説明

リニアモータの制御方法

【課題】 推力ムラを取り除き、精度の良い推力直接制御を可能とするリニアモータの制御方法を提供する。
【解決手段】 リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)を予め求めておく。目標推力に対応する計算制御電流Iに対し、リニアモータの実際の制御電流をI・D(x)とする。リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)は、速度一定制御を行って求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リニアモータの制御方法、さらに詳しくは、シリコン、サファイアなどの硬脆材料セラミックスなどの表面をサブミクロン以下の単位の精度を確保して研削する装置におけるワーク送り装置としてリニアモータを使用する際に好適なリニアモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系を利用した白色発光ダイオード(白色LED)に用いるサファイアウェーハ等の半導体基板には、研削工程、ラップ工程およびポリッシング工程を経て所要の鏡面仕上げが施されている。ワーク支持台を定速で送るようになされた従来の研削装置を使用した場合、サファイアウェーハには研削およびラップ終了時に数μm程度のダメージ層が生じ、最終のポリッシング工程でこのダメージ層を除去するに際し、1μm当たり約1時間を要することから、ポリッシング工程がLED生産のネックとなっている。
【0003】
そこで、特許文献1には、図5に示すように、砥石送り手段によって所定位置に保持されてワーク(W)を研削する回転砥石(72)と、ワーク(W)を支持するワーク支持台(73)と、ワーク支持台(73)をワーク(W)の被加工面と平行な方向に移動させるワーク支持台送り手段(74)とを備え、砥石送り手段(図示略)は、研削ヘッドをヘッド送りモータによって上下方向に移動させ、回転砥石を位置制御してワークに接近させる定寸送り手段とされ、ワーク支持台送り手段(74)は、ワーク支持台(73)を移動させる油圧シリンダ(75)、空気圧を油圧に変換する油空圧変換器(図示略)、および油空圧変換器の空気圧室に供給される空気圧を設定することによりワークが回転砥石から受ける負荷を一定に保持する電空レギュレータ(図示略)からなる定推力送り手段とされている研削装置(71)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−317830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の研削装置によると、ワーク支持台送り手段を定推力送り手段とすることにより、ワークのダメージ層を減少することができるものの、定推力送り手段を空気圧制御としている関係上、ワーク支持台の位置制御が難しく、研削装置の自動化が困難という問題があった。
【0005】
そこで、この問題を解消するために、定推力送り手段としてリニアモータを使用することが考えられるが、この場合、図4に示すように、リニアモータには、磁束の分布に基づく推力ムラがあり、推力を直接制御する場合には、この推力ムラをなくすことが課題となる。また、磁束の分布に基づく推力ムラの他、配線抵抗や摺動抵抗に基づく推力ムラも存在しており、これらが推力の直接制御を困難なものとしている。
【0006】
この発明の目的は、推力ムラを取り除き、精度の良い推力直接制御を可能とするリニアモータの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるリニアモータの制御方法は、リニアモータの推力を直接制御する際のリニアモータの制御方法であって、リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)を予め求めておき、目標推力に対応する計算制御電流Iに対し、リニアモータの実際の制御電流をI・D(x)とすることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、リニアモータの電流分布D(x)は、計測区間の平均値で規格化された値で、電流i(x)のx=xoからx=xpまでの間での平均値をIaveとして、D(x)=i(x)/Iave,Iave=(1/x)∫xoxpi(x)dxにより求められる。
【0009】
このリニアモータの制御方法は、研削装置におけるワーク送り手段として好適に使用され、特に、研削されるワークが白色LEDなどに用いられるサファイアウェーハ、ハードディスクに用いられる結晶化ガラス、シリコンウェーハ、アルミナ焼結体などの硬くて脆い材料である場合に適している。
【0010】
リニアモータによると、ワークを移動させる推力を微小(例えば2N以下)とすることができ、リニアモータの駆動電流を制御することで送り速度が超低速(例えば数mm/s程度または1mm/s以下)でもスムーズな送りを実現することができる。
【0011】
リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)を予め求めるに際しては、速度一定制御を行うことが好ましい。このようにすると、推力ムラの原因となる要素が適正にリニアモータの電流分布D(x)に含まれることになり、実際の制御電流に含まれる推力ムラを確実になくすことができる。
【0012】
この発明によるリニアモータの制御方法においては、推力を力センサで求めて、これを推力目標値の補正用として使用するクローズドループとしてもよく、また、力センサを不要として、オープンループだけで推力を制御するようにしてもよい。前者の場合、制御精度をより高くすることができ、後者の場合、制御精度をある水準以上に確保した上で、装置全体の小型化・安価化が可能になる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のリニアモータの制御方法によると、リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)には、推力ムラの原因となる要素が含まれるので、リニアモータの実際の制御電流を目標推力に対応する計算制御電流(I)とこのリニアモータの電流分布D(x)との積として求めることにより、推力ムラが取り除かれ、精度の良い推力直接制御が可能となる。
【0014】
また、推力制御を行う時のみ、F=Kt*Iから求まるIにリニアモータの電流分布D(x)を掛けて出力すればよいため、力を直接検出する必要がない。したがって、リニアモータを使用するワーク送り装置を小型化・安価化にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、サファイアウェーハなどのワーク(W)を研削する研削装置を示しており、この研削装置(1)は、回転砥石(2)と、ワーク(W)を真空チャック(3a)で支持するワーク支持台(3)と、ワーク支持台(3)をワーク(W)の被加工面と平行な方向に移動させるワーク支持台送り手段としてのリニアモータ(4)と、回転砥石(2)の軸(2a)をワーク(W)の被加工面と垂直な方向に移動させる砥石送り手段(5)と、リニアモータ(4)を制御する制御手段(6)とを備えている。
【0017】
リニアモータ(4)は、複数のコイルユニットからなるリニアモータ可動子(4a)と、可動子(4a)の走行軌道に沿って並べられた複数の永久磁石からなるリニアモータ固定子(4b)とを有し、リニアモータ可動子(4a)の送り速度と位置とを検出する送り速度検出手段を内蔵している。
【0018】
リニアモータ制御手段(6)は、図2に示すように、目標推力F*を出力する目標推力指令部(11)と、目標推力指令部(11)からの出力である目標推力F*を電流に変換して計算制御電流Iを出力する電流演算部(12)と、電流演算部(12)からの出力である計算制御電流Iに計測区間の平均値で規格化されたリニアモータの電流分布D(x)を掛け算して補正済み制御電流Ic=I・D(x)を出力する電流補償部(13)と、電流補償部(13)からの出力である補正済み制御電流Icを増幅し、これを実際の制御電流Irとしてリニアモータ(4)を駆動するサーボアンプ(14)と、リニアモータ(4)に作用する推力Fからリニアモータ(4)の速度vを求める速度演算部(15)と、速度演算部(15)で得られたリニアモータ(4)の速度vからリニアモータ(4)の位置xを求める位置演算部(16)と、位置演算部(16)で得られた位置データxを電流補償部(13)にフィードバックする位置フィードバック回路(17)と、リニアモータ(4)に作用する推力Fを目標推力指令部(11)にフィードバックする推力フィードバック回路(18)とを備えている。
【0019】
目標推力指令部(11)においては、予め設定されている目標推力を必要に応じてリニアモータ(4)に作用する実際の推力Fを使用して補正することで、目標推力F*が求められている。推力フィードバック回路(18)は、必ずしも必要なものではなく、この推力フィードバック回路(18)を省略したオープンループの制御とすることもできる。
【0020】
電流演算部(12)においては、リニアモータ発生推力をF、モータ推力定数をKt、モータ制御電流をIとした場合に、これらの間にF=Kt・Iが成り立っていることを利用し、リニアモータ発生推力Fの目標値であるF*をこの式に代入することで、モータ制御電流Iが求められる。従来は、このモータ制御電流が実際の制御電流とされていたが、本発明では、このモータ制御電流Iは、計算制御電流として、電流補償部(13)に出力される。
【0021】
電流補償部(13)においては、電流演算部(12)から出力された計算制御電流Iにリニアモータの電流分布D(x)が掛け算される。このリニアモータの電流分布D(x)は、リニアモータ(4)を速度一定制御で駆動し、図3に示されているような各位置xにおける電流I(x)を実際に求め、このI(x)をI(x)=Io・D(x)(Ioは電流の実効値)に代入することで求められる。したがって、電流補償部(13)で得られる補正済み制御電流Ic=I・D(x)は、磁極配置精度、配線抵抗、摺動抵抗などの推力ムラの原因となる要素が補償されたものとなっており、これを実際の制御電流とすることで、推力ムラをなくすことができる。リニアモータの電流分布D(x)を求めるためには、リニアモータ(4)の位置データxが必要であるが、これは、リニアモータ(4)の位置xを実測するかまたはリニアモータに対する運動方程式を積分することにより得ることができる。
【0022】
サーボアンプ(14)においては、電流補償部(13)から出力された補正済み制御電流Ic=I・D(x)が増幅され、公知の制御方法に基づいて、リニアモータ(4)に制御電流Irが印加される。
【0023】
リニアモータ(4)では、m:リニアモータ可動子の質量、v:リニアモータの可動子の移動速度、α:リニアモータの可動子の加速度、F:リニアモータ発生推力、μ:摩擦係数として、運動方程式:m・α=F−μ・vが成り立っている。リニアモータ発生推力Fは、例えば、力センサによって検出することができる。速度演算部(15)においては、上記運動方程式を使用して速度vが求められる。そして、位置演算部(16)においては、速度vを積分することで、位置xが求められる。
【0024】
適正な研削を行うためには、送り推力数百gf以下、研削速度が数μm〜数mm/sと低推力・低速度とすることが必要となる。これを回転型モータで行うとすると、大減速比にする必要があり、低推力との両立が不可能となってしまうが、リニアモータ(4)とすることにより、電流制御により推力をダイレクトに発生させることができ、低推力・低速度の両立が可能となる。
【0025】
上記のリニアモータ制御によると、外乱オブザーバを用いた推力直接制御の場合では、高速のCPUが必要となるのに対し、簡単なコントローラを使用して制御を行うことができる。そして、研削時以外は、速度・位置サーボループでの制御でよく、推力制御を行う時のみ、実際の制御電流をI・D(x)とすればよいため、力を直接検出しなくても、それに代わる物理量を用いることができるため、装置全体の小型化・安価化が可能になる。なお、研削時以外の制御を速度・位置サーボループで行う場合、推力ムラは、ループの中で補償されるため、例えば、リニアモータがコアレスタイプの場合、1%未満の速度ムラとして現れる程度であり、推力ムラを考慮しなくても精度の良い制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、この発明のリニアモータの制御方法を実施する装置の1実施形態を模式的に示す側面図である。
【図2】図2は、この発明のリニアモータの制御方法をブロック図として示す図である。
【図3】図3は、リニアモータにおけるリニアモータの電流分布を模式的に示す図である。
【図4】図4は、従来のリニアモータで現れる推力ムラを示すグラフである。
【図5】図5は、この発明の制御方法で制御されるリニアモータで置き換えられるのに好適な一例としての研削装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0027】
(1) 研削装置
(4) リニアモータ(ワーク送り装置)
(6) 制御手段
(W) ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモータの推力を直接制御する際のリニアモータの制御方法であって、リニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)を予め求めておき、目標推力に対応する計算制御電流Iに対し、リニアモータの実際の制御電流をI・D(x)とすることを特徴とするリニアモータの制御方法。
【請求項2】
速度一定制御を行ってリニアモータの位置xに対するリニアモータの電流分布D(x)を求めることを特徴とする請求項1のリニアモータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−26750(P2006−26750A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204291(P2004−204291)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001247)光洋精工株式会社 (7,053)
【出願人】(000167222)光洋機械工業株式会社 (85)
【Fターム(参考)】