説明

ラクトバチルス属菌株及び前記菌株を含有する食品及び医薬品

【課題】炎症・アレルギー疾患における免疫能の亢進を抑制する作用を持つサイトカイン、インターロイキン−10(IL−10)の産生誘導能が高く、IL−10の産生不足による疾患の予防・治療に有用な新規菌株を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス・ペントーサスTJ515(Lactobacillus pentosus TJ515)(FERM P−21798)である菌株、および該菌株の乾燥菌末と培養物、さらにそれらを含有する食品および医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus) の新菌株、その培養物、含有物、乾燥菌末、さらには該菌株の培養物、その含有物またはその乾燥菌末を含有する食品および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、整腸効果を有する他、最近では様々な疾患の予防・治療効果に関する研究が進んでいる。予防・治療効果の対象は、大腸癌、今後わが国でも増加すると見られる炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease,IBD)、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome,IBS)等の腸管疾患のみならず、胃のヘリコバクター感染症(胃・十二指腸潰瘍)、泌尿器疾患(尿路感染症や膣感染症)、腸管免疫、アレルギー疾患、循環器疾患、糖尿病、肥満等全身疾患にまでひろがっている。中でも乳酸菌のインターロイキン10(IL−10)産生を介した免疫調節作用が種々の疾患の予防・治療に効果を示すと期待され、注目を浴びている。
【0003】
IL−10はサイトカインの一種で分子量35−40kDのhomodimerの糖蛋白である。ヒトでは主として2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)から産生され、他にも単球、活性化B細胞、角化細胞など様々な種類の細胞より産生される。その生物活性は多岐にわたるが、他のサイトカインと際立って異なる特徴は「抑制性活性」が中心となっていることにある。
【0004】
即ち、IL−10は主に単球系細胞に作用して、IgEなどの炎症性サイトカインの産生を始めとする免疫機能を抑制的に制御する他、リンパ球に対しても単球系細胞を介して間接的に抑制作用を示す。また、アレルギー状態において、IL−10はT細胞が産生するサイトカインを抑制する働きを持つことが推測できる。アレルギーの患者においては、末梢血単核球からのIL−10の産生がコントロールに比べ低下しており、IL−10を誘導すると、アレルギー反応を抑制できる可能性も示唆されている(非特許文献1)。
【0005】
乳酸菌等によりIL−10の産生を誘導した文献としては、ラクトコッカス属乳酸菌によるIL−10産生の誘導(特許文献1)、ラクトバチルス・アシドフィルス菌株によるIL−10産生の誘導(特許文献2)、IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物とIL−12産生誘導能を有する細菌を組み合わせてなるIL−10産生促進剤(特許文献3)、ビフィズス菌によるIL−10産生の誘導(非特許文献2)、ラクトバチルス・ペントーサス菌株によるIL−10及びIL−12産生の誘導(非特許文献3)等が報告されている。しかし、これらのいずれについても未だ十分な効果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−154387号公報
【特許文献2】特開2004−277381号公報
【特許文献3】特開2008−31153号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アレルギー・免疫. 2003; 8月号; Vo.l0;No.8; 82−90
【非特許文献2】World J. Gastroenterol. 2008; 14: 2511−2516
【非特許文献3】Int. Arch. Allergy Immunol. 2008; 145: 249−57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
IL−10の産生不足による疾患、例えばIBD、アレルギー疾患、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患、細菌感染による炎症疾患、乾癬、臓器移植時の拒絶反応等の予防・治療に有用であり、かつ日常的に安全な食品、医薬品として利用できるIL−10産生誘導能の高い新規乳酸菌の探索とその製品開発が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、発明者等が見出した新規なラクトバチルス・ペントーサスTJ515(Lactobacillus pentosus TJ515)(FERM P−21798)である菌株に関するものである。
【0010】
また本発明は以下の(1)から(9)の菌学的性質を有する菌株:
(1)グラム陽性
(2)桿菌
(3)運動性なし
(4)無胞子
(5)通性嫌気性
(6)カタラーゼ陰性
(7)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(8)生育pH 3.6〜8.6
(9)D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する
に関する。
【0011】
また本発明は、前記菌株の培養物、その含有物またはその乾燥菌末に関する。ここで、菌株が生菌であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記菌株の培養物、その含有物またはその乾燥菌末を含有する食品および医薬品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のラクトバチルス・ペントーサスTJ515は、IL−10産生誘導能に優れているので、本菌株を摂取等すれば、IL−10の産生不足による疾患、例えばIBD、アレルギー疾患、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患、細菌感染による炎症疾患、乾癬、臓器移植時の拒絶反応等の予防・治療において有用な効果を示す。また該菌株は発酵食品由来のため、日常的に安全な食品として免疫調節に有用に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の菌株であるラクトバチルス・ペントーサスTJ515は受託番号:FERM P−21798として2009年4月6日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されたものである。
【0015】
本発明のラクトバチルス・ペントーサスTJ515は、タイの植物性発酵食品の中から分離・発見された乳酸菌である。TJ515はタイの植物性発酵食品から分離・発見された約500種の乳酸菌のなかでも優れたIL−10産生誘導能を示す菌株である。
【0016】
本発明のラクトバチルス・ペントーサスTJ515の菌学的性質を以下に示す。
(1)グラム陽性
(2)桿菌
(3)運動性なし
(4)無胞子
(5)通性嫌気性
(6)カタラーゼ陰性
(7)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(8)生育pH 3.6〜8.6
(9)D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する。
【0017】
本発明の菌株はグラム陽性、無胞子、通性嫌気性、カタラーゼ陰性の桿菌(約0.5×0.1μm)であり、糖から乳酸を生成し、ガスを発生しないことからホモ型発酵のラクトバチルス属に属するものと考えられる。
【0018】
本発明の菌株の培養的性質を以下に示す。
(1)MRS寒天平板培地
コロニーは、37℃、2日間培養で直径約2−3mmまたはそれ以下の円形、半レンズ状突起、不透明の白色である。
(2)MRS液体培地
37℃、24時間培養で菌体が増殖して培地が白濁し、綿毛状の沈殿を生ずる。
(3)MRS寒天培地(穿刺培養)
穿刺によって一様に生育する。
【0019】
本発明の菌株の生理・生化学的性質を以下に示す。
(1)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(2)生育pH域 3.6〜8.6
(3)酸素との関係
通性嫌気性。酸素存在下でも嫌気的条件でも生育できる。
(4)糖類発酵性
D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する。
(5)リトマスミルク:酸性化、脱色および凝固し、液化はしない。
(6)カタラーゼ:陰性
(7)でんぷんを加水分解しない。
【0020】
本発明の菌株とラクトバチルス・ペントーサスの標準菌株であるラクトバチルス・ペントーサスJCM1558(JAPAN COLLECTION OF MICROORGANISMS、独立法人 理化学研究所)の糖資化性を比較すると、本発明菌株は標準株が資化しないD−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化するという特徴を有する。また、培養温度帯に関して、標準菌株が15℃で生育できないことに対し、本発明の菌株は生育可能であるという特徴を有する。
【0021】
本発明の菌株は、16S rRNA遺伝子解析により、ラクトバチルス・ペントーサスJCM1558と554bp中、97%以上の相同性を示すことが好ましく、99%以上の相同性を示すことがより好ましい。
【0022】
本発明の菌株はタイ国北部の発酵食品およびその原料となる野菜、例えばネギ、ニラおよびタマネギなどから公知の方法により単離する事ができる。例えば、発酵食品または野菜を滅菌した生理食塩水に懸濁し、その懸濁液を滅菌した生理食塩水に段階的に希釈し、MRS寒天培地や他の分離用寒天培地に塗布し培養することにより分離可能である。培養条件は37℃で、2日間培養し形成したコロニーを分離する。
【0023】
本発明の菌株であれば、菌株を培地に接種するだけで培養することができる。本発明の菌株を培養するための培地としては、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む培地を用いることができる。本発明の菌株であれば、特別な栄養培地を用意する必要がないので、調製に手間がかからず、そのため培地成分のロット差による培養収率のぶれがなく、大量培養も可能である。ここで、培養に使用する培地には目的に応じて寒天培地や液体培地を選択することができる。培養温度は15℃〜40℃、好ましくは37℃で、増殖可能pHはpH 3.6〜8.6、好ましくはpH6.0〜7.0である。培養時間は1〜2日間が好ましい。
【0024】
本発明の菌株は、その培養物、含有物、乾燥菌末の形態として利用できる。上記培養物、含有物、乾燥菌末に含有される乳酸菌としては、生菌又は死菌を用いることができるが、生菌において十分なアレルギー症状を抑制する効果が認められ、かつ菌体が腸内に定着することにより持続的に効果が発揮されるので、死菌体を断続的に作用させるよりも有利であると推測できる点から、生菌が好ましい。生菌は本菌株を適当な培地で培養して得られる培養物から得ることができる。死菌は、生菌に対して加熱、紫外線照射、ホルマリン処理等を行うことにより得ることができる。
【0025】
菌株の培養物とは、菌株そのものを培養して得られたものである。
【0026】
菌株の含有物とは、菌株を含む粉状、液状、生地状、もしくは固形状の製品である。
【0027】
菌株の乾燥菌末とは、減圧状態で培養物の水分を昇華させて得られた粉末のことである。菌株の減圧は15〜100Pa、凍結時温度−50〜−80℃、乾燥時温度22〜25℃で行うことが好ましい。
【0028】
本発明の乳酸菌の培養物、含有物または乾燥菌末は、免疫調節作用を有する薬学的組成物として用いることが好ましい。例えば、食品、医薬品等を挙げることができる。
【0029】
食品として用いる場合には、免疫調節作用を有する健康食品とすることが好適である。公知の甘味料、酸味料、ビタミン等の各種成分と混合して嗜好性の高い食品とすることが好ましい。
【0030】
食品としては、特に限定されないが、乳酸菌の安定性、摂取・携帯の簡便性の点で、例えば、錠菓、カプセル、ドリンク、加工食品、デザート類、菓子等の形態で提供することが好ましい。特に、錠菓は、防湿を目的とするコーティングが可能であり、乳酸菌の安定性が良好であり、また、摂取量が正確、摂取・携帯が簡便、腸溶被包が可能である点で好ましい。ドリンクとしては、例えば、青汁、野菜果汁、果物果汁などが挙げられる。野菜果汁は、特に限定されないが、人参、カボチャ、キャベツ、セロリ、ブロッコリー、トマト、アスパラガス、ホウレンソウ、カリフラワーの果汁などを挙げることができる。これらは、1種類の野菜果汁であってもよいが、2種類以上の野菜果汁の混合液であってもよい。また、果物果汁としては、ぶどう、メロン、イチゴ、ブルーベリー、パイナップル、バナナ、マンゴー、桃の果汁などを挙げることができる。また、これらは1種類の果物果汁であってもよいが、2種類以上の果物果汁の混合液であってもよい。また、発酵を促進するため、発酵前にpH調整剤を添加することもある。
【0031】
これらの投与形態に加工するには、本発明の乳酸菌を純粋培養し遠心分離などの方法により集菌後、適切な安定剤を加え凍結乾燥等して得られる乾燥菌末を加えて通常の製菓方法に従って製造することができる。
【0032】
また、本乳酸菌はヨーグルトなどの発酵乳及び醗酵食品としての形態としても投与が可能である。例えば牛乳、羊乳、豆乳などにヨーグルト製造上のスターター菌であるラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベチカス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチスなどの乳酸菌と本発明の乳酸菌を接種し混合培養あるいは各々単独培養後に混ぜ合わせることによってヨーグルトを製造することができる。
【0033】
また、医薬品として用いる場合には、その投与形態としては例えば散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤などの形態が好ましく、投与経路としては、経口投与、直腸投与、経腸投与等により投与することができる。これらの各種製剤は常法に従って、主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、潤滑剤、安定剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、希釈剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。投与量においては対象疾患、疾病の程度によって異なるが、例えば成人に対して1日1mg〜2,000mgを症状に応じて1日1回または数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0034】
1.ラクトバチルス・ペントーサスTJ515の分離方法
タイのネギ、ニラ、タマネギを使用した発酵食品を生理食塩水に懸濁し、その懸濁液を滅菌した生理食塩水に段階的に希釈し、MRS寒天培地に塗布し培養することにより分離した。培養条件は37℃で、2日間培養し形成したコロニーを分離した。
【0035】
2.菌学的性質の同定
ラクトバチルス・ペントーサスTJ515の形態的性質をMRS液体培地により同定した。MRS液体培地は市販のDifco Lactobacilli MRS broth (Cat#. 288130)58.0gを水1000mlに加え、121℃で20分間滅菌したものを使用した。MRS液体培地での24時間培養において、約0.5×0.1μmの桿菌であり、単一または連鎖状に存在した。胞子は形成せず、非運動性で、グラム陽性であった。各種菌学的性質の同定は「乳酸菌実験マニュアル」(朝倉書店)に従い、また分類同定の基準としてバージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)Vol.2(1986)を参照した。得られた菌学的性質を以下に示す。
【0036】
(1)グラム陽性
(2)桿菌
(3)運動性なし
(4)無胞子
(5)通性嫌気性
(6)カタラーゼ陰性
(7)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(8)生育pH 3.6〜8.6
(9)D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する。
【0037】
3.培養的性質の同定
本発明の菌株の培養的性質を(1)から(3)の各培地で調べた。
(1)MRS寒天平板培地
コロニーは、37℃、2日間培養で直径約2〜3mmまたはそれ以下の円形、半レンズ状突起、不透明の白色であった。
(2)MRS液体培地
37℃、24時間培養で菌体が増殖して培地が白濁し、綿毛状の沈殿を生じた。
(3)MRS寒天培地(穿刺培養)
穿刺によって一様に生育した。
【0038】
4.生理・生化学的性質の同定
本発明の菌株の生理・生化学的性質の同定は、「乳酸菌実験マニュアル」(朝倉書店)に従い行った。本発明の菌株の生理・生化学的性質を以下に示す。
(1)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(2)生育pH域 3.6〜8.6
(3)酸素との関係
通性嫌気性。酸素存在下でも嫌気的条件でも生育できる。
(4)糖類発酵性
D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する。
(5)リトマスミルク:酸性化、脱色および凝固し、液化はしない。
(6)カタラーゼ:陰性
(7)でんぷんを加水分解しない。
【0039】
5.遺伝子解析
本発明のラクトバチルス・ペントーサスTJ515の遺伝子解析を次のように行った。ラクトバチルス・ペントーサスTJ515の分類学的位置を確認するために、16S rRNA遺伝子の塩基配列データと既知種の配列データとを比較した。DNAの抽出は、MRS液体培地で、37℃、24時間培養した菌液を定法に従って行った。16S rRNA遺伝子解析の結果より、ラクトバチルス・ペントーサスの標準菌株であるラクトバチルス・ペントーサスJCM1558(JAPAN COLLECTION OF MICROORGANISMS、独立行政法人 理化学研究所)と554bp中100%の相同性を示した。
【0040】
6.ラクトバチルス・ペントーサスTJ515と標準菌株の比較
本発明の菌株とラクトバチルス・ペントーサスJCM1558の糖資化性を比較したところ、標準株がD−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化しないことに対し、本菌株は資化するという特徴を有していた。また、培養温度帯に関して、標準菌株が15℃で生育できないことに対し、本発明の菌株は生育可能であるという特徴を有していた。よって公知の菌株と比較すると、細部にわたって一致しない点もあるので、本発明の菌株は新規なラクトバチルス・ペントーサスTJ515と命名した。
【0041】
試験例1(乳酸菌株のIL−10の産生誘導能)
タイの発酵食品864種から単離した303株のラクトバチルス株とパイエル板リンパ球細胞との共培養試験によりIL−10の産生誘導能を調べた。使用した菌液は以下の方法で調製した。菌株をsemi−solid MRS brothより釣菌しBL寒天培地に画線した。37℃、嫌気条件下で2日間培養し、単一コロニーを拾い、5mLのMRS brothにて37℃で18時間培養した。培養後、PBS(pH6.8)を用いて洗浄し、PBS5mLに懸濁した液を菌液とした。6〜8週齢の雌のBALB/cマウスからパイエル板リンパ球細胞を採取し、これらの細胞を96穴の培養プレートに180μLのRPMI1640培地とともに加えた(2×106個/穴)。各穴にラクトバチルス菌株の菌液を20μL加え、37℃で4日間培養した。菌液は予め濁度を測定しておき、菌数を1.0×10cfu/mLとなるように調整し、培養液に加えた。培養終了後、96穴プレートを遠心分離し(1200rpm×10min)培養上清を回収し、Biolegend社のmouse IL−10 ELISA Quantitation Kitを用いてIL−10量を定量した。500菌株の中から、IL−10産生誘導能の高かった66菌株を選び、再度同じ試験を繰り返した。IL−10産生誘導能の高かった上位20菌株の結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
ラクトバチルス・ペントーサスTJ515のIL−10産生誘導能は単離した乳酸菌株の中で最も強力であった。
【0044】
試験例2(ラクトバチルス・ペントーサスJCM1558 (標準株)とのIL−10産生誘導能の比較)
試験例1の方法に従い、ラクトバチルス・ペントーサスJCM1558 (標準株)を対照菌株として、ラクトバチルス・ペントーサスTJ515のIL−10産生誘導能を比較した。結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
ラクトバチルス・ペントーサスTJ515はラクトバチルス・ペントーサス標準株より強いIL−10産生誘導能を示した。
【0047】
試験例3(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515のIgE産生抑制効果)
IL−10の産生不足による疾患の代表としてのアレルギー疾患モデルに対する、ラクトバチルス・ペントーサスTJ515株の投与効果を調べた。4〜5週齢、雌、BALB/C無菌マウスにTJ515株を108個経口投与し、TJ515株定着マウスを作出した。対照として特定の病原微生物を持たないSPFマウスの糞便を無菌マウスに経口投与して作出したマウス菌叢マウスを用いた(各群6匹)。各マウスにOVA(ovalbumin)を2週間ごとに合計4回腹腔内に投与した。最終投与から1週間後に、血清中の総IgEをBETHYL LABORATORIESのMouse IgE ELISA Quantitaion kitにより測定し、結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
TJ515定着マウスでは、マウス菌叢を定着させたマウスに比べて血中の総IgE産生が有意に抑制された。
【0050】
実施例1(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515の乾燥菌末の調製)
ラクトバチルス・ペントーサスTJ515をMRS液体培地に接種後、37℃、18〜24時間静置培養を行った。培養終了後、7,000rpm、15分間遠心分離を行い培養液の1/100量の濃縮菌体を得た。
【0051】
次いで、濃縮菌体にグルタミン酸ソーダ5%(重量)、可溶性澱粉5%(重量)、ショ糖5%(重量)および硫酸マグネシウム7水和物1%(重量)を含む分散媒と同量混合し、pH7.0に修正後、−40℃以下で凍結してから凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥菌末を60メッシュのフルイで粉末化して乾燥菌末を調製した。
【0052】
実施例2(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515含有錠菓の製造)
実施例1で調製したラクトバチルス・ペントーサスTJ515の乾燥菌末15gに、キシリトール(東和化成製)150g、レシス(東和化成製)54g、メチルセルロース(信越化学製)6g、部分α化デンプン(旭化成工業製)45g、ポリデキストロース(和光純薬工業製)30g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ製)6g、カスターワックス(日油製)6g、軽質無水ケイ酸(フロイント産業製)3gを加えてビニール袋中でよく混合した後、打錠機(6B−2、菊水製作所製)を用いて打錠し、直径15mm、重量1000mgの錠菓を製造した。
【0053】
実施例3(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515含有発酵乳の製造)
酵母エキス(オリエンタル酵母製)0.2%と砂糖2%を含む20%脱脂還元乳を100℃にて10分間加熱し、これに等量の市販牛乳を加えてヨーグルトミックスとした。これに、予めMRS液体培地(Difco製)で培養した後生理食塩水で置換したラクトバチルス・ペントーサスTJ515の懸濁菌液を2%接種し、37℃で18〜24時間静置培養を行い、発酵乳を製造した。得られた発酵乳は、マイルドな酸味の美味な食品であった。
【0054】
実施例4(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515含有発酵青汁の製造)
市販の粉末青汁(ケール)を滅菌水で調製し、予めMRS液体培地(Difco製)で培養した後、生理食塩水で置換したラクトバチルス・ペントーサスTJ515の懸濁菌液を0.1%接種し、37℃で18〜24時間静置培養を行い、発酵青汁を製造した。得られた発酵青汁は、さわやかな酸味があり、特有の青臭さが抑えられた、嗜好性の高い食品であった。
【0055】
実施例5(ラクトバチルス・ペントーサスTJ515の配合錠剤の製造)
第15改正日本薬局方解説書製剤総則「錠剤」の規定に準拠し、実施例1で調製したラクトバチルス・ペントーサスTJ515乾燥菌末2mg(菌数、5×108 相当)と乳糖(日局)61mg、澱粉(日局)16.2mg、結合剤としてポリビニルピロリドンK25(日局)20mg、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(日局)0.8mgを加えて均一に混合し、打錠機で圧縮成型し1錠当たり300mgの素錠を作り、さらに、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いてフィルムコーティングを施して白色のフィルムコーティングされた錠剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の菌株は、IL−10の産生不足による疾患、例えばIBD、アレルギー疾患、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患、細菌感染による炎症疾患、乾癬、臓器移植時の拒絶反応等の予防・治療に有用であり、かつ日常的に安全な食品及び医薬品として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)FERM P−21798菌株。
【請求項2】
以下の(1)から(9)の菌学的性質を有する菌株:
(1)グラム陽性
(2)桿菌
(3)運動性なし
(4)無胞子
(5)通性嫌気性
(6)カタラーゼ陰性
(7)生育温度 15〜40℃ (至適生育温度 37℃)
(8)生育pH 3.6〜8.6
(9)D−キシロース、D−アラビトール、D−ラフィノース、ズルシトールおよびD−メレジトースを資化する。
【請求項3】
請求項1または2に記載の菌株の培養物、その含有物またはその乾燥菌末。
【請求項4】
菌株が生菌であることを特徴とする請求項3に記載の培養物、その含有物またはその乾燥菌末。
【請求項5】
請求項3または4に記載の培養物、その含有物またはその乾燥菌末を含有する食品および医薬品。

【公開番号】特開2011−4620(P2011−4620A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149173(P2009−149173)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(508021211)有限会社東海医学検査研究所 (2)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】