レーザ設計支援装置およびプログラム
【課題】イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルを利用したレーザ設計支援装置等を提供する。
【解決手段】レーザ設計支援装置1は、所定のパラメータの値を入力する入力手段21と、入力手段によって入力されたパラメータの値から、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、算出手段によって算出された設計値を出力する出力手段29と、を具備する。算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、設計値を算出する。
【解決手段】レーザ設計支援装置1は、所定のパラメータの値を入力する入力手段21と、入力手段によって入力されたパラメータの値から、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、算出手段によって算出された設計値を出力する出力手段29と、を具備する。算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、設計値を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザとは、光を増幅し、コヒーレントな光を発生させる装置またはその光(レーザ光と呼ぶ。)を意味する。レーザ光は、発振器を用いて人工的に作られる光である。ここで、発振器は、共振器、共振器の中に設置される媒質、および媒質をポンピング(電子をより高いエネルギー準位に持ち上げること。)するための装置から構成される。典型的な共振器は、2枚の鏡が向かい合った構造をなしている。そして、波長が共振器長の整数分の一となるような光は、共振器内を繰り返し往復し、定常波を形成する。また、媒質は、ポンピングによって、吸収よりも誘導放出(励起された電子が他の定常状態に移る際、外部から加えられた光などのエネルギーと同じ位相や周波数のエネルギーを放出する現象をいう。)の方が優勢な状態である、反転分布状態を形成する。そうすると、共振器内の光は、媒質を通過する度に誘導放出により増幅される。ここで、共振器を構成する鏡のうち一枚を所定の透過率を有する出力鏡とすると、一部の光を外部に取り出すことができ、レーザ光が得られることになる。
【0003】
発振器の設計を行う上では、与えるポンピングパワーに対する損失を考慮し、効率的に出力パワーを取り出すことが、一つの重要な目的となる。ここで、ポンピングパワーに対する損失には、共振器内の内部パワーを外部に取り出すための出力鏡の透過率によるミラー損失、および共振内部での吸収、散乱または回折損失などの内部損失がある。そして、前述の目的を達成するためには、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値(当該閾値を超えるとレーザ光が発振される。以下、単に閾値と呼ぶ。)および出力パワー等を計算できる計算モデルが必要となる。非特許文献1および非特許文献2では、共振器内に非線形結晶を配置しない固体レーザに対して、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる計算モデルが記載されている。以下では、従来の閾値および出力パワー等の計算モデルを概説する。
【0004】
図15は、4準位レーザのエネルギーダイアグラムのモデルの一例を示す図である。図15に示す例では、媒質は4準位モデルの量子力学的エネルギー構造を持っており、媒質のポンピングは、光(以下、ポンプ光と呼ぶ。)で励起する方法で行われる。そして、第0準位を基底準位とし、外部からのポンプ光の吸収は、第0準位と第3準位との間で起こるものとする。また、レーザ発振は、第2準位から第1準位への遷移で起こるものとする。
【0005】
ここで、準4準位レーザは、第0準位と第1準位のエネルギー差が小さいだけであるから、熱励起の効果を考慮することで、同様のモデルに当てはめることが可能となる。図15の(1)に示す例では、熱励起を考慮しておらず、第1準位と第3準位の励起イオン密度は0となる。一方、図15の(2)に示す例では、熱励起を考慮しており、第1準位と第3準位に励起されたイオンが存在する。尚、熱励起は、閾値の変動などを引き起こす。
【0006】
最初に、4準位レーザの利得と損失について説明する。外部からのポンプ光の吸収は、第0準位と第3準位との間で起こり、レーザ発振は、第2準位から第1準位への遷移で起こると仮定していることから、媒質に対してポンプ光を入射するときの吸収係数をα、媒質がレーザ光を増幅するときの光学利得をγとすると、αとγは、一般に、次式で表すことができる。
【数1】
ここで、σAは吸収断面積、σEは発光断面積、Nnは第n準位のイオンの占有密度である。
【0007】
図16は、熱平衡状態でのエネルギーダイアグラムの一例を示す図である。図16に示す例では、第n準位に注目し、第n準位の近傍で熱励起を起こし得る準位の全て(当該準位数をm個とする。)を示している。このとき、熱励起はボルツマン分布でモデル化できるので、第n準位の近傍で最も低い準位を第0準位、希土類のドーピング密度をNdとすると、Nnは次式で表すことができる。
【数2】
ここで、fnはfractional population、diは縮退数、ΔEiは第0準位と第i準位とのエネルギー差、kはボルツマン定数、Tは熱平衡状態の絶対温度である。従って、この場合、式(1)、式(2)で示した光の吸収係数αと光学利得γは、次式で表すことができる。
【数3】
次に、熱非平衡状態における吸収係数αと光学利得γを考えることとする。
【0008】
図17は、励起光によって熱非平衡状態になったエネルギーダイアグラムの一例を示す図である。励起光によって励起されたイオンの総数をNU、励起されないイオンの総数をNLとすると、希土類のドーピング密度Ndとの間に次の関係式が成り立つ。
【数4】
また、第n準位のイオンの占有密度Nn(n=0、1、2、3)は、次式で表すことができる。
【数5】
この場合、式(1)、式(2)で示した光の吸収係数αと光学利得γは、次式で表すことができる。
【数6】
以上で、4準位レーザの利得と損失についての説明を終える。
【0009】
次に、レート方程式について説明する。レート方程式とは、媒質を共振器内に配置した場合の反転分布密度および光子密度の時間変化を表すものである。図17に示した例において、反転分布密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数7】
右辺の第3項が、誘導放射項である。ここで、Ni(i=1、2)は第i準位のイオンの占有密度、fi(i=1、2)は第i準位のfractional population、τspは第2準位から第1準位への遷移の緩和時間、Sは光子密度、hはプランク定数、vgは光の群速度、Rはポンピングされるイオン密度である。
そして、ポンピングパワーをPPとし、ポンピングパワーPPに対して効率ηで吸収されるものとすると、ポンピングされるイオン密度Rは、次式で定義できる。
【数8】
ここで、νPはポンプ光の周波数である。
【0010】
また、図17に示した例において、光子密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数9】
右辺の第1項は共振器から失われる光子密度、右辺の第2項は誘導放射により生成される光子密度、右辺の第3項は自然放出光を示している。ここで、τphは光子寿命であり、次式で表すことができる。
【数10】
ここで、nは屈折率、Lcは共振器長、cは光の速度、Lmはミラー損失、Liは内部損失である。右辺は、共振器を1往復するためにかかる時間と、共振器を1往復する間に失われる光の割合との積である。また、ミラー損失Lmと内部損失Liの和は、次式で表すことができる。
【数11】
ここで、Rfは取り出し側のミラー反射率、Rbは高反射側のミラー反射率、αiは吸収効率である。
【0011】
また、定常状態における光子密度の時間変化を表すレート方程式は、自然放出光を無視することによって、次式で表すことができる。
【数12】
そして、式(19)においてS≠0とすると、次式を導くことができる。
【数13】
式(20)は、レーザの発振条件となる。
以上で、レート方程式についての説明を終える。
【0012】
次に、閾値の算出について説明する。ポンピングパワーが閾値の場合、式(14)の誘導放射項(=右辺の第3項)が0であることから、定常状態における反転分布密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数14】
ここで、Rthは閾値におけるポンピング密度、N2、tは閾値における第2準位の反転分布密度である。そして、式(21)より、N2、tは、次式で表すことができる。
【数15】
また、閾値における第1準位の電子密度をN1、tとすると、式(20)から、N2、tとN1、tとの差は、次式で表すことができる。
【数16】
更に、式(17)、式(22)、式(23)から、閾値におけるポンピング密度Rthは、次式で表すことができる。
【数17】
更に、閾値におけるポンピング密度Rthを共振器の体積で積分することで、次式のように、閾値Pthを算出することができる。
【数18】
ここで、Vlasは共振器の体積である。
以上で、閾値の算出についての説明を終える。
【0013】
最後に、閾値以上のポンピングパワーを与えた場合の出力パワーについて説明する。図18は、発振している共振器内での光強度の分布を示す図である。理想的なレーザが発振すると、利得は閾値における利得のままで固定される。このため、高反射側のミラーで反射された光強度を1とすると、取り出し側のミラーを通り抜ける光の光強度IFは、次式で表すことができる。
【数19】
また、取り出し側のミラーで折り返された光が高反射側のミラーを通り抜ける光の光強度IBは、次式で表すことができる。
【数20】
そして、出力パワーPoutは、次式で表すことができる。
【数21】
ここで、νLはレーザ光の周波数、ηdは取り出し効率、ηiは内部量子効率、Peffは媒質に実効的に吸収されるポンピングパワー、ηspaceは空間に関する吸収効率、ηλは波長に関する吸収効率、Pinは媒質に入力されるポンピングパワーである。
尚、取り出し効率ηdは、IF、IB、Lm、Liを用いて、次式で表すことができる。
【数22】
以上で、閾値以上のポンピングパワーを与えた場合の出力パワーについての説明を終える。
【0014】
以上説明したように、共振器内に非線形結晶を配置しない固体レーザに対しては、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる。そして、このような計算モデルを用いる手段を具備するコンピュータは、各種のシミュレーションを行い、一部の固体レーザの設計を支援することができる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】「Modeling and CW Operation of a Quasi−THree−Level 946 nm Nd:YAGLaser」、TSO YEE FAN and ROBERT L. BYER、IEEE JOURNAL OFQUANTUM ELECTRONICS/VOL.QE−23,NO.5,p605−p612、1987年5月.
【非特許文献2】「Modeling of longitudinally pumped solid−state lasers exhibiting reabsorption losses」、W.P.Risk、Journal of the Optical Society of America B/Vol.5,No.7,p1412−p1423、1988年7月.
【非特許文献3】「Intracavity Doubling of CW Diode−Pumped Nd:YAG Lasers with KTP」、D.W.Anthon,D.L.Sipes,T.J.Pier, and M.R.Ressl、IEEE JOURNAL OFQUANTUM ELECTRONICS/VOL.28,NO.4,p1148−p1157、1992年4月.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、例えば、非特許文献3に記載されている共振器(キャビティ)内に非線形結晶を配置して高調波を発生させる固体レーザ(以下、「イントラキャビティ型高調波発生固体レーザ」という。)に対しては、前述の計算モデルを適用することはできない。尚、高調波とは、ある周波数成分を持つ波動に対して、その整数倍の高次の周波数成分のことをいう。また、元々の周波数を基本波、2倍の周波数を持つものを2次高調波、3倍の周波数を持つものを3次高調波という。
【0016】
ここで、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計について概説する。分極が電界強度に対し非線形で変位するような結晶に対して、特定の条件で光線を通すことで、波長変換が可能であることが知られている。入射光の強度が強い程、波長変換の変換効率が高くなるため、エネルギー密度の高い共振器内に非線形結晶を配置すると効率良く高調波を取り出すことができる。
【0017】
一方、共振器内に波長変換素子である非線形結晶を設置することは、レーザにとって損失を増やすことである。従って、高調波を多く取り出しすぎると、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値が高くなり、かえって高調波の出力が減少してしまう。このように、高調波をどの程度取り出すかについては、最適な設計値が存在する。また、基本波を高調波にどのくらい変換するかは、非線形結晶の長さによることから、効率良く高調波を取り出すためには非線形結晶の長さを適当に選ぶ必要がある。従って、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルが必要である。
【0018】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルを利用したレーザ設計支援装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述した目的を達成するために第1の発明は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置であって、所定のパラメータの値を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力されたパラメータの値から、前記イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記設計値を出力する出力手段と、を具備し、前記算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、前記設計値を算出することを特徴とするレーザ設計支援装置である。
また、前記算出手段は、前記導出された方程式が電子密度の温度依存性を考慮したものであっても良い。
【0020】
前記算出手段は、例えば、前記設計値が2次高調波パワー、かつ前記導出された方程式が内部パワーの2次方程式としたものである。
また、前記算出手段は、例えば、前記設計値がレーザ結晶長さ、かつ前記導出された方程式が共振器長さの1次方程式としたものである。
また、前記算出手段は、例えば、前記設計値が非線形結晶長さ、かつ前記導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式としたものである。
【0021】
第2の発明は、コンピュータを第1の発明のレーザ設計支援装置として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルを利用したレーザ設計支援装置等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
最初に、図1を参照しながら、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる計算モデルについて説明する。
【0025】
図1は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要を示す図である。図1に示すように、κは変換効率(定義については後述する。)、T1は透過率(定義については後述する。)、P0は共振器内の内部パワー、P1は共振器外部に漏れる基本波パワー、P2は外部に取り出される2次高調波パワーを表すこととする。
【0026】
まず、2次高調波パワーP2を算出するために、非線形結晶中での光の波長変換について考える。ここでは、非線形結晶中をω1、ω2の振動数の光が通過し、ω3の振動数の光が発生するとする。このとき、エネルギーの交換が起こるためには、次の2式が成り立つことが必要である。
【数23】
ここで、kn(n=1、2、3)はそれぞれ振動数ωn(n=1、2、3)の波数であり、式(31)はエネルギー保存の法則、式(32)は運動量保存の法則による。そして、光の進行方向をz軸方向としたときの振動数ω1、ω2、ω3の光の相互作用は、次式で表すことができる。
【数24】
ここで、En(n=1、2、3)は光の電界強度、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、σn(n=1、2、3)は導電率、εn(n=1、2、3)は誘電率、d0は非線形光学定数である。尚、式は相反的であるため、振動数ω3の光が、振動数ω1、ω2の光に変換される場合にも成り立つ。
【0027】
次に、2次高調波の発生に着目し、振動数ωの光が振動数2ωに変換されるとする。この場合、前述の仮定において、ω1=ω、ω2=ω、ω3=2ωと読み替えれば良い。そして、損失は少ないものとして近似すると、次式を得ることができる。
【数25】
そして、結晶の端面では2次高調波の強度は0、基本波の減衰が無視できるものとして長さlの結晶について式(36)を解くと、次式を得ることができる。
【数26】
更に、2次高調波の出力光強度は次式で表すことができる。
【数27】
ここで、n0は屈折率である。また、一般に、ビーム断面積をAとしたときの出力パワーPと電界強度Eの関係式は、次式で表すことができる。
【数28】
従って、内部パワーPω(=P0)から2次高調波パワーP2ω(=P2)への変換効率は、次式で表すことができる。
【数29】
式(42)から、内部パワーP0から2次高調波パワーP2への変換効率は、内部パワーの強度Pω/Aに比例することが分かる。
【0028】
次に、内部パワーP0を用いて、2次高調波パワーP2と基本波パワーP1を表すことを考える。式(42)から、変換効率κを次のように定義するとともに、2次高調波パワーP2を次のように表す。
【数30】
ここで、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、ωは基本波の振動数、d0は非線形光学定数、lSHGは非線形結晶長さ、n0は屈折率、ASHGは非線形結晶でのビーム断面積である。
また、透過率T1を次のように定義するとともに、基本波パワーP1を次のように表す。
【数31】
式(45)から、透過率T1は基本波についての透過率の合計である。
【0029】
次に、ポンピングパワーの閾値Pthについて考える。式(44)を考察すると、2次高調波は透過率κP0にて共振器から取り出されると考えられる。従って、式(25)に対して、2次高調波への変換によるミラー損失の項を加えると、ポンピングパワーの閾値Pthは、次式で表すことができる。
【数32】
右辺の(κP0+T1)の項が、ミラー損失を示す。ここで、hはプランク定数、νPはポンプ光の周波数、Vは共振器体積、fi(i=1、2)は第i準位のfractional population、σEは誘導放射断面積、τSは蛍光寿命、Liは内部損失、Ndは希土類のドーピング密度、llasは共振器長さである。
【0030】
ここで、実効的に共振器内に吸収されたポンプ光の実効ポンピングパワーをPeffとすると、2次高調波パワーP2、基本波パワーP1、実効ポンピングパワーPeff、ポンピングパワーの閾値Pthの関係は、次のようにモデル化することができる。
【数33】
ここで、hはプランク定数、νLはレーザ光の周波数、νPはポンプ光の周波数、ηiは内部量子効率である。
そして、式(44)、式(46)および式(47)を、式(48)に代入すると、次式を得ることができる。
【数34】
【0031】
次に、P0の2次方程式として式(49)を変形すると、次式を得ることができる。
【数35】
式(50)が、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの方程式である。
更に、電子密度の温度依存性、すなわち利得飽和を考慮に入れる為には、式(50)において、次式の置換を行う。
【数36】
式(52)の置換を行うと、次式を得ることができる。
【数37】
式(53)が、利得飽和を考慮したイントラキャビティ型高調波発生固体レーザの方程式である。
【0032】
尚、実効的に吸収されたポンプ光の実効ポンピングパワーPeffは、次式で表すことができる。
【数38】
ここで、ηcはポンプ光のレーザ結晶への結合効率、PPはポンピングパワーである。
【0033】
次に、図2から図4を参照しながら、前述の計算モデルに含まれる非線形結晶の非線形定数(非線形係数ともいう。)について説明する。図2は、TYPE−1を説明する図である。図3は、TYPE−2を説明する図である。図4は、結晶軸に対する角度の定義を示す図である。非線形結晶は、非線形定数や屈折率に異方性がある為、効率良く高調波を発生できる角度が決まっている。そこで、最初にこの角度を決めている位相整合について説明し、次に実効非線形定数について説明する。
【0034】
2次高調波を発生するための基本波の入射方式は、非線形結晶によって2種類存在し、「TYPE−1」、「TYPE−2」と呼ばれる。注意すべきことは、いずれの場合も、高調波発生のためには偏波の向きが安定している必要があるということである。すなわち、対称な形状のVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:面発光レーザ)は、偏波の向きが不安定であるため、波長逓倍するためには何らかの方法で偏波の向きを揃える必要がある。
【0035】
図2に示すように、TYPE−1は、基本波の入射光線の偏波に対して垂直な方向に偏波した高調波が発生する。
【0036】
図3に示すように、TYPE−2は、直交した基本波の入射光線によって高調波が発生する。実際にTYPE−2の非線形結晶を2次高調波に応用する場合、基本波の入射光線に対して45度偏波した方向に2次高調波が発生する。
【0037】
ここで、図4に示すように、結晶軸に対して角度θとφを定義する。また、x軸、y軸、z軸に対して、振動数ωの光による非線形結晶の屈折率をそれぞれnx,ω、ny,ω、nz,ωとする。また、x軸、y軸、z軸に対して、振動数2ωの光による非線形結晶の屈折率をそれぞれnx,2ω、ny,2ω、nz,2ωとする。
【0038】
このとき、任意の角度に伝播する基本波の屈折率nωと2倍波の屈折率n2ωは、次式で表すことができる。
【数39】
式(55)、式(56)をnω、n2ωについて解くと、次式を得る。
【数40】
また、TYPE−1、TYPE−2の位相整合条件は、それぞれ次式となる。
【数41】
式(66)、式(67)に対して、式(60)、式(61)を代入すると、次式を得る。
【数42】
式(68)、式(69)の位相整合条件を満たすことによって、偏波の向きを揃えることができる。
【0039】
次に、実効非線形定数について説明する。従来、非線形結晶の結晶軸に沿った非線形定数については、文献等で開示されている。しかしながら、実際の応用では、非線形結晶の結晶軸に対して位相整合条件を満たす角度に傾けて光線を入射する。そして、傾けた分だけ非線形効果が変化するため、これらを考慮した実効非線形定数を考える必要がある。
【0040】
まず、非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルの算出について説明する。以下、式(57)、式(58)、式(59)を用いて、非線形結晶を伝播する光線の軸を表す単位ベクトルを次のように表記する。
【数43】
そして、光線の伝播方向の屈折率をnとすると、伝播ベクトルは次式で表すことができる。
【数44】
式(71)の伝播ベクトルを使うと、マクスウェル方程式は次式で表すことができる。
【数45】
式(72)を変形すると、次式を得る。
【数46】
これより、基本波および2次高調波の電界ベクトルEのx軸方向成分Ex、y軸方向成分Ey、z軸方向成分Ezは、次式で表すことができる。
【数47】
また、基本波および2次高調波の電界ベクトルEの方向余弦は、次式で表すことができる。
【数48】
以上から、非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルEを求めることができる。
【0041】
次に、前述の非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルEを用いて、実効非線形定数の算出について説明する。以下では、非線形結晶に入射する光線の電界をE1とE2、非線形効果によって生成(吸収)される光線の電界をE3と表記する。また、前述の電界ベクトルEi(i=1、2、3)の方向余弦をai=(cosαi±,cosβi±, cosγi±)(i=1、2、3)と表記する。
【0042】
まず、TYPE−1の場合、2次の分極P2ωを次式で表すことができるとともに、実効非線形定数deffは次式で定義することができる。
【数49】
従って、TYPE−1の場合の実効非線形定数deffは、次式で表すことができる。
【数50】
同様の手順によって、TYPE−2の場合の実効非線形定数deffは、次式で表すことができる。
【数51】
以上、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要について説明した。この計算モデルでは、式(49)に示された入力と出力と閾値との関係式が基本となっている。式(49)では、実効ポンピングパワーPeffを入力、基本波パワーP0および2次高調波パワーP2を出力、高調波へのエネルギー変換率κP0をミラー損失として含む損失の合計を閾値、としている。そして、式(49)を変形し、内部パワーP0の2次方程式である式(50)を解くことで、内部パワーP0の値を算出することができる。また、内部パワーP0の値が算出できれば、式(44)から、2次高調波パワーP2の値も算出することができる。
更に、式(49)において、式(51)に示す変換を行うことで、利得飽和を考慮した内部パワーP0の2次方程式である式(53)を導出できる。これによって、電子密度の温度依存性を考慮した上で、レーザ装置の設計を行うことができる。
また、更に、同様の計算モデルを用いることによって、レーザ結晶長さの値、非線形結晶長さの値などを算出することができる。
【0043】
以下では、前述のイントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルなどの知見を生かしたレーザ設計の支援を行うレーザ設計支援装置について説明する。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態に係るレーザ設計支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図5のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
レーザ設計支援装置1は、制御部3、記憶部5、メディア入出力部7、通信制御部9、入力部11、表示部13、周辺機器I/F部15等が、バス17を介して接続される。
【0045】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0046】
CPUは、記憶部5、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各装置を駆動制御し、レーザ設計支援装置1が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部5、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部3が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0047】
記憶部5は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部3により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0048】
メディア入出力部7(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0049】
通信制御部9は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0050】
入力部11は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部11を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0051】
表示部13は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0052】
周辺機器I/F(インタフェース)部15は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部15を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部15は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0053】
バス17は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0054】
次に、図6を参照しながら、レーザ設計支援装置1の機能を実現する構成について説明する。図6は、レーザ設計支援装置1の機能の概要を示すブロック図である。
【0055】
図6に示すように、レーザ設計支援装置1は、入力手段21、2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27、出力手段29等を有する。
【0056】
入力手段21は、所定のパラメータの値を入力する。ここで、所定のパラメータは、算出手段である2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27ごとに定まる。また、出力手段29は、算出手段によって算出された設計値を出力する。ここで、設計値は、算出手段である2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27ごとに定まる。
【0057】
2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27等の算出手段は、入力手段によって入力されたパラメータの値から、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する。これらの算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、設計値を算出する。また、導出された方程式が、電子密度の温度依存性を考慮したものであっても良い。
【0058】
2次高調波パワー算出手段23は、特に、設計値が2次高調波パワー、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が内部パワーの2次方程式である。また、レーザ結晶長さ算出手段25は、特に、設計値がレーザ結晶長さ、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が共振器長さの1次方程式である。また、非線形結晶長さ算出手段27は、設計値が非線形結晶長さ、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式である。
【0059】
次に、図7、図8を参照しながら、2次高調波パワー算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図7は、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図8は、2次高調波パワー算出処理の流れを示す図である。
【0060】
図7に示すように、2次高調波パワー算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、レーザ結晶長さlLAS、非線形結晶長さlSHG、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図7には図示していないが、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0061】
図8に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S101)、制御部3は、式(50)または式(53)で示される内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうか確認する(S102)。尚、S102における判定を行う際、制御部3は、利得飽和を考慮するか否かのフラグを確認する。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0062】
S102における内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうかの判定について説明する。まず、内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうかの判定には、利得飽和を考慮しない場合は式(50)、利得飽和を考慮する場合は式(53)の判別式Dの値を算出すれば良い。式(50)の解P0*および判別式Dは、次式で表すことができる。
【数52】
また、式(53)の解P0*および判別式Dは、次式で表すことができる。
【数53】
尚、式(86)、式(91)の算出には、前述の計算モデルの説明に含まれる他の式などを用いることになる。
以上から、制御部3は、S102において、判別式Dが0以上であるかどうか確認する。ここで、制御部3は、判別式Dが0以上であるかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0063】
S102の判定にて内部パワーP0の2次方程式が実数解を持たない場合、すなわち判別式Dが負の場合(S102のNo)、制御部3は、2次高調波パワーP2の値を0で表示部13等に出力し(S103)、処理を終了する。一方、S102の判定にて内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つ場合、すなわち判別式Dが0以上である場合(S102のYes)、制御部3は、S104に進む。
【0064】
次に、制御部3は、式(86)または式(91)によって内部パワーP0の値を算出する(S104)。ここで、制御部3は、算出した内部パワーP0の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0065】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S105)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、次式を評価すれば良い。
【数54】
従って、制御部3は、S105において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0066】
S105の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S105のNo)、制御部3は、2次高調波パワーP2の値を0で表示部13等に出力し(S106)、処理を終了する。一方、S105の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S105のYes)、制御部3は、S107に進む。
【0067】
次に、制御部3は、式(44)によって2次高調波P2の値を算出し(S107)、算出した2次高調波P2の値を表示部13等に出力し(S108)、処理を終了する。
【0068】
次に、図9、図10を参照しながら、レーザ結晶長さ算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図9は、レーザ結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図10は、レーザ結晶長さ算出処理の流れを示す図である。尚、レーザ結晶長さは、共振器長さから一意に定まることから、以下では、共振器長さの算出を行い、算出した共振器長さの値からレーザ結晶長さの値を算出するものとする。
【0069】
図9に示すように、レーザ結晶長さ算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、2次高調波パワーP2、非線形結晶長さlSHG、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図9には図示していないが、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0070】
図10に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S201)、制御部3は、式(44)を基にして内部パワーP0を算出する形に変形された新たな式によって、内部パワーP0の値を算出する(S202)。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値、算出した内部パワーP0の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0071】
次に、制御部3は、式(50)または式(53)を基にして共振器長さllasを算出する形に変形された新たな式によって、共振器長さllasの値を算出し、更に算出した共振器長さllasの値からレーザ結晶長さlLASの値を算出する(S203)。ここで、制御部3は、算出したレーザ結晶長さlLASの値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0072】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S204)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、式(96)を評価すれば良い。
従って、制御部3は、S204において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0073】
S204の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S204のNo)、制御部3は、レーザ結晶長さlLASの値を0で表示部13等に出力し(S205)、処理を終了する。一方、S204の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S204のYes)、制御部3は、算出したレーザ結晶長さlLASの値を表示部13等に出力し(S206)、処理を終了する。
【0074】
次に、図11、図12を参照しながら、非線形結晶長さ算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図11は、非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図12は、非線形結晶長さ算出処理の流れを示す図である。
【0075】
図11に示すように、非線形結晶長さ算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、2次高調波パワーP2、レーザ結晶長さlLAS、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図11には図示していないが、非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0076】
図12に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S301)、制御部3は、非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値を算出する(S302)。尚、S302における算出を行う際、制御部3は、利得飽和を考慮するか否かのフラグを確認し、算出に用いる式を決定する。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値、算出した非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0077】
S302における非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の算出について説明する。l=lSHGを代入した式(43)、および式(44)から、内部パワーP0は非線形結晶長さlSHGを用いて次式のように表すことができる。
【数55】
ここで、Mは入力したパラメータの値によって算出可能な定数である。そして、式(97)を内部パワーP0の2次方程式aP02+bP0−c=0(利得飽和を考慮する場合、a、b、cは式(88)から式(90)、利得飽和を考慮しない場合、a、b、cは式(93)から式(95))に代入し、式を変形することによって、非線形結晶長さlSHGの2次方程式である次式を得ることができる。また、合わせて2次方程式の解lSHG*、判別式Dも得ることができる。
【数56】
制御部3は、このようにして得られた式を基にして、非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値を算出する。
【0078】
次に、制御部3は、式(99)で示される非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持つ、すなわち判別式Dが0以上であるかどうか確認する(S303)。
S303の判定にて非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持たない場合、すなわち判別式Dが負の場合(S303のNo)、制御部3は、非線形結晶長さlSHGの値を0で表示部13等に出力し(S304)、処理を終了する。一方、S303の判定にて非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持つ場合、すなわち判別式Dが0以上である場合(S303のYes)、制御部3は、S305に進む。
【0079】
次に、制御部3は、式(101)によって非線形結晶の長さlSHGの値を算出する(S305)。
【0080】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S306)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、式(96)を評価すれば良い。
従って、制御部3は、S306において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0081】
S306の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S306のNo)、制御部3は、非線形結晶の長さlSHGの値を0で表示部13等に出力し(S307)、処理を終了する。一方、S306の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S306のYes)、制御部3は、S308に進む。
【0082】
次に、制御部3は、算出した非線形結晶の長さlSHGの値を表示部13等に出力し(S108)、処理を終了する。
【実施例】
【0083】
次に、図13、図14を参照しながら、本発明の実施の形態に係る実施例について説明する。図13は、非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値を示す図である。図14は、レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示す図である。
【0084】
本実施例のレーザ設計において想定したレーザ装置の構成では、ポンプ光の光源としてNd:YAGレーザ(Nd(ネオジウム)原子をY(イットリウム)・A(アルミニウム)・G(ガーネット)結晶の中にばらまいた構造を持つ)を用いた。また、非線形結晶として、KTP(化学式はKTiOPO4)を用いた。また、レーザ設計支援装置1に入力した主なパラメータの値は、レーザ結晶のスポット半径が120μm、非線形結晶のスポット半径が125μm、レーザ結晶(Nd:YAG結晶)長さが4mm、非線形結晶(KTP)長さが3mmなど、非特許文献3における値と同じとした。また、その他のパラメータの値についても、非特許文献3における値に準じた。更に、レーザ設計支援装置1における算出処理では、利得飽和を考慮した。
【0085】
図13では、非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値が示されている。すなわち、図13に示すグラフは、本実施例のレーザ設計支援装置1における予測対象となるものである。
【0086】
図14では、レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示している。算出値は、レーザ設計支援装置1が具備する2次高調波パワー算出手段23によって算出されたものである。
【0087】
図13と図14を比較すると分かるように、レーザ設計支援装置1による算出値は、予測対象である非特許文献3における実測値とほぼ一致している。これは、2次高調波パワー算出手段23による算出値の精度の高さを示すものである。また、図示はしていないが、その他の算出手段、すなわちレーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27などについても、2次高調波パワー算出手段23と同様の計算モデルに基づいた算出処理を行うことから、同様に算出値の精度は高いものといえる。
【0088】
以上詳細に説明したように、本発明の実施の形態に係るレーザ設計支援装置1の使用をすることによって、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、2次高調波パワー、レーザ結晶長さ、非線形結晶長さ等を精度良く計算できる。これによって、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザを、簡易かつ正確に設計することができる。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るレーザ設計支援装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要を示す図
【図2】TYPE−1を説明する図
【図3】TYPE−2を説明する図
【図4】結晶軸に対する角度の定義を示す図
【図5】レーザ設計支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図6】レーザ設計支援装置1の機能の概要を示すブロック図
【図7】2次高調波パワー算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図8】2次高調波パワー算出処理の流れを示す図
【図9】レーザ結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図10】レーザ結晶長さ算出処理の流れを示す図
【図11】非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図12】非線形結晶長さ算出処理の流れを示す図
【図13】非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値を示す図
【図14】レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示す図
【図15】4準位レーザのエネルギーダイアグラムのモデルの一例を示す図
【図16】熱平衡状態でのエネルギーダイアグラムの一例を示す図
【図17】励起光によって熱非平衡状態になったエネルギーダイアグラムの一例を示す図
【図18】発振している共振器内での光強度の分布を示す図
【符号の説明】
【0091】
1………レーザ設計支援装置
3………制御部
5………記憶部
7………メディア入出力部
9………通信制御部
11………入力部
13………表示部
15………周辺機器I/F部
17………バス
19………ネットワーク
21………入力手段
23………2次高調波パワー算出手段
25………レーザ結晶長さ算出手段
27………非線形結晶長さ算出手段
29………出力手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザとは、光を増幅し、コヒーレントな光を発生させる装置またはその光(レーザ光と呼ぶ。)を意味する。レーザ光は、発振器を用いて人工的に作られる光である。ここで、発振器は、共振器、共振器の中に設置される媒質、および媒質をポンピング(電子をより高いエネルギー準位に持ち上げること。)するための装置から構成される。典型的な共振器は、2枚の鏡が向かい合った構造をなしている。そして、波長が共振器長の整数分の一となるような光は、共振器内を繰り返し往復し、定常波を形成する。また、媒質は、ポンピングによって、吸収よりも誘導放出(励起された電子が他の定常状態に移る際、外部から加えられた光などのエネルギーと同じ位相や周波数のエネルギーを放出する現象をいう。)の方が優勢な状態である、反転分布状態を形成する。そうすると、共振器内の光は、媒質を通過する度に誘導放出により増幅される。ここで、共振器を構成する鏡のうち一枚を所定の透過率を有する出力鏡とすると、一部の光を外部に取り出すことができ、レーザ光が得られることになる。
【0003】
発振器の設計を行う上では、与えるポンピングパワーに対する損失を考慮し、効率的に出力パワーを取り出すことが、一つの重要な目的となる。ここで、ポンピングパワーに対する損失には、共振器内の内部パワーを外部に取り出すための出力鏡の透過率によるミラー損失、および共振内部での吸収、散乱または回折損失などの内部損失がある。そして、前述の目的を達成するためには、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値(当該閾値を超えるとレーザ光が発振される。以下、単に閾値と呼ぶ。)および出力パワー等を計算できる計算モデルが必要となる。非特許文献1および非特許文献2では、共振器内に非線形結晶を配置しない固体レーザに対して、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる計算モデルが記載されている。以下では、従来の閾値および出力パワー等の計算モデルを概説する。
【0004】
図15は、4準位レーザのエネルギーダイアグラムのモデルの一例を示す図である。図15に示す例では、媒質は4準位モデルの量子力学的エネルギー構造を持っており、媒質のポンピングは、光(以下、ポンプ光と呼ぶ。)で励起する方法で行われる。そして、第0準位を基底準位とし、外部からのポンプ光の吸収は、第0準位と第3準位との間で起こるものとする。また、レーザ発振は、第2準位から第1準位への遷移で起こるものとする。
【0005】
ここで、準4準位レーザは、第0準位と第1準位のエネルギー差が小さいだけであるから、熱励起の効果を考慮することで、同様のモデルに当てはめることが可能となる。図15の(1)に示す例では、熱励起を考慮しておらず、第1準位と第3準位の励起イオン密度は0となる。一方、図15の(2)に示す例では、熱励起を考慮しており、第1準位と第3準位に励起されたイオンが存在する。尚、熱励起は、閾値の変動などを引き起こす。
【0006】
最初に、4準位レーザの利得と損失について説明する。外部からのポンプ光の吸収は、第0準位と第3準位との間で起こり、レーザ発振は、第2準位から第1準位への遷移で起こると仮定していることから、媒質に対してポンプ光を入射するときの吸収係数をα、媒質がレーザ光を増幅するときの光学利得をγとすると、αとγは、一般に、次式で表すことができる。
【数1】
ここで、σAは吸収断面積、σEは発光断面積、Nnは第n準位のイオンの占有密度である。
【0007】
図16は、熱平衡状態でのエネルギーダイアグラムの一例を示す図である。図16に示す例では、第n準位に注目し、第n準位の近傍で熱励起を起こし得る準位の全て(当該準位数をm個とする。)を示している。このとき、熱励起はボルツマン分布でモデル化できるので、第n準位の近傍で最も低い準位を第0準位、希土類のドーピング密度をNdとすると、Nnは次式で表すことができる。
【数2】
ここで、fnはfractional population、diは縮退数、ΔEiは第0準位と第i準位とのエネルギー差、kはボルツマン定数、Tは熱平衡状態の絶対温度である。従って、この場合、式(1)、式(2)で示した光の吸収係数αと光学利得γは、次式で表すことができる。
【数3】
次に、熱非平衡状態における吸収係数αと光学利得γを考えることとする。
【0008】
図17は、励起光によって熱非平衡状態になったエネルギーダイアグラムの一例を示す図である。励起光によって励起されたイオンの総数をNU、励起されないイオンの総数をNLとすると、希土類のドーピング密度Ndとの間に次の関係式が成り立つ。
【数4】
また、第n準位のイオンの占有密度Nn(n=0、1、2、3)は、次式で表すことができる。
【数5】
この場合、式(1)、式(2)で示した光の吸収係数αと光学利得γは、次式で表すことができる。
【数6】
以上で、4準位レーザの利得と損失についての説明を終える。
【0009】
次に、レート方程式について説明する。レート方程式とは、媒質を共振器内に配置した場合の反転分布密度および光子密度の時間変化を表すものである。図17に示した例において、反転分布密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数7】
右辺の第3項が、誘導放射項である。ここで、Ni(i=1、2)は第i準位のイオンの占有密度、fi(i=1、2)は第i準位のfractional population、τspは第2準位から第1準位への遷移の緩和時間、Sは光子密度、hはプランク定数、vgは光の群速度、Rはポンピングされるイオン密度である。
そして、ポンピングパワーをPPとし、ポンピングパワーPPに対して効率ηで吸収されるものとすると、ポンピングされるイオン密度Rは、次式で定義できる。
【数8】
ここで、νPはポンプ光の周波数である。
【0010】
また、図17に示した例において、光子密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数9】
右辺の第1項は共振器から失われる光子密度、右辺の第2項は誘導放射により生成される光子密度、右辺の第3項は自然放出光を示している。ここで、τphは光子寿命であり、次式で表すことができる。
【数10】
ここで、nは屈折率、Lcは共振器長、cは光の速度、Lmはミラー損失、Liは内部損失である。右辺は、共振器を1往復するためにかかる時間と、共振器を1往復する間に失われる光の割合との積である。また、ミラー損失Lmと内部損失Liの和は、次式で表すことができる。
【数11】
ここで、Rfは取り出し側のミラー反射率、Rbは高反射側のミラー反射率、αiは吸収効率である。
【0011】
また、定常状態における光子密度の時間変化を表すレート方程式は、自然放出光を無視することによって、次式で表すことができる。
【数12】
そして、式(19)においてS≠0とすると、次式を導くことができる。
【数13】
式(20)は、レーザの発振条件となる。
以上で、レート方程式についての説明を終える。
【0012】
次に、閾値の算出について説明する。ポンピングパワーが閾値の場合、式(14)の誘導放射項(=右辺の第3項)が0であることから、定常状態における反転分布密度の時間変化を表すレート方程式は、次式で表すことができる。
【数14】
ここで、Rthは閾値におけるポンピング密度、N2、tは閾値における第2準位の反転分布密度である。そして、式(21)より、N2、tは、次式で表すことができる。
【数15】
また、閾値における第1準位の電子密度をN1、tとすると、式(20)から、N2、tとN1、tとの差は、次式で表すことができる。
【数16】
更に、式(17)、式(22)、式(23)から、閾値におけるポンピング密度Rthは、次式で表すことができる。
【数17】
更に、閾値におけるポンピング密度Rthを共振器の体積で積分することで、次式のように、閾値Pthを算出することができる。
【数18】
ここで、Vlasは共振器の体積である。
以上で、閾値の算出についての説明を終える。
【0013】
最後に、閾値以上のポンピングパワーを与えた場合の出力パワーについて説明する。図18は、発振している共振器内での光強度の分布を示す図である。理想的なレーザが発振すると、利得は閾値における利得のままで固定される。このため、高反射側のミラーで反射された光強度を1とすると、取り出し側のミラーを通り抜ける光の光強度IFは、次式で表すことができる。
【数19】
また、取り出し側のミラーで折り返された光が高反射側のミラーを通り抜ける光の光強度IBは、次式で表すことができる。
【数20】
そして、出力パワーPoutは、次式で表すことができる。
【数21】
ここで、νLはレーザ光の周波数、ηdは取り出し効率、ηiは内部量子効率、Peffは媒質に実効的に吸収されるポンピングパワー、ηspaceは空間に関する吸収効率、ηλは波長に関する吸収効率、Pinは媒質に入力されるポンピングパワーである。
尚、取り出し効率ηdは、IF、IB、Lm、Liを用いて、次式で表すことができる。
【数22】
以上で、閾値以上のポンピングパワーを与えた場合の出力パワーについての説明を終える。
【0014】
以上説明したように、共振器内に非線形結晶を配置しない固体レーザに対しては、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる。そして、このような計算モデルを用いる手段を具備するコンピュータは、各種のシミュレーションを行い、一部の固体レーザの設計を支援することができる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】「Modeling and CW Operation of a Quasi−THree−Level 946 nm Nd:YAGLaser」、TSO YEE FAN and ROBERT L. BYER、IEEE JOURNAL OFQUANTUM ELECTRONICS/VOL.QE−23,NO.5,p605−p612、1987年5月.
【非特許文献2】「Modeling of longitudinally pumped solid−state lasers exhibiting reabsorption losses」、W.P.Risk、Journal of the Optical Society of America B/Vol.5,No.7,p1412−p1423、1988年7月.
【非特許文献3】「Intracavity Doubling of CW Diode−Pumped Nd:YAG Lasers with KTP」、D.W.Anthon,D.L.Sipes,T.J.Pier, and M.R.Ressl、IEEE JOURNAL OFQUANTUM ELECTRONICS/VOL.28,NO.4,p1148−p1157、1992年4月.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、例えば、非特許文献3に記載されている共振器(キャビティ)内に非線形結晶を配置して高調波を発生させる固体レーザ(以下、「イントラキャビティ型高調波発生固体レーザ」という。)に対しては、前述の計算モデルを適用することはできない。尚、高調波とは、ある周波数成分を持つ波動に対して、その整数倍の高次の周波数成分のことをいう。また、元々の周波数を基本波、2倍の周波数を持つものを2次高調波、3倍の周波数を持つものを3次高調波という。
【0016】
ここで、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計について概説する。分極が電界強度に対し非線形で変位するような結晶に対して、特定の条件で光線を通すことで、波長変換が可能であることが知られている。入射光の強度が強い程、波長変換の変換効率が高くなるため、エネルギー密度の高い共振器内に非線形結晶を配置すると効率良く高調波を取り出すことができる。
【0017】
一方、共振器内に波長変換素子である非線形結晶を設置することは、レーザにとって損失を増やすことである。従って、高調波を多く取り出しすぎると、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値が高くなり、かえって高調波の出力が減少してしまう。このように、高調波をどの程度取り出すかについては、最適な設計値が存在する。また、基本波を高調波にどのくらい変換するかは、非線形結晶の長さによることから、効率良く高調波を取り出すためには非線形結晶の長さを適当に選ぶ必要がある。従って、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルが必要である。
【0018】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルを利用したレーザ設計支援装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述した目的を達成するために第1の発明は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置であって、所定のパラメータの値を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力されたパラメータの値から、前記イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記設計値を出力する出力手段と、を具備し、前記算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、前記設計値を算出することを特徴とするレーザ設計支援装置である。
また、前記算出手段は、前記導出された方程式が電子密度の温度依存性を考慮したものであっても良い。
【0020】
前記算出手段は、例えば、前記設計値が2次高調波パワー、かつ前記導出された方程式が内部パワーの2次方程式としたものである。
また、前記算出手段は、例えば、前記設計値がレーザ結晶長さ、かつ前記導出された方程式が共振器長さの1次方程式としたものである。
また、前記算出手段は、例えば、前記設計値が非線形結晶長さ、かつ前記導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式としたものである。
【0021】
第2の発明は、コンピュータを第1の発明のレーザ設計支援装置として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、非線形結晶の長さ、出力パワー等を計算できる計算モデルを利用したレーザ設計支援装置等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
最初に、図1を参照しながら、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、所定の条件において、レーザ発振に必要なポンピングパワーの閾値および出力パワー等を計算できる計算モデルについて説明する。
【0025】
図1は、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要を示す図である。図1に示すように、κは変換効率(定義については後述する。)、T1は透過率(定義については後述する。)、P0は共振器内の内部パワー、P1は共振器外部に漏れる基本波パワー、P2は外部に取り出される2次高調波パワーを表すこととする。
【0026】
まず、2次高調波パワーP2を算出するために、非線形結晶中での光の波長変換について考える。ここでは、非線形結晶中をω1、ω2の振動数の光が通過し、ω3の振動数の光が発生するとする。このとき、エネルギーの交換が起こるためには、次の2式が成り立つことが必要である。
【数23】
ここで、kn(n=1、2、3)はそれぞれ振動数ωn(n=1、2、3)の波数であり、式(31)はエネルギー保存の法則、式(32)は運動量保存の法則による。そして、光の進行方向をz軸方向としたときの振動数ω1、ω2、ω3の光の相互作用は、次式で表すことができる。
【数24】
ここで、En(n=1、2、3)は光の電界強度、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、σn(n=1、2、3)は導電率、εn(n=1、2、3)は誘電率、d0は非線形光学定数である。尚、式は相反的であるため、振動数ω3の光が、振動数ω1、ω2の光に変換される場合にも成り立つ。
【0027】
次に、2次高調波の発生に着目し、振動数ωの光が振動数2ωに変換されるとする。この場合、前述の仮定において、ω1=ω、ω2=ω、ω3=2ωと読み替えれば良い。そして、損失は少ないものとして近似すると、次式を得ることができる。
【数25】
そして、結晶の端面では2次高調波の強度は0、基本波の減衰が無視できるものとして長さlの結晶について式(36)を解くと、次式を得ることができる。
【数26】
更に、2次高調波の出力光強度は次式で表すことができる。
【数27】
ここで、n0は屈折率である。また、一般に、ビーム断面積をAとしたときの出力パワーPと電界強度Eの関係式は、次式で表すことができる。
【数28】
従って、内部パワーPω(=P0)から2次高調波パワーP2ω(=P2)への変換効率は、次式で表すことができる。
【数29】
式(42)から、内部パワーP0から2次高調波パワーP2への変換効率は、内部パワーの強度Pω/Aに比例することが分かる。
【0028】
次に、内部パワーP0を用いて、2次高調波パワーP2と基本波パワーP1を表すことを考える。式(42)から、変換効率κを次のように定義するとともに、2次高調波パワーP2を次のように表す。
【数30】
ここで、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、ωは基本波の振動数、d0は非線形光学定数、lSHGは非線形結晶長さ、n0は屈折率、ASHGは非線形結晶でのビーム断面積である。
また、透過率T1を次のように定義するとともに、基本波パワーP1を次のように表す。
【数31】
式(45)から、透過率T1は基本波についての透過率の合計である。
【0029】
次に、ポンピングパワーの閾値Pthについて考える。式(44)を考察すると、2次高調波は透過率κP0にて共振器から取り出されると考えられる。従って、式(25)に対して、2次高調波への変換によるミラー損失の項を加えると、ポンピングパワーの閾値Pthは、次式で表すことができる。
【数32】
右辺の(κP0+T1)の項が、ミラー損失を示す。ここで、hはプランク定数、νPはポンプ光の周波数、Vは共振器体積、fi(i=1、2)は第i準位のfractional population、σEは誘導放射断面積、τSは蛍光寿命、Liは内部損失、Ndは希土類のドーピング密度、llasは共振器長さである。
【0030】
ここで、実効的に共振器内に吸収されたポンプ光の実効ポンピングパワーをPeffとすると、2次高調波パワーP2、基本波パワーP1、実効ポンピングパワーPeff、ポンピングパワーの閾値Pthの関係は、次のようにモデル化することができる。
【数33】
ここで、hはプランク定数、νLはレーザ光の周波数、νPはポンプ光の周波数、ηiは内部量子効率である。
そして、式(44)、式(46)および式(47)を、式(48)に代入すると、次式を得ることができる。
【数34】
【0031】
次に、P0の2次方程式として式(49)を変形すると、次式を得ることができる。
【数35】
式(50)が、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの方程式である。
更に、電子密度の温度依存性、すなわち利得飽和を考慮に入れる為には、式(50)において、次式の置換を行う。
【数36】
式(52)の置換を行うと、次式を得ることができる。
【数37】
式(53)が、利得飽和を考慮したイントラキャビティ型高調波発生固体レーザの方程式である。
【0032】
尚、実効的に吸収されたポンプ光の実効ポンピングパワーPeffは、次式で表すことができる。
【数38】
ここで、ηcはポンプ光のレーザ結晶への結合効率、PPはポンピングパワーである。
【0033】
次に、図2から図4を参照しながら、前述の計算モデルに含まれる非線形結晶の非線形定数(非線形係数ともいう。)について説明する。図2は、TYPE−1を説明する図である。図3は、TYPE−2を説明する図である。図4は、結晶軸に対する角度の定義を示す図である。非線形結晶は、非線形定数や屈折率に異方性がある為、効率良く高調波を発生できる角度が決まっている。そこで、最初にこの角度を決めている位相整合について説明し、次に実効非線形定数について説明する。
【0034】
2次高調波を発生するための基本波の入射方式は、非線形結晶によって2種類存在し、「TYPE−1」、「TYPE−2」と呼ばれる。注意すべきことは、いずれの場合も、高調波発生のためには偏波の向きが安定している必要があるということである。すなわち、対称な形状のVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:面発光レーザ)は、偏波の向きが不安定であるため、波長逓倍するためには何らかの方法で偏波の向きを揃える必要がある。
【0035】
図2に示すように、TYPE−1は、基本波の入射光線の偏波に対して垂直な方向に偏波した高調波が発生する。
【0036】
図3に示すように、TYPE−2は、直交した基本波の入射光線によって高調波が発生する。実際にTYPE−2の非線形結晶を2次高調波に応用する場合、基本波の入射光線に対して45度偏波した方向に2次高調波が発生する。
【0037】
ここで、図4に示すように、結晶軸に対して角度θとφを定義する。また、x軸、y軸、z軸に対して、振動数ωの光による非線形結晶の屈折率をそれぞれnx,ω、ny,ω、nz,ωとする。また、x軸、y軸、z軸に対して、振動数2ωの光による非線形結晶の屈折率をそれぞれnx,2ω、ny,2ω、nz,2ωとする。
【0038】
このとき、任意の角度に伝播する基本波の屈折率nωと2倍波の屈折率n2ωは、次式で表すことができる。
【数39】
式(55)、式(56)をnω、n2ωについて解くと、次式を得る。
【数40】
また、TYPE−1、TYPE−2の位相整合条件は、それぞれ次式となる。
【数41】
式(66)、式(67)に対して、式(60)、式(61)を代入すると、次式を得る。
【数42】
式(68)、式(69)の位相整合条件を満たすことによって、偏波の向きを揃えることができる。
【0039】
次に、実効非線形定数について説明する。従来、非線形結晶の結晶軸に沿った非線形定数については、文献等で開示されている。しかしながら、実際の応用では、非線形結晶の結晶軸に対して位相整合条件を満たす角度に傾けて光線を入射する。そして、傾けた分だけ非線形効果が変化するため、これらを考慮した実効非線形定数を考える必要がある。
【0040】
まず、非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルの算出について説明する。以下、式(57)、式(58)、式(59)を用いて、非線形結晶を伝播する光線の軸を表す単位ベクトルを次のように表記する。
【数43】
そして、光線の伝播方向の屈折率をnとすると、伝播ベクトルは次式で表すことができる。
【数44】
式(71)の伝播ベクトルを使うと、マクスウェル方程式は次式で表すことができる。
【数45】
式(72)を変形すると、次式を得る。
【数46】
これより、基本波および2次高調波の電界ベクトルEのx軸方向成分Ex、y軸方向成分Ey、z軸方向成分Ezは、次式で表すことができる。
【数47】
また、基本波および2次高調波の電界ベクトルEの方向余弦は、次式で表すことができる。
【数48】
以上から、非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルEを求めることができる。
【0041】
次に、前述の非線形結晶を伝播する光線の電界ベクトルEを用いて、実効非線形定数の算出について説明する。以下では、非線形結晶に入射する光線の電界をE1とE2、非線形効果によって生成(吸収)される光線の電界をE3と表記する。また、前述の電界ベクトルEi(i=1、2、3)の方向余弦をai=(cosαi±,cosβi±, cosγi±)(i=1、2、3)と表記する。
【0042】
まず、TYPE−1の場合、2次の分極P2ωを次式で表すことができるとともに、実効非線形定数deffは次式で定義することができる。
【数49】
従って、TYPE−1の場合の実効非線形定数deffは、次式で表すことができる。
【数50】
同様の手順によって、TYPE−2の場合の実効非線形定数deffは、次式で表すことができる。
【数51】
以上、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要について説明した。この計算モデルでは、式(49)に示された入力と出力と閾値との関係式が基本となっている。式(49)では、実効ポンピングパワーPeffを入力、基本波パワーP0および2次高調波パワーP2を出力、高調波へのエネルギー変換率κP0をミラー損失として含む損失の合計を閾値、としている。そして、式(49)を変形し、内部パワーP0の2次方程式である式(50)を解くことで、内部パワーP0の値を算出することができる。また、内部パワーP0の値が算出できれば、式(44)から、2次高調波パワーP2の値も算出することができる。
更に、式(49)において、式(51)に示す変換を行うことで、利得飽和を考慮した内部パワーP0の2次方程式である式(53)を導出できる。これによって、電子密度の温度依存性を考慮した上で、レーザ装置の設計を行うことができる。
また、更に、同様の計算モデルを用いることによって、レーザ結晶長さの値、非線形結晶長さの値などを算出することができる。
【0043】
以下では、前述のイントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルなどの知見を生かしたレーザ設計の支援を行うレーザ設計支援装置について説明する。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態に係るレーザ設計支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図5のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
レーザ設計支援装置1は、制御部3、記憶部5、メディア入出力部7、通信制御部9、入力部11、表示部13、周辺機器I/F部15等が、バス17を介して接続される。
【0045】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0046】
CPUは、記憶部5、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス17を介して接続された各装置を駆動制御し、レーザ設計支援装置1が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部5、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部3が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0047】
記憶部5は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部3が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部3により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0048】
メディア入出力部7(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0049】
通信制御部9は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0050】
入力部11は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部11を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0051】
表示部13は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0052】
周辺機器I/F(インタフェース)部15は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部15を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部15は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0053】
バス17は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0054】
次に、図6を参照しながら、レーザ設計支援装置1の機能を実現する構成について説明する。図6は、レーザ設計支援装置1の機能の概要を示すブロック図である。
【0055】
図6に示すように、レーザ設計支援装置1は、入力手段21、2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27、出力手段29等を有する。
【0056】
入力手段21は、所定のパラメータの値を入力する。ここで、所定のパラメータは、算出手段である2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27ごとに定まる。また、出力手段29は、算出手段によって算出された設計値を出力する。ここで、設計値は、算出手段である2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27ごとに定まる。
【0057】
2次高調波パワー算出手段23、レーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27等の算出手段は、入力手段によって入力されたパラメータの値から、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する。これらの算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、設計値を算出する。また、導出された方程式が、電子密度の温度依存性を考慮したものであっても良い。
【0058】
2次高調波パワー算出手段23は、特に、設計値が2次高調波パワー、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が内部パワーの2次方程式である。また、レーザ結晶長さ算出手段25は、特に、設計値がレーザ結晶長さ、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が共振器長さの1次方程式である。また、非線形結晶長さ算出手段27は、設計値が非線形結晶長さ、かつ入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式である。
【0059】
次に、図7、図8を参照しながら、2次高調波パワー算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図7は、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図8は、2次高調波パワー算出処理の流れを示す図である。
【0060】
図7に示すように、2次高調波パワー算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、レーザ結晶長さlLAS、非線形結晶長さlSHG、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図7には図示していないが、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0061】
図8に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S101)、制御部3は、式(50)または式(53)で示される内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうか確認する(S102)。尚、S102における判定を行う際、制御部3は、利得飽和を考慮するか否かのフラグを確認する。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0062】
S102における内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうかの判定について説明する。まず、内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つかどうかの判定には、利得飽和を考慮しない場合は式(50)、利得飽和を考慮する場合は式(53)の判別式Dの値を算出すれば良い。式(50)の解P0*および判別式Dは、次式で表すことができる。
【数52】
また、式(53)の解P0*および判別式Dは、次式で表すことができる。
【数53】
尚、式(86)、式(91)の算出には、前述の計算モデルの説明に含まれる他の式などを用いることになる。
以上から、制御部3は、S102において、判別式Dが0以上であるかどうか確認する。ここで、制御部3は、判別式Dが0以上であるかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0063】
S102の判定にて内部パワーP0の2次方程式が実数解を持たない場合、すなわち判別式Dが負の場合(S102のNo)、制御部3は、2次高調波パワーP2の値を0で表示部13等に出力し(S103)、処理を終了する。一方、S102の判定にて内部パワーP0の2次方程式が実数解を持つ場合、すなわち判別式Dが0以上である場合(S102のYes)、制御部3は、S104に進む。
【0064】
次に、制御部3は、式(86)または式(91)によって内部パワーP0の値を算出する(S104)。ここで、制御部3は、算出した内部パワーP0の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0065】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S105)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、次式を評価すれば良い。
【数54】
従って、制御部3は、S105において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0066】
S105の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S105のNo)、制御部3は、2次高調波パワーP2の値を0で表示部13等に出力し(S106)、処理を終了する。一方、S105の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S105のYes)、制御部3は、S107に進む。
【0067】
次に、制御部3は、式(44)によって2次高調波P2の値を算出し(S107)、算出した2次高調波P2の値を表示部13等に出力し(S108)、処理を終了する。
【0068】
次に、図9、図10を参照しながら、レーザ結晶長さ算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図9は、レーザ結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図10は、レーザ結晶長さ算出処理の流れを示す図である。尚、レーザ結晶長さは、共振器長さから一意に定まることから、以下では、共振器長さの算出を行い、算出した共振器長さの値からレーザ結晶長さの値を算出するものとする。
【0069】
図9に示すように、レーザ結晶長さ算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、2次高調波パワーP2、非線形結晶長さlSHG、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図9には図示していないが、2次高調波パワー算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0070】
図10に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S201)、制御部3は、式(44)を基にして内部パワーP0を算出する形に変形された新たな式によって、内部パワーP0の値を算出する(S202)。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値、算出した内部パワーP0の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0071】
次に、制御部3は、式(50)または式(53)を基にして共振器長さllasを算出する形に変形された新たな式によって、共振器長さllasの値を算出し、更に算出した共振器長さllasの値からレーザ結晶長さlLASの値を算出する(S203)。ここで、制御部3は、算出したレーザ結晶長さlLASの値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0072】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S204)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、式(96)を評価すれば良い。
従って、制御部3は、S204において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0073】
S204の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S204のNo)、制御部3は、レーザ結晶長さlLASの値を0で表示部13等に出力し(S205)、処理を終了する。一方、S204の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S204のYes)、制御部3は、算出したレーザ結晶長さlLASの値を表示部13等に出力し(S206)、処理を終了する。
【0074】
次に、図11、図12を参照しながら、非線形結晶長さ算出処理におけるレーザ設計支援装置1の動作の詳細について説明する。図11は、非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図である。図12は、非線形結晶長さ算出処理の流れを示す図である。
【0075】
図11に示すように、非線形結晶長さ算出処理における主なパラメータは、取り出し側のミラー反射率Rf、高反射側のミラー反射率Rb、希土類のドーピング密度Nd、2次高調波パワーP2、レーザ結晶長さlLAS、非線形結晶損失Li、ポンプ光のレーザ結晶への結合効率ηC、レーザ結晶でのポンプ光半径rPUMP、レーザ結晶の内部量子効率ηi、レーザ結晶温度T、誘導放射断面積σE、吸収断面積σA、レーザ結晶屈折率nr、蛍光寿命τS、基本波波長λ0、ポンプ光波長λP、基本波線幅Δλ0、ポンプ光線幅ΔλP、x軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrx1(図4の説明におけるnx,ω)、y軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nry1(図4の説明におけるny,ω)、z軸に対する基本波による非線形結晶の屈折率nrz1(図4の説明におけるnz,ω)、x軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrx2(図4の説明におけるnx,2ω)、y軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nry2(図4の説明におけるny,2ω)、z軸に対する高調波による非線形結晶の屈折率nrz2(図4の説明におけるnz,2ω)、非線形定数行列の第1行第5列成分d15、非線形定数行列の第2行第4列成分d24、非線形定数行列の第3行第1列成分d31、非線形定数行列の第3行第2列成分d32、非線形定数行列の第3行第3列成分d33、位相整合角θ、φ(図4におけるθ、φ)、基本波の入射方式TYPEなどである。
また、図11には図示していないが、非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータは、利得飽和を考慮するか否かのフラグ(例えば、考慮しない場合は「0」、考慮する場合は「1」)も含まれる。
【0076】
図12に示すように、入力部11等がパラメータの値を入力すると(S301)、制御部3は、非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値を算出する(S302)。尚、S302における算出を行う際、制御部3は、利得飽和を考慮するか否かのフラグを確認し、算出に用いる式を決定する。ここで、制御部3は、入力したパラメータの値、算出した非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0077】
S302における非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の算出について説明する。l=lSHGを代入した式(43)、および式(44)から、内部パワーP0は非線形結晶長さlSHGを用いて次式のように表すことができる。
【数55】
ここで、Mは入力したパラメータの値によって算出可能な定数である。そして、式(97)を内部パワーP0の2次方程式aP02+bP0−c=0(利得飽和を考慮する場合、a、b、cは式(88)から式(90)、利得飽和を考慮しない場合、a、b、cは式(93)から式(95))に代入し、式を変形することによって、非線形結晶長さlSHGの2次方程式である次式を得ることができる。また、合わせて2次方程式の解lSHG*、判別式Dも得ることができる。
【数56】
制御部3は、このようにして得られた式を基にして、非線形結晶長さlSHGの2次方程式の係数の値を算出する。
【0078】
次に、制御部3は、式(99)で示される非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持つ、すなわち判別式Dが0以上であるかどうか確認する(S303)。
S303の判定にて非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持たない場合、すなわち判別式Dが負の場合(S303のNo)、制御部3は、非線形結晶長さlSHGの値を0で表示部13等に出力し(S304)、処理を終了する。一方、S303の判定にて非線形結晶長さlSHGの2次方程式が実数解を持つ場合、すなわち判別式Dが0以上である場合(S303のYes)、制御部3は、S305に進む。
【0079】
次に、制御部3は、式(101)によって非線形結晶の長さlSHGの値を算出する(S305)。
【0080】
次に、制御部3は、誘導放射が起こる、すなわち実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうか確認する(S306)。実効ポンピングパワーPeffが閾値Pthを超えているかどうかの判定は、式(96)を評価すれば良い。
従って、制御部3は、S306において、式(96)を満たすかどうか確認する。ここで、制御部3は、式(96)を満たすかどうかのフラグ(例えば、満たさない場合は「0」、満たす場合は「1」)の値をRAM上のワークメモリ領域などに格納しておき、後述の処理に用いる。
【0081】
S306の判定にて誘導放射が起こらない場合、すなわち式(96)を満たさない場合(S306のNo)、制御部3は、非線形結晶の長さlSHGの値を0で表示部13等に出力し(S307)、処理を終了する。一方、S306の判定にて誘導放射が起こる場合、すなわち式(96)を満たす場合(S306のYes)、制御部3は、S308に進む。
【0082】
次に、制御部3は、算出した非線形結晶の長さlSHGの値を表示部13等に出力し(S108)、処理を終了する。
【実施例】
【0083】
次に、図13、図14を参照しながら、本発明の実施の形態に係る実施例について説明する。図13は、非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値を示す図である。図14は、レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示す図である。
【0084】
本実施例のレーザ設計において想定したレーザ装置の構成では、ポンプ光の光源としてNd:YAGレーザ(Nd(ネオジウム)原子をY(イットリウム)・A(アルミニウム)・G(ガーネット)結晶の中にばらまいた構造を持つ)を用いた。また、非線形結晶として、KTP(化学式はKTiOPO4)を用いた。また、レーザ設計支援装置1に入力した主なパラメータの値は、レーザ結晶のスポット半径が120μm、非線形結晶のスポット半径が125μm、レーザ結晶(Nd:YAG結晶)長さが4mm、非線形結晶(KTP)長さが3mmなど、非特許文献3における値と同じとした。また、その他のパラメータの値についても、非特許文献3における値に準じた。更に、レーザ設計支援装置1における算出処理では、利得飽和を考慮した。
【0085】
図13では、非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値が示されている。すなわち、図13に示すグラフは、本実施例のレーザ設計支援装置1における予測対象となるものである。
【0086】
図14では、レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示している。算出値は、レーザ設計支援装置1が具備する2次高調波パワー算出手段23によって算出されたものである。
【0087】
図13と図14を比較すると分かるように、レーザ設計支援装置1による算出値は、予測対象である非特許文献3における実測値とほぼ一致している。これは、2次高調波パワー算出手段23による算出値の精度の高さを示すものである。また、図示はしていないが、その他の算出手段、すなわちレーザ結晶長さ算出手段25、非線形結晶長さ算出手段27などについても、2次高調波パワー算出手段23と同様の計算モデルに基づいた算出処理を行うことから、同様に算出値の精度は高いものといえる。
【0088】
以上詳細に説明したように、本発明の実施の形態に係るレーザ設計支援装置1の使用をすることによって、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに対して、2次高調波パワー、レーザ結晶長さ、非線形結晶長さ等を精度良く計算できる。これによって、イントラキャビティ型高調波発生固体レーザを、簡易かつ正確に設計することができる。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るレーザ設計支援装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの計算モデルの概要を示す図
【図2】TYPE−1を説明する図
【図3】TYPE−2を説明する図
【図4】結晶軸に対する角度の定義を示す図
【図5】レーザ設計支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図6】レーザ設計支援装置1の機能の概要を示すブロック図
【図7】2次高調波パワー算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図8】2次高調波パワー算出処理の流れを示す図
【図9】レーザ結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図10】レーザ結晶長さ算出処理の流れを示す図
【図11】非線形結晶長さ算出処理におけるパラメータの一例を示す図
【図12】非線形結晶長さ算出処理の流れを示す図
【図13】非特許文献3におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の実測値を示す図
【図14】レーザ設計支援装置1におけるポンピングパワーに対する2次高調波パワーの変化の算出値を示す図
【図15】4準位レーザのエネルギーダイアグラムのモデルの一例を示す図
【図16】熱平衡状態でのエネルギーダイアグラムの一例を示す図
【図17】励起光によって熱非平衡状態になったエネルギーダイアグラムの一例を示す図
【図18】発振している共振器内での光強度の分布を示す図
【符号の説明】
【0091】
1………レーザ設計支援装置
3………制御部
5………記憶部
7………メディア入出力部
9………通信制御部
11………入力部
13………表示部
15………周辺機器I/F部
17………バス
19………ネットワーク
21………入力手段
23………2次高調波パワー算出手段
25………レーザ結晶長さ算出手段
27………非線形結晶長さ算出手段
29………出力手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置であって、
所定のパラメータの値を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力されたパラメータの値から、前記イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記設計値を出力する出力手段と、
を具備し、
前記算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、前記設計値を算出することを特徴とするレーザ設計支援装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記導出された方程式が電子密度の温度依存性を考慮したものであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記設計値が2次高調波パワー、かつ前記導出された方程式が内部パワーの2次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記設計値がレーザ結晶長さ、かつ前記導出された方程式が共振器長さの1次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記設計値が非線形結晶長さ、かつ前記導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項6】
コンピュータを請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ設計支援装置として機能させるプログラム。
【請求項1】
イントラキャビティ型高調波発生固体レーザの設計支援を行うレーザ設計支援装置であって、
所定のパラメータの値を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力されたパラメータの値から、前記イントラキャビティ型高調波発生固体レーザに関する設計値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記設計値を出力する出力手段と、
を具備し、
前記算出手段は、実効ポンピングパワーを入力、基本波パワーおよび高調波パワーを出力、高調波へのエネルギー変換率をミラー損失の一部として含む損失の合計を閾値、とした入力と出力と閾値との関係式から導出された方程式に従って、前記設計値を算出することを特徴とするレーザ設計支援装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記導出された方程式が電子密度の温度依存性を考慮したものであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記設計値が2次高調波パワー、かつ前記導出された方程式が内部パワーの2次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記設計値がレーザ結晶長さ、かつ前記導出された方程式が共振器長さの1次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記設計値が非線形結晶長さ、かつ前記導出された方程式が非線形結晶長さの2次方程式であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ設計支援装置。
【請求項6】
コンピュータを請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ設計支援装置として機能させるプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−105255(P2009−105255A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276174(P2007−276174)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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