説明

レゾルバを用いて回転体の回転位置を検出するための装置

【課題】レゾルバを用い、より良好な精度で、回転位置を検出する。
【解決手段】回転体に接続された二相出力方式のレゾルバを用いて、該回転体の回転位置を検出するための装置であって、時間を計測する時間計測手段と、レゾルバから、回転位置を示す回転位置データを取得する取得手段と、レゾルバの回転速度が一定のときに、該計測手段によって特定された複数の時点において取得手段により取得された回転位置データに基づいて、補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段と、任意の時点において取得手段により取得された回転位置データを、該補正パラメータによって補正する補正手段と、を備える。ここで、補正パラメータは、レゾルバが任意の回転速度で回転している時に取得された任意の値の回転位置データ、および該レゾルバの回転が停止している時に取得された任意の値の回転位置データに適用可能なように算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転体の回転位置を検出するための装置に関し、より具体的には、二相出力方式のレゾルバを用いて、より高精度にオンラインで回転位置を検出するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二相出力方式のレゾルバを用いて、回転体の回転位置を検出する手法が知られている。レゾルバから得られる検出値は、検出回路内の素子のバラツキおよびレゾルバのロータとステータ間の軸心のずれ等に起因する誤差を含んでおり、より高精度な回転位置を得るために、該検出値を補正する手法が提案されている。
【0003】
下記の特許文献1には、レゾルバの回転速度が一定である状態で、レゾルバからの検出データΦnを取得し、これを、レゾルバの回転を時間計測して算出された角度データ基準θn(理想値)と比較することにより、補正値を算出する。補正値は、レゾルバ回転の1周期分にわたって予め算出されてメモリに保持される。その後、レゾルバから検出データが得られたことに応答して、該検出データに対応する補正値をメモリから抽出し、該補正値で該検出データを補正する。
【0004】
下記の特許文献2には、レゾルバの回転速度を検出したことに応じて、所定の式α=(V/V0)×Hn×Pn×sin(nθ+nρ)に従い、位相誤差αを算出する。ここで、Vは、検出されたレゾルバの回転速度であり、V0は、特定の回転速度であり、Hnは、レゾルバの回転方向を表し、Pnは、位相誤差の最大振幅値を示す。nは、位相誤差のサイクル数を示し、θはレゾルバの回転角度を示し、ρは係数を示す。特定の回転速度V0に対する位相誤差の最大振幅値Pnは、予め測定しておく必要がある。こうして算出された位相誤差αを、検出された位置データに加算することにより、誤差を含まない位置データを算出する。
【0005】
下記の特許文献3には、特定の角度(0度、45度、90度、135度、180度、225度、270度、315度)を検出したならば、擬似位置信号生成手段によって、特定の振幅変調信号を擬似的に信号処理回路に与え、該信号処理回路は、該特定の振幅変調信号から角度検出値を算出する。該角度検出値と、該特定の振幅変調信号に対応する特定角度との偏差が、角度検出誤差として算出される。検出値補正出力手段は、該角度検出誤差を補間し、該補間した検出誤差で、レゾルバからの角度検出値を補正する。
【0006】
下記の特許文献4には、規定期間Tx〜Tyにおけるロータの移動量の平均値PHav(=Phase(Ty)−Phase(Tx)/(Ty−Tx))を演算し、該平均値PHavを用いて、制御タイミングTnにおける予測値Phase_est(Tn)=Phase(Tn−1)+(Tn−Tn−1)×Phase_est(Tn)を算出する。該予測値と、センサ値Phase(Tn)との差の絶対値である偏差ΔPhを演算する。該偏差と所定の閾値との比較に応じて、センサ値を補正する。
【特許文献1】特開平10−170531号公報
【特許文献2】特開2001−165707号公報
【特許文献3】特開2003−344108号公報
【特許文献4】特開2004−242370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1の手法では、回転位置ごとに補正値を予め取得して記憶しておく必要がある。たとえばレゾルバの1回転を12ビットで表現した場合には、212個の補正値を取得する必要がある。これは、サンプリング周波数を非常に高くする必要があり、当該文献に記載されているように、58.6rpm以下のような回転速度が非常に低い特別な試験モードを必要とする。
【0008】
上記の特許文献2の手法では、特定の回転速度V0に基づく位相誤差の最大値Pnを予め算出して記憶しておく必要がある。また、位相誤差αを、回転速度Vに基づいて算出しているので、レゾルバが静止している時には補正することができない。
【0009】
上記の特許文献3の手法では、特定の角度に応じて振幅変調信号を擬似的に発生させるハードウェア構成要素を別個に設ける必要がある。また、該特定の角度の誤差については、補正することができない。
【0010】
上記の特許文献4の手法では、過去の検出値から現在の検出値を補正するので、レゾルバの回転速度に変動が生じた場合には、補正の精度が低下するおそれがある。また、レゾルバが静止している時には補正することができない。
【0011】
したがって、本発明の一つの目的は、回転位置や回転速度に対応した補正値を予め取得しておく必要なくして、オンラインで(リアルタイムに)回転位置(回転角度)をより良好な精度で検出することのできる装置を提供することである。本発明の他の目的は、新たなハードウェア構成要素を追加することなく、より良好な精度で、回転位置を検出することのできる装置を提供することである。本発明の他の目的は、レゾルバからの検出値について、過去値を用いることなく現在値を用いて、回転位置を検出することのできる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の一つの側面によると、回転体に接続された二相出力方式のレゾルバ(1)を用いて、該回転体の回転位置を検出するための装置であって、時間を計測する時間計測手段(3)と、レゾルバから、回転位置を示す回転位置データを取得する取得手段(2)と、レゾルバの回転速度が一定のときに、該時間計測手段によって特定された複数の時点において取得手段により取得された回転位置データに基づいて、補正パラメータ(α、α、β)を算出する補正パラメータ算出手段(4)と、任意の時点で取得手段により取得された回転位置データを、該補正パラメータによって補正する補正手段(5)と、を備える。ここで、補正パラメータは、レゾルバが任意の回転速度で回転しているときに取得された任意の値の回転位置データ、および該レゾルバの回転が停止している時に前記取得手段により取得された任意の値の前記回転位置データに適用可能なように算出される。
【0013】
この発明によれば、補正パラメータを、特定された複数の時点で取得された回転位置データに基づいて算出するので、オンラインで(リアルタイム)に補正パラメータを取得することができる。また、補正パラメータは、レゾルバが任意の回転速度で回転しているときの任意の値の回転位置データ、およびレゾルバの回転が停止しているときの任意の値の回転位置データに適用可能なように算出される。したがって、補正パラメータを、回転位置や回転速度に応じて切り換える必要がなく、レゾルバが回転しているときのみならず停止している時も含めて任意の時点で取得された回転位置データに該補正パラメータを適用して補正することが可能である。
【0014】
従来では、前述したように、回転位置ごとに補正値を予め算出して記憶していた。あらゆる回転位置に対応して補正値を得る必要があるので、補正値を決定する際には、ある程度サンプリング周波数を高くし、すなわち回転速度を低下させる特別な試験モードを必要とする。それに対し、本願発明では、補正パラメータは回転位置に依存しないよう算出されるので、予め各回転位置に対応するよう補正値を取得しておく必要がない。さらに、従来では、特定の回転速度に対応する補正値を予め取得する手法も提案されているが、本願発明では、補正パラメータは、回転速度に依存しないよう算出されるので、予め特定の回転速度に対応する補正値を取得しておく必要がない。
【0015】
また、この発明によれば、レゾルバにより検出された回転位置データに基づいて補正パラメータを算出するので、補正パラメータを算出するのに追加のハードウェア構成要素を必要としない。
【0016】
本願発明の一実施例では、時間計測手段は、取得手段により取得される回転位置データが等しくなる時点間の周期を測定し、同じ長さの回転周期が連続して測定されたならば、回転速度が一定であると判断する。
【0017】
取得される回転位置データは、誤差を含んでいる可能性がある。回転速度が一定かどうかは、たとえば回転位置データの変化を調べることにより判断することもできるが、この手法だと、該誤差のために判断を誤るおそれがある。しかしながら、本願発明では、回転位置が等しくなる時点間の周期の時間長により回転速度が一定かどうか判断するので、このような誤った判断を回避することができる。
【0018】
本願発明の一実施例では、上記複数の時点は、レゾルバの回転の1周期中において少なくとも3つの時点である。このように、1周期中の少なくとも3時点で回転位置を検出することにより、補正パラメータを算出することができる。したがって、補正パラメータを算出するのに、高いサンプリング周波数は必要とされず、時間分解能および角度分解能の観点から、補正パラメータを算出するための条件を緩和することができる。
【0019】
本願発明の一実施例では、取得手段により取得される回転位置データに含まれる誤差を補正パラメータで表すと共に、該取得される回転位置データを、該補正パラメータおよび該誤差を含まない回転位置データで表したモデル(式(4))に基づき、レゾルバの回転速度が一定のときに、時間計測手段によって特定された複数の時点のそれぞれについて取得された回転位置データおよび該複数の時点のそれぞれに対応すべき該誤差を含まない回転位置データから、該補正パラメータを算出する(式(25)〜(27)、式(32)〜(34))。
【0020】
本願発明者は、レゾルバから取得される回転位置を、任意の回転位置および任意の回転速度に適用可能な補正パラメータを用いてモデル化できることを見いだした。このモデルに基づくことにより、補正パラメータを、回転位置および回転速度に依存することなく、また、レゾルバが回転しているときだけでなく停止している時にも適用可能なように、リアルタイムに算出することができる。
【0021】
本願発明の一実施例では、上記モデルに基づき、補正パラメータ算出手段により算出された補正パラメータおよび任意の時点で取得出手段により取得された回転位置データから、該誤差を含まない回転位置データを算出することにより、該補正を行う(式(13))。
【0022】
この発明によれば、上記モデルを用いることにより、任意の時点で取得された回転位置および算出された補正パラメータから、真の回転位置を良好な精度で簡単に算出することができる。
【0023】
本願発明の一実施例では、補正パラメータは、複数の時点のそれぞれにおいて取得された回転位置データの正接(tan)を用いて算出される。したがって、補正パラメータを、比較的単純な計算で算出することができる。
【0024】
本願発明の一実施例によれば、上記補正は、arctan(sinθe―βα)/β(cosθe−α)に従って行われ、ここで、θeは、取得された回転位置データを示し、β、αおよびαは、補正パラメータを示す。
【0025】
本願発明の補正は、前述したモデルに基づいて導かれた上記式に従って行われる。補正パラメータが決定されれば、任意の回転位置θeに対して、該式により補正済み回転位置θを算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は、本願発明の一実施形態に従う、回転位置(回転角度)を検出するための装置のブロック図を示す。レゾルバ1は、モータ等の回転体の回転軸に取り付けられて、該回転体の回転位置(回転角度)を示す回転位置データをアナログ信号として出力する。ここで、図2の(a)を参照すると、レゾルバ1のより具体的な構成が示されている。
【0028】
この実施例では、レゾルバ1は、一相励磁二相出力の可変リラクタンス(VR)型レゾルバであり、周知のものでよい。レゾルバ1は、ステータ21およびロータ22を備えており、励磁コイル23および一対の検出コイル(二次巻き線)24および25は、共にステータ21に取り付けられている。ステータ21とロータ22の間にはギャップが形成されており、該ギャップが回転角に対して周期的に変化するようロータ22は形作られている。回転体の回転に従ってロータ22が回転すると、ギャップのリラクタンスが変化し、これにより、励磁コイル23および検出コイル24,25の電気的な結合が正弦波状に変化する。結果として、図2の(b)に示されるように、検出コイル24および25に接続された検出回路27および28により、励磁回路26によって励磁コイル23に印加された励磁電圧VEXが正弦波および余弦波に変調された信号V1およびV2がそれぞれ検出される。
【0029】
図2の(c)に示されるように、ロータ22の形状は、軸倍角に応じた形状を有している。図には、軸倍角が2X、3Xおよび4Xのレゾルバが示されている。軸倍角がnXの場合、ロータ22が1回転する間にn回同じレゾルバ信号(図2の(b)に示される正弦波および余弦波信号)が繰り返し出力される。言い換えれば、ロータが1/n回転すると、レゾルバ信号の位相が360度変化する。以下の説明では、図2の(b)に示される周期Tを、レゾルバの回転周期と呼ぶことがある点に注意されたい。本願発明は、いずれの軸倍角のレゾルバにも適用されうる。
【0030】
ここで、図1の各機能ブロックの詳細な説明に先立ち、本願発明の原理を説明する。
【0031】
図2の(a)のような励磁コイル23に励磁電圧VEXを印加すると、検出コイル24および25に電圧V1およびV2がそれぞれ誘起され、これらは、式(1)および(2)のように表すことができる。ここで、θは、ロータ22の回転角度(回転位置)すなわちレゾルバが接続された回転体の回転角度(回転位置)を表し、Kは、検出コイル24および25の変圧比を表す。
【数1】

【0032】
回転角度θは、式(1)および(2)に基づいて、式(3)のように表される。
【数2】

【0033】
ここで、arctan(逆正接)の主値は―90度〜+90度とし、VEXとV1が同じ符号のとき、θ=0度となり、VEXとV1が異符号のとき、θ=180度である。
【0034】
図2の(a)に示すような構成要素に何らかのバラツキが存在すると、回転角度θは誤差を含むおそれがある。たとえば、レゾルバ1に偏芯(ステータとロータの軸心のずれ等)が存在すると、検出コイル24および25の変圧比Kにブレが生じ、よって、V1/V2はtanθと一致しなくなる。また、検出回路27および28の電気的特性のバラツキや、これらの回路を構成する素子にバラツキが存在すると、V1およびV2に直流分が加わり、オフセットが生じうる。
【0035】
変圧比Kに基づく誤差をβで表し、電圧V1およびV2に基づく誤差をαおよびαでそれぞれ表すと、レゾルバ1から検出され、誤差を含む回転角度θeは、式(4)のようにモデル化することができる。ここで、θは、誤差を含まない(真の)回転角度を示す。
【数3】

【0036】
ここで、図3を参照して、上記モデルを幾何学的に考察する。
【0037】
簡略化のため、KVEX=1とし、原点Oを中心とした単位円41を描く。回転角度が誤差を含まないθである場合、式(1)および(2)より、電圧V1およびV2は単位円41上に存在する。しかしながら、検出回路の電気的特性や素子のバラツキ等に起因して、電圧V1およびV2にオフセットαおよびαが生じると、X軸はαだけずれ、Y軸はαだけずれる。変圧比Kにブレが生じると、V1/V2にブレが生じ、よって、Y軸方向にさらにβ倍ずれると考えることができる。結果として、回転角度が誤差を含むθeである場合、V1およびV2は、X軸方向にαだけずれ、Y軸方向にβαだけずれた原点O’を中心とした楕円42上に存在すると考えることができる。
【0038】
誤差を含む回転角度θeは、原点Oと楕円42上の点Pを結ぶ線と、X軸とのなす角度により表され、式(5)のように表すことができる。他方、誤差を含まない真の角度θは、原点O’と楕円42に内接する単位円43上の点Qを結ぶ線と、X’軸とのなす角度により表され、式(6)のように表すことができる。
【数4】

【0039】
点Pの座標を、原点Oを基準として表す。真の角度θを用いると、図より、以下の式(7)ように表すことができる。
【数5】

【0040】
このように、変圧比Kおよび電圧V1およびV2のバラツキを含む回転角度θeを、式(4)のようにモデル化することができる点が、幾何学的に明瞭になった。
【0041】
なお、式(4)の真の回転角度θを、誤差を含む回転角度θeで表すことができれば、誤差を含む回転角度θeおよび誤差パラメータ(補正パラメータ)β、αおよびαから、真の回転角度θを求めることができる。この点について、考察する。
【0042】
図3に示す点Pの座標を、原点Oを基準として、誤差を含む回転角度θeで表すことを試みる。直線OPは、式(8)で表され、楕円42は、式(9)で表される。
【数6】

【0043】
式(8)を式(9)に代入すると、式(10)および(11)のように、XおよびYを求めることができる。
【数7】

【0044】
上記の2つの式(10)および(11)と、式(7)とから、真の回転角度θを、以下の式(12)のように誤差を含む回転角度θeで表すことができる。
【数8】

【0045】
式(12)に示されるような演算は、計算負荷が高く、実用的でない。したがって、本願発明の一実施例では、θの近似解θ’を算出し、該近似解θ’を、真の回転角度θとして用いる。これにより、計算負荷を低減しつつ、真の回転角度を良好な精度で算出することができる。近似解θ’を、式(13)に示す。ここで、分母が正のときθ0=0であり、分母が負のときθ0=180である。
【数9】

【0046】
上記近似解θ’の導出手法を説明する。
【0047】
モデル式(4)から、次の式(14)が得られる。なお、簡略化のため、θ0は除いて考えることとする。
【数10】

【0048】
レゾルバの設計上、変圧比Kおよび電圧V1,V2の誤差を示す誤差パラメータは、β≒1、α<<1、およびα<<1と考えることができる。したがって、式(14)の左辺の分母=右辺の分母および左辺の分子=右辺の分子とみなして、式(15)および(16)のような近似を行うことができる。ここで、θ’はθの近似解である。
【数11】

【0049】
したがって、θ’は、式(17)および(18)のように表される。
【数12】

【0050】
上記2式より、近似解θ’を、式(19)のように求めることができ
【数13】

【0051】
こうして、モデル式(4)から、式(13)に示すような近似解が導出された。
【0052】
次に、該近似解の妥当性について説明する。最初に、シミュレーションの観点から妥当性を確認する。
【0053】
図4を参照すると、α=0.01、α=―0.01、β=1.05である場合の、レゾルバ回転の1周期T(0〜360度)における、(θe―θ)の値および(θ’―θ)の値を、それぞれ符号51および52で示す。符号51に示すように、変圧比Kおよび電圧V1およびV2の誤差に起因して、回転角度θeは、真の回転角度θに対して誤差を有している。しかしながら、該誤差を含む回転角度θeから導出した近似解θ’は、真の回転角度θに対してほとんど誤差を有していないことがわかる。このように、近似解θ’を真の回転角度θとして用いることがシミュレーションにより確かめられた。
【0054】
次に、近似解θ’の妥当性を、解析的観点から考察する。近似するために仮定した式(15)および(16)を、式(4)に代入して、θeを消去する。
【数14】

【0055】
式(20)を整理すると、以下のような式が導かれる。
【数15】

【0056】
α<<1およびα<<1であると共に、β≒1であるので、右辺の値は1に比べて十分小さい値となり、よって、近似解θ’と真の角度θの差は、0度の近傍である。したがって、近似解θ’を、真の回転角度θとみなすことができることがわかる。
【0057】
次に、図5を参照して、上記の誤差パラメータα、αおよびβを算出する手法について、その原理を説明する。
【0058】
レゾルバ1のロータの回転速度が一定であるとき、レゾルバ回転の1周期T(図2参照)の間に、レゾルバ1から出力される回転角度θeを複数の時点でサンプリングする。回転速度が一定であるかどうかは、周期Tの時間をタイマで計測することにより判断される。たとえば、θe=0が検出されたことに応じて図のように0度検出パルスを発し、該パルス間の長さを計測することにより、周期Tを計測する。同じ長さの周期が連続して計測されたならば、回転速度が一定であると判断する。また、サンプリングする複数の時点は、予め決められた時点であり、タイマにより計測されることにより特定されることができる。図では、一例として、2回連続して同じ長さの周期Tが計測されたことに応じて、3周期目において回転角度θeのサンプリングが行われている。サンプリングタイミングの一例が白丸で示されている。
【0059】
なお、この実施例では、タイマは、所定時間計測するとリセットされ、リセットされる周期は、タイマの時間分解能に従って決められている。たとえば、タイマは、所定時間間隔(たとえば、1/4MHz)ごとに時間をデータとして記憶し、その記憶量が限界(たとえば、16ビット)になったとき、タイマはリセットされる。図に示されるリセットのタイミングは一例であり、任意の他のタイミングを用いることができる。たとえば、ゼロ値を持つ回転速度θeが検出されるたびにリセットされるようタイマを構成してもよい。
【0060】
この実施例では、誤差パラメータが3個あるので、少なくとも3つの時点をタイマにより特定し、特定された各時点でサンプリングすればよい。一実施例では、回転角度θe=0の時点を検出し、該時点から1周期Tの間に、T/8、3T/8、7T/8の3点でサンプリングを行う。たとえば、タイマは、0度検出パルスに応答して該3つの時点を計測する。T/8、3T/8および7T/8の各時点に対応すべき真の回転角度θは、T=360度であるので、それぞれ、45,135,315度であるべきである。よって、各時点で取得された回転角度θeは、真の角度θが45、135、315度の時の誤差を含んだ回転角度と考えられる。
【0061】
したがって、式(4)に、各時点の回転角度θeを代入すると、式(22)〜(24)が得られる。
【数16】

【0062】
前述したように、α<<1およびαは<<1であると共に、β≒1と考えることができるので、誤差パラメータα、αおよびβは、以下の式(25)〜(27)に従って算出される。式(25)は、式(22)から式(24)を減算することにより得られ、式(26)は、式(22)と式(23)を加算することにより得られ、式(27)は、式(22)の逆数と式(24)の逆数を加算することにより得られる。
【数17】

【0063】
他の実施例では、回転角度θe=0の時点を検出し、該時点から1周期Tの間に、T/8、3T/8、5T/8、および7T/8の4点でサンプリングを行う。たとえば、タイマは、0度検出パルスに応答して該4つの時点を計測する。T/8、3T/8、5T/8および7T/8の各時点に対応すべき真の回転角度θは、T=360度であるので、それぞれ、45,135,225,315度であるべきである。よって、各時点で取得された回転角度θeは、真の角度θが45、135、225、および315度の時の誤差を含んだ回転角度と考えられる。
【0064】
したがって、式(4)に、各時点の回転角度θeを代入すると、式(28)〜(31)が得られる。
【数18】

【0065】
前述した3点の場合と同様に、誤差パラメータαおよびαが1に比べて十分小さく設計されていることを用いると、誤差パラメータα、αおよびβは、以下の式(32)〜(34)に従って算出される。
【数19】

【0066】
上に示すサンプリングタイミングは一例であり、他の時点でサンプリングを行うようにしてもよい。
【0067】
誤差パラメータを算出するために許容されるレゾルバの回転数は、時間計測に用いたタイマの時間分解能および後述するRD変換器の角度分解能により制限される。しかしながら、本願発明によれば、誤差パラメータを算出するのに必要な回転角度θeのサンプリング点数が限られている。したがって、このような分解能の条件は緩和され、高回転数(たとえば、2000rpm)でも、誤差パラメータをオンラインで(リアルタイムに)算出することができる。誤差パラメータを算出するのに、レゾルバの回転数を低くする特別な試験モードは必要とされない。レゾルバの通常の回転下で誤差パラメータを算出することができる。
【0068】
なお、より良好な精度で誤差パラメータを算出するために、誤差パラメータを複数回計算し、その平均値を、最終的な誤差パラメータとしてもよい。
【0069】
本願発明によれば、誤差パラメータをリアルタイムに算出するので、変圧比および検出回路のバラツキ、劣化、温度特性に変化等に対し、より適切な誤差パラメータを決定することができる。
【0070】
ここで、図1に戻り、ここまで説明してきた本願発明の原理に基づく、回転角度検出装置の各ブロックの機能について説明する。
【0071】
信号処理部2は、RD(レゾルバ−デジタル)変換器を備えており、アナログ信号として受け取った電圧V1およびV2を、回転角度θeを表すデジタル信号に変換する。ここで、回転角度θeは、前述したモデル式(4)のように表されることができる。
【0072】
一方、時間計測部3が設けられており、時間計測部3は、タイマを備える。図5を参照して説明したように、周期決定部3aは、タイマを用いて、ゼロ値を持つ回転角度θeが検出される時点間の周期Tを計測する。
【0073】
周期決定部3aは、同じ長さを持つ周期Tが連続して計測されたかどうかを判断する。同じ長さを持つ周期Tが連続して計測されたならば、レゾルバ1の回転速度が一定しており、次の周期も同じ長さを持つであろうと推定する。タイミング算出部3bは、予め決められたサンプリングタイミング(たとえば、T/8、3T/8、5T/8および7T/8)を算出する。
【0074】
誤差パラメータ算出部4は、算出されたサンプリングタイミングのそれぞれに応じて、回転速度θeをサンプリングし、誤差パラメータα、α、およびβを算出する。たとえば、前述したように、T/8,3T/8,5T/8および7T/8の4点でサンプリングされた場合には、式(32)〜(34)に従い誤差パラメータを算出することができる。代替的に、T/8,3T/8および7T/8の3点でサンプリングされた場合には式(25)〜(27)に従い、誤差パラメータを算出することができる。
【0075】
補正部5は、誤差パラメータ算出部4により算出された誤差パラメータを用い、信号処理部2によって任意の時点で検出された回転角度θeを、式(13)に従って補正し、近似解θ’を算出する。前述したように、近似解θ’が、真の回転角度θとして出力される。こうして、レゾルバの回転角度(回転位置)θを算出することができる。回転角度θを用いて、レゾルバの回転速度ωを求めることもできる。
【0076】
回転角度θeは、式(4)のようにモデル化され、誤差パラメータは、該モデルに基づいて算出される。したがって、誤差パラメータは、任意の回転位置および任意の回転速度に適用可能なように算出されることができる。そして、レゾルバが回転している時だけでなく、停止している時も含めて、任意の時点で検出された回転角度θeを、該算出された誤差パラメータによって補正することができる。
【0077】
図6は、本願発明の一実施例に従う、誤差パラメータを算出するためのプロセスのフローチャートである。このプロセスは、図1に示す周期決定部3a、タイミング算出部3b、および誤差パラメータ算出部4によって実行されることができ、より具体的には、図1の装置に、CPUおよびメモリを備えるコンピュータを備え、該CPUによって実行されることができる。
【0078】
ステップS1において、誤差パラメータが算出されているかどうかを判断する。初期状態では、誤差パラメータはまた算出されていないので、ステップS2に進む。ステップS2において、レゾルバの回転速度が一定かどうかを判断する。一実施例では、該判断は、前述したように、同じ長さの周期Tが連続して計測されたかどうかによって行われる。さらに、一実施例では、ステップS2において、回転速度が所定の閾値以下かどうかを判断してもよい。前述したように、周期Tを計測するタイマの時間分解能やRD変換器の角度分解能によって、サンプリング周期は制限されうるからである(たとえば、タイマの時間分解能を4MHzの回転で16ビット/回転とした場合、閾値を2000rpm程度にすることができる)。しかしながら、本願発明では、サンプリング点数が限られているので、このような回転速度の制限がかなり緩和されている点に注意されたい。
【0079】
ステップS3において、回転角度θeがゼロの時点を検出することにより、周期Tを計測する。連続して同じ長さの周期が計測されたならば(たとえば、2回連続)、ステップS4においてサンプリングタイミングを算出する。ステップS5に進み、たとえば次の回転周期Tにおいて、該算出されたサンプリングタイミングのそれぞれで回転角度θeをサンプリングする。ステップS6において、サンプリングした回転角度θeを用いて、たとえば式(25)〜(27)または式(32)〜(34)に従い、誤差パラメータを算出する。
【0080】
図6に示すプロセスを、任意の時点で実行して、または定期的に実行して、誤差パラメータを更新するようにしてもよい。
【0081】
図7は、本願発明の一実施例に従う、回転角度θを算出するためのプロセスのフローチャートである。このプロセスは、図1に示す補正部5によって実行されることができ、より具体的には、図1の装置に、CPUおよびメモリを備えるコンピュータを備え、該CPUによって実行されることができる。該プロセスは、所定の時間間隔で実行されることができる。
【0082】
ステップS11において、誤差パラメータが算出されているかどうかを判断する。初期状態では、誤差パラメータがまだ演算されていない。このような場合には、ステップS12に進み、検出された回転角度θeを、真の回転角度θの代わりに出力する。誤差パラメータが算出されているならば、ステップS13に進み、回転角度θeを取得し、式(13)に従って近似解θ’を算出する。ステップS14に進み、近似解θ’を、真の回転角度θとして出力する。
【0083】
一実施例では、本願発明に従う誤差パラメータによる補正は、レゾルバのゼロ点補正を行う前に行われる。ゼロ点補正では、レゾルバが取り付けられる回転体(たとえば、モータ)のステータとロータの基準位置への一致を、たとえば該モータのステータの逆起電圧から検出し、該基準位置において、レゾルバの検出角度がゼロ度になるようにする。本願発明による補正を行うことにより、レゾルバの回転角度(回転位置)を良好な精度で得ることができるので、このようなゼロ点補正を、より良好な精度で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】この発明の一実施例に従う、回転角度を検出するための装置のブロック図。
【図2】この発明の一実施例に従う、レゾルバを説明するための図。
【図3】この発明の一実施例に従う、誤差を含む回転角度θeと誤差を含まない回転角度θの幾何学的関係を示す図。
【図4】この発明の一実施例に従う、シミュレーション結果を示す図。
【図5】この発明の一実施例に従う、誤差パラメータを算出するための手法を説明するための図。
【図6】この発明の一実施例に従う、誤差パラメータを算出するプロセスのフローチャート。
【図7】この発明の一実施例に従う、回転角度を検出するプロセスのフローチャート。
【符号の説明】
【0085】
1 レゾルバ
2 信号処理部(RD変換器)
3 時間計測部
4 誤差パラメータ算出部
5 補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に接続された二相出力方式のレゾルバを用いて、該回転体の回転位置を検出するための装置であって、
時間を計測する時間計測手段と、
前記レゾルバから、前記回転位置を示す回転位置データを取得する取得手段と、
前記レゾルバの回転速度が一定のときに、前記時間計測手段によって特定された複数の時点において前記取得手段により取得された前記回転位置データに基づいて、補正パラメータを算出する補正パラメータ算出手段と、
任意の時点で前記取得手段により取得された回転位置データを、前記補正パラメータによって補正する補正手段と、を備え、
前記補正パラメータは、前記レゾルバが任意の回転速度で回転しているときに前記取得手段により取得された任意の値の前記回転位置データ、および該レゾルバの回転が停止している時に前記取得手段により取得された任意の値の前記回転位置データに適用可能なように算出される、
装置。
【請求項2】
前記時間計測手段は、さらに、前記取得手段により取得される回転位置データが等しくなる時点間の周期を測定し、同じ長さの該周期が連続して測定されたならば、前記回転速度が一定であると判断する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の時点は、前記レゾルバの回転の1周期中に対して少なくとも3つの時点である、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記補正パラメータ算出手段は、前記取得手段により取得される回転位置データに含まれる誤差を前記補正パラメータで表すと共に、該取得される回転位置データを、該補正パラメータおよび該誤差を含まない回転位置データで表したモデルに基づき、前記レゾルバの回転速度が一定のときに、前記特定された複数の時点のそれぞれについて取得された該回転位置データと、該特定された複数の時点のそれぞれに対応すべき該誤差を含まない回転位置データとから、該補正パラメータを算出する、
請求項1から3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記モデルに基づき、前記補正パラメータ算出手段により算出された補正パラメータおよび前記任意の時点で前記取得手段により取得された回転位置データから、前記誤差を含まない回転位置データを算出することにより、前記補正を行う、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記補正パラメータ算出手段は、前記複数の時点のそれぞれにおいて取得された前記回転位置データの正接関数(tan)を用いて、前記補正パラメータを算出する、
請求項1から5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記補正手段は、arctan(sinθe―βα)/β(cosθe−α)に従って前記補正を行い、ここで、θeは、前記取得された回転位置データを示し、β、αおよびαは、前記補正パラメータを示す、
請求項1から6のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−8536(P2009−8536A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170377(P2007−170377)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】