説明

上一重下二重式植木鉢

【課題】 高山植物等の栽培困難な植物を、永きに渡り栽培するには、夏期は鉢内の温度を上げず、春から初秋は株元や根元の腐敗を防ぎ、特に最も腐敗し易い梅雨期においては、根先の方から水を供給する。という課題を解決することが最も重要である。次に、植物に持続する新鮮な水を供給し、冬期には乾燥させずに凍結させない事が重要である。植物を以上のような管理が出来る植木鉢が必要である。
【解決手段】 底部に孔が開いている植木鉢の内側に、これと一体となり、その開口周縁よりも低い位置、又は高い位置に、筒状態を形成してある全体が透水性の素材からなる上一重下二重式植木鉢を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高山や亜高山及び寒冷地に産する好水性の植物を温暖な低地で栽培する場合の園芸用の植木鉢に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高山植物等、低地の暑さを嫌う植物を栽培する場合、一番問題になるのは、春の後半から初秋までの暑さ対策であり、特に、梅雨から夏の終わりまで、いかに蒸れによる株元(根と茎の接点から地上に出るまでの茎の部分)や根元(茎の近くの根の部分)を腐敗から守るかにある。
【0003】そのような高山植物等を栽培しようとした場合に、現在、市場に出回っていて使用が可能な鉢に断熱鉢及びもみがら鉢、並びに水冷鉢がある。断熱鉢及びもみがら鉢は、透水性のある多孔質の陶質で作られた肉厚一重の一般的な形式の植木鉢で、その特徴として、給水時の鉢からの気化熱を利用する事で鉢内の温度が上がりにくくする事と多孔質の肉厚の鉢の壁を断熱材として利用する事で外部の熱を遮断する効果を持つ鉢である。又、水冷鉢は上記断熱鉢底部に貯水槽を持たせることで、水冷効果を断熱鉢よりも積極的に利用するとともに、その効果を持続するようにしたものである。
【0004】しかしながら、断熱鉢及びもみがら鉢は断熱効果は認められるものの、水冷効果は一時的で持続性に問題がある。水冷鉢は持続性は改善されたが貯水槽が鉢の底部の培養土よりも下の位置にあるため、その有効性、効率性に問題が残るところである。また、高山植物等を永きに渡り栽培する場合、自生地の環境から、低地での暑さ対策ばかりでなく、解決しなければならない諸課題が残されている。
【0005】その他に使用に向くと思われるものに、市場には出回ってないが、団地のベランダやコンクリートの所での使用のため、暑さや水涸れのため発明された二重壁の植木鉢に実開昭63−53239がある。それは鉢の内側に隙間をあけて透水性の内壁を設け、その隙間に水苔やスポンジの保水性の充填物を入れ水を含ませる事により、それらの充填物から蒸発する気化熱を利用する事により鉢内の温度上昇を押さえ、また充填物から内壁内に浸透する水を利用して渇水から守ろうとするものである。
【0006】この鉢で高山植物等を栽培しようとする場合は、一番問題となる株元や根元の腐敗であるが、この方式では、腐敗から免れることは困難である。また、次に問題となる鉢内の温度管理に関しては、充填物から蒸発する気化熱利用の温度低下だけでは不十分であり、夏期においての栽培は困難である。
【0007】
【発明が開発しようとする課題】オゾン層の破壊、酸性雨、地球温暖化、ダイオキシン、環境ホルモン問題等に代表されるように昨今の地球規模での環境の悪化は進む一方で、ここのところ地球上から姿を消そうとしている動植物は計り知れないものと思われる。また、人間特有行為、趣味での栽培や飼育により消耗され絶滅に拍車をかけているものも多くあると思われる。そこで早急に行わなければならない事は、趣味等のため人が手にしてしまったものを、消耗することなく、増殖して次世代に引継ぎ、二度と自然界から供給されることが無いようにする事である。次に行わなければならない事は、地球環境の悪化により、姿を消そうとしている動植物に一時的に手を差しのべ、人工的に飼育及び栽培し、その種を保存するとともに増殖させ地球環境の回復時に自然に戻し後世に残して行く事が、環境を破壊してしまつた今、人類に突きつけられた課題である。そのため、飼育や栽培による増繁殖の確立のための、ハード、ソフト両面の早急な開発が必要である。
【0008】この発明は、前記に記した、趣味での栽培で消耗されていく高山植物等を永く栽培出来るようにするための、ハード面の植木鉢の開発に関するものである。高山植物が生育する高山は、ほとんどの日は雲に覆われており、雨や霧により多量の水が供給されるが、広大な地球上の高い山に生育しており、その水は留まることなく大地に吸収され川や地下水となる。また、夏晴れた日は太陽光は強烈ではあるが気温は上昇しないため、低地でのように、蒸れて腐る様な事もなく、梅雨期の高湿度でも同様で腐ることはない。また、冬期は雪で覆われて、かなり暖かくなるまで雪が融けることがないので、植物が乾燥したり、凍ってしまう様な事はない。
【0009】このような高山での自然条件を考慮すると市販されている断熱鉢及びもみがら鉢、並びに水冷鉢は高山植物を永く栽培するには、断熱水冷効果のみでは不十分である。もちろん現在の水冷効果をもっと高め、次の三点の機能をもたせる事が必要不可欠である。即ち■梅雨期の蒸れを防ぎ株元の腐敗防止できる仕組み。■新鮮な水を持続的に補給できる仕組み。■冬季の乾燥から植物を守り、凍結防止できる仕組みである。なお、■梅雨期の蒸れを防ぎ株元や根元の腐敗防止は、この時期、低地の高温多湿の気候では、鉢内は鉢周辺壁の気化熱で温度上昇を抑える事の難しい時期であり、特に植物と、湿度を持つ培養土と、暖まった外気温、の三つが集中する株元や根元は、最も腐れ易いところで、加湿にならないようにしなければならず、培養土の上部から水をやらずに、培養土の中下部から給水できるようにして根先の方から与えてやらなければならない。
【0010】二重壁の植木鉢、実開昭63−53239においては、充填物からの気化熱利用でなく、外側の鉢全体から気化熱が発せられ鉢全体が温度低下出来るように改めなければ高山植物等の栽培は困難であり、特に株元等の腐敗については、水源が高い位置まであるので常に湿潤となり、低地では、梅雨期のみならず春から初秋までは株元等を腐敗から守る事は難しく、高山植物の栽培には不向きであるため、鉢の上部はもっと乾きやすくなる仕組みにしなければならない。
【0011】
【課題を解決するための手段】前掲までの諸課題を解決するために、底部に孔が開いている植木鉢の内側に、これと一体となり、その開口周縁よりも低い位置、又は高い位置に、筒状態を形成してある全体が透水性の素材からなる上一重下二重式植木鉢を提供する。
【0012】
【発明の実施形態】本発明の上一重下二重式植木鉢の素材は、焼き締めてあるが透水性のある陶製のものを基本にしているが、同じ陶製の堅焼きの素焼きのもの、他のセラミック類、コンクリート類、木や紙の加工品等の透水性のあるものを用いる。以下図面を参照しながら本発明を説明する。図1や図2が示すように、開口周縁が小さく低い内鉢1と大きくて高い外鉢2からなる底部が一体の植木鉢で、これを横から見ると、上部が一重部分5、下部が二重部分6からなる植木鉢である。内鉢と外鉢の間が貯水部3となり、内鉢内の底に排水孔4がある。
【0013】図2の基本となる上一重下二重式植木鉢に植栽したものが図3である。潅水した水は、内鉢1の中に入る水と貯水部3に入る水とに分かれる。内鉢に入った水は、培養土7や植物の根に吸収され余った水は排水孔4から流れ出る10。貯水部に入った水はそこに一旦貯水される。
【0014】鉢の上部である一重部分5は鉢内の上部からと側面から気化する水11により気化熱が奪われる事により、腐れ易い株元や根元の温度を下げながら水が気化して水分が少なくなる事により、過湿にならない機能を持つ。その二つの効果により春から初秋まで株元等の腐敗を防止する事ができる。それに対して鉢の下部の二重部分6は、貯水部3により一旦貯水された水が、貯水部に入っている培養土7と透水性のある内鉢1の壁を通り、浸み出る事により濾過され新鮮な水となり内鉢内の排水孔から流れ10出る事により、根に持続的に補水できる機能を持たせ、透水性のある外鉢2の壁から絶えず浸み出し気化11する事により、鉢内全体の温度を持続的に低下させる機能を持つ。
【0015】また、貯水部の内鉢1の壁の透水性を利用し、貯水部3の培養土に活性炭や炭を混入12したり、貯水部全部を活性炭等にする事で根に、より新鮮な水を持続的に与える機能を持たせたり、石灰岩や蛇紋岩の石粒、並びに肥料やホルモン等を混入12する事で、その水に溶け込む成分を、間接的でソフトな効果を持続的に植物の根に与える機能を持たせる事もできる。
【0016】梅雨期は主に貯水部3に水を補給する事により、腐りやすい株元等に水を掛ける事なく貯水部から内鉢1内に浸み出す水を根の先から供給する機能を持たせる事ができる図4(a)。その事により一番蒸れに弱い株元等は、少し乾いた状態で十分な給水が可能となった事により、この時期の株元等の腐敗の心配がなくなった。
【0017】冬期においては、内鉢内の植物中心に給水する事により、水は直ちに内鉢1内の排水孔4より流れ出てしまうため、貯水部3や外鉢2には水がほとんど行く事なく図4(b)、内鉢内には水が行き渡るため乾燥する事なく、水の行きにくい貯水部3や外鉢2が断熱材となり、外の寒さを防ぎ凍結から守る。という二つの機能を併せ持つ事ができる。
【0018】図5の示すような、開口周縁が小さく高い内鉢1と、大きくて低い外鉢2の上一重下二重式植木鉢は図2(a)の基本形のものと比較すると上部の一重部分はもっと乾燥し易く暖まり易い機能を持ち、植栽する植物も、少し乾燥を好むものに効果が発揮できる。また、貯水部に入る培養土に活性炭や炭を多目に混入して水を貯めれば、内鉢側に外鉢側に植えた植物の根から出る老廃物の影響もなく貯水部が鉢として使え、水の好み具合の違う二種類の植物を一緒に栽培することができる。外側が他の植物に覆われる事により、内鉢側に植える植物の環境(乾燥具合、空中湿度、温度)をソフトにする効果が生じ、極僅かではあるが、自然状態に近づいただけで内鉢側は、栽培し易いものに変化する。また、混植した場合と異なり、壁で仕切があるため片方の植物が負けてしまうような事はない。
【0019】図6は図2の基本形の上一重下二重式植木鉢の内鉢の開口周縁をもっと小さく高さを低くした鉢の断面図である。そうする事によって、この鉢の上部の一重部分は大きくなり、下の二重部分は小さくなる。(貯水部の高さが減り、幅は増す)その結果、図2に示した基本形の鉢より鉢の上部から中部まで乾きやすくなるが下部は、しっかりと湿潤を維持する機能を持ち、貯水部を内蔵した方式であるため図5に示した鉢よりも鉢の上部の温度は上がりにくい機能を持つている。
【0020】図7は図2の基本形の上一重下二重式植木鉢の内鉢を開口周縁をもっと大きく高さを高くした鉢の断面図である。そうする事によって、この鉢の上部の一重部分は小さくなり下の二重部分は大きくなる。(貯水部の高さが増し、幅は減る)その結果、図2に示した基本形の鉢より鉢の上部まで湿潤に保つ事ができ、乾くのは上部のみとなり、その水冷効果も大きくなるが、持続性が短いという機能を持つ事になる。
【0021】
【発明の効果】内鉢と外鉢を同一の透水性のある素材を使い、植木鉢の構成を上方を一重、下方を二重した。その結果、外鉢の外面がすべて透水性のある壁面で覆われているので、外面全体から水が気化し熱が奪われるため鉢内全体の温度を下げる事ができる。また、貯水部が鉢の下部の植物の入る内鉢の外側に張り巡らされ外部と接しているため、その温度低下の効果は大きく、貯水方式であるため、持続性がある。高山植物等の栽培上、もっとも難問である株元等の腐敗は、鉢の上部を一重にする事でその側面や上部からの気化で温度を下げながら、培養土の上部を乾燥し易いものにする事で防止できるようになつた。それに対して、いつも湿潤を好む根の下部に対しては、二重にし貯水部とする事で、内鉢内には絶えず水が浸み出し排水孔から水が出ていく事により、いつも新鮮な水が補給でき、根腐れする事もなく湿潤を保てるようになった。また、一番栽培の難しい梅雨時は根の方からの給水が可能となったので、永い期間の温暖な低地での高山植物等の栽培が容易になり、人工増殖への道が開かれた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢の全体斜視図である。
【図2】(a)本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢の断面図である。
(b)本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢の平面図である。
【図3】本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢に植栽した時の断面図である。
【図4】(a)本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢の梅雨期の潅水とその機能を示した断面図である。
(b)本発明の基本となる上一重下二重式植木鉢の冬期の潅水とその機能を示した断面図である。
【図5】本発明の内鉢が外鉢よりも高い上一重下二重式植木鉢の断面図である。
【図6】本発明の内鉢が基本形よりも周縁が小さく、高さも低い、上一重下二重式植木鉢の断面図である。
【図7】本発明の内鉢が基本形よりも周縁が大きく、高さも高い、上一重下二重式植木鉢の断面図である。
【符号の説明】
1 内鉢
2 外鉢
3 貯水部
4 排水孔
5 一重部分
6 二重部分
7 培養土
8 軽石等での断熱
9 植物
10 水の流れ
11 水の気化
12 活性炭等や石灰石等

【特許請求の範囲】
【請求項1】 底部に孔が開いている植木鉢の内側に、これと一体となり、その開口周縁よりも低い位置に、筒状態を形成してある全体が透水性の素材からなる上一重下二重式植木鉢。
【請求項2】 植木鉢の内側の筒状態が開口周縁よりも高い位置に筒状態を形成してある請求項1の上一重下二重式植木鉢。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−95356(P2002−95356A)
【公開日】平成14年4月2日(2002.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−335232(P2000−335232)
【出願日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【出願人】(500508567)
【Fターム(参考)】