説明

レッグウエア構成物の製造方法、及びこれに使用される拡張器具

【課題】熟練を要することなく、全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができ、網目の細かい薄手のものが製造できるレッグウエア構成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】足幅方向に引き伸ばされた先端開放の指袋形成予定部の上下構成面部を縫製部により足指の形状に縫い合わせて五本の指袋を形成し、前記縫い合わせた縫い目に沿って外周部を切り取る。足指の形状に沿って本縫いが内外に複数回された後、前記内外の縫い目を跨ぐかがり縫いが行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、足の五本指が各別に収納されるレッグウエアの一部又は全部を構成する物(レッグウエア構成物という)の製造方法、及びこれに使用される拡張器具に関するものである。
【0002】
なお、ここに言うレッグウエアとは、靴下、パンティストッキング、タイツの全てを含む概念である。
【背景技術】
【0003】
近年、水虫の予防や治療等を目的として足の五本指を各別に収納するレッグウエアが販売されている。
【0004】
ここで、前記レッグウエアは、以下の(1)〜(3)の手順に従って製造されている。
(1)軍手の製造ラインなど横編み機を用い平編みによって足の五本指を収納する指袋部を編む。
(2)すべての糸を軍手の製造ラインから取り外し、レッグウエア製造装置に全ての糸を張りなおす(例えば、特許文献1、2)。
(3)前記レッグウエア用製造装置により、足指の付け根から口ゴムにかけて、靴下を編み込んでいく。
【0005】
しかしながら、上記製造方法では、全ての糸を軍手の製造ラインから取り外し、靴下の形を形成する製造装置に全ての糸を張りなおすという非常に面倒で熟練を要する作業が必要である。
【0006】
また、指袋は軍手の製造ラインを使用して形成されているから、当該指袋には複雑な柄を形成することは不可能(指別に色を変える程度なら可能)であった。
【0007】
さらに、糸を張りなおす方法で製造された五本指靴下は最大針数のものでも176本(ミドルゲージ)あるから、網目が粗い仕上がりとなって高級感のある薄手のものができないという問題があった。
【0008】
したがって、上記の如きレッグウエアを取り扱う業界では、熟練を要することなく、足挿入口から指袋までの全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができ、網目の細かい薄手のものが製造できるレッグウエア構成物の製造方法、及びこれに使用される拡張器具の開発に取り組んでいる。
【特許文献1】特開2004−292964
【特許文献2】特開2003−27357
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明では、熟練を要することなく、足挿入口から指袋の全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができると共に、網目の細かい薄手のものが製造できるレッグウエア構成物の製造方法、及びこれに使用される拡張器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(請求項1記載の発明)
この発明のレッグウエア構成物の製造方法は、足挿入口から指袋形成予定部までの領域を両端開放の筒状に編む編成工程と、前記指袋形成予定部を足幅左右方向に引き伸ばすべく当該指袋形成予定部の開口部に拡張器具を挿入する拡張工程と、前記拡張器具を刺繍機の取付座に取り付けた後、上記引き伸ばされた指袋形成予定部の上下構成面部を縫製部により足指の形状に縫い合わせて五本の指袋を形成する指袋形成工程と、縫い合わせた縫い目に沿って外周部を切り取る切取工程とを備えている。
(請求項2記載の発明)
この発明のレッグウエア構成物の製造方法は、上記請求項1記載の発明に関し、指袋形成工程では、足指の形状に沿って本縫いが内外に複数回された後、前記内外の縫い目を跨ぐかがり縫いが行われている。
(請求項3記載の発明)
この発明のレッグウエア構成物の製造方法は、上記請求項1又は2記載の発明に関し、指袋形成工程において、指袋形成予定部の上下面部を足指の形状に縫い合わせる際に、芯紙を共縫いしている。
(請求項4記載の発明)
この発明は、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の発明のレッグウエア構成物の製造方法に使用される拡張器具であって、刺繍機の取付座への取付部を有した基礎棒と、平面視コ字状の丸棒とから成る方形状の枠体であり、前記基礎棒と丸棒の接続部分の少なくとも一方が取外し可能になっている。
(請求項5記載の発明)
この発明は、上記請求項4記載の発明に関し、刺繍機の取付座と取付部とは磁着により、ワンタッチで着脱できるようになっている。
【発明の効果】
【0011】
この発明のレッグウエア構成物の製造方法、及びこれに使用される拡張器具よると、熟練を要することなく、足挿入口から指袋までの全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができると共に、網目の細かい薄手のものが製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下にこの発明のレッグウエア構成物(靴下全体)の製造方法及びこれに使用される拡張器具を実施するための最良の形態として実施例について詳しく説明する。
【実施例1】
【0013】
図1(a)〜(h)はこの発明の実施例のレッグウエアS(靴下)の製造方法の工程図、図2はレッグウエアSを製造するにあたって使用する拡張器具8の斜視図、図3は前記拡張器具8の一部を外した状態を示す斜視図、図4は刺繍機9を用いた指袋形成予定部12の縫い合わせの詳細図、図5は前記レッグウエアSの全体斜視図を示している。
(このレッグウエアSの製造方法の基本的構成について)
〔編成工程〕
先ず、従来から用いられている靴下編み機を用い、図1(a)(b)に示すように足挿入口1から編み始めて踵部2、足甲部3と編み進めて行き、続いて指袋形成予定部4を編み込む。この編成工程が終了した状態においては、足挿入口1から指袋形成予定部4までは閉じられることなく両端開放の筒状になっている。
〔拡張工程〕
この工程では、上記指袋形成予定部4を足幅左右方向に引き伸ばすべく、図1(b)(c)に示す如く当該足袋形成予定部4の開口部に拡張器具8を挿入する。
【0014】
ここで、拡張器具8は、図2や図4に示すように、刺繍機9の磁石座91に取付けるための取付部80aを有した基礎棒80と、角部がR状である平面視コ字状の丸棒81とから成る方形状の枠体であり、前記基礎棒80と丸棒81の接合部分のうち、一方は溶接固着とし、他方は引掛り部80bに丸棒81端部を係脱自在に取り付ける構成としてある。
【0015】
なお、この拡張器具8の幅は指袋形成予定部4の足幅寸法の3〜4倍程度の長さに設定してあり、足袋形成予定部4の開口部に拡張器具8が挿入された状態では当該足袋形成予定部4は足幅方向に3〜4倍に、つまり伸び代がほとんどない状態まで引き伸ばされている。また、上記取付部80aには永久磁石82を取り付けてあり、図4に示すように、前記永久磁石82の磁着力により刺繍機9の磁石座91(外面が磁性金属又は一部磁石を取り付けた構成であり、請求項4記載の発明の取付座に相当する)に容易に位置決め固定及び離脱できるようになっている。
〔指袋形成工程〕
この工程では、図4に示すように、前記拡張器具8を刺繍機9の磁石座91に取り付けた後、足幅方向に引き伸ばされた指袋形成予定部4の上下構成面をヘッド部90の縫製部90aにより図1(d)及び図4に示すように足指の形状に縫い合わせて指袋を形成する。この指袋形成工程では、図4に示すように、足指の形状に沿って本縫いが内外に二回された後、前記内外の縫い目を跨いでかがり縫いが行われている。なお、この実施例では、図4に示す如き本縫いに使用される糸60,61はナイロン糸、及びかがり縫いに使用される糸62はナイロン糸(例えば70デニール双糸)としてあり、このため糸が切れて指袋の縫着部に孔が開くという事態を引き起しにくい。
【0016】
ここで、この刺繍機9では、コンピュータプログラムにより複数連の縫製部90aが同時に同じ縫製動作をするものとなっており、また、上記拡張器具8が移動するのではなく縫製部90aが移動する態様で縫製が行われる。
【0017】
さらに、この実施例では指袋形成予定4の上下面間に芯紙を挟み込んだ状態で縫い合わすようにしている。
【0018】
したがって、通常のミシンにより、伸縮性に富む布地を引き伸ばすことなく布地側を移動させるようにして縫製を行うと、縫製時において布地に伸縮が生じ仕上がりが醜くなってしまうが、この実施例の指袋形成工程では、布地を引き伸ばした状態で縫製部91側を移動し且つ指袋形成域4の上下面間に芯紙を挟み込んでいるので、皺の発生が抑制され仕上がりは非常に美しいものとなる。
〔拡張器具取外し工程〕
この工程では、拡張器具8を刺繍機9の磁石座91から取り外した後に、基礎棒80と丸棒81の接合部分のうち、引掛り部80bから丸棒81端部を外し、前記丸棒81の端部を指袋形成域4内でスライドさせるようにして、拡張器具8を指袋形成予定部4から抜き取る(図1(e)参照)。
【0019】
なお、拡張器具8を指袋形成予定部4から抜き取った状態では、図1(e)の符号Xで示す部分は丸棒81が位置しているので縫着できておらず孔が開いた状態となっている。したがって、前記孔部分を塞ぐべく縫着しておく。
〔切取工程〕
この工程では、図1(f)(g)に示すように、縫い合わせた縫い目に沿って外周部(斜線で示した部分を鋏7で切り取る。
【0020】
そして、上記工程を経てできた図1(g)に示す裏返し状態の五本指レッグウエアSを、図1(h)に示す如く表返しにすると、使用可能な状態となる。
【0021】
この五本指レッグウエアSは、図5に示すように、足挿入口1、踵部2、足甲部3、及び五本の指袋40を有しており、全体に図柄が点在しているものとなっている。
(この実施例のレッグウエアSの製造方法の優れた点について)
(1) 従来のレッグウエアの製造方法では、上述した如く、すべての糸を軍手の製造ラインから取り外し、レッグウエアの形を形成する製造装置に全ての糸を張りなおすという非常に面倒で熟練を要する作業が必要である。
【0022】
これに対して、この実施例の製造方法は基本的には、足挿入口1から指袋形成予定部4までを編み込む〔編成工程〕と、前記指袋形成予定部4を足幅左右方向に引き伸ばすべく当該足袋形成予定部4の開口部に拡張器具8を挿入する〔拡張工程〕と、前記拡張器具8を刺繍機9の磁石座91に取り付けた後、足幅方向に引き伸ばされた指袋形成予定部4の上下面部を縫製部90aにより足指の形状に縫い合わせて指袋を形成する〔指袋形成工程〕から構成されている。つまり、この実施例の製造方法には従来の製造方法の如き、面倒で熟練を要する作業は存在しない。
【0023】
したがって、熟練者でなくても品質の良いレッグウエアを製造することができるという優れた利点がある。
(2) 従来のレッグウエアの製造方法では、袋は軍手の製造ラインを使用して形成されているから、当該指袋には複雑な柄を形成することは不可能であった。
【0024】
これに対して、この実施例の製造方法は、通常のレッグウエアを編成する方法により足挿入口1から指袋形成予定部4までを編み込むものであるから、指袋40部分において複雑な柄を形成することは当然に可能である。
【0025】
したがって、この実施例の製造方法によると、レッグウエア全体に複雑な柄を形成できることとなり、見栄えのよい、ファッショナブルな五本指レッグウエアを製造することができる。
(3) 従来の糸を張りなおす方法で製造されるレッグウエアは最大針数のものでも176本(ミドルゲージ)であるから、網目が粗い仕上がりとなって高級感のある薄手のものができない。
【0026】
これに対して、この実施例の製造方法は、通常のレッグウエアを編成する方法により足挿入口1から指袋形成予定部4までを編み込むものであるから、ミドルゲージは勿論のことハイゲージものでも製造できる。
【0027】
したがって、この実施例の製造方法によると、網目が細かい仕上がりであり高級感のある薄手のものができる。
(4) 上記した(1)〜(3)の内容から、この実施例の製造方法では、熟練を要することなく、足挿入口から指袋の全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができ、網目の細かい薄手のものが製造できることになる。
(その他の実施の形態)
上記実施例1の五本指レッグウエアの製造方法における指袋形成工程では、足指の形状に沿って本縫いが内外に2回された後、前記内外の縫い目を跨いでかがり縫いが行われていが、場合によって本縫いは1回又は3回でもよい。
【0028】
また、上記実施例1では、本縫いに使用される糸60,61はナイロン糸、及びかがり縫いに使用される糸62はナイロン糸(例えば70デニール双糸)としているが、繊維構成材料及び太さはこれに限定されるものではなく、適宜使用できる。
【0029】
上記実施例1は、靴下の製造方法であったが、パンティストッキングやタイツを製造する場合は、爪先からウエストまでに至るレッグウエア構成物を二本製造し、その後、ウエストから股下までの域を縦方向に切断して両レッグウエア構成物の切断部分を直接又はマチ部を介して繋ぎ合わせるようにすればよい。これらパンティストッキングやタイツにおいても、熟練を要することなく、足挿入口から指袋の全長にわたって見栄えがよい綺麗な模様を施すことができ、網目の細かい薄手のものが製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施例のレッグウエア(靴下)の製造方法の工程図。
【図2】前記レッグウエアの製造方法を製造するにあたって使用する拡張器具の斜視図。
【図3】前記拡張器具の一部を外した状態を示す斜視図。
【図4】刺繍機を用いた指袋形成予定部の縫い合わせの詳細図。
【図5】前記レッグウエアの全体斜視図。
【符号の説明】
【0031】
S レッグウエア
1 足挿入口
2 踵部
3 足甲部
4 指袋形成予定部
7 鋏
8 拡張器具
80 基礎棒
80a 取付部
80b 孔
81 丸棒
82 永久磁石
9 刺繍機
90 ヘッド
90a 縫製部
91 磁石座(取付座)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足挿入口から指袋形成予定部までの領域を両端開放の筒状に編む編成工程と、前記指袋形成予定部を足幅左右方向に引き伸ばすべく当該指袋形成予定部の開口部に拡張器具を挿入する拡張工程と、前記拡張器具を刺繍機の取付座に取り付けた後、上記引き伸ばされた指袋形成予定部の上下構成面部を縫製部により足指の形状に縫い合わせて五本の指袋を形成する指袋形成工程と、縫い合わせた縫い目に沿って外周部を切り取る切取工程とを備えていること特徴とするレッグウエア構成物の製造方法。
【請求項2】
指袋形成工程では、足指の形状に沿って本縫いが内外に複数回された後、前記内外の縫い目を跨ぐかがり縫いが行われていることを特徴とする請求項1記載のレッグウエア構成物の製造方法。
【請求項3】
指袋形成工程において、指袋形成予定部の上下面部を足指の形状に縫い合わせる際に、芯紙を共縫いしていることを特徴とする請求項1又は2記載のレッグウエア構成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の発明のレッグウエア構成物の製造方法に使用される拡張器具であって、刺繍機の取付座への取付部を有した基礎棒と、平面視コ字状の丸棒とから成る方形状の枠体であり、前記基礎棒と丸棒の接続部分の少なくとも一方が取外し可能になっていることを特徴とする拡張器具。
【請求項5】
刺繍機の取付座と取付部とは磁着により、ワンタッチで着脱できるようになっていることを特徴とする請求項4記載の拡張器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56374(P2007−56374A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239324(P2005−239324)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(505315454)
【Fターム(参考)】