説明

レブリン酸エステルの製造方法

【課題】様々な種類の炭水化物を用いたとしても、これらからごく少量の触媒によりレブリン酸エステルを効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒として、周期律表の第13族に属する金属を含む化合物を用いる。上記エステル合成反応を酸の存在下で行なう。金属を含む化合物が、トリフルオロメチル硫酸の金属塩である上記レブリン酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物、例えば糖、でんぷん、セルロースあるいはそれらを含有する混合物、あるいはバイオマス由来のこれらのもの等とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、埋蔵量に限りのある化石資源の枯渇に対する懸念から、化成品や燃料の原料を再生可能資源であるバイオマス資源に求めることへの関心が高まっている。例えば米国ではセルロースや糖などの炭水化物系バイオマスから製造し得る300種以上の化学品をスクリーニングし、基幹化合物として特に有用な12の化合物を選び出している(非特許文献1参照)。
【0003】
レブリン酸はその12基幹化合物の一つであり、レブリン酸を原料として燃料添加剤、高分子原料、生理活性物質等を合成できることが知られている。
例えば、シェル社の特許である特許文献1によれば、C5−C10のアルキル基を持つレブリン酸エステルはディーゼル燃料の燃料添加剤として用いることができる。それらのレブリン酸エステルが持つエンジン内のシール剤に対する膨潤特性はディーゼル燃料とほとんど変わらないため、現行のエンジンに対してそのまま添加できる点が特徴的である。
また、デュポン社の論文である非特許文献2によれば、レブリン酸より合成されるγ−メチレンバレロラクトンはアクリル酸の代替として用いることができ、その重合体はアクリル酸重合体よりもガラス転移点の高い樹脂となることを述べている。
また、前述の非特許文献1によれば、レブリン酸の5位の炭素をアミノ化した5−アミノレブリン酸は生分解性除草剤として利用可能であることを述べている。
以上の例から示されるように、レブリン酸は多種多様な有用化合物の合成中間体として非常に有用なものである。
【0004】
レブリン酸がグルコースなどの炭水化物を原料として製造可能なことは古くから知られている。例えば、グルコースを臭化水素酸や塩酸の存在下で加熱分解することによる製造法があるが(非特許文献3参照)、グルコースに対して10モル等量以上の多量の酸が必要であり、またこれらの酸は揮発性があり、工業的製法においては装置の防食方法および反応後の酸の処理が問題となる。
【0005】
一方、揮発性の無い硫酸を用いるレブリン酸製造法も知られているが(特許文献2参照)、グルコースに対して40モルパーセント程度の比較的多量の酸が必要であるから、工業的製法においては装置の防食方法および反応後の酸の処理が問題となる。
また、バイオファイン社の特許である特許文献3によれば、セルロースを原料として硫酸により連続的にレブリン酸を製造する方法を述べているが、70%以上の収率でレブリン酸を製造するにはセルロースを構成するグルコース1モルあたり3当量以上の硫酸が必要であり、また反応温度が200℃前後の厳しい条件で反応することが求められることから、工業的製法においては装置の防食方法および反応後の酸の処理が問題となる。
【0006】
以上のように従来のレブリン酸製造法においては多量の酸が必要であることから、装置の防食方法および反応後の酸の処理が問題となっていた。
このような状況下で最近発明者らはヘテロポリ酸を触媒として用いることによりアルコール中で糖やセルロースなどの炭水化物が温和な条件でレブリン酸エステルに変換されることを見出した(特許文献4参照)。この製造法では酸の使用量は少なくてすみ、また反応条件も温和であることから従来技術の問題点を克服したものである。
しかし、その後の本発明者らの検討によれば、原料炭水化物の種類によってレブリン酸エステルの収率が変動し、たとえば原料としてフルクトースを用いた場合は良い収率を与えるのに対し、グルコースやセルロースを用いた場合にはやや反応性が遅く、その収率が若干劣るといった問題点があることが判明した。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/044960号パンフレット
【特許文献2】特許第1166813号
【特許文献3】米国特許第5,608,105号明細書
【特許文献4】特開2006−206579号公報
【非特許文献1】T.Werpy and G.Peterson, “Top Volue−Added Chemicals from Biomass: Volume I−Results of Screening for Potential Candidates from Sugars and Synthesis Gas”,DOE/GO−102004−1992,(2004).
【非特許文献2】L.E.Manzer,Appl.Catal.,272,249(2004).
【非特許文献3】T.R.Frost and F.F.Kruth,TAPPI, 34,80(1951)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の実状に鑑みなされたものであって、様々な種類の炭水化物を用いたとしても、これらからごく少量の触媒によりレブリン酸エステルを効率よく製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、炭化水素からのレブリン酸エステルの製造法における触媒について鋭意研究した結果、周期律表の第13族金属化合物あるいは第13族金属化合物と酸の組み合わせからなる触媒系を用いると、様々な種類の炭水化物から効率よくレブリン酸エステルが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒として、周期律表の第13族に属する金属を含む化合物を用いることを 特徴とするレブリン酸エステルの製造方法。
〈2〉上記エステル合成反応を酸の存在下で行なうことを特徴とする〈1〉に記載のレブリン酸エステルの製造方法。
〈3〉金属を含む化合物が、トリフルオロメチル硫酸の金属塩であることを特徴とする〈1〉または〈2〉に記載のレブリン酸エステルの製造方法。
〈4〉金属が、インジウムであることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載のレブリン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、糖、でんぷん、セルロース等の様々な種類の炭水化物を用いても、これらから効率よくレブリン酸エステルを得ることができ、また従来よりも少量の触媒使用量または酸使用量で効率よくレブリン酸エステルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
原料として用いる炭水化物は、特に制限されず、従来この種のレブリン酸エステルの原料として用いられている全ての炭水化物が包含される。このような炭水化物としては、例えば単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、それらの混合物、さらにはバイオマス由来のこれらのものなどが挙げられ、これらのうち、単糖類としては、例えばグルコース、フルクトース等の六炭糖やキシロース、アラビトース糖の五炭糖が挙げられ、また多糖類としては、例えばでんぷん、セルロース等が挙げられる。これらの原料は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、原料自体が混合物の場合にはそれより単離することなく混合物のまま用いてもよい。
【0013】
炭水化物とともに反応に供されるアルコールについては、脂肪族あるいは芳香族の1級、2級あるいは3級アルコールのうち、目的とするエステル基に応じて任意のものを用いることができる。融点が反応温度以上のアルコールについては、他の有機溶媒を用いて液化させて用いてもよい。
なお、アルコールは溶媒としても用いることができる。
【0014】
触媒として用いる周期律表第13族に属する金属を含む化合物(13族金属化合物ともいう)は、Al、Ga、In、Tlから選ばれた金属の化合物から選ぶことができる。この中でもInが好ましく用いられる。化合物の形態(種類)としては、それらのハロゲン化物塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、トリフルオロメチル硫酸塩、アンミン塩、水酸化物塩、アルコシド、アセチルアセトン錯体、ピリジン錯体、ホスフィン錯体、フェナントロリン錯体、アルキル錯体などから選ぶことができる。より好ましくはトリフルオロメチル硫酸塩である。これらは溶媒に可溶な塩の状態で用いてもよいし、また、溶媒に不溶な塩の状態で用いてもよく、さらにシリカゲルやアルミナなどの担体に固定化した状態で用いてもよい。また一種類の13族金属化合物を用いてもよいが、複数の13族金属化合物を混合して用いてもよい。
13族金属化合物の使用量は原料炭水化物を構成する糖に対して0.1〜10モル%、より好ましくは0.5〜2モル%の範囲とするのが好ましい。
【0015】
これらの13族金属化合物はそれのみでレブリン酸エステル製造のための触媒として使用することができるが、より好ましくは酸の存在下で反応が行なわれる。酸の種類としては塩酸等のハロゲン酸、硫酸、硝酸、カルボン酸、スルホン酸、ホウ酸、ヘテロポリ酸等を用いることができる。また、溶媒に可溶な酸だけでなく、スルホン酸基やカルボン酸基を有するポリマーやアルミナ、ゼオライトなどの固体酸も使用できる。酸の使用量は原料炭水化物を構成する糖に対して0.1から50モル%、より好ましくは1から10モル%で用いられる。装置に対する負荷を考慮すると酸は揮発性の小さなものが望ましく、また使用量はなるべく少量であるのが好ましい。
【0016】
本発明方法の反応方法は、特に制約されないが、好ましくは、触媒量の13族金属化合物を含むアルコール中に炭水化物を加え、加熱反応させる方法が挙げられ、より好ましくは触媒量の酸を添加する方法が挙げられる。
反応温度は100℃〜240℃、中でも120℃〜200℃の範囲とするのがよい。反応温度がこれより低いと反応速度が遅くなるし、また、これより高いと反応が過剰に進み、黒色の不溶物が生じる。また、反応は一般的には常圧で行われるが、沸点が好ましい反応温度域よりも低いアルコールが用いられる場合には、オートクレーブなどの耐圧反応容器を用い、加圧下で反応させてもよい。
【0017】
本発明方法においては、溶媒として上記アルコールを併用してもよいし、本発明を損なわない範囲で、必要に応じ他の適当な溶媒、例えば水や、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテルや、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素などを用いてもよい。
【実施例】
【0018】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
内容積50mlのステンレス製オートクレーブにメタノールを10ml、グルコースを2.5mmolおよびAl(OSCFを0.02mmol加え、160℃で5時間加熱反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液をガスクロマトグラフにより分析した結果、レブリン酸メチルが収率59%で得られていることが確認された。
【0020】
実施例2
実施例1において、Al(OSCFをIn(OSCFに代えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルが収率66%で得られていることが確認された。
【0021】
比較例1
実施例1において、Al(OSCFに代えて硫酸0.1mmolを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルの収率は14%程度に過ぎないことが確認された。
【0022】
比較例2
実施例1において、Al(O3SCF3)3に代えてヘテロポリ酸HSiW120・6HOを0.02mmolを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルの収率は35%程度に過ぎないことが確認された。
【0023】
以上の結果より、13族金属化合物を触媒として用いると、従来の硫酸を用いた製造法やヘテロポリ酸を用いた製造法と比べて効率よくレブリン酸エステルを製造することができることが分かる。
【0024】
実施例3
実施例1の反応をパラトルエンスルホン酸0.1mmolの共存下で行なった結果、レブリン酸メチルが収率71%で生成していることが確認された。
【0025】
実施例4
実施例2の反応をパラトルエンスルホン酸0.1mmolの共存下で行なった結果、レブリン酸メチルが収率74%で生成していることが確認された。
【0026】
実施例5
実施例4において、In(OSCFをGa(OSCFに代えた以外は、実施例4と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルが収率69%で得られていることが確認された。
【0027】
実施例6
実施例4において、In(OSCFをGa(acac)に代えた以外は、実施例4と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルが収率66%で生成していることが確認された。
【0028】
実施例7
【0029】
実施例4において、In(OSCFをInBrに代えた以外は実施例4と同様にして反応を行った結果、レブリン酸メチルが収率61%で生成していることが確認された。
【0030】
実施例8
実施例4の反応をパラトルエンスルホン酸の代わりにトリフルオロメチル酢酸を用いて行った結果、レブリン酸メチルが収率60%で生成していることが確認された。
【0031】
以上の結果より、種々の13族金属化合物を触媒量の酸の存在下でグルコースと反応させると、13族金属化合物を単体で用いるよりも効率よくレブリン酸エステルを製造することができることが分かる。また、添加する酸としてはスルホン酸以外のものでも添加効果があることが分かる。
【0032】
実施例9
実施例4の反応をグルコースの代わりにセルロースを.405g(グルコース2.5mmol相当)用い、かつメタノールを20mL用いて、180℃にて反応を行なった結果、レブリン酸メチルが収率69%で生成していることが確認された。
【0033】
以上の結果より、炭糖類のみならず、植物の主要成分であるセルロースを原料として用いても本製造法によりレブリン酸エステルを収率よく製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、糖やセルロース等の種々の炭水化物を原料として、従来の製造法よりも効率よくレブリン酸エステルを製造するのに有用であり、原料となる炭水化物としては木材や廃棄物から得られる糖やでんぷん、セルロースの利用も可能であるし、また、得られたレブリン酸エステルは、燃料添加剤、高分子原料、医農薬中間体としての利用も可能であることから、化学産業の化石資源への依存性を低減させるのに資する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒として、周期律表の第13族に属する金属を含む化合物を用いることを特徴とするレブリン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
上記エステル合成反応を酸の存在下で行なうことを特徴とする請求項1に記載のレブリン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
金属を含む化合物が、トリフルオロメチル硫酸の金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載のレブリン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
金属が、インジウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレブリン酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−143861(P2010−143861A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323208(P2008−323208)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】