説明

リチウムイオン二次電池用炭素材料及びそれを用いた電極

【課題】リチウムイオン電池用の炭素材料において、充放電効率と耐久性を改良する。
【解決手段】低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理するステップと、表面処理された低結晶炭素材の粉末を2000℃以上に加熱して黒鉛化するステップとを少なくとも含んでなるリチウムイオン二次電池用炭素材料の製造方法を提供する。また、低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理した後に、2000℃以上に加熱して黒鉛化して得られるリ炭素材料を提供する。この炭素材料とバインダーとを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極、この炭素材料、バインダー及び溶剤を混合してペーストを得るステップと、得られたペーストを金属箔上に塗布するステップと、金属箔上のペーストを乾燥するステップと、乾燥された金属箔上のペーストを上記金属箔とともにプレスするステップとを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用の炭素材料に関するものである。詳しくは、充放電効率の優れた耐久性の高いリチウムイオン電池用の炭素材料とそれを用いて作成したリチウムイオン電池用電極である。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の適用範囲は多岐にわたり、性能のよいリチウムイオン電池が求められている。こうした性能の一つとして充放電効率がある。
リチウムイオン電池の充放電効率は、セルの構造や電解液を工夫することによっても改良できる。例えば、新規なシラン系の電解液を使用することによって初期特性を改良するものがある(特許文献1)。こうした発明は優れたリチウムイオン電池を提供することができるが、使用する炭素材料を改良しなければ、その優れた性能を十分に生かすことはできない。
したがって、炭素材料の改良が必要である。こうした炭素材料の改良方法として、表面の低結晶を排除する方法がある(特許文献2)。この方法は、優れた炭素材料が出来るものの、原料を溶媒抽出するなどの複雑な工程を有する。
【0003】
炭素材料は、単に充放電効率がよいというだけではなく、実用に当たっては、耐久性も問題となる。こうした耐久性の向上は、炭素材料の改良が極めて重要である。
リチウムイオン電池用の炭素材料の一般的な製法として、コークス等をディスククラッシャーで粉砕後、2800℃程度の温度で黒鉛化してリチウムイオン電池用の炭素材料を製造する方法がある(特許文献3)。この方法により製造された炭素材料の性能は十分とはいえない。
黒鉛の表面上のダングリングボンドが耐久性に関連することに注目し、水素プラズマでダングリングボンドを消滅させることも提案されている(特許文献4)。この方法では、耐久性は出るものの、プラズマ処理は装置が煩雑であり、処理コストもかかるので実用性が不十分である。
【0004】
黒鉛粉末と金属粉末のいわゆる合剤を製造する際、両粉末の親和性を改善するためにメカノフュージョン処理を行いサイクル特性に優れたリチウムイオン電池を提供しようとするものもある(特許文献5)。また燃料電池の電極であるが、メカノフュージョン処理によって炭素粉末のタップ密度を向上させ燃料電池の性能を向上させようとするものも存在している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−110957号公報
【特許文献2】特開2000−58052号公報
【特許文献3】特許3978800号
【特許文献4】特開平9−245794号公報
【特許文献5】特許第3985263号
【特許文献6】特許第4236248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リチウムイオン電池用の炭素材料において、充放電効率と耐久性を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理するステップと、上記表面処理された低結晶炭素材の粉末を2000℃以上に加熱して黒鉛化するステップとを少なくとも含んでなるリチウムイオン二次電池用炭素材料の製造方法を提供する。また、本発明は、低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理した後に、2000℃以上に加熱して黒鉛化して得られるリチウムイオン二次電池用炭素材料を提供する。
さらに、本発明は、このリチウムイオン二次電池用炭素材料と、バインダーとを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極を提供する。また、このリチウムイオン電池用炭素材料、バインダー及び溶剤を混合してペーストを得るステップと、得られたペーストを金属箔上に塗布するステップと、上記金属箔上のペーストを乾燥するステップと、乾燥された金属箔上のペーストを上記金属箔とともにプレスするステップとを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素材料をリチウムイオン電池の電極に用いれば、ダングリングボンドが少ないため、電解液との相互作用が低くなり耐久性が高い。また、表面処理によって充放電効率が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】負極材料評価試験で使用したセルの模式的断面図である。
【図2】電池評価試験で使用したセルの模式的断面図である。
【図3】メカノフュージョン装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の出発原料は、低結晶炭素材である
低結晶炭素材としては、ラマンスペクトル分析において、1580cm−1付近の波長領域に存在するピークの半価幅ΔνGが、好ましくは40〜110cm−1、より好ましくは80〜100cm−1かつ、表面のエッジ面率を表すパラメータR値{1355cm−1付近のピーク強度(I)と1580cm−1付近のピーク強度(I)の強度比I/I}が、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.75〜0.95である炭素材が好適であり、かつ/又は、X線パラメータにおいて、炭素網面層の面間隔(d002)が、好ましくは0.34〜0.37nm、より好ましくは0.345〜0.36nm、c軸方向の結晶子サイズLc(002)が、好ましくは3.0〜10nm、さらに好ましくは3.5〜7nmである炭素材が好適である。
なお、1580cm付近のピークは、1560〜1650cm−1の範囲にあるピークであり、炭素の六角網面の積層構造における面内のC−C伸縮振動によるものとされている。1580cm−1付近のピークは、1300〜1400cm−1の範囲にあるピークであり、積層構造の乱れ部分、積層構造の端部、非晶質炭素成分を示すものとされている。
【0011】
こうした低結晶炭素の典型的なものは、ニードルコークスである。ニードルコークスは、針状構造の発達したコークスであって、黒鉛化等の高温焼成に際してパッフィングを生起し得るコークスをいう。ニードルコークスは、市販されており、容易に入手可能である。
ニードルコークスは、例えばコールタールピッチ、石油系重質油、石炭の液化物、ナフサ分解残油等の原料油をその種類に応じた条件でコークス化すると得られ、通常、工業的には、400〜600℃、常圧〜10kg/cm程度の圧力下、約12〜48時間かけてディレードコーキング法で7〜15質量%程度の揮発分を含有する生コークスをまず製造する。生コークスは、まず1000〜1500℃程度の温度で仮焼し、内部に数%残存していた水素、酸素、窒素等の炭素以外の原子を揮散せしめ、炭素分を98〜99質量%まで高めることにより製造されている。
このニードルコークスは、揮発分をほとんど含有しないか焼コークスであるので、黒鉛化温度まで加熱しても融着性を示さない。
【0012】
出発原料を、例えばディスククラッシャーやミルによって粉体化する。この際、粉体化された出発原料の平均粒径(D50)は、10〜40μmが好ましい。この後、圧縮せん断力をかけ、表面処理を行う。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計により測定できる。
【0013】
本発明においては、低結晶炭素材の粉末に、圧縮しせん断力をかける。実質上結晶構造を持たない炭素材ではなく、低結晶炭素材を表面処理することにより、充放電効率が向上する。
粉末に圧縮せん断力をかける表面処理の典型は、メカノフュージョン処理である。本発明において、メカノフュージョンとは、複数の異なる素材粒子間に機械的エネルギー、特に機械的歪力を加える技術をいう。
このような機械的な圧縮せん断力を印加する装置としては、特開昭63−42728号公報等に記載されているような粉体処理装置があり、具体的には、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムやホソカワミクロン社製のメカノフュージョンシステムなどが好適である。
【0014】
メカノフュージョン被覆装置の一例を図3に示す。図3においてメカノフュージョンの装置30は、粉体を入れたケーシング31を回転方向Rで高速回転させて粉体Pの層をその内周面に形成すると共に、摩擦片32、かき取り片33を設置し、ケーシングの内周面にて、摩擦片により粉体に圧縮や摩擦をかけ、同時にかき取り片により、かき取りを行う。かき取り片は、かき取りとともに、分散、攪拌を行なうものであってもよい。摩擦片32とかき取り片33は、通常は固定されているが、例えばケーシングの回転方向Rとは反対の方向に回転させてもよい。
【0015】
メカノフュージョンの際の各種条件は、適宜設定すればよいが、例えば上記の装置にて、ニードルコークスを処理する場合、好ましくは、処理時間20〜40分程度、ケーシングの回転数800〜3000rpm程度、温度15〜70℃程度、その他の条件は通常のものとすればよい。
また、必要に応じて、減気圧下で処理をしてもよい。
粉末に圧縮せん断力をかける表面処理は、粉砕ではなく、見かけ上の粒径はほぼ変化がない程度で行うことがよい。こうした表面処理を行うに当たっては、粒径に合わせてケーシングの内周面と摩擦片の幅や、摩擦片の材質、摩擦片と内周面の圧力等を適宜変更することが出来る。
【0016】
圧縮し、せん断力をかける表面処理の後、ダングリングボンドを処理することにより、ダングリングボンドを減少させる。ダングリングボンド(dangling bond)密度が小さくてなくてはならないからである。ダングリングボンドとは、共有結合性のいわゆる未結合手とよばれ、本発明においては炭素原子上で、共有結合の相手を失って、結合に関与しない電子(不対電子)で占められた結合手のことをいう。一般に、こうしたダングリングボンドは、炭素原子同士が機械的に切断されたり、加熱される条件によって、結晶の欠損が起こることによって生じる。特に、高せん断で表面処理をするとダングリングボンドが生じやすい。
このダングリングボンド密度は、ESR(電子スピン共鳴法)によって測定される。ESRは、磁場中で、電子のエネルギー準位が電子スピンの影響で分離し、マイクロ波を吸収すると励起する性質を用い、ダングリングボンドの量を測定する。グラフ上に横軸に磁場の強さ、縦軸に吸収の大きさをとって、その面積からダングリングボンドが求められる。具体的には、8.5×1018Spin/g以下、好ましくは1.0〜6.0×1018Spin/g以下の密度である。8.5×1018Spin/gを超えると、耐久性が著しく劣化する。
【0017】
ダングリングボンドを減少させる方法としては、例えば、紫外線等を当てながらH雰囲気下で処理する等の処理がある。好ましくは、特にニードルコークスを用いた場合に好ましくは、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、2000℃以上、より好ましくは2200〜3000℃で0.5〜5時間加熱することにより、前記のメカノフュージョン等で表面処理したニードルコークスの黒鉛化を行いリチウムイオン電池用の炭素材料とする。
【0018】
こうして製造された炭素材料は、平均粒径10〜50μm、炭素網面層の面間隔(d002)0.3357〜0.3368nm、タップ密度(30回)1.0g/cm以上の程度であることが良い。なお、平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計によって測定する。タップ密度は、タッピングにより密に充填したときの密度であり、ホソカワミクロン製「パウダテスタPT−S型」を用い、100mlのタッピングセルに粉末を落下させ、セルが満杯に充填された後、ストローク長18mmのタッピングを30回又は250回行って、粉末の重量および容積から炭素材料のタップ密度を算出する。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用の炭素材料は、バインダー(結着剤)と混合して電極用混合物とし、金属箔に塗布して電極とすることができる。
バインダーとしては、従来より使用されているバインダーであれば、特に制限なく各種のバインダーを使用することができる。例えば、バインダーとして、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。
バインダーは、本発明のリチウムイオン電池用の炭素材料100重量部に対して、通常、1〜40重量部、好ましくは2〜25重量部、特に好ましくは5〜15重量部の量で使用される。
【0020】
電極用混合物は、リチウムイオン電池用の炭素材料が破壊されない範囲で適度に分散されている必要があり、プラネタリーミキサーや、ボールミル等を用いて、適宜混合・分散される。
【0021】
電極用混合物は、溶剤と混合されスラリー状にされる。
溶剤としては、従来より使用されている溶剤であれば特に制限なく、各種の溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、N−メチルチオピロリドン、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド等を単独あるいは混合物が挙げられる。
溶剤は、電極用混合物の合計100重量部に対して、一般的には、15〜90重量部、好ましくは30〜60重量部となるように使用される。
【0022】
電極用混合物と溶剤のスラリー状混合物は、金属箔に塗布される。
金属箔材料としては、特に制限なく、各種の金属材料を使用することができる。例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、鉄等が挙げられる。
金属箔の片面又は両面に混合物が塗布され、乾燥されることによって、電極とすることができる。
塗布の方法は、従来公知の方法によって実施することができる。例えば、エクストルージョンコート、グラビアコート、カーテンコート、リバースロールコート、ディップコート、ドクターコート、ナイフコート、スクリーン印刷等のなどが挙げられる。
電極は、金属箔に塗布のあと、50〜250℃の温度で乾燥することにより製造することができる。
金属箔の両面に混合物を塗布する場合、片面を塗布し、50〜250℃で乾燥した後、塗布しようとする他方の面を水等によって洗浄することが特に好ましい。この洗浄操作によって、接着性を大幅に改善することができる。
金属箔の片面又は両面に混合物が塗布され、乾燥された金属箔上のペーストを金属箔とともにプレスして電極とする。
【0023】
本発明に用いる電極形状は、目的とする電池により、板状、フィルム状、円柱状、あるいは、金属箔上に成形するなど、種々の形状をとることが出来る。特に、金属箔上に成形したものは集電体一体電極として、種々の電池に応用できる。
【0024】
本発明の炭素材料は、他の電極材料と混合して正極に用いることも可能であるが、特に好ましくは負極に用いられる。
本発明の炭素材料を負極として用いる場合、リチウムイオン二次電池は、上述のようにして製造した負極と、リチウムイオン二次電池用の正極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、及びこれらの複酸化物(LiCoNiMn、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(MはCo、Ni、Mn又はFeを表す)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、製造するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0025】
リチウム二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状エステル;N−メチル−2−ピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO、LiN(CSO等がある。
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
<試料の作製>
実施例1〜4、比較例1〜2
出発原料として、実施例1〜4及び比較例1は、低結晶性炭素材として石油系ニードルコークス、比較例2は、メゾフェースピッチを用意し、機械的粉砕を行い平均粒径(D50)10〜32μmの試料を得た。出発原料のラマンスペクトルの1580cm付近の波長領域に存在するピークの半価幅ΔνG、表面のエッジ面率を表すパラメータR値{1355cm−1付近のピーク強度(I)と1580cm−1付近のピーク強度(I)の強度比I/I}、X線パラメータにおける炭素網面層の面間隔(d002)及びc軸方向の結晶子サイズLc(002)の測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
得られた試料に圧縮せん断力を印加するため、比較例1を除いて、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョンシステムで処理した。ケーシングの回転数、周速度、処理温度、処理時間を表2に示す。なお、比較例2では、黒鉛化後にメカノフュージョンシステムで処理した。
【0030】
【表2】

【0031】
この試料をるつぼに投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中で表3に示す温度で熱処理した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は2時間又は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。
得られたリチウムイオン電池用炭素材料の物性を表3に示す。ラマンスペクトルの1580cm付近の波長領域に存在するピークの半価幅ΔνG、表面のエッジ面率を表すパラメータR値{1355cm−1付近のピーク強度(I)と1580cm−1付近のピーク強度(I)の強度比I/I}、X線パラメータにおけるc軸方向の結晶子サイズLc(002)及び炭素網面層の面間隔(d002)の測定結果を表3に示す。「Dボンド」(ダングリングボンド)は、ESRを用いて測定した。
【0032】
【表3】

【0033】
<負極材料評価用セルの作製と特性の評価方法>
(1)負極材料評価用セルの作製方法
負極材料として、実施例又は比較例で得られた黒鉛粉末と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を重量比で90:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延した。得られたシート状の電極を直径φ15mmに打ち抜き作用極とした。この作用極及びその他の必要部材を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入し、負極材料評価用セルを組み立てた。乾燥条件は、作用極が減圧状態の下150℃で12時間以上、その他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
【0034】
図1に負極材料評価用セル1の断面図を示す。評価用セル1は、四弗化エチレン製パッキング4により内部の気密が保持可能な中空金属体2を容器としている。当該中空金属体2にはまず、参照極15と上記工程により得られた作用極7とを離間して配置した。次に、これらの電極上に直径φ24mmのポリプロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)からなるセパレータ9と、厚さ0.7mm、直径φ17mmの円盤状リチウム金属箔からなる対極5とを順に積層した。なおリチウム金属箔と作用極との積層位置関係は、リチウム金属箔を作用極側に投影したときにその外周部が作用極7の外周を包囲するように押さえ治具3によって保持した。さらに、対極5、作用極7及び参照極15から各々金属枠2の外部に延びる端子8、10、12を設けた。
次いで、前記中空金属体3に電解液6を注入すると共に、この積層体が、厚さ1mm、直径φ20mmのステンレス(SUS304)製円盤11を介してステンレス製のバネ13で加圧され、帯状のニッケル製リード板(厚さ50μm,幅3mm)にリチウム金属が巻きつけられた参照極15が作用極7近傍で固定されるように前記中空金属体3を封止し、負極材料評価用セル1を作製した。使用した電解液6は、エチレンカーボネートとエチルエチルメチルカーボネートとを体積比で3:7に混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度となるように溶解したものである。
【0035】
(2)負極材料評価用セルの充放電試験方法
負極材料評価用セルを25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。先ず作用極の面積を基準とし、電流密度が0.1mA/cmとなるような電流値で対極及び作用極の間を通電(放電)し、参照極に対する作用極の電位が0.01Vになるまで作用極にリチウムをドープした。10分間の休止の後、同じ電流値で参照極に対する作用極の電位が1.2Vになるまで通電(充電)し、作用極に吸蔵されたリチウムを脱ドープした。得られた「リチウムドープ容量(mAh/g)」と「リチウム脱ドープ容量(mAh/g)」を確認し、これらの値から初期充放電サイクルの「充放電効率(%)」を以下の式から算出した。
【数1】

実施例及び比較例に記載された黒鉛粉末のリチウムドープ容量、リチウム脱ドープ容量、及び充放電効率は、表4に示された通りである。
【0036】
<電池の作製と特性の評価方法>
(1)電池の作製方法
図2に作製した電池20の断面図を示す。正極21は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi0.8Co0.15Al0.05)と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を重量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の集電体22(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
負極23は、負極材料である下記実施例又は比較例で得られた黒鉛粉末と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)と、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを重量比で90:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の集電体24(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池20の作製は、正極21、負極23、セパレータ25、外装27及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極21及び負極23が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ25及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
このようにして乾燥された正極21及び負極23を、正極の塗布部と負極の塗布部とが、ポリポロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極及び負極の積層位置関係は、負極の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
【0037】
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。先ず1.5mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを10回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検知するためのものであるため、充放電サイクル試験のサイクル数には含まなかった。本実施例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した。
次の充放電サイクルを第1サイクル(初期サイクル)とする。すなわち、75mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、1分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを設定する。このサイクルを1000回繰り返した。充放電サイクルの「容量維持率」として、初期放電容量に対する1000サイクル目の放電容量の割合(%)を算出した。実施例及び比較例で作製した黒鉛粉末を負極として使用した電池の充放電サイクルの容量維持率を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
実施例の炭素材料は、表3に示すように、ダングリングボンドの多い比較例2と異なり、ダングリングボンドが少ないため、リチウムイオン電池の電極に用いると、電池評価のサイクル特性として表4の容量維持率に示すように、耐久性が高い。また、圧縮せん断力をかける表面処理をしていない比較例1と異なり、表面処理によって充放電効率が良好である。
【符号の説明】
【0040】
1 負極材料評価用セル
2 中空金属体
3 押さえ治具
4 パッキン
5,21 対極(正極)
6 電解液
7,23 作用極(負極)
8,10,12 端子
9,25 セパレータ
11 対極押さえ板
13 ばね
15 参照極
20 電池
22 正極集電体
24 負極集電体
27 外装
30 メカノフュージョン装置
31 ケーシング
32 摩擦片
33 かき取り片
P 粉体
R 回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理するステップと、
上記表面処理された低結晶炭素材の粉末を2000℃以上に加熱して黒鉛化するステップと
を少なくとも含んでなるリチウムイオン二次電池用炭素材料の製造方法。
【請求項2】
上記表面処理の対象となる低結晶炭素材が、ニードルコークスである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素材料の製造方法。
【請求項3】
上記表面処理が、メカノフュージョン処理である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素材料の製造方法。
【請求項4】
低結晶炭素材の粉末を圧縮せん断力で表面処理した後に、2000℃以上に加熱して黒鉛化して得られるリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項5】
平均粒径10〜50μm、炭素網面層の面間隔(d002)0.3357〜0.3368nm、及び30回のタップ密度1.0以上であり、ダングリングボンド密度が、8.5×1018Spin/g以下である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料と、バインダーとを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン電池用炭素材料、バインダー及び溶剤を混合してペーストを得るステップと、
得られたペーストを金属箔上に塗布するステップと、
上記金属箔上のペーストを乾燥するステップと、
乾燥された金属箔上のペーストを上記金属箔とともにプレスするステップと
を少なくとも含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216231(P2011−216231A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81075(P2010−81075)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】