説明

レジスト、これを用いた光ディスク用スタンパの製造方法、及び光ディスク用スタンパ

【課題】表面の粗度が低く滑らかな光ディスク用スタンパを容易に且つ安定して提供する。
【解決手段】遷移金属の酸化物と、この遷移金属の酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含む無機材料からなるレジストを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト、これを用いた光ディスク用スタンパの製造方法、及びこの製造方法により得られた光ディスク用スタンパに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動画像のデジタル化とあいまって、さらに記録密度の高い大容量の記録媒体が求められている。そしてこの要求が高まるにつれ、従来用いられてきた磁気記録媒体に代わって、非接触で記録密度を大きく取れる光ディスクの研究開発が盛んに行われている。現在、直径12cmの光ディスクの片面単層に4.7GBの情報容量を有するDVD(Digital Versatile Disc)が主流となり、カラー標準方式(NTSC)の映像を2時間分記録することが可能となっている。また、ディジタルハイビジョン方式の映像向けとして直径12cmの光ディスクの片面に25GBの情報容量を持たせた次世代光ディスクBlu−ray Disc(登録商標)も実用化され始めている。
【0003】
これらの光ディスクに用いられる基板は、一般的に樹脂材料の射出成形により作製されており、光ディスクの低価格化が実現されている。この射出成形においては、基板にグルーブ(案内溝)やピット等のパターンを転写させるためにスタンパが用いられる。スタンパの作製は、ガラス原盤上に塗布したフォトレジストに露光現像処理を施すことで凹凸パターンを形成し、そこに電鋳法によりニッケル等の金属を析出させ、剥離することで作製されてきた。
【0004】
このような感光剤によるフォトンモード記録を用いた場合、形成可能な最短ピット長やトラックピッチは、使用する光源のレーザ波長と対物レンズの開口数NAにより決定されることとなる。そのため、より微細なパターンを形成するためには、レーザの短波長化と対物レンズ高NA化が必要となるが、DeepUVやEB露光等を使用すると、装置の複雑化や安定性の点で問題があった。
【0005】
そこで現在では、無機レジスト、特にアモルファス無機レジストによるヒートモード記録を用いた露光現像が行われるようになってきている。ヒートモード記録とは、露光による温度変化によって引き起こされる物質の状態変化を利用して所定のパターンを記録する方法をいう。ここで、物質の「状態変化」とは、物質の物理的および/または化学的性質が変化することをいう。ヒートモード記録を利用する場合には、同波長の光を用いてフォトンモード記録を実施する場合と比較して、凹凸の輪郭がより明瞭なパターンを得ることができる。これは、アモルファス無機レジストの最小構造単位が原子レベルのサイズであることに起因している。
【0006】
特許文献1(特開2005−203052号公報)には、遷移金属の酸化物からなる無機レジストを用い、405nm程度の可視レーザによる露光によっても、熱記録の特性によりスポット径より小さいパターンの露光が可能であることが示されている。この技術は、Blu−ray Disc或いはそれ以上の高記録密度化に対応した光ディスクのマスタリング技術に有用な技術として注目されている。特許文献1には、遷移金属、例えばタングステン(W)ならびにモリブデン(Mo)の酸化物からなる無機レジスト材料を、アルゴンならびに酸素の混合ガスを用いた反応性スパッタリングにより作製することが記載されている。その際、酸素の流量比を適当に選択することにより(例えば、流量比75:25のアルゴン・酸素混合ガス)、レジストにおける酸素含有量が72乃至74at%の範囲においてネガ型の無機レジスト材料が得られることが開示されている。これにより、読み取り面に対して凸形状のグルーブを有する光ディスク、例えばBlu−ray Discにおいて、マスタスタンパの凹凸パターンを反転させるためのマザースタンパを作製する工程を省略でき、ディスク基板の作製が簡略化できる。
【特許文献1】特開2005−203052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した酸素含有量が72乃至74at%の範囲で得られる遷移金属酸化物のネガ型無機レジストでは、露光部表面の粗度がレジストの酸素含有量に大きく依存している。そのため、酸素含有量が大きくなるに従い露光部表面の粗度が大きくなる傾向があり、特に、酸素含有量が72.6at%以上では、露光部表面における粗度Raが0.9nm以上になり、光ディスクのスタンパ用途に適さない。
【0008】
そのため、反応性スパッタリングによる作製の際、レジストの酸素含有量、即ち遷移金属の酸化度合いを一定に保つ必要がある。したがって、成膜装置の酸素ガス導入量の変化および排気性能の経時変化、並びにターゲットのエロージョン進行によるデポレート変化等に対する高精度な制御を行わなければならない。特に、2種類以上の遷移金属からなる合金ターゲットを用いた反応性スパッタリングでは、金属の種類によって酸素との反応速度が異なるため、その調整が非常に困難であった。
【0009】
そこで本発明の目的は、表面(露光部表面)の粗度が低く滑らかな光ディスク用スタンパを容易に且つ安定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、遷移金属酸化物からなる無機レジストにその酸化物よりも融点の低い金属を含有させることで、ネガ型となる酸素含有量72〜74at%の範囲で露光部表面の粗度がレジストの酸素含有量に対して依存度が小さくなることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明によれば、以下のレジスト、これを用いた光ディスク用スタンパの製造方法、及びこの製造方法により得られた光ディスク用スタンパが提供される。
【0012】
本発明は、遷移金属の酸化物と、この遷移金属の酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含む無機材料からなるレジストに関する。
【0013】
また本発明は、基板上に、上記のレジストからなるレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層にスタンパの凹凸形状に対応するパターン露光を行う工程と、露光後の前記レジスト層に対してアルカリ現像を行って、スタンパの凹凸形状の凸形状部を有するレジストパターンを形成する工程とを有する光ディスク用スタンパの製造方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、上記の製造方法により製造された光ディスク用スタンパに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面(露光部表面)の粗度が低く滑らかな光ディスク用スタンパを容易に且つ安定して提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態に係るレジストは、遷移金属の酸化物と、この遷移金属の酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含む無機材料からなり、前記遷移金属としては、タングステン及びモリブデンの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、前記添加金属元素として、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0018】
図1は、本発明による光ディスク用スタンパの製造方法の一実施形態を示す模式的断面図である。
【0019】
先ず、基板1001の上に、スパッタリング法により所定の無機系のレジスト材料からなるレジスト層1002を成膜する(図1(a))。基板1001としては、石英、ガラス等からなる透明基板などを用いることができる。レジスト層1002は、遷移金属の酸化物とこの酸化物よりも融点の低い金属元素(以下「添加金属元素」)を含有する材料で形成される。具体的には、タングステン及びモリブデンの少なくとも一方を含む遷移金属の酸化物に、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種の添加金属元素が含有されたものが好適である。このレジスト材料中の添加金属元素の含有量は2.5at%から20at%の範囲にあることが好ましい。また、このレジスト材料中の酸素の含有量は72at%から74at%の範囲にあることが好ましい。また、本実施形態によればアルカリ現像液に対してネガ型であるレジストを得ることができる。
【0020】
上記レジスト層1002の形成方法としては、遷移金属の単体からなるスパッタターゲットを用いて、アルゴン及び酸素雰囲気中でスパッタリング法により成膜を行う方法が挙げられる。この方法によれば、スパッタ中の酸素ガス濃度を変えることにより、遷移金属の酸化物の酸素含有量を制御できる。2種類以上の遷移金属を含む遷移金属の酸化物をスパッタリング法により成膜する場合には、異なる種類のスパッタターゲットを多元同時スパッタすることで複数種類の遷移金属を混合させることができる。混合割合は、それぞれのスパッタ投入パワーを変えることにより制御することができる。このような酸素雰囲気中のスパッタリング法の他、予め所望量の酸素を含有する遷移金属の酸化物からなるターゲットを用いて通常のアルゴン雰囲気中でスパッタリングを行うことによってレジスト層を成膜してもよい。なお、この方法において酸素含有量の微調整のために微量の酸素ガスを導入してもよい。また、レジストへの添加金属元素の添加方法としては、使用する遷移金属含有ターゲットに予め含有させておく方法と、添加金属元素の単体からなるターゲットを遷移金属含有ターゲットと多元同時スパッタする方法とがある。さらに上述のスパッタリング法の他、蒸着法によっても遷移金属の酸化物からなるレジスト層を成膜できる。
【0021】
レジスト層1002の露光感度を改善するために、基板1001とレジスト層1002との間に所望の中間層を形成してもよい(図示せず)。中間層の材料としては、アモルファスシリコン、二酸化ケイ素(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、アルミナ(Al23)などが挙げられ、スパッタリング法やその他の蒸着法によって形成することができる。
【0022】
次いで、基板上に成膜されたレジスト層1002に対して、市販の露光装置を用いて、案内溝または記録用信号に応じたピットに対応するパターン露光を行う。この露光により、案内溝またはピットに応じた微細凹凸の潜像1004、例えば記録用ディスクの場合はスパイラル状の案内溝に対応する潜像を形成する(図1(b))。
【0023】
次に、このようにしてパターン露光されたレジスト層1002を現像することにより、所定の露光パターンに応じたレジストパターン1004aが形成され、ピット又は案内溝に応じた微細凹凸が形成される。その結果、光ディスク用のスタンパ1003が得られる(図1(c))。
【0024】
現像処理としては、アルカリ現像液によるウェットプロセスによって選択比を得ることが可能であり、このような現像液としては水酸化テトラメチルアンモニウム溶液、KOH、NaOH、Na2CO3等の無機アルカリ水溶液等を用いることができる。
【0025】
上述した遷移金属の酸化物は、405nm程度の可視光に対して吸収を示し、可視光を照射されることでその化学的性質が変化する。この結果、無機レジストでありながら現像工程において露光部と未露光部とでエッチング速度に差が生じる、いわゆる選択比が得られる。また、遷移金属の酸化物からなるレジスト材料は、膜材料の微粒子サイズが小さいために未露光部と露光部との境界部のパターンが明瞭なものとなり、分解能を高めることができる。
【0026】
上述の添加金属元素を含む遷移金属酸化物からなる無機レジスト材料を用いた本発明によれば、ネガ型となる酸素含有量72at%から74at%の範囲全てにおいて露光部表面の粗度が低く滑らかになる。このメカニズムについて、図2、図3及び図4を用いて説明する。
【0027】
基板2001上に設けられた遷移金属の酸化物からなるレジスト層2002(図2(a))に405nm程度の可視光で露光を行うと、遷移金属酸化物の結晶化が行われ結晶粒が成長することでレジストの露光面が形状変形を起こす(図2(b))。図中、2004が形状変化を起こした露光部を表し、2005が未露光部を表している。また、露光部2004内に示される2006は遷移金属酸化物が結晶化して成長した結晶粒を表している。
【0028】
次に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液等のアルカリ現像液にて現像を行うと、露光された結晶化部より未露光のアモルファス部の方がエッチング速度が速いため、ネガティブタイプの露光現像が行われることとなる(図2(c))。図中、2008で示される部分がスタンパの表面形状となる。
【0029】
ここで、レジスト層2002の組成、即ち酸素含有量により露光時の遷移金属酸化物における結晶粒の成長度合いが異なり、従来のネガ型の無機レジストでは表面の粗度が異なる問題が生じる。先に示した図2は、従来の無機レジストを用いた場合を示すが、その酸素含有量はネガ型が得られる範囲の下限72at%であり、露光部表面の粗度は良好である。しかしながら、図3に示すように、無機レジストの酸素含有量がネガ型が得られる範囲の上限74at%では、露光部表面の粗度が悪化する。図3より分かるように、遷移金属酸化物の結晶粒2006が大きく成長していることで、露光部表面の粗度が悪くなっている。無機レジストの酸素含有量72at%から74at%の範囲では、前述した様に露光部表面の粗度がレジストの酸素含有量に大きく依存しているため、図2に示すような粗度の良いスタンパを安定に作製することは困難である。
【0030】
これに対し本発明では、遷移金属の酸化物とこの酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含有したレジスト2003を基板2001上に設けている(図4(a))。このレジストに対して露光を行った場合、図4(b)に示すように遷移金属酸化物の結晶粒界に融点の低い添加金属元素2007が析出することで、結晶粒の過度な成長が抑制される。これにより、従来技術では露光部表面の粗度が悪くなる酸素含有量が74at%と多い場合でも、露光部表面の粗度が低く滑らかになり、図4(c)に示すように良好なスタンパ表面形状2008となる。そのため本発明によれば、反応性スパッタリングによる作製の際、特に複雑困難な制御を行わなくても、表面状態の良好なスタンパを安定に作り続けることができる。
【0031】
その際、無機レジスト中の添加金属元素の量が少なすぎると、結晶粒界への添加金属元素の析出効果が現れない傾向が大きくなるため、添加金属元素の量は2.5at%以上であることが好ましい。無機レジスト中の添加金属元素の含有量が多すぎると、パターンの明瞭性やレジストの光学特性など無機レジスト性能が低下する傾向が大きくなるため、添加金属元素の含有量は20at%以下であることが好ましい。
【0032】
以上に説明したように、本発明では、遷移金属の酸化物とその酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含有した無機レジスト材料を用いるので、ネガ型となる酸素含有量72at%から74at%の範囲全てにおいて、露光部表面の粗度が低く滑らかになる。また、露光部表面の粗度がレジストの酸素含有量に対して依存度が小さくなるため、導入ガスや投入パワー等のスパッタ成膜条件の制御が容易になり、且つ、現像後の凹凸形状をより安定して形成することができる。結果、本発明によれば、表面の滑らかな凹凸形状を持つスタンパを容易にかつ安定して提供することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、具体的な実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はその主旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
RF、及びDC電源を有するマグネトロンスパッタ装置に、石英基板を基板ホルダーに固定した後、2×10-5Pa以下の高真空になるまでチャンバー内をターボ分子ポンプで真空排気した。
【0035】
その後、真空排気したままプロセスガスをチャンバー内に導入し、基板を回転させながら、ルビジウム2.5at%含有の酸化タングステン、及びモリブデンのカソードに、夫々投入電力RF400W及びDC100Wにて放電させ、レジスト層の形成を行った。なお、レジスト層に含有される添加金属元素の量は、ターゲットにおける含有率と同じになる。
【0036】
チャンバー内に導入したプロセスガスは、アルゴンガス50sccm(standard ml/min)と酸素ガス10sccm(standard ml/min)とした。また、コンダクタンスの調整により圧力を0.3Paとし、基板上にレジスト層としてルビジウムが添加されたタングステン及びモリブデンの酸化物からなる膜を40nm成膜した。
【0037】
同上のプロセスを用いてシリコンウエハ上にレジスト層を堆積した別サンプルの解析をXMA(X−ray Micro Analyzer)にて行ったところ、レジスト層における酸素含有量は74at%であった。
【0038】
レジスト層の成膜が終了したレジスト基板に対して、市販の露光装置により、所定の凹凸パターンに対応する露光を行った。なお、露光波長は405nm、露光光学系の開口数NAを0.9とした。また、露光時の線速度を4.0m/sとし、照射パワーを5.0mWとした。凹凸の繰り返し幅(トラックピッチ)は、0.32μmとした。
【0039】
次に、露光の終了したレジスト基板を、アルカリ現像液によるウェットプロセスにより現像した。この現像工程では、レジスト基板を現像液に浸したまま、エッチングの均一性を向上させるために超音波を加えた状態で現像を行い、現像終了後には純水及びイソプロピルアルコールにより充分に洗浄し、エアブロー等で乾燥させてプロセスを終了した。アルカリ現像液としては水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を用い、現像時間は30秒とした。
【0040】
以上の工程を経て得られたマスタスタンパの断面形状を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)にて観察した。その結果、図5に示すように、レジスト層の露光部5001が、未露光部5002に対して凸となっているネガ型であることが分かる。また、下記の式で与えられる平均線粗さを上記測定断面について求めたところ、露光部表面もRaが0.5nmと粗度が非常に良好なものであった。
【0041】
【数1】

【0042】
L:ラフネスカーブの長さ、
f(x):センターラインに対するラフネスカーブ。
【0043】
また、ルビジウムを含有する遷移金属の酸化物からなるレジスト層において、露光部のエッチング速度は、未露光部のエッチング速度に比較して充分に遅いため、レジスト層の露光部は成膜後の膜厚を現像後もほとんど維持していた。なお、未露光部において基板表面を露出させるか否かは使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
本実施例で得られたマスタスタンパからファザースタンパを起こし、それを用いて2P法(Photo−Polymerization法)により、ガラス基板上に紫外線硬化樹脂からなる凹凸パターンを形成しガラス2P基板を作製した。このガラス2P基板上に既存の書き換え型相変化膜の成膜、及び100μmの光透光性カバーシートの貼り付けを行うことで光ディスクを作製し、ジッタ特性の評価を行った。なお、上記マスタスタンパから光ディスクを得るまでの工程は従来公知の技術に従って製造した。
【0045】
評価は、本実施例における光ディスクに対して、光透過性カバー側から、照射光を対物レンズによって集光させて一般的な条件で記録情報の記録再生を行った。ここで、照射光の波長λは405nmとし、対物レンズの開口数N.A.は0.85、線速度は4.917m/s、記録信号は(1−7)RLL変調におけるビット長111.75nmのランダム信号とした。その結果、レジストの露光面に対応する所謂On−Grooveにおいてジッタ値(σ/T)で4.5%と実用上問題の無い良好な値が得られた。
【0046】
本実施例および下記の実施例2から9、11から13及び比較例1から3の結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
チャンバー内に導入したプロセスガスを、アルゴンガス54.2sccm(standard ml/min)と酸素ガス5.8sccm(standard ml/min)とした以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0048】
(実施例3)
カソードにルビジウム添加量が10at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0049】
(実施例4)
カソードにルビジウム添加量が15at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0050】
(実施例5)
カソードにルビジウム添加量が20at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0051】
(実施例6)
カソードにセシウム添加量が2.5at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0052】
(実施例7)
カソードにセシウム添加量が20at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0053】
(実施例8)
カソードにバリウム添加量が2.5at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0054】
(実施例9)
カソードにバリウム添加量が20at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0055】
(実施例10)
チャンバー内に導入したプロセスガスを、アルゴンガス55.5sccm(standard ml/min)と酸素ガス4.5sccm(standard ml/min)とした以外は実施例1と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。また本実施例では、スタンパ作製の安定性を調べるために、ターゲットの使用積算電力2kWh毎に1枚ずつさらに5枚(合計6枚)のスタンパの作製を行った。結果を表2に示す。
【0056】
(比較例1)
カソードにルビジウムを含有していない酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にしてスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0057】
(比較例2)
カソードにルビジウムを含有していない酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例2と同様にして本実施例のスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0058】
(実施例11)
カソードにルビジウム添加量が22.5at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にしてスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0059】
(実施例12)
カソードにセシウム添加量が22.5at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にしてスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0060】
(実施例13)
カソードにバリウム添加量が22.5at%である酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例1と同様にしてスタンパ及び光ディスクの作製を行った。
【0061】
(比較例3)
カソードにルビジウムを含有していない酸化タングステン、及びモリブデンを用いた以外は実施例10と同様にしてスタンパ及び光ディスクの作製を行った。結果を表2に示す。
【0062】
以上に説明した実施例2から13及び比較例1から3で作製したレジスト層、スタンパ、及び光ディスクに関しても、実施例1と同様に各種の測定をおこなった。これらの結果を表1及び表2にまとめて示す。また、比較例1及び比較例2のマスタスタンパの断面形状(AFM像)をそれぞれ図6及び図7に示し、実施例11のマスタスタンパの断面形状(AFM像)を図8に示す。
【0063】
今回作製されたレジスト材料における露光現像のタイプは、実施例1と同様に全ての実施例及び比較例にてネガ型であることが確認された。
【0064】
また、各レジスト層における酸素含有量は、実施例2及び比較例2における場合が72.6at%であり、実施例3から9、11から13及び比較例1の場合は実施例1と同様全て74at%であった。また、実施例10と比較例3においては、初期はどちらも72.2at%であるが、ターゲットの使用積算電力の増加に従い酸素含有量が変化していることが確認された。
【0065】
図6、図7及び表1に示す比較例1と比較例2の結果から、遷移金属の酸化物より融点の低い添加金属元素を含有しない従来のレジスト材料では、露光部表面の粗度が本発明によるものに比較して悪く、光ディスクのスタンパ用途に適していないことが確認された。
【0066】
表1に示すように実施例11から13のレジスト材料では、露光部表面の粗度は比較例1及び2に比べて露光部表面の粗度が良好であることが分かる。しかし、図8と図1を比較して分かるように、添加金属元素を適当量含有するレジストを用いた実施例1から10は、パターンの明瞭性、溝幅の均一性が良好であることが確認された。
【0067】
表2に示す実施例10と比較例3の結果から、ターゲットの使用積算電力の増加に従い、どちらもレジストの酸素含有量が変動していることが分かる。実施例10ではレジストの酸素含有量によらず露光部表面の粗度Raが0.3から0.6nm程度と良好である。これに対して、比較例3では酸素含有量の増加に対応してRaが悪化してしまい、従来技術では光ディスクのスタンパ用途に適するものを安定に作製できないことが確認された。
【0068】
以上の結果から、本発明に係る無機レジストは、遷移金属酸化物とこの酸化物より融点の低い金属元素を含有することで、ネガ型となる酸素含有量72〜74at%の範囲において、露光部表面の粗度が低く滑らかになり、露光現像を安定的に行えることがわかる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による光ディスク用スタンパの製造方法の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】ネガ型が得られる酸素含有量の範囲の下限72at%の場合における従来のレジスト材料における露光現像メカニズムを説明するための模式断面図である。
【図3】ネガ型が得られる酸素含有量の範囲の上限74at%の場合における従来のレジスト材料の露光現像メカニズムを説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明によるレジスト材料の露光現像メカニズムを説明するための模式的断面図である。
【図5】実施例1によるマスタスタンパのAFM像(断面像)を示す模式図である。
【図6】比較例1によるマスタスタンパのAFM像(断面像)を示す模式図である。
【図7】比較例2によるマスタスタンパのAFM像(断面像)を示す模式図である。
【図8】実施例11によるマスタスタンパのAFM像(断面像)を示す模式図である。
【符号の説明】
【0072】
1001 基板
1002 レジスト層
1003 マスタスタンパ
1004 露光パターンに応じた潜像
1004a レジストパターン
2001 基板
2002 従来の遷移金属の酸化物からなるレジスト
2003 本発明の遷移金属の酸化物からなるレジスト
2004 露光部
2005 未露光部
2006 結晶粒
2007 金属添加物
2008 スタンパ表面
5001 露光部
5002 未露光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の酸化物と、この遷移金属の酸化物よりも融点の低い添加金属元素を含む無機材料からなるレジスト。
【請求項2】
前記遷移金属として、タングステン及びモリブデンの少なくとも一方を含む請求項1に記載のレジスト。
【請求項3】
前記添加金属元素として、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む請求項1又は2に記載のレジスト。
【請求項4】
前記添加金属元素の含有量が2.5at%から20at%の範囲にある請求項1から3のいずれかに記載のレジスト。
【請求項5】
酸素含有量が72at%から74at%の範囲にある請求項1から4のいずれかに記載のレジスト。
【請求項6】
アルカリ現像液に対してネガ型である請求項1から5のいずれかに記載のレジスト。
【請求項7】
基板上に、請求項1から6のいずれかに記載のレジストからなるレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層にスタンパの凹凸形状に対応するパターン露光を行う工程と、露光後の前記レジスト層に対してアルカリ現像を行って、スタンパの凹凸形状の凸形状部を有するレジストパターンを形成する工程とを有する光ディスク用スタンパの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により製造された光ディスク用スタンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−135090(P2008−135090A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318614(P2006−318614)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】