レーザアニール装置及びレーザアニール方法
【課題】 一般的なパルス波形は、発振開始時点から急激に立ち上がり、ピークを示した後、緩やかに低下する。パワーがピークを示す時点でアニール対象物の表面が急激に加熱されて高温になる。ピークを示す時間が一瞬であるため、アニール対象物の深い領域を十分に加熱することが困難である。
【解決手段】 パルス電流が入力されると、レーザダイオードからレーザパルスが出射される。光学系が、レーザダイオードから出射されたレーザビームをアニール対象物まで導光する。ドライバが、レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給する。
【解決手段】 パルス電流が入力されると、レーザダイオードからレーザパルスが出射される。光学系が、レーザダイオードから出射されたレーザビームをアニール対象物まで導光する。ドライバが、レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアニール装置及びレーザアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、特にシリコンウエハの熱処理に、一般的に、電気炉を用いた加熱、及びラピッドサーマルアニール(RTA)等が適用される。RTAを適用する場合の加熱時間は、ミリ秒オーダである。近年、加熱時間が1μsより短いレーザスパイクアニールの適用も進んでいる。
【0003】
加熱時間が1μsより短いレーザスパイクアニールでは、加熱時間が短いため、半導体ウエハの厚さ方向に関する温度勾配が急峻になる。このため、半導体ウエハの表面の温度を過度に上昇させることなく、深い領域を所望の温度に加熱することが困難である。一方、RTAでは、加熱時間が長いため、半導体ウエハ全体の温度が上昇してしまう。半導体ウエハの温度上昇により、半導体ウエハの反り、スリップ(断層)等が発生する場合がある。
【0004】
一般的に、半導体アニールに適用可能な高出力パルスレーザのパルス幅は、1μsよりも短いか、または数百μs以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−351659号公報
【特許文献2】特開2011−60868号公報
【特許文献3】特開2011−119297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なパルス波形は、発振開始時点から急激に立ち上がり、ピークを示した後、緩やかに低下する。パワーがピークを示す時点でアニール対象物の表面が急激に加熱されて高温になる。ピークを示す時間が一瞬であるため、アニール対象物の深い領域を十分に加熱することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
パルス電流が入力されるとレーザパルスを出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射されたレーザビームを、アニール対象物まで導光する光学系と、
前記レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給するドライバと
を有するレーザアニール装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
第1の表面に、不純物拡散領域を含む素子構造が形成されたシリコンウエハの、前記第1の表面とは反対側の第2の表面に、ドーパントをイオン注入する工程と、
前記ドーパントを注入した後、前記シリコンウエハの前記第2の表面に、波長が690nm〜950nm、パルス幅が10μs〜100μs、時間波形がトップフラットのパルスレーザビームを、前記シリコンウエハの表面におけるパワー密度が250kW/cm2〜750kW/cm2の条件で照射し、前記ドーパントを活性化する工程と
を有するレーザアニール方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
パルス電流の時間波形をトップフラットにすることにより、低いピークパワー密度でも、十分なアニールを行うことができる。加熱時間は、パルス電流のパルス幅に依存するが、レーザビームのビーム断面の形状にはほとんど依存しない。このため、加熱時間を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例によるレーザアニール装置の概略図である。
【図2】図2は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の断面図である。
【図3】図3Aは、実施例によるレーザアニール方法で使用されるパルスレーザビームの時間波形の一例を示す図であり、図3Bは、アニール対象物上におけるビーム断面の平面図である。
【図4】図4は、実施例によるレーザアニール装置のレーザダイオードに供給されるパルス電流の波形と、出射するレーザパルスの波形との測定結果を示すグラフである。
【図5】図5Aは、シミュレーションで用いるトップフラット型のレーザパルスの波形と、一般的なレーザパルスの波形とを示すグラフであり、図5Bは、トップフラット型のレーザパルス及び一般的なレーザパルスが入射したシリコンウエハの、深さ0μm、3μm、5μmの位置の温度変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例によるレーザアニール方法で不純物の活性化アニールを行った試料の電子濃度、正孔濃度、リン濃度、及びボロン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図7】図7Aは、ビーム断面内における空間プロファイルがトップフラット形状のレーザビームをシリコンウエハに照射した時の温度変化のシミュレーション結果を、ビーム断面内の幅方向の位置ごとに示すグラフであり、図7Bは、ビーム断面内における空間プロファイルがガウス分布のレーザビームをシリコンウエハに照射した時の温度変化のシミュレーション結果を、ビーム断面内の幅方向の位置ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、実施例によるレーザアニール装置の概略図を示す。レーザ光源12がドライバ10によって駆動される。レーザ光源12には、例えば発振波長690nm〜950nmのレーザダイオードが用いられる。本実施例においては、発振波長800nmのレーザダイオードを用いた。
【0012】
レーザ光源12は、横長の複数の発光点を有する。複数の発光点は、その長手方向に一列に配置されている。各発光点の長軸方向と短軸方向との寸法の比は、例えば100:1である。発光点の長軸方向の寸法と、相互に隣り合う2つの発光点の間隔とは、ほぼ等しい。言い換えると、発光点と非発光領域とが、交互に等間隔で並んでいる。
【0013】
一般に、長軸方向に関するレーザビームの拡がり角は、短軸方向に関するレーザビームの拡がり角より大きい。このため、長軸方向に関してビーム断面を小さく絞り込むことが困難である。YAGレーザ等の拡がり角の小さいレーザビームを用いる場合には、ビーム断面を小さく絞り込むことにより、パワー密度を高めることができる。ところが、レーザダイオードを用いた場合には、長軸方向に関してビーム断面を小さく絞り込むことが困難であるため、ビーム断面を絞り込むことによってパワー密度を高めることが困難である。
【0014】
以下に説明する実施例においては、YAGレーザ等によるレーザアニールに比べて、パワー密度を高めることなく、十分なアニールを行うことが可能である。
【0015】
ドライバ10は、キャパシタ10A及びパルス波形整形回路10Bを含む。パルス波形整形回路10Bは、キャパシタ10Aからの放電電流が、例えばトップフラットのパルス電流になるように電流波形の整形を行う。トップフラットのパルス電流がレーザ光源12に供給される。パルス波形整形回路10Bは、例えばパワーMOSFETやIGBT等のパワー半導体素子と制御回路を用いて構成することができる。レーザ光源12は、ドライバ10からパルス電流が供給されることにより、レーザ発振し、レーザパルスを出射する。
【0016】
レーザ光源12から出射されたレーザビームが、半波長板13に入射する。半波長板13は、その遅相軸の向きを変化させることにより、レーザビームの偏光方向を変化させる。半波長板13を透過したレーザビームが、ホモジナイザ15を透過した後、ビームスプリッタ16に入射する。ビームスプリッタ16は、入射したレーザビームの一部の成分をビームダンパ17に向けて反射させ、残りの成分を直進させる。ビームスプリッタ16を直進する成分の比率は、半波長板13の遅相軸の向きを変えて偏光方向を変化させることにより、制御することができる。
【0017】
ビームスプリッタ16を直進したレーザビームが、1/4波長板19及び集光レンズ20を透過して、アニール対象であるシリコンウエハ30に入射する。シリコンウエハ30は、可動ステージ21に保持されている。ホモジナイザ15と集光レンズ20とにより、シリコンウエハ30の表面におけるビーム断面が、長尺形状にされるとともに、長軸及びそれに直交する方向(幅方向)に関する光強度が均一化される(空間プロファイルがトップフラットにされる。)。ホモジナイザ15には、例えばカレイドスコープ、光ファイバ、アレイレンズ、フライアイレンズ等を用いることができる。可動ステージ21は、シリコンウエハ30を、ビーム断面の幅方向に移動させる。
【0018】
シリコンウエハ30の表面で反射した反射光が、集光レンズ20及び1/4波長板19を透過して、ビームスプリッタ16に入射する。1/4波長板19を2回透過することにより、偏光方向が90°変化する。このため、反射光は、ビームスプリッタ16で反射され、ビームダンパ18に入射する。
【0019】
図2に、実施例による方法で製造される半導体装置の例として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の断面図を示す。IGBTは、n型のシリコン基板30の一方の面にエミッタとゲートとを形成し、もう一方の面にコレクタを形成することで作製される。エミッタとゲートを形成する面の構造は、一般的なMOSFETの作製工程と同様の工程で作製される。たとえば、図2に示すように、シリコン基板30の表面に、p型のベース領域33、n型のエミッタ領域34、ゲート電極35、ゲート絶縁膜36、エミッタ電極37が配置される。ゲート−エミッタ間の電圧で、電流のオンオフ制御を行うことができる。
【0020】
シリコン基板30の反対側の面に、p型のコレクタ層39が形成されている。必要に応じて、コレクタ層39とシリコン基板30との間に、n型のバッファ層38を形成してもよい。コレクタ層39及びバッファ層38は、それぞれ不純物として、例えばボロン及びリンをイオン注入により注入し、活性化アニールを行うことにより形成される。この活性化アニールに、図1に示したレーザアニール装置が適用される。コレクタ電極40が、活性化アニールの後に、コレクタ層39の表面に形成される。
【0021】
図3Aに、実施例による半導体装置の製造方法で用いられるパルスレーザビームのタイミングチャートを示す。パルス幅PWのレーザパルスが、周波数f、すなわち周期1/fで、シリコンウエハ30に照射される。このレーザパルスが出射されていない期間は、シリコンウエハ30に影響を与えない程度の低い強度のレーザビームまたは自然放出光が、レーザ光源12(図1)から放射されるように、ドライバ10からレーザ光源12に待機時電流が供給される。例えば、待機時電流は、レーザパルスを出射するときの駆動電流の1%以下の大きさとする。
【0022】
レーザパルスが出射されていない期間に、レーザダイオードを完全にオフにする場合に比べて、レーザダイオードの寿命を長くすることができる。
【0023】
アニール時のシリコンウエハ30には、図2に示した表側の素子構造が既に形成されており、裏側に、バッファ層38及びコレクタ層39を形成するための不純物(ドーパント)がイオン注入されている。この段階では、注入されたドーパントは、活性化されていない。
【0024】
図3Bに、シリコンウエハ30(図1)のレーザ照射面におけるビーム断面23を示す。ビーム断面23は、一方向に長い長尺形状を有する。ホモジナイザ15(図1)により、長手方向及び幅方向に関して光強度分布が均一化されているため、長手方向及び幅方向に関する光強度分布は、ほぼトップフラット形状を有する。
【0025】
長手方向の長さをLとし、ビーム幅をWtとする。パルスレーザビームの照射は、シリコンウエハ30を、ビーム断面23の幅方向に移動させながら行われる。シリコンウエハ30を移動させることにより、シリコンウエハ30の表面がパルスレーザビームによって走査される。パルスレーザビームを、ビーム幅方向に走査することにより、1つの辺の長さが、ビーム断面の長さLと等しい長方形の領域をアニールすることができる。
【0026】
1つのレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて実線で示されている。)と、次に入射するレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて破線で示されている。)との重複する領域の幅をWoとする。重複率を、Wo/Wtと定義する。シリコンウエハ30の移動速度をVとすると、Wt−Wo=V/fが成り立つ。このため、パルスの繰り返し周波数f、ビーム幅Wt、及びステージの移動速度Vにより、重複率が決定される。実施例においては、ビーム幅Wtを240μmとした。
【0027】
図4に、レーザ光源12に供給するパルス電流の時間波形Aと、レーザ光源12から出射されるパルスレーザの時間波形LIとを示す。横軸は、経過時間を単位「μs」で表し、左縦軸は、電流の大きさを任意単位で表し、右縦軸は、光強度を任意単位で表す。レーザビームの光強度は、レーザビームをビームダンパで終端し、ビームダンパからの散乱光をフォトダイオードで検出することにより求めた。
【0028】
レーザ光源12から出射されるレーザビームの光強度は、電流の変化によく追随していることがわかる。パルス電流の波形をトップフラットにすることにより、レーザ光源12から出射されるレーザパルスの波形もトップフラットにすることができる。ここで、「トップフラット」とは、波形の頂上部が直線で近似できる形状を意味する。直線近似は、近似された部分の実際の測定値が、平均値の±10%の範囲内に収まる条件で行われる。
【0029】
直線で近似される部分の時間幅の、パルス幅に対する比が小さい場合には、トップフラットか否かの判定が困難になる。電流パルスまたはレーザパルスの直線で近似できる部分の時間幅が、時間波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短い方よりも長ければ、「トップフラット」ということができる。ここで、「立ち上がり時間」は、図3Aに示した待機状態から、トップフラット部分の平均強度の90%まで上昇するまでの時間とする。「立ち下がり時間」は、トップフラット部分の平均強度の90%まで低下した時点から、待機状態までの時間とする。「パルス幅」は、パルス波形の半値全幅を意味する。
【0030】
例えば、トップフラット部分の時間幅が、立ち上がり時間及び立ち下がり時間より短くなると、三角波に類似する時間波形と考えることもできる。上述のように、トップフラット部分の時間幅が、時間波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短い方よりも長ければ、三角波と区別できる。
【0031】
図5A及び図5Bを参照して、レーザパルスの時間波形をトップフラットにする効果を確認するために行ったシミュレーションについて説明する。
【0032】
図5Aに、シミュレーションに用いたレーザパルスの時間波形を示す。横軸は、パルスの立ち上がり時刻からの経過時間を単位「μs」で表し、縦軸はパワー密度を任意単位で表す。トップフラットの時間波形WF1、及び一般的なパルスレーザ発振器から出射されるレーザパルスの時間波形WF2についてシミュレーションを行った。2つの時間波形WF1、WF2のパルスエネルギ及びビームサイズは、いずれも同一とした。パルスエネルギが同一であるため、図5Aの時間波形WF1の面積と時間波形WF2の面積とは同一である。時間波形WF1のトップフラット部分の時間幅は10μsである。時間波形WF2のパルス幅は、後述する図5Bに示した時間波形WF1、WF2の温度履歴のうち、表面が融点に達している時間が同一になるように調整されている。この時、トップフラットの時間波形WF1のピークパワーは、一般的なレーザパルスの時間波形WF2のピークパワーの約50%となった。なお、時間波形WF1のレーザパルスのパワー密度は550kW/cm2である。レーザビームの波長は800nmとし、アニール対象物はシリコンウエハとした。
【0033】
図5Bに、レーザパルス入射後の、深さ0μm、3μm、及び5μmの位置の温度変化のシミュレーション結果を示す。横軸は、経過時間を単位「μs」で表し、縦軸は、温度を単位「K」で表す。図5B中の実線及び破線は、それぞれ時間波形WF1及びWF2のレーザパルスを入射した時の温度変化を表す。実線及び破線に付された数値は、シリコンウエハの表面からの深さを単位「μm」で示す。
【0034】
深さ0μmの温度変化の頂部がほぼフラットになっているのは、表面温度がシリコンの融点に達し、シリコンウエハに与えられたレーザエネルギが融解熱として消費されているためである。レーザパルスの時間波形をトップフラットにすると、深い位置の最高到達温度が高くなっていることがわかる。シミュレーションの前提条件として、トップフラットの時間波形WF1と一般的なレーザパルスの時間波形WF2とのパルスエネルギを同一にした。シミュレーション結果から、パルスエネルギ密度が同一であっても、時間波形をトップフラットにすることで、より効率的に深い領域の温度を高めることが可能であることがわかる。言い換えると、レーザパルスの時間波形をトップフラットにすると、ある一定の温度まで加熱するために必要となるパルスエネルギを小さくすることができる。
【0035】
例えば、IGBTのコレクタ側の表面の活性化アニールを行う場合には、反対側の表面に形成されている拡散領域等の構造物が損傷を受けないようにするために、反対側の表面の温度上昇を抑制することが望まれる。IGBTに用いられるシリコンウエハの厚さは、例えば100μm程度である。シリコンウエハにレーザビームが照射されると、レーザ照射位置から等方的に熱が拡散する。レーザ照射面とは反対側の背面の温度は、レーザパルスの時間波形にはほとんど影響を受けず、投入されたパルスエネルギに依存する。レーザパルスの時間波形をトップフラットにすることにより、パルスエネルギを小さくすることができるため、背面の温度上昇を抑制することができる。このように、背面の温度上昇を抑制したい場合に、レーザパルスの時間波形をトップフラットにすることが有用である。
【0036】
既に説明したように、レーザ光源12(図1)としてレーザダイオードを用いると、ビーム断面を小さく絞り込むことによってパワー密度を高めることが困難である。ところが、パルスの時間波形をトップフラット形状にすれば、パワー密度を高めることなく、シリコンウエハの表面から深い内部の領域を高い温度まで加熱することができる。また、レーザダイオードの寿命の観点からも、レーザパルスのピークパワーを低く設定することが好ましい。
【0037】
一般的に、レーザダイオードの出力は、レーザダイオードに供給する電流量に比例することから、トップフラットの時間波形は、ドライバ10からレーザ光源12に供給されるパルス電流の波形に依存する。パルス電流の波形を調整することにより、トップフラットの時間波形を有するレーザパルスのパルス幅(半値全幅)を所望の値に設定することができる。パルス幅を長くし過ぎると、従来のRTAの加熱時間との有意な差がなくなり、半導体ウエハの厚さ方向の全域が加熱されてしまう。半導体ウエハの表層部近傍のみを加熱するために、パルス幅を100μs以下にすることが好ましい。パルスエネルギ密度一定の条件でパルス幅を短くすると、ピークパワー密度が大きくなり、トップフラットの時間波形を適用する効果が得られなくなる。トップフラットの時間波形を適用する有意な効果を得るために、パルス幅を1μs以上にすることが好ましい。
【0038】
実施例によるレーザアニール方法における加熱時間は、パルス幅に依存し、ビーム断面の形状や走査速度にはほとんど依存しない。このため、加熱時間を高精度に制御することができる。
【0039】
シリコンウエハ30(図1)にボロン(B)及びリン(P)を注入し、種々のレーザ照射条件で活性化アニールを行った。以下、この評価実験について説明する。
【0040】
図6に、評価に用いた試料の深さ方向の不純物濃度分布及びキャリア濃度分布の測定結果を示す。横軸は深さを単位「μm」で表し、縦軸は濃度を単位「cm−3」で表す。ボロンの注入は、加速エネルギ40keV、ドーズ量1×1015cm−2の条件で行い。リンの注入は、加速エネルギ700keV、ドーズ量1×1013cm−2の条件で行った。破線B0及び破線P0は、それぞれ注入直後のボロン濃度及びリン濃度を示す。細い実線p1は、パルス幅15μs、重複率50%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S1、破線p2は、パルス幅15μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S2、太い実線p3は、パルス幅25μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S3の正孔濃度を示す。なお、パルスエネルギ密度は、図5Aのシミュレーションに適用したパルスエネルギ密度と同一である。細い実線nは、試料S1、S2、S3の電子濃度を示す。3つの試料の電子濃度分布は、ほぼ重なっているため、1本の細い実線で示している。
【0041】
シリコン基板の表面が溶融していないため、表層部の電子濃度分布が、注入直後のボロン濃度分布を反映した形状になっている。また、深さ2.5μmまでのリンが、ほとんど100%活性化していることがわかる。
【0042】
シリコンウエハにイオン注入されたドーパントを活性するアニールにおいては、パルス幅を10μs〜100μsとし、パワー密度を250kW/cm2〜750kW/cm2にすることが好ましい。
【0043】
上記実施例では、レーザ光源12として波長800nmのレーザダイオードを用いたが、波長690nm〜950nmのレーザダイオードを用いてもよい。
【0044】
トップフラットのレーザパルスの立ち上がり部分は、ほとんどアニールに寄与しない。すなわち、立ち上がり部分はエネルギロスになるため、急峻な立ち上がりとすることが好ましい。一例として、レーザパルス波形の直線部分の平均強度の90%まで立ち上がる時間を、2μs以下にすることが好ましい。
【0045】
アニール対象の半導体ウエハの表面に、ウエハとは異なる熱膨張係数の薄膜が形成されている場合には、温度の急激な上昇によって薄膜の剥離が生じてしまう場合もある。薄膜の剥離が懸念される場合には、パルスの立ち上がり時間を長くすることによって、急激な温度上昇を回避することが好ましい。
【0046】
一方、レーザパルスの立ち下がり時間は、加熱された半導体ウエハの冷却速度に影響を及ぼす。冷却速度が、アニール効果に影響を及ぼす場合がある。立ち下り時間を長くすれば、冷却速度を緩やかにすることができる。逆に、立ち下がり時間を短くすれば、冷却速度を速くすることができる。所望のアニール効果を得るために、アニールの目的に応じて、レーザパルスの立ち下がり時間を制御することが好ましい。レーザパルスの立ち下がり時間は、レーザ光源12(図1)に供給するパルス電流の時間波形により調整することができる。
【0047】
トップフラットとは、通常、パルスの立ち上がり部分と立ち下がり部分との間の領域の大きさ(レーザパルスの場合には光強度、電流パルスの場合には電流の大きさ)がほぼ一定であることを意味している。アニール対象の材質や構成によっては、トップフラット領域におけるレーザパルスの光強度を、一定の割合で増加、または減少させてもよい。上述の実施例では、シリコンウエハの深い領域を効率的に加熱することを目的としたときのレーザパルスの好ましい時間波形について説明した。アニール対象の材質や構成により、レーザパルスの立ち上がり時間、立ち下がり時間、トップフラット部分の強度の増減等の最適化を行ってもよい。
【0048】
レーザ光源12から出射されるレーザパルスをトップフラットにするために、1パルスの出射に必要となる電力を、予めキャパシタ10Aに蓄積しておくことが好ましい。これにより、1パルス出射させるために必要な電力を、安定してレーザ光源12に供給する事ができる。
【0049】
次に、図7A及び図7Bを参照して、レーザビームの空間プロファイルについて説明する。
【0050】
図7Aは、実施例によるレーザアニール装置を用いてレーザアニールを行った時のシリコンウエハ表面の温度の時間変化のシミュレーション結果を示す。図7Bは、ビーム断面の幅方向に関してガウス分布のビームプロファイルを有するレーザビームを用いてレーザアニールを行った時のシリコンウエハ表面の温度の時間変化のシミュレーション結果を示す。横軸は、レーザビームの照射時点からの経過時間を単位「μs」で表し、縦軸は、温度を単位「K」で表す。各曲線に付した数値は、図3Bのビーム断面23の幅方向に関する中心からの距離xを単位「μm」で示す。
【0051】
レーザビームの空間プロファイルをトップフラットにした実施例の場合には、図7Aに示すように、ビーム断面の幅方向の中心からの距離が100μm以下の領域の温度がほぼ同一であることがわかる。これに対し、ガウス分布のビームプロファイルを持つレーザビームでアニールを行った場合には、図7Bに示すように、温度がほぼ同一になる領域が、図7Aに示した場合に比べて狭い。このため、ビーム断面の幅方向に関して活性化率にばらつきが生じてしまう。シリコンウエハの面内に関して活性化率を均一にするために、空間プロファイルをトップフラットにすることが好ましい。
【0052】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0053】
10 ドライバ
10A キャパシタ
10B パルス波形整形回路
11 直流電源
12 レーザ光源
13 半波長板
15 ホモジナイザ
16 ビームスプリッタ
17、18 ビームダンパ
19 1/4波長板
20 集光レンズ
21 可動ステージ
23 ビーム断面
30 シリコンウエハ
33 ベース領域
34 エミッタ領域
35 ゲート電極
36 ゲート絶縁膜
37 エミッタ電極
38 バッファ層
39 コレクタ層
40 コレクタ電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアニール装置及びレーザアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、特にシリコンウエハの熱処理に、一般的に、電気炉を用いた加熱、及びラピッドサーマルアニール(RTA)等が適用される。RTAを適用する場合の加熱時間は、ミリ秒オーダである。近年、加熱時間が1μsより短いレーザスパイクアニールの適用も進んでいる。
【0003】
加熱時間が1μsより短いレーザスパイクアニールでは、加熱時間が短いため、半導体ウエハの厚さ方向に関する温度勾配が急峻になる。このため、半導体ウエハの表面の温度を過度に上昇させることなく、深い領域を所望の温度に加熱することが困難である。一方、RTAでは、加熱時間が長いため、半導体ウエハ全体の温度が上昇してしまう。半導体ウエハの温度上昇により、半導体ウエハの反り、スリップ(断層)等が発生する場合がある。
【0004】
一般的に、半導体アニールに適用可能な高出力パルスレーザのパルス幅は、1μsよりも短いか、または数百μs以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−351659号公報
【特許文献2】特開2011−60868号公報
【特許文献3】特開2011−119297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なパルス波形は、発振開始時点から急激に立ち上がり、ピークを示した後、緩やかに低下する。パワーがピークを示す時点でアニール対象物の表面が急激に加熱されて高温になる。ピークを示す時間が一瞬であるため、アニール対象物の深い領域を十分に加熱することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
パルス電流が入力されるとレーザパルスを出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射されたレーザビームを、アニール対象物まで導光する光学系と、
前記レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給するドライバと
を有するレーザアニール装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
第1の表面に、不純物拡散領域を含む素子構造が形成されたシリコンウエハの、前記第1の表面とは反対側の第2の表面に、ドーパントをイオン注入する工程と、
前記ドーパントを注入した後、前記シリコンウエハの前記第2の表面に、波長が690nm〜950nm、パルス幅が10μs〜100μs、時間波形がトップフラットのパルスレーザビームを、前記シリコンウエハの表面におけるパワー密度が250kW/cm2〜750kW/cm2の条件で照射し、前記ドーパントを活性化する工程と
を有するレーザアニール方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
パルス電流の時間波形をトップフラットにすることにより、低いピークパワー密度でも、十分なアニールを行うことができる。加熱時間は、パルス電流のパルス幅に依存するが、レーザビームのビーム断面の形状にはほとんど依存しない。このため、加熱時間を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例によるレーザアニール装置の概略図である。
【図2】図2は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の断面図である。
【図3】図3Aは、実施例によるレーザアニール方法で使用されるパルスレーザビームの時間波形の一例を示す図であり、図3Bは、アニール対象物上におけるビーム断面の平面図である。
【図4】図4は、実施例によるレーザアニール装置のレーザダイオードに供給されるパルス電流の波形と、出射するレーザパルスの波形との測定結果を示すグラフである。
【図5】図5Aは、シミュレーションで用いるトップフラット型のレーザパルスの波形と、一般的なレーザパルスの波形とを示すグラフであり、図5Bは、トップフラット型のレーザパルス及び一般的なレーザパルスが入射したシリコンウエハの、深さ0μm、3μm、5μmの位置の温度変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例によるレーザアニール方法で不純物の活性化アニールを行った試料の電子濃度、正孔濃度、リン濃度、及びボロン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図7】図7Aは、ビーム断面内における空間プロファイルがトップフラット形状のレーザビームをシリコンウエハに照射した時の温度変化のシミュレーション結果を、ビーム断面内の幅方向の位置ごとに示すグラフであり、図7Bは、ビーム断面内における空間プロファイルがガウス分布のレーザビームをシリコンウエハに照射した時の温度変化のシミュレーション結果を、ビーム断面内の幅方向の位置ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、実施例によるレーザアニール装置の概略図を示す。レーザ光源12がドライバ10によって駆動される。レーザ光源12には、例えば発振波長690nm〜950nmのレーザダイオードが用いられる。本実施例においては、発振波長800nmのレーザダイオードを用いた。
【0012】
レーザ光源12は、横長の複数の発光点を有する。複数の発光点は、その長手方向に一列に配置されている。各発光点の長軸方向と短軸方向との寸法の比は、例えば100:1である。発光点の長軸方向の寸法と、相互に隣り合う2つの発光点の間隔とは、ほぼ等しい。言い換えると、発光点と非発光領域とが、交互に等間隔で並んでいる。
【0013】
一般に、長軸方向に関するレーザビームの拡がり角は、短軸方向に関するレーザビームの拡がり角より大きい。このため、長軸方向に関してビーム断面を小さく絞り込むことが困難である。YAGレーザ等の拡がり角の小さいレーザビームを用いる場合には、ビーム断面を小さく絞り込むことにより、パワー密度を高めることができる。ところが、レーザダイオードを用いた場合には、長軸方向に関してビーム断面を小さく絞り込むことが困難であるため、ビーム断面を絞り込むことによってパワー密度を高めることが困難である。
【0014】
以下に説明する実施例においては、YAGレーザ等によるレーザアニールに比べて、パワー密度を高めることなく、十分なアニールを行うことが可能である。
【0015】
ドライバ10は、キャパシタ10A及びパルス波形整形回路10Bを含む。パルス波形整形回路10Bは、キャパシタ10Aからの放電電流が、例えばトップフラットのパルス電流になるように電流波形の整形を行う。トップフラットのパルス電流がレーザ光源12に供給される。パルス波形整形回路10Bは、例えばパワーMOSFETやIGBT等のパワー半導体素子と制御回路を用いて構成することができる。レーザ光源12は、ドライバ10からパルス電流が供給されることにより、レーザ発振し、レーザパルスを出射する。
【0016】
レーザ光源12から出射されたレーザビームが、半波長板13に入射する。半波長板13は、その遅相軸の向きを変化させることにより、レーザビームの偏光方向を変化させる。半波長板13を透過したレーザビームが、ホモジナイザ15を透過した後、ビームスプリッタ16に入射する。ビームスプリッタ16は、入射したレーザビームの一部の成分をビームダンパ17に向けて反射させ、残りの成分を直進させる。ビームスプリッタ16を直進する成分の比率は、半波長板13の遅相軸の向きを変えて偏光方向を変化させることにより、制御することができる。
【0017】
ビームスプリッタ16を直進したレーザビームが、1/4波長板19及び集光レンズ20を透過して、アニール対象であるシリコンウエハ30に入射する。シリコンウエハ30は、可動ステージ21に保持されている。ホモジナイザ15と集光レンズ20とにより、シリコンウエハ30の表面におけるビーム断面が、長尺形状にされるとともに、長軸及びそれに直交する方向(幅方向)に関する光強度が均一化される(空間プロファイルがトップフラットにされる。)。ホモジナイザ15には、例えばカレイドスコープ、光ファイバ、アレイレンズ、フライアイレンズ等を用いることができる。可動ステージ21は、シリコンウエハ30を、ビーム断面の幅方向に移動させる。
【0018】
シリコンウエハ30の表面で反射した反射光が、集光レンズ20及び1/4波長板19を透過して、ビームスプリッタ16に入射する。1/4波長板19を2回透過することにより、偏光方向が90°変化する。このため、反射光は、ビームスプリッタ16で反射され、ビームダンパ18に入射する。
【0019】
図2に、実施例による方法で製造される半導体装置の例として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の断面図を示す。IGBTは、n型のシリコン基板30の一方の面にエミッタとゲートとを形成し、もう一方の面にコレクタを形成することで作製される。エミッタとゲートを形成する面の構造は、一般的なMOSFETの作製工程と同様の工程で作製される。たとえば、図2に示すように、シリコン基板30の表面に、p型のベース領域33、n型のエミッタ領域34、ゲート電極35、ゲート絶縁膜36、エミッタ電極37が配置される。ゲート−エミッタ間の電圧で、電流のオンオフ制御を行うことができる。
【0020】
シリコン基板30の反対側の面に、p型のコレクタ層39が形成されている。必要に応じて、コレクタ層39とシリコン基板30との間に、n型のバッファ層38を形成してもよい。コレクタ層39及びバッファ層38は、それぞれ不純物として、例えばボロン及びリンをイオン注入により注入し、活性化アニールを行うことにより形成される。この活性化アニールに、図1に示したレーザアニール装置が適用される。コレクタ電極40が、活性化アニールの後に、コレクタ層39の表面に形成される。
【0021】
図3Aに、実施例による半導体装置の製造方法で用いられるパルスレーザビームのタイミングチャートを示す。パルス幅PWのレーザパルスが、周波数f、すなわち周期1/fで、シリコンウエハ30に照射される。このレーザパルスが出射されていない期間は、シリコンウエハ30に影響を与えない程度の低い強度のレーザビームまたは自然放出光が、レーザ光源12(図1)から放射されるように、ドライバ10からレーザ光源12に待機時電流が供給される。例えば、待機時電流は、レーザパルスを出射するときの駆動電流の1%以下の大きさとする。
【0022】
レーザパルスが出射されていない期間に、レーザダイオードを完全にオフにする場合に比べて、レーザダイオードの寿命を長くすることができる。
【0023】
アニール時のシリコンウエハ30には、図2に示した表側の素子構造が既に形成されており、裏側に、バッファ層38及びコレクタ層39を形成するための不純物(ドーパント)がイオン注入されている。この段階では、注入されたドーパントは、活性化されていない。
【0024】
図3Bに、シリコンウエハ30(図1)のレーザ照射面におけるビーム断面23を示す。ビーム断面23は、一方向に長い長尺形状を有する。ホモジナイザ15(図1)により、長手方向及び幅方向に関して光強度分布が均一化されているため、長手方向及び幅方向に関する光強度分布は、ほぼトップフラット形状を有する。
【0025】
長手方向の長さをLとし、ビーム幅をWtとする。パルスレーザビームの照射は、シリコンウエハ30を、ビーム断面23の幅方向に移動させながら行われる。シリコンウエハ30を移動させることにより、シリコンウエハ30の表面がパルスレーザビームによって走査される。パルスレーザビームを、ビーム幅方向に走査することにより、1つの辺の長さが、ビーム断面の長さLと等しい長方形の領域をアニールすることができる。
【0026】
1つのレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて実線で示されている。)と、次に入射するレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて破線で示されている。)との重複する領域の幅をWoとする。重複率を、Wo/Wtと定義する。シリコンウエハ30の移動速度をVとすると、Wt−Wo=V/fが成り立つ。このため、パルスの繰り返し周波数f、ビーム幅Wt、及びステージの移動速度Vにより、重複率が決定される。実施例においては、ビーム幅Wtを240μmとした。
【0027】
図4に、レーザ光源12に供給するパルス電流の時間波形Aと、レーザ光源12から出射されるパルスレーザの時間波形LIとを示す。横軸は、経過時間を単位「μs」で表し、左縦軸は、電流の大きさを任意単位で表し、右縦軸は、光強度を任意単位で表す。レーザビームの光強度は、レーザビームをビームダンパで終端し、ビームダンパからの散乱光をフォトダイオードで検出することにより求めた。
【0028】
レーザ光源12から出射されるレーザビームの光強度は、電流の変化によく追随していることがわかる。パルス電流の波形をトップフラットにすることにより、レーザ光源12から出射されるレーザパルスの波形もトップフラットにすることができる。ここで、「トップフラット」とは、波形の頂上部が直線で近似できる形状を意味する。直線近似は、近似された部分の実際の測定値が、平均値の±10%の範囲内に収まる条件で行われる。
【0029】
直線で近似される部分の時間幅の、パルス幅に対する比が小さい場合には、トップフラットか否かの判定が困難になる。電流パルスまたはレーザパルスの直線で近似できる部分の時間幅が、時間波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短い方よりも長ければ、「トップフラット」ということができる。ここで、「立ち上がり時間」は、図3Aに示した待機状態から、トップフラット部分の平均強度の90%まで上昇するまでの時間とする。「立ち下がり時間」は、トップフラット部分の平均強度の90%まで低下した時点から、待機状態までの時間とする。「パルス幅」は、パルス波形の半値全幅を意味する。
【0030】
例えば、トップフラット部分の時間幅が、立ち上がり時間及び立ち下がり時間より短くなると、三角波に類似する時間波形と考えることもできる。上述のように、トップフラット部分の時間幅が、時間波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短い方よりも長ければ、三角波と区別できる。
【0031】
図5A及び図5Bを参照して、レーザパルスの時間波形をトップフラットにする効果を確認するために行ったシミュレーションについて説明する。
【0032】
図5Aに、シミュレーションに用いたレーザパルスの時間波形を示す。横軸は、パルスの立ち上がり時刻からの経過時間を単位「μs」で表し、縦軸はパワー密度を任意単位で表す。トップフラットの時間波形WF1、及び一般的なパルスレーザ発振器から出射されるレーザパルスの時間波形WF2についてシミュレーションを行った。2つの時間波形WF1、WF2のパルスエネルギ及びビームサイズは、いずれも同一とした。パルスエネルギが同一であるため、図5Aの時間波形WF1の面積と時間波形WF2の面積とは同一である。時間波形WF1のトップフラット部分の時間幅は10μsである。時間波形WF2のパルス幅は、後述する図5Bに示した時間波形WF1、WF2の温度履歴のうち、表面が融点に達している時間が同一になるように調整されている。この時、トップフラットの時間波形WF1のピークパワーは、一般的なレーザパルスの時間波形WF2のピークパワーの約50%となった。なお、時間波形WF1のレーザパルスのパワー密度は550kW/cm2である。レーザビームの波長は800nmとし、アニール対象物はシリコンウエハとした。
【0033】
図5Bに、レーザパルス入射後の、深さ0μm、3μm、及び5μmの位置の温度変化のシミュレーション結果を示す。横軸は、経過時間を単位「μs」で表し、縦軸は、温度を単位「K」で表す。図5B中の実線及び破線は、それぞれ時間波形WF1及びWF2のレーザパルスを入射した時の温度変化を表す。実線及び破線に付された数値は、シリコンウエハの表面からの深さを単位「μm」で示す。
【0034】
深さ0μmの温度変化の頂部がほぼフラットになっているのは、表面温度がシリコンの融点に達し、シリコンウエハに与えられたレーザエネルギが融解熱として消費されているためである。レーザパルスの時間波形をトップフラットにすると、深い位置の最高到達温度が高くなっていることがわかる。シミュレーションの前提条件として、トップフラットの時間波形WF1と一般的なレーザパルスの時間波形WF2とのパルスエネルギを同一にした。シミュレーション結果から、パルスエネルギ密度が同一であっても、時間波形をトップフラットにすることで、より効率的に深い領域の温度を高めることが可能であることがわかる。言い換えると、レーザパルスの時間波形をトップフラットにすると、ある一定の温度まで加熱するために必要となるパルスエネルギを小さくすることができる。
【0035】
例えば、IGBTのコレクタ側の表面の活性化アニールを行う場合には、反対側の表面に形成されている拡散領域等の構造物が損傷を受けないようにするために、反対側の表面の温度上昇を抑制することが望まれる。IGBTに用いられるシリコンウエハの厚さは、例えば100μm程度である。シリコンウエハにレーザビームが照射されると、レーザ照射位置から等方的に熱が拡散する。レーザ照射面とは反対側の背面の温度は、レーザパルスの時間波形にはほとんど影響を受けず、投入されたパルスエネルギに依存する。レーザパルスの時間波形をトップフラットにすることにより、パルスエネルギを小さくすることができるため、背面の温度上昇を抑制することができる。このように、背面の温度上昇を抑制したい場合に、レーザパルスの時間波形をトップフラットにすることが有用である。
【0036】
既に説明したように、レーザ光源12(図1)としてレーザダイオードを用いると、ビーム断面を小さく絞り込むことによってパワー密度を高めることが困難である。ところが、パルスの時間波形をトップフラット形状にすれば、パワー密度を高めることなく、シリコンウエハの表面から深い内部の領域を高い温度まで加熱することができる。また、レーザダイオードの寿命の観点からも、レーザパルスのピークパワーを低く設定することが好ましい。
【0037】
一般的に、レーザダイオードの出力は、レーザダイオードに供給する電流量に比例することから、トップフラットの時間波形は、ドライバ10からレーザ光源12に供給されるパルス電流の波形に依存する。パルス電流の波形を調整することにより、トップフラットの時間波形を有するレーザパルスのパルス幅(半値全幅)を所望の値に設定することができる。パルス幅を長くし過ぎると、従来のRTAの加熱時間との有意な差がなくなり、半導体ウエハの厚さ方向の全域が加熱されてしまう。半導体ウエハの表層部近傍のみを加熱するために、パルス幅を100μs以下にすることが好ましい。パルスエネルギ密度一定の条件でパルス幅を短くすると、ピークパワー密度が大きくなり、トップフラットの時間波形を適用する効果が得られなくなる。トップフラットの時間波形を適用する有意な効果を得るために、パルス幅を1μs以上にすることが好ましい。
【0038】
実施例によるレーザアニール方法における加熱時間は、パルス幅に依存し、ビーム断面の形状や走査速度にはほとんど依存しない。このため、加熱時間を高精度に制御することができる。
【0039】
シリコンウエハ30(図1)にボロン(B)及びリン(P)を注入し、種々のレーザ照射条件で活性化アニールを行った。以下、この評価実験について説明する。
【0040】
図6に、評価に用いた試料の深さ方向の不純物濃度分布及びキャリア濃度分布の測定結果を示す。横軸は深さを単位「μm」で表し、縦軸は濃度を単位「cm−3」で表す。ボロンの注入は、加速エネルギ40keV、ドーズ量1×1015cm−2の条件で行い。リンの注入は、加速エネルギ700keV、ドーズ量1×1013cm−2の条件で行った。破線B0及び破線P0は、それぞれ注入直後のボロン濃度及びリン濃度を示す。細い実線p1は、パルス幅15μs、重複率50%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S1、破線p2は、パルス幅15μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S2、太い実線p3は、パルス幅25μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S3の正孔濃度を示す。なお、パルスエネルギ密度は、図5Aのシミュレーションに適用したパルスエネルギ密度と同一である。細い実線nは、試料S1、S2、S3の電子濃度を示す。3つの試料の電子濃度分布は、ほぼ重なっているため、1本の細い実線で示している。
【0041】
シリコン基板の表面が溶融していないため、表層部の電子濃度分布が、注入直後のボロン濃度分布を反映した形状になっている。また、深さ2.5μmまでのリンが、ほとんど100%活性化していることがわかる。
【0042】
シリコンウエハにイオン注入されたドーパントを活性するアニールにおいては、パルス幅を10μs〜100μsとし、パワー密度を250kW/cm2〜750kW/cm2にすることが好ましい。
【0043】
上記実施例では、レーザ光源12として波長800nmのレーザダイオードを用いたが、波長690nm〜950nmのレーザダイオードを用いてもよい。
【0044】
トップフラットのレーザパルスの立ち上がり部分は、ほとんどアニールに寄与しない。すなわち、立ち上がり部分はエネルギロスになるため、急峻な立ち上がりとすることが好ましい。一例として、レーザパルス波形の直線部分の平均強度の90%まで立ち上がる時間を、2μs以下にすることが好ましい。
【0045】
アニール対象の半導体ウエハの表面に、ウエハとは異なる熱膨張係数の薄膜が形成されている場合には、温度の急激な上昇によって薄膜の剥離が生じてしまう場合もある。薄膜の剥離が懸念される場合には、パルスの立ち上がり時間を長くすることによって、急激な温度上昇を回避することが好ましい。
【0046】
一方、レーザパルスの立ち下がり時間は、加熱された半導体ウエハの冷却速度に影響を及ぼす。冷却速度が、アニール効果に影響を及ぼす場合がある。立ち下り時間を長くすれば、冷却速度を緩やかにすることができる。逆に、立ち下がり時間を短くすれば、冷却速度を速くすることができる。所望のアニール効果を得るために、アニールの目的に応じて、レーザパルスの立ち下がり時間を制御することが好ましい。レーザパルスの立ち下がり時間は、レーザ光源12(図1)に供給するパルス電流の時間波形により調整することができる。
【0047】
トップフラットとは、通常、パルスの立ち上がり部分と立ち下がり部分との間の領域の大きさ(レーザパルスの場合には光強度、電流パルスの場合には電流の大きさ)がほぼ一定であることを意味している。アニール対象の材質や構成によっては、トップフラット領域におけるレーザパルスの光強度を、一定の割合で増加、または減少させてもよい。上述の実施例では、シリコンウエハの深い領域を効率的に加熱することを目的としたときのレーザパルスの好ましい時間波形について説明した。アニール対象の材質や構成により、レーザパルスの立ち上がり時間、立ち下がり時間、トップフラット部分の強度の増減等の最適化を行ってもよい。
【0048】
レーザ光源12から出射されるレーザパルスをトップフラットにするために、1パルスの出射に必要となる電力を、予めキャパシタ10Aに蓄積しておくことが好ましい。これにより、1パルス出射させるために必要な電力を、安定してレーザ光源12に供給する事ができる。
【0049】
次に、図7A及び図7Bを参照して、レーザビームの空間プロファイルについて説明する。
【0050】
図7Aは、実施例によるレーザアニール装置を用いてレーザアニールを行った時のシリコンウエハ表面の温度の時間変化のシミュレーション結果を示す。図7Bは、ビーム断面の幅方向に関してガウス分布のビームプロファイルを有するレーザビームを用いてレーザアニールを行った時のシリコンウエハ表面の温度の時間変化のシミュレーション結果を示す。横軸は、レーザビームの照射時点からの経過時間を単位「μs」で表し、縦軸は、温度を単位「K」で表す。各曲線に付した数値は、図3Bのビーム断面23の幅方向に関する中心からの距離xを単位「μm」で示す。
【0051】
レーザビームの空間プロファイルをトップフラットにした実施例の場合には、図7Aに示すように、ビーム断面の幅方向の中心からの距離が100μm以下の領域の温度がほぼ同一であることがわかる。これに対し、ガウス分布のビームプロファイルを持つレーザビームでアニールを行った場合には、図7Bに示すように、温度がほぼ同一になる領域が、図7Aに示した場合に比べて狭い。このため、ビーム断面の幅方向に関して活性化率にばらつきが生じてしまう。シリコンウエハの面内に関して活性化率を均一にするために、空間プロファイルをトップフラットにすることが好ましい。
【0052】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0053】
10 ドライバ
10A キャパシタ
10B パルス波形整形回路
11 直流電源
12 レーザ光源
13 半波長板
15 ホモジナイザ
16 ビームスプリッタ
17、18 ビームダンパ
19 1/4波長板
20 集光レンズ
21 可動ステージ
23 ビーム断面
30 シリコンウエハ
33 ベース領域
34 エミッタ領域
35 ゲート電極
36 ゲート絶縁膜
37 エミッタ電極
38 バッファ層
39 コレクタ層
40 コレクタ電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電流が入力されるとレーザパルスを出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射されたレーザビームを、アニール対象物まで導光する光学系と、
前記レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給するドライバと
を有するレーザアニール装置。
【請求項2】
前記ドライバは、
電源から供給された電力を蓄積するキャパシタと、
前記キャパシタから前記パルス電流を取り出すパルス整形回路と
を有する請求項1に記載のレーザアニール装置。
【請求項3】
前記ドライバは、前記レーザダイオードに前記パルス電流を供給する前に、前記キャパシタに、前記レーザパルスの1回の出力に必要な電力よりも大きい電力を蓄積する請求項2に記載のレーザアニール装置。
【請求項4】
前記ドライバは、前記レーザダイオードに周期的に前記パルス電流を供給し、前記パルス電流を供給していない期間には、前記パルス電流の最大電流値の10%以下の大きさの電流を、前記レーザダイオードに供給しておく請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項5】
前記パルス電流の時間波形のトップフラット部分の時間幅が、立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうち短い方よりも長い請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記アニール対象物の表面におけるビーム断面を長尺形状にするとともに、前記ビーム断面の長手方向、及び幅方向に関する光強度分布をトップフラット形状にするビームホモジナイザを含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項7】
第1の表面に、不純物拡散領域を含む素子構造が形成されたシリコンウエハの、前記第1の表面とは反対側の第2の表面に、ドーパントをイオン注入する工程と、
前記ドーパントを注入した後、前記シリコンウエハの前記第2の表面に、波長が690nm〜950nm、パルス幅が10μs〜100μs、時間波形がトップフラットのパルスレーザビームを、前記シリコンウエハの表面におけるパワー密度が250kW/cm2〜750kW/cm2の条件で照射し、前記ドーパントを活性化する工程と
を有するレーザアニール方法。
【請求項1】
パルス電流が入力されるとレーザパルスを出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射されたレーザビームを、アニール対象物まで導光する光学系と、
前記レーザダイオードに、トップフラットの時間波形を有し、パルス幅が1μs〜100μsのパルス電流を供給するドライバと
を有するレーザアニール装置。
【請求項2】
前記ドライバは、
電源から供給された電力を蓄積するキャパシタと、
前記キャパシタから前記パルス電流を取り出すパルス整形回路と
を有する請求項1に記載のレーザアニール装置。
【請求項3】
前記ドライバは、前記レーザダイオードに前記パルス電流を供給する前に、前記キャパシタに、前記レーザパルスの1回の出力に必要な電力よりも大きい電力を蓄積する請求項2に記載のレーザアニール装置。
【請求項4】
前記ドライバは、前記レーザダイオードに周期的に前記パルス電流を供給し、前記パルス電流を供給していない期間には、前記パルス電流の最大電流値の10%以下の大きさの電流を、前記レーザダイオードに供給しておく請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項5】
前記パルス電流の時間波形のトップフラット部分の時間幅が、立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうち短い方よりも長い請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記アニール対象物の表面におけるビーム断面を長尺形状にするとともに、前記ビーム断面の長手方向、及び幅方向に関する光強度分布をトップフラット形状にするビームホモジナイザを含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項7】
第1の表面に、不純物拡散領域を含む素子構造が形成されたシリコンウエハの、前記第1の表面とは反対側の第2の表面に、ドーパントをイオン注入する工程と、
前記ドーパントを注入した後、前記シリコンウエハの前記第2の表面に、波長が690nm〜950nm、パルス幅が10μs〜100μs、時間波形がトップフラットのパルスレーザビームを、前記シリコンウエハの表面におけるパワー密度が250kW/cm2〜750kW/cm2の条件で照射し、前記ドーパントを活性化する工程と
を有するレーザアニール方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【公開番号】特開2013−74019(P2013−74019A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210590(P2011−210590)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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