説明

ワーク載置装置およびこれを備えた主軸ピックアップ旋盤

【課題】 ワークピックアップ装置によりワークを正確にピックアップできるワーク載置装置を提供する。
【解決手段】ワークWを載置するワーク載置台25と、ワーク載置台傾斜許容支持手段31および弾性部材37を介してワーク載置台25を支持するベース部材30とを備える。ワーク載置台傾斜許容支持手段31は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台25のワークWをピックアップする際に、ワーク載置台25のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容する。弾性部材37は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台25のワークWをピックアップする際に、ワークピックアップ装置の下降に抗してワークWをワークピックアップ装置に押し付けると共に、ワークピックアップ装置が上昇した際にはワーク載置台25を水平に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主軸が移動してワーク搬送を行う主軸ピックアップ旋盤に関し、特にその素材の搬入を行うワーク搬入装置のワーク載置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主軸チャックが下を向いてワーク搬送を行う立型の主軸移動型旋盤がある(例えば特許文献1)。この種の主軸移動型旋盤は、主軸ピックアップ旋盤とも呼ばれ、主軸位置までワークを搬入するローダが不要となり、構成が簡略化できるという利点がある。
【特許文献1】特開平11−320314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されている例では、主軸が、加工に必要な領域(加工領域)を越えてワーク置き台の上方まで移動する構成であるため、主軸の移動範囲を拡げる必要があり、旋盤の幅寸法が大きくなる。また、ワーク置き台の位置が加工位置から遠くなるため、ワークを把持した主軸がワーク置き台の上方から加工位置まで戻る距離も長く、その移動時間によってワーク加工のサイクルタイムが長くなる。
【0004】
そこで、主軸の移動範囲の互いに異なる箇所に、加工領域へワークを搬入するワーク搬入装置と加工領域からワークを搬出するワーク搬出装置とをそれぞれ設け、これらワーク搬入装置およびワーク搬出装置は、ワークを載置するワーク載置台と、このワーク載置台の位置を加工領域の内外に切り換える載置台位置切換装置とよりなる構成とすることにより、ワーク加工のサイクルタイムの短縮化を図ることを試みた(特願2004−296066号)。
【0005】
この構成とする場合、ワーク載置台に載置されているワークを、ワークピックアップ装置が正確にピックアップする必要がある。正確にピックアップするための要件としては、(1)ワークピックアップ装置に対して適度な強さでワークを押し付けて、ワークピックアップ装置とワークを密着させること、(2)ワークがワークピックアップ装置に対してある程度自由に傾斜することができ、ワークの各部が同じ強さでワークピックアップ装置に押し付けられること等が挙げられる。これらの要件を満させることができれば、前工程で切断加工の誤差があった場合でも、前工程での誤差を矯正するかたちでワークピックアップ装置がワークをピックアップし、問題なく旋盤での加工が行える。
【0006】
この発明の目的は、ワークピックアップ装置によりワークを正確にピックアップできるように、前記要件を満足させられるワーク載置装置を提供することである。
この発明の他の目的は、上記ワーク載置装置を主軸ピックアップ旋盤に適用した場合に、この主軸ピックアップ旋盤を最も効果的な構成とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のワーク載置装置は、昇降自在なワークピックアップ装置に供給するワークを載置するワーク載置装置であって、ワークを載置するワーク載置台と、ワーク載置台傾斜許容支持手段および弾性部材を介してワーク載置台を支持するベース部材とを備え、前記ワーク載置台傾斜許容支持手段は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容するものであり、前記弾性部材は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワークピックアップ装置の下降に抗してワークをワークピックアップ装置に押し付けると共に、ワークピックアップ装置が上昇した際にはワーク載置台を水平に保持するものである。
【0008】
この構成によると、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワーク載置台傾斜許容支持手段によって、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容し、かつ弾性部材によって、ワークピックアップ装置の下降に抗してワークをワークピックアップ装置に押し付けるため、ワークに多少の加工誤差や載置姿勢の狂いがある場合でも、ワークピックアップ装置にワークを密着させて、ワークピックアップ装置が正確にワークをピックアップすることができる。したがって、前工程で切断加工の誤差があった場合でも、ワークピックアップ装置でのワークピックアップ時に前記誤差を矯正することができ、旋盤による加工を問題なく行える。
また、ワークピックアップ装置がワークをピックアップして上昇する際には、弾性部材によって、ワーク載置台を水平に保持するため、次回ワーク載置台へのワークの載置を良好に行えると共に、次回ワークピックアップ装置によるワークのピックアップを良好に行うことができる。
【0009】
前記ワーク載置台傾斜許容支持手段は、前記ベース部材の孔と、この孔の内側面に対して隙間をもって挿入された、ベース部材に対して昇降自在なワーク載置台の昇降ガイドとよりなり、ワーク載置台をベース部材に対して水平移動可能な状態で支持するのが良い。
その場合、前記ワーク載置台の上昇状態でワーク載置台とベース部材とを水平移動不能な係合状態とし、ワークピックアップ装置の下降による前記ワーク載置台の下降によって前記係合状態が解消されてワーク載置台傾斜許容支持手段を有効とする位置決め手段を設けるのが良い。
ワーク載置台傾斜許容支持手段を、ベース部材の孔と、この孔の内側面に対して隙間をもって挿入された、ベース部材に対して昇降自在なワーク載置台の昇降ガイドとよりなる構成とすると、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜する動作を円滑に行わせることができる。このため、例えば、前回のワークの受け渡し時に、ワーク端面の傾斜を吸収してワーク載置台が傾斜したときに、摩擦で元の傾斜が保持されて、今回の受け渡し時に悪影響を与えることがない。
ワーク載置台の上昇状態でワーク載置台とベース部材とを水平移動不能な係合状態とし、ワークピックアップ装置の下降によるワーク載置台の下降によって前記係合状態が解消されてワーク載置台傾斜許容支持手段を有効とする位置決め手段を設けると、ベース部材の孔の内側面と昇降ガイドとの間に隙間があっても、ワーク載置台の上昇状態では位置決め手段によりワーク載置台の水平位置が規制されるため、ワーク載置台に対して芯ずれ状態にワークが載せられることが防止される。
【0010】
本発明のワーク載置装置を主軸ピックアップ旋盤に適用する場合、前記ワークピックアップ装置は、旋盤の主軸を昇降駆動可能とした主軸装置とするのが良い。
ワークピックアップ装置を旋盤の主軸装置とすると、この主軸装置が、ワークをピックアップして、そのまま加工のための動作に移ることができるため、作業の流れを良好なものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明のワーク載置装置は、昇降自在なワークピックアップ装置に供給するワークを載置するワーク載置装置であって、ワークを載置するワーク載置台と、ワーク載置台傾斜許容支持手段および弾性部材を介してワーク載置台を支持するベース部材とを備え、前記ワーク載置台傾斜許容支持手段は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容するものであり、前記弾性部材は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワークピックアップ装置の下降に抗してワークをワークピックアップ装置に押し付けると共に、ワークピックアップ装置が上昇した際にはワーク載置台を水平に保持する構成としたため、ワーク載置台に載置されているワークをワークピックアップ装置が正確にピックアップすることが可能であり、前工程で切断加工の誤差があった場合でも、ワークピックアップ装置でのワークピックアップ時に前記誤差を矯正することができ、旋盤による加工を問題なく行える。
この発明において、前記ワーク載置台傾斜許容支持手段が、前記ベース部材の孔と、この孔の内側面に対して隙間をもって挿入された、ベース部材に対して昇降自在なワーク載置台の昇降ガイドとよりなり、ワーク載置台をベース部材に対して水平移動可能な状態で支持するものである場合は、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜する動作を円滑に行わせることができるため、例えば、前回のワークの受け渡し時に、ワーク端面の傾斜を吸収してワーク載置台が傾斜したときに、摩擦で元の傾斜が保持されて、今回の受け渡し時に悪影響を与えることがない。
また、前記ワーク載置台の上昇状態でワーク載置台とベース部材とを水平移動不能な係合状態とし、ワークピックアップ装置の下降による前記ワーク載置台の下降によって前記係合状態が解消されてワーク載置台傾斜許容支持手段を有効とする位置決め手段を設けた場合は、ベース部材の孔の内側面と昇降ガイドとの間に隙間があっても、ワーク載置台の上昇状態では位置決め手段によりワーク載置台の水平位置が規制され、ワーク載置台に対して芯ずれ状態にワークが載せられることが防止される。
【0012】
また、この発明の主軸ピックアップ旋盤は、上記ワーク載置装置を主軸ピックアップ旋盤に適用したものであり、そのワークピックアップ装置は旋盤の主軸を昇降駆動可能とした主軸装置であるため、この主軸装置が、ワークをピックアップして、そのまま加工のための動作に移ることができ、作業の流れを良好なものとすることができる。しかも、ワーク載置装置と主軸装置との間にワークを受け渡しするための別の装置を設ける必要がないので、旋盤全体の構成を簡略にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。この実施形態の工作機械は、制御盤および操作盤付きの工作機械であって、主軸ピックアップ旋盤となる立型の主軸移動型旋盤である。図1において、この工作機械である旋盤1は、正面部の形状が縦長の長方形である概ね直方体の機体カバー3を備えた工作機械本体2と、この工作機械本体2の背面に設置された制御盤4と、正面部に設置された操作盤5とを備える。
【0014】
工作機械本体2は、図2に示すように、ワークWを下向きに支持する主軸チャック6と、加工領域Rに設けられて主軸チャック6に支持されたワークWに対して切削加工を施す工具支持手段7と、主軸チャック6を上下および左右に移動させる主軸移動手段8と、主軸チャック6の左右方向の移動可能な領域における互いに異なる箇所にそれぞれ設けられたワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12とを備える。主軸チャック6と主軸移動手段8とで主軸装置を構成し、この主軸装置は、後記ワーク載置台25上のワークをピックアップするワークピックアップ装置となっている。
この工作機械本体2は、固定の工具支持手段7の工具に対して、主軸チャック6が上下左右に移動することで、旋削等の切削加工を行うものである。このため、主軸移動手段8およびその配線、配管系等が、加工領域Rに対して仕切られる加工機器設置領域Sに配置される加工機器10を構成する。
【0015】
主軸移動手段8は、ベッド9上の左右方向に延びる案内13上を左右移動自在な左右移動台14と、この左右移動台14に上下方向に延びる案内15を介して昇降自在に設置された主軸台16とを備える。主軸台16に支持された主軸17の先端に上記主軸チャック6が設けられている。主軸チャック6は、複数のチャック爪6aでワークWを把持するものとされる。
【0016】
主軸台16は、詳しくは、左右移動台14に前記案内15を介して昇降自在に設置された昇降台18に搭載されており、この昇降台18に設置された主軸モータ19により主軸17の回転駆動が行われる。主軸台16の昇降は、左右移動台14に設置されたモータ等の昇降用駆動源20と、この昇降用駆動源20の回転を上下動作に変換するボールねじ等の回転・直進変換機構(図示せず)とで行われる。左右移動台14の左右移動は、ベッド9に設置された左右移動用駆動源21と、この左右移動用駆動源21の回転を左右動作に変換するねじ等の回転・直進変換機構(図示せず)とで行われる。
【0017】
工具支持手段7は、切削加工を施すバイトや回転工具等の工具22を支持する手段であり、タレット刃物台7Aと、櫛歯式等の固定型刃物台7Bとの2種類が設けられている。タレット刃物台7Aは、ベッド9の前方の加工領域Rにおける側壁部に、左右方向に延びる水平軸心回りに旋回可能に設置されている。タレット刃物台7Aは、周面に取付けられた工具の割出の為の旋回動作は可能であるが、移動機能は有しないものとされている。固定型刃物台7Bは、上記加工領域Rにおけるベッド9の正面に固定設置されている。
【0018】
機体カバー3内における加工領域Rは、スライドカバー70(図1)によって、加工機器設置領域Sと仕切られている。加工領域Rは、主軸チャック6および工具支持手段7が内部にあって、ワークWの加工を行う空間であり、加工機器設置領域Sは、主軸移動手段8等の加工機器10の設置された空間である。
【0019】
図1において、機体カバー3は、背面に加工機器10のメンテナンス等のために作業者が機体カバー3内に進入可能な背面開口部71を有し、前記制御盤4が背面開口部71を蓋している。制御盤4は、機体カバー3から後方に延びる上下の支持部材72,73に鉛直軸O1回りに開閉回動自在に支持されている。制御盤4は、機体カバー3の上部に設けられ、制御盤4の下方にはチップコンベア74が後方へ退避自在に配置されている。
【0020】
機体カバー3の正面部の幅方向中央には、作業者が機械に進入するための開閉カバー部75が設けられており、操作盤5は、開閉カバー部75の上方位置と、この上方位置から退避する退避位置との間で位置切換自在とされている、作業者は、開閉カバー部75を介して上半身を機械内にいれて、機械内のメンテナンス作業等(チャックや工具の段取り)を行う。操作盤5は、左右の分割操作盤部5A,5Bに2分割されており、各分割操作盤部5A,5Bは、その外側端で、機体カバー3のブラケット76に鉛直旋回軸O2回りに回動自在に支持されている。
【0021】
図3に示すように、機体カバー3の正面部左右両側には、機体カバー3の左右端から中央側に向かって凹む凹部23,凹部24が設けられている。そして、凹部23内にワーク搬入装置11、凹部24内にワーク搬出装置12がそれぞれ設けられている。したがって、ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12は、機体カバー3の左右幅内に、加工領域Rを挟んで左右に振り分けて配置されている。なお、凹部23,24には、加工領域Rへのワーク搬入口、加工領域Rからのワーク搬出口となる後記開口部60がそれぞれ形成されている。
【0022】
ワーク搬入装置11およびワーク搬送装置12は、加工領域Rの内外を出入り可能なワーク載置台25を備え、このワーク載置台25によって主軸チャック6とワークWの受け渡しを行う。ワークWの受け渡しの概略を示すと、次のようになる。加工領域R外に位置するワーク搬入装置11のワーク載置台25にワークWが供給され、このワーク載置台25が加工領域R内へ移動する。主軸チャック6は、上下左右の移動によりワーク搬入装置11のワーク載置台25からワークWをピックアップし、工具支持手段7の旋削加工を受け、加工領域R内に位置するワーク搬出装置12のワーク載置台25にワークWを渡す。ワークWを受けたワーク搬出装置12のワーク載置台25は加工領域R外へ移動して、そこでワークWの排出が行われる。
【0023】
以下、ワーク搬入装置11およびワーク搬送装置12の詳細について説明するが、両装置11,12は互いに左右対称の同一構成であるので、ここでは代表してワーク搬入装置11について説明することとする。図4ないし図6はワーク搬入装置のそれぞれ異なる状態を示す全体斜視図、図7はワーク搬入装置の側面図、図8ないし図10はワーク搬入装置の各部を示す図である。
【0024】
ワーク搬入装置11(またはワーク搬出装置12)は、前記ワーク載置台25を含むワーク載置装置26と、ワーク載置台25の位置を加工領域Rの内外に切り換える内外載置台位置切換機構27と、加工領域Rの外側に位置するワーク載置台25の位置を前後に切り換える前後載置台位置切換機構28とよりなる。
【0025】
図8に示すように、ワーク載置装置26は、ベース部材30の先端部の上方に、ワーク載置台傾斜許容支持手段31および圧縮バネ37を介して、ワーク載置台25が支持されている。ワーク載置台25は平面形状が略三角形の板材で、その中心O3と各角部とを結ぶ線上に計3本のワーク保持ピン25aが上向きに突出させて設けられている。ワークWは、これらワーク保持ピン25aの間に位置させて、ワーク載置面であるワーク載置台25の上面に載置される。ワーク保持ピン25a取付用のねじ孔25bは、中心O3からの距離が異なる複数箇所に設けられており、ワークWの寸法に合わせてワーク保持ピン25aを取り付けるねじ孔25bを変更することができるようになっている。
【0026】
前記ワーク載置台傾斜許容支持手段31は次の構造となっている。すなわち、ベース部材30に形成された上下に連通するガイド孔33に昇降ガイド34が昇降自在に遊嵌し、その昇降ガイド34の上端が、ワーク載置台25の下面に固定された上プレート35に固定され、昇降ガイド34の下端が、ベース部材30の下方に位置する下プレート36に固定されている。昇降ガイド34は、ガイド孔33の内側面に対して隙間34aをもって挿入されている。ガイド孔33および昇降ガイド34は、前記中心O3と同心円周上の複数箇所(この実施形態では6箇所)に等間隔で配置されている。これら複数組のガイド孔33および昇降ガイド34でワーク載置台傾斜許容支持手段31を構成し、このワーク載置台傾斜許容支持手段31は、ワークピックアップ装置である主軸装置(主軸チャック6、主軸移動手段8)が下降してワーク載置台25のワークをピックアップする際に、ワーク載置台25のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容するように作用する。
前記ガイド孔33は上部側の径が大きい段付きの孔で、その大径部33aの段面と上プレート35の下面との間に、前記昇降ガイド34の外周に遊嵌させた前記圧縮バネ37が設けられている。この圧縮バネ37は、主軸装置が下降してワーク載置台25のワークをピックアップする際に、主軸装置の下降に抗してワークを主軸装置に押し付けると共に、主軸装置が上昇した際にはワーク載置台25を水平に保持する弾性手段となっている。
また、ベース部材30の下面には、前記中心O3と同心円周上の複数箇所(この実施形態では3箇所)に位置決め凹部38が形成されている。この凹部38に対向して、前記下プレート36の上面に位置決めピン39が上向きに突出させて設けられている。これら位置決め凹部38および位置決めピン39は、ワーク載置台25の上昇状態でワーク載置台25とベース部材30とを水平移動不能な係合状態とし(図8B)、主軸装置の下降によるワーク載置台25の下降によって前記係合状態が解消される(図8C)ように作用する位置決め手段となっている。
【0027】
ワークWが載置されていない状態またはワークWが静止して載置されている状態では、図8(B)に示すように、圧縮バネ37によってワーク載置台25が持ち上げられて、位置決めピン39が位置決め凹部38に係合しているため、ワーク載置台25は水平位置が正確に位置決めされている。詳しくは、位置決め凹部38のテーパ状の底面と位置決めピン39のテーパ状の先端面との係合により、ワーク載置台25の水平位置は常に精度良く位置決めされる。また、中心O3と同心円上の複数個所に設けられた弾性部材である圧縮バネ37によって、ワーク載置台25に水平復元力が与えられているため、このときワーク載置台25は水平に保たれる。
ワーク載置台25が水平でないと、その上に載置されているワークWが傾斜する。ワークWの形状にもよるが、ワークWが傾斜していると、ワークWの外形部が主軸チャック6のチャック爪6aの位置よりも水平方向の外側に位置することとなり、ワークピックアップのために下降してきた主軸チャック6がワークWと干渉してワークWをピックアップできない恐れがある。このため、ワーク載置台25を水平に保つ必要がある。
【0028】
ワークピックアップ装置である主軸チャック6によりワーク載置台25からワークWをピックアップする際には、主軸チャック6がワークWを下に押しながら把持する。これにより、図8(C)に示すように、ワークWを介してワーク載置台25が押し下げられ、位置決めピン39と位置決め凹部38との係合が解消され、ワーク載置台25は自由に傾くことができるようになる。同時に、圧縮バネ37の張力により、ワークWが主軸チャック6に押し付けられるため、主軸チャック6がワークWを正確に把持することができる。前工程で切断加工の誤差があった場合でも、前工程での誤差を矯正するかたちで主軸チャック6がワークWをピックアップし、問題なく旋盤での加工が行える。主軸チャック6がワークWをピックアップした後は、圧縮バネ37によってワーク載置台25が持ち上げられて、図8(B)の状態に戻る。
【0029】
図11はワーク載置台傾斜許容支持手段の異なるワーク載置装置を示す。このワーク載置装置のワーク載置台傾斜許容支持手段は、ワーク載置台25の中心O3の下側に設けられたピボット機構81であって、このピボット機構81は、ワーク載置台25側のブッシュ受け81aとベース部材30側の球面ブッシュ81bとが互いに球面で接触するようになっている。ピボット機構81を中心とする円周上には、ワーク載置台25とベース部材30とを押す圧縮バネ82が複数箇所(例えば6箇所)に配置されている。このワーク載置台傾斜許容支持手段81の場合も、前記同様に、主軸装置が下降してワーク載置台25のワークをピックアップする際に、ワーク載置台25のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容するように作用する。
ワークWが載置されていない状態またはワークWが静止して載置されている状態では、複数の圧縮バネ82のワーク載置台25を押す力の均衡が保たれているため、ワーク載置台25は水平に維持されている。主軸チャック6によりワーク載置台25からワークWをピックアップする際には、圧縮バネ82によってワークWが主軸チャック6に押し付けられるため、主軸チャック6がワークWを正確に把持することができる。
【0030】
内外載置台位置切換機構27および前後載置台位置切換機構28は、図7に図示されている。内外載置台位置切換機構27は、内外載置台位置切換駆動用のモータ40と、このモータ40と一体のカムケース41とからなり、カムケース41から下方に突出する出力軸42に前記ワーク載置台25のベース部材30の後端部が固定支持されている。カムケース41内のカム機構(図示せず)により、モータ40の回転が出力軸42の所定の角度範囲内での正逆反復回動として出力される。出力軸42の反復回動の範囲は、例えば90°とされる。出力軸42の回動により、ワーク載置台25が水平に回動し、ワーク載置台25が加工領域Rの外側に位置する中立位置Nと、加工領域Rの内側に位置するワーク渡し位置P1(ワーク搬出装置12の場合、ワーク受け位置P2)とに切り換わる。ワーク渡し位置P1およびワーク受け位置P2の前後方向位置は、主軸チャック6の軸心O4と同じ位置である。
【0031】
前後載置台位置切換機構28は、ワーク載置台25を前後方向に移動可能に案内する上下2本のガイド棒50,51と、このガイド棒50,51に沿ってワーク載置台25を移動させる前後載置台位置切換駆動用のシリンダ52とからなる。上下のガイド棒50,51は両端を機体カバー3に固定して設けられ、前記カムケース41に固定の上垂直板53の上端部に設けられたスライド部材54が上のガイド棒50に摺動自在に嵌合し、同じくカムケース41に固定の下垂直板55の下端部に設けられたスライド部材56が下のガイド棒51に摺動自在に嵌合している。また、シリンダ52は基部を機体カバー3に固定して設けられ、このシリンダ52のピストンロッド52aの先端部が前記上垂直板53に連結されている。これにより、シリンダ52を伸縮作動させると、モータ40およびカムケース41と共にワーク載置台25が、ガイド棒50,51に沿って前後に移動する。前後移動行程の後端が中立位置Nで、前端がワーク供給位置Q1(ワーク搬出装置12の場合、ワーク排出位置Q2)である。
【0032】
図9および図10に示すように、前記凹部23,24と加工領域Rとのそれぞれの境界部には、ワーク載置台25が出入りするための開口部60が形成され、その開口部60に開閉カバー61が設けられている。この開閉カバー61は、開閉カバー61の下端部の前後2箇所に設けられた回動支持部62により、前後方向に沿う回動軸心63回りに上下回動自在となっている。開閉カバー61が回動範囲の上端の立ち位置A(図9)にあるときは開口部60が塞がれ、開閉カバー61が回動範囲の下端の倒れ位置B(図10)にあるときは開口部60が開放された状態となる。なお、図10(C)は開閉途中の状態を示す。
【0033】
この開閉カバー61の開閉作動は、前記ワーク載置台25の加工領域R内外の位置切換動作に連動する。その載置台・開閉カバー連動機構65は、左右方向に移動自在な左右移動板66に形成されたカム溝67にワーク載置台25に設けたガイドピン68を係合させて、ワーク載置台25の水平回動を左右移動板66の左右移動に変換し、また左右移動板66と開閉カバー61とを前後2箇所でリンク69を介して連結して、左右移動板66の左右移動に連動して開閉カバー61が回動軸心63回りに上下回動するようにしている。
【0034】
前記カム溝67は、後側へいくほど左右内側に位置し、かつ左右内側に凸となる曲線状の溝とされている。この形状とすることにより、ワーク載置台25の回動によるガイドピン68の左右方向の変位を左右移動板66に円滑に伝えることができ、またワーク載置台25の回動時における左右移動板66の移動速度の変化を小さくし、開閉カバー61の開閉動作をスムーズなものとしている。なお、上記曲線状のカム溝67の前端部に続いて前方に形成されている前後方向に直線状のガイド溝69は、ワーク載置台25が中立位置Nとワーク供給位置Q1との間で前後移動する際にガイドピン68を案内する。
【0035】
以上のように構成されたワーク搬入装置11は次のように作動する。初期状態では、ワーク載置台25は中立位置Nで待機し、開閉カバー61が開口部60を塞いだ状態となっている(図4)。作業を開始すると、ワーク載置台25がワーク供給位置Q1まで前進する(図5)。そして、このワーク供給位置Q1で、人手等により、ワーク載置台25の上にワークWが載置される。ワークWを載せたワーク載置台25は、中立位置Nまで後退し、さらにワーク渡し位置P1まで回動する(図6)。その際、ワーク載置台25の回動に連動して、開閉カバー61が開く。ワーク渡し位置P1で、主軸チャック6により、ワーク載置台25からワークWがピックアップされる。ワークWを渡したワーク載置台25は中立位置Nまで回動する。その際、ワーク載置台25の回動に連動して、開閉カバー61が閉じる。以後、これまでと同じ動作を繰り返す。
【0036】
一方、ワーク搬出装置12は次のように作動する。旋削加工が終了するまでに、ワーク載置台25がワーク受け位置P2まで移動しており、このワーク受け位置P2で、主軸チャック6から加工済みのワークWを受け取る。ワークWを受け取ったワーク載置台25は、中立位置Nまで回動し、さらにワーク排出位置Q2まで前進する。そして、このワーク排出位置Q2で、人手等により、ワーク載置台25からワークWが排出される。ワークWが排出されたワーク載置台25は、中立位置Nまで後退し、さらにワーク受け位置P2まで回動する。以後、これまでと同じ動作を繰り返す。ワーク搬出装置12の場合も、ワーク載置台25の回動に連動して、開閉カバー61が開閉する。
【0037】
上記ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12の作動において、ワーク搬入装置11のワーク載置台25がワーク渡し位置P1とワーク供給位置Q1とを往復してワークWを供給する動作、およびワーク搬出装置12のワーク載置台25がワーク受け位置P2とワーク排出位置Q2とを往復してワークWを排出する動作は、ワークWを把持した主軸チャック6が上下および左右に移動してワークWの旋削加工を行う動作と並行して行われる。
【0038】
この構成の主軸ピックアップ旋盤1によると、上記のようにワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12が設けられており、それぞれ内外載置台位置切換機構27により、ワーク載置台25を加工領域Rの内外に出入り可能とされている。このため、主軸チャック6の移動範囲が加工領域R内で済み、旋盤全体を幅狭にすることができる。また、ワークWの搬入、搬出は、ワーク載置台25の移動と主軸チャック6の移動とで行われるため、ワークWの搬入、搬出に際する主軸チャック6の移動距離が短くて済み、しかもワーク載置台25の移動と主軸チャック6の移動とが並行して行えるため、ワークWの搬入、搬出に要する時間が短縮される。
【0039】
ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12は異なる箇所に設けられているため、ワーク搬入装置11のワーク載置台25への素材ワークWの搬入に、完成品ワークWの搬出を待つ必要がなく、加工領域R外にあるときに、何時でもワーク載置台25に対するワークの搬入、搬出が行える。これらのため、ワークの供給、排出時間が短縮できる。
【0040】
さらに、ワーク載置台25の移動は、内外載置台位置切換機構27による加工領域R内外の出入りと、前後載置台位置切換機構28による加工領域R外での前後移動とを組み合せたものであるため、ワーク載置台25を加工領域R外における旋盤本体から前方に離れた位置まで前進させ、その位置でワークのセッティングおよび取り外し作業を行うことができる。この位置であれば、旋盤本体が邪魔にならないため、上記セッティングおよび取り外し作業を行いやすい。また、ワークのセッティングおよび取り外しを旋盤の前に立った作業者が行う場合、作業者は横を向くだけでこれらの作業を行うことができるので、作業能率が向上する。
【0041】
ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12は、加工領域Rを挟んで左右に振り分けて配置されているため、ワークの流れが一方向になる加工ラインの構築が行い易い。
また、ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12が機体カバー3の左右幅内に収められるため、全体をすっきりした外観でコンパクトな構成とすることができる。機体カバー3に凹部23,24を設け、加工領域Rとこの凹部23,24との間でワーク載置台25を出入りさせるため、ワーク載置台25が加工領域R外にあるときでも、機体カバー3の両側にワーク載置台25が飛び出すことがなく、ワーク搬入装置11およびワーク搬出装置12を常に機体カバー3の幅内に収められる。また、ワーク載置台25を前記凹部23,24から前方へ移動させられるため、その前方へ移動させた位置でワーク載置台25へのワークWのセッティングまたは取り外しを行うことができ、ワークの搬入搬出作業性を向上させることができる。
【0042】
開閉カバー61は、その下端に設けた前後方向に沿う回動軸心63回りに上下方向に開閉させ、開口部60を塞ぐ立ち位置Aと加工領域R内に位置する倒れ位置Bとに切り換わるため、倒れ位置Bにあるときの開閉カバー61の位置がワーク載置台25および主軸チャック6の下方に位置し、ワーク載置台25と主軸チャック6とのワークの受け渡しに制限を与えることが少なく、また開閉カバー61が主軸チャック6に対して邪魔にならない。このため、ワークの受け渡し終了後、主軸チャック6が加工のための動作を素早く開始することができ、1ワーク当たりの加工に要するサイクルタイムが短縮され、加工の効率が向上する。
【0043】
また、開閉カバー61の支持構造を上記のようにしたため、ワーク載置台25の動作に連動して開閉カバー61を開閉させる載置台・開閉カバー連動機構65を、ワーク載置台25と干渉させずに設けることが可能となり、開閉カバーの開閉動作を駆動する駆動源が不要な簡略な構成の旋盤とすることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態にかかる主軸ピックアップ旋盤の斜視図である。
【図2】(A)は同旋盤の内部構造を示す破断正面図、(B)は同旋盤の破断側面図である。
【図3】同旋盤のワーク搬入装置およびワーク搬出装置と主軸チャックとの関係を示す破断平面図である。
【図4】ワーク搬入装置の一状態を示す斜視図である。
【図5】ワーク搬入装置の異なる状態を示す斜視図である。
【図6】ワーク搬入装置のさらに異なる状態を示す斜視図である。
【図7】ワーク搬入装置の側面図である。
【図8】(A)はワーク載置装置の平面図、(B)は一部を拡大して表示した同ワーク載置装置の一部断面側面図、(C)は同ワーク載置装置の異なる状態を示す要部の断面側面図である。
【図9】(A)は主に開閉カバーおよび載置台・開閉カバー連動機構の一状態を示す正面図、(B)はその平面図である。
【図10】(A)は主に開閉カバーおよび載置台・開閉カバー連動機構の異なる状態を示す正面図、(B)はその平面図、(C)は開閉カバーの開閉途中の状態を示す平面図である。
【図11】異なるワーク載置装置の要部の断面側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…旋盤
2…工作機械本体
3…機体カバー
4…制御盤
5…操作盤
6…主軸チャック(ワークピックアップ装置)
7…工具支持手段
8…主軸移動手段(ワークピックアップ装置)
9…ベッド
11…ワーク搬入装置
12…ワーク搬出装置
25…ワーク載置台
27…内外載置台位置切換機構
28…前後載置台位置切換機構
31…ワーク載置台傾斜許容支持手段
33…ガイド孔
34…昇降ガイド
37…圧縮バネ(弾性手段)
38…位置決め凹部(位置決め手段)
39…位置決めピン(位置決め手段)
61…開閉カバー
65…載置台・開閉カバー連動機構
R…加工領域
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降自在なワークピックアップ装置に供給するワークを載置するワーク載置装置であって、
ワークを載置するワーク載置台と、ワーク載置台傾斜許容支持手段および弾性部材を介してワーク載置台を支持するベース部材とを備え、
前記ワーク載置台傾斜許容支持手段は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワーク載置台のワーク載置面が水平に対して傾斜することを許容するものであり、
前記弾性部材は、ワークピックアップ装置が下降してワーク載置台のワークをピックアップする際に、ワークピックアップ装置の下降に抗してワークをワークピックアップ装置に押し付けると共に、ワークピックアップ装置が上昇した際にはワーク載置台を水平に保持するものであるワーク載置装置。
【請求項2】
前記ワーク載置台傾斜許容支持手段は、前記ベース部材の孔と、この孔の内側面に対して隙間をもって挿入された、ベース部材に対して昇降自在なワーク載置台の昇降ガイドとよりなり、ワーク載置台をベース部材に対して水平移動可能な状態で支持するものである請求項1記載のワーク載置装置。
【請求項3】
前記ワーク載置台の上昇状態でワーク載置台とベース部材とを水平移動不能な係合状態とし、ワークピックアップ装置の下降による前記ワーク載置台の下降によって前記係合状態が解消されてワーク載置台傾斜許容支持手段を有効とする位置決め手段を設けた請求項2記載のワーク載置装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3記載のワーク載置装置を備えた主軸ピックアップ旋盤であって、前記ワークピックアップ装置は、旋盤の主軸を昇降駆動可能とした主軸装置である主軸ピックアップ旋盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−98530(P2007−98530A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293344(P2005−293344)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】