2中A−A線に沿った断面図であり、これら図2,図3に示すように、モータ1は、回転軸2と、この回転軸2に結合したロータ3と、このロータ3の外周を囲繞するステータ4と、を備え、これら回転軸2、ロータ3、ステータ4は円筒状のハウジング5内に収納される。
【0017】
回転軸2はロータ3と一体となって、両端部がハウジング5の両端を閉止するエンドプレート5E1,5E2に軸受6A,6Bを介して回転自在に支持されるとともに、ロータ3の周縁部内部には周方向に等間隔(中心角90゜)をもって4個のロータ磁石7が回転軸2の軸方向に沿って配置されている。
【0018】
ステータ4はハウジング5の内周に固定され、そのステータ4の内周には周方向に等間隔(中心角60゜)をもって6本のステータ凸極部4Sが突設され、それぞれのステータ凸極部4Sにはモータコイル8が巻回されている。モータコイル8は、モータ1を駆動するに際して通電されると発熱し、そのモータコイル8の発熱がステータ凸極部4Sからステータ4全体に伝導し、ひいては、モータ1全体が発熱されることになる。
【0019】
ここで、冷却装置10は、図2,図3に示すように、モータ1の発熱で液相から気相に変化する冷媒を溜めたリザーバタンク11と、モータ1の発熱部となるステータ4の内部に、ステータ凸極部4Sにそれぞれ対応して並列配置される複数(6本)の冷媒蒸発通路12a〜12fと、それら複数の冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通されて低温部、例えば、ハウジング5の外側に配置される複数(6本)の冷媒凝縮通路13a〜13fと、リザーバタンク11内の冷媒を上流側逆止弁(第1の逆止弁)14を介して前記複数の冷媒蒸発通路12a〜12fに分配して供給する冷媒供給通路15と、前記複数の冷媒凝縮通路13a〜13fを通過した冷媒を集合させて下流側逆止弁(第2の逆止弁)16を介してリザーバタンク11に戻す冷媒還流通路17と、を備えている。
【0020】
そして、本実施形態では、リザーバタンク11に溜めた冷媒を、上流側逆止弁14を介してモータ1の発熱部(ステータ4)に並列配置した複数の冷媒蒸発通路12a〜12fに分配して供給した後、それら複数の冷媒蒸発通路12a〜12fを通過した冷媒を、各冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ設けた冷媒凝縮通路13a〜13fに導入し、それら複数の冷媒凝縮通路13a〜13fを通過した冷媒を集合した後、下流側逆止弁16を介して前記リザーバタンク11に戻すようにしてある。
【0021】
冷媒蒸発通路12a〜12fは、図3に示すように、ステータ4のステータ凸極部4Sに対応した肉厚内に穿設され、本実施形態では各冷媒蒸発通路12a〜12fはそれぞれ同径に形成されている。
【0022】
また、冷媒凝縮通路13a〜13fは、通路となる配管の外周に多数のフィンを設けるなどして構成されており、それらフィンを介して外気と通路内の冷媒との熱交換を図るようになっている。
【0023】
図4は図2中矢視B方向から見たモータの右側面図であり、同図および図2に示すように、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのエンドプレート5E1内側端に位置する上流側端は、分岐通路18a〜18fを介して単管で形成された冷媒供給通路15の下流側端15aに連通される。そして、上流側逆止弁14が冷媒供給通路15に設けられている。
【0024】
図5は図2中矢視C方向から見たモータの左側面図であり、同図および図2に示すように、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのエンドプレート5E2内側端に位置する下流側端は、それぞれに対応した連通路19a〜19fを介して複数の冷媒凝縮通路13a〜13fの上流側端に連通される。そして、各冷媒凝縮通路13a〜13fの下流側端は集合通路20を介して、単管で形成された冷媒還流通路17の上流側端17aに連通される。さらに、下流側逆止弁16が冷媒還流通路17に設けられている。
【0025】
したがって、本実施形態にかかる冷却装置10には、リザーバタンク11内の冷媒が、上流側逆止弁14を設けた冷媒供給通路15、分岐通路18a〜18f、冷媒蒸発通路12a〜12f、連通路19a〜19f、冷媒凝縮通路13a〜13f、集合通路20および下流側逆止弁16を設けた冷媒還流通路17を通ってリザーバタンク11に戻るという閉ループが構成されることとなる。
【0026】
そして、冷媒蒸発通路12a〜12fでは、冷媒がモータ1の発熱部となるステータ4の廃熱を蒸発潜熱として回収して気相化され、一方、冷媒凝縮通路13a〜13fでは、導入された気相化された冷媒が凝縮潜熱として放出されて液相化される。これによって冷媒蒸発通路12a〜12fで回収した熱が冷媒凝縮通路13a〜13fから外部に放出されてモータ1の冷却が行われる。
【0027】
以下、図6,図7および図8を用いて本実施形態の冷却装置10の作用を説明する。
【0028】
図6(a)は本実施形態の冷却装置を簡略化して示す概略図、図6(b)は本実施形態と比較する冷却装置を簡略化して示す概略図である。
【0029】
冷却装置100は、図6(a)に示すように、リザーバタンク111と、モータの発熱部に並列配置される2本の冷媒蒸発通路112a,112bと、それら冷媒蒸発通路112a,112bの下流側にそれぞれ連通された2本の冷媒凝縮通路113a,113bと、リザーバタンク111内の冷媒を上流側逆止弁114を介して冷媒蒸発通路112a,112bに分配して供給する冷媒供給通路115と、冷媒凝縮通路113a,113bを通過した冷媒を集合させて連通し下流側逆止弁116を介してリザーバタンク111に戻す冷媒還流通路117と、を備えて概略構成されている。
【0030】
また、冷媒供給通路115と冷媒蒸発通路112a,112bとは分岐通路118a,118bによって連通されるとともに、冷媒蒸発通路112a,112bと冷媒凝縮通路113a,113bとはそれぞれ連通路119a,119bによって連通され、かつ、冷媒凝縮通路113a,113bと冷媒還流通路117とは集合通路120によって連通されている。
【0031】
このように、冷却装置100では、冷媒蒸発通路112a,112bや冷媒凝縮通路113a,113bが2本となっているが、これらの通路が3本以上設けられている冷却装置10の場合でも基本的な作用は同様である。
【0032】
一方、比較対象となる冷却装置200は、図6(b)に示すように、リザーバタンク211と、モータの発熱部に直列配置される2本の冷媒蒸発通路212a,212bと、下流側の冷媒蒸発通路212bに連通された冷媒凝縮通路213と、リザーバタンク211内の冷媒を上流側逆止弁214を介して上流側の前記冷媒蒸発通路212aに供給する冷媒供給通路215と、冷媒凝縮通路213を通過した冷媒を下流側逆止弁216を介してリザーバタンク211に戻す冷媒還流通路217と、を備えて概略構成されている。
【0033】
また、冷媒供給通路215と冷媒蒸発通路212aとは通路218によって連通されるとともに、冷媒蒸発通路212bと冷媒凝縮通路213とは連通路219によって連通され、かつ、冷媒凝縮通路213と冷媒還流通路217とは通路220によって連通されている。
【0034】
つまり、後者の冷却装置200は、2本の冷媒蒸発通路212a,212bが直列配置されている。また、これら冷媒蒸発通路212a,212bは、前者の冷却装置100の冷媒蒸発通路112a,112bとそれぞれが等しい長さであり、かつ、後者の冷却装置200の冷媒凝縮通路213は、前者の冷却装置100の2本の冷媒凝縮通路113a,113bを合わせた長さとなるように形成されている。
【0035】
そして、前記冷却装置100では、冷媒蒸発通路112a,112bが複数並列に設けられたことにより、これら冷媒蒸発通路112a,112bに存在する液相冷媒が往復動して、振動流が発生する。以下、図7に基づき、複数の通路を並列に設けることで振動流が発生する理由を説明する。
【0036】
図7は図6(a)に示す冷却装置の冷媒蒸発通路内温度、圧力および冷媒供給通路内流量の時間履歴をそれぞれグラフで示す説明図である。
【0037】
まず、冷却装置100の形成の際に、冷媒蒸発通路112a,112b、冷媒凝縮通路113a,113bが、冷媒供給通路115と冷媒還流通路117との間において対称、つまり、径や長さが同一条件となるように形成したとしても、現実的には各通路において微少な偏りが存在する。例えば、冷媒凝縮通路113a,113bに接触する冷却風の温度や流速の微妙な違いによる冷媒冷却性能の偏りやモータ1の発熱部(ステータ4)からの熱量の偏り、冷媒蒸発通路112a,112bと発熱部との距離変化等によって、各通路に偏りが生じてしまうことがある。
【0038】
これらの偏りにより、冷媒蒸発通路112a,112bのいずれか一方、例えば、冷媒蒸発通路112aの冷媒が先に蒸発を始めた場合には、冷媒蒸発通路112aの中心部112Caで温度および圧力が高い気液二相流が流れることとなる。このとき、気液二相流は、冷媒凝縮通路113aに流れるとともに、分岐通路118a,118bに逆流して他方の冷媒蒸発通路112bにも流れ込むため、冷媒蒸発通路112b内の温度を低下させる。
【0039】
そして、図7(a),(b)に示すように、一方の冷媒蒸発通路112aの中心部112Caの温度が最大値T1、圧力が最大値P1で、他方の冷媒蒸発通路112bの中心部112Cbの温度が最小値T′1、圧力が最小値P′1になると、一方の冷媒凝縮通路113aに導入された気相冷媒が凝縮するため、上記中心部112Caでの温度および圧力が下がり始める。
【0040】
このように、中心部112Caでの圧力が減少すると、他方の中心部112Cbでの飽和圧力も減少するので、冷媒蒸発通路112b内で冷媒が蒸発を始めるとともに、分岐通路118a,118b内の液相冷媒は一方の冷媒蒸発通路112aに流入し、他方の中心部112Cbで温度および圧力が極大値T′2,P′2となり、一方の中心部112Caで温度が極小値T2となる。
【0041】
このような振動流が何回か繰り返されると、分岐通路118a,118bの液相冷媒量は減少し、両冷媒蒸発通路112a,112b内で蒸発が発生するとともに、上流側逆止弁114が開弁して、図7(c)に示すように、リザーバタンク111から冷媒供給通路115に液相冷媒が流入する。
【0042】
そして、冷媒供給通路115に流入した液相冷媒は、分岐通路118a,118bから冷媒蒸発通路112a,112bに導入され、上述したようにそれら冷媒蒸発通路112a,112b内で振動流が再度発生し、このようなサイクルが繰り返されることになる。
【0043】
一方、図8は図6(b)に示す冷却装置の冷媒蒸発通路内温度、圧力および冷媒供給通路内流量の時間履歴をそれぞれグラフで示す説明図である。なお、冷却装置200の下流側の冷媒蒸発通路212bの中心部212Caでの温度および圧力の値は、形状が相似で、かつ、上流側の冷媒蒸発通路212aの中心部212Caから下流側の上記中心部212Cbに至るまでの流路抵抗の分だけずれたグラフとなっており、煩雑になるので、図8では、下流側の中心部212Cbでの温度および圧力の値を省略して示してある。
【0044】
上記冷却装置200では、まず、上流側逆止弁214が開弁してリザーバタンク211から液相冷媒が冷媒供給通路215を介して上流側の冷媒蒸発通路212aおよび下流側の冷媒蒸発通路211bに供給されると、液相冷媒はそれら冷媒蒸発通路212a,212b内で温度上昇する。そして、図8(a)中T1および図8(b)中P1に示す値を超えると沸騰を開始する。
【0045】
このように液相冷媒の一部が蒸発して気液混合状態になると、通路219および冷媒凝縮通路213内に存在する液相冷媒を下流側逆止弁216方向に押し出そうとする。しかしながら、下流側逆止弁216は所定値以上の圧力にならないと開弁しないので、通路内の圧力および飽和温度は徐々に上昇していき、やがて、圧力が最大値P2になるとともに、飽和温度も最大値T2となる。
【0046】
そして、圧力および飽和温度が上昇して下流側逆止弁216が開弁し、通路219および冷媒凝縮通路213内に存在する液相の冷媒が押し出されると、T3〜T4の間およびP3〜P4の間で示すように、温度および圧力が一定となり、冷媒蒸発通路212a,212b内の液相冷媒は蒸発し続ける状態になる。そして、冷媒凝縮通路213内の気液二相流のクオリティ(かわき度)が大きくなると冷媒凝縮通路213内で凝縮が起こり、冷媒蒸発通路212a,212b内の圧力が下降して上流側逆止弁214が開弁し、液相冷媒が冷媒蒸発通路212a,212bに供給される。
【0047】
このとき、液相冷媒の流入により、冷媒蒸発通路212a,212b内温度は最小値T5となる。その後、上記サイクルが繰り返されることになる。なお、図8(a)に示すように、T1〜T4においては冷媒蒸発通路212a,212b内の冷媒は沸騰状態にあり、T4〜T6間においては冷媒は沸騰していない状態にある。
【0048】
以上説明したように、冷却装置200とは違い、冷却装置100では、冷媒蒸発通路112a,112b内の液相冷媒に振動流が発生するため、上流側逆止弁14が開弁されて冷媒蒸発通路112a,112bへ流入する液相冷媒の流入量を、冷却装置200の冷媒蒸発通路212a,212bに流入する液相冷媒の流入量と較べて大幅に少なくすることができる。
【0049】
ここで、上述のクオリティ(かわき度)Xの定義式は、
クオリティX=Gg/(Gg+Gl)…(1)
となる。
【0050】
ただし、Gg(=Wg/A):気相質量速度、Gl(=Wl/A):液相質量速度、Wg:気相質量流量、Wl:液相質量流量、A:流路断面積
である。
【0051】
また、液相凝縮通路内の流路断面積を一定とすれば、
X=Wg/(Wg+Wl)…(2)
となる。
【0052】
ここで、除熱量をH、潜熱をLとすれば、発生蒸気量はGg=H/Lとなり、冷媒蒸発通路内に流入する液相冷媒の平均質量流量をW0lとすれば、
Wl=W0l−Wg…(3)
となり、クオリティXは、
X=H/(L・W0l)…(4)
となる。
【0053】
したがって、クオリティXを大きくするには、冷媒蒸発通路に流入する液相冷媒の平均質量流量を小さくすれば良いことが理解される。
【0054】
また、通路内凝縮における熱伝達率αの概略値推算法として以下に述べるShahの式がある。
【0055】
α=αl{(1−X)0.8+3.8X0.76(1−X)0.04(Ps/Pcrt)−0.38}…(5)
ただし、αl:通路内を液相冷媒のみが流れると仮定したときの熱伝達率、X:クオリティ、Ps:飽和圧力、Pcrt:臨界圧力
である。
【0056】
冷媒凝縮通路内の熱伝達係数αは、X=1の付近を除いてXの単調増加関数となるので、冷媒凝縮通路に流入する流体のクオリティXが大きくなれば、冷媒凝縮通路の熱伝達率が大きくなり、結果として冷媒凝縮通路の面積を小さくすることができる。
【0057】
ちなみに、図6(a),(b)の冷却装置100,200において、リザーバタンク111,211を大気開放するとともに、全通路断面直径を4mmとし、1.4kWの熱量を除熱する実験を行ったところ、平均質量流量はそれぞれ61g/minと183g/minであった。
【0058】
また、冷媒として水を用いて、その水の飽和温度100゜C近辺の蒸発潜熱を2260kJ/kgとすれば、1.4kWの熱量を除熱する場合、
1.4/220=6.19×10−4kg/s=6.19×10−4×60×1000=37g/min
となり、毎分37gの水を供給すれば良いことになる。このことは、逆に、毎分37gの水が蒸気になることにより、1.4kWの除熱ができることを意味する。
【0059】
したがって、図6(a)の冷却装置100の流路系のクオリティXは、
X=Wg/W0l=37/61=0.61…(イ)
となる。また、図6(b)の冷却装置200の流路系のクオリティXは、
X=Wg/W0l=37/183=0.20…(ロ)
となる。
【0060】
上記(イ),(ロ)で算出したクオリティ0.61および0.20に対して、前記(5)のShahの式を用いて凝縮熱伝達率を計算すると、それぞれ、13.5kW/(m・K)および6.4kW/(m・K)となる。ただし、式中の物性値には簡単のため1気圧の値(リザーバタンクが大気開放のため)を用いてある。また、αlは発達した通路内層流熱伝達を仮定して、一般的に用いられるNu(ヌッセルト数)=4より、αl=677W/(m・K)とした。
【0061】
したがって、図6(a)の冷却装置100の流路系の冷媒凝縮通路は、図6(b)の冷却装置200の流路系のそれに比べて2.09(=13.5/6.4)倍となる。このとき、冷却装置100の冷媒凝縮通路112a,112bの熱伝達率が、冷却装置200の冷媒凝縮通路212a,212bと同等の熱伝達率となるようにした場合、試算によれば、冷却装置100の冷媒凝縮通路112a,112bの全面積(この場合、凝縮通路長さ)を20%(2つの冷媒凝縮通路112a,112bのそれぞれで10%づつ)削除することができることとなる。
【0062】
ところで、本実施形態の図2に示す冷却装置10の作用を、図6(a)に示す簡略化した冷却装置100を便宜上用いて説明したが、勿論、上記冷却装置10にあっても、通路の本数が増加するのみで同様の作用効果を奏することができる。
【0063】
以上の構成による本実施形態のモータ1の冷却装置10および冷却方法によれば、冷却装置10には、リザーバタンク11内に溜めた冷媒が、冷媒供給通路15、冷媒蒸発通路12a〜12f、冷媒凝縮通路13a〜13fおよび冷媒還流通路17を経て再度リザーバタンク11に戻るという閉ループが構成されており、冷媒蒸発通路12a〜12fで冷媒の気相化により発生した蒸気の圧力で、冷媒凝縮通路13a〜13fで液相化した冷媒を冷媒還流通路17に押し出す作用と、冷媒供給通路15および冷媒還流通路17にそれぞれ設けた逆止弁14,16の作用と、によって冷媒の自己循環が可能になるとともに、モータ1の発熱部(ステータ4)の廃熱を冷媒蒸発通路12a〜12f内の冷媒が蒸発潜熱として回収し、その熱回収した冷媒が冷媒凝縮通路13a〜13f内に導入されることにより凝縮潜熱として放出されてモータ1を冷却することができるようになる。その結果、冷却装置10のコンパクト化を図ることができる。
【0064】
このとき、冷媒蒸発通路12a〜12fが複数並列配置されたことにより、これに伴って冷媒凝縮通路13a〜13fも複数並列配置されることとなる。このように、冷媒蒸発通路12a〜12fおよび冷媒凝縮通路13a〜13fを複数並列配置することで、本実施形態のように、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fおよび冷媒凝縮通路13a〜13fの径や長さがそれぞれ同一条件で形成されている場合であっても、各通路において微少な偏りが存在するため、各通路における蒸発のタイミングが同一になることがない。すなわち、各通路のうち少なくとも1つの通路における蒸発のタイミングを異ならせることができる。このように、蒸発のタイミングを異ならせることで、最初に蒸発が発生した冷媒蒸発通路12a〜12f内の圧力が他の冷媒蒸発通路12a〜12fにも影響することとなり、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fおよび冷媒凝縮通路13a〜13fを流れる液相の冷媒に振動流を発生させることができる。
【0065】
こうして、振動流を発生させることにより冷却装置10を構成する閉ループを流れる液相の冷媒流量を減少させることができるため、各冷媒蒸発通路12a〜12fに液相の状態で流れ込む冷媒量が減少し、ひいては、冷媒凝縮通路13a〜13fでの気相化された冷媒の凝縮効率を上昇できるようになる。その結果、冷媒凝縮通路13a〜13fの容量を小さくすることができ、冷却装置10の更なるコンパクト化を達成することができる。
【0066】
また、本実施形態によってコンパクト化した冷却装置10を用いることで、車輪駆動用のモータ1を、タイヤホイールT・Wへ組み付けることが可能となり、かつ、そのモータ1を効率良く冷却することができるので、高負荷にも耐え得るモータ1を搭載したインホイールドライブ方式の車両を得ることができる。
【0067】
ところで、本実施形態では、上記リザーバタンク11は、図2に示したように各冷媒蒸発通路12a〜12fの形成位置よりも鉛直上方に配置することなく、それら冷媒蒸発通路12a〜12fの鉛直下方に配置してもよく、また、冷媒凝縮通路13a〜13fは任意の位置に設置することができる。さらに、リザーバタンク11を大気開放させてもよい。
【0068】
また、上記冷媒凝縮通路13a〜13fの通路部分は、それぞれを直管として図示したが、必ずしも直管である必要はなく、適宜湾曲させた管や蛇行させた管で形成することができる。さらに、冷媒蒸発通路12a〜12fは6本に限ることなく、その本数や位置はモータ1内で熱回収を効率良く達成できるように任意に設定することができる。
【0069】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図9は冷却装置を設けたモータの縦断面図である。
【0070】
本実施形態にかかる冷却装置10Aは、図9に示すように、基本的に第1実施形態の冷却装置10と同様の構成となり、リザーバタンク11と、ステータ4の内部に並列配置される複数(6本)の冷媒蒸発通路12a〜12fと、各冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通される複数(6本)の冷媒凝縮通路13a〜13fと、上流側逆止弁14を設けた冷媒供給通路15と、下流側逆止弁16を設けた冷媒還流通路17と、を備えて構成されている。
【0071】
そして、本実施形態が第1実施形態と主に異なる点は、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのうち、少なくとも1つの径を異ならせたことにある。
【0072】
本実施形態では、最も鉛直上方に位置する冷媒蒸発通路12aの径を、他の冷媒蒸発通路12b〜12fの径よりも大径としてある。このとき、他の冷媒蒸発通路12b〜12fはそれぞれ同径となっている。
【0073】
ここで、冷媒蒸発通路12a〜12fに温度T0の液相冷媒が満たされている場合に、その冷媒蒸発通路12a〜12fに熱量Hsが加えられて、飽和温度Tsubに達するまでの時間τは、
τ=(ρ・Cp・Ls・ΔTsub・A)/Hs…(6)
となる。
【0074】
ただし、ρ:液相冷媒密度、Cp:液相冷媒比熱、Ls:冷媒蒸発通路の長さ、ΔTsub=Tsub−T0、A:冷媒蒸発通路の断面積、Hs:印加熱量である。
【0075】
上記(6)式から断面積Aを変化させると、飽和温度Tsubに達するまでの時間、つまり、液相冷媒に蒸発が起こるまでの時間が変化することになる。
【0076】
したがって、本実施形態の冷却装置10Aによれば、鉛直最上方に位置する特定の冷媒蒸発通路12aは、他の冷媒蒸発通路12b〜12fに対して長さLsは等しいが、断面積Aが大きくなっているため、特定の冷媒蒸発通路12a内の冷媒は他の冷媒蒸発通路12b〜12fよりも蒸発が始まるまでの時間が遅くなる。
【0077】
したがって、このように冷媒蒸発通路12a〜12fの少なくとも1つの径を、冷媒蒸発通路12a〜12fの他の径と異ならせることにより、冷媒の流路系に積極的に振動流を発生させることができるようになり、冷媒凝縮通路13a〜13fでの凝縮効率をより向上させて、冷却装置10Aの更なるコンパクト化を達成することができる。
【0078】
(第3実施形態)
図10は本発明の第3実施形態を示し、上記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図10は冷却装置を設けたモータの縦断面図である。
【0079】
本実施形態の冷却装置10Bは、図10に示すように、基本的に第1実施形態の冷却装置10と同様の構成となり、リザーバタンク11と、ステータ4の内部に並列配置される複数(6本)の冷媒蒸発通路12a〜12fと、各冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通される複数(6本)の冷媒凝縮通路13a〜13fと、上流側逆止弁14を設けた冷媒供給通路15と、下流側逆止弁16を設けた冷媒還流通路17と、を備えて構成されている。
【0080】
そして、本実施形態が第1実施形態と主に異なる点は、前記複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのそれぞれの径Da〜Dfを、鉛直上方に位置するものほど大きくしたことにある。
【0081】
すなわち、本実施形態の冷却装置10Bは、図10に示すように、任意に設定した基準位置Bhからの冷媒蒸発通路12aの高さをH1、冷媒蒸発通路12b,12fの高さをH2、冷媒蒸発通路12c,12eの高さをH3、冷媒蒸発通路12dの高さをH4とした場合にH1>H2>H3>H4となっており、かつ、冷媒蒸発通路12aの径をDa、冷媒蒸発通路12b,12fの径をDb,Df、冷媒蒸発通路12c,12eの径をDc,De、冷媒蒸発通路12dの径をDdとした場合に、H1>H2>H3>H4であるので、Da>Db=Df>Dc=De>Ddとしてある。
【0082】
したがって、本実施形態では第2実施形態で示した(6)式中、断面積A(∝Da,Db,Dc,Dd,De,Df)が変化するため、鉛直上方に位置する冷媒蒸発通路程、液相冷媒の蒸発が起こるまでの時間が遅くなる。
【0083】
一方、冷媒蒸発通路12a〜12fの鉛直方向の高さが大きくなると位置水頭が変化するため、より低い位置にある冷媒蒸発通路12a〜12fに液相冷媒が流入し易くなる。
【0084】
このとき、第1実施形態で述べたように冷媒蒸発通路12a〜12fに振動流を起こさせる点からは冷媒流入量に差があることは望ましいが、その流入量の差が大きすぎると、モータ1の上部と下部で冷却性能に顕著な差が生じてしまうことになる。そこで、本実施形態では、より高い位置に在る冷媒蒸発通路12a〜12fの断面積を大きくすることで、各冷媒蒸発通路12a〜12fへの液相冷媒の流入量がほぼ均一となるようにしている。さらに、冷媒蒸発通路12a〜12fの断面積を変化させて冷媒が蒸発するまでの時間を変化させることにより、第1実施形態で述べた振動流を起こし易くしている。
【0085】
したがって、本実施形態の冷却装置10Bによれば、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのそれぞれの径Da〜Dfを、鉛直上方に位置するものほど大きくしたので、冷媒蒸発通路12a〜12fへの液相冷媒の流入量を均一化することができるとともに、冷媒蒸発通路12a〜12fの断面積を変えて蒸発するまでの時間を変化させることで振動流を発生させることができる。
【0086】
これによって、冷却装置10Bの流路系を流れる液相の冷媒流量を減少させることができるため、冷媒凝縮通路13a〜13fに液相の状態で流入する冷媒量が減り、もって、冷媒凝縮通路13a〜13fの凝縮効率が向上させることができる。その結果、冷媒凝縮通路13a〜13fの容量を小さくして、冷却装置10Bの更なるコンパクト化を図ることができる。
【0087】
(第4実施形態)
図11〜図14は本発明の第4実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図11は冷却装置を設けたモータの縦断面図、図12は図11中D−D線に沿った断面図である。
【0088】
本実施形態の冷却装置10Cは、図11,図12に示すように、基本的に第1実施形態の冷却装置10と同様の構成となり、リザーバタンク11と、ステータ4の内部に並列配置される複数(6本)の冷媒蒸発通路12a〜12fと、各冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通される複数(6本)の冷媒凝縮通路13a〜13fと、上流側逆止弁14を設けた冷媒供給通路15と、下流側逆止弁16を設けた冷媒還流通路17と、を備えて構成されている。
【0089】
そして、本実施形態が第1実施形態と主に異なる点は、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのうち、少なくとも1つの長さを異ならせたことにある。特に、本実施形態では、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fの長さLa〜Lfを異ならせるにあたって、それぞれの長さLa〜Lfを鉛直上方に位置するものほど長くなるようにしてある。
【0090】
すなわち、本実施形態の冷却装置10Cは、図11に示すように、任意に設定した基準位置Bhからの冷媒蒸発通路12aの高さをH1、冷媒蒸発通路12b,12fの高さをH2、冷媒蒸発通路12c,12eの高さをH3、冷媒蒸発通路12dの高さをH4とした場合にH1>H2>H3>H4となっているため、冷媒蒸発通路12aの長さ>冷媒蒸発通路12b,12fの長さ>冷媒蒸発通路12c,12eの長さ>冷媒蒸発通路12dの長さとなるようにしている。
【0091】
このとき、前記冷媒蒸発通路12a〜12fの長さを変化させるにあたって、図12に示すように、最長となる冷媒蒸発通路12aの長さは、ステータ4の長さ方向(図中左右方向)に蛇行して2往復する流路12a1〜12a4で形成し、次に長くなる冷媒蒸発通路12b,12fの長さは、ステータ4の長さ方向に蛇行して一往復半する流路12b1〜12b3および流路12f1〜12f3で形成し、次に長くなる冷媒蒸発通路12c,12eの長さは、ステータ4の長さ方向に折り返して一往復する流路12c1,12c2および流路12e1,12e2で形成するとともに、最も短くなる冷媒蒸発通路12dの長さは、ステータ4の長さ方向に形成したそれ自体(12d)で形成してある。
【0092】
したがって、鉛直最下方に位置する冷媒蒸発通路12dの長さに対して、高さH1の冷媒蒸発通路12aの長さは略4倍、高さH2の冷媒蒸発通路12b,12fの長さは略3倍、高さH3の冷媒蒸発通路12c,12eの長さは略2倍となっている。
【0093】
図13は図11中矢視E方向から見たモータの右側面図、図14は図11中矢視F方向から見たモータの左側面図であり、図13に示すように、冷媒供給通路15と各冷媒蒸発通路12a〜12fとを接続する分岐通路18a〜18fは、第1実施形態と同様に図中右側のエンドプレート5E1側に配置されるが、それら分岐通路18a〜18fのうち、分岐通路18aは上記冷媒蒸発通路12aの流路12a1に接続され、分岐通路18b,18fは冷媒蒸発通路12b,12fの流路12b1,12f1に接続され、分岐通路18c,18eは冷媒蒸発通路12c,12eの流路12c1,12e1に接続され、分岐通路18dは冷媒蒸発通路12dに接続される。
【0094】
一方、各冷媒蒸発通路12a〜12fと各冷媒凝縮通路13a〜13fとを接続する連通路19a〜19fのうち、連通路19a,19c,19eは図13に示すように図中右側のエンドプレート5E1側に配置されるとともに、連通路19b,19d,19fは図14に示すように図中左側のエンドプレート5E2側に配置される。
【0095】
そして、図13に示すように、連通路19aは冷媒蒸発通路12aの流路12a4に接続され、連通路19cは冷媒蒸発通路12cの流路12c2に接続され、連通路19eは冷媒蒸発通路2eの流路12e2に接続されるとともに、図14に示すように、連通路19bは冷媒蒸発通路12bの流路12b3に接続され、連通路19dは冷媒蒸発通路12dに接続され、連通路19fは冷媒蒸発通路12fの流路12f3に接続される。
【0096】
また、本実施形態では、複数の冷媒蒸発通路12b〜12fには、冷媒蒸発通路の位置が鉛直上方となるにつれて開口径が大きくなるオリフィス21b〜21fが設けられている。
【0097】
すなわち、図11に示すように、鉛直最上方に位置する冷媒蒸発通路12aを除いた残りの冷媒蒸発通路12b〜12fの入口部となるエンドプレート5E1近傍に、それぞれオリフィス21b〜21fが設けられ、それらオリフィス21b〜21fは冷媒蒸発通路の位置が鉛直上方となるにつれて開口径が大きくなるように設定される。
【0098】
このとき、冷媒蒸発通路12aの径>オリフィス21b,21fの開口径>オリフィス21c,21eの開口径>オリフィス21dの開口径となるように形成されている。
【0099】
したがって、本実施形態では第2実施形態で示した(6)式中、長さLsが変化するため、鉛直上方に位置する冷媒蒸発通路程、液相冷媒の蒸発が起こるまでの時間が遅くなる。
【0100】
一方、冷媒蒸発通路12a〜12fの鉛直方向の高さが大きくなると位置水頭が変化するため、より低い位置にある冷媒蒸発通路12a〜12fに液相冷媒が流入し易くなる。
【0101】
このとき、第1実施形態で述べたように冷媒蒸発通路12a〜12fに振動流を起こさせる点からは冷媒流入量に差があることは望ましいが、その流入量の差が大きすぎると、モータ1の上部と下部で冷却性能に顕著な差が生じてしまうことになる。そこで、本実施形態ではより高い位置に在る冷媒蒸発通路12a〜12fの通路面積が大きく、つまり、冷媒蒸発通路12aの径>オリフィス21b,21fの開口径>オリフィス21c,21eの開口径>オリフィス21dの開口径となるように形成してあるので、各冷媒蒸発通路12a〜12fへの液相冷媒の流入量がほぼ均一になるとともに、冷媒蒸発通路12a〜12fの通路面積を変化させて冷媒が蒸発するまでの時間を変化させることにより、第1実施形態で述べた振動流を起こし易くしている。
【0102】
したがって、本実施形態の冷却装置10Cによれば、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのうち、少なくとも1つの長さを異ならせたので、その長さを異ならせた冷媒蒸発通路12a〜12f内で液相冷媒が蒸発するまでに要する時間を変化させることができるため、第1実施形態に示したように冷媒蒸発通路12a〜12f内に振動流を発生させて、冷媒凝縮通路13a〜13fでの凝縮効率を向上し、冷却装置10Cのコンパクト化を達成することができる。
【0103】
また、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fの長さを異ならせるにあたって、それぞれの長さを鉛直上方に位置するものほど長くしたので、それぞれの長さの変化により液相冷媒が蒸発するまでの時間を変化させて振動流を効率良く発生させることができる。
【0104】
さらに、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fには、鉛直上方に位置するにしたがって開口径が大きくなるオリフィス21b〜21fを設けたので、位置水頭の差によって、より低い位置にある冷媒蒸発通路12a〜12fに液相冷媒が流入し易くなるが、鉛直上方に位置するにしたがって冷媒蒸発通路12a〜12fの通路面積を大きくすることにより、各冷媒蒸発通路12a〜12fへの液相冷媒の流入量をほぼ均一にするとともに、冷媒蒸発通路12a〜12fの通路面積を変化させて冷媒が蒸発するまでの時間を変化させ、振動流をより起こし易くすることができる。
【0105】
なお、本実施形態では鉛直最上方に位置する冷媒蒸発通路12aにはオリフィスを除外してあるが、その冷媒蒸発通路12aには、冷媒蒸発通路12b,12fに設けたオリフィス21b,21fの開口径よりも大径の開口径を設けたオリフィスを設けてもよい。
【0106】
(第5実施形態)
図15,図16は本発明の第5実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図15は冷却装置を設けたモータの縦断面図、図16は図15中矢視Gから見たモータの右側面図である。
【0107】
本実施形態の冷却装置10Dは、図15に示すように、基本的に第1実施形態の冷却装置10と同様の構成となり、リザーバタンク11と、ステータ4の内部に並列配置される複数(6本)の冷媒蒸発通路12a〜12fと、各冷媒蒸発通路12a〜12fの下流側にそれぞれ連通される複数(6本)の冷媒凝縮通路13a〜13fと、上流側逆止弁14を設けた冷媒供給通路15と、下流側逆止弁16を設けた冷媒還流通路17と、を備えて構成されている。
【0108】
そして、本実施形態が第1実施形態と主に異なる点は、複数の冷媒蒸発通路12a〜12fのそれぞれの上流側に冷媒冷却通路22a〜22fを設けたことにある。
【0109】
前記冷媒蒸発通路12a〜12fは分岐通路18a〜18fを介して冷媒供給通路15に接続されるが、本実施形態では上記分岐通路18a〜18fと冷媒供給通路15との間に前記冷媒冷却通路22a〜22fが介在されており、それら冷媒冷却通路22a〜22fは、それぞれ対応する分岐通路18a〜18fの上流側に連通される。
【0110】
上記冷媒冷却通路22a〜22fは、前記冷媒凝縮通路13a〜13fと同様に、通路となる配管の外周に多数のフィンを設けるなどして構成され、それらフィンを介して外気と通路内の冷媒との熱交換を図るようになっている。
【0111】
したがって、本実施形態では冷媒蒸発通路12a〜12fには、冷媒冷却通路22a〜22fによって冷却された液相冷媒が供給されるため、第2実施形態で示した(6)式中、ΔTsub(=Tsub−T0)が大きくなる。これによって、第1実施形態で述べた振動流が持続する時間が延び、冷媒蒸発通路12a〜12fに液相冷媒を流入させる流量を、第1実施形態に比べてさらに小さくすることができる。
【0112】
その結果、本実施形態の冷却装置10Dによって冷媒冷却通路22a〜22fを新たに加えた場合でも、冷媒凝縮通路13a〜13fと冷媒冷却通路22a〜22fとを全て加算した総面積を、第1実施形態の冷却装置10に設けた冷媒凝縮通路13a〜13fの総面積以下とすることができ、冷却装置10Dのコンパクト化をさらに促進することができる。
【0113】
ところで、本発明のモータの冷却装置は前記第1〜第5実施形態に例をとって説明したが、これら実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができ、例えば、モータ1はインホイールドライブ方式の電気自動車に用いられる場合に限ることなく、通常のモータにあっても本発明の冷却装置を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるインホイールドライブ方式としてモータの組み込み状態を示すタイヤホイールの斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる冷却装置を設けたモータの縦断面図。
【図3】図2中A−A線に沿った断面図。
【図4】図2中矢視B方向から見たモータの右側面図。
【図5】図2中矢視C方向から見たモータの左側面図。
【図6】(a)に本発明の冷却装置および(b)に本発明と比較する冷却装置をそれぞれ簡略化して示す概略図。
【図7】図6(a)に示す冷却装置の冷媒蒸発通路内温度、圧力および冷媒供給通路内流量の時間履歴をそれぞれグラフで示す説明図。
【図8】図6(b)に示す冷却装置の冷媒蒸発通路内温度、圧力および冷媒供給通路内流量の時間履歴をそれぞれグラフで示す説明図。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる冷却装置を設けたモータの縦断面図。
【図10】本発明の第3実施形態にかかる冷却装置を設けたモータの縦断面図。
【図11】本発明の第4実施形態にかかる冷却装置を設けたモータの縦断面図。
【図12】図11中D−D線に沿った断面図。
【図13】図11中矢視E方向から見たモータの右側面図。
【図14】図11中矢視F方向から見たモータの左側面図。
【図15】本発明の第5実施形態にかかる冷却装置を設けたモータの縦断面図。
【図16】図15中矢視Gから見たモータの右側面図。
【符号の説明】
【0115】
1 モータ
2 回転軸
3 ロータ
4 ステータ(発熱部)
5 ハウジング
10,10A,10B,10C,10D 冷却装置
11 リザーバタンク
12a〜12f 冷媒蒸発通路
13a〜13f 冷媒凝縮通路
14 逆止弁(第1の逆止弁)
15 冷媒供給通路
16 逆止弁(第2の逆止弁)
17 冷媒還流通路
21b〜21f オリフィス
22a〜22f 冷媒冷却通路
W・A 車輪アクスル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸に結合されたロータと、このロータの外周を囲繞するステータと、を備えたモータであって、
モータの発熱で液相から気相に変化する冷媒を溜めたリザーバタンクと、
モータの発熱部に並列配置される複数の冷媒蒸発通路と、
前記複数の冷媒蒸発通路の下流側にそれぞれ連通されて低温部に配置される複数の冷媒凝縮通路と、
前記リザーバタンク内の冷媒を第1の逆止弁を介して前記複数の冷媒蒸発通路に分配して供給する冷媒供給通路と、
前記複数の冷媒凝縮通路を通過した冷媒を集合させて第2の逆止弁を介して前記リザーバタンクに戻す冷媒還流通路と、を備えたことを特徴とするモータの冷却装置。
【請求項2】
前記複数の冷媒蒸発通路のうち、少なくとも1つの径を異ならせたことを特徴とする請求項1に記載のモータの冷却装置。
【請求項3】
前記複数の冷媒蒸発通路は、それぞれの径を鉛直上方に位置するものほど大きくしたことを特徴とする請求項1に記載のモータの冷却装置。
【請求項4】
前記複数の冷媒蒸発通路のうち、少なくとも1つの長さを異ならせたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のモータの冷却装置。
【請求項5】
前記複数の冷媒蒸発通路は、それぞれの長さを鉛直上方に位置するものほど長くしたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のモータの冷却装置。
【請求項6】
複数の冷媒蒸発通路は、鉛直上方に位置するにしたがって開口径が大きくなるオリフィスが設けられたことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のモータの冷却装置。
【請求項7】
複数の冷媒蒸発通路は、それぞれの上流側に冷媒冷却通路を設けたことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のモータの冷却装置。
【請求項8】
回転軸と、この回転軸に結合されたロータと、このロータの外周を囲繞するステータと、を備えたモータであって、
リザーバタンクに溜めた冷媒を、第1の逆止弁を介してモータの発熱部に並列配置した複数の冷媒蒸発通路に分配して供給した後、それら複数の冷媒蒸発通路を通過した冷媒を、各冷媒蒸発通路の下流側にそれぞれ設けた冷媒凝縮通路に導入し、それら複数の冷媒凝縮通路を通過した冷媒を集合した後、第2の逆止弁を介して前記リザーバタンクに戻すことを特徴とするモータの冷却方法。
【請求項9】
モータの発熱で液相から気相に変化する冷媒を溜めたリザーバタンクと、
モータの発熱部に並列配置される複数の冷媒蒸発通路と、
前記複数の冷媒蒸発通路の下流側にそれぞれ連通されて低温部に配置される複数の冷媒凝縮通路と、
前記リザーバタンク内の冷媒を第1の逆止弁を介して前記複数の冷媒蒸発通路に分配して供給する冷媒供給通路と、
前記複数の冷媒凝縮通路を通過した冷媒を集合させて第2の逆止弁を介して前記リザーバタンクに戻す冷媒還流通路と、を備えた冷却装置をモータに設け、当該モータをタイヤホイールの中に組み込んだことを特徴とする冷却装置付きモータを搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−38940(P2009−38940A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202999(P2007−202999)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】