説明

リパーゼ製剤及びその製造方法

【課題】従来の固定化リパーゼに比べてエステル交換活性が高く、且つ長期にわたってエステル交換活性を高く保持することができるリパーゼ製剤、及びこのようなリパーゼ製剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】リポプロテインを含有することを特徴とするリパーゼ製剤。該リパーゼ製剤は、さらに油脂を含有することが好ましい。また、該リパーゼ製剤は、リパーゼを、リポプロテインを含有する水中油型乳化物に添加し、混合した後、水を除去することにより製造することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼの活性が高められ、且つ、活性の高い状態を長く保つことができるリパーゼ製剤、及び該リパーゼ製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から油脂のエステル交換反応によって油脂の改質を行なう方法が広く行なわれている。特に最近では、エステル交換油脂は、部分硬化油の代替としての需要の伸びが大きく、その生産量は大きく増加している。
この油脂のエステル交換反応には回分反応と連続反応があり、また、エステル交換の触媒としてはナトリウム化合物を使用する方法とリパーゼを使用する方法がある。
【0003】
リパーゼはナトリウム化合物に比べて大変高価であるため、従来はナトリウム化合物を使用することが多かったが、ナトリウム化合物はその回収除去に手間と時間がかかる問題に加え、その除去時に水洗が必要であることから、水洗と同時にエステル交換油脂も数%失われるため、エステル交換油脂の収率が悪いという問題もあった。
【0004】
一方、リパーゼは回分反応にも連続反応にも用いることができること、位置選択性の反応も可能であること、さらには、室温ないし約55℃程度の温和な条件下で反応を行うことができ、ナトリウム化合物を使用する方法と比べて副反応の抑制やエネルギーコストが低減される特徴があるため、最近では多く使用されるようになってきた。
【0005】
このリパーゼを使用した油脂のエステル交換反応には、リパーゼを固定化して使用する方法と粉末のまま使用する方法がある。
従来はリパーゼを、その回収再利用が容易であることから、陰イオン交換樹脂、フェノール樹脂、疎水性担体、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等の担体に固定化して使用する方法が行なわれてきた。しかし、リパーゼを担体に固定することでリパーゼ活性が低下するという問題に加え、どうしても徐々にリパーゼが担体から脱離し失われてしまい、リパーゼコストが高くなる問題があった。
【0006】
そこで、この問題を避けるため、リパーゼを固定化せずに粉末のまま使用する方法も行なわれるようになってきた。しかし、この方法は、固定化して用いる方法に比べ確かにリパーゼ活性は高いものの、粉末リパーゼは極めて微細であるため、回収再利用のためのろ別の際、ろ過性が悪いだけでなく、どうしても粉末リパーゼが回収しきれずにエステル交換油脂中に分散したまま流出してしまい、結果としてリパーゼコストが高くなる問題があった。
【0007】
さらに、エステル交換反応を行う際には、油脂の温度は油脂の融点以上に加熱する必要があるところ、リパーゼは蛋白質であるため、熱により徐々に活性が失われやすく、特に高融点油脂を使用する場合等の高温環境下、特に55℃を超える場合ではその活性の低下が著しいという問題があった。
【0008】
このように、リパーゼを使用したエステル交換反応を行う際は、リパーゼ自体の活性が低下することに加え、リパーゼ自体も徐々に失われるため、同一の反応時間で同一の反応率を得ようとすると、リパーゼを一定頻度で補充する必要がある。
従って、エステル交換反応によって油脂の改質を行う際に、リパーゼを使用する場合は、リパーゼの補充の頻度をいかに少なくするか、言い換えれば、使用したリパーゼ1gあたりのエステル交換油脂の生産量をいかに増やすか、が大変重要な課題となっている。
この課題を解決するためには、リパーゼの活性自体を高める方法と、リパーゼの安定性を高めて活性の低下を防止する方法がある。
【0009】
まず、リパーゼの活性自体を向上させる方法としては、リパーゼの活性化剤をリパーゼと接触させる方法が各種提案されている。例えば、リパーゼとリン脂質を接触・結合させた状態で不溶性担体に固定化してなる固定化酵素を使用する方法(特許文献1)、水にレシチンを懸濁し、リパーゼ添加、さらに担体を添加して得られた固定化酵素を使用する方法(特許文献2)、固定化リパーゼをアセトン又は含水アセトンに接触させた後アセトン又はアセトンと水を略完全に除去した固定化リパーゼを使用する方法(特許文献3)、水と揮発性溶媒からなる2相系に酵素を添加し、水と揮発性溶媒を除去して得られた活性化酵素を使用する方法(特許文献4)、リパーゼと豆類蛋白とを含有する造粒物であるリパーゼ粉末製剤を使用する方法(特許文献5)等が提案されている。
【0010】
しかし、特許文献1、2記載の方法は、不溶性担体への固定化の際にリパーゼ活性の損失が大きく、得られた固定化酵素の活性が充分でないという問題があった。特許文献3、4記載の方法は、有機溶媒を用いている為、安定性に乏しい粉末リパーゼには応用できず、逆に粉末リパーゼを失活させてしまう問題があった。特許文献5記載の方法は、豆類蛋白の抽出方法が煩雑であり工業化が困難という問題に加え、豆類蛋白は水溶性であるため保管中やエステル交換時に吸湿しないように注意が必要であるという問題があった。
【0011】
また、リパーゼの安定性を高める方法として、原料油脂にリン脂質を添加する方法(特許文献6)、原料油脂をアルカリ性物質と接触させる方法(特許文献7)、水溶性蛋白質等の水溶性高分子を反応系に添加する方法(特許文献8)等が提案されている。
【0012】
しかし、特許文献6及び特許文献8記載の方法は、添加したリン脂質や水溶性高分子を後で精製により除去する必要がある為に、精製工程が煩雑で結果として製造コストが高くなる問題があり、特許文献7記載の方法は、アルカリを水溶液で添加しているため、エステル交換反応前に水溶液を脱水する必要が生じてしまい操作が煩雑で、結果として製造コストが高くなる問題があった。さらに、特許文献6〜8に記載の方法は、何れもリパーゼの活性を高める効果については乏しいものであった。
【0013】
このように、リパーゼの活性化と安定性の改善を、同時に解決できた発明は見当たらない。この理由は以下のように考えられる。
例えば、リン脂質については、特許文献1、2のように固定化酵素で使用することでリパーゼを活性化できることは知られていた。それをあえて固定化せずに、リン脂質を油脂に添加すると、特許文献6に記載されているように、リパーゼの寿命延長効果はあるが、リパーゼと接触させた場合には、該寿命延長効果が減じられてしまうことが知られている。また、水溶性高分子については、特許文献8に記載されているように、耐酸・耐熱安定化作用はあるが、リパーゼの活性化作用は無いことが知られている。
このように、ある物質を油脂に添加した場合とリパーゼに接触させた場合では同一物質であっても全く逆の効果があったり、また、酵素活性の安定化と酵素の活性化は別の機構であると考えられているためである。
このため、リパーゼの活性化と安定性の改善を同時に解決できるリパーゼ製剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−214184号公報
【特許文献2】特開平03−049684号公報
【特許文献3】特開2000−253874号公報
【特許文献4】特開2000−270861号公報
【特許文献5】特開2007−068426号公報
【特許文献6】特開平11−103884号公報
【特許文献7】特開平02―203789号公報
【特許文献8】特開平07−289257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、従来の固定化リパーゼに比べてエステル交換活性が高く、且つ長期にわたってエステル交換活性を高く保持することができるリパーゼ製剤、及びこのようなリパーゼ製剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上述のように、一般的にリパーゼの活性化剤と知られているレシチン(リン脂質)は、固定化酵素において使用されるという常識に反し、また、酵素安定化のためには、レシチンはリパーゼに接触させてはいけないという知見に反し、さらには、水溶性蛋白質は、酵素の耐熱安定性は向上させるが活性は向上させることができないという知見に反し、レシチンを蛋白質と複合させ、リポプロテインの形態とすると、リパーゼと直接接触させた場合に、固定化せずとも、その活性を高め且つ長期にわたってそのエステル交換活性を保持することができることを見出した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、リポプロテインを含有することを特徴とするリパーゼ製剤を提供するものである。
また、本発明は、リパーゼを、リポプロテインを含有する水中油型乳化物に添加し、混合した後、水を除去することを特徴とするリパーゼ製剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリパーゼ製剤は、固定化によるリパーゼ活性の損失がなく、リパーゼが活性化された状態で長期にわたって安定であるため、エステル交換反応によって油脂の改質を行う際に、使用したリパーゼ単位あたりのエステル交換油脂の生産量を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のリパーゼ製剤について詳細に説明する。
本発明で用いられるリパーゼとしては、特に限定されず、例えば、リゾプス属、ムコール属、アスペルギルス属、シュードモナス属、アルカリゲネス属、キャンディダ属等の微生物由来のもの、及び動植物由来のものを挙げることができる。本発明においては、エステル交換能が最も高いことから、アルカリゲネス属由来のリパーゼを使用することが好ましい。
【0020】
本発明のリパーゼ製剤におけるリパーゼの含有量は、求める活性のレベルや由来の違いにより一概には言えないが、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。0.1質量%未満又は30質量%超では、得られるリパーゼ製剤のエステル交換活性が低くなりやすいので好ましくない。
【0021】
本発明で用いられるリポプロテインは、極性脂質と蛋白質の複合体である。
上記極性脂質としては、ジグリセリド、リン脂質、糖脂質、有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の乳化性を有する脂肪酸エステル類を挙げることができる。これらの中でも、本発明では高い活性のリパーゼ製剤が得られる点で、リン脂質であることが好ましい。上記リン脂質としては、植物や動物起源のレシチン、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、乳レシチン、なたねレシチン、パームレシチン等を挙げることができ、さらには、それらを精製したものや、それらを酵素分解処理して得られるものが挙げられる。
【0022】
上記蛋白質としては、水溶性であれば特に制限はなく、例えば、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質等の乳蛋白質、卵黄蛋白質、卵白蛋白質等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白質、大豆蛋白質、米蛋白質、肉蛋白質、その他の動物性蛋白質及び植物性蛋白質等を挙げることができる。これらの蛋白質は、目的に応じて、一種又は二種以上の蛋白質の形で添加してもよく、あるいは一種又は二種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
【0023】
上記蛋白質を含有する食品素材としては、例えば、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、トータルミルクプロテイン、ミルクプロテインコンセントレート、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、脱脂粉乳、全粉乳、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、大豆粉末、魚肉粉末、卵白粉末、卵黄粉末等を使用することができる。
【0024】
上述のように本発明で使用するリポプロテインは、上記極性脂質と上記蛋白質の複合体である。該複合体は、例えば、極性脂質と蛋白質を溶解又は分散させた水溶液を、機械的手段及び/又は超音波処理等で均質化し、好ましくは凍結乾燥、スプレードライ、溶剤沈殿・乾燥等の方法により水分を除去することによって得ることができる。この複合体は、単に極性脂質と蛋白質を含む水溶液を静置したり、撹拌混合を行うだけでは得られず、均質化することが必要である。均質化は、機械的手段による場合は、例えば、ホモミキサー等の撹拌機を用い、40〜80℃にて4000〜16000rpmで10〜60分撹拌することにより行うことができる。
【0025】
本発明で用いられるリポプロテインは、天然のものであってもよい。ここで、天然のリポプロテインとしては、生体膜の構成成分である脂質二重膜を挙げることができる。この脂質二重膜としては、人、ウシ、ヤギ、水牛等の乳あるいは血液中に含まれるものや、鶏、鶉、ダチョウ等の卵、あるいは、鮭、タラ、ぶり等の卵に含まれるものを挙げることができ、これらを精製したものや、リポプロテインを含有する食品素材、即ち脂質二重膜を含有する食品素材の形態で使用することもできる。
【0026】
なかでも、本発明では、特に風味が良好である点、さらには、極性脂質としてリン脂質を多く含有し、リン脂質と蛋白質の含有量の比が下述の好ましい範囲にある点で、ウシの乳に含まれるリポプロテイン、即ち、乳脂肪球被膜蛋白質を使用することが好ましい。この乳脂肪球被膜蛋白質を含有する乳製品としては、バターミルク、バターミルクパウダー、バターゼラム、バターゼラムパウダー等を挙げることができるが、乳脂肪球被膜蛋白質含量が高い点で、バターゼラム又はバターゼラムパウダーを使用することが好ましい。
【0027】
なお、上記天然のリポプロテインやリポプロテインを含有する食品素材は、さらにホスホリパーゼ処理により分解処理してもよい。
【0028】
本発明のリパーゼ製剤における上記リポプロテインの含有量は、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、5〜80質量%が好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。5質量%未満又は80質量%超では得られるリパーゼ製剤のエステル交換活性が低くなるおそれがある。
【0029】
上記リポプロテインがリン脂質と蛋白質の複合体である場合、リン脂質と蛋白質との質量比は、リン脂質:蛋白質=5:95〜50:50、特に10:90〜30:70であることが好ましい。なお、上記リポプロテインがリン脂質以外の極性脂質と蛋白質の複合体である場合も、上記の比に準じることが好ましい。
【0030】
また、上記リポプロテインがリン脂質と蛋白質の複合体である場合、本発明のリパーゼ製剤において、リポプロテインの形態で含まれるリン脂質の含有量は、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは2〜12質量%であり、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質の含有量は、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%である。なお、上記リポプロテインがリン脂質以外の極性脂質と蛋白質の複合体である場合も、上記の各含有量に準じることが好ましい。
【0031】
本発明のリパーゼ製剤は、油脂(中性脂質)を含有することが好ましい。該油脂としては、例えば、乳脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本発明のリパーゼ製剤における油脂の含有量は、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜70質量%である。10質量%未満又は90質量%超では得られるリパーゼ製剤のエステル交換活性が低くなるおそれがある。なお、上記のリポプロテインを含有する食品素材を使用した場合は、その中に含まれる油脂の含量もあわせて計算するものとする。
【0033】
なお、本発明のリパーゼ製剤では、担体やろ過助剤を使用することも可能ではあるが、高いエステル交換活性を得るためには使用しないことが好ましい。
【0034】
また、本発明のリパーゼ製剤では、上記リポプロテイン以外にも、水溶性の乳化剤、例えばショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ハイドレート型のモノグリセリド等を併用してもよい。ただし、油溶性の乳化剤については、エステル交換活性を低下させるおそれがあるため使用しないことが好ましい。
【0035】
本発明のリパーゼ製剤は、水分含量が10質量%以下であるのが好ましく、特に、1〜8質量%であるのが好ましい。
【0036】
次に本発明のリパーゼ製剤の製造方法について述べる。
本発明のリパーゼ製剤は、粉末リパーゼとリポプロテインを混合することによっても得ることができるが、高いエステル交換活性を得るためには、油脂をさらに添加することが好ましい。
【0037】
また、本発明のリパーゼ製剤は、粉末リパーゼを、リポプロテインを分散した水に溶解し、混合後、好ましくは水分を除去すると、より高いエステル交換活性を得ることができる。そして、溶解時に油脂が存在すると、さらに高いエステル交換活性を得ることができる。さらに、本発明のリパーゼ製剤は、リパーゼを、水に溶解する代わりに、水中油型乳化物に溶解すると、最も高いエステル交換活性を得ることができる。
即ち、本発明のリパーゼ製剤は、最も好ましくは、リパーゼを、リポプロテインを含有する水中油型乳化物に添加し、混合した後、水を除去することによって得ることができる。以下、この製造方法の場合について詳しく述べる。
【0038】
上記水中油型乳化物は、本発明で使用するリポプロテインを含むものであるが、リポプロテインにより水中油型乳化しているものが好ましい。即ち、上記水中油型乳化物は、リポプロテイン以外の乳化剤を含まないことが好ましい。
ここで、上記水中油型乳化物におけるリポプロテイン含有量は好ましくは0.01〜25質量%、より好ましくは0.2〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0039】
上記水中油型乳化物における油脂含有量は好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.2〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。上記水中油型乳化物における水分含有量は好ましくは50〜99.5質量%、より好ましくは90〜99質量%、さらに好ましくは95〜99質量%である。
もちろん、ここで、リポプロテインを含有する食品素材を使用する場合、該食品素材が油脂を含有する場合は、該水中油型乳化物に使用する油脂として利用することができ、また、水を含む場合は該水中油型乳化物に使用する水として利用することができる。
【0040】
リパーゼを、リポプロテインを含有する水中油型乳化物に添加する方法を採る場合、リパーゼを添加してからの混合については、好ましくはパドル式撹拌機、ホモミキサー等の撹拌機を用い、好ましくは50〜10000rpm、より好ましくは100〜6000rpmで、好ましくは20〜180分撹拌する。なお、リパーゼを、リポプロテインを含有する水に添加する方法を採る場合も、上記の条件に準じて撹拌することが好ましい。
リパーゼは、リポプロテインとの撹拌混合により、活性化された状態に変化する。
【0041】
続いて、好ましくは水分を除去し、水分含量を好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは1〜8質量%とする。水分の除去方法としては、凍結乾燥、スプレードライ、溶剤沈殿・乾燥等の方法を挙げることができる。
【0042】
さらに、好ましくは粉末化する。粉末化することで、油脂のエステル交換を行う際に、原料油脂に添加してただちにエステル交換反応を開始することが可能な点で好ましい。
【0043】
本発明のリパーゼ製剤は、リパーゼを用いる任意の反応において、従来の場合と同様の手順により、これを用いることができる。リパーゼを用いる反応としては、例えば、エステル交換、エステル合成、加水分解等を挙げることができるが、エステル交換に利用することが最も好ましい。なお、従来活性があまりに低かったために使用が不向きできあった例えば選択的エステル交換反応にも利用できる。
【0044】
また、本発明のリパーゼ製剤を用いたエステル交換反応により得られた油脂は、従来の一般の油脂と全く同様の用途に用いることができ、クリーム、マーガリン、ショートニング、ドレッシング、チョコレート等の油脂原料として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何等制限されるものではない。なお、例中に示す%は、特に記載がない限り質量%を意味する。
【0046】
〔実施例1〕
<リパーゼ製剤の製造>
1000mlの4つ口フラスコに水相として蒸留水:600gを入れ、リポプロテインとしてバターゼラム粉末(Corman S.A.製、蛋白含量30.6%、乳脂含量2.3%、リン脂質含量9.5%):5.0gを添加して溶解させた。その後、油相としてパームオレイン:5.0gを添加し、55℃の湯浴中で130rpmにて1時間、パドル式撹拌機を用いて撹拌し、リポプロテインで乳化した水中油型乳化物を作成した。
作成した水中油型乳化物にアルカリゲネス(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼ(名糖産業(株)製「リパーゼQLM」):1.0gを添加し、55℃の湯浴中で130rpmにて1時間、パドル式撹拌機を用いて撹拌した。
次いで、この水中油型乳化物を凍結乾燥して水相を除去し、水分含量3.7%、リパーゼ含量8.8%、油脂含量44.8%、リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量4.2%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量13.4%の粉末状のリパーゼ製剤を得た。なお、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、リパーゼ含量は9.1%、油脂含量は46.5%、リポプロテイン含量は18.2%(リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量は4.3%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量は13.9%)であった。
【0047】
<エステル交換油脂の製造>
2000mlの4つ口フラスコにパームオレイン1000g(水分500ppm)、上記で得られたリパーゼ製剤全量を添加し、55℃の湯浴中で130rpmにてパドル式撹拌機を用いて撹拌し、回分反応によりエステル交換反応を行った。
反応生成物について、GLCでトリパルミチン含量を測定し、下記に示す(1)式で反応率を求めた。
反応率=(反応生成物のトリパルミチン含量−原料油脂のトリパルミチン含量)/(反応平衡組成物のトリパルミチン含量−原料油脂のトリパルミチン含量) ・・・(1)
【0048】
次いで、反応時間を横軸に、ln〔1/(1−反応率)〕を縦軸にプロットし、原点を通る一次近似式を設定して、1時間あたりのln〔1/(1−反応率)〕を読み取り、エステル交換活性能aとした。
このエステル交換活性能aと、X=粉末リパーゼ(リパーゼQLM)使用量(g)、Y
=反応に供した油脂使用量(g)から下記に示す(2)式で算出した値を、エステル交換初期活性値とし、表1に記載した。
エステル交換初期活性値=aY/X ・・・(2)
【0049】
反応率が0.9以上になったところで、反応を終了し、メンブレンフィルター(ADVANTEC社製、孔径0.50μm)を用いたろ別によりリパーゼ製剤を回収した。
次いで、回収したリパーゼ製剤の全量を、1000gの新たな原料油脂(パームオレイン)中に添加、分散し、上記と同様の条件でエステル交換反応を再度行なった。
同一の操作を、エステル交換活性値(2回目以降の場合、上記計算式で得られるエステル交換初期活性値をエステル交換活性値という)が1/10となるまで繰り返し、その間に生産することができたエステル交換油の総生産量(kg)を、リパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ量(g)で除し、エステル交換活性値が1/10となるまでの期間におけるリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量(kg)を算出した。該生産量を表1に記載した。該生産量はエステル交換油脂の生産性の指標となるものである。
【0050】
〔実施例2〕
1000mlの4つ口フラスコに水相として蒸留水:600gを入れ、リポプロテインとして実施例1で用いたバターゼラム粉末:5.0gを添加して溶解させた。その後、55℃の湯浴中で130rpmにて1時間、パドル式撹拌機を用いて撹拌し、リポプロテイン水溶液を作成した。
作成したリポプロテイン水溶液にアルカリゲネス(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼ(名糖産業(株)製「リパーゼQLM」):1.0gを添加し、55℃の湯浴中で130rpmにて1時間、パドル式撹拌機を用いて撹拌した。
次いで、このリポプロテイン水溶液を凍結乾燥して水相を除去し、水分含量5.2%、リパーゼ含量16.1%、油脂含量1.8%、リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量7.6%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量24.6%の粉末状のリパーゼ製剤を得た。なお、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、リパーゼ含量は16.7%、油脂含量は1.9%、リポプロテイン含量は33.4%(リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量は7.9%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量は25.5%)であった。
以下、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。エステル交換初期活性値及びリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量については実施例1同様に算出し、表1に記載した。
【0051】
〔実施例3〕
1000mlの4つ口フラスコに蒸留水:600gを入れ、「カゼインカリウム」(蛋白質含量90%):4.2gと大豆レシチン(油脂含量35%、リン脂質含量65%):0.8gを添加し、55℃の湯浴中で6000rpmにて30分間、ホモミキサーを用いて均質化し、続けて凍結乾燥して水分を除去し、リポプロテイン含有粉末(水分含量2%、蛋白質含量75.5%、油脂含量5.5%、リン脂質含量10.5%):5.2gを作成した。
実施例1で使用したバターゼラム粉末5.0gに代えて、このリポプロテイン含有粉末:5.2gを使用した以外は、実施例1と同様にして水分含量5.2%、リパーゼ含量8.8%、油脂含量46.2%、リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量4.6%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量33.1%の粉末状のリパーゼ製剤を得た。なお、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、リパーゼ含量は9.1%、油脂含量は45.5%、リポプロテイン含量は39.1%(リポプロテインの形態で含まれるリン脂質含量は4.7%、リポプロテインの形態で含まれる蛋白質含量は34.4%)であった。
以下、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。エステル交換初期活性値及びリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量については実施例1同様に算出し、表1に記載した。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1で使用した「リパーゼQLM」をそのまま比較例1のリパーゼ製剤とし(水分含量2.9%)、パームオレイン1000g(水分500ppm)に対し1.0g添加とした以外は、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。エステル交換初期活性値及びリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量については実施例1同様に算出し、表1に記載した。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1で使用したバターゼラム粉末に代えて「カゼインカリウム」(蛋白質含量90%)を用いた以外は、実施例1と同様にして水分含量3.4%、リパーゼ含量8.8%、油脂含量43.8%、リン脂質含量0%、蛋白質含量39.4%の粉末状のリパーゼ製剤を得た。なお、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、リパーゼ含量は9.1%、油脂含量は45.5%、リン脂質含量は0%、蛋白質含量は40.9%であった。
以下、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。エステル交換初期活性値及びリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量については実施例1同様に算出し、表1に記載した。
【0054】
〔比較例3〕
実施例1で使用したバターゼラム粉末5.0gに代えて、乳脂肪(蛋白質含量0%、乳脂含量100%)3.5gと大豆レシチン(油脂含量5%、リン脂質含量95%)1.5gとの混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして水分含量4.0%、リパーゼ含量8.8%、油脂含量75.1%、リン脂質含量12.5%の粉末状のリパーゼ製剤を得た。なお、水分を除いたリパーゼ製剤の全成分中、リパーゼ含量は9.1%、油脂含量は78.0%、リン脂質含量は13.0%、蛋白質含量は0%であった。
以下、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。エステル交換初期活性値及びリパーゼ製剤製造時に投入した粉末リパーゼ1gあたりのエステル交換油の生産量については実施例1同様に算出し、表1に記載した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、リン脂質のみを含有するリパーゼ製剤(比較例3)、及び蛋白質のみを含有するリパーゼ製剤(比較例2)では、リパーゼを単独で使用した比較例1に比較して、エステル交換初期活性値及びエステル交換油の総生産量ともほぼ同等である。これに対し、蛋白質とリン脂質の複合体であるリポプロテインを含有する本発明のリパーゼ製剤(実施例1〜3)を使用した場合、エステル交換初期活性値及びエステル交換油の総生産量とも大幅に向上していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポプロテインを含有することを特徴とするリパーゼ製剤。
【請求項2】
さらに油脂を含有する請求項1記載のリパーゼ製剤。
【請求項3】
上記リポプロテインが乳脂肪球被膜蛋白質である請求項1又は2記載のリパーゼ製剤。
【請求項4】
リパーゼを、リポプロテインを含有する水中油型乳化物に添加し、混合した後、水を除去することを特徴とするリパーゼ製剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−17284(P2012−17284A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154987(P2010−154987)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】