説明

不均一系触媒を用いたアルキル基置換化合物の製造方法

【課題】不均一系触媒である金属酸化物担持酸化ルテニウム触媒を用いた反応系で、高収率のアルキル基置換化合物を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】ベンゼン環またはヘテロ環を有するケトン化合物とビニルシラン化合物を酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下反応させる例えば、下記反応式(B3)に示したような方法によりアルキル基置換化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物に担持したルテニウム触媒である不均一系触媒を用いたアルキル基置換化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成化学は我々の生活に密接に関連しており、より環境負荷の小さな有機合成プロセスの開発と、こうしたプロセスを可能にする新触媒の開発は重要な課題である。これまで有機合成化学においては、主として厳密な触媒活性点構造の制御が容易な均一系錯体触媒を用いる反応の開発が進められてきた。中でも低原子価ルテニウム錯体触媒については、パラジウム錯体をはじめとする他の金属錯体触媒には見られない特異的な触媒機能が見出されており、アルケンやアルキンの共オリゴメリゼーション(例えば非特許文献1)や、求核的及び求電子的な付加反応(例えば非特許文献2)等、多様な合成反応に活用されている。特に近年、有機合成化学における最重要かつ最難関課題の一つである不活性な炭素−水素結合の活性化を伴う分子変換反応に対して、ルテニウム錯体触媒が高活性を有することが明らかになり、芳香族炭素−水素結合のアルケンへの付加反応に関する先駆的な報告(非特許文献3)以来、多くの関連する反応が報告されている(非特許文献4〜10)。こうしたC-H結合活性化を伴うC-C結合形成反応は原子効率の点からも極めて有効であり、合成プロセスのコストの飛躍的低減につながるものであるが、これまでは均一系金属錯体触媒の使用が不可欠と信じられていたというのが実情である。しかしながら、一般的に、均一系触媒には以下に列挙したように環境対応・実用の双方の面で制約が多く、実用に供されている例は限られている。(1)触媒製造プロセスが複雑で、一般に高環境負荷・高コストである。(2)触媒の分離回収再利用が困難であり、高環境負荷・高コストの要因となる。(3)一般に化学的・熱的に不安定で、適用できる反応条件に制限が多い。(4)一般に空気や水分に対して不安定であることが多く、取り扱いに特別な処置を要する。(5)液相プロセスに限定される。
【0003】
不均一系触媒のなかでも、金属酸化物をベースとする固体触媒は、上記の制約を解消することができることから、均一系触媒と同等あるいはこれらを上回る活性を有する固体酸化物触媒が得られれば、有機化学工業に与える影響は極めて大きい。こうした観点から有機合成反応への不均一系触媒の適用が近年特に注目されており、Kanedaら、Mizunoら、Nishimuraら、Shimizuらをはじめとする多くのグループにより、担時金属触媒による官能基変換や固体酸触媒を用いる反応等、酸化物系触媒に関する成果が報告されるようになった(例えば、非特許文献11〜13等)。しかしながら、筆者らがごく最近、酸化セリウムに担持した酸化ルテニウム触媒の有効性を報告した(非特許文献14)以外には、不活性炭素−水素結合活性化を経るC-C結合形成反応に有効な固体酸化物触媒の開発は報告されていない。ところで、非特許文献14のように、不均一系触媒として酸化セリウムに担持した酸化ルテニウム触媒を使用した場合、触媒の物理的強度の確保や、最適な触媒表面状態の制御という点では、未だ改善の余地がある。
【非特許文献1】H. Tsujita et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5160
【非特許文献2】T. Kondo et al., J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 5587
【非特許文献3】S. Murai et al., Nature 1993, 366, 529
【非特許文献4】F. Kakiuchi et al., Bull.Chem. Soc. Jpn. 1997, 70, 3117
【非特許文献5】F. Kakiuchi et al., Acc. Chem. Res. 2002, 35, 826.
【非特許文献6】F. Kakiuchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 1698.
【非特許文献7】F. Kakiuchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 2706.
【非特許文献8】F. Kakiuchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 5936.
【非特許文献9】R. Martinez et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 8232.
【非特許文献10】Y. Matsuura et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 9858.
【非特許文献11】T. Nishimura et al., Synlett 2004, 201
【非特許文献12】K. Kaneda et al., Curr. Org. Chem. 2006, 10, 241
【非特許文献13】K. Kaneda, Synlett2007, 999
【非特許文献14】H. Miura et al., Abstract of 5th International Conference on Environmental Catalysis, Belfast, 31st August - 3rd September, p.145, 2008, Belfast, UK.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、不均一系触媒である金属酸化物担持酸化ルテニウム触媒を用いた反応系で、高収率のアルキル基置換化合物を得ることのできる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、不均一系触媒を用いた反応系において、アルキル基置換化合物を得ることができる製造方法を見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の製造方法に係る。
【0007】
項1.式(1a):
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1a)中、Rは水素原子であり、
及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、Rは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基又は、
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環であり;
Aは、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子及び式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり、
は、炭素原子又はヘテロ原子である(ただし、Zがヘテロ原子である場合は、Rは置換されない))、
式(1b):
【0010】
【化2】

【0011】
(式(1b)中、R及びRは式(1a)と同じであり、
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基又は、
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基であり、
は、炭素原子又は窒素原子であり、
nは、1又は2であって、Zが炭素原子である場合は、nは2であって、Rは同じであっても異なっていてもよく、
が、窒素原子である場合は、nは1である)
又は、
式(1c):
【0012】
【化3】

【0013】
(式(1c)中、R1及びRは式(1a)と同じであり、
は式(1b)と同じであり、
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基である)
で表される化合物(1)と、
式(2):
【0014】
【化4】

【0015】
(式(2)中、B1〜Bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、
又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基
で表される化合物(2)を、
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする、
式(3a):
【0016】
【化5】

【0017】
(式(3a)中、A、Z、R及びRは式(1a)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
、式(3b):
【0018】
【化6】

【0019】
(式(3b)中、Z、R、R、R及びnは式(1b)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
又は式(3c):
【0020】
【化7】

【0021】
(式(3c)中、R、R及びRは式(1c)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)の製造方法。
【0022】
項2.化合物(2)の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.1〜10 molである項1記載の製造方法。
【0023】
項3.酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したルテニウム(Ru)触媒の配合量が、化合物(1)1molに対して、触媒中のRuの量が0.0001〜0.2 molとなるように配合する項1又は2記載の製造方法。
【0024】
項4.更にホスフィン、ホスファイト、及びホスフィンオキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合する項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
項5.リン化合物の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.001〜0.5 molである項4に記載の製造方法。
【0026】
化合物(1)は、Rが置換されている炭素がsp炭素、すなわち二重結合にかかわる炭素であればよく、式(1a):
【0027】
【化8】

【0028】
、式(1b):
【0029】
【化9】

【0030】
、又は
式(1c):
【0031】
【化10】

【0032】
によって表される。
【0033】
式(1a)中、Rは、金属酸化物担持Ru触媒によって炭素―水素結合が活性化を受け、アルキル基が置換される反応部位であるという観点から、水素原子である。
【0034】
及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、Rは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基である。
【0035】
及びRにおけるハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、ジブロモメチル基、ジクロロメチル基、2−クロロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、3−クロロプロピル基、2,3−ジクロロプロピル基、4,4,4−トリクロロブチル基、4−フルオロブチル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基が挙げられる。
【0036】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、フルオロメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジブロモメトキシ基、ジクロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、3−クロロプロポキシ基、2,3−ジクロロプロポキシ基、4,4,4−トリクロロブトキシ基、4−フルオロブトキシ基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルコキシ基が挙げられる。
【0037】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、iso-プロピルカルボニル基、n-ブチルカルボニル基、iso-ブチルカルボニル基、sec-ブチルカルボニル基、tert-ブチルカルボニル基、トリフルオロメチルカルボニル基、トリクロロメチルカルボニル基、クロロメチルカルボニル基、ブロモメチルカルボニル基、フルオロメチルカルボニル基、ヨードメチルカルボニル基、ジフルオロメチルカルボニル基、ジブロモメチルカルボニル基、ジクロロメチルカルボニル基、2−クロロエチルカルボニル基、2,2,2−トリフルオロエチルカルボニル基、2,2,2−トリクロロエチルカルボニル基、3−クロロプロピルカルボニル基、2,3−ジクロロプロピルカルボニル基、4,4,4−トリクロロブチルカルボニル基、4−フルオロブチルカルボニル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキルカルボニル基が挙げられる。
【0038】
アミノ基としては、例えば式:−NH、−NHR、−NR(式中、Rは、低級アルキル基であり、Rの数が2である場合、低級アルキル基は同じであっても異なっていてもよい)で表されるものが挙げられる。式中、Rにおける低級アルキル基の具体例としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0039】
不飽和複素環としては、5〜10員環、好ましくは5〜6員環のものが挙げられ、具体的には、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0040】
芳香環としては、5〜14員環のものが挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。
【0041】
アミド基としては、低級アルキル基が置換されていてもよく、置換されていてもよい低級アルキル基としては、前記のものと同様のものが挙げられる。
【0042】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0043】
式(a):−Si(R(ORa3−mで表される基におけるRとしては、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である。低級アルキル基又は芳香環の具体例としては、前記のものが挙げられる。
【0044】
式(a)の具体例としては、例えばトリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基等が挙げられる。
【0045】
又、前記R及びRは、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環であってもよい。
【0046】
前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環としては、シクロペンテン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素環、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等の不飽和複素環;ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等の芳香環等が挙げられる。
【0047】
前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環に置換されていてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;アミノ基;ヒドロキシル基;カルバモイル基;不飽和複素環;芳香環;ニトロ基:アミド基;エステル基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;シアノ基;ハロゲン原子;式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基等が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0048】
Aは、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環である。
【0049】
前記不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等の不飽和複素環;ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等の芳香環等が挙げられる。
【0050】
前記不飽和複素環又は芳香環に置換されていてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;アミノ基;ヒドロキシル基;カルバモイル基;不飽和複素環;芳香環;ニトロ基:アミド基;エステル基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;シアノ基;ハロゲン原子;式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基等が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0051】
は、炭素原子又はヘテロ原子である。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。また、Zがヘテロ原子である場合は、前記Rは、有さない。
【0052】
式(1a)の具体例としては、式:
【0053】
【化11】

【0054】
(式中、R〜Rは前記式(1a)と同じであり、Zはヘテロ原子であり、pは1〜3の整数であり、qは1〜5の整数であり、rは1〜6の整数であり、sは1又は2であり、R’及びR”は、それぞれ、前記式(1a)のRで挙げられた置換基と同様のものであり、p、q、r及びsがそれぞれ2以上である場合は、R’は同じであっても異なっていてもよい)
等が挙げられる。
【0055】
式(1b)中、R及びRは、式(1a)と同じものが挙げられる。
【0056】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0057】
また、R及びRは、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であってもよい。
【0058】
前記飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
【0059】
前記飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環及びこれらの環において置換されていてもよい置換基の具体例としては、前記R及びRの置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環及びその置換基と同様のものが挙げられ、さらに加えて、シクロヘキサン、シクロペンタン等の飽和炭化水素環などが挙げられる。
【0060】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基である。これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0061】
は、炭素原子又は窒素原子であり、nは、1又は2であって、Zが炭素原子である場合は、nは2であって、Rは同じであっても異なっていてもよく、Zが、窒素原子である場合は、nは1である。
【0062】
式(1c)中、R1及びRは式(1a)と同じである。また、Rは式(1b)と同じである。
【0063】
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0064】
化合物(2)は、式(2):
【0065】
【化12】

【0066】
によって表される。
【0067】
式(2)中、B1〜Bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、Rと同様のものが挙げられる。
【0068】
〜Bの中で、少なくとも1つが式(a)で表される基を有し、かつ、他の置換基が水素原子であることが、化合物(3)の収率を向上させるという点で好ましく、具体的には、式:
【0069】
【化13】

【0070】
(式中、R及びmは、前記式と同じである)
がより好ましい。
【0071】
化合物(2)の配合量は、特に限定されるものではなく、工業的観点から、未反応原料が残らないようにするという観点から、化合物(1)1molに対して、等量配合してもよく、また、化合物(1)又は化合物(2)のいずれかを大過剰配合してもよい。なお、化合物(1)1molに対して、0.1〜10mol、好ましくは1〜4 mol、より好ましくは1〜2molの化合物(2)を配合してもよい。
【0072】
本発明の化合物(3)の製造は、酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したRu触媒の存在下で行われる。ここで、Ruが担持している金属酸化物(複合酸化物)は、一般的に機械的強度が高く、触媒として利用した際の触媒の摩耗や粉化等によるロス及び製品への混入等の不利を避けることができるという点、及び酸化セリウムが3価と4価の双方をとりうる不定比酸化物であるために触媒表面の状態の制御がやや困難であるのに対して、高活性を有する触媒調製が容易であるという観点から酸化ジルコニウム及び酸化ジルコニウムを含む複合酸化物である。ここで、酸化ジルコニウムを含む複合酸化物とは、酸化ジルコニウムと他の金属酸化物との複合体を意味する。酸化ジルコニウム以外の他の金属酸化物としては、例えば、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化イットリウム(YSZ)、酸化チタン、酸化タングステン、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0073】
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物その前駆体として、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩等の金属塩を用い、加水分解後に空気中で焼成させることによって得られる。
【0074】
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持されたRu触媒としては、Ru前駆体を溶媒に溶解させ、その溶液中に酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物を含浸させた後に焼成することによって得られる。
【0075】
Ru前駆体としては、Ru3(CO)12、[RuCl2(CO)3]2、テトラクロロビス(p−シメン)二ルテニウム(以下、[RuCl2(p-cymene)]2ともいう)、RuCl3nH2O、(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)錯体(以下、Ru(cod)(cot)ともいう)、トリアセチルアセトネートルテニウム、ヨウ化ルテニウム等が挙げられるが、目的化合物の収率を向上させる観点から、具体的には、Ru3(CO)12が好ましい。Ru前駆体を溶解させる溶媒としては、テトラヒドロフラン(以下、THFともいう)等のエーテル系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。これらの中で、特に、Ru前駆体として、Ru3(CO)12を用いる場合には、得られる触媒中酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物の表面上にRuを高分散させるために、THF等がより好ましい。
【0076】
Ru前駆体の溶液中に酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物を含浸させた後の焼成温度としては、300〜700℃が好ましく、400〜500℃がより好ましい。
【0077】
金属酸化物に担持されたRu触媒における、Ruの担持割合は、反応に要する固体触媒の量を減らすことで触媒にかかるコストを低減する点において良好であるという点から、触媒中、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、Ruの担持割合は、触媒表面上に原子レベルで高分散したRu種を形成する点において良好であるという点から、触媒中、20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持されたRu触媒は、表面にメソ細孔を豊富に有しているものであり、表面のメソ細孔によって反応基質や生成物の拡散が円滑に進行し、かつ表面積が大きいため、触媒活性が向上するものと推測される。Ru触媒の窒素吸着比表面積(BET比表面積)は、10m2g-1以上が好ましく、100m2 g-1以上がより好ましい。また、メソ細孔の直径は、2〜20nm程度が好ましく、4〜10nm程度がより好ましい。
【0079】
本発明のRu触媒は、担持される酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物の表面上に高分散しているものと考えられ、触媒表面のRu=O種が反応開始直後に還元されて低原子価Ru種が発生し、これが触媒活性種として機能するものと推察される。
【0080】
化合物(3)を製造する際の酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持されたRu触媒の配合量は、化合物(1)1molに対して、触媒中のRuの量が0.0001〜0.2 molとなるように配合することが好ましく、0.0005〜0.025 molがより好ましい。Ru触媒の配合量が、触媒中のRuの量で0.0001mol未満であると、反応時間当たりの化合物(3)の収率が低下する傾向があり、一方、0.2 molを超えると、触媒に含まれる単位Ru量当たりの化合物(3)の収率が低下し、必要なRu量が増加する傾向がある。
【0081】
また、本発明の製造方法において、Ruオキソ種から低原子価Ru種への還元を促進する効果と、触媒表面上のRu種に配位してRu種の電子状態を変化させたり、基質や生成物のRu種への配位状態を適切な状態に制御するというメカニズムより、化合物(3)の収率を向上させることができるという点から、ホスフィン、ホスファイト、ホスフィンオキシド等のリン化合物を配合することが好ましい。ホスフィンの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、トリ−p−トリルホスフィン(P(p-tolyl)3)、トリス(4−フルオロフェニル)ホスフィン(P(p-F-C6H43)、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン(P(p-CF3-C6H43)、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン等が挙げられ、ホスファイトの具体例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等が挙げられる。これらの中で、化合物(3)の収率の向上において良好であるという点から、PPh3がより好ましい。
【0082】
前記リン化合物の配合量としては、化合物(1)1molに対して、0.001〜0.5 molが好ましく0.01〜0.1 molがより好ましい。
【0083】
本発明の製造方法において、反応系中に水が少量含まれていても、反応が進行し、化合物(3)を製造することができる。また、反応系中は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
【0084】
また、本発明は、有機溶媒の存在下で化合物(3)を製造してもよく、また、無溶媒下で化合物(3)を製造してもよい。
【0085】
有機溶媒の存在下で化合物(3)を製造する場合、有機溶媒としては、メシチレン、キシレン、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、n-オクタン、n-デカン等の無極性溶媒; N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、THF、ジオキサン、塩化メチレン等の極性溶媒が挙げられるが、これらの中で、化合物(3)の収率が向上するという点において、無極性溶媒であることが好ましく、具体的には、メシチレンが特に好ましい。
【0086】
反応温度は、100〜200℃程度であることが好ましく、130〜170℃程度であることがより好ましい。
【0087】
反応時間は、特に制限されるものではないが、4〜72時間程度が好ましく、18〜24程度がより好ましい。反応時間が4時間未満であると、出発物質である化合物(1)及び(2)の大部分が未反応のままとなる等の傾向があり、反応時間が72時間を超えると、反応系の効率が低下する傾向がある。
【0088】
本発明の製造方法により、式(3a):
【0089】
【化14】

【0090】
(式(3a)中、A、Z、R及びRは式(1a)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
、式(3b):
【0091】
【化15】

【0092】
(式(3b)中、Z、R、R、R及びnは式(1b)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
又は式(3c):
【0093】
【化16】

【0094】
(式(3c)中、R、R及びRは式(1c)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)が製造される。
【0095】
本発明で用いられるRu触媒は、酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持された不均一系の触媒であるため、本発明の製造方法は、固相−液相プロセスにおいて行われる。そのため、例えば、本発明の金属酸化物に担持されたRu触媒をカラム等に詰め、出発物質等を流して、化合物(3)を得るといった連続的に反応を行う方法や、溶液中に分散させて反応後にろ過や傾斜法によって触媒と生成物を分離する方法等に応用することが可能である。
【発明の効果】
【0096】
本発明によると、不均一系触媒である金属酸化物担持Ru触媒を用いた反応系において、高収率のアルキル基置換化合物を製造することができる。また、本発明の製造方法で使用されるRu触媒は、金属酸化物に担持された不均一系触媒であるため、空気や水分に対して安定であり、取り扱いに特別な処置を要しない。また、従来用いられている均一系触媒を用いた製造と比較して、本願発明の製造方法によって製造される化合物(3)は、残存する触媒量が非常に少なく、残存する触媒量を除去する工程を大幅に削減することができる。
【0097】
また、不均一系触媒は、分離回収が容易であり、再利用することができると予想されるため、本発明の製造方法は、低コスト化において期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0098】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0099】
合成例1(Ru/ZrO2の調製)
(i)ZrO2の調製
オキシ硝酸ジルコニウム2水和物10.85 gを水400 mLに溶解させ、28%アンモニア水溶液を50 mL加えて2 時間攪拌させた。沈殿をイオン交換水で洗浄し、80 ℃で一終夜乾燥させたのち、空気中500 ℃にて30分間焼成しZrO2とした。
【0100】
(ii)Ru/ZrO2の調製
Ru3(CO)12(Strem社製)をRuとして2質量%の担持量になるようにテトラヒドロフラン約10 cm3に溶かし、1.0 gのZrO2を加え室温で含浸し、蒸発乾固させ、空気中400 ℃にて30分焼成してRu/ZrO2とした。
【0101】
実施例1
磁気回転子を入れた20 cm3のPyrex製反応容器に、合成例1で調製した2.0質量% Ru/ZrO2触媒(Ruとして0.025 mmol)を加え、アルゴン(以下、Arともいう)置換後、反応式(A)及び表1に示す量のトリフェニルホスフィン(以下、PPh3ともいう)、α-テトラロン (1)、トリエトキシビニルシラン(2)及び溶媒としてメシチレンを加え、Ar雰囲気下、表1に示す反応温度で24時間反応を行い、反応式(A)に示すビニル基に芳香族C-H結合が位置選択的に挿入された化合物(3)を合成した。なお、Ar雰囲気下で反応を行う際に、反応容器にArを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3)の定性、定量は、NMR(日本電子製のEX400)、GC-MS(島津製作所製のQP2010)及びGC(GLサイエンス社製のGC353)を用いた。
【0102】
実施例1の反応式を反応式(A)に示し、実施例1によって得られた化合物(3)の収率を表1に示す。
【0103】
合成例2-1〜2-7(Ru触媒(Ru/HfO2、Ru/Tb4O7、Ru/Pr6O11、Ru/SiO2、Ru/TiO2、Ru/Al2O3及びRu/MgO)の調製)
ZrO2に代えて金属酸化物であるHfO2(Wako)(合成例2-1)、Tb4O7(Wako)(合成例2-2)、Pr6O11(Wako)(合成例2-3)、SiO2(cabosil)(合成例2-4)、TiO2(P-25)(合成例2-5)、Al2O3(ALO-8)(合成例2-6)及びMgO(Wako)(合成例2-7)をそれぞれ用いた以外は、合成例1と同様の方法にてRu触媒を調製した。
【0104】
比較例1〜7
Ru触媒として合成例2-1〜2-7で調製したRu触媒をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0105】
比較例1〜7の反応式を反応式(A)に示し、比較例1〜7によって得られた化合物(3)の収率を表1に示す。
【0106】
【化17】

【0107】
【表1】

【0108】
(結果と考察)
表1において、本反応に有効性を示したのは、Ru触媒としてRu/ZrO2を用いた系のみであり、ZrO2の担体とRu種から特異的な活性種が得られるものと推察される。
【0109】
実施例2〜8
化合物(1)(Ketone)として式(B2)に示すものとし、反応式(B1)に示すRu/ZrO2(合成例1によって合成)を用い、化合物(1)、化合物(2)、及びメシチレンの量、並びに反応温度及び反応時間を反応式(B1)に示すものとした以外は、実施例1と同様の方法にて式(B2)に示す化合物(3)を合成した。
【0110】
得られた化合物(3)について、GCMS分析におけるピーク強度から以下の評価を行った。
【0111】
○:収率が50%以上である。
△:収率が50%未満であるが、最適化を行うことによって収率が50%以上となる。
▲:化合物(3)の生成量は少ないが、GCMSでピークは確認でき、化合物(3)が生成していることが確認できた。
【0112】
Trace:化合物(3)の生成量は極めて少ないが、GCMSでピークは確認でき、化合物(3)が生成していることが確認できた。
【0113】
評価結果を式(B2)に示す。
【0114】
【化18】

【0115】
【化19】

【0116】
実施例9
化合物(1)として1-(ナフタレン-1-イル)エタノン、化合物(2)としてジメチルエトキシビニルシランを用い、Ru/ZrO2(合成例1によって合成)を用い、化合物(1)、化合物(2)、K2CO3、及びメシチレンの量、並びに反応温度及び反応時間を反応式(B3)に示すものとした以外は、実施例1と同様の方法にて化合物(3)を合成した。
【0117】
得られた化合物(3)について、実施例2と同様にGCMS分析におけるピーク強度から評価を行った。その結果、実施例9の評価は、○となった。
【0118】
【化20】

【0119】
(結果と考察)
実施例2〜9より、化合物(2)としてビニルシラン類を用いた場合、化合物(1)として多様な芳香族ケトンが適応可能であり、目的とする化合物(3)が選択的に高収率で生成することが判明した。基質に応じた反応条件及び触媒の最適化によってさらに良好な収率で目的生成物が得られるものと考えられる。
【0120】
実施例10
磁気回転子を入れた20 cm3のPyrex製反応容器に、合成例1で調製した2.0質量% Ru/ZrO2触媒(Ruとして0.025 mmol)を加え、アルゴン(以下、Arともいう)置換後、反応式(C)に示す量のPPh3、α-テトラロン (1)、及びトリエトキシビニルシラン(2)を加え、Ar雰囲気下、反応式(C)に示す反応温度で24時間反応を行い、反応式(C)に示すビニル基に芳香族C-H結合が位置選択的に挿入された化合物(3)を合成した。なお、Ar雰囲気下で反応を行う際に、反応容器にArを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3)の定性、定量は、NMR(日本電子製のEX400)、GC-MS(島津製作所製のQP2010)及びGC(GLサイエンス社製のGC353)を用いた。その結果、実施例10によって得られた化合物(3)の収率は、87%となった。
【0121】
【化21】

【0122】
(結果と考察)
実施例10より、無溶媒条件下で化合物(1)に対するRu触媒の配合量及びリン化合物の配合量を大きく下げても、本反応が効率よく進行することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1a):
【化1】

(式(1a)中、Rは水素原子であり、
及びRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、Rは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基又は、
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環であり;
Aは、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子及び式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和複素環若しくは芳香環であり、
は、炭素原子又はヘテロ原子である(ただし、Zがヘテロ原子である場合は、Rは置換されない))、
式(1b):
【化2】

(式(1b)中、R及びRは式(1a)と同じであり、
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基又は、
及びRが、ヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有していてもよい5〜10員の飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であり;
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基であり、
は、炭素原子又は窒素原子であり、
nは、1又は2であって、Zが炭素原子である場合は、nは2であって、Rは同じであっても異なっていてもよく、
が、窒素原子である場合は、nは1である)
又は、
式(1c):
【化3】

(式(1c)中、R1及びRは式(1a)と同じであり、
は式(1b)と同じであり、
は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基である)
で表される化合物(1)と、
式(2):
【化4】

(式(2)中、B1〜Bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、
又は式(a):−Si(R(ORa3−m(式(a)中、m及びRは前記式と同じ)で表される基
で表される化合物(2)を、
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする、
式(3a):
【化5】

(式(3a)中、A、Z、R及びRは式(1a)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
、式(3b):
【化6】

(式(3b)中、Z、R、R、R及びnは式(1b)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
又は式(3c):
【化7】

(式(3c)中、R、R及びRは式(1c)と同じであって、B〜Bは式(2)と同じである)
で表される化合物(3)の製造方法。
【請求項2】
化合物(2)の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.1〜10 molである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
酸化ジルコニウム又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物に担持したルテニウム触媒の配合量が、化合物(1)1molに対して、触媒中のルテニウムの量が0.0001〜0.2 molとなるように配合する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
更にホスフィン、ホスファイト、及びホスフィンオキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
リン化合物の配合量が、化合物(1)1molに対して、0.001〜0.5 molである請求項4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−189313(P2010−189313A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35313(P2009−35313)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 国立大学法人京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻 刊行物名 京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻 修士論文要旨集 平成20年度 発行年月日 平成21年2月12日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】