説明

ロボット

【課題】ピック&プレースの作業が可能なものにあって、比較的簡単な構成でありながらも、部品供給部と部品組付部との間の途中部位の障害物を容易に乗越える。
【解決手段】X軸方向に水平に延びるX軸レール6の前面側に、移動体7を直線移動可能に設ける。移動体7の前面部に、回動アーム8の基端側を、R1軸を中心に回動可能に連結する。回動アーム8の先端側に、下端に作業用ツール10を有する手首部9を、R2軸を中心に回動可能に連結する。回動アーム8内に、移動体7に対して回動アーム8を回動させるための、回動用モータ16、減速機17等からなる駆動機構13を設ける。回動アーム8内に、手首部9の絶対的な向きを一定に保持するための、第1のプーリ15、第2のプーリ21、ベルト22等からなる姿勢保持機構14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X軸方向に水平に延びるX軸レールに沿って移動される移動体を備え、いわゆるピック(PICK)&プレース(PLACE)の作業等を行うロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
工場設備(ライン)において組立等の作業を行うロボットとして、チャック等の作業用ツールが交換可能に取付けられる手首部を、X軸、Y軸、Z軸(上下軸)の3軸方向に自在に移動させることが可能な直角座標ロボット(XYロボット)が知られている。この直角座標ロボットは、工場の床上に設置されるX軸直線方向搬送装置、このX軸直線方向搬送装置によってX軸方向に移動されるY軸直線方向搬送装置、このY軸直線方向搬送装置によってY軸方向に移動されるZ軸直線方向搬送装置、このZ軸直線方向搬送装置によって上下方向(Z軸方向)に移動される手首部を備えて構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この種のロボットが行う作業として、ピック(PICK)&プレース(PLACE)と称される作業がある。このロボットによるピック&プレースの作業は、例えば、部品供給部から1個の部品を掴んで(PICK)、その部品をX軸及びY軸方向に搬送し、ベルトコンベア上のワーク等の所定の部品組付部に置く(PLACE)作業を繰返すものである。この場合、ロボットの動作空間としては、部品を掴む及び置くためにZ軸(上下)方向に広がり、且つ、部品を搬送する方向であるX軸及びY軸方向に広がるものとなる。
【特許文献1】特開平8−141949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなピック(PICK)&プレース(PLACE)を行う作業設備においては、部品供給部と部品組付部との間で部品を例えばX軸方向に搬送する際の途中部位に、搬送の邪魔となるようなある程度の高さの障害物が存在しているケースがある。上記したような直角座標ロボットでは、Z軸直線方向搬送装置の高さ方向の寸法が、そのまま手首部の上下方向の可動範囲に対応したものとなっている。そのため、上下方向に関してZ軸直線方向搬送装置の一部に重なる高さの障害物が存在する場合に、部品(ロボットの手首部)をその障害物を乗り越えさせる(上方を通過させる)ことができず、干渉してしまう虞が生ずる。
【0005】
このとき、上記したようなY軸方向にも移動可能なロボットであれば、例えば手首部(Z軸直線方向搬送装置)を、Y軸方向に移動させて障害物を迂回させることは可能となるが、ロボットの構成が複雑となって大型で高価なものとなると共に、障害物の回避動作のためにロボットの作業用空間がY軸方向に大きくなる不都合がある。従って、比較的簡単な構成(少ない軸数)で、上記したピック&プレースの作業を行うことができ、しかも、その際に部品供給部と部品組付部との間の途中部位の障害物を容易に乗越えることが可能なロボットが求められるのである。但し、障害物を回避するために、1回のピック&プレースの作業に要する時間(生産のサイクルタイム)があまり長くなってしまうようでは、意味がないものとなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ピック&プレースの作業が可能なものにあって、比較的簡単な構成でありながらも、部品供給部と部品組付部との間の途中部位の障害物を容易に乗越えることができ、生産サイクルタイムへの影響を少なくすることができるロボットを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1のロボットは、X軸方向に水平に延びるX軸レールと、このX軸レールに沿ってX軸方向に直線移動される移動体と、この移動体に、基端側が前記X軸方向と同一平面上にした場合に直交して水平方向に延びるR1軸を中心に回動可能に連結され、先端側が前記R1軸から放射方向に延びる回動アームと、この回動アームの先端部に、前記R1軸と平行なR2軸を中心に回動可能に連結され、作業用ツールが装着可能な手首部と、前記回動アームを前記移動体に対し前記R1軸を中心に回動させる駆動機構と、前記回動アームの前記移動体に対する回動角度が変動しても前記手首部の前記X軸レールに対する向きを一定に保持する姿勢保持機構とを具備するところに特徴を有する。
【0008】
これによれば、移動体はX軸レールに沿ってX軸方向に自在に移動される。これと共に、回動アームが駆動機構により移動体に対して回動し、R1軸を中心とした回動角度が変化することによって、回動アームの先端つまり手首部の上下(Z軸)方向(及びX軸方向)の位置が変動する。さらに、姿勢保持機構によって、回動アームの回動角度が変動しても、手首部の向きを一定に保持することができる。
【0009】
これにて、手首部を、その向きを一定(例えば下向き)に保ったまま、上下(Z軸)方向及びX軸方向に自在に移動させることができ、部品供給部から部品を掴んで(PICK)、その部品をX軸方向に搬送し、所定の部品組付部に置く(PLACE)といったピック&プレースの作業を実行することができる。この場合、手首部が例えば常に下向きに保持されることによって、例えばピック&プレースの作業を行う場合に、手首部を別の向きから下向きに変更するための余分な時間が発生することがなくなり、効率的となる。また、X軸レールの長さに応じたX軸ストロークを得ることができ、軸数も少なく、比較的小型で簡単な構成で、ピック&プレースの作業の実行が可能となる。
【0010】
そして、手首部の上下動(Z軸方向移動)は、直線方向搬送装置ではなく回動アームの回動により行われるので、回動アームの長さ(R1軸からR2軸までの距離)に対応した上下動ストロークを得ることができながらも、回動アームを、水平位置(又はそれに近い状態)まで回動させて手首部をX軸レールと同等の高さに位置させることによって、全体としての高さ方向寸法を小さい状態にすることができる。
【0011】
従って、上記ピック&プレースの作業にあって、部品供給部と部品組付部との間の途中部位に障害物が存在していても、その障害物を容易に乗越えさせる、つまり、手首部及び回動アームを、障害物の上部空間を通過させることが可能となる。しかも、移動体のX軸方向移動と回動アームの回動動作とをシンクロ動作させることによって、ある程度の動作速度を確保することができるので、生産サイクルタイムが徒に長くなるといったことを未然に防止することができる。
【0012】
本発明においては、上記姿勢保持機構を、前記回動アームの基端側に前記R1軸に軸心を一致させて前記移動体に対して固定的に設けられた第1のプーリと、前記回動アームの先端側に該回動アームに対して前記R2軸を中心に回転可能に設けられた第2のプーリと、前記第1のプーリと第2のプーリとの間に掛渡されたベルトとを設け、前記第2のプーリを前記手首部に連結して構成することができる(請求項2の発明)。
【0013】
これによれば、回動アームが移動体に対しR1軸を中心に回動変位したときに、第2のプーリが、回動アームに対してR2軸を中心に、該回動アームの回転(旋回)方向とは逆方向に同角度だけ相対回転するようになる。従って、第2のプーリに連結された手首部の絶対的な向き(X軸レールに対する向き)が一定に保持されるようになる。
【0014】
このとき、モータ等の駆動源を設けることなく、比較的簡単な構成で、姿勢保持機構を構成することができる。この結果、回動アームの手先部が比較的軽くなることから、駆動機構(回動用のモータ)の負荷が小さく済んで小型化が可能となり、この回動用のモータ等の小型化、軽量化が回動アームの小型化(Y軸方向の薄型化)につながる。さらに、そのような回動アームの薄型化が、Y軸方向に関しての他の障害物との干渉可能性をも減少させることにつながり、細い作業領域を通してピック&プレースの作業を実行することが可能となり、ひいては、様々な工場の設備設置環境に対する適応性の向上につながるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例を示すもので、ロボットの概略的な正面図
【図2】回動アームの内部構成を概略的に示す縦断左側面図
【図3】作業工程の進行に伴う回動アームの位置状態の変化の様子を順に示す図
【図4】ロボットによる作業設備を概略的に示す平面図
【図5】本発明の第2の実施例を示す図2相当図
【図6】本発明の第3の実施例を示すもので、姿勢保持機構の構成を概略的に示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)第1の実施例
以下、本発明を具体化した第1の実施例について、図1ないし図4を参照しながら説明する。まず、図4は、本実施例に係るロボット1を用いて、いわゆるピック(PICK)&プレース(PLACE)の作業を行う作業設備2の構成を概略的に示す平面図である。この作業設備2においては、作業台3の上方に、後述するロボット1(X軸レール6)が、X軸方向(図で左右方向)に延びて設置されている。また、前記作業台3の図で左端部には、例えばパーツフィーダ等の部品供給部4が設けられており、この部品供給部4により、X軸レール6よりも下方の所定の部品供給位置Aに部品Pが1個ずつ供給される。
【0017】
そして、前記作業台3の図で右側部位(X軸レール6の下方)には、前後方向(Y軸方向)に延びるワーク搬送路5が設けられている。このワーク搬送路5は、例えばベルトコンベア装置を備えて構成され、複数のワークW(パレット)を図で矢印Y1方向に(後方から前方へ向けて)順に搬送するようになっている。各ワークW(パレット)は、ワーク搬送路5上の部品組付部(X軸レール6の手前)にて停止され、この停止位置にて、部品組付位置Bに対して前記部品Pの載置(組付け)の作業が行われるようになっている。
【0018】
これにて、この作業設備2においては、ピック&プレースの作業として、ロボット1が部品供給位置Aから1個の部品Pを掴んで(PICK)、その部品PをX軸方向(図で右方)に搬送し、ワーク搬送路5上のワークWの所定の部品組付位置Bに置き(PLACE)、部品供給位置Aに向けて次の部品Pを取りに行くといった作業を繰返して実行する。尚、本実施例で、左右、前後、上下といった方向をいう場合には、図4に示す状態を基準とし、左右方向をX軸方向、前後方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として説明する。
【0019】
さて、本実施例に係るロボット1について、図1ないし図3も参照して詳述する。図1及び図2は、前記ロボット1の全体構成を示しており、図1はロボット1を前方から見た正面図、図2は回動アーム部分を下向きの状態で断面にした縦断左側面図である。このロボット1は、X軸レール6、このX軸レール6の前面側にX軸方向に直線移動可能に設けられた移動体7、この移動体7の前面側に回動可能に連結された回動アーム8、この回動アーム8の先端部後面側に設けられた手首部9等から構成される。また、前記手首部9の先端(下端)のフランジ部には、前記部品Pを把持(吸着)するためのチャック(ハンド)等の作業用ツール10が着脱可能に装着される。
【0020】
前記X軸レール6は、図3、図4にも示すように、図で左右(X軸)方向に水平に長く延び、前記作業台3の上方の所定の高さ位置に、図示しない支柱などを介して設置されている。前記移動体7は、前後方向に薄型の矩形ブロック状をなし、前記X軸レール6の前面部に設けられたリニアガイド(図示せず)に沿って直線移動可能に支持されている。これと共に、移動体7は、前記X軸レール6の右端部に配設されたX軸モータ11(図1、図4参照)や、そのX軸モータ11により回転されるボールねじ12(図2参照)等からなる直線移動機構により、X軸方向に自在に移動されるようになっている。
【0021】
前記回動アーム8は、図1に示すように、正面から見て両端部が半円形状とされた長尺状をなすと共に前後方向に厚みを有する箱状のフレーム8aを有し、図2にも示すように、その基端側(図2で上端側)が、前記移動体7に対し、X軸方向と同一平面上にした場合に直交して水平方向に延びる、つまり前後(Y軸)方向に延びるR1軸を中心に回動(旋回)可能に連結されている。図1、図2に示すように、回動アーム8の先端側は、R1軸から放射方向に延びているが、前記手首部9は、その上端部が、回動アーム8の先端部の後面側に、前記R1軸と平行な(Y軸方向に延びる)R2軸を中心に相対的に回動可能に連結されている。
【0022】
そして、このロボット1には、前記回動アーム8を前記移動体7に対してR1軸を中心に自在に回動(旋回)させるための駆動機構13(図2参照)が設けられている。簡潔にいうと、この駆動機構13は、前記回動アーム8に固定的に設けられたモータ16と、このモータ16の回転を減速して前記R1軸に軸心を一致させた出力軸17aから出力する減速機17とを備え、前記減速機17の出力軸17aが前記移動体7に連結されて構成されている。
【0023】
これと共に、図1にも示すように、ロボット1には、前記回動アーム8の前記移動体7に対する回動によって駆動され、回動アーム8の移動体7に対する角度が変位しても、前記手首部9(作業用ツール10)のX軸レール6(作業設備2)に対する向きを一定(この場合下向き)に保持する姿勢保持機構14が設けられている。具体的には、本実施例では、前記駆動機構13及び姿勢保持機構14は、以下のように構成されている。
【0024】
即ち、図2に示すように、前記移動体7の前面部には、タイミングプーリからなる第1のプーリ15が、その軸心を前記R1軸に一致させた状態で、前方に突出した状態に固定的に設けられている。この第1のプーリ15は、前記回動アーム8のフレーム8aのうちの背面部基端側に、該第1のプーリ15よりも径大に形成された円形の開口部8bを通して、回動アーム8内に配置されている。そして、前記回動アーム8内には、回動用モータ16と、この回動用モータ16の駆動力を減速して出力する減速機17とが、円筒状の取付部材18を介して固定的に設けられている。また、前記減速機17は、その出力軸17aを後方に向け且つ前記R1軸に軸心を一致させた状態で設けられ、該出力軸17aが、前記第1のプーリ15(ひいては移動体7)に連結されている。
【0025】
これにて、前記回動用モータ16及び減速機17等から駆動機構13が構成される。この場合、回動用モータ16が回転駆動されると、その回転が減速機17により減速され、減速機17の出力軸17aが第1のプーリ15(移動体7)を相対的に回転させるようになり、以て、移動体7に対して回動アーム8がR1軸を中心に回動するのである。
【0026】
一方、前記回動アーム8のフレーム8aのうちの背面部の先端側には、前記R2軸に軸心を一致させて、フレーム8aの背面部を前後方向に貫通するシャフト19が、軸受20を介して回転可能に設けられている。そのシャフト19の回動アーム8の内側に位置する前端部には、前記第1のプーリ15と同径のタイミングプーリからなる第2のプーリ21が固着されており、シャフト19の後端部が、下向きとされた前記手首部9に連結(固定)されている。そして、図1にも示すように、回動アーム8内において、前記第1のプーリ15と、第2のプーリ21との間に、タイミングベルトからなるベルト22が掛渡されている。尚、前記取付部材18には、前記ベルト22が通過する開口が形成されていることは勿論である。
【0027】
これにて、第1のプーリ15、第2のプーリ21、ベルト22等から姿勢保持機構14が構成される。このとき、上記のように回動アーム8が移動体7に対しR1軸を中心に回動変位したときに、第1のプーリ15が、回動アーム8に対して相対的に回動変位する。そして、第1のプーリ15にベルト22を介して接続されている第2のプーリ21が、回動アーム8に対してR2軸を中心に、該回動アーム8の回転(旋回)方向とは逆方向に同角度だけ相対回転するようになる。これにより、モータ等の駆動源を別途に設けることなく、第2のプーリ21にシャフト19を介して連結された手首部9の絶対的な向き(X軸レール6に対する向き)が一定に保持されるのである。また、回動アーム8内の重量配分は、モータ等を駆動源とした姿勢保持機構を手先側に設ける場合と比べて、手先側が軽いものとなっている。
【0028】
尚、上記ロボット1のX軸モータ11及び回動用モータ16、並びに作業用ツール10は、図示しないロボットコントローラにより、動作プログラム等に基づいて駆動制御され、以て上記したようなピック&プレースの作業工程等を自動で繰返し行うことが可能となっている。
【0029】
次に、上記のように構成されたロボット1の作用について、図3も参照して述べる。上記ロボット1は、図1に示すように、移動体7をX軸レール6に沿ってX軸方向に自在に移動させると共に、回動アーム8を移動体7に対して回動させてR1軸を中心とした回動角度を変更することによって、回動アーム8の先端つまり手首部9を、上下(Z軸)方向及び左右(X軸)方向に自在に移動させることができる。このとき、姿勢保持機構14によって、回動アーム8の移動体7に対する回動角度が変動しても、手首部9は下向きの状態が保持されるようになる。
【0030】
図1には、移動体7をX軸レール6の左端部に位置させ、且つ、回動アーム8を真下向きの角度に回動させた状態を実線で示している。また、図1には、移動体7をX軸レール6の中間部に位置させ且つ回動アーム8を斜めの角度に回動させた状態、及び、移動体7をX軸レール6の右端部に位置させ且つ回動アーム8をほぼ水平まで回動させた状態を、夫々想像線で示している。この場合、図1に示すように、手首部9の、X軸レール6の長さに応じたX軸ストロークが得られると共に、回動アーム8の長さ(R1軸からR2軸までの寸法)に対応したZ軸ストロークが得られる。
【0031】
このように、ロボット1においては、回動アーム8を様々な回動角度(及びX軸方向位置)にすることにより、手首部9を、少なくとも図1にX軸ストローク及びZ軸ストロークで示される範囲内(XZ二次元平面内)で、自在に移動させながら様々な作業を行うことができる。例えば、図4に示す作業設備において、ロボット1により部品供給位置Aから部品Pを掴んで、その部品PをX軸方向(図で右方)に搬送し、部品組付位置Bに置くピック&プレースの作業を繰返して行うことができる。
【0032】
ここで、上記したような作業設備2においては、図1、図3、図4に示すように、作業台3上の部品供給部4(部品供給位置A)とワーク搬送路5(部品組付位置B)との間の途中部位に、上端部がX軸レール6よりもやや低い位置に位置し部品PをX軸方向に搬送する際の邪魔となるような障害物Cが存在しているケースが考えられる。このとき、従来例で述べた直角座標ロボットのような、Z軸直線方向搬送装置の高さ方向の寸法の範囲内で手首部を上下移動させるものの場合には、手首部を、その障害物Cを乗り越えさせる(上方を通過させる)ことができなくなる不具合があった。
【0033】
これに対し、本実施例のロボット1では、回動アーム8を水平位置(又はそれに近い状態)まで回動させて手首部9をX軸レール6と同等の高さに位置させることができるので、部品供給位置Aと部品組付位置Bとの間の途中部位に障害物Cが存在していても、その障害物Cを容易に乗越えさせる、つまり、手首部9及び回動アーム8を、障害物Cの上部空間を通過させながら作業を行うことが可能となる。
【0034】
図3は、この際の、ロボット1を正面から見た場合の、X軸レール6、部品供給位置A、部品組付位置B、障害物Cに対する、回動アーム8の動作パターンを示すものであり、太線が、回動アーム8のX軸方向位置及びR1軸を中心とした回動角度を示し、また、該太線の先端の矢印の向きが、手首部9の先端(作業用ツール10)の向きを示している。回動アーム8が、工程(1)〜(5)の順に動作することにより、上記ピック&プレースの作業が行われる。
【0035】
即ち、まず、工程(1)では、手首部9の先端(作業用ツール10)を、部品供給位置Aの真上に移動させた後、下降させ、部品Pを掴むことが行われる。工程(2)では、移動体7をX軸方向に若干量移動させながら、回動アーム8を正面から見て時計回り方向に回動させていき、部品Pを掴んだまま手首部9を真上に上昇させることが行われる。そして、工程(3)のように、回動アーム8が水平状態となるまで手首部9が上昇される。
【0036】
次いで、移動体7をX軸方向(図で右方)に移動させることにより、手首部9及び回動アーム8を、障害物Cに干渉することなく乗越えさせる(障害物Cの上部空間を通過させる)ことができる。この後、工程(4)のように、移動体7をX軸方向に若干量移動させながら、回動アーム8を正面から見て反時計回り方向に回動させ、部品組付位置Bの真上から手首部9を下降させていく。そして、工程(5)にて、部品組付位置Bに部品Pが置かれるのである。尚、図示はしていないが、部品組付位置Bから部品供給位置Aに向けて戻る際にも、回動アーム8を水平状態として障害物Cを乗越えさせる。
【0037】
このように本実施例のロボット1によれば、ピック&プレースの作業の実行が可能なものであって、軸数(モータの数)も少なく、比較的小型で簡単な構成で済ませることができる。そして、手首部9の上下動(Z軸方向移動)は、直線方向搬送装置ではなく回動アーム8の回動により行われるので、回動アーム8の長さ(R1軸からR2軸までの距離)に対応した上下動ストロークを得ることができながらも、回動アーム8を、水平位置(又はそれに近い状態)まで回動させて手首部9をX軸レール6と同等の高さに位置させることによって、全体としての高さ方向寸法を小さい状態にすることができる。
【0038】
これにより、ピック&プレースの作業を行う際に、部品供給位置Aと部品組付位置Bとの間の途中部位に障害物Cが存在しても、その障害物Cを容易に乗越えながら作業を行うことができる。このことは、言い換えると、作業台3上において、部品供給位置Aと部品組付位置Bとの間に、別の装置や設備、部品等を配設することが可能となり、作業設備2の空間を有効に利用することができるメリットにつながるものである。しかも、移動体7のX軸方向移動と回動アーム8の回動動作とをシンクロ動作させることによって、ある程度の動作速度を確保することができるので、生産サイクルタイムが徒に長くなるといったことを未然に防止することができる。
【0039】
また、特に本実施例では、駆動機構13を、回動アーム8側に回動モータ16及び減速機17を配設して構成したので、移動体7の構成を簡単化してコンパクトに(移動体7を上下方向に大型とならずに)済ませることができる。
【0040】
さらに本実施例では、姿勢保持機構14を、第1のプーリ15、第2のプーリ21、ベルト22等から構成したので、モータ等の駆動源を設けることなく、比較的簡単な構成で、姿勢保持機構14を構成することができるといった利点も得ることができる。この結果、回動アーム8の手先部が比較的軽くなることから、回動用モータ16の負荷が小さく済んで小型化が可能となり、この回動用モータ16の小型化、軽量化が回動アーム8の小型化(Y軸方向の薄型化)につながる。さらに、そのような回動アーム8の薄型化が、Y軸方向に関しての他の障害物との干渉可能性をも減少させることにつながり、細い作業領域を通してピック&プレースの作業を実行することが可能となり、ひいては、様々な工場の設備設置環境に対する適応性の向上につながるものとなる。
【0041】
(2)第2、第3の実施例、その他の実施例
図5は、本発明の第2の実施例に係るロボット31の構成を示している。上記第1の実施例と共通する部分については、符号を共通して使用し、詳しい説明を省略する。このロボット31が、上記第1の実施例のロボット1と異なる点は、回動アーム32を、移動体7に対しR1軸を中心に回動させるための駆動機構33(及び姿勢保持機構34)の構成にある。このとき、駆動機構33は、移動体7に固定的に設けられたモータ36と、入力部38aから入力された回転を減速して出力部38bから出力するように構成され、出力部38bがR1軸に軸心を一致させた状態で回動アーム32に連結されるように設けられた減速機38と、モータ36の回転を減速機38の入力部38aに伝達する伝達機構とを備えている。
【0042】
即ち、移動体7の前面部には、前方に延びる円筒状をなす取付部材35が固定的に取付けられている。この取付部材35が、回動アーム32のフレーム32aの背面側の開口部を通して該回動アーム32内に配置されている。また、移動体7の下部には、X軸レール6よりも下方に位置して、回動用モータ36が前向きに取付けられ、この回動用モータ36の駆動軸にタイミングプーリからなる駆動プーリ37が取付けられている。
【0043】
一方、前記回動アーム32内には、前記取付部材35の前端に位置して減速機38が取付けられている。詳しく図示はしないが、この減速機38は、入力部たる入力軸38aが、軸心を前記R1軸に一致させた状態で後方を指向するように設けられていると共に、その入力軸38aからの入力を減速して出力する出力部38bが、軸心を前記R1軸に一致させ田状態で、回動アーム32のフレーム32aに固定的に連結されている。
【0044】
この減速機38の入力軸38aの先端部には、タイミングプーリからなる従動プーリ39が取付けられ、その従動プーリ39と前記駆動プーリ37との間にベルト(タイミングベルト)40が掛渡されている。これにて、駆動プーリ37、従動プーリ39、ベルト40から伝達機構が構成され、回動用モータ36及び減速機38等と共に駆動機構33が構成される。この場合、回動用モータ36が回転駆動されると、その回転が伝達機構を介して減速機38に伝達され、減速機38により減速されて、移動体7に対して回動アーム32が回動するのである。
【0045】
さらに、前記取付部材35の先端側の外周には、タイミングプーリからなる第1のプーリ41が固定的に設けられている。一方、前記回動アーム32のフレーム32aのうちの背面部の先端側(図で下端側)には、前記R2軸に軸心を一致させて、軸受20を介してシャフト19が設けられ、シャフト19の後端部が手首部9に連結されている。そして、シャフト19の前端部には、前記第1のプーリ41と同径のタイミングプーリからなる第2のプーリ42が固着されており、それら第1のプーリ41と、第2のプーリ42との間に、タイミングベルトからなるベルト43が掛渡されている。これにて、第1のプーリ41、第2のプーリ42、ベルト43等から姿勢保持機構34が構成される。
【0046】
このような第2の実施例のロボット31によれば、上記第1の実施例と同様に、ピック&プレースの作業の実行が可能なものであって、軸数(モータの数)も少なく、比較的小型で簡単な構成で済ませることができ、部品供給位置Aと部品組付位置Bとの間の途中部位に障害物Cが存在しても、その障害物Cを容易に乗越えながら作業を行うことができる。そして、本実施例の駆動機構33の構成によれば、回動用モータ36を移動体7側に配設したので、移動体7が上下方向にやや大型化するものの、回動アーム32の小型化や軽量化を図ることができる。
【0047】
図6は、本発明の第3の実施例を示すもので、上記第1の実施例と異なるところは、回動アーム51内に設けられる姿勢保持機構52の構成にある。この姿勢保持機構52は、回動アーム51の基端側にR1軸に軸心を一致させて移動体7に対して固定的に設けられた入力ギヤ53と、回動アーム51の先端側に該回動アーム51に対してR2軸を中心に回転可能に設けられた出力ギヤ54と、回動アーム51に設けられ入力ギヤ53と出力ギヤ54との間において奇数個が順に噛合いそれら入力ギヤ53から出力ギヤ54に1対1のギヤ比で回転伝達させる伝達ギヤ55〜57とを備え、出力ギヤ54が手首部9に連結されて構成されている。
【0048】
即ち、本実施例では、回動アーム51の基端側には、例えば平歯車からなる入力ギヤ53が、R1軸に軸心を一致させた状態で移動体7に対して固定的に設けられている。一方、回動アーム51の先端側には、R2軸に軸心を一致させて、軸受20を介してシャフト19が回転可能に設けられ、シャフト19の後端部が手首部9に連結されている。シャフト19の前端部には、前記入力ギヤ53と同径(同じ歯数)の平歯車からなる出力ギヤ54が取付けられている。
【0049】
そして、回動アーム51内には、前記入力ギヤ53と出力ギヤ54との間に位置して、奇数個この場合3個の伝達ギヤ55,56,57が設けられている。これら伝達ギヤ55,56,57も、前記入力ギヤ53及び出力ギヤ54と同径(同じ歯数)の平歯車からなり、正面から見てR1軸とR2軸とを結ぶ線に沿って、R1軸,R2軸と平行な(Y軸方向に延びる)軸を中心に夫々回動可能に設けられている。
【0050】
このとき、前記入力ギヤ53に伝達ギヤ55が噛合い、その噛合い位置とは反対の位置で伝達ギヤ55に伝達ギヤ56が噛合い、その噛合い位置とは反対の位置で伝達ギヤ56に伝達ギヤ57が噛合い、その噛合い位置とは反対の位置で伝達ギヤ57に前記出力ギヤ54が噛合っている。これにて、入力ギヤ53の回転が、出力ギヤ54に1対1のギヤ比で伝達されるようになっている。
【0051】
この構成によっても、回動アーム51が移動体7に対しR1軸を中心に回動変位したときに、入力ギヤ53が、回動アーム51に対して相対的に回動変位し、3個の伝達ギヤ55,56,57を介して、出力ギヤ54が、回動アーム51に対してR2軸を中心に、該回動アーム51の回転(旋回)方向とは逆方向に同角度だけ相対回転するようになる。これにより、出力ギヤ54に連結された手首部9の絶対的な向き(X軸レール6に対する向き)が一定に保持される。従って、この第3の実施例によっても、モータ等の駆動源を設けることなく、比較的簡単な構成で、姿勢保持機構52を構成することができる。
【0052】
尚、上記第3の実施例では、姿勢保持機構52を、入力ギヤ53と出力ギヤ54との間に3個の伝達ギヤ55,56,57を設けて構成したが、伝達ギヤの個数は奇数個とすれば良く、1個、或いは5個以上の組合せでも良い。また、入力ギヤ53、出力ギヤ54、伝達ギヤ55,56,57を全て同径のギヤから構成したが、歯数の異なる大小のギヤの組合せによって、入力ギヤの回転が、最終的に出力ギヤに1対1のギヤ比で伝達されるように構成しても良い。
【0053】
その他、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば、作業設備のレイアウトや、作業の内容などについても種々の変更が可能であり、また、複数台のロボットによって作業を行う設備であっても良い。さらには、ロボットの機械的構成、例えば駆動機構や姿勢保持機構の具体的な構成等についても、様々な変形が可能であるなど、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0054】
図面中、1、31はロボット、2は作業設備、6はX軸レール、7は移動体、8,32,51は回動アーム、9は手首部、10は作業用ツール、13,33は駆動機構、14,34,52は姿勢保持機構、15,41は第1のプーリ、16,36は回動用モータ、17,38は減速機、21、42は第2のプーリ、22,43はベルト、53は入力ギヤ、54は出力ギヤ、55,56,57は伝達ギヤを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸方向に水平に延びるX軸レールと、
このX軸レールに沿ってX軸方向に直線移動される移動体と、
この移動体に、基端側が前記X軸方向と同一平面上にした場合に直交して水平方向に延びるR1軸を中心に回動可能に連結され、先端側が前記R1軸から放射方向に延びる回動アームと、
この回動アームの先端部に、前記R1軸と平行なR2軸を中心に回動可能に連結され、作業用ツールが装着可能な手首部と、
前記回動アームを前記移動体に対し前記R1軸を中心に回動させる駆動機構と、
前記回動アームの前記移動体に対する回動角度が変動しても前記手首部の前記X軸レールに対する向きを一定に保持する姿勢保持機構とを具備してなるロボット。
【請求項2】
前記姿勢保持機構は、前記回動アームの基端側に前記R1軸に軸心を一致させて前記移動体に対して固定的に設けられた第1のプーリと、前記回動アームの先端側に該回動アームに対して前記R2軸を中心に回転可能に設けられた第2のプーリと、前記第1のプーリと第2のプーリとの間に掛渡されたベルトとを備え、前記第2のプーリが前記手首部に連結されていることを特徴とする請求項1記載のロボット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate