説明

レーザ光源装置

【課題】レーザ光の光軸に対する波長変換素子の位置および角度を調整してレーザ光の出力を高めることができるようにする。
【解決手段】波長変換素子35を保持する波長変換素子ホルダ57を、ホルダ支持部59に対して、分極反転領域の深さ方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能に設ける。特に波長変換素子ホルダ57に球面状の凸部91を設け、ホルダ支持部59に円柱面状の凹部92を分極反転領域の深さ方向に延在するように溝状に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザを用いたレーザ光源装置に関し、特に画像表示装置の光源に用いられるレーザ光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の光源に半導体レーザを用いる技術が注目されている。この半導体レーザは、従来から画像表示装置に多用されてきた水銀ランプに比較して、色再現性がよい点、瞬時点灯が可能である点、長寿命である点、高効率で消費電力を低減することができる点、ならびに小型化が容易である点など、種々の利点を有している。
【0003】
このような画像表示装置に用いられるレーザ光源装置においては、緑色レーザ光を直接出力する半導体レーザに高出力のものがないため、半導体レーザから励起用レーザ光を出力させ、この励起用レーザ光でレーザ媒体を励起させて赤外レーザ光を出力させ、この赤外レーザ光の波長を波長変換素子で変換して緑色レーザ光を出力するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−16833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような構成の緑色レーザ光源装置においては、レーザ光の光軸に対する波長変換素子の位置および角度に応じてレーザ光の出力が変化するため、出力が最大となる位置および角度に波長変換素子を配置することが望ましい。しかしながら、波長変換素子の製作精度および組み付け精度を高めるには限界があり、製品により出力にばらつきが生じる。そこで、レーザ光の光軸に対する波長変換素子の位置および角度を調整することができる構成が望まれる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、レーザ光の光軸に対する波長変換素子の位置および角度を調整してレーザ光の出力を高めることができるように構成されたレーザ光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレーザ光源装置は、分極反転領域が周期的に形成された波長変換素子と、この波長変換素子を保持する保持体と、この保持体を支持する支持部を備えた基台と、を有し、前記保持体は、前記支持部に対して、前記分極反転領域の深さ方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能に設けられた構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、波長変換素子の分極反転領域の深さ方向の位置と光軸方向に対する傾斜角度とを最適化することができ、これによりレーザ光の出力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による画像表示装置1の概略構成図
【図2】緑色レーザ光源装置2におけるレーザ光の状況を示す模式図
【図3】緑色レーザ光源装置2の斜視図
【図4】波長変換素子35の斜視図
【図5】波長変換素子ホルダ57の分解斜視図
【図6】波長変換素子ホルダ57と基台38のホルダ支持部59とを示す斜視図
【図7】波長変換素子ホルダ57の凸部91とホルダ支持部59の凹部92とを模式的に拡大して示す側面図
【図8】光軸方向に対する波長変換素子35の傾斜角度θに応じた波長変換効率ηの変化状況を示す図
【図9】波長変換素子ホルダ57の位置角度調整作業の要領を示す図
【図10】レーザ光の光軸に対する波長変換素子35の位置および角度の調整状況を示す斜視図
【図11】本画像表示装置1をノート型の情報処理装置111に内蔵した例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、分極反転領域が周期的に形成された波長変換素子と、この波長変換素子を保持する保持体と、この保持体を支持する支持部を備えた基台と、を有し、前記保持体は、前記支持部に対して、前記分極反転領域の深さ方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能に設けられた構成とする。
【0011】
これによると、波長変換素子の分極反転領域の深さ方向の位置と光軸方向に対する傾斜角度とを最適化することができ、これによりレーザ光の出力を高めることができる。
【0012】
なお、波長変換素子は、分極反転領域の深さ方向に幅が次第に狭くなる楔形状の分極反転領域を備え、波長変換素子を分極反転領域の深さ方向に移動させることで、レーザ光の光路上での分極反転領域の割合が変化し、これに応じて波長変換効率が変化し、この波長変換効率が最高となるように波長変換素子の位置が調整される。
【0013】
また、波長変換素子を光軸に対して傾斜させることで、波長変換素子の入射面および出射面でのレーザ光の屈折によりレーザ光の進路をずらして、レーザ光の干渉による出力の低下を避けることができ、レーザ光の出力が最大となるように光軸方向に対する波長変換素子の傾斜角度が調整される。
【0014】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記保持体および前記支持部の一方に、球面状の凸部が設けられ、他方に、前記凸部が嵌合する凹部が前記分極反転領域の深さ方向に延在するように溝状に設けられた構成とする。
【0015】
これによると、簡易な構成で、支持部に対する保持体の移動および傾動を可能にすることができる。
【0016】
また、第3の発明は、前記第2の発明において、前記凸部および前記凹部の中心にそれぞれ、レーザ光が通過する光路孔が形成された構成とする。
【0017】
これによると、凸部と凹部とが光軸上で接するため、保持体の傾動に応じて波長変換素子の光軸方向の位置が大きく変化することを避けることができる。
【0018】
また、第4の発明は、前記第1乃至第3の発明において、前記保持体を前記支持部に当接した状態に保持するばねを有する構成とする。
【0019】
これによると、位置および角度の調整作業時に保持体が支持部から脱落することを防ぐことができるため、調整作業が容易になる。なお、ばねは、調整作業時の仮固定の用途で用い、調整作業後に保持体と支持部とを接着剤で固定するようにするとよい。
【0020】
また、第5の発明は、前記第1乃至第4の発明において、励起用レーザ光を出力する半導体レーザと、この半導体レーザから出力される励起用レーザ光により励起されて赤外レーザ光を出力するレーザ媒体と、を備え、前記波長変換素子は、前記レーザ媒体から出力される赤外レーザ光の波長を変換して緑色レーザ光を出力するものであり、前記半導体レーザと、前記レーザ媒体と、前記波長変換素子とが、前記基台に一体的に支持された構成とする。
【0021】
これによると、高出力の緑色レーザ光を出力することができる。この場合、基台に半導体レーザを固定した後、レーザチップから出力されるレーザ光の光軸に対して、集光レンズ、レーザ媒体および波長変換素子の位置調整が行われる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明による画像表示装置1の概略構成図である。この画像表示装置1は、所要の画像をスクリーンに投影表示するものであり、緑色レーザ光を出力する緑色レーザ光源装置2と、赤色レーザ光を出力する赤色レーザ光源装置3と、青色レーザ光を出力する青色レーザ光源装置4と、映像信号に応じて各レーザ光源装置2〜4からのレーザ光の変調を行う液晶反射型の空間光変調器5と、各レーザ光源装置2〜4からのレーザ光を反射させて空間光変調器5に照射させるとともに空間光変調器5から出射された変調レーザ光を透過させる偏光ビームスプリッタ6と、各レーザ光源装置2〜4から出射されるレーザ光を偏光ビームスプリッタ6に導くリレー光学系7と、偏光ビームスプリッタ6を透過した変調レーザ光をスクリーンに投射する投射光学系8と、を備えている。
【0024】
この画像表示装置1は、いわゆるフィールドシーケンシャル方式でカラー画像を表示するものであり、各レーザ光源装置2〜4から各色のレーザ光が時分割で順次出力され、各色のレーザ光による画像が残像によってカラー画像として認識される。
【0025】
リレー光学系7は、各レーザ光源装置2〜4から出射される各色のレーザ光を平行ビームに変換するコリメータレンズ11〜13と、コリメータレンズ11〜13を通過した各色のレーザ光を所要の方向に導く第1および第2のダイクロイックミラー14,15と、ダイクロイックミラー14,15により導かれたレーザ光を拡散させる拡散板16と、拡散板16を通過したレーザ光を収束レーザに変換するフィールドレンズ17と、を備えている。
【0026】
投射光学系8からスクリーンSに向けてレーザ光が出射される側を前側とすると、青色レーザ光源装置4から青色レーザ光が後方に向けて出射され、この青色レーザ光の光軸に対して緑色レーザ光の光軸および赤色レーザ光の光軸が互いに直交するように、緑色レーザ光源装置2および赤色レーザ光源装置3から緑色レーザ光および赤色レーザ光が出射され、この青色レーザ光、赤色レーザ光、および緑色レーザ光が、2つのダイクロイックミラー14,15で同一の光路に導かれる。すなわち、青色レーザ光と緑色レーザ光が第1のダイクロイックミラー14で同一の光路に導かれ、青色レーザ光および緑色レーザ光と赤色レーザ光が第2のダイクロイックミラー15で同一の光路に導かれる。
【0027】
第1および第2のダイクロイックミラー14,15は、表面に所定の波長のレーザ光を透過および反射させるための膜が形成されたものであり、第1のダイクロイックミラー14は、青色レーザ光を透過するとともに緑色レーザ光を反射させる。第2のダイクロイックミラー15は、赤色レーザ光を透過するとともに青色レーザ光および緑色レーザ光を反射させる。
【0028】
これらの各光学部材は、筐体21に支持されている。この筐体21は、各レーザ光源装置2〜4で発生した熱を放熱する放熱体として機能し、アルミニウムや銅などの熱伝導性の高い材料で形成されている。
【0029】
緑色レーザ光源装置2は、側方に向けて突出した状態で筐体21に形成された取付部22に取り付けられている。この取付部22は、リレー光学系7の収容スペースの前方と側方にそれぞれ位置する前壁部23と側壁部24とが交わる角部から側壁部24に直交する向きに突出した状態で設けられている。赤色レーザ光源装置3は、ホルダ25に保持された状態で側壁部24の外面側に取り付けられている。青色レーザ光源装置4は、ホルダ26に保持された状態で前壁部23の外面側に取り付けられている。
【0030】
赤色レーザ光源装置3および青色レーザ光源装置4は、いわゆるCANパッケージで構成され、レーザ光を出力するレーザチップが、ステムに支持された状態で缶状の外装部の中心軸上に光軸が位置するように配置されたものであり、外装部の開口に設けられたガラス窓からレーザ光が出射される。この赤色レーザ光源装置3および青色レーザ光源装置4は、ホルダ25,26に開設された取付孔27,28に圧入するなどしてホルダ25,26に対して固定される。青色レーザ光源装置4および赤色レーザ光源装置3のレーザチップの発熱は、ホルダ25,26を介して筐体21に伝達されて放熱され、各ホルダ25,26は、アルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料で形成されている。
【0031】
緑色レーザ光源装置2は、励起用レーザ光を出力する半導体レーザ31と、半導体レーザ31から出力された励起用レーザ光を集光する集光レンズであるFAC(Fast-Axis Collimator)レンズ32およびロッドレンズ33と、励起用レーザ光により励起されて基本レーザ光(赤外レーザ光)を出力するレーザ媒体34と、基本レーザ光の波長を変換して半波長レーザ光(緑色レーザ光)を出力する波長変換素子35と、レーザ媒体34とともに共振器を構成する凹面ミラー36と、励起用レーザ光および基本波長レーザ光の漏洩を阻止するガラスカバー37と、各部を支持する基台38と、各部を覆うカバー体39と、を備えている。
【0032】
この緑色レーザ光源装置2は、基台38を筐体21の取付部22に取り付けて固定され、緑色レーザ光源装置2と筐体21の側壁部24との間に所要の幅(例えば0.5mm以下)の間隙が形成される。これにより、緑色レーザ光源装置2の熱が赤色レーザ光源装置3に伝わりにくくなり、赤色レーザ光源装置3の昇温を抑制して、温度特性の悪い赤色レーザ光源装置3を安定的に動作させることができる。また、赤色レーザ光源装置3の所要の光軸調整代(例えば0.3mm程度)を確保するため、緑色レーザ光源装置2と赤色レーザ光源装置3との間に所要の幅(例えば0.3mm以上)の間隙が設けられている。
【0033】
図2は、緑色レーザ光源装置2におけるレーザ光の状況を示す模式図である。半導体レーザ31のレーザチップ41は、波長808nmの励起用レーザ光を出力する。FACレンズ32は、レーザ光のファースト軸(光軸方向に対して直交し且つ図の紙面に沿う方向)の拡がりを低減する。ロッドレンズ33は、レーザ光のスロー軸(図の紙面に対して直交する方向)の拡がりを低減する。
【0034】
レーザ媒体34は、いわゆる固体レーザ結晶であり、ロッドレンズ33を通過した波長808nmの励起用レーザ光により励起されて波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)を出力する。このレーザ媒体34は、Y(イットリウム)VO(バナデート)からなる無機光学活性物質(結晶)にNd(ネオジウム)をドーピングしたものであり、より具体的には、母材であるYVOのYに蛍光を発する元素であるNd+3に置換してドーピングしたものである。
【0035】
レーザ媒体34におけるロッドレンズ33に対向する側には、波長808nmの励起用レーザ光に対する反射防止と、波長1064nmの基本波長レーザ光および波長532nmの半波長レーザ光に対する高反射の機能を有する膜42が形成されている。レーザ媒体34における波長変換素子35に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光および波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜43が形成されている。
【0036】
波長変換素子35は、いわゆるSHG(Second Harmonics Generation)素子であり、レーザ媒体34から出力される波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)の波長を変換して波長532nmの半波長レーザ光(緑色レーザ光)を生成する。
【0037】
波長変換素子35におけるレーザ媒体34に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光に対する反射防止と、波長532nmの半波長レーザ光に対する高反射の機能を有する膜44が形成されている。波長変換素子35における凹面ミラー36に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光および波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜45が形成されている。
【0038】
凹面ミラー36は、波長変換素子35に対向する側に凹面を有し、この凹面には、波長1064nmの基本波長レーザ光に対する高反射と、波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜46が形成されている。これにより、レーザ媒体34の膜42と凹面ミラー36の膜46との間で、波長1064nmの基本波長レーザ光が共振して増幅される。
【0039】
波長変換素子35では、レーザ媒体34から入射した波長1064nmの基本波長レーザ光の一部が波長532nmの半波長レーザ光に変換され、変換されずに波長変換素子35を通過した波長1064nmの基本波長レーザ光は、凹面ミラー36で反射されて波長変換素子35に再度入射し、波長532nmの半波長レーザ光に変換される。この波長532nmの半波長レーザ光は、波長変換素子35の膜44で反射されて波長変換素子35から出射される。
【0040】
ここで、レーザ媒体34から波長変換素子35に入射して波長変換素子35で波長変換されて波長変換素子35から出射されるレーザ光のビームB1と、凹面ミラー36で一旦反射されて波長変換素子35に入射して膜44で反射されて波長変換素子35から出射されるレーザ光のビームB2とが互いに重なり合う状態では、波長532nmの半波長レーザ光と波長1064nmの基本波長レーザ光とが干渉を起こして出力が低下する。
【0041】
そこでここでは、波長変換素子35を光軸方向に対して傾斜させて、入射面35aおよび出射面35bでの屈折作用により、レーザ光のビームB1,B2が互いに重なり合わないようにして、波長532nmの半波長レーザ光と波長1064nmの基本波長レーザ光との干渉を防ぐようにしており、これにより出力低下を避けることができる。
【0042】
なお、図1に示したガラスカバー37には、波長808nmの励起用レーザ光および波長1064nmの基本波長レーザ光が外部に漏洩することを防止するため、これらのレーザ光を透過しない膜が形成されている。
【0043】
図3は、緑色レーザ光源装置2の斜視図である。半導体レーザ31、FACレンズ32、ロッドレンズ33、レーザ媒体34、波長変換素子35、および凹面ミラー36は、基台38に一体的に支持されている。基台38の底面51は光軸方向に対して平行となる。なおここでは、基台38の底面51に対して直交する方向を高さ方向とし、この高さ方向および光軸方向に対して直交する方向を幅方向とする。また、基台38の底面51に近接する側を下、底面51と相反する側を上として説明するが、これは実際の装置の上下方向と必ずしも一致するものではない。
【0044】
半導体レーザ31は、レーザ光を出力するレーザチップ41をマウント部材52に実装したものである。レーザチップ41は、光軸方向に長い帯板状をなし、光出射面をFACレンズ32側に向けた状態で、板状をなすマウント部材52の一面の幅方向の略中心位置に固着されている。この半導体レーザ31は、基台38に一体的に形成された支持部53に支持される。
【0045】
FACレンズ32およびロッドレンズ33は、集光レンズホルダ54に保持される。この集光レンズホルダ54は、基台38に一体的に形成された支持部55に支持される。集光レンズホルダ54は、光軸方向に移動可能に支持部55に連結されており、これにより集光レンズホルダ54、すなわちFACレンズ32およびロッドレンズ33の位置が、光軸方向に調整される。FACレンズ32およびロッドレンズ33は位置調整作業の前に集光レンズホルダ54に接着剤で固定され、位置調整作業の後に、集光レンズホルダ54と支持部55とが接着剤で互いに固定される。
【0046】
レーザ媒体34は、基台38に一体的に形成された保持部56に保持される。レーザ媒体34と保持部56とは接着剤で互いに固定される。
【0047】
波長変換素子35は、波長変換素子ホルダ57に保持される。この波長変換素子ホルダ57は、波長変換素子35の幅方向の位置および光軸方向に対する傾斜角度を調整することができるように、基台38に一体的に形成されたホルダ支持部59に対して、幅方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能に設けられている。この波長変換素子ホルダ57については後に詳しく説明する。波長変換素子35は位置調整作業の前に波長変換素子ホルダ57に接着剤で固定され、位置調整作業の後に、波長変換素子ホルダ57とホルダ支持部59とが接着剤で互いに固定される。
【0048】
波長変換素子ホルダ57は、ばね58の付勢力によりホルダ支持部59に圧接した状態に保持される。ばね58は、基台38に一体的に形成された凹面ミラー支持部60と波長変換素子ホルダ57との間に圧縮状態で設けられ、波長変換素子ホルダ57をホルダ支持部59に圧接させる向きに付勢する。ばね58の付勢力は、位置角度調整時の仮止めに用いられ、位置角度調整作業後に接着剤で波長変換素子ホルダ57とホルダ支持部59とが固定される。なおここでは、ばね58をコイルばねとしたが、板ばねなどの他の形態のばねを用いるようにしてもよい。
【0049】
凹面ミラー36は、基台38に一体的に形成された凹面ミラー支持部60に支持される。ガラスカバー37は、図1に示したカバー体39に保持される。
【0050】
なお、前記の各部材、例えば波長変換素子ホルダ57とホルダ支持部59との固定に用いる接着剤は、例えばUV硬化型接着剤が好適である。
【0051】
図4は、波長変換素子35の斜視図である。波長変換素子35は、強誘電体結晶に分極反転領域71と非分極反転領域72とが交互に形成された、周期的な分極反転構造を備えたものであり、分極反転周期方向(分極反転領域71の配列方向)に基本波長レーザ光を入射させる。これにより、擬似位相整合による入射光の第2次高調波発生で2倍の周波数、すなわち1/2の波長のレーザ光を得ることができる。
【0052】
周期電極73と対向電極74を用いて、単分極した強誘電体結晶に分極方向と逆方向の電界を印加すると、周期電極73に対応する部分の分極方向が反転し、分極反転領域71が周期電極73から対向電極74に向けて楔形状に形成される。
【0053】
なお、実際には、強誘電体結晶の基板に分極反転構造を形成した上でこれを所要の寸法に切断して1つの波長変換素子35が得られ、入射面35aおよび出射面35bは、精密な光学研磨により分極反転領域71の深さ方向に対して平行な平面に形成される。また、最終的に側面35c,35dの周期電極73および対向電極74は研磨により削除される。強誘電体結晶には、例えばLN(ニオブ酸リチウム)にMgOを添加したものが用いられる。
【0054】
分極反転領域71は、深さ方向に沿って幅が次第に狭くなる楔形状をなし、入射するレーザ光に対して、分極反転領域71の深さ方向に波長変換素子35を移動させることで、レーザ光の光路上に位置する分極反転領域71と非分極反転領域72との割合が変化し、これに応じて波長変換効率が変化する。そこで、波長変換効率が最大となる、すなわちレーザ光の出力が最大となるように、レーザ光の光軸に対する波長変換素子35の位置が調整される。この波長変換素子35の位置調整については後に詳しく説明する。
【0055】
図5は、波長変換素子ホルダ57の分解斜視図である。図6は、波長変換素子ホルダ57と基台38のホルダ支持部59とを示す斜視図である。図7は、波長変換素子ホルダ57の凸部91とホルダ支持部59の凹部92とを模式的に拡大して示す側面図である。
【0056】
図5に示すように、波長変換素子ホルダ57には、波長変換素子35を収容する収容孔81と、波長変換素子35を波長変換素子ホルダ57に固定するための接着剤が装填される接着剤装填孔82と、収容孔31内の波長変換素子35にグランドプレート83を接触させるための開口84と、収容孔31内の波長変換素子35にレーザ光を導く光路孔85と、が設けられている。
【0057】
波長変換素子35の入射面35aおよび出射面35bは、精密な研磨により高い精度で平行度が確保されているが、波長変換素子35の側面35c,35dと頂面35eおよび底面35fに関しては、入射面35aおよび出射面35bに対する直角度や、互いに相対するもの同士の平行度は確保されておらず、基板から切り出す際に発生する製造誤差がある。このため、精度が確保されている入射面35aを、光路孔85が開口する基準面87に当接させて、波長変換素子35の位置決めが行われる。
【0058】
グランドプレート83は、略U字形状をなす板ばねで構成され、金属材料などの導電性材料からなる。このグランドプレート83は、波長変換素子35を挟み込むように波長変換素子ホルダ57に組み付けられ、波長変換素子35における分極反転領域71の深さ方向に相対する2つの側面35c,35dに弾性力で当接する接触部86を備えている。これにより、波長変換素子35の側面35c,35d同士が電気的に接続され、側面35c,35dを同一の電位に維持して、チャージアップによる屈折率の変化を抑えることができる。
【0059】
図6に示すように、波長変換素子ホルダ57には球面状の凸部91が設けられており、他方、ホルダ支持部59には円柱面状の凹部92が設けられている。波長変換素子ホルダ57は、凸部91をホルダ支持部59の凹部92に当接させて、波長変換素子ホルダ57とホルダ支持部59の対向面93,94同士が概ね平行となる状態に組み付けられる。ホルダ支持部59の凹部92は、波長変換素子ホルダ57の組み付け状態で、波長変換素子35の分極反転領域の深さ方向に延在するように溝状に設けられている。これにより、波長変換素子ホルダ57が、ホルダ支持部59に対して、波長変換素子35における分極反転領域の深さ方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能となっている。
【0060】
図7に示すように、波長変換素子ホルダ57の凸部91は、ホルダ支持部59の凹部92の円柱面より大きな径を有する球面に形成されている。これにより、凹部92の両端縁の2点P1,P2で凸部91が接触するため、凸部91と凹部92との間に遊びが発生することを防止し、分極反転領域の深さ方向と異なる向きに波長変換素子ホルダ57が移動しないように規制することができる。これに対して、凸部91が、凹部92の円柱面より小さな径を有する球面に形成されていると、凸部91と凹部92との間に遊びが発生し、また凸部91が、凹部92の円柱面と同一径の球面に形成されていると、凹部92に対する凸部91の回動が円滑でなくなるため、望ましくない。
【0061】
図6に示したように、波長変換素子ホルダ57に保持された波長変換素子35にレーザ光を導く光路孔85は、凸部91の中心に形成されている。ホルダ支持部59は、レーザ媒体34の保持部56と一体的に形成され、ホルダ支持部59の凹部92の中心には、レーザ媒体34から出射されたレーザ光を導く光路孔95が開口している。このように凸部91および凹部92の中心にそれぞれ、レーザ光が通過する光路孔85,95を形成し、凸部91と凹部92とが光軸上で接するようにすると、波長変換素子ホルダ57の傾動に応じて波長変換素子35の光軸方向の位置が大きく変化することを避けることができる。
【0062】
また、図7に示したように、波長変換素子ホルダ57側の光路孔85は、ホルダ支持部59側の光路孔95より大きな径を有する円形に形成されている。これにより、位置角度調整時の波長変換素子ホルダ57の移動および傾動に伴って、波長変換素子ホルダ57側の光路孔85とホルダ支持部59側の光路孔95との位置関係が多少ずれても、光路孔85,95が塞がれないようにすることができる。
【0063】
なお、前記のように、波長変換素子ホルダ57とホルダ支持部59とは、位置角度調整作業後に接着剤で固定されるが、ホルダ支持部59の凹部92を利用して、あるいは別に溝を設けて、凸部91の近傍に接着剤を付着させて固定するようにするとよく、これにより接着剤の硬化時の収縮で波長変換素子ホルダ57の角度が変化することを抑えることができる。
【0064】
図8は、光軸方向に対する波長変換素子35の傾斜角度θに応じた波長変換効率ηの変化状況を示す図である。波長変換素子35の波長変換効率ηは、光軸方向に対する波長変換素子35の傾斜角度θに応じて変化し、光軸方向に対して傾斜していない状態(θ=0)では波長変換効率ηが低く、光軸方向に対して傾斜させることで波長変換効率ηを高めることができる。
【0065】
これは、傾斜角度θが0の場合、図2に示したように、レーザ光のビームB1,B2が互いに重なり合うことで、波長532nmの半波長レーザ光と波長1064nmの基本波長レーザ光とが干渉を起こすことによるためであり、波長変換素子35を光軸方向に対して傾斜させることで、入射面35aおよび出射面35bでの屈折作用により、レーザ光のビームB1,B2がずれるため、干渉による出力低下を傾けることができる。
【0066】
特にここでは、波長変換効率のピーク点(ここではθ=±0.6度)を中心にした所要の範囲(例えば±0.4度)の高効率領域に入るように波長変換素子35の傾斜角度θを調整し、この調整代に相当する角度範囲で波長変換素子ホルダ57をホルダ支持部59に対して傾動させることができるように各部の寸法が設定される。
【0067】
図9は、波長変換素子ホルダ57の位置角度調整作業の要領を示す図であり、図9(A),(B)は上面図であり、図9(C)は側面図である。図10は、レーザ光の光軸に対する波長変換素子35の位置および角度の調整状況を示す斜視図である。
【0068】
図9(A)は、波長変換素子ホルダ57を幅方向に移動させる状況を示す。ここでは、波長変換素子ホルダ57における凸部91に近い部分を、幅方向に相対する1対の治具101,102で押圧すると、波長変換素子ホルダ57の凸部91がホルダ支持部59の凹部92に沿って摺動し、波長変換素子ホルダ57を幅方向に移動させることができる。これにより、図10の矢印Aで示すように、レーザ光の光軸に対して分極反転領域71の深さ方向に波長変換素子35を移動させることができる。
【0069】
図9(B)は、波長変換素子ホルダ57を幅方向に傾動させる状況を示す。ここでは、波長変換素子ホルダ57における凸部91から離れた部分を、幅方向に相対する1対の治具101,102で押圧すると、波長変換素子ホルダ57の凸部91を中心にして、波長変換素子ホルダ57を幅方向に傾動させることができる。これにより、図10の矢印Bで示すように、レーザ光の光軸に対して幅方向に波長変換素子35を傾動させることができる。
【0070】
図9(C)は、波長変換素子ホルダ57を高さ方向に傾動させる状況を示す。ここでは、波長変換素子ホルダ57における凸部91から離れた部分を、高さ方向に相対する1対の治具103,104で押圧すると、波長変換素子ホルダ57の凸部91を中心にして、波長変換素子ホルダ57を高さ方向に傾動させることができる。これにより、図10の矢印Cで示すように、レーザ光の光軸に対して高さ方向に波長変換素子35を傾動させることができる。
【0071】
次に、波長変換素子35の位置角度調整の手順について説明する。まず最初に、幅方向(分極反転領域の深さ方向)に関する波長変換素子35の位置調整を行う。この位置調整は、パワーメータで出力を監視しながら行われ、図9(A)に示したように、波長変換素子ホルダ57を幅方向に移動させて出力が最大となるように調整する。
【0072】
ついで、光軸方向に対する波長変換素子35の傾斜角度θが0度となるように波長変換素子ホルダ57の角度を調整する(図8参照)。この角度調整は、レーザ光のビームの形状を監視しながら行われ、図9(B)およびに(C)に示したように、波長変換素子ホルダ57を高さ方向および幅方向の両方向に傾動させて、レーザ光のビームが1本となるように調整する。これにより、波長変換素子35の傾斜角度θが0度となる。
【0073】
最後に、波長変換素子35の傾斜角度θが所定の高効率領域に入るように波長変換素子ホルダ57の角度を調整する(図8参照)。この角度調整は、パワーメータで出力を監視しながら行われ、図9(B)およびに(C)に示したように、波長変換素子ホルダ57を高さ方向および幅方向のいずれかの方向に傾動させて、出力が最大となる角度に調整する。これにより、波長変換素子35の傾斜角度θが所定の高効率領域に入り、図2に示したように、レーザ光の2本のビームB1,B2の重なり合いによる干渉を防ぐことができる。
【0074】
図11は、本画像表示装置1をノート型の情報処理装置111に内蔵した例を示す斜視図である。情報処理装置111の筐体112には、画像表示装置1が出没自在に格納される収容スペースが、キーボードの裏面側に形成されており、不使用時には画像表示装置1が筐体112内に収容され、使用時には画像表示装置1が筐体112から引き出されて、画像表示装置1を回動自在に支持するベース部113に対して画像表示装置1を所要の角度に回動させることで、画像表示装置1からのレーザ光をスクリーンに投射させることができる。
【0075】
なお、前記の例では、図6に示したように、波長変換素子ホルダ57に凸部91を設け、ホルダ支持部59に凹部92を設けたが、これとは逆に、波長変換素子ホルダ57に凹部を設け、ホルダ支持部59に凸部を設けるようにしてもよい。
【0076】
また、前記の例では、凸部91を球面状に、凹部92を円柱面状に形成したが、図7に示したように、凹部92の両端縁の2点P1,P2で凸部91が接触するように構成すればよく、必ずしも凹部92を円柱面状に形成する必要はなく、例えば台形状あるいは方形状の断面形状に凹部92を形成することも可能である。
【0077】
また、前記の例では、緑色レーザ光源装置2のレーザチップ41、レーザ媒体34、および波長変換素子35がそれぞれ、波長808nmの励起用レーザ光、波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)、および波長532nmの半波長レーザ光(緑色レーザ光)を出力するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。最終的に緑色レーザ光源装置2から出力されるレーザ光が緑色と認識できるものであればよく、例えばピーク波長が500nm〜560nmの範囲となる波長領域のレーザ光を出力するようにするとよい。
【0078】
また、前記の例では、図5に示したように、波長変換素子35を位置決めする基準面87を1つの平面として、これに波長変換素子35の出射面35bが全面に渡って当接する構成としたが、この基準面87が設けられている位置に、同一の高さを有する3つの凸部を、光路孔85を囲むように設けて、この凸部の頂面を、波長変換素子35を位置決めする基準面としてもよい。この構成では、波長変換素子35を3点で支持する状態となる。
【0079】
図5に示した例のように、基準面87を1つの平面とした場合、基準面87の平面度の精度を上げるのに限界があるため、波長変換素子35に僅かなガタツキが発生することが避けられず、この場合、波長変換素子35の取付角度が1つに定まらない。この波長変換素子35のガタツキによる角度変化は予測が難しく、波長変換素子35の取付角度にバラツキが発生する。さらに、接着剤の硬化時の収縮にもバラツキがあり、これが波長変換素子35の取付角度のバラツキを拡大させる。
【0080】
これに対して、3つの凸部により波長変換素子35を3点で支持する構成では、波長変換素子35にガタツキが発生しなくなり、波長変換素子35が安定して支持される。さらに、打痕や異物の噛み込み、部品変形といったバラツキ要因の影響を受けにくくなるため、波長変換素子35の取付角度のバラツキが低減される。このため、波長変換素子35の角度調整の範囲を狭く設定することができ、また歩留まりを向上させることができ、さらに波長変換素子35の角度調整の作業を簡略化することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明にかかるレーザ光源装置は、レーザ光の光軸に対する波長変換素子の位置および角度を調整してレーザ光の出力を高めることができる効果を有し、画像表示装置の光源に用いられるレーザ光源装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 画像表示装置
2 緑色レーザ光源装置
3 赤色レーザ光源装置
4 青色レーザ光源装置
31 半導体レーザ
34 レーザ媒体
35 波長変換素子
38 基台
57 波長変換素子ホルダ(保持体)
58 ばね
59 ホルダ支持部(支持部)
71 分極反転領域
72 非分極反転領域
85 光路孔
91 凸部
92 凹部
95 光路孔
101〜104 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極反転領域が周期的に形成された波長変換素子と、
この波長変換素子を保持する保持体と、
この保持体を支持する支持部を備えた基台と、を有し、
前記保持体は、前記支持部に対して、前記分極反転領域の深さ方向に移動可能に、且つ任意の方向に傾動可能に設けられたことを特徴とするレーザ光源装置。
【請求項2】
前記保持体および前記支持部の一方に、球面状の凸部が設けられ、他方に、前記凸部が嵌合する凹部が前記分極反転領域の深さ方向に延在するように溝状に設けられたことを特徴とする請求項1に記載のレーザ光源装置。
【請求項3】
前記凸部および前記凹部の中心にそれぞれ、レーザ光が通過する光路孔が形成されたことを特徴とする請求項2に記載のレーザ光源装置。
【請求項4】
前記保持体を前記支持部に当接した状態に保持するばねを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のレーザ光源装置。
【請求項5】
励起用レーザ光を出力する半導体レーザと、この半導体レーザから出力される励起用レーザ光により励起されて赤外レーザ光を出力するレーザ媒体と、を備え、
前記波長変換素子は、前記レーザ媒体から出力される赤外レーザ光の波長を変換して緑色レーザ光を出力するものであり、
前記半導体レーザと、前記レーザ媒体と、前記波長変換素子とが、前記基台に一体的に支持されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のレーザ光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−59810(P2012−59810A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199721(P2010−199721)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【特許番号】特許第4815641号(P4815641)
【特許公報発行日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】