説明

リン置換ポルフィリン化合物の製造方法

【課題】 各種のリン官能基をポルフィリン環に自在に導入することを可能にする、リン置換ポルフィリン化合物の新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】 ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスフィン置換ポルフィリン化合物を製造する。ホスフィン置換ポルフィリン化合物は、例えば、酸化反応に付することでホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物に変換することができる。また、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を製造する。ホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物は、例えば、脱エステル化反応に付することでホスホン酸置換ポルフィリン化合物に変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属を触媒として用いたカップリング反応によるリン置換ポルフィリン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルフィリン化合物は、美しい色彩を持つ大環状芳香族化合物であり、有機太陽電池の増感剤、酵素センサー、癌の光化学療法(PDT:Photodynamic Therapy)などに用いられる光機能性色素として利用されている他、有機半導体や光記録媒体を製造するための機能性材料として利用されたり、炭化水素の酸化触媒などに金属配位子として利用されたりしている。このような様々な利用価値を持つポルフィリン化合物に、より優れた機能性を付与するためには、ポルフィリン化合物の物性を制御し、その機能を最大限に発揮させるための、ポルフィリン環への官能基の導入が重要な合成的課題となる。ポルフィリン環に官能基を自在に導入できれば、導入された官能基を介してポルフィリンの機能を直接アウトプットできるため、迅速かつ効率的な機能発現が可能になると期待される。
【0003】
ポルフィリン環に官能基を導入するための方法論は、既に種々の官能基について報告されているが、リン官能基の導入方法についてはそれほど多くの報告があるわけではない。これまでに報告されているポルフィリン環へのリン官能基の導入方法としては、例えば、次のような方法がある。
【0004】
【化2】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のポルフィリン環へのリン官能基の導入方法は、いずれも、ポルフィリンの(電解)酸化を利用した方法であるため、生成物がホスホニウム塩に限定されること、ホスホニウム塩は反応性に乏しいことから、汎用性に欠けるという問題がある。従って、上記の方法は、残念ながら、反応性に富むリン官能基をポルフィリン環に自在に導入することができる方法であるとは言えない。
そこで本発明は、各種のリン官能基をポルフィリン環に自在に導入することを可能にする、リン置換ポルフィリン化合物の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の技術背景に基づいて鋭意研究を重ねた結果、遷移金属を触媒として用いたカップリング反応を利用することで、リン官能基をポルフィリン環に自在に導入することができることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のホスフィン置換ポルフィリン化合物の製造方法は、請求項1記載の通り、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることを特徴とする。
また、本発明のホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物の製造方法は、請求項2記載の通り、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスフィン置換ポルフィリン化合物を得た後、これを酸化反応に付することを特徴とする。
また、本発明のホスフィンスルフィド置換ポルフィリン化合物の製造方法は、請求項3記載の通り、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスフィン置換ポルフィリン化合物を得た後、これを硫化反応に付することを特徴とする。
また、本発明のホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物の製造方法は、請求項4記載の通り、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることを特徴とする。
また、本発明のホスホン酸置換ポルフィリン化合物の製造方法は、請求項5記載の通り、ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を得た後、これを脱エステル化反応に付することを特徴とする。
また、請求項6記載の製造方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法において、ハロゲン置換ポルフィリン化合物がZn錯体またはNi錯体の形態であることを特徴とする。
また、請求項7記載の製造方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法において、遷移金属が第8属〜第11属の第4周期〜第6周期に属する遷移金属であることを特徴とする。
また、請求項8記載の製造方法は、請求項1乃至7のいずれかに記載の製造方法において、置換位置がポルフィリン環のメソ位であることを特徴とする。
また、本発明のリン置換ポルフィリン化合物は、請求項9記載の通り、下記の一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0008】
【化3】

【0009】
[式中、Mは2個の水素原子、配位子を有していてもよい金属原子を示す。R5は、-PR21R22、-P(0)R23R24、-P(S)R25R26、-P(O)(OR27)(OR28)、-P(O)(OH)2から選ばれるリン官能基を示す。R2、R3、R7、R8、R10、R12、R13、R15、R17、R18、R20は、同一または異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、-COR29を示す。R2、R3、R7、R8、R10、R12、R13、R15、R17、R18、R20は、同一または異なって、隣接する置換基と一緒になって、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい連結基を形成して互いに連結することで5員環〜7員環を形成してもよい。R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、同一または異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R29は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポルフィリン環のβ位とメソ位のいずれの位置に対しても、対応するハロゲン置換ポルフィリン化合物を原料として、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィド、ホスホン酸エステル、ホスホン酸、ホスホニウム塩といった各種のリン官能基を、1またはそれ以上の工程によって自在に導入することができるので、リン置換ポルフィリン化合物の効率的な製造が可能となる。本発明の方法で製造されるリン置換ポルフィリン化合物は、ポルフィリン環に導入されたリン官能基の反応性を利用することで、クラスター化などが容易であり、ポルフィリン環を有する様々な有用化合物に変換することができることから、その重要な原料となる。また、ポルフィリン環に結合したリンは、ポルフィリン環のπ電子系と電子的な相互作用を有するので、本発明の方法で製造されるリン置換ポルフィリン化合物は、この作用に基づく種々の機能を発揮させることができることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明によって製造することができるリン置換ポルフィリン化合物について説明する。本発明によれば、例えば、下記の一般式(2)で表されるリン置換ポルフィリン化合物を、対応するハロゲン置換ポルフィリン化合物から製造することができる。
【0012】
【化4】

【0013】
[式中、Mは2個の水素原子、配位子を有していてもよい金属原子を示す。R32、R33、R35、R37、R38、R40、R42、R43、R45、R47、R48、R50の少なくとも1つは、同一または異なって、-PR51R52、-P(0)R53R54、-P(S)R55R56、-P(O)(OR57)(OR58)、-P(O)(OH)2、-(PR59R60R61)+X-から選ばれるリン官能基を示し、それ以外は、同一または異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、-COR62を示す。リン官能基ではないR32、R33、R35、R37、R38、R40、R42、R43、R45、R47、R48、R50は、同一または異なって、隣接するリン官能基ではない置換基と一緒になって、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい連結基を形成して互いに連結することで5員環〜7員環を形成してもよい。R51、R52、R53、R54、R55、R56、R57、R58、R59、R60、R61は、同一または異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R62は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。Xはハロゲン原子を示す。]
【0014】
上記の一般式(2)で表されるリン置換ポルフィリン化合物のうち、例えば、下記の一般式(3)で表されるホスフィン置換ポルフィリン化合物、下記の一般式(4)で表されるホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物、下記の一般式(5)で表されるホスフィンスルフィド置換ポルフィリン化合物、下記の一般式(6)で表されるホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物、下記の一般式(7)で表されるホスホン酸置換ポルフィリン化合物は、これまでに報告がない新規化合物である。
【0015】
【化5】

【0016】
[式中、M、R2、R3、R7、R8、R10、R12、R13、R15、R17、R18、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、前述の通り。]
【0017】
本発明において、配位子を有していてもよい金属原子としては、配位子としてハロゲン原子、酸素原子、水酸基、アミノ基などを有していてもよいMg、Zn、Ni、Cu、V、Ti、Ga、Sn、In、Al、Mn、Fe、Co、Pb、Ge、Mo、Rhなどを例示することができる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基などの炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状または環状のものを例示することができる。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基などの炭素数2〜10の直鎖状または分枝鎖状のものを例示することができる。
アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基などの炭素数2〜10の直鎖状または分枝鎖状のものを例示することができる。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、環原子数が8〜10のオルト融合した二環式の基で、少なくとも一つの環が芳香環であるもの(例えばインデニル基)などを例示することができる。
ヘテロアリール基としては、ピロリル基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、1,2,4-オキサジアゾリル基、1,2,4-チアジアゾリル基、ピリジル基、ピラニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、1,2,4-トリアジニル基、1,2,3-トリアジニル基、1,3,5-トリアジニル基、1,2,5-オキサチアジニル基、1,2,6-オキサチアジニル基、ベンゾキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、チアナフテニル基、イソチアナフテニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、イソインドリル基、インドリル基、インダゾリル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、ベンゾキサジニル基などを例示することができる。
アリールアルキル基としては、そのアリール部は上記と同様であり、そのアルキル部は好ましくは炭素数1〜3の直鎖状または分枝鎖状である、ベンジル基、フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2-(1-ナフチル)エチル基、2-(2-ナフチル)エチル基、3-(1-ナフチル)プロピル基、3-(2-ナフチル)プロピル基などを例示することができる。
ヘテロアリールアルキル基としては、そのヘテロアリール部は上記と同様であり、そのアルキル部は好ましくは炭素数1〜3の直鎖状または分枝鎖状である、2-ピロリルメチル基、2-ピリジルメチル基、3-ピリジルメチル基、4-ピリジルメチル基、2-チエニルメチル基、2-(2-ピリジル)エチル基、2-(3-ピリジル)エチル基、2-(4-ピリジル)エチル基、3-(2-ピロリル)プロピル基などを例示することができる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状のものを例示することができる。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、塩素原子や臭素原子やヨウ素原子などのハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、低級アルキルカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルコキシ基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシ基、カルボニル基、カルバモイル基、低級アルキルカルバモイル基、低級アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、低級アルコキシスルホニル基、スルファモイル基、低級アルキルスルファモイル基、スルファニル基、スルフィノ基、スルホ基、ジ低級アルキルホスホリル基、ジアリールホスホリル基、ジ低級アルコキシホスホリル基、ジアミノホスホリル基、これらの置換基を有していもよい低級アルキル基(少なくとも1つの水素がハロゲンで置換されていてもよい)、これらの置換基を有していもよいアリール基やヘテロアリール基などを例示することができる。置換基は、場合によっては自体公知の保護基で保護された形態であってもよい。ここで、低級とは、炭素数1〜6を意味する。なお、置換基の数は、通常1〜3である。置換基の数が2以上の場合、2以上の置換基は、同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0018】
次に、本発明においてリン置換ポルフィリン化合物を製造する方法について説明する。本発明において、製造対象となるリン置換ポルフィリン化合物の原料となる、リン官能基が導入される位置にハロゲンが導入されたハロゲン置換ポリフィリン化合物は、例えば、Odobel, F.; Suzenet, F.; Blart, E.; Quintard, J.-P. Org. Lett. 2000, 2, 131-133や、Yeung, M.; Ng, A. C. H.; Drew, M. G. B.; Vorpagel, E.; Breitung, E. M.; McMahon, R. J.; Ng, D. K. P. J. Org. Chem. 1998, 63, 7143-7150などに記載の方法で製造することができる。ポルフィリン環に導入されるハロゲンとしては、塩素や臭素やヨウ素などを例示することができるが、中でも反応性に富む点でヨウ素が望ましい。
【0019】
ホスフィン置換ポルフィリン化合物を製造するために用いる第二ホスフィンとしては、一般式:R63R64PHで表される化合物を例示することができる(式中、R63とR64は、同一または異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。)。第二ホスフィンは、ボランと錯体を形成している形態であってもよい。
【0020】
ホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を製造するために用いる亜リン酸エステルとしては、一般式:HP(O)(OR65)(OR66)で表される化合物を例示することができる(式中、R65とR66は、同一または異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。)。
【0021】
カップリング反応に用いる遷移金属としては、例えば、第8属〜第11属の第4周期〜第6周期に属する遷移金属、具体的には、Co、Ni、Cu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptなどを挙げることができる。これらは、有機合成において汎用される各種の有機酸金属塩や金属錯体や金属ハロゲン化物などの形態のものを用いればよい(例えばPd(OAc)2、Pd(PPh3)4、PdCl2(dppf)、PdCl2(PPh3)2、CuIなど)。金属触媒は、ハロゲン置換ポルフィリン化合物に対し、1mol%〜30mol%の割合で用いればよい(ハロゲン置換ポルフィリン化合物を金属錯体の形態で用いる場合)。ハロゲン置換ポルフィリン化合物を遊離塩基の形態で用いる場合、金属触媒がハロゲン置換ポルフィリン化合物に取り込まれて錯体を形成することがあるので、金属触媒の使用量は、ハロゲン置換ポルフィリン化合物を金属錯体の形態で用いる場合に比較して、増加させるべきである。
【0022】
なお、第二ホスフィンや亜リン酸エステルは、ハロゲン置換ポルフィリン化合物1molに対し、1mol〜5molの割合で反応させればよい。
【0023】
反応条件の一例としては、トルエンやキシレンのような芳香族炭化水素などの非極性有機溶媒や、テトラヒドロフランやアセトニトリルやベンゾニトリルのような極性有機溶媒を用い、室温〜200℃で1時間〜10日間行うといった条件を挙げることができる。反応系内には、副生するヨウ化水素を捕捉するための炭酸セシウム、炭酸カリウム、ジイソプロピルエチルアミンなどを添加してもよい。また、金属錯体の可溶化を容易にするために、N,N’-ジメチルエチレンジアミンやトリエチルアミンなどを反応系内に添加してもよい。
【0024】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで製造されるホスフィン置換ポルフィリン化合物は、例えば、空気中の酸素と反応させて酸化することでホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物に変換することができる。ホスフィン置換ポルフィリン化合物が空気に対して極めて敏感である場合、これを単離することなく、ハロゲン置換ポルフィリン化合物をホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物にまで変換することが望ましい。その方法としては、例えば、前述のようにしてハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンをカップリング反応させた後、空気中で分離精製する方法を挙げることができる。また、ホスフィン置換ポルフィリン化合物は、例えば、単体硫黄と反応させて硫化することでホスフィンスルフィド置換ポルフィリン化合物に変換することができる。ホスフィン置換ポルフィリン化合物が空気に対して極めて敏感である場合、これを単離することなく、ハロゲン置換ポルフィリン化合物をホスフィンスルフィド置換ポルフィリン化合物にまで変換することが望ましい。その方法としては、例えば、前述のようにしてハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンをカップリング反応させた後、室温で1時間〜1日、単体硫黄と反応させる方法を挙げることができる。また、ホスフィン置換ポルフィリン化合物は、例えば、ハロゲン化アルキルやハロゲン化アリールなどと反応させることでホスホニウム塩置換ポルフィリン化合物に変換することができる。なお、これらの変換は、金属錯体の形態にあるホスフィン置換ポルフィリン化合物を用いて行ってもよいし、遊離塩基の形態にあるホスフィン置換ポルフィリン化合物を用いて行ってもよい。
【0025】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで製造されるホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物は、脱エステル化反応に付することでホスホン酸置換ポルフィリン化合物に変換することができる。その反応条件としては、例えば、トルエンや塩化メチレンのような有機溶媒を用い、室温〜200℃で1時間〜1日、ブロモトリメチルシランと反応させるといった条件を挙げることができる。なお、この反応は、金属錯体の形態にあるホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を用いて行ってもよいし、遊離塩基の形態にあるホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を用いて行ってもよい。
【0026】
金属錯体の形態にあるリン置換ポルフィリン化合物からの金属の脱離は、例えば、塩化メチレンやクロロホルムのような有機溶媒を用い、室温〜50℃で30分〜10時間、トリフルオロ酢酸と反応させるといった条件で行うことができる。また、遊離塩基の形態にあるリン置換ポルフィリン化合物に対する金属の付加(錯体化)は、例えば、塩化メチレンやクロロホルムやメタノールのような有機溶媒を用い、室温で1時間〜1日、有機酸金属塩や金属錯体や金属ハロゲン化物などと反応させるといった条件で行うことができる。リン置換ポルフィリン化合物を第二ホスフィンや亜リン酸エステルとカップリング反応させる際、ハロゲン置換ポルフィリン化合物を金属錯体の形態で用いると、遊離塩基の形態で用いる場合に比較して金属触媒の使用量を少なくすることができることは前述の通りであるが、ZnやNiは、遊離塩基の形態にあるハロゲン置換ポルフィリン化合物への付加が容易であり、金属錯体の形態にあるハロゲン置換ポルフィリン化合物からの脱離も容易であるので、汎用性に富む金属であると言える。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0028】
実施例1:
下記の反応経路により、各種のリン置換ポルフィリン化合物を合成した。
【0029】
【化6】

【0030】
A:経路(1)による方法
(化合物Cの合成)
文献既知の[5-ヨード-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]亜鉛(化合物A)を、Odobel, F.; Suzenet, F.; Blart, E.; Quintard, J.-P. Org. Lett. 2000, 2, 131-133記載の方法によって合成した。化合物A(50 mg, 0.047 mmol)と酢酸パラジウム(1.1 mg, 10mol%)をフラスコに入れて容器内をアルゴンでチャージした。ここへ、THF(3 mL)、アセトニトリル(3 mL)、トリエチルアミン (14 μL, 0.10 mmol)、およびジフェニルホスフィン(17 μL, 0.10 mmol)を加えて、混合物を攪拌しながら加熱還流した。11時間後、化合物Aは完全に消失した(TLCによる確認)。その後、混合物を空気中、セライトで濾別し、濾液を減圧下で濃縮した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/塩化メチレン/メタノール)で分離・精製することにより、[5-ジフェニルホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]亜鉛(化合物C)を38 mg得た(収率71%)。なお、[5-ジフェニルホスフィノ-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]亜鉛(化合物B)は、TLCで生成していることが強く示唆されたが、空気に対して極めて敏感であるため単離せずに、そのまま化合物Cへと変換した。
【0031】
化合物Aの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CDCl3) δ 1.51 (s, 18H), 1.53 (s, 36H), 7.78 (s, 1H), 7.81 (s, 2H), 8.04 (s, 2H), 8.06 (s, 4H), 8.95 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 8.96 (d, 2H, J = 5.6 Hz), 9.01 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 9.81 (d, 2H, J = 4.8 Hz)
【0032】
化合物Cの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CD3OD/CDCl3 = 4/1) δ 9.22 (d, 2H, J = 4.9 Hz), 8.82 (d, 2H, J = 4.4 Hz), 8.73 (d, 2H, J = 4.4 Hz), 8.58 (d, 2H, J = 4.9 Hz), 8.06 (d, 2H, J = 2.0 Hz), 7.97 (d, 2H, J = 2.0 Hz), 7.89 (dd, 4H, J = 12.2, 7.3 Hz), 7.78 (t, 1H, J = 2.0 Hz), 7.82 (t, 2H, J = 2.0 Hz), 7.60 (t, 2H, J = 7.3 Hz), 7.49 (dt, J = 3.0, 7.3 Hz), 1.54 (s, 18H), 1.51 (s, 36H); 31P NMR (CDCl3) δ 24.97; 31P NMR (CD3OD/ CDCl3 = 4/1) δ 36.06; UV-vis (toluene, 2.5 x 10-6 M) λmax 434, 565, 614 nm; FABMS m/z 1137.6 ([M+H]+, 100%)
【0033】
(化合物Dの合成)
トリフルオロ酢酸(0.10 mL)を化合物C(55 mg, 0.048 mmol)の塩化メチレン溶液(30 mL)に加えて、混合物を室温で1時間攪拌した。TLCで原料が消失したことを確認した後、混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した。有機層を分離して無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、減圧下で濃縮し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン/アセトン)で分離・精製することにより、5-ジフェニルホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリン(化合物D)を30 mg得た(収率58%)。
【0034】
化合物Dの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CDCl3) δ -1.98 (s, 2H), 1.49 (s, 36H), 1.51 (s, 18H), 7.43 (m, 4H), 7.53 (t, 2H, J = 7.6 Hz), 7.75 (s, 2H), 7.78 (s, 1H), 7.94 (m, 4H), 7.97 (s, 4H), 8.02 (s, 2H), 8.62 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.73 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.82 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 9.42 (d, br-s); 31P NMR (CDCl3) δ 31.57; 31P NMR (CD3OD/CDCl3 = 4/1) δ 33.83; UV-vis (toluene, 2.5 x 10-6 M) λmax 424, 521, 556, 593, 646 nm; FABMS m/z 1075.7 ([M+H]+, 100%); ESIMS m/z 1075.64 ([M+H]+, 100%)
【0035】
(化合物Eの合成)
化合物D(35.5 mg, 0.0330 mmol)を塩化メチレン-メタノール混合溶媒(v/v = 1:1, 30 mL)に溶かし、酢酸パラジウム(16.0 mg, 0.0712 mmol)を加えて室温で終夜攪拌した。TLCで原料が消失したことを確認した後、混合物を濃縮して水へ注いだ。有機層を分離した後、3%炭酸水素ナトリウムで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、減圧下で濃縮し、塩化メチレン/メタノールから再結晶することにより、[5-ジフェニルホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]パラジウム(化合物E)を33.8 mg得た(収率86.7%)。
【0036】
化合物Eの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 1.48 (s, 36H), 1.50 (s, 18H), 7.43 (m, 4H), 7.54 (m, 2H), 7.74 (t, 2H, J = 2.0 Hz), 7.77 (t, 1H, J = 1.5 Hz), 7.90 (m, 4H), 7.93 (d, 4H, J = 2.0 Hz), 7.97 (d, 2H, J = 1.5 Hz), 8.65 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.75 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.81 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 9.46 (d, 2H, J = 4.8 Hz); 31P NMR (CDCl3) δ 31.53; MALDI-TOF MS m/z 1179.0 ([M+H]+, 100%,); UV-vis (toluene) λmax 421, 531, 565 nm
【0037】
(化合物Fの合成)
化合物A(100 mg, 0.0942 mmol)と酢酸パラジウム(4.4 mg, 20mol%)をフラスコに入れて容器内をアルゴンでチャージした。ここへ、THF(5 mL)、アセトニトリル(5 mL)、トリエチルアミン(56 μL, 0.40 mmol)、およびジフェニルホスフィン(34 μL, 0.20 mmol)を加えて、混合物を攪拌しながら加熱還流した。23時間後、化合物Aは完全に消失した(TLCによる確認)。その後、アルゴン雰囲気下で単体硫黄(12.8 mg, 0.05 mmol)を加えて室温で3.5時間攪拌した。混合物を水で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/塩化メチレン/アセトン)で分離・精製することにより、[5-ジフェニルチオホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]亜鉛(化合物F)を30 mg得た(収率28%)。
【0038】
化合物Fの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CD2Cl2) δ 1.49 (s, 36H), 1.52 (s, 18H), 7.31 (m, 4H), 7.40 (m, 2H), 7.78 (t, 2H, J = 2.0 Hz), 7.82 (t, 1H, J = 1.5 Hz), 7.83 (m, 4H), 7.95 (d, 4H, J = 2.0 Hz), 8.04 (d, 2H, J = 1.5 Hz), 8.49 (d, 2H, J = 4.4 Hz), 8.83 (d, 2H, J = 4.4 Hz), 8.89 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 9.06 (d, 2H, J = 4.8 Hz); 31P NMR (CDCl3) δ 40.1; MALDI-TOF MS m/z 1154.5 ([M+H]+, 100%); UV-vis (toluene) λmax 434, 560, 600 nm
【0039】
B:経路(2)による方法
(化合物Gの合成)
化合物A(200 mg, 0.188 mmol)、ヨウ化銅(I)(15 mg, 20 mol%)、および炭酸セシウム(660 mg, 2.03 mmol)をフラスコに入れて、容器内をアルゴンでチャージした。ここへ、脱水トルエン(10 mL)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(30 μL, 0.28 mmol)、およびホスホン酸ジブチルエステル(60 μL, 0.31 mmol)を加えて、混合物を攪拌しながら加熱還流した。7時間後、化合物Aは完全に消失した(TLCによる確認)。その後、混合物をセライトで濾別し、濾液を減圧下で濃縮した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/塩化メチレン)で分離・精製することにより、[5-ジ-n-ブトキシホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブトキシフェニル)ポルフィリナト]亜鉛(化合物G)を171 mg得た(収率81%)。
【0040】
化合物Gの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CD3OD-CDCl3, v/v = 7/1; 0.0026 M, at 24 ℃) δ 0.84 (t, 6H, J = 7.3 Hz), 1.42-1.56 (m, 4H), 1.55 (s, 18H), 1.57 (s, 36H), 1.68-1.76 (m, 4H), 4.11-4.22 (m, 2H), 4.38-4.49 (m, 2H), 7.86 (s, 1H), 7.88 (s, 2H), 8.07 (s, 6H), 8.74 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.81 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.88 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 10.19 (d, 2H, J = 4.8 Hz); 31P NMR (CD3OD-CDCl3, v/v = 7/1; 0.0026 M, at 24 ℃) δ 24.4; ESIMS m/z 1129.6 ([M+H]+); UV-vis (toluene, 5.0 x 10-5 M) 423, 550, 584 nm
【0041】
(化合物Hの合成)
トリフルオロ酢酸(0.12 mL)を化合物G(75 mg, 0.066 mmol)の塩化メチレン溶液(15 mL)に加えて、混合物を40℃で7時間攪拌した。TLCで原料が消失したことを確認した後、混合物を冷却して水へ注いだ。有機層を分離した後、水層を塩化メチレンで抽出し、有機層をあわせて炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した後、減圧下で濃縮し、塩化メチレン/メタノールから再結晶することにより、5-ジ-n-ブトキシホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリン(目的物H)を60 mg得た(収率85%)。
【0042】
化合物Hの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CDCl3) δ -2.20 (s, 2H), 0.80 (t, 6H, J = 7.3 Hz), 1.37-1.54 (m, 4H), 1.51 (s, 18H), 1.53 (s, 36H), 1.64-1.76 (m, 4H), 4.13 (ddt, 2H, J = 9.9, 6.6, 6.6 Hz), 4.46 (ddt, 2H, J = 9.9, 6.6, 6.6 Hz), 7.78 (t, 1H, J = 1.8 Hz), 7.81 (t, 2H, J = 1.8 Hz), 8.02 (d, 2H, J = 1.8 Hz), 8.04 (d, 4H, J = 1.8 Hz), 8.75 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.83 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.90 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 10.24 (d, 2H, J = 4.8 Hz); 31P NMR (CDCl3) δ 20.8; ESIMS m/z 1067.7 ([M+H]+); UV-vis (toluene, 5.0 x 10-6 M) 420, 515, 551, 588, 642 nm
【0043】
(化合物Iの合成)
化合物H(54 mg, 0.051 mmol)を塩化メチレン(7.5 mL)に溶かし、ブロモトリメチルシラン(0.106 mL, 0.802 mmol)を室温で加えた。得られた緑色の反応混合物を約1日加熱還流し、濃縮した。有機層を水で洗浄し、塩化メチレンで抽出した後、3%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。集めた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮後に得られる固体をヘキサンで洗浄した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール)で分離・精製することにより、5-ホスフォノ-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリン(化合物I)を34.0 mg得た(収率70%)。
【0044】
化合物Iの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CD3OD-CDCl3, v/v = 3/1) δ 1.46 (s, 18H), 1.54 (s, 36H), 7.81 (s, 1H), 7.85 (s, 2H), 8.00 (s, 2H), 8.07 (s, 4H), 8.81 (br-m, 6H), 10.61 (br-s, 2H); 31P NMR (CD3OD-CDCl3, v/v = 7/1) δ 9.96; MALDI-TOF MS m/z 954.69 ([M+H]+); UV-vis (toluene, 1.0 x 10-5 M) 421, 517, 550, 593, 647 nm
【0045】
このようにして製造されるホスホン酸置換ポルフィリン化合物は、例えば、下記のようにして、ZrOCl2などの反応性金属化合物と反応させてクラスター化化合物に変換したり、第一アミンと反応させてホスホン酸塩化合物に変換したりすることで、有機太陽電池の増感剤や光重合開始剤などの機能性材料としての利用可能性が期待される。
【0046】
【化7】

【0047】
実施例2:
化合物Aからの[5-ジフェニルホスフォリル-10,15,20-トリス(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ポルフィリナト]亜鉛-ボラン錯体(化合物J)の合成
化合物A(100 mg, 0.0942 mmol)、ジフェニルホスフィンボラン(37.5 mg, 0.188 mol)、PdCl2(dppf)(塩化パラジウムジフェニルホスフィンフェロセン錯体)(11.5 mg, 10mol%)、炭酸カリウム(52.1 mg, 0.376 mmol)をフラスコに入れて、容器内をアルゴンでチャージした。ここへ、ベンゾニトリル(5 mL)を加えて、混合物を室温で24時間、さらに50℃で2時間攪拌した。TLCにより化合物Aの消失を確認した後、混合物を減圧下で濃縮した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/塩化メチレン/アセトン)で分離・精製することにより、化合物Jを5.2 mg得た(収率4.9%)。
【0048】
化合物Jの物理化学的データは以下の通りである。
1H NMR (CDCl3): δ 1.52 (s, 36H), 1.57 (s, 18H), 7.35 (m, 4H), 7.43 (m, 2H), 7.74 (t, 2H, J = 2.0 Hz), 7.78 (t, 1H, J = 1.5 Hz), 7.80 (m, 4H), 7.96 (d, 4H, J = 2.0 Hz), 8.02 (d, 2H, J = 1.5 Hz), 8.66 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.87 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.93 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 9.34 (d, 2H, J = 4.8Hz); MALDI-TOF MS m/z 1123.7 ([M-BH3]+, 100%); UV-vis (toluene, 5.5 x 10-6 M) 429, 556, 595, 639 nm
【0049】
化合物Jは、例えば、下記のようにしてトリアルキルアミンと反応させることで、脱ボラン化すれば、ホスフィン置換ポルフィリン化合物Bに変換することができる。ホスフィン置換ポルフィリン化合物Bは、例えば、ハロゲン化アルキルと反応させることで、ホスホニウム塩置換ポルフィリン化合物Kに変換することができるし、ジハロゲン化アルキルと反応させることで、二量化ホスホニウム塩置換ポルフィリン化合物Lに変換することができるし、金属錯体と反応させることで、二量化金属錯体Mに変換することができる。
【0050】
【化8】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、各種のリン官能基をポルフィリン環に自在に導入することを可能にする、リン置換ポルフィリン化合物の新規な製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることを特徴とするホスフィン置換ポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスフィン置換ポルフィリン化合物を得た後、これを酸化反応に付することを特徴とするホスフィンオキシド置換ポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と第二ホスフィンを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスフィン置換ポルフィリン化合物を得た後、これを硫化反応に付することを特徴とするホスフィンスルフィド置換ポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることを特徴とするホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項5】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物と亜リン酸エステルを、遷移金属を触媒としてカップリング反応させることで、ホスホン酸エステル置換ポルフィリン化合物を得た後、これを脱エステル化反応に付することを特徴とするホスホン酸置換ポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項6】
ハロゲン置換ポルフィリン化合物がZn錯体またはNi錯体の形態であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
遷移金属が第8属〜第11属の第4周期〜第6周期に属する遷移金属であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
置換位置がポルフィリン環のメソ位であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
下記の一般式(1)で表されることを特徴とするリン置換ポルフィリン化合物。
【化1】

[式中、Mは2個の水素原子、配位子を有していてもよい金属原子を示す。R5は、-PR21R22、-P(0)R23R24、-P(S)R25R26、-P(O)(OR27)(OR28)、-P(O)(OH)2から選ばれるリン官能基を示す。R2、R3、R7、R8、R10、R12、R13、R15、R17、R18、R20は、同一または異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、-COR29を示す。R2、R3、R7、R8、R10、R12、R13、R15、R17、R18、R20は、同一または異なって、隣接する置換基と一緒になって、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよい連結基を形成して互いに連結することで5員環〜7員環を形成してもよい。R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、同一または異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R29は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。]

【公開番号】特開2006−248935(P2006−248935A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65121(P2005−65121)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】