説明

モーター、ロボットハンドおよびロボット

【課題】モーターの用途に最適なモーター出力(トルク)とトルクリップルのバランスを容易に調整することができるモーターを提供する。
【解決手段】円柱形状の回転体と、回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する基体と、前記回転体の外周に対向配置される円筒形状のステーターと、を備え、前記回転体は円周方向にN極とS極とが交互に配置される磁石を有し、前記ステーターは空芯巻線を複数有し、前記空芯巻線は、前記回転体の回転方向に直交する第1配線、および第2配線と、前記回転体の回転方向に延伸する第3配線、および第4配線と、前記第1、第2、第3および第4配線の各配線端部を繋ぎ、8角形形状の斜辺を形成する4つの第5配線と、を有し、前記空芯巻線が、前記磁石の磁極の幅に相当する幅をa、相数をm(m:3以上の整数)とした場合に、前記空芯巻線の中心間の間隔がa/mで配置されるモーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター、ロボットハンドおよびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
小型の直流モーターとして空芯巻線を用いたコアレスモーターが広く用いられている。この空芯巻線を矩形状に形成し、永久磁石を備える回転子の周囲に配置するモーターが提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1に開示されている空芯巻線を備えるコアレスモーターでは、モーター出力の発生トルクを大きくすることができるが、空芯巻線が回転子に備える磁石の磁極境界近傍においては出力が大きく低下する、トルクリップルが発生してしまい、安定したトルクを得ることが困難であった。
【0003】
この課題を解決するため、空芯巻線の形状をひし形として、対向する磁石面を斜めに横切る巻線部を備えることで、トルクリップルを解消したモーターが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−236123号公報
【特許文献2】特開2007−124892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献2では、トルクリップルの解消を得ることができるが、モーター出力(トルク)を大きくすることが困難という課題が有った。
【0006】
そこで、モーターの用途に最適なモーター出力(トルク)とトルクリップルのバランスを容易に調整することができるモーターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0008】
〔適用例1〕本適用例によるモーターは、円柱形状の回転体と、前記回転体の中心軸方向に延設される回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する基体と、前記回転体の外周に対向配置される円筒形状のステーターと、を備え、前記回転体は、円柱外周部に円周方向にN極とS極とが交互に配置される磁石を有し、前記ステーターは、前記円筒部に内周領域が空芯の空芯巻線を複数有し、前記空芯巻線は、前記回転体の回転方向に直交する第1配線、および第2配線と、前記回転体の回転方向に延伸する第3配線、および第4配線と、
前記第1、第2、第3および第4配線の各配線端部を繋ぎ、8角形形状の斜辺を形成する4つの第5配線と、を有し、前記空芯巻線が、前記磁石の回転方向の磁極の幅に相当する幅をa、前記回転体を駆動する前記空芯巻線に流す電流の相数をm(m:3以上の整数)とした場合に、隣り合う前記空芯巻線の中心間の間隔がa/mで配置されることを特徴とする。
【0009】
上述の適用例によれば、回転体の回転方向に対して斜めに配置される第5配線が、回転体の回転に伴って緩やかに回転力を変動させ、第1配線および第2配線が磁極境界を通過する際に発生するリップル(急激な回転力低下)を小さくすることができる。更に、空芯巻線をa/mの間隔で配置することにより、一つの空芯巻線の第5配線により回転力が低下する時に、他の空芯巻線の第5配線の回転力は回復するようになる。このため、モーターの回転トルクにおけるトルクリップルが小さく、またトルク変動の少ないコアレスモーターを得ることができる。
【0010】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記空芯巻線は点対称の8角形形状を備え、前記磁石の磁極数を2n(n:1以上の整数)、とした場合、前記空芯巻線を2nm個もしくはnm個備え、前記第3配線および前記第4配線の延伸長さLAを、
A=a×(m−2)/m
とすることを特徴とする。
【0011】
上述の適用例によれば、一つの空芯巻線の第1配線および第2配線が、リップルを発生させる磁極境界上を通過するときであっても、他の空芯巻線においては最大トルクを発生させる位置にあるため、回転体としてリップルによる回転力低下を抑制することができる。
【0012】
〔適用例3〕上述の適用例において、前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
B=b/2
とすることを特徴とする。
【0013】
上述の適用例によれば、回転トルクとトルクリップルとのバランスが取れた性能のモーターを得ることができる。
【0014】
〔適用例4〕上述の適用例において、前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
0<LB<b/2
とすること特徴とする。
【0015】
上述の適用例によれば、トルクリップルを抑制したモーターを得ることができる。
【0016】
〔適用例5〕上述の適用例において、前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
b/2<LB<b
とすることを特徴とする。
【0017】
上述の適用例によれば、大きな回転トルクを備えたモーターを得ることができる。
【0018】
〔適用例6〕本適用例のロボットハンドは、上述の適用例に記載のモーターを備える。
【0019】
本適用例によるロボットハンドは、小型のコアレスモーターを用いることで、汎用性が高く、複雑な電子機器の組み立て作業や検査等が可能なロボットに適用することができる。
【0020】
〔適用例7〕本適用例のロボットは、上述の適用例に記載のロボットハンドを備える。
【0021】
本適用例によるロボットによれば、汎用性が高く、複雑な電子機器の組み立て作業や検査等を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係るモーターの、(a)は分解斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)に示すA−A´部の断面図。
【図2】第1実施形態に係るモーターの動作を説明する概略図。
【図3】第1実施形態に係るモーターの動作を説明する模式図。
【図4】第1実施形態に係るモーターの回転力変動を説明する図。
【図5】第1実施形態に係るモーターの、空芯巻線相数におけるその他の例を示す概略図。
【図6】第2実施形態に係るロボットハンドを示す外観図。
【図7】第3実施形態に係るロボットを示す外観図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係るモーター100を示す、(a)は分解斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)に示すA−A´部の断面図、である。図1(a)および(b)に示すように、モーター100は円柱状の回転体10が、回転体10の回転軸方向に延伸させた回転軸20に固定された回転子30を有している。この回転子30は、回転軸20をボールベアリングなどの軸受60aを介して回転可能に基体61,62に支持されている。
【0025】
回転体10の外周部を囲うように、空芯巻線40を巻線固定枠51に固定したステーター50が配置されている。回転体10は、円柱状の回転基体11の周囲に永久磁石12(以後、磁石12という)を複数固着させた形態となっている。なお、回転基体11を用いず磁石12を直接回転軸20に固着させ、回転子30を構成しても良い。
【0026】
ステーター50は図1(c)に示すように、複数の空芯巻線40は一部が重なるように巻線固定枠51の外周に固定されている。また、図1(b)に示すように基体61,62のどちらか一方、もしくは両方には回転子30の回転位置を検出する回転位置センサー60bと、回転位置センサー60bからの回転子30の回転位置検出信号を受け、空芯巻線40へ流す電流を制御する制御回路60cと、を備えている。
【0027】
このように構成されたモーター100では、制御回路60cによって各々の空芯巻線40に対して所定の方向、量の電流を流すことにより、フレミング左手の法則により空芯巻線40に生じるローレンツ力(以下、「回転力」という)の反力として回転体10の磁石12に力が生じて回転子30が回転する。図2は空芯巻線40と回転体10の磁石12との関係を示す図であり、説明の便宜上、磁石12の磁極面を平面に展開し、空芯巻線40を配置した模式図である。
【0028】
図2(a)は、1個の空芯巻線40を取り出し、磁石12の磁極との関係を説明する模式図である。図2(a)に示すように、空芯巻線40は自己融着エナメル線を複数回巻いて形成され、磁石12はN極、S極を回転方向に交互に配置されている。図2(a)では、空芯巻線40は3回巻きの形態であるが、これに限定されず要求されるモーター100の性能によって、適宜巻き数を決定すれば良い。
【0029】
空芯巻線40は、磁石12の矢印で示す回転方向に対して直交する方向に延伸される第1配線C1および第2配線C2と、回転方向に延伸される第3配線C3および第4配線C4と、を有する。
【0030】
各配線C1,C2,C3,C4を繋ぎ、空芯巻線40を8角形に形成する4カ所の第5配線C51,C52,C53,C54と、を有している。図2(c)に示すように、このような配線により形成される空芯巻線40の回転方向の幅Wは、磁石12の磁極の幅aと略同じとなるように形成される。また、空芯巻線40の一方の端部40aと他方の端部40bとは制御回路60cに接続され、制御回路60cから直流電流が供給される。
【0031】
例えば、制御回路60cから、端部40aにプラス(+)、端部40bにマイナス(−)の直流電流が投入されると、空芯巻線40には、図示矢印方向の電流Iが流れる。この電流Iの流れによって、図示する磁石12の磁極に対応した回転力が発生する。図2(a)では、第1配線C1には磁石12のN極が対向しているのでフレミング左手の法則によって図示右方向F5の力が発生する。第2配線C2にはS極が対向しているが、第1配線C1とは逆方向の電流の向きとなり、第1配線C1と同じ方向のF6の力が発生する。
【0032】
磁石12のN極に対向する第5配線C51,C52では磁石12の回転方向に対して斜め方向のF1,F2の力が発生する。同様に、S極に対向する第5配線C53,C54でも、磁石12の回転方向に対して斜め方向のF3,F4の力が発生する。この発生した力F1,F2,F3,F4はそれぞれ、図2(b)に示すように、F1,F3の回転方向の力成分F1x,F3xと回転方向の垂直方向の力成分F1y,F3yに分解でき、F2,F4の回転方向の力成分F2x,F4xと回転方向の垂直方向の力成分F2y,F4yに分解できる。垂直方向の力成分F1y,F2y,F3y,F4yは磁石12を備える回転体10の回転には寄与しない力成分であり、回転方向の力成分F1x,F2x,F3x,F4xが回転体10の回転に寄与する力成分となり、第5配線C51,C52,C53,C54に発生する回転方向の力成分F1x,F2x,F3x,F4xのいずれもが図示右方向に向かっている。
【0033】
空芯巻線40は固定されていることから、空芯巻線40の第1配線C1と第2配線C2に発生する回転力fLと、第5配線C51,C52,C53,C54に発生する回転力fL´の磁石12の回転方向成分fLh´´と、の反力が磁石12に作用し、磁石12を備える回転体10は矢印R方向、すなわち図示における左方向に回転する。
【0034】
このように回転体10を回転させる力を、空芯巻線40に対向する磁石12の磁極に応じて、制御回路60cが図1に示した回転位置センサー60bの検出信号に基づく電流を投入し、回転体10を所定の回転方向に回転させることができる。
【0035】
図2(c)は、複数の空芯巻線40の磁石12に対する配置を説明する概念図である。本例では、3相の駆動配線を例に説明する。図2(c)に示すように、空芯巻線40の磁石12の回転方向の幅Wは、磁極の幅aと略同じに設定される。すなわち、第1配線C1が磁極の境界に位置する時、第2配線C2も磁極境界に位置するように空芯巻線40は形成される。隣り合う空芯巻線40の第1配線C1同士、もしくは第2配線C2同士との間隔Dが、磁石12の磁極の幅aの中に、
D≒a/3
となるように空芯巻線40は配置されている。
【0036】
このように配置されるモーター100に備える空芯巻線40の総数は、回転体10に備える磁石12の磁極数を2n(n:1以上の整数)、駆動相数をm(m:3以上の整数)とした場合、空芯巻線40の数は「2n×m」個または「n×m」個を備える。本実施形態に係るモーター100においては磁極数が4、駆動相数が3であり、空芯巻線40は12個備える形態となる。なお、空芯巻線40の数はこれに限定されず、上述の通りモーター100に所定の要求性能を備えさせる磁極数、駆動相数により適宜、決定される。
【0037】
また、空芯巻線40における磁石12の回転方向に延伸される第3配線C3および第4配線C4の延伸長さをLAとした場合、
A=a×(m−2)/m
に設定される。本例における駆動相数m=3の場合には、LA=a/3となる。このように第3配線C3および第4配線C4の延伸長さLAを設定することにより、磁石12の回転方向に対向する第5配線C51と第5配線C54とに発生する回転力に相殺する力の発生を抑制し、第5配線C52と第5配線C53とに発生する回転力に相殺する力の発生を抑制することができる。
【0038】
ここで、図2(a)でも説明した本実施形態に係るモーター100が備える空芯巻線40に発生する回転力について、更に詳細に説明する。図3は空芯巻線40と磁石12を模式化した図である。
【0039】
図3(a)は、空芯巻線40の第3配線C3および第4配線C4の範囲に磁石12の磁極境界がある場合に空芯巻線40に働く回転力を表わした模式図である。図3(a)に示すように、矢印方向に電流Iが流れた場合の、各配線に発生する回転力F1,F2,F3,F4,F5,F6は次のように求められる。
【0040】
次に示す式において、aは磁石12の回転方向の磁極の幅、bは磁石12の回転方向に直交する方向の幅、LBは空芯巻線40の第1配線C1および第2配線C2の延伸長さ、cは第5配線C51,C52,C53,C54の延伸長さ、θは第5配線C51,C52,C53,C54の図示垂線に対する角度、F1x,F2x,F3x,F4xはF1,F2,F3,F4の磁石12の回転方向の力成分、Fは空芯巻線40の磁石12の回転方向の回転力の総和を示す。
【0041】
回転力の総和Fは、
F=F1x+F2x+F3x+F4x+F5+F6 (式1)
となるが、空芯巻線40は中心線に対して対称であることが好ましく、従って、
F1=F2=F3=F4,F5=F6 (式2)
の関係となり、よって、
F=4×F1x+2×F5=4×F1×cosθ+2×F5 (式3)
となる。ここで、
F1=B×c×I,F5=B×LB×I (B:磁束密度) (式4)
により求められるので、
F=4×B×c×I×cosθ+2×B×LB×I
=2×B×I×(2×c×cosθ+LB) (式5)
となる。また、
cosθ=(b−LB)/(2×c) (式6)
と求められるので、式5に代入すると、
F=2×B×b×I (式7)
となる。これにより、空芯巻線40の磁石12の回転方向の回転力の総和Fが求められる。
【0042】
図3(b)は、空芯巻線40の第5配線C51,C52,C53,C54の範囲に磁石12の磁極境界がある場合に、空芯巻線40に働く回転力を表わした模式図である。図3(b)に示すように、空芯巻線40の中心と磁極境界との距離をXとし、矢印方向に電流Iが流れた場合の、各配線に発生する回転力F1,F2,F3,F4,F5,F6は次のように求められる。
【0043】
第5配線C51,C52においては、磁極境界から異なる磁極に対向する延伸長さc´部においては逆方向に力が発生する。従って、F1,F2の回転方向の力成分F1x,F2xは、
F1x=F2x=B×I×(c−c´)×cosθ−B×I×c´×cosθ
=B×I×(c−2×c´)×cosθ
=B×I×c×cosθ−2×B×I×c´×cosθ (式8)
と求められる。すなわち、式7より、逆方向の力分である「2×B×I×c´×cosθ」を減ずればよい。すなわち、
F=2×B×b×I−2×{2×B×I×c´×cosθ} (式9)
となる。ここで、図3(b)より、
c´cosθ={(b−LB)/2}×{3×(X−a/6)/a} (式10)
と表わされ、式9に代入すると、
F=2×B×b×I
−4×B×I×{(b−LB)/2}×{3×(X−a/6)/a} (式11)
と求められる。すなわち空芯巻線40の磁極境界からの距離Xに比例し回転力F、すなわち磁石12の回転力が減少してゆく。
【0044】
式11から、X=a/2の場合、すなわち磁極境界に第1配線C1と第2配線C2が重なる状態の回転力の総和Fは、
F=2×B×LB×I (式12)
となる。しかし、X=a/2においては第1配線C1と第2配線C2とが磁極境界と重なる位置であり、磁極境界における磁束密度BはB=0となるので、式11においてB=0となるので、F=0となる。よって、式12はX≒a/2の状態における回転力Fであるといえる。
【0045】
以上、説明したように空芯巻線40と磁石12の磁極との位置によって、第5配線C51,C52,C53,C54に発生する回転力は変化する。図4は、空芯巻線40が磁石12の回転によって回転力Fの変動を表わした図である。図4(a)に示す、磁石12と第1相空芯巻線41、第2相空芯巻線42、第3相空芯巻線43の配置において、矢印P方向が回転力Fの方向であり、その反力として矢印Q方向に磁石12を備える回転体10が回転することを示している。
【0046】
図4(a)は、3相の空芯巻線41,42,43のうち第1相空芯巻線41を例に、第1相空芯巻線41の相対移動位置における回転力を示したものである。図4(a)の図示上図に示す磁石12の磁極に対して、第1相空芯巻線41は相対的に矢印Pへ移動する。図示では第1相空芯巻線41の中心と磁極中心とが対向する位置を基準として説明する。
【0047】
基準位置では、第1相空芯巻線41の第1、第2配線は磁極境界に対向しているため、上述の通り回転力は発生しない(p1)。ここから、相対的にP方向に第1相空芯巻線41が移動し始めると式12に示すF=2×B×LB×Iの回転力が発生する(p2)。更に、相対的にP方向に第1相空芯巻線41が磁極幅aに対してa/3移動するまで、すなわち式11におけるXがa/2<X<5a/6の範囲で変化し、回転力F=2×B×LB×Iから移動量に比例して増加する。そして、X=5a/6において回転力Fは式7のF=2×B×b×Iの値となり(p3)、相対的にP方向に第1相空芯巻線41が磁極幅aに対して2a/3移動するまで、その回転力Fがp3からp4まで維持される。
【0048】
次に、相対的にP方向に第1相空芯巻線41が磁極幅aに対して2a/3移動を超えて移動する、すなわち式11においてXがa/6<X<a/2の範囲で変化し、回転力F=2×B×b×Iから移動量に比例して減少する。そして、X≒a/2において回転力Fは式12のF=2×B×LB×Iの値(p5)となり、X=a/2において回転力F=0となる(p6)。以上を繰り返す動作によって、磁石12を回転させる。このように、最大回転力Fが維持されるp3からp4の回転力に対して、回転力が変動するp1〜p3およびp4〜p6が、いわゆるリップルと呼ばれ、モーター100の回転トルクを変動させるものである。
【0049】
本実施形態における3相駆動のモーター100では、磁極の幅aに対してa/3ずつ配置をずらして、図4(a)に示すように第1相空芯巻線41、第2相空芯巻線42、第3相空芯巻線43が配置される。それぞれの、回転力Fは上述の第1相空芯巻線41で説明した変動と同じであるので、図4(b)に示すように回転力は磁石12の位置に対してa/3ずれて発生する。モーター100の回転力は、これら第1相空芯巻線41、第2相空芯巻線42、第3相空芯巻線43の回転力を合成して得られるものであり、図4(c)のような回転力変動となる。
【0050】
図4(c)に示すように、1相の空芯巻線が最大回転力を発生している場合には、他の2相の空芯巻線は回転力が変動するp1〜p3またはp4〜p6に有って、互いの増減によって式12の回転力F=2×B×LB×Iを得ることができる。また、1相の空芯巻線が回転力を発生しないp0(p6)にあっても、他の2相の空芯巻線がp3もしくはp4の最大回転力を発生している位置にあり、F=4×B×b×Iの回転力を得ることができる。また、p0あるいはp6の回転力=0となる時間は極めて短く、よって回転力の変動(リップル)のない回転力を得ることができ、なお且つ高出力のコアレスモーターを得ることができる。
【0051】
上述した本実施形態に係るモーター100の回転力Fは、3相駆動巻線を備える形態を例示したが、これに限定はされない。例えば、4相駆動巻線の場合について、説明する。図5(a)は4相駆動巻線の空芯巻線40Aを磁極の幅aの中に配置した概略図である。駆動相数=mとした場合、磁極の幅aの中には隣り合う空芯巻線40Aとはa/mの間隔、すなわち4相駆動の場合にはa/4の間隔をおいて位置される。上述の3相駆動の場合の図4で説明したとおり、本発明は、個々の空芯巻線40の回転力のリップルの発生ポイント、特に第1配線C1、第2配線C2が磁極境界と対向する位置で回転力を発生しないときに他の空芯巻線40のいずれかが回転力の最大値を発生するように配置、すなわち、第3配線C3、第4配線C4が磁極境界と対向している状態にあるように配置される。
【0052】
このように配置させるために、第5配線C51,C52,C53,C54の第3配線C3,第4配線C4上における基点位置を、図5(a)に示すように磁石の回転方向で、第1配線C1、第2配線C2からa/m=a/4とする。従って、第3配線C3、第4配線C4の延伸長さLAは、
A=a−2×a/m=(am−2a)/m=a×(m−2)/m (式13)
で求めることができ、4相駆動の場合にはLA=a×2/4となる。
【0053】
同様に、5相駆動の場合には式13においてm=5であり、LA=a×3/5となるので、空芯巻線40Bの第5配線C51,C52,C53,C54の第3配線C3,第4配線C4上における基点位置は、図5(b)に示すように磁石の回転方向で、第1配線C1、第2配線C2からa/m=a/5となり、第3配線C3、第4配線C4の延伸長さLAは、LA=a×3/5と設定される。このように、駆動相数によって空芯巻線の第3配線C3,第4配線C4の延伸長さを式13に基づいて設定することができる。
【0054】
上述の本実施形態に係るモーター100における、回転力リップルを抑制する作用を図4に基づいて説明したが、特に図4(c)に示す各駆動巻線の回転力を合成したモーター100の合成力は、最大の回転力が、
F=4×B×b×I+2×B×LB×I (式14)
であり、最小の回転力であるリップル領域において、
F=4×B×b×I (式15)
である。
【0055】
ここで、LBを0<LB<bの範囲でモーター100の総回転力Fとリップルの関係を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、LB≒0(表1においてはLB=0を参照)、すなわちLBが限り無く0に近い値の場合、式14においてF≒4×B×b×Iとなり、式15と同じ値を得ることができる。このことは、LBを小さくすることによって、リップルの発生をより小さくし、変動の少ない回転を得ることができるモーター100にすることができる。
【0058】
反対に、LB≒b(表1においてはLB=bを参照)、すなわちLBが限り無くbに近い値の場合、式14においてF≒6×B×b×Iとなり、大きな回転力を備えるモーター100を得ることができる。
【0059】
また、LB=2b/4=b/2においては、回転力とリップルのバランスが取れたモーター100を得ることができる。このようにLBを変化させるだけで、リップルを許容しながらも大きな回転力を必要とするモーターも、リップルを略発生させないスムースな回転力を必要とするモーターも、得ることができる応用範囲の広いモーター設計を可能とするものである。
【0060】
(第2実施形態)
図6は、本実施形態のモーター100を備えるロボットハンド1000の構成を示す図である。ロボットハンド1000は、基部1100と、基部1100に接続された指部1200とを備えている。基部1100と指部1200との接続部と、指部1200の間接部とには、モーター100が設けられている。モーター100が駆動することによって、指部1200が屈曲し、物体を把持することができる。超小型モーターであるモーター100を用いることによって、小型でありながら多数のモーターを備えるロボットハンドを実現することができる。
【0061】
(第3実施形態)
図7は、ロボットハンド1000を備えるロボット2000の構成を示す図である。ロボット2000は、本体部2100、アーム部2200およびロボットハンド1000等から構成されている。本体部2100は、例えば床、壁、天井、移動可能な台車の上などに固定される。アーム部2200は、本体部2100に対して可動に設けられており、本体部2100にはアーム部2200を回転させるための動力を発生させる図示しないアクチュエーターや、アクチュエーターを制御する制御部等が内蔵されている。
【0062】
アーム部2200は、第1フレーム2210、第2フレーム2220、第3フレーム2230、第4フレーム2240および第5フレーム2250から構成されている。第1フレーム2210は、回転屈折軸を介して、本体部2100に回転可能または屈折可能に接続されている。第2フレーム2220は、回転屈折軸を介して、第1フレーム2210および第3フレーム2230に接続されている。第3フレーム2230は、回転屈折軸を介して、第2フレーム2220および第4フレーム2240に接続されている。第4フレーム2240は、回転屈折軸を介して、第3フレーム2230および第5フレーム2250に接続されている。第5フレーム2250は、回転屈折軸を介して、第4フレーム2240に接続されている。アーム部2200は、制御部の制御によって、各フレーム2210〜2250が各回転屈折軸を中心に複合的に回転または屈折し動く。
【0063】
アーム部2200の第5フレーム2250のうち第4フレーム2240が設けられた他方には、ロボットハンド1000が取り付けられており、対象物を把持することができる。
ロボットハンド1000を用いることによって、汎用性が高く、複雑な電子機器の組み立て作業や検査等が可能なロボットを提供することができる。
また、本例に限定されず双腕ロボットのロボットハンドにも適用することができる。
【0064】
以上のように実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、モーター、ロボットハンドおよびロボットの構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10…回転体、20…回転軸、30…回転子、40…空芯巻線、50…ステーター、61,62…基体、100…モーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状の回転体と、
前記回転体の中心軸方向に延設される回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する基体と、
前記回転体の外周に対向配置される円筒形状のステーターと、を備え、
前記回転体は、円柱外周部に円周方向にN極とS極とが交互に配置される磁石を有し、
前記ステーターは、前記円筒部に内周領域が空芯の空芯巻線を複数有し、
前記空芯巻線は、
前記回転体の回転方向に直交する第1配線、および第2配線と、
前記回転体の回転方向に延伸する第3配線、および第4配線と、
前記第1、第2、第3および第4配線の各配線端部を繋ぎ、8角形形状の斜辺を形成する4つの第5配線と、を有し、
前記空芯巻線が、前記磁石の回転方向の磁極の幅に相当する幅をa、前記回転体を駆動する前記空芯巻線に流す電流の相数をm(m:3以上の整数)とした場合に、隣り合う前記空芯巻線の中心間の間隔がa/mで配置される、
ことを特徴とするモーター。
【請求項2】
前記空芯巻線は点対称の8角形形状を備え、
前記磁石の磁極数を2n(n:1以上の整数)、とした場合、前記空芯巻線を2nm個もしくはnm個備え、前記第3配線および前記第4配線の延伸長さLAを、
A=a×(m−2)/m
とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のモーター。
【請求項3】
前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
B=b/2
とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のモーター。
【請求項4】
前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
0<LB<b/2
とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のモーター。
【請求項5】
前記空芯巻線の前記第1配線および前記第2配線の長さをLBとした場合、前記磁石の軸方向の幅をbとした場合、
b/2<LB<b
とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のモーター。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のモーターを備える、
ことを特徴とするロボットハンド。
【請求項7】
請求項6に記載のロボットハンドを備える、
ことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−161128(P2012−161128A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17636(P2011−17636)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】