説明

乗用型田植機

【課題】畦越え時等で作業者が車外から機体の走行を操作する際に、機体の蛇行や駆動力不足を未然に回避することで、作業者が機体の前方に立って走行操作を行う際の安全性が向上させる。
【解決手段】走行操作具38の不使用位置から使用位置への位置変更に連動してデフロック機構を作動させる連動操作機構90を設ける。また、走行操作具38の不使用位置から使用位置への位置変更に連動して前輪の操舵を中立位置で規制するステアリングロック操作機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の走行を車外から操作する走行操作具を備えた乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場の畦越え時等、傾斜地において乗用型田植機の走行を車外から操作するにあたり、走行機体の前部に、走行機体の前方に突出して車外から操作可能な使用位置と、走行機体側に退避した不使用位置とに位置変更可能に構成した走行操作具を設け、この走行操作具で走行開始と走行停止を操作する乗用型田植機は知られている(特許文献1)。
【0003】
この種の乗用型田植機は、降車して機体の前方から走行を操作する際には前記走行操作具を機体の前方に突出させて機体から所定の距離を隔てた状態で操作して安全性を向上させ、それ以外では前記走行操作具の機体前方への突出を抑えることで機体の全長を短くして乗車しての操縦や運搬格納を容易にすることができる。
【0004】
また、走行部の浮き上がりを防止するアーム体を走行機体の前端部に設け、該アーム体の不使用位置から使用位置への回動操作で走行部に設けたデフロック機構のデフロック差動を連動させた乗用型田植機も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−166818号公報
【特許文献2】特許第4271923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の乗用型田植機は、降車して機体の走行操作を行う際に、ステアリング機構を中立に維持して前輪の操舵を規制する機構は備えているものの、前輪の差動機構を規制する機構を備えておらず、ぬかるみや凹凸に一方の前輪がとられて両前輪のグリップ力に大きな差が生じると機体が蛇行しようとしたり、一方の前輪が空転してしまった際には後輪の駆動力だけで走行しなければならなくなり、ヘッドアップの助長や駆動力不足が懸念される。
【0007】
このような状態を回避するために、前記特許文献2の乗用型田植機は走行部の浮き上がりを防止するアーム体を走行機体の前端部から大きく突出させた使用位置への回動操作でデフロックを行うようにしているが、降車して走行機体の走行を操作する際に、機体の前上がりが生じない場合にはこのようなアーム体による浮き上がり防止操作は必要ではなく、また、機体の外部からクラッチやブレーキを操作して機体の走行、及び走行停止を操作する操作具をハンドルコラムの側方位置に備えており、機体の側部で前記クラッチ・ブレーキレバーを操作してから機体の前方に回ってアーム体を使用位置に回動させるというような操作順序となるのが通常と考えられ、前記アーム体を使用位置に回動させない状態で前輪の差動が発生した場合には、前述のような蛇行や駆動力不足を防止することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、走行機体の前輪のデフによる差動を規制するデフロック機構を設け、該デフロック機構を座席に着座した状態で操作可能なデフロック操作具を設けると共に、前記走行機体の前部に、走行機体の前部より突出して走行機体の走行開始と走行停止を車外から操作可能な使用位置と、走行機体側に退避した不使用位置とに位置変更可能に構成した走行操作具を設けた乗用型田植機において、前記走行操作具の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して前記デフロック機構を作動させる連動操作機構を設けたことを特徴する。
【0009】
また、前記走行操作具の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して、前記前輪の操舵を中立位置で規制するステアリングロック操作機構を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、走行機体の前輪のデフによる差動を規制するデフロック機構を設け、該デフロック機構を座席に着座した状態で操作可能なデフロック操作具を設けると共に、前記走行機体の前部に、走行機体の前部より突出して走行機体の走行開始と走行停止を車外から操作可能な使用位置と、走行機体側に退避した不使用位置とに位置変更可能に構成した走行操作具を設けた乗用型田植機において、前記走行操作具の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して前記デフロック機構を作動させる連動操作機構を設けたので、畦越え時等で作業者が車外から機体の走行を操作する際に、機体の走行開始に先立ってデフロックを作動させることができるので、機体の蛇行や駆動力不足を未然に回避することができるので、作業者が機体の前方に立って走行操作を行う際の安全性が向上する。
【0011】
また、前記走行操作具の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して、前記前輪の操舵を中立位置で規制するステアリングロック機構を設けたので、機体の走行開始に先立って前輪の操舵と差動を同時に、且つ自動的に規制することができ、より安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の乗用型田植機の全体側面図である。
【図2】同上走行機体平面図である。
【図3】同上伝動図である。
【図4】本発明の走行操作具と主クラッチ、及びブレーキとの連携状態を示す平面図である。
【図5】本発明の走行操作具の不使用位置状態における主クラッチ、及びブレーキとの連携状態を示す側面図である。
【図6】同上使用位置状態における連係状態を示す側面図である。
【図7】走行操作具の不使用位置状態でのデフロック操作機構を示す説明図である。
【図8】同上使用位置状態でのデフロック操作機構を示す説明図である。
【図9】ステアリングロック機構を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1、図2は本発明の乗用型田植機を示す全体側面図、及び走行機体平面図であって、この乗用型田植機1は、左右一対の前輪2,2及び後輪3,3に支持された走行機体4を有し、走行機体4の後方に、昇降リンク機構5を介して植付作業機6が連結された構造となっている。
【0014】
走行機体4の中央部には、座席7を備えており、該座席7の前方にはフロント操作パネル8が設けられている。該フロント操作パネル8にはステアリングハンドル9が突設されている。該ステアリングハンドル9を旋回操作することによって、前輪2を操舵して走行機体4の操向操作を行うことができる。
【0015】
フロント操作パネル8には、主変速レバー10が左右及び前後揺動自在に設けられている。該主変速レバー10を揺動操作することにより、走行変速及び前後進の切り替えを行うことができる。
【0016】
走行機体4のフロアからは、クラッチブレーキペダル11が踏み込み操作自在に設けられており、該クラッチブレーキペダル11の操作によって、走行機体4の走行開始、及び走行停止を操作する。
【0017】
図3に示すように、エンジン12の出力軸13から取り出された動力は、出力プーリ14、入力プーリ15、及びベルト16を介して油圧式無段変速装置17に入力され、油圧式無段変速装置17から出力された動力はトランスミッションケース18内の動力伝達機構に入力される。
【0018】
トランスミッションケース18内の動力伝達機構に入力された動力は植付動力と走行動力に分配され、植付動力は株間変速機構19、植付クラッチ20等を経て植付作業機6に伝達される。
【0019】
一方、走行動力は、走行変速機構21で高低二段に変速され、下流の分配軸22に設けたギヤ23,24によって分岐され、ギヤ23によって分岐された動力は差動機構であるデフ25を介して左右のフロントアクスルケース27,27内の動力伝達機構に伝達され、前輪2,2を駆動する。また、前記デフ25には、その差動を規制するデフロック機構26が備えられており、後述のデフロック操作機構によって操作される。
【0020】
そして、ギヤ24によって分岐された動力はトランスミッションケース18から取り出され、走行伝達軸29を介して、リヤアクスルケース30内の動力伝達機構に入力される。
【0021】
リヤアクスルケース30内に入力された動力は、後輪駆動力と、植付作業機6に設けた整地ロータ31の駆動力に分配され、後輪駆動力は、差動機構である左右のサイドクラッチ32,32を介して後輪3,3に伝達される。尚、該左右のサイドクラッチ32,32はステアリング連係機構(図示せず)を介して前輪2,2の操舵にのみ連動しており、前輪2,2の切れ角が所定量に達すると旋回内側のサイドクラッチ32を切ることで左右の後輪3,3に差動を与え、小回り旋回を行うように構成されている。
【0022】
本実施形態の乗用型田植機は、図4に示すように、主クラッチ33として前記ベルト16のテンションを張緩して油圧式無段変速装置17への入力を入切するベルトテンションクラッチを採用しており、前記クラッチブレーキペダル11は、後述する操作系の作動によりテンションプーリ34を操作して、踏み込み状態で、油圧式無段変速装置17への駆動力を切り、且つ、前記分配軸22の端部に備えたブレーキ35を作動させて前後輪2,2,3,3の制動を行う。そして、踏み込みを解除する(クラッチブレーキペダル11から足をはなす)ことによって、クラッチブレーキペダル11が上方に揺動して初期姿勢に復帰し、主クラッチ33を入り作動させるとともに、上記ブレーキ35の作動を解除し、4輪の制動を解除する。
【0023】
これにより作業者が座席7に座り、クラッチブレーキペダル11の踏み込みを解除した状態で、主変速レバー10を操作することによって、走行機体4を所望の速度で前進又は後進させることができ、植付作業機6を下降させてフロート36を圃場に接地させ、走行機体4を前進させながら植付作業機6を駆動することによって、圃場への苗の植付け作業を行うことができる。上記ブレーキ35は、走行機体4の走行中においては走行を停止させ、走行機体4の停止中は駐車ブレーキとして機能する。
【0024】
一方、走行機体4の前部には、エンジン12の上方側を覆うボンネット37が設けられている。該ボンネット37の前方には、走行機体4の前端部分に位置して上下揺動自在に走行操作具38が設けられている。後述するように走行操作具38を上下揺動操作することによって、走行機体4の走行を車外から操作することができる。
【0025】
図4〜図6に示されるように、クラッチブレーキペダル11は、ペダルアーム39の先端に取り付けられている。ペダルアーム39の基端部は、機体フレーム側に回動自在に軸支されたペダル支点軸40に一体的に取り付けられており、クラッチブレーキペダル11はペダル支点軸40を軸心に、上下揺動自在となっている。
【0026】
ペダル支点軸40には連結ロッド41の一端が連結されている。該連結ロッド41の他端は、機体フレーム側に軸支されている軸42に連結されている。軸42にはアーム43とアーム44が設けられている。アーム43には上記ブレーキ35の操作用のロッド45が連結されている。該ブレーキ35はロッド45を介してクラッチブレーキペダル11によって操作される。
【0027】
上記アーム44は、機体フレーム側に軸支されている軸46のアーム47に連係されている。軸46の端部にはクラッチアーム48が設けられている。クラッチアーム48にはテンションプーリ34が回転自在に軸支されている。
【0028】
軸46と機体フレームとの間にはクラッチスプリング49が介設されており、クラッチスプリング49によってテンションプーリ34はクラッチ入り側に付勢されており、同時にクラッチブレーキペダル11は復帰状態に付勢されており、前述のロッド45はクラッチブレーキペダルの復帰状態において上記ブレーキ35を切り操作状態で維持する。
【0029】
クラッチブレーキペダル11の踏み込みはクラッチスプリング49の付勢力に抗して行われ、クラッチブレーキペダル11を踏み込むことによってアーム44がアーム47を操作し、クラッチアーム48が軸46を軸心として揺動して主クラッチ33が切り状態となる。それと同時に上記ロッド45は、クラッチブレーキペダル11の踏み込み状態でアーム43を介して操作され、ブレーキ35を入り作動(前後輪を制動)させる。
【0030】
クラッチブレーキペダル11から足を離すと、クラッチスプリング49の付勢力によってクラッチブレーキペダル11は復帰する。上記構成によりクラッチブレーキペダル11を踏み込み操作するとトランスミッションへの駆動力が切れ、前後輪2,2,3,3が制動される。またクラッチブレーキペダル11の踏み込みを解除し、復帰状態とするとトランスミッションに駆動力が伝動されて前後輪2,2,3,3に駆動力が伝動されると共に、前後輪2,2,3,3の制動が解除される。
【0031】
機体フレームの前方側には走行操作具38の取り付け用の取付軸50が設けられており、該取付軸50には回動自在にホルダ51が支持されている。ホルダ51には走行操作具38のフレーム52の両端部分がスライド自在に挿入されている。
【0032】
フレーム52はホルダ51に対して前後スライドし、且つホルダ51を介して取付軸50を軸心に上下回動可能となっている。フレーム52とホルダ51とは一体的に回動し、走行操作具38の操作部53はフレーム52の両端側に上方に突出するように設けられている。これにより走行操作具38はスライドし、且つ機体取付軸50を軸心に上下揺動する。
【0033】
そして、ホルダ51に対してフレーム52を後方にスライドさせるとフレーム52は収納状態となり、フレーム52を前方にスライドさせるとストッパピン54がホルダ51の端部に当接し、引き出し状態となる。
【0034】
なお機体フレーム側には、フレーム52の一方の後方に伸びる杆部の上方に位置して回動規制部材55が設けられている。フレーム52は収納状態時には、回動規制部材55とフレーム52との当接によってフレーム52の回動が規制される。ただしフレーム52の引き出し状態において上記フレーム52の杆部は、回動規制部材55より前方に位置するため、回動が可能となる。
【0035】
以上により、フレーム52の収納状態では走行操作具38が走行機体4の前端近傍で起立する不使用位置となり、フレーム52の引き出し状態によって走行操作具38は不使用位置から前方に引き出された使用位置となり、使用位置にある時にのみ下方への揺動が可能となる。
【0036】
走行操作具38は一方のホルダ51に連結された圧縮バネ56の付勢力によって起立姿勢に付勢される。このため図6に示すように、走行操作具38の下方への揺動は、圧縮バネ56の付勢力に抗して操作する必要があり、走行操作具38から手を離すと圧縮バネ56の付勢力によって走行操作具38は略垂直な起立状態に復帰する。
【0037】
図5,図6に示されるように、前記ブレーキクラッチペダル11を踏みこみ状態でロック操作するロックレバー57が、支点軸58に回動自在に支持された三角プレート59が一体的に取り付けられており、ロックレバー57と三角プレート59は、支点軸58を軸心に一体的に回動する。
【0038】
支点軸58には、三角プレート60も回動自在に支持されている。三角プレート60は三角プレート59とは別に回動する。三角プレート60の一頂点部分には、プレート状のロック部材61が回動自在に軸支されている。ロック部材61と三角プレート60との間にはスプリング62が設けられており、該スプリング62によってロック部材61は上方に付勢されている。
【0039】
三角プレート60の他の一頂点部分には、ピン63が設けられている。機体フレーム側に設けた軸64に被嵌されるパイプ65には、三角プレート60に対応する部分に、三角プレート60の前記ピン63に、上方側で当接する規制アーム66が設けられている。三角プレート60の上方回動は規制アーム66によって規制され、規制アーム66の揺動角度、つまり走行操作具38の揺動角度によって、三角プレート60の回動角度(位置)が決まる。
【0040】
ロック部材61にはピン71が設けられている。該ピン71はロックレバー57の後端面と当接する。ロック部材61の回動はロックレバー57によって規制され、ロックレバー59の揺動角度によってロック部材61の回動角度(位置)が決まる。上記軸58の後方には、軸67が機体フレーム側に設けられている。軸67にはアーム68が回動自在に支持されている。アーム68とペダル支点軸40とはロッド69によって連結されている。
【0041】
クラッチブレーキペダル11を踏み込んだ状態で、図6に示されるように、ロックレバー57を後方に揺動させると、ロック部材61のピン71とロックレバー57との当接によってロック部材61がスプリング62の付勢力に抗して下方に向かって回動し、アーム73と係合する。ロック部材61はアーム68におけるロッド69の支軸と係合する。
一方前述のようにロック部材61とアーム68とが係合すると、ロック部材61を介してクラッチブレーキペダル11の復帰付勢力によって、三角プレート60が図6における反時計回りに付勢される。このとき三角プレート60の揺動角度は前述のように走行操作具38の揺動角度によって決まる。
【0042】
このため走行操作具38の揺動角度に応じて三角プレート60の揺動位置が変更され、三角プレート60の揺動位置に応じてロッド67を介してペダル支点軸40の回動角度がコントロールされ、主クラッチ33及びブレーキ35の操作が行われる。
【0043】
そして、走行操作具38を下方に揺動させると、ホルダ51が時計方向に回動し、アーム69が前方に揺動するため、連結プレート70を介して規制アーム66が上方に回動する。これによりクラッチブレーキペダル11が復帰方向に戻るため、主クラッチ33が入り作動し、且つブレーキ35が切り作動する。下方に揺動操作した走行操作具38から手を離すことによって走行操作具38が起立状態に復帰し、主クラッチ33を切り作動させ、且つブレーキ35を入り作動させる。
【0044】
これにより走行機体4が前進し、作業者は降車した状態で畦越え走行やトラックの荷台等への積み下ろし走行等を容易に行うことができる。なお走行操作具38は、走行機体4の前方に位置しており、車外からの操作による走行機体4の走行時には、作業者が走行機体4の前方側を下方に押し下げるように走行操作具38を操作する。このため走行時の走行機体4のヘッドアップを、てこの原理によって小さな力で防止することができ、走行操作具38による走行機体4の走行時のヘッドアップを容易に抑えることもできる。
【0045】
一方、クラッチブレーキペダル11を踏み込んでいない状態では、アーム68におけるロッド69の支軸の位置がロック部材61の後方側に離れるため、ロック部材61とアーム68との係合は行われない。そしてロック部材61とアーム68とが係合しない場合は、三角プレート60とロッド69との連係が行われないため、走行操作具38を上下揺動操作しても主クラッチ33及びブレーキ35が操作されることはない。
【0046】
以上のように、ロック部材61とアーム68とを係合させるロックレバー57の揺動位置が、クラッチブレーキペダル11による主クラッチ33及びブレーキ35の操作系への走行操作具38の上下揺動操作を連係させるロック位置となり、クラッチブレーキペダル11の踏み込み状態でロックレバー57をロック位置に切り換えると、上記のように走行操作具38により主クラッチ33及びブレーキ35を操作して、走行機体4を走行させることが可能となる。
【0047】
次に、図7、及び図8に基いてデフロック操作機構75について説明する。図中符号76はトランスミッションケース18の背面から突出したデフロック操作軸であり、該デフロック操作軸76には二本のアーム部78,79を有するL字状のデフロック操作アーム80が一体的に固設されている。該デフロック操作アーム80の一方のアーム部78の遊端側には左右に延びたロッド81の一端が連結されており、該ロッド81の他端は回動支軸82を介して機体フレームに回動自在に支持されたアーム83に連結されている。前記回動支軸82からはさらに前記アーム83と一体的に回動するアーム84が突設されており、該アーム84の遊端側にはスプリング85によって上方に付勢されたぺダルロッド86が連結されており、該ペダルロッド86の先端にはデフロックペダル87(デフロック操作具)が設けられている。
【0048】
この構成により、スプリング85に抗して前記デフロックペダル87を踏みこむことによりデフロック操作軸76が図中反時計回りに回動してデフロック機構26によって前輪2,2への伝動機構内のデフ25が差動を規制され、左右の前輪2,2は一体的に駆動可能となる。そして、デフロックペダル87から足を離すとスプリング85の付勢力によってデフロック操作軸76は図中時計回りに回動してデフロック機構26によるデフ25の作動規制は解除される。
【0049】
また、該デフロック操作機構75には、前記走行操具38の使用位置への引き出し操作に連動してデフロック操作軸76を規制側に操作する連動操作機構90が連結されている。
【0050】
詳述すると、前記デフロック操作アーム80の他方のアーム部79にインナーワイヤ88の一端が連結されている。
一方、前記走行操作具38側には前記フレーム52に沿った長方形状のプレート91が設けられている。該プレート91にはその長辺に沿って、機体前方側と後方側に長孔92,93が穿設されており、該機体後方側の長孔93には前記インナーワイヤ88の他端が連結されたピン94が、機体前方側の長孔92には走行操作具38より突設したピン95が挿通されている。
また、前記連動操作機構90のアウターワイヤ89は、前記走行操作具38をスライド可能に支持している前記ホルダ51に設けたブラケット96と機体フレームとの間に設けられている。
【0051】
この構成により、前記走行操作具38を不使用位置から前方に引きだして使用位置に位置変更する際、前記プレート91の機体前方側の長孔92の前端と走行操作具38に設けたピン95が当接してプレート91が前方に引き出されることによりピン94が前記機体後方側の長孔93の後端に当接し、更に走行操作具38を引き出し操作することにより、当該ピン94を介してインナーワイヤ88が引かれ、前記デフロック操作アーム80が逆時計回りに回動される。
【0052】
尚、走行操作具38が不使用位置にあるときには、前記プレート91は機体前方側の長孔92の後端と前記ピン95との当接により後方に移動し、デフロックペダル87の操作によるデフロック操作アーム80の回動は、インナーワイヤ88の弛みにより許容される。
【0053】
以上の構成により、走行操作具38の使用位置への位置変更操作に伴って、機体の走行開始に先立って自動的にデフロック機構26を作動させることができるので、デフロック機構26の操作忘れによる機体の蛇行や駆動力不足を未然に回避することができ、作業者が機体の前方に立って走行操作を行う際の安全性が向上する。
【0054】
次に、図9に基いて、ステアリングロック操作機構97について説明すると、ステアリング機構のピットマンアーム98には、受けアーム99が前方に突出して取り付けられている。受けアーム99にはステアリングロック部材100が挿入可能な凹部101が設けられており、ステアリングロック部材100の後方回動によって、ステアリングハンドル9が直進状態であると、ステアリングロック部材100が、ピットマアーム98の受けアーム99における凹部101に挿入され、ステアリングロック部材100と受けアーム99とが係合し、ステアリングハンドル9が直進状態にロックされるように構成されている。
【0055】
前記ステアリングロック部材100は前記軸64に回動自在に嵌合するボス部102とアーム部103を有している。該アーム部103の遊端側には長孔104を設けたプレート105の一端が回動自在に連結され、該プレート105に設けた長孔104には前記走行操作具38のフレーム52の後端部に設けたピン106が挿通されている。
【0056】
そして、図9の実線で示すように、走行操作具38の使用位置への引き出し操作で前記長孔104の機体前方側端に前記ピン106が当接し、プレート105を介してステアリングロック部材100が後方に回動して受けアーム99と係合し、前輪2,2は中立位置で規制される。また、仮想線で示すように走行操作具38の不使用位置への操作で前記ピン106は前記長孔104の機体後方側端に当接し、ステアリングロック部材100を前方に回動させて受けアーム99との係合を解除する。
【0057】
以上の構成により、走行操作具38の使用位置への位置変更操作に伴って、機体の走行開始に先立って前輪2,2の操舵と差動を同時に、且つ自動的に規制することができ、より安全性が向上する。
【0058】
また、本実施形態の乗用型田植機は、後輪3,3の差動装置である左右のサイドクラッチ32,32の切り作動を前輪3,3の操舵にのみ連動させており、ステアリング機構が中立位置で規制された状態では、何れのサイドクラッチ32,32も切り作動せず、走行操作具38が使用位置にある場合には後輪3,3の差動は生じないため、より一層蛇行の防止に寄与する。
【0059】
また、図1に示すように本実施例の乗用型田植機1は後輪3,3の所望の位置に滑り止め用のチェーン107,107,・・・を取り付けている。このようにすると、チェーン107,107,・・・により後輪3,3のスリップを防止すると共に、チェーン107,107,・・・が後輪3,3の回転に伴って動くことにより、後輪3,3に付着した泥土を落とす効果もあり、より安全に畦越えを行うことができる。
また、車輪全体に一体のチェーンを取り付けるものと比較して、着脱が容易であり、また、必要な時に必要な箇所に選択的に取り付けることができる。
【0060】
尚、本実施形態では走行開始、及び走行停止をベルトテンションクラッチによる主クラッチ33の操作、及び走行伝動系に設けたブレーキ35の操作で行うが、この形態に限ることなく、例えば走行操作具38で油圧式無段変速装置の操作や、ギヤ式の走行変速機構の操作を行っても良く、車輪の駆動状態と停止状態を現出するものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
1 乗用型田植機
2,2 前輪
3,3 後輪
25 デフ
26 デフロック機構
33 主クラッチ
35 ブレーキ
38 走行操作具
90 連動操作機構
97 ステアリングロック操作機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(4)の前輪(2,2)のデフ(25)による差動を規制するデフロック機構(26)を設け、該デフロック機構(26)を座席に着座した状態で操作可能なデフロック操作具(87)を設けると共に、前記走行機体(4)の前部に、走行機体(4)の前部より突出して走行機体(4)の走行開始と走行停止を車外から操作可能な使用位置と、走行機体(4)側に退避した不使用位置とに位置変更可能に構成した走行操作具(38)を設けた乗用型田植機において、前記走行操作具(38)の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して前記デフロック機構を(26)作動させる連動操作機構(90)を設けたことを特徴する乗用型田植機。
【請求項2】
前記走行操作具(38)の前記不使用位置から前記使用位置への位置変更に連動して前記前輪(2,2)の操舵を中立位置で規制するステアリングロック操作機構(97)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−109993(P2011−109993A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270927(P2009−270927)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】